• 検索結果がありません。

日本内科学会雑誌第104巻第6号

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "日本内科学会雑誌第104巻第6号"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

はじめに

 急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia: AML)は,分化・成熟能が障害された幼若骨髄 系細胞(芽球)の自律性増殖によって特徴づけ られる血液腫瘍である.急性白血病の分類は 1976年にFrench-American-British(FAB)グルー プが提唱した細胞形態を基本に免疫学的マー カーを用いたFAB分類が世界共通の分類方法と して広く普及していた.しかし,FAB分類は必 ずしもAMLの発症過程,分子病態,臨床像を反 映しておらず,また,白血病の病因・病態が染 色体・遺伝子レベルで解明され,特異的な染色 体異常・遺伝子変異が白血病の治療予後に関わ ることが明らかとなってきたことより,臨床 像,細胞形態,免疫学的表現型の特徴と遺伝子 異 常 を 組 み 入 れ たWorld Health Organization (WHO)分類第 3 版が提唱された.WHO分類に おいて最も重要な点は,形態学的な特徴に基づ く分類にとどまらず,臨床的,生物学的に均質 な疾患群を抽出することにより,個々の疾患群 に対して最適の治療法へとつなげていくことを 基本理念としたパラダイムシフトが行われたこ とである.このAMLの分類における理念は分子 標的療法の有効性と妥当性が証明された時代の ニーズにも適合し,現在では幅広く受け入れら れ,2008年にはより詳細な分子基盤を組み入れ た改訂第 4 版が出版されている1)  一方,多数のAML症例を対象とした網羅的遺 伝子変異解析により,分子病型に基づくより詳

急性骨髄性白血病の遺伝子異常と予後

清井 仁 要 旨

 急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)の発症・進展には,細胞増殖の促進に関与する遺伝子変 異と細胞分化を阻害する遺伝子変異が蓄積することが必要とされてきた.次世代シークエンサーによるゲノム解 析技術により,DNAやヒストンのメチル化状態などのエピジェネティック制御に関与する遺伝子,RNAスプラ イスに関与する遺伝子,娘染色体の安定化に関与するcohesin複合体遺伝子など,新たな機能分子をコードする 遺伝子の変異が明らかにされ,より複雑な分子機構がAMLの発症・進展に関与していることが示唆されている. しかし,それら同定された変異遺伝子個々の生物学的意義はほとんど明らかにされていない状況であり,さらな る研究と複数の遺伝子変異の協調的意義に対する解明が待たれている.一方,分子病態に基づく診断基準,予後 層別化,標的治療薬をはじめとする個別化治療への実用化も進んでいる.本稿では,AMLにおける遺伝子異常と 予後層別化システムへの応用について概説する. 〔日内会誌 104:1180~1188,2015〕 Key words 急性骨髄性白血病,遺伝子変異,予後層別化 名古屋大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学

The Cutting-edge of Medicine;Genetic alterations and their prognostic implications in acute myeloid leukemia. Hitoshi Kiyoi:Department of Hematology and Oncology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Japan.

(2)

細な予後層別化も試みられている.従来,染色 体核型に基づく予後分類が幅広く用いられてき たが,European LeukemiaNet(ELN)により, 染色体核型に加えて,CN-AML(cytogenetically normal acute myeloid leukemia)における遺伝子 変異の状態を加味した新たな予後分類が提唱さ

れている2).ELNシステムに基づいた臨床的有用

性はドイツ(Süddeutsche Hämoblastose Gruppe) および米国(CALGB(Cancer and Leukemia Group B))での臨床試験登録症例における後方視的解 析により検証されている.しかし,2008年に染 色体核型正常(CN-AML)のAML症例において 実施された全ゲノムシークエンス解析結果が初 めて報告されて以降,AML症例におけるゲノ ム・エクソームレベルでの網羅的遺伝子変異解 析結果が相次いで報告され,DNAやヒストンの メチル化状態などのエピジェネティック制御機 構に関与する分子の遺伝子変異がさらなる予後 層 別 化 に 有 用 で あ る 可 能 性 が 示 唆 さ れ て い る3).本稿では,ほぼ全貌が明らかになったと いえるAMLにおける遺伝子変異と,それら分子 病態に基づく予後層別化システムの現状を概説 する.

