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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 教 育 学 ) 久 野 弓 枝

学 位 論 文 題 名 日 本 語 を第 二 言語 と す る女 性 配 偶者 の     学 習 支 援に 関 する 研 究

一 ラ イ フス ト ー1Jー によ る 生 と学 び のと らえ かえし一

学位論文内容の要旨

  博 士論 文 の 基礎 と な った 修 士論 文 で は日 本 語ボ ラ ン ティ ア からNPOへ と活 動 を 変 化さ せ て いり たF国 際交 流 セ ンタ ー を取 り 上 げ、 言 語 レベ ル に限 定 さ れ ない総合 的な事業 展開、学習 促進者の 役割、支 援者と被 支援者が ともに学び 合 う関係性 の構築が 必要である ことを明 らかにし た。その 上で、残 された課題 は 、 外 国 人 の 調 査 協 力 者 の 声 に 耳 を 傾 け る 研 究 の 深 化 で あ っ た 。   博 士論文で は、その ことを踏ま え、日本 語ポラン ティア教 室や母語 教室でス タ ッ フ とし て 活動 し て いる女性 配偶者4名の ライフス トーリー (来日後 から現 在 ) を 分析 し 、日 本 語 学習支援 の方向性に っいて考 察した。 具体的に は第1章 で は日本語 ボランテ ィアの役割 の拡大と 問題点に っいて、 第2章でfま 社会教育 日 本語教育 分野、実 践・調査報 告を中心 に概観し 、先行研 究に対す る筆者の見 解 を 述 べた 。 第3章で は 調査協力 者の学習を 包括的に 捉えるた めに援用 したラ イ フ ス トー リ ー研 究 に っい て 紹介 し 、 第4章で は4人の 調査協力 者のライ フス ト ー リ ーを 描 いた 。 第5章では調 査協力者た ちのライ フストー リーから 得られ た 知 見 にっ い て述 べ 、 第6章では ライフスト ーリー研 究で得ら れた知見 を基に 支 援の方向 性を指摘 した。そし て「おわ りに」の 部分で、 日本語を 第二言語と す る 人 び と に 対 す る 研 究 の 留 意 点 と 今 後 の 課 題 に っ い て 言 及 し た 。   以 下に得ら れた知見 と成果を述 べる。

  ー っに は 、調 査 協 力者4名のライ フストーリ ーから得 た知見で ある。第 一に 調 査協力者 たち(以 下、当事者 たちとも 表記)が 成人女性 として必 要な日本語 学 習を望ん でいるこ とがあげら れる。学 習者とい うのは当 事者たち の一面であ っ て、参加 コミュニ ティで成人 女性とし て認めて もらいた いという 気持ちが強 く 、日本語 学習にお いても日本 人女性の コミュニ ケーショ ンの取り 方、言い回 し に強い関 心を持っ ている。第 二に調査 協力者た ちは、成 人女性と して多様な コ ミュニテ ィに参加 し、自己学 習(マス メディア 、母語、 実践の場 の利用)を 進 め、様カ なスタイ ルの日本語 (カジュ アルな日 本語、丁 寧語、敬 語)を意識 し 習得して いる。ま た、コミュ ニティに 参加する 中で視野 を広げ、 さらに教え る 側=スタ ッフとし て自分の「 声」を伝 えること で学習に 発展や転 機が見られ た 。第三に 調査協力 者たちは様 々な経験 や学習を 通して実 践的知識 を蓄積して     ―64ー

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いる。それは、日本で生きていくために必要な「生活知」、日常生活と日本語 学習をっなげる「言語学習に関する知」、当事者である外国人参加者の気持ち を理解し、状況を判断することができる「共感」知、従来の教授方法などに関 して、自分の経験とっなぎ合わせ「批判的に捉えることが可能な」知などであ る。また、調査協力者たちは、自らスタッフとして活動するときは、当事者の 外国人に学習参加方法を自己決定させ、「理解する」、「納得する」ことを学習 の始まりと考え、学習の場の雰囲気にも細やかな配慮をしている。第四に調査 協力者たちが蓄積してきた知識には豊かな内実が保持されているが、日本語能 カの不足や日本人ボランティアに対する遠慮から内容が伝わりにくいことが分 かった。筆者は調査協力者たちが蓄積してきた知識は有用性が高いと考え、今 後、日本で生きていくために日本語学習を行なってきた人ぴとのライフストー リーのコンテクスト解読の方法を深化させたい。

