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日本内科学会雑誌第106巻第1号

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はじめに

 「膝が痛い」という高齢者は非常に多く,テレ ビにも膝痛対策のサプリメントやサポーターな どのCMが溢れている.高齢者の膝痛の原因の大 部分は,変形性膝関節症(osteoarthritis of the knee/以下,膝OA)である.東大病院 22 世紀医 療センターの推計では,国内にレントゲン学的 な膝OAの患者は約 2,590 万人,症状のある患者 に限っても約800万人いると報告されている1)  膝OAの疾患概念は,教科書的には「関節軟骨 の変性・摩耗から始まり,進行すると軟骨下骨 の硬化や骨棘形成などの骨増殖性変化を生じ, 関節の変形に至る」疾患である.しかし,外傷 や稀なアルカプトン尿症などの代謝異常などの 場合を除き,多くは原因不明の一次性であり, 明確な診断基準もないのが現状である.また, 進行は極めて緩徐であり,タイトコントロール するターゲットとなるindicatorも現時点では存 在しない.この点において,高血圧や糖尿病な どのタイトコントロールが一般的となった内科 の医師たちからみれば,膝OAのガイドラインの 解説は,前世紀の話のように感じられるに違い ない.それでも,いまだエビデンスのない民間 療法などの氾濫を見聞きする現状においては, この解説もそれなりの意義はあると思われる.

1.膝OAの症状と画像

 膝関節は,内側大腿脛骨関節と外側大腿脛骨 関節と膝蓋大腿関節の 3 つの関節から構成され る.日本人はその体型からO脚(内反膝)が多 く,内側大腿脛骨関節の変形性膝関節症がほと んどである.したがって,疼痛は,主として内 側に存在する.初期の症状は,動き始めの痛み であり,「椅子から立ち上がったときに痛みを感 じるが,歩き始めると痛みはない」という感じ の訴えが多い.中等度になると,上記に加え, 膝が張った感じ(関節液の貯留)や階段昇降時

変形性膝関節症の管理に

関するOARSI勧告

OARSIによるエビデンス

に基づくエキスパートコ

ンセンサスガイドライン

(日本整形外科学会変形

性膝関節症診療ガイドラ

イン策定委員会による適

合化終了版)

Key words 変形性膝関節症,鑑別診断,運動療法,薬物療法 〔日内会誌106:75~83,2017〕 津村 弘 大分大学整形外科学 Hiroshi Tsumura

Department of Orthopaedic Surgery, Oita University, Japan.

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や長時間の歩行時の痛みが出現する.さらに進 行すれば,歩行時の痛みが増強し,立つだけで 痛みが出現するようになる.また,完全に進展 できなくなったり(屈曲拘縮),曲がらなくなっ たりする(可動域制限).単純X線写真では,初 期は内側大腿脛骨関節の関節裂隙の狭小化と同 部の軟骨下骨の硬化像が主要な変化であるが (図 1 左),進行すると,関節裂隙は消失し関節 縁に沿った骨棘が形成され,次第に大きくなる (図 1 右).その他の特徴として,急性の発症機 転をとることもほとんどなく,経過を通じて安 静時痛や夜間痛を認めず,貯留する関節液は黄 色透明であり,混濁を認めない.

2.膝OAの鑑別診断

 高齢者の膝関節痛のほとんどの原因は,膝OA であるといっても過言ではないが,異なる疾患 も含まれるため,やはり鑑別診断は重要であ る.通常の外傷を除くと,次のような疾患が鑑 別すべきものに挙げられる. 1)関節リウマチ  高齢発症の場合,膝関節のような大関節から 発症することがあり,注意を要する.また,す でに膝OAが存在する場合もあり,血清学的検査 や関節液の性状を参考に,現症状の主たる原因 に対して治療を選択する必要がある. 2)痛風・偽痛風  尿酸結晶やピロリン酸カルシウム結晶による 結晶誘発性関節炎である.急性発症が特徴で, 炎症反応の上昇と関節液の混濁がみられ,関節 液に結晶が確認できれば確定できる.偽痛風で は,単純X線写真において,軟骨や半月板に石 灰化像が認められる. 3)特発性大腿骨内側顆骨壊死  大腿骨内側顆に生じる骨壊死であり,突然痛 みが生じる.この段階では,単純X線写真では ほとんど異常はないが,MRIではT1 強調像で低 右は初期で,内側の関節裂隙の狭小化がみられる. 左は末期で,関節裂隙は消失し,関節面の辺縁に骨 棘がみられる. 近傍に低信号域がみられる.