1.AMLにおける遺伝子変異

1)AMLにおける遺伝子変異の種類  従来,AMLにおける遺伝子変異は,FLT3, NRAS,KITなどの細胞増殖に促進的に関与する 遺伝子変異とNPM1,CEBPAなどの細胞分化抑 制に関与する遺伝子変異がAMLの発症・進展な らびに予後に関係する主たる遺伝子変異として 知られていた.2008 年にCN-AML1 症例の全ゲ ノムシークエンス解析の結果が報告されて以 降,AML症例における全エクソンシークエンス 解析の結果が相次いで報告され,TET2遺伝子,

IDH1/2遺伝子,DNMT3A遺伝子などのDNAやヒ

ストンのメチル化に関与する分子,ASXL1や EZH2な ど の ク ロ マ チ ン 修 飾 に 関 わ る 分 子, STAG2やRAD21などの細胞分裂時に染色体を均 等分離する過程において中心的な役割を果たす コヒーシン複合体を構成する分子や,SF3B1, U2AF1などのRNAスプライシング分子の遺伝子 変異が明らかにされた3,4).さらに,2013 年に

はTCGA(The Cancer Genome Atlas)により,de

novo AMLの 50 例の全ゲノムシーケンスと 150 例の全エクソンシーケンス合わせて 200 例の網 羅的な遺伝子変異解析の結果が報告された5) この解析では多数の遺伝子変異が同定された が,1 症例あたりのアミノ酸の置換を伴う変異 遺伝子数の平均は13個,複数の症例で認める変 異に限ってみると平均 5.2 個であり,他の癌腫 に比較して極めて少数の遺伝子変異の蓄積によ り発症していることが理解される.また,10% 以上の頻度で同定された遺伝子変異は,FLT3, NPM1,DNMT3Aのわずか3種類のみであり,大 多数の遺伝子変異は 5%未満の頻度に過ぎない ことが明らかになった.表 1にこれまでにAML で同定された遺伝子変異をまとめた.多くの機 能分子に変異を認めていることが理解される が,これら遺伝子変異を機能別に分類すると, 細胞増殖促進に関与する遺伝子変異(Class 1遺 伝子異常とも呼ばれる),細胞の分化障害に関与 する遺伝子変異(Class 2遺伝子異常とも呼ばれ る),エピジェネティック制御に関与する遺伝子 変異が高頻度に認められ,また,これら 3 種類 の遺伝子変異が高率に重複して獲得されている ことから,AMLの発症に極めて重要な役割を果 たしていることが明らかになっている. 2)日本人AML症例における遺伝子変異  遺伝子変異の頻度や病態に及ぼす影響には人 種差があることが知られている.日本人AML患 者における網羅的遺伝子変異解析は日本成人白 血病治療共同研究グループ(Japan Adult Leuke-mia Study Group:JALSG)登録症例において実 施されている.この解析では,AMLにおいて同

(3)

定されている55種類の遺伝子につき,ターゲッ トシークエンスにより網羅的遺伝子変異解析が

実施された6).44 種類の遺伝子変異が同定され

たが,10%以上の頻度で存在する遺伝子変異 は,FLT3,NPM1,DNMT3A,CEBPA,KITの 5

種類であった(図 1).注目すべきはKIT遺伝子 表1 機能別にみたAMLにおける遺伝子変異と頻度 機能 遺伝子 変異頻度 Tyrosine kinase FLT3 ITD:20~28%KDM:5~10% KIT 25~30% in CBF-AML JAK1 1~3% JAK3 1~2%