  二っめは、日本語学習支援に対する2つの方向性を示した。第一は、学習者 が培ってきた歴史(現在―未来二二将来ビジョン)を考慮した日本語学習支援の 方向、第二は、外国人参加者が「学習者」であり、日本人ボランティアが「先 生」という位置付けが変化するような日本語学習支援の方向である。次の5点 があげられる。

  ◎学習者が母語を使用し声を伝えやすい環境を作る。

  ◎学習者が学習の主導権を取る。(自分には何ができて、何が不足していて、

    何が学びたいのか。)

  ◎学習者が様々なコミュニティに参加し色々な人の声が聞ける機会を作る。

  @学習者がコミュニティの中で、教える立場二ニ伝える立場になる機会を作     る。

  ◎外国人スタッフが学習できる機会を作る。

  三っめは、先行研究批判と本論文の意義である。先行研究では外国人参加者 と日本人ボランティアが「水平的な関係」を構築させるために、「共育」をキ ーワードにさまざまな教授法が志向されていた。(田中1996、西口1999、野 元2001、岡崎2002など。)しかし外国人参加者の学習プロセスが明らかにさ れないまま、「水平的な関係」を構築する際の基準が日本人ポランティア中心 に進められるという矛盾した状況が起こっていた。本論文では4名という少数 の事例ではあるが、当事者を調査対象にし、時間軸に沿って分析することで、

日本語学習経験を明らかにするだけではなく、当事者たちが蓄積している実践 的な知識にっいても提示することができた。そして「当事者が中心となる日本 語学習支援」について方向性を提案できたことは、今後の日本語学習支援を考 える上で重要な意義を果たしたと考える。

  四っめは、今後の研究課題である。ライフストーリーを研究方法として援用 することで多くの発見があり、関連諸分野の知見を研究に取り入れることがで きた。しかし他方では、新たな知見に対する自分なりの評価と認識が十分とは 言いきれない面もあった。本論文の最後に述べた提案に関しての理論的裏付け や 学 的 問 題 提 起 に 関 し て 、 今 後 の 課 題 と し て 以 下 の3っ を あ げ た い 。   第一に当事者が中心となるような学習コミュニティに関する研究を深めたい。

当事者が自分の学習を計画し実行するためにはどのような環境が必要なのか。

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今後、学習者オートノミーの視点(青木、2001:pp.189‑196)と学習者が自己 の学習を管理するためのツール(青木、尾崎、2004:p.129)について検討を重 ね、研究を発展させたい。

  第二にライフストーリーインタビューに関し、調査者が調査協力者に対して 与える影響や調査協力者の声の拾い方について、方法的深化を図りたい。

第三に教室に参加できない人々、途中で辞めた人々の声にも耳を傾け、一人 一人に合わせ、相手の変化に対応できるサポート体制にっいて事例分析を重ね て実践的な研究方法を発展させたい。

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学位論文審査の要旨 主査    教授    姉 崎洋一 副査   教授   山岸みどり 副査    教授    木 村    純 副査    教授    青 木直子

(大阪大学大学院文学研究科)

学 位 論 文 題 名 日 本 語を 第 二 言語 と す る女 性 配偶 者 の     学 習 支援 に 関 する 研 究

一 ラ イフ ス ト ーリ ー に よる 生 と学 び の とら えか えし―

  本 論 文 は 、 滞 日 外 国 人 が 急 増 した1990年 代以 降 の 日本 社 会 にお い て、 外 国人 女性配偶者 に焦点を あてて、 その人々 がどのよ うに日本 語に向き合い、能 動的 な学習者と して、社 会的位置 づけを変 容させて いったか をライフストーリ ー の 方 法 を 用 い て 実 証 的 に 明 ら か に す る こ と を 課 題 と し て い る 。   外国 人の日本語 学習支援 について は、これ まで、日 本語構文 、文法などの教 授学 的研究や、 大学の留 学生教育 の日本語 指導の蓄 積などが 先行してきたが、

生活 者としての 外国人に 対しては 、方法論 が未確立 であった 。近年日本語ボラ ンテ イア教室な どを通じ て、日本 語学習支 援を行う 実践が広 がり、それを支え る研 究の発展が 緊要とさ れてきた が、先行研究においては、くD外国人参加者と 日本 人ボランテ イアとの 関係性、 外国人の 日本語学 習の生き たプロセスの解明 が不 十分であっ たり、◎ 質問紙調 査などに よるマク ロな量的 分析では学習者の 社会 的文脈や学 習プロセ ス理解が 困難であ ったりし た。◎わ ずかに、批判発展 させ るべきもの に、質的 研究法を 用いて調 査協力者 の生活世 界に着目し、全人 的な 把握を試み るものが あった。 しかし、 エスノグ ラフィー 的方法での現在分 析 や 仮 説 の 提 示 に と ど ま り 歴 史 的 な 祝 点 や 実 証 が 不 十 分 で あ っ た 。   本研 究は、その ような限 界を超え て、日本 語を使っ て成人と して自立した生 活を 営めるよう になって きた外国 人女性配 偶者四名 を調査協 力者に措定し、ラ イフ ストーリー の方法を 用いて長 期間継続 的な聴き 取り(半 構造化インタビュ

