博 士 ( 医 学 ) 丸 一 勝 彦
学位論文題名
Transplanted Bone lVIarrow Stromal Cells Improves Cognitive Dysfunction due to Diffuse Axonal 工njury in Rats ・ ( ラ ッ ト びま ん 性 軸 策 損 傷後 の 高 次 脳 機能 障 害に 対する 骨 髄 問 質 細 胞 の 移 植 効 果 判 定 に 関 す る 研 究 )
学位論文内容の要旨
【 背景 と目 的】
び ま ん 性 軸 策 損 傷(DAI)と は、 交通 事故 など の 頭部 外傷 に伴 い 、CTで明 らか な占 拠 性病 変 を 認 め な ぃ も の の 、 昏 睡 状 態 が 遷 延 す る 病 態 と し て 知 ら れ て き た 。 近年 で は、MRIなど の 画 像 の 進 歩 に 伴 い 、 こ のDAIの 診 断 が 容 易 に た り つ っ あ る 。DAIの 症 状 は 程 度 に よ り さ ま ざ まで ある が、 中で も 代表 的な 症状 とし て 高次 脳機 能障 害 があ げら れる 。高 次 脳機 能障害で は 、記 憶障 害・ 注意 障 害・ 遂行 性機 能障 害 ・社 会的 行動 障 害な ど様 カな 症状 を 呈す るが、脳 損 傷患 者で は中 でも 記 憶障 害の 発現 頻度 が 高い こと が報 告 され てい る。 これ ら 高次 脳機能障 害 によ る症 状は 外見 か らは わか りに くく 、 周囲 から も理 解 困難 なた め、 復職 ・ 復学 などが阻 害 され てい る状 況に あ る。 した がっ て本 研 究で は、 近年 再 生医 療の 分野 で注 目 され ている骨 髄 問 質 細 胞(BMSC)の 移 植 が 、DAIに 伴 う 高 次 脳 機 能 障 害 を 改 善 し う るか どう か評 価 する こ と を目 的と した 。
【方法】
DAIモデノレは 、pneumatic high‑velocity impactor deviceを用しヽて作成することとした。SD ラ ット(7‑9w)を 用い 、 麻酔 下に 頭皮 を2cm程 度正 中 でlinearに切 開し 、skullを 露出 させたの ち、径lcm大のmetal discを歯科用セメントで固定し、損傷圧力80psi (pounds per square inch)、 impactの 深 さ を6mm、 損 傷 時 間 を40msec.に それ ぞれ 設 定し 損傷 を加 えた 。 この 設定 で少 な く て も2週 間 は 高 次 脳 機 能 障 害 が 持 続 す る こ と を 確 認 し 、 移 植 実 験 を 開 始 し た 。 BMSCはGFP transgenic miceの 大 腿 骨 よ り 採 取し 、P3までpassageを繰 り 返し たも のを 使 用 し た 。 移 植 に 際 し ては 、1個体 当た り4.0Xl05 cellsのBMSCを用 意 し、BMSCおよ びvehicle 移 植 は 、 損 傷 後10日 の 時 点 で 、 右 線 条 体 を 目 が け て 定 位 的 固 定 装 置 を 利 用 し て 、 lOpl‑Hamilton syringeを 用 い て 行 っ た 。 具 体 的 に はbregmaの 後 方Imm、右 外側1.5mmの 点 に 小 さ な 穿 頭 を 行 い 、 同 部 位 よ り6mmの 深 さ ま でsyringeを 挿 入 し た の ち 、10分 か け て 移 植し、移植後5分 経過してからsyringeを抜去 した。BMSC移植群(nニ13) 、vehicle群(nニ6)お よびsham control群(nニ8)のそれぞれの高次脳機能障害は、Morris water mazeを用いて損傷1,2 お よ ぴ4週 間 後 に 評 価 し た 。 組 織 学 的 解 析 は 、 損 傷2,8お よ び20週 後の 時 点で 、HE染色 や MAP2、GFAP、NeuN、nestin韜 よ ぴTu‐1な ど の 神 経 系 マ ー カ ー を 螢 光免 疫 組織 化学 的に 評 価した。
【 結 果 】
高 次 脳 機 能 障 害 は 損 傷 後1,2,4週 に そ れ ぞ れ 連 続3日 間 評 価 を 行 い 、 移 植 前 の 損 傷1週 後 に はBMSC移 植 群 とvehicle群 の 間 に 有 意 差 は 認 め て い な か っ た も の の 、 損 傷2週 後 の 時 点 で はBMSC移 植 群 で はvehicle群 と 比較 して 高次 脳機 能 障害 の明 らか な 改善 傾向 が見 られ 、