RAS pathway NRAS 9~14%

KRAS 5~17% Protein phosphatase PTPN11 4~5% Ubiquitin pathway CBL 2~3% Nuclear-cytoplasmic shuttling phosphoprotein NPM1 25~35% Transcription factor CEBPA 10~20% RUNX1 5~13% GATA2 3~5% RUNX1-RUNX1T1 10~15% CBFB-MYH11 3~8% PML-RARA 5~10% MLL fusion 5~9% DEK-NUP214  1% DNA hydroxymethylation TET2 8~27% IDH1 6~9% IDH2 9~12%

DNA methylation DNMT3A 18~23% Histone 3

K27 methylation EZH2 8~12% of MPN-BCrare in AML Histone 3

K4 methylation MLL PTD:5~13%5~6% Histone 3

K27 tri-methylation ASXL1 3~11% Transcriptional corepressor BCOR 4~5% BCORL1  6% Cohesin complex STAG2  2% SMC3  3% SMC1A  3% RAD21  2% Tumor suppressor TP53 7~12% WT1 10~13%

(4)

変異の頻度が高いことであるが,これは日本人 ではt(8;21)(q22;q22)やinv(16)(p13.1q22) またはt(16;16)(p13.1;q22)染色体異常を 有するAML(CBF-AMLと呼ばれる)が高頻度に 認められ,CBF-AMLにおいてはKIT遺伝子変異が 協調的にAMLの発症に関与していることが要 因である.これら遺伝子変異を機能別にみる と,Class 1 遺伝子変異,Class 2,エピジェネ ティック制御に関与する遺伝子変異が高頻度で 認められ,これら 3 者が高頻度に重複して獲得 され,さらにBCOR,Cohesin複合体などの遺伝 子変異が獲得されることにより,多様性が得ら れていることが理解される(図 2A,B).また, TCGAによる解析では,PML-RARAやMLL転座を 伴 うAMLに お け る 変 異 遺 伝 子 数 は 少 な く, CN-AMLにおいては多くの遺伝子変異が獲得さ 図2 機能別の遺伝子変異割合と重複 Class 1,Class 2,エピジェネティック制御に関わる遺伝子変異が高頻度に認められ,かつ,これら3 種類の遺伝子変異が高頻度に重複して存在することが理解できる. 80% A B 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% ClassⅠ ClassⅡ epigenetic

BCOR NCOR NOTCH

cohesin spliceosome others Cohesin NOTCH NCOR BCOR Epigenetic modifier ClassⅡ ClassⅠ Other Spliceosome 図1 JALSG AML201試験登録例における遺伝子変異 44種類の遺伝子変異が同定されたが,10%以上の頻度で同定されたものは,FLT3,NPM1,DNMT3A, CEBPA,KITの5種類であった. FLT3 NPM1 DNMT3A CEBP A KIT

NRAS TET2 RUNX1 WT1 NCOR2 NOTCH1 BCORL1 IDH1 IDH2 KRAS MLL-PTD ST

AG2

GAT

A2 MLL PHF6 TP53 BCOR EZH2

NOTCH2 ASXL1 DIS3 JAK3 KDM6A PTPN11 SMC1A DOT1L

ETV6

NCOR1 PBRM1 RAD21 SMC3 SF3B1 U2AF1 ATRX CBL JAK1

30% 25% 20% 15% 10% 5% 0%

(5)

れていることが示されているが,JALSG登録症 例における解析では,CBF-AMLにおける獲得遺 伝子変異数は有意に少ないことが明らかにされ た(図3).このことは,PML-RARA,MLL転座, RUNX1-RUNX1T1,CBFB-MYH11などのキメラ 遺伝子複合体はAMLの発症において極めて重 要な役割と強い発がん作用を有していることが 推測される.