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ー) を重 ね、調 査協 力者 の個 人の 経験 の関係性、物語の多声性、実践者として の意 味づ けを時 間軸 に沿 って 浮き 彫り にして、その生の過程を微視的に明らか にし よう とした もの であ る。 従来 外国 人の日本語学習者にこのような方法を用 いた 研究 は存在 せず 、本 論文 は研 究の 空白部分を埋める仮説の生成に関して貴 重な 実証 成果を 示し た。 同時 に本 論文 は、能動的な成人生活者であり、日本語 学習支援者(スタッフ)である彼女たちの役割と生のドラマに着目し、日本語学習 支援 は母 語者が 行う もの との ドグ マを 打ち破り、日本語を学ぶ人達への新たな 役割モデルを提供した。

  本 研究 は 、6章 構 成 で、 第1章で は、 修士 論文を 踏ま え、 教師 と学 習者 との 上下 関係 のもと に知 識の 詰め 込み と記 憶中心の方法に終始している従来の日本 語教 育に 対し、F国 際交 流セ ンタ ーに おける 学び が連 帯性 、協 同性 、関係性の 下に 外国 人参加 者と 日本 人ス タッ フと の関係性の変容と外国人学習者の学びの 新た な意 味づけ 、と くに 、外 国人 学習 者の学びと生活世界との闘争の過程解明 が 鍵 であ る こ と を 明 確 に し た 。 第2章 は 日 本 語 ボ ラ ン テイ アの 先行 研究 を整 理し 、本 研究が 従前 の研 究と 異な り、 外国人日本語学習者の自己統治力量拡大 に向 け外 部世界 と当 事者 の内 面と の葛 藤のプロセスを微視的に明らかにするこ とを 述べ ている 。第3章 は、 日本 語を 第二言 語と する 外国 人女 性配 偶者たちの 多様 な生 の葛藤 を描 き出 すた めの 方法 として、質的研究法=ライフストーリー 研究 を設 定し、 その 具体 的な 調査 手続 きと研究上の仮説生成の可能性と限界を 明ら かに した。 第4章は 、日 本語 学習 者と日 本語 学習 支援 者の 両方 の立場をも つ4人 の調 査協 力者 を、 各人 の物 語の 多声性 と関 係性 に注 目し 調査 協力者の生 活場 面の 多様な 接触 の上 に、 異な る時 点での数次の半構造化インタビュー、電 話、 メー ルなど を用 い、 その 声を 記録 し再整理し、物語の構築を試みたもので ある 。第5章は 、四 人の ライ フス トー リーを 分析 的に 整理 し構 造を 明確にしよ うと する もので ある 。方 法論 とし て、 フェミニストペダゴジーの再吟味が試み られ 、心 理学モ デル や構 造主 義モ デル との 比較 にお いてE.Tisdellに代表され るポ スト 構造主 義モ デル の妥 当性 の可 否を 再吟 味し た。 第6章 は、 本研究が明 らか にし 、課題 とし て残 した こと を総 括し、日本語教室改善の提案がされてい る。 すな わち、第一に外国人学習者のPositionality(社会的位置づけ)や「学 習者 オー トノミ ―」 への 着目 の重 要性 、第二に、外国人学習者の第二言語表現 に働 く「 見えな い権 力関 係」 の構 造の 解明、第三に、日本語教室に参加できな い人々へのサポートの方策など、今後の理論的・実践的課題が明示されている。

  本研究は、外国人学習者の教育実践構造理解の基底的要件、例えば、民族性、

ジェ ンダ ー、母 語で の聴 き取 り研 究な どになお研鑽が求められるとはいえ、外 国人 女性 配偶者 の生 の全 体性 と日 本語 学習との葛藤を明らかにするためのライ フス 卜ー リーの 方法 を用 いて 日本 語学 習の質的改善を方向付ける先駆的な実証     ‑ 68―

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研究として高く評価できる。

  よって著者は、北海道大学博士(教育学)の学位を授与される資格があるも のと認める。

参照

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