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信号な半円形の領域に描出される.夜間痛や比 較的大量の関節液の貯留が観察されることが多 い(図 2). 4)脆弱性骨折  脛骨関節面の直下に生じる脆弱性骨折であ る.骨粗鬆症を基盤として発症する.大腿脛骨 関節面よりやや遠位に圧痛を認める.発症時に は単純X線写真には変化はなく,MRIでは関節面 に平行なT1 強調像で低信号,T2 強調像でやや 高信号の領域が認められる.

3.‌‌日本整形外科学会の‌

膝OAガイドライン

 日 本 整 形 外 科 学 会(Japanese Orthopaedic Association:JOA) の 膝OAガ イ ド ラ イ ン は, OsteoArthritis Research Society International

(OARSI)が 2008 年に発表したガイドライン2)

(Part Iは方法論であり,推奨はPart IIに記載され ている)を,JOA変形性膝関節症診療ガイドラ イン策定委員会が和訳し,日本人用に適合化し たものであり,初版は2011年公開された3).各 項目にそれぞれ文章があり,その文章に対して の推奨度や解説が記載される形となっている. 主な適合化のための変更点は,1)変形性股関 節症に関する部分を削除,2)専門家による推 奨度(strength of recommendation:SOR)は, 原著に加えて策定委員会のメンバーによる推奨 度を別途記載,3)JOAの他のガイドラインと整 合性をとるため,治療行為の推奨度をA~Dおよ びIで記載,4)ヒアルロン酸の注射薬に関して 日本での使用法について追加,5)保険適用外 の鍼灸,アセトアミノフェン,オピオイドにつ いては削除したことなどである.その後,アセ トアミノフェンの適応が変形性関節症に拡大さ れ,慢性疼痛に対するオピオイドや弱オピオイ ドの適応も拡大されたことから,原著から削除 された部分を復活する形で第 2 版が作成され た.これをもとに,主たる部分を解説する.推 奨の文章を引用し(若干の短縮や省略を加えて いる場合もある),原著の推奨度と日本の策定委 員会(JOA委員会と記載)の推奨度を併記し, 解説を加えた.なお,24個の全ての治療行為に 対する推奨度は表に示している.  第 1 項目:膝OAの至適な管理には,非薬物療 法と薬物療法の併用が必要である.全般的な大 前 提として述 べられていて,推 奨 度は原 著で 96%,JOA委員会で94%となっているが,十分な エビデンスはなく概念的なものとなっている.  第 2 項目:治療の目的と生活様式の変更,運 動療法,歩調・歩行速度の調整,減量,関節へ の負担軽減に関する情報の提供や教育を行う. 推奨度はどちらも97%であり,病態に関する患 者の理解は,長期にわたる治療を行ううえでは 必須の条件である.  第 4 項目:症状緩和および身体機能を改善す るための適切な運動療法について,理学療法士 による評価・指示・助言を受けさせることが有 益である.推奨度は,原著で 89%,JOA委員会 で86%である.この推奨はエキスパートの意見 であり,明確なエビデンスがあるものではない.  第 5 項目:定期的な有酸素運動・筋力強化訓 練および関節可動域訓練を実施し,かつこれら の継続を奨励する.推奨度は原著で 96%,JOA 委員会で94%である.非薬物療法の中では最も 重要度の高い項目であり,多くのRCT(random-ized controlled trial)が行われており,明確なエ ビデンスを有している項目でもある.特に下肢 筋力強化は,有用性が高い.大腿四頭筋訓練や 股関節外転筋訓練を,患者の重症度に応じて, 膝関節の疼痛を誘発しないような運動を指導す る.中等度以上の症例では,体重を膝に負荷せ ずに筋力が強化できる,プール内歩行や膝関節 伸展位での下肢挙上訓練が勧められる.  第 6 項目:体重過多の膝OA患者には減量し, 体重をより低く維持することを奨励する.推奨 度はどちらとも 96%である.これも多くのRCT 診療ガイドライン at a glance