2.遺伝子変異がもたらす分子病態

1)細胞増殖促進に関与する遺伝子異常  細胞外から核内に伝わる増殖あるいは分化の シグナルは,細胞表面に発現する受容体とその リガンドの相互作用によって惹起される.これ らは,サイトカインとその受容体であり,増殖 因 子 と 受 容 体 型 チ ロ シ ン キ ナ ー ゼ(receptor tyrosine kinase:RTK)である.リガンドの結合 により活性化された受容体は,種々のアダプ ター蛋白を活性化し,場合によっては,クロス トークにより他の受容体を活性化して,主に, JAK/STAT,RAS/MAPK,PI3K/AKT経路を活性化 し,そのシグナルを核内へ伝える.また,生体 内では,これら活性化(リン酸化)した受容体 やシグナル伝達分子を制御するフィードバック 機構(脱リン酸化酵素)が存在していることも 明らかになっている.AMLにおいては,これら 細胞増殖因子受容体やシグナル伝達に関与する 分子の遺伝子異常が多数認められ,KIT,FLT3, RAS,PTPN11,JAK2,JAK3遺伝子変異が代表 的なものである.  これらの遺伝子変異は細胞の自律性増殖を導 き,単独での変異獲得は骨髄増殖性腫瘍の病態 を来たす.慢性期慢性骨髄性白血病では BCR-ABL1キメラ遺伝子,真性多血症,本態性血小板 増多症,原発性骨髄線維症ではJAK2遺伝子変異 が病態発症の原因遺伝子であり,それらが単独 である限り,慢性期の状態であり続けることが できるが,分化阻害に関係する遺伝子変異の獲 得があると急性白血病へ形質転換すると考えら れている. 2)細胞分化障害に関与する遺伝子異常  血液細胞は造血幹細胞から分化・成熟過程を 経て産生されるが,この過程は造血因子ととも に,複数の転写因子などにより緻密に制御され ている.これら分化・成熟機構に関与する分子 図3 JALSG AML201試験登録例における1症例あたりの遺伝子変異数 CN-AMLでは1症例あたりの獲得遺伝子変異数が有意に多く,一方CBF-AMLでは有意に少な いことが示された. 8 2.54 2.02 2.57 2.86 2.67 2.96 1.57 P=0.042 P=0.039 P=0.019 2.67 1.75 All Sample (N=197) RUNX1-RUNX1T1 (N=41) AR, TP53 Mt. (N=7) IR, Not NK (N=22) AR, TP53 Wild (N=7) CN-AML (N=22) MYH11 CBFB-(N=14) All others (N=197) MLL-X (N=8) 6 4 2 0

(6)

の異常は白血病発症に深く関与している.特 に,幼弱な芽球の増殖を特徴とする急性白血病 においては,これら分子の異常が発症の初期段 階で重要な要因となっている.  染 色 体 転 座 t(8;21)(q22;q22)や inv(16) (p13.1q22)またはt(16;16)(p13.1;q22)により 形成されるキメラ遺伝子産物RUNX1-RUNX1T1 およびCBFB-MYH11は生体型造血に不可欠であ るcore binding factor(CBF)複合体の機能抑制 を導き,分化阻害,自己複製能力の亢進に関与 している.

