博 士 ( 医 学 ) 鈴 木 信
学 位 論 文 題 名
Complications of bacillus Calmette‑Guerin therapy in superficial urothelial cancer : clinical analysis and implications
(表在性尿路上皮癌におけるBCG 注入療法の副作用:臨床解析)
学位論文内容の要旨
Bacillus Calmette‑Guerin(BCG)の 腎 盂 内 も し く は 膀 胱 内 注 入 療 法 ( 膀 注 ) は 、表 在 性 尿 路 上 皮 癌 の 内 視 鏡 手 術 後 の 再 発 予 防 や 上 皮 内 癌 に 対 す る 有 用 な 治 療 と し て 確 立 さ れ て い る 。 し か し こ の 治 療 に よ る 副 作 用 の 発 生 率 は 、 膀 胱 刺 激 症 状 が57一91% 、 血 尿 が26−55% 、 発 熱 が28→73% と 一 般 に 高 く 、 ま た 、 頻 度 は 少 な い な が ら も 敗 血 症 、 ア レ ル ギ ー 性 シ ョ ッ ク な ど 致 命 的 な 副 作 用 症 例 の 報 告 も 散 見 さ れ る 。 そ の た め こ の 治 療 の 適 応 は 、grade3 stageTl腫 瘍 ・ 再 発 多 発 性 腫 瘍 ・ 上 皮 内 癌 の 随 伴 な ど 、 そ の 後 の 再 発 ‐ 進 展 の 危 険 性 の 高 い 症 例 に し ば ら れ る の が 一 般 的 で あ り 、 我 々 も こ れ に な ら っ て 症 例 を 選 択 し て い る 。BCG注 入 療 法 を 施 行 す る に あ た っ て 、 我 々 は そ の 副 作 用 に 対 し て 敏 感 に 反 応 し な く て は な ら な い が 、 副 作 用 の 中 に は 治 療 効 果 を 反 映 し て い る と 目 さ れ て い る 部 分 も あ り 、 副 作 用 の 出 現 時 にBCG注 入 を 中 止 す べ き か 否 か 悩 ま し い 局 面 が 多 々 あ る 。 実 際 こ の 点 を 明 確 に し た ガ イ ド ラ イ ン は 存 在 せ ず 、 そ の 判 断 は 個 々 の 担 当 医 に 委 ね ら れ て い る の が 現 状 で あ る 。 そ こ で 、 当 科 で のBCG 注 入 療 法 施 行 例 に 以 下 の 解 析 を 加 え る こ と で 、BCG注 入 療 法 を 安 全 か つ 有 効 に 施 行 するにはどうすべきか検討した。
ま ず 、1985年 9月 か ら 1999年 6月 ま で に 当 科 で BCG注 入 療 法 を 施 行 さ れ た 33 例43コ ー ス に お け る 副 作 用 の 発 生 状 況 を 調 べ た 。BCG注 入 療 法1コ ー ス の 基 本 的 な プ ロ ト コ ー ル は 、BCG(Tokyostrain72)80m醫 十 生 理 的 食 塩 水40mlを 週1回 注 入 、 計8回 行 う も の で あ る 。 今 回 の 検 討 に あ た っ てLammら の 報 告 を も と に 、 副 作 用 をminorsideea、 :ect( 注 入 後48時 間 以 内 に 消 失 す る 膀 胱 刺 激 症 状 ・ 肉 眼 的 血 尿 . 38℃ 未 満 の 発 熱 ) とmajorsideeflkt( 注 入 後48時 間 以 上 続 く 膀 胱 刺 激 症 状 ・ 肉 眼 的 血 尿 .38℃ 未 満 の 発 熱 、 ま た は 、38℃ 以 上 の 発 熱 や そ の 他 の 副 作 用 ) に 分 類 し た 。1 コ ー ス 目BCG膀 注 施 行32症 例 に お い てmajorsideeffectは16例 (50% ) に 認 め 、 内 訳は、膀胱刺激症状14例(43.8%)、肉眼的血尿3例(9.4%)、38℃以上の発熱6例(18.8%)、