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表   OARSIによる推奨事項と調査エビデンス LoE 疼痛に対する  ES(95%CI) 既存  ガイドライン  における  勧告頻度 OARSI による  SOR(%)  (95%CI) 日整会 委員会 SOR(%) (95%CI) 全般 1.OAの至適な管理には,非薬物療法と薬物療法の併用が必要である. IV 12/12 96(93~99) 94(87~99) 非薬物療法 2. すべての膝関節OA患者に対して, 治療の目的と生活様式の変更, 運 動療法 ,生活動作の適正化 ,減量 ,および損傷した関節への負担を 軽 減 する 方 法に 関 す る 情報 を 提供 し , 教 育 を行 う . 最初 は 医 療 従事 者により提供される受動的な治療ではなく ,自己管理と患者主体の 治療に重点をおき, その後, 非薬物療法の積極的な遵守を奨励する. Ia(教育) IV(遵守) 0.06(0.02,0.10) 8/8 97(95~99) 97(94~99) 3. 膝 関 節 O A患者 へ の 定 期 的 な 電話 指 導 は ,患者 の 臨 床 症 状 の 改 善 に 有 効 . Ia 0.12(0.00,0.24) 2/2 66(57~75) 58(52~64) 4. 症候性の膝関節OA患者においては, 疼痛緩和および身体機能を改善 する ため の適切 な運 動療法 につ いて , 理学療 法士 による 評価 と指 示 ・ 助 言を 受 けさ せ る こ とが 有 益 であ る . こ れに よ り杖 お よ び 歩行 器などの補助具の適切な提供につながる. IV 5/5 89(82~96) 86(82~90) 5. 膝関節OA患者には, 定期的な有酸素運動, 筋力強化訓練および関節 可動域訓練を実施し,かつこれらの継続を奨励する. Ia(膝関節) 0.52(0.34,0.70) 有酸素運動 21/21 96(93~99) 94 (88~100) 0.32(0.23,0.42) 筋力強化訓練 21/21 6. 体重が標準を超えている膝関節OA患者には, 減量し, 体重をより低 く維持することを奨励する. Ia 0.13(-0.12,0.38) 13/14 96 (92~100) 96(93~98) 7. 歩行補助具は, 膝関節OA患者の疼痛を低減する. 患者には, 対側の 手で杖/松葉杖を最適に使用できるよう指示を与えること. 両側性の 疾患を有する患者には, フレームまたは車輪付き歩行器が望ましい. IV 11/11 90(84~96) 94(91~97) 8. 軽度~中等度の内反または外反がみられる膝関節OA患者において, 膝関節装具は ,疼痛を緩和し ,安定性を改善し ,転倒のリスクを低 下させる. Ia 8/9 76(69~83) 76(72~79) 9. 膝関節OA患者には, 履物について適切な助言を与えること. 膝関節 OA患者では, 足底板により疼痛を緩和し, 歩行 (運動) 能力の改善 が得られる. 膝関節内顆のOAを有する患者の一部においては, 外側 楔状足底板が症状緩和に有効である. IV(履物) 77(66~88) 81(76~85) Ia(足底板) 12/13 10.温熱療法は,膝関節OA患者の疼痛緩和に有効である. Ia 0.69(-0.07,1.45) 7/10 64(60~68) 63(54~71) 11. 経皮的電気神経刺激療法 (TENS) は, 膝関節OA患者の一部におい て短期的な疼痛コントロールの一助となり得る. Ia 8/10 58(45~72) 46(37~55)