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損 傷15日 後 で は 統 計 学 的 に 有 意 差 も 認 め た 。 ま た こ の 傾 向 は 損 傷4週 後 に も 継 続 し て 見 ら れ 、3日 間 の 計 測 の い ず れ に お い て も 、 有 意 差 を も っ てBMSC群 の 高 次 脳 機 能 障 害 が 改 善 し て い た 。
組 織 学 的 に は 、 損 傷2週 後(BMSC移 植4日 後 ) に 、GFP‑positiveな(donor) BMSCが 広 く 脳 内 に 分 布 し て お り 、 こ れ ら の 一 部 はGFAP、NeuN、nestin、Tu‐1な ど を 発 現 し て い た が 、 MAP2の 発 現 は 見 ら れ な い こ と が 二 重 免 疫 染 色 に よ り 確 認 さ れ た 。 し か しdoublepositiVeを 呈 し たBMSCも 形 態 はhostの 細 胞 と は 異 な る も の で あ っ た 。 損 傷8週 後 で はGFP‐positive な 細 胞 が 脳 内 で さ ら に 増 加 し て い た 。 ま た そ れ ら の 一 部 が 同 様 に 神 経 系 マ ー カ ー を 発 現 し 、 そ の 形 態 もhostの 細 胞 に 類 似 し た 構 造 に 変 化 し て い た 。 し か し な が らMAP2で はGFP double‐positiveを 呈 す る も の の 、 そ の 形 態 はhoStと 依 然 異 な る 形 状 を 呈 し て い た 。 さ ら に 損 傷20週 後 の 時 点 で は 、MAP2で もdoublepositiveな 軸 索 が 確 認 さ れ 、 こ の 所 見 よ り 移 植 さ れ たBMSCはhoStで あ る 脳 内 で 長 期 間 生 存 す る こ と が 確 認 さ れ 、 ま た 成 熟 し た 神 経 系 へ の 分 化 を 長 い 時 間 か け て 獲 得 し た も の と 推 察 さ れ た 。
【考 察】
こ れ ま で に も 脳 損 傷 モ デ ル に お い て 種 々 の 細 胞 移 植 が 試 み ら れ て お り 、Sinsonら は 胎 児 ラ ッ ト の 皮 質 細 胞 を 損 傷 部 位 に 定 位 的 に 移 植 し 、 さ ら にNGFを 持 続 的 に 投 与 す る こ と で 、 有 意 な 高 次 脳 機 能 障 害 の 改 善 を 認 め た こ と を 報 告 し て い る 。 次 い で 、 よ り 安 全 な ド ナ ー と し て 、NT2N (human neuroteratocarcinoma‑derived neuronal) cellsが用 い ら れ た 。 このNT2N cells は よ く 生 着 ・ 分 化 す る こ と が 知 ら れ て い た が 、 こ の 細 胞 にNGF遺 伝 子 を 組 み 込 ん で 移 植 す る と 高 次 脳 機 能 障 害 の 改 善 が 得 ら れ た と 報 告 が な さ れ た 。 さ ら に 近 年 に な り 、 自 己 複 製 能 と 多 分 化 能 を 有 す る 幹 細 胞 を 利 用 す る 試 み が 広 く 行 わ れ る よ う に な っ た 。 代 表 的 な も の で は 、 neural stem/ progenitor cells (C17.2 cells)、Rodent embryonic neural stem cells (ES cells)、Human neural stem cells、 お よ ぴ 本 研 究 で 用 い たBMSCな ど の 報 告 が 散 見 さ れ る 。 し か しDAIと い う 特 殊 な 病 態 に 茄 け る 、 さ ら に 高 次 脳 機 能 障 害 に 着 目 し た 検 討 は こ れ ま で に な さ れ て い な い 。 一 方 、 今 回 注 目 し たdonorで あ るBMSCの 移 植 効 果 に 関 し て は 、 数 多 く の 分 野 で 幅 広 く 研 究 さ れ て い る 。 