 CCAAT/enhancer-binding protein-α(C/EBP α) は,好中球の分化・増殖に関わる重要な転写因 子である.CEBPA遺伝子変異はN末端領域におけ るframe-shiftをもたらす遺伝子挿入・欠失型変 異とC末端領域におけるin-frameでの遺伝子挿 入・欠失型変異の 2 種類に分類されているが, いずれの異常においても,好中球分化機構が阻 害されることによりAMLの発症に関与している.  GATAは赤血球,巨核球,好酸球,肥満細胞の 発生・分化に必須の転写因子であり,その欠失 は赤血球前駆細胞の分化抑制とアポトーシスな らびに幼弱巨核球の蓄積をもたらす.GATA1遺 伝子変異は,ダウン症における急性巨核芽球性 白血病(DS-AMKL)発症における初期段階の異 常として注目されている.また,GATA2遺伝子 変異もAMLで同定されている.  核 内 リ ン 酸 化 蛋 白 で あ るNucleophosmin (NPM)分子は核内で生じたpreribosomal parti-clesと結合して細胞質へ移動し,ribosomeの形 成に重要な役割を果たすほか,核内において, p53 分子やp19ARF分子の分子シャペロンとして の機能を持ち,細胞外からのストレス刺激によ る細胞死を回避する機能も知られている. 3) エピジェネティック機構に関与する遺伝子異常  AMLで はDNMT3A,TET2,IDH1/2 な どDNA のメチル化に関わる因子や,EZH2,ASXL1など のクロマチン制御因子の変異が高頻度に認めら れる.注目すべき点は,これらの遺伝子変異は 前述の細胞増殖促進や分化阻害に関わる遺伝子 異常と高頻度に重複することで,エピジェネ ティック機構の脱制御がAMLの発症・進展に協 調的に関与していることを示している.  IDH(isocitrate dehydrogenase)はクエン酸回 路において,NADP+のNADPHへの変換を介し て,イソクエン酸からα-KG(α-ketoglutaric acid) の産生をもたらす酵素で,IDH1~IDH3の3種類 が存在する.IDH1,IDH2遺伝子変異は脳腫瘍, AMLの他,前立腺癌,悪性黒色腫,甲状腺腫瘍, 大腸癌などの複数の腫瘍細胞で認められている が,AMLにおいても,IDH1遺伝子変異が約6%, IDH2遺伝子変異は約9%に認められている.変 異IDH1/2分子はNADPHからNADP+への変換を 介してα-KGから2HG(2-hydroxyglutarate)を産 生する新たな酵素活性を獲得し,細胞内の 2HG を上昇させる.この2HGは後述するTET2の酵素 活性を競合的に阻害することが明らかにされて いる.  TET(Ten-Eleven-Translocation) フ ァ ミ リ ー (TET1,TET2,TET3) は,α-KG依 存 的 に 5mC (5-methylcytosine)のメチル基をヒドロキシル 化し,5hmC(5-hydroxymethylcytosine)に変換 する酵素である.TET2変異の多くはナンセンス あるいはフレームシフト変異による早期終止コ ドンを伴ったC末端欠落,またはC末端側の酵素 活性を担うドメインのミスセンス変異による機 能喪失型変異である.TET2変異によりTET2 の 酵素活性が低下すると 5mCから 5hmCへの変換 が阻害され,メチル化が集積することになる. IDH1/2変異においてもTET2 の機能阻害を来た すことからTET2遺伝子変異と同様の機序が働 いている(図 4).  一方,DNAメチル化酵素であるDNMT3Aの機 能欠失型変異も高頻度で認められている.重要 なことは,TET2,IDH1/2変異はメチル化の蓄 積をもたらすのに対し,DNMT3A変異はメチル 化が抑制される正反対の結果をもたらすことで

(7)

ある(図 4).今後,白血病細胞において,それ ぞれの変異分子が標的とする分子異常の解明が 重要である.