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LoE 疼痛に対する  ES(95%CI) 既存  ガイドライン  における  勧告頻度 OARSI による  SOR(%)  (95%CI) 日整会  委員会  SOR(%)  (95%CI) 薬物療法 12 . アセトアミノフェン (パラセタモール) ( 4 g/ 日以下)は軽症から 中等 症の膝 O A治 療の 経口鎮痛剤とな りうる .効 果がな い場合 , ま たは重症な疼痛や炎症が生じた場合は, 効果や副作用の種類を考慮 して他の薬物理療への変更を考慮すべきである. Ia 0.21(0.02,0.41) 16/16 92(88~99) 75(66~84) 13 . 症候性の膝関節 O A患者では ,非ステロイド性抗炎症薬 ( N SA ID s) を最小有効用量で使用すべきであるが, 長期投与は可能な限り回避 する. 消化管障害 (GI) リスクの高い患者では選択的COX-2 阻害薬 または非選択的 N SA ID sとともに消化管保護のためプロトンポンプ 阻害薬もしくはミソプロストールの併用投与することを考慮する. ただし , CV リスク因子のある患者では ,非選択的薬剤か選択的 COX-2 阻害薬かを問わず,NSAIDsは注意して使用する. Ia(膝関節) 0.32(0.24,0.39) NSAID+PP I 8/8 NSAID+ミソ プロストール 8/8  COX-2 阻害薬 11/11 93(88~99) 92(90~95) 14 . 外用の N SA ID sおよびカプサイシン (トウガラシ抽出物)は ,膝関 節 O A患者における経口鎮痛薬 /抗炎症薬への追加または代替薬と して有効である. Ia(NSAIDs) 0.41(0.22,0.59) 7/9 85(75~95) 82(78~87) Ia(カプサイシン) 8/9 15 . 副腎皮質コルチコステロイド関節内注射は膝関節 O Aの治療に使用 することもある .とくに ,経口鎮痛薬 /抗炎症薬が十分に奏効しな い中等度~重度の疼痛がある場合, および滲出液などの局所炎症の 身体兆候を伴う症候性膝関節OAの患者において考慮する. Ia(膝関節) 0.72(0.42,1.02) 11/13 78(61~95) 67(55~79) 16 . ヒアルロン酸関節内注射は膝関節 O A患者において有用な場合があ る .副腎皮質ステロイド IA 注射に比較して ,その作用発現は遅い が,症状緩和作用は長く持続することが特徴である. Ia(膝関節) 0.32(0.17,0.47) 8/9 64(43~85) 87(81~92) 17 . グルコサミンやコンドロイチン硫酸の投与は膝関節 O A患者の症状 を緩和させる場合がある. 6カ月以内に効果がみられなければ投与 を中止する. Ia(グルコサミン) 0.45(0.04,0.86) 6/10 63(44~82) 41(32~49) Ia(コンドロイチン) 0.30(-0.10,0.70) 2/7 18 . 症候性の膝関節 O A患者では ,グルコサミンやコンドロイチン硫酸 が軟骨保護作用を示す場合がある. Ib(膝関節) 41(20~62) 31(23~40) 19. 他 の 薬 剤 が 無 効 ま た は 禁 忌 で , 強 い 疼 痛 を 訴 え る 膝 O A患 者 に は , 弱 オ ピ オ イド や 麻 薬 系 鎮 痛 剤 を 考 慮 し て も よ い . 強 オ ピ オ イド に つ い て は 特 別 の 例 外 を 除 い て は 鎮 痛 薬 と し て 用 いるべ き で は な い .こ の よ う な 患 者 に は 他の 非 薬 物 療 法, 特 に 手 術 療 法 を 考 え る べ き で あ る . Ia(弱オピオイド) 9/9 82(74~90) 67.5 (57~78) 表   OARSIによる推奨事項と調査エビデンス(続き) 診療ガイドライン at a glance

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LoE 疼痛に対する  ES(95%CI) 既存  ガイドライン  における  勧告頻度 OARSI による  SOR(%)  (95%CI) 日整会 委員会 SOR(%) (95%CI) 外科的療法 20 . 非薬物療法と薬物療法の併用によって十分な疼痛緩和と機能改善が 得られない膝関節OA患者の場合は, 人工膝関節置換術を考慮する. 保 存 療 法 を 行 っ て い る に も か か わ ら ず 健 康 関 連 Q O Lの 低 下 を 伴 う 重篤な症状や機能制限を有する患者に対しては, 関節置換術が有効 かつ費用対効果の高い手段である. III 14/14 96(94~98) 94(92~98) 21. 単顆膝関節置換術は, 膝関節の内または外側どちらかに限定された 膝OA患者に有効である. IIb 76(64~88) 77(69~85) 22 . 身体活 動性が 高く ,内側膝 O Aに よる症状 が著し い若年 患者で は , 高位脛骨骨切り術の施行により関節置換術の適応を約 10 年遅らせ ることができる場合がある. IIb 10/10 75(64~86) 83(77~88) 23 . 膝関節 O Aにおける関節洗浄および関節鏡視下デブリドマンの効果 は意見が分かれている. いくつかの研究で短期的な症状緩和が示さ れているが, 他の研究では症状緩和はプラセボ効果に起因する可能 性があることが示されている. Ib(洗浄) 0.09(-0.27,0.44) 3/3 60(47~82) 75(66~84) Ib(デブリドマン) -0.01 (-0.37, 0.35) 5/6 24 . 関節置換術により奏効が得られなかった膝 O A患者では ,救済処置 として関節固定術を考慮してもよい. IV 2/2 69(57~82) 55(43~68) Lo E: Ia = RC Tのメタアナリシス ; Ib = RC T; IIa =非無作為化対照比較試験 : IIb =準実験的研究 (非対照比較試験 , 1 治療群からなる用量反応試験など) ; III =観察的研究 (症例対照試験 コホート研究, 横断的研究など) ; IV=エキスパートの見解. ESは標準平均差, すなわち, 治療群と対照群との平均値の差を, 差の標準偏差で除したものである. ES0.2 は効果が低く, は中等度の効果,>0.8 は臨床効果がきわめて高いことを示す. 表   OARSIによる推奨事項と調査エビデンス(続き)