肉 芽 腫 性 前 立 腺 炎3例 、 虚 血 性S状 結 腸 炎 1例 で あ っ た 。2コ ー ス 目BCG膀 注 施 行 8症 例 に お い てmajorsideeffectは2例 ( と も に 膀 胱 刺 激 症 状 及 び38℃ 以 上 の 発 熱 )
に、3コ ー ス日BCG膀 注施 行1症 例もmajor side effect(膀 胱刺激症状 )を認め た。
また 、BCG腎 盂 内 注入 療 法 施行2例 中1例 にmajor side effect(膀胱刺 激症状) を認 めた。総 合で43コー ス中20コ←ス(46.5%)でmajor side effctを 認めてお り、その うち10コー ス (9症例 )で副 作用のた めにBCG注入療 法の中止 を、6コー ス(6症例 ) で副 作 用の 治 療 のた め に 入院 を 要し た 。 これ ら6症例 はmajorsideeffEjctの発症 後 もBCG注入を何回か継続した経緯を有する。
次 にmajorsideeffectを 起 こし や すく す る 関連 因 子の 有 無 を、1コ ー ス日BCG膀 胱注施行32症例にお いて検討し た。検討 した因子 は、過去 の抗癌剤 膀注の有無.BCG の使 用 目的 ( 再 発予 防 か 治療 か ). 腫 瘍 数( 単 発か 多発か) .BCGの副作 用予防に isoniazid投与 の 有 無・BCG膀 注後 病 理組 織 学 的に 肉 芽腫 形 成 の有 無 ・年 齢 ・ 過去 の 経 尿 道 的 膀 胱 腫 瘍 切 除 術 (TUR) 回 数 .TURか らBCG膀 注 ま で の 間 隔 .1回 の BCG投 与 量で あ る 。こ れ ら はい ず れもmajorsideeffect発症 例 と 非発 症 例の 間 で統 計学的に 有意差な く、majorsideef:睹ctを 起こしや すくする 関連因子 を見いだすこ とはできなかった。
最 後 にmajorsideeffectの 発症 と 腫瘍 進 展 との 関 係について 検討した 。全33症例 で、観察 期間中央 値.420月のう ちに進展 (筋層浸 潤例・遠 隔転移例 ・膀胱全摘除術 による腫 瘍コント ロールを要 した例) を来した のは13例で あり、5年 非進展生存率は 53.9%であった。majorsideeffect発症群(n二二16)と非発症群(n 17)の2群に分けて検 討す る と、 発 症 群の うち 進展を認 めたのは3例 のみ(観 察期間中 央値40ケ月 )で5年 非進展生 存率は82.5%であり、 非発症群 では10例( 観察期間 中央値46ケ 月)に進展 を認め、5年非進展生存率は28.9%と2群問の5年非進展生存率に有意差(pニニ0.0215) を認めた 。なお、 これら2群問に腫瘍関連因子(異型度・進達度・腫瘍数・初発再発)
に有意差 を認めて いない。ま た、副作 用のため にBCG注入を 中止した 群(n二ニ9、平 均注入回数4.2回)と、BCG注入を完遂した群(nニ二二ニ22)の間で同様の検討を行った(早 期 再 発 の た め にBCG注 入 を 中 止 し た1例 と 他 疾 患 の た め にBCG注 入 を 中 止 し た1 例を除外 )。副作 用のためにBCG注入を中 止した群 では腫瘍 進展例を 認めず(観察期 間中 央 値29ケ 月) 、BCG注入 を 完遂 し た 群で は12例 ( 観察 期 間 中央 値440月 ) に進 展を 認 め、5年 非 進 展生 存 率は50.1%で あ っ た。 これま で我々は 、BCG注入に よる 副作 用 の強 い 例 は治 療効 果も高い という印象 はもって いたが、 このこと を腫瘍進 展 との 間 で証 明 し た研 究は 今まで無 かった。今 回の研究 で初めて 、我々の 印象が正 し いことを裏付ける結論が導き出されたと言える。
以 上 か ら 、BCG注 入 に よ るmajorsideeffectの 発 症 時 に は 、BCG注 入 の 中 止 を 積極 的 に考 慮 し てよ いも のと考え られた。そ うするこ とで重篤 な副作用 への進展 を 予防 す るこ と が でき 、ま た、この 場合の中止 は膀胱腫 瘍に対す る治療効 果を減弱 す るものではないと言えるからである。 .、