3.遺伝子変異に基づく予後層別化

 AMLにおいては,染色体核型に基づく予後層 別化システムが最も確立したものとして頻用さ れているが,遺伝子変異の状態によりさらなる 細 分 化 が 試 み ら れ て い る7).NCCN(National Comprehensive Cancer Network)のガイドライ ンの分類では,予後良好群として分類される t(8;21)(q22;q22),inv(16)(p13.1q22)または t(16;16) (p13.1;q22)核型を有する症例(CBF-AML)においても,KIT,FLT3遺伝子変異を併せ もつ症例は予後不良である可能性があることが 示唆されている.また,CN-AMLを中心とする 予後中間群においては,NPM1変異は寛解導入 に対して良好な因子であること,FLT3-ITD変異 は 予 後 不 良 因 子 で あ る こ と,CEBPA変 異 と NPM1変異陽性かつFLT3-ITD変異陰性の分子病 型は染色体正常核型の症例群における予後良好 因 子 で あ る こ と が 報 告 さ れ て お り,FLT3, NPM1,CEBPA遺伝子変異の存在の有無により, その長期予後が異なることが示唆されている. ELNのリスク分類においても,AMLの予後分類 にCN-AMLのFLT3,NPM1,CEBPAの遺伝子変異 を加えており,その有用性が 2 つの異なるコ ホートを用いた解析結果より検証されている. 一 方,ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)からは,NPM1変異陽性例はIDH1/2変 異を有する症例に限り予後良好というこれまで とは異なる結果や,ドイツのグループからは, TET2変異とIDH1/2変異が予後良好群において 予後不良因子とはならなかったという結果が報 告されており,各々新たなリスク分類を提唱し ている8,9).JALSG AML201試験登録例における 解析では,染色体正常核型でNPM1変異陽性か つFLT3-ITD陰性症例群の中でDNMT3A変異陰性 群が予後良好となる結果が示されている6) JALSGでは,これらの結果に基づき,新たな分 子層別化システムを提唱している(表 2・図 5)  ELN層別化システムにおいて示されているよ うに,FLT3,NPM1,CEBPA遺伝子変異はAML における有力な予後予測因子といえる.しか し,TET2,IDH1/2,DNMT3Aなどのエピジェネ 図4 TET2,IDH1/2,DNMT3A変異がもたらすメチル化状態異常 TET2 変異によりTET2の酵素活性が低下すると5mCから5hmCへの変換が阻害さ れ,メチル化が集積する.IDH1/2 変異により産生される2HGはTET2の機能阻害 を来たすことからTET2遺伝子変異と同様の機序が働く.一方,DNAメチル化酵素 であるDNMT3Aの機能欠失型変異はメチル化が抑制される正反対の結果をもた らす. H3C NH2 N N O N H N H NH2 DNMT DNMT Cytosine 5mC 5mC N N O N H N H OH NH2 5hmC N N O N H N H TET2 2-HG Mt-IDH1/2 α-KG α-KG TET 5hmC

(8)

ティック制御分子の遺伝子変異がさらなる層別 化因子として重要であることが相次いで示され ている.また,これら遺伝子変異を予後予測因 子として個別化治療を行うことが予後の改善に つながることを前方視的に証明した臨床試験は いまだ報告されていない.今後多数例の前方向 視的な解析とともに,分子標的療法や同種造血 幹細胞移植などの個別化治療の有効性を検証す る臨床試験の実施が急務である.

おわりに

 全ゲノムシークエンスにより,AMLにおける 遺伝子変異のほぼ全容が明らかにされたといえ る.驚くべきことに,AMLにおける 1 症例あた りの遺伝子変異数は 5~6 個程度であり,10% 以上の頻度で変異が認められる遺伝子も数個程 度であることが明らかにされた.AMLで同定さ れた大多数の遺伝子変異の頻度は極めて低いこ とから,これらの遺伝子変異を全て網羅する中 図5 JALSGによる分子層別化システムに基づく予後曲線 表2に示す分子層別化システムにより,成人AML患者の予後を5群 に層別化することが可能である. FR(n=83) IR-Ⅰ(n=38) IR-Ⅱ(n=41) AR(n=28) Very-AR(n=7) P<0.0001 100 80 60 Overall survival 40 20 0 0 500 1,000 Days 1,500 2,000 2,500 (%) 表2  JALSGによる分子病態に基づく予後層別化システム

Genetic group Subsets

Favorable

CBF-AMLs

CN-AMLs with mutated NPM1 without FLT3-ITD and mutated DNMT3A(normal karyotype) CN-AMLs with mutated CEBPA without mutated DNMT3A(normal karyotype)