な か で も 頭 部 外 傷 モ デ ル に お い て はChoppら の グ ル ー プ が 数 多 く 発 表 し て お り 、 脳 損 傷 ( 主 に 脳 挫 傷 な ど ) モ デ ル にBMSCを 直 接 移 植 あ る い は 静 脈 内 投 与 す る こ と で 、 BMSCがboundary zoneへ と 遊 走 ・ 生 着 し 、 運 動 機 能 を 改 善 さ せ る こ と を 報 告 し て い る 。 こ れ と 同 様 にLuら は 、 動 脈 内 投 与 で も 同 様 の 治 療 効 果 が 生 じ る こ と を 報 告 し て い る 。 ま た さ ら に 最 近 で はMahmoodら が 、BMSCの 静 脈 内 投 与 とstatin製 剤 で あ るatorvastatinを 合 わ せ て 投 与 す る こ と で 外 傷 後 の 高 次 脳 機 能 障 害 の 改 善 を 報 告 し て い る 。 こ れ と は 別 に 、Luら は バ イ オ マ テ リ ア ル と し てcollagen scaffoldsとBMSCを 病 変 のcavityに 同 時 に 移 植 す る こ と で 、 高 次 脳 機 能 障 害 が 改 善 す る こ と を 報 告 し て い る 。 し か し 、 こ れ ら の 多 く の 報 告 例 は 、 古 く か ら 脳 挫 傷 モ デ ル 作 成 に 汎 用 さ れ て き た 骨 窓 作 成 を 必 要 と す るfluid percussion modelや cortical impact modelに よ る も の で あ り 、 臨 床 に 即 し た 厳 密 な 意 味 で のDAIと は 異 な る 病 態 に 対 す る も の で あ る 。 し た が っ て 本 研 究 が 、DAIの 病 態 に き わ め て 類 似 し たclosed head inuヴ mode1を 用 い た モ デ ル で の 、 高 次 脳 機 能 障 害 の 改 善 に 着 目 し た 最 初 の 研 究 で あ る と 考 え ら れ る。
【 結 語 】
本 研 究 よ り 、 損 傷 後10日 の 時 点 で のBMSC移 植 が 、DAIに 伴 う 高 次 脳 機 能 障 害 を 有 意 に 改 善 し 、 少 な く と も5ケ 月 後 ま で は 脳 内 に 広 く 存 在 し 続 け 、 さ ら に 徐 々 に 神 経 系 細 胞 の 表 現 型 を 獲 得 し て い く こ と が 示 さ れ た 。 こ れ に よ り 、BMSCの 脳 内 移 植 が 交 通 外 傷 後 のDAIに 伴 う 高 次 脳 機 能 障 害 に 対 す る 治 療 戦 略 と し て 検 討 さ れ て い く 可 能 性 が あ る も の と 考 え ら れ た 。
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
Transplanted Bone IVIarrow Stromal Cells Improves Cognitive Dysfunction due to Diffuse Axonal 工njury in Rats . ( ラ ッ ト び まん 性 軸 策 損 傷後 の 高 次 脳 機能 障 害に 対す る 骨 髄 問 質 細 胞 の 移 植 効 果 判 定 に 関 す る 研 究 )
び まん性 軸索損傷(DAI)と は、頭部外傷に伴いCTで明らかな占拠性病変を認めなぃも の の、昏睡状態が遷延する病態として知られてきた。近年MRJIなどの画像の進歩に伴い、
こ のDAIの診断が 容易にな りつっ ある。DAIの症 状はさま ざまであるが、代表的な症状と し て高次 脳機能障 害があげ られる。本研究では、骨髄問質細胞(BMSC)の移植が、DAIに伴 う 高 次 脳 機 能 障 害 を 改 善 し う る か ど う か 評 価 す る こ と を 目 的 と し た 。 DAIモデルは、pneumatic impactor deviceを用いて作成した。SDラット(7‑9w)を用い、
頭皮を2cm程度正中切開し、skullを露出させ、metal discを歯科用セメントで固定し、圧力 80psiで損傷を加えた。この設定で少なくても2週間は高次脳機能障害が持続することを確 認し、移植実験を開始した。