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Complications of bacillus Calmette‐ Guerin therapy in superficial urothelial cancer:clinical analysis and implications
( 表 在 性 尿 路 上 皮 癌 に お け るBCG注 入 療 法 の 副 作 用 : 臨 床 解 析 )
BCG注 入 療 法 を 安 全 か つ 有 効 に 施 行 す る には ど う すべ き か 検討 し た。 副 作 用を minor side effect( 注入後48時 間以内に 消失する膀 胱刺激症 状・肉眼 的血尿.38℃ 未満 の発熱 )とmajor side effect(注 入後48時間以 上続く膀 胱刺激症 状・肉眼 的血 尿・ 38℃未 満の発熱 、または 、38℃以上の 発熱やそ の他の副作用)に分類した。BCG 注入療法 を施行さ れた33例43コ ース中27コー ス(86.O% )でmlnor以上の副作用を、
20コース(46.5% )でmajor side effectを認 め、副作 用は高率に発症していた。次に major side effectを起 こ し やす く する 関 連 因子 の 有 無を 、1コ.ー ス日BCG膀注32 例におい て検討し たが、関 連因子を見 いだすこ とはでき なかった。最後にmajor side effectの 発 症と 腫 瘍進 展 と の関 係につ いて検討 した。全33例で、観 察期間中 央値42 ケ月のう ちに進展 (筋層浸 潤例・遠隔 転移例・ 膀胱全摘 除術による腫瘍コントロール を要した例)を来したのは13例であった。major side effect発症群(n二二16)と非発症 群(n二二ニ17)の2群に分けて検討すると、発症群のうち進展を認めたのは3例のみで5 年非 進 展 率82.5%、 非 発 症群 で は10例 に進 展 を 認め5年 非 進展 率28.9%と2群 間に 有意 差を認 めた。な お、これら2群問に腫 瘍関連因 子(異型 度・進達 度・腫瘍 数・初 発再発)に有意差を認めていない。また、副作用のためにBCG注入を中止した群(n:ニ9、 平均注入回数4.2回)と、BCG注入を完遂した群(nニニニ22)の間で同様の検討を行った。
副作 用 の ため にBCG注 入 を 中止 した 群では腫 瘍進展例 を認めず 、BCG注入を 完遂した 群で は12例 に 進展 を 認 め、5年 非進 展率50.1%で あった。 以上から 、BCG注入に よる major side effect発症 時 に は、BCG注入を 中止してよ い事が分 かった。 そうする こ とで 重 篤 な副 作 用へ の 進 展を 回 避でき、 この場合 の中止は 膀胱腫瘍 に対する 治療効 ―93―
男 俊 彦 和 弘 知 坂田 柳 宮 秋 小 授 授
・授 教教 教 査査 査 主副 副
果を減弱するものではないと言える。
口頭発表に際し、秋田教授より副作用の分類方法、major side effect発症後もBCG 注入を継続した例の予後、今後prospective studyとして考えていることについて、
宮坂教授から副作用の全くなかった例の予後、BCGの1回投与量とmajor side effect 発症との関係、副作用予防における抗結核剤の有効性について、小柳教授よりhigh grade・表在性膀胱癌に再度内視鏡手術(re―TUR)の施行を徹底した場合のBCG療法の有 効性の再評価、排尿障害とBCGの副作用との関係についての質問があった。いずれ の質問に対しても、申請者は臨床経験、今回の検討結果、文献を引用し、概ね妥当 な回答を行った。
この論文は、泌尿器科腫瘍の中でも比較的頻度が高く、対処を誤ると重篤な結果 を招く疾患の治療方法について検討したものであり、今後さらにBCGの至適投与法 を明確にすることが期待される。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受け るのに充分な資格を有するものと判定した。