Intermediate-Ⅰ CN-AMLs with mutated DNMT3A

CN-AMLs except for those included in the FR and AR Intermediate-Ⅱ AMLs included in the IR-Ⅱ of the ELN stratification Adverse CN-AMLs with MLL-PTD

AMLs included in the AR of the ELN stratification Very Adverse AMLs with mutated TP53

(9)

で予後層別化を検証していくことは不可能とい える.恐らく,機能的に重要な限られた遺伝子 変異に基づく層別化システムが確立されるもの と期待される.今後,遺伝子変異の結果もたら される生物学的異常メカニズムの解明と複数の 異常による協調性を考慮する中で分子層別化シ ステムを構築していくことが必要であると同時 に,継続的にvalidation試験を実施することによ り,最新の治療法に適合する層別化システムに 改変していくことが必要である. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:清井 仁;研究 費・助成金(富士フイルム),寄附金(協和発酵キリン, 全薬工業,大日本住友製薬,中外製薬,ブリストル・マ イヤーズ) 文 献

1) Swerdlow S, et al : WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues, Fourth Edition, WHO Press, Lyon, 2008.

2) Döhner H, et al : Diagnosis and management of acute myeloid leukemia in adults : recommendations from an international expert panel, on behalf of the European LeukemiaNet. Blood 115 : 453―474, 2010.

3) Ley TJ, et al : DNA sequencing of a cytogenetically normal acute myeloid leukaemia genome. Nature 456 : 66―72, 2008.

4) Naoe T, Kiyoi H : Gene mutations of acute myeloid leukemia in the genome era. Int J Hematol 97 : 165―174, 2013.

5) Cancer Genome Atlas Research Network : Genomic and epigenomic landscapes of adult de novo acute myeloid leukemia. N Engl J Med 368 : 2059―2074, 2013.

6) Kihara R, et al : Comprehensive analysis of genetic alterations and their prognostic impacts in adult acute myeloid leukemia patients. Leukemia 28 : 1586―1595, 2014.

7) Grimwade D, et al : Refinement of cytogenetic classification in acute myeloid leukemia : determination of prog-nostic significance of rare recurring chromosomal abnormalities among 5876 younger adult patients treated in the United Kingdom Medical Research Council trials. Blood 116 : 354―365, 2010.

8) Patel JP, et al : Prognostic relevance of integrated genetic profiling in acute myeloid leukemia. N Engl J Med 366 : 1079―1089, 2012.

9) Grossmann V, et al : A novel hierarchical prognostic model of AML solely based on molecular mutations. Blood 120 : 2963―2972, 2012.

参照

関連したドキュメント

 従来,輸血を必要としない軽症例では経過観 察されることが多かった.一方,重症例に対し ては,抗胸腺細胞グロブリン(anti-thymocyte

 ヒト interleukin 6 (IL-6) 遺伝子のプロモーター領域に 結合する因子として同定されたNF-IL6 (nuclear factor for IL-6 expression) がC/EBP β である.C/EBP

 CTD-ILDの臨床経過,治療反応性や予後は極 めて多様である.無治療でも長期に亘って進行 しない慢性から,抗MDA5(melanoma differen- tiation-associated gene 5) 抗 体( か

4) American Diabetes Association : Diabetes Care 43(Suppl. 1):

10) Takaya Y, et al : Impact of cardiac rehabilitation on renal function in patients with and without chronic kidney disease after acute myocardial infarction. Circ J 78 :

38) Comi G, et al : European/Canadian multicenter, double-blind, randomized, placebo-controlled study of the effects of glatiramer acetate on magnetic resonance imaging-measured

第四章では、APNP による OATP2B1 発現抑制における、高分子の関与を示す事を目 的とした。APNP による OATP2B1 発現抑制は OATP2B1 遺伝子の 3’UTR

健康人の基本的条件として,快食,快眠ならび に快便の三原則が必須と言われている.しかし