BMSCはGFP transgemcrmceの大腿骨 より採 取し、P3ま で継代培養し使用した。1個体当 た り4.0xl05 cellsのBMSCを用 意し、移植は損傷後10日の時点で、右線条体を目標に行っ た。BMSC移植群(舮13)、vehicle群(舮6)およびsham control群(舮8)のそれぞれの高次脳機 能障害は、Morris water mazeを用いて損傷1,2および4週間後に評価した。組織学的解析は、
損 傷2,8お よ び20週 後 の時点 で、HE染色 やMAP2、GFAPな どの神 経系マー カーを 免疫組 織学的に評価した。
高次脳機能障害は損傷後1,2,4週にそれぞれ連続3日間評価を行い、移植前の損傷1週 後 にはBMSC移 植群とvehicle群の 間に有意 差は認 めていな かった。損傷2週後の時点では BMSC移 植群で はvehicle群と比較 して高次脳機能障害の明らかな改善傾向が認められた。
こ の傾向 は損傷4週後に も継続 して見ら れ、有 意差をも ってBMSC群 の高次脳 機能障 害が 改 善 し てい た 。 組織 学 的 に は、BMSC移 植4日 後 に 、BMSCが 広く脳 内に分布 してお り、
こ れ ら の一 部 はGFAP、NeuNなどを 発現し ていたが 、MAP2の発 現は見ら れない ことが確 認 された 。しかしdouble positiveを呈したBMSCも形態はhostの細胞とは異なるものであ った。損傷8週後ではGFP‑positiveな細胞が脳内でさらに増加し、それらの一部が同様に神 経 系マー カーを発 現し、そ の形態 もhostの細 胞に類似 した構造に変化していた。しかし MAP2ではGFP double‑positiveを呈するものの、その形態はhostと依然異なる形状を呈して い た。さ らに損傷20週後の 時点では、MAP2でもdouble positiveな軸索が確認され、移植 さ れたBMSCはhostである 脳内で長 期間生存 するこ とが確認され、また成熟した神経系へ の分化を長い時間かけて獲得したものと推察された。
本 研究よ り、損傷 後10日の 時点でのBMSC移植が 、DAIに 伴う高 次脳機能 障害を 有意
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に改善し、少たくとも5 ケ月後までは脳内に広く存在し続け、さらに徐々に神経系細胞の表 現型 を獲 得し てい くこ とが 示さ れた 。こ れにより、BMSC の 脳内移植が交通外傷後の
DAIに伴う高次脳機能障害に対する治療戦略として検討 されていく可能性があるものと考えら れた。
公開発表において、副査の佐々木教授から、移植後急性期に高次脳機能障害が改善する メカニズムに関して、神経保護効果や神経液性因子の関与以外に寄与するであろう因子に関 するコメントを求める質問があった。およびこれ以外にも、移植後の皮質におけるニューロ ン変性に関する質問が あった。ついで主査の生駒教授から、本実験でのラットDAI モデル と臨床現場でのhuman DAI の発生機序に関する相関 性に関して、および今回の移植部位を 線条体にした根拠やMorris Water Maze test での高次脳機能障害の治療効果判定に関する 質 問が あっ た。 さら に副 査の 岩崎 教授 から、donor BMSC の広範なmigration について 、 お よぴ これ に関連して、BMSC が対側ヘ移動する経路と考えられる脳梁の損傷に関して 質 問があった。
いずれの質問に対しても、申請者は自らの研究に基づく経験や過去の論文の内容を引用し、
適切な回答をした。
この論文は、現時点 で治療法が存在しなぃびまん性軸索損傷に
focusを当て、さらに周囲 からは理解されにくい 症状のーっである高次脳機能障害に着眼点を紹いたということがき わめて評価されるポイ ントであると考えられる。また倫理的に容認しやすいBMSC を用い、
その治療効果の改善を初めて獲得しえたことは、今後の臨床応用の際に重要な実験的根拠と なりえるもので、大変意義のある研究内容である。
審査員一同はこれらの成果を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに、十分 な資格を有するものと判断した。
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