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が行われており,明確なエビデンスを有してい る.5%以上の減量,もしくは週 0.24%以上の 減量で有意に改善するとされている.  第7項目:歩行補助具は膝OA患者の疼痛を軽 減する.患者には,対側の手で杖/ステッキを最 適に使用できるよう指示を与えること.推奨度 は原著で90%,JOA委員会で94%と高い.歩行 補助具の使用に関するRCTは性質上存在しない ため,エビデンスレベルは低いが,生体力学的 には効果が支持されている.両側例では,フレー ムまたは車輪付きの歩行器の使用が推奨されて いる.  第 8 項目:軽度から中等度の内反または外反 がみられる膝OA患者において,膝関節装具は疼 痛を緩和し,安定性を改善し,転倒リスクを低 下させる.推奨度は両方とも76%である.ここ でいう膝関節装具は,サポーター型のものを指 している.軽量フレームで外反力がかけられる 内側型膝OA用の装具など開発されているが,高 額なことと着用コンプライアンスが悪いことが 問題である.  第 9 項目:履物について適切な助言を与える こと.膝OA患者では,足底板(日本整形外科学 会用語集では足底挿板)により疼痛を緩和し, 歩行運動の改善が得られる.内側型膝OAの患者 の一部においては,外側楔状足底板が症状緩和 に有効である.推奨度は,原著では 77%,JOA 委員会では81%である.日本では足底挿板はよ く使用される.立ち仕事をしている人では,外 側が 8~10 mmほど高い楔形の靴の中敷きタイ プのものが便利である.逆に,主婦で家庭内で の生活が主である場合は,ストラップ付きの後 足部に装着するタイプが用いられる.いずれも 軽症から中等症の内側型膝OAで効果が認めら れる.また,距骨下関節を固定するタイプのも のが効果的とする報告もある.  第 12 項目:アセトアミノフェン(1 日 4 g以 下)は軽症から中等症の膝OA治療の経口鎮痛剤 となり得る.効果がない場合,または重症の疼 痛や炎症が生じた場合は,効果や副作用の種類 を考慮して他の薬物へ変更を考慮すべきであ る.推奨度は,原著で92%,JOA委員会で75% である.欧米ではアセトアミノフェンが第一選 択的に使用されているが,日本では非ステロイ ド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)が用いられることが多いとい う現状を示している.しかし,アセトアミノフェ ンの変形性関節症への適応が認められ,潜在的 に腎機能障害を合併している高齢者が多いこと を考慮すると,副作用の少ない同薬の使用を日 本においても拡大してもよいと思われる.肝機 能への影響と市販の風邪薬や頭痛薬などとの併 用での過量摂取に注意が必要である.  第 13 項目:症候性の膝OA患者では,NSAIDs を最小有効量で使用すべきであるが,長期投与 は可能な限り回避する.消化管障害のリスクの 高い患者では,選択的COX(cyclooxygenase)-2 阻害薬または非選択的NSAIDsとともに,消化管 保護のためプロトンポンプ阻害薬もしくはミソ プロストールの併用投与を考慮する.心血管リ スク因子がある患者では,非選択NSAIDs,選択 的COX-2 阻害薬を問わず,注意して使用する. 推奨度は,原著で93%,JOA委員会で92%であ る.前述のように,NSAIDsが使用されることは 多く,疼痛緩和に関する効果も高いエビデンス が存在する.使用においては,推奨文の通り, 副作用を勘案した使用法が必要であり,ガイド ライン中にはないが,NSAIDsの腎機能への影響 も考慮する必要がある.  第 14 項目:外用のNSAIDsおよびカプサイシ ンは,膝OA患者における経口鎮痛薬/抗炎症薬 への追加または代替薬として有効である.推奨 度は,原著で 85%,JOA委員会で 82%である. 日本では,いわゆる湿布薬はよく処方される. 短期的な疼痛緩和に関する効果は証明されてい るが,長期使用を支持するエビデンスは得られ なかったと記載されている.  第15項目:副腎皮質ステロイドの関節内注射 診療ガイドライン at a glance

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重症の疼痛がある場合,および関節液貯留など 局所炎症の兆候を伴う患者において考慮する. 推奨度は,原著で78%,JOAで67%である.疼 痛緩和に関する高いエビデンスは存在するが, 一般的に 1 年に 4 回以上繰り返して使用するこ とは推奨されていない.疼痛や炎症所見の強い 時期にピンポイントで使用することが望ましい と筆者も考えている.  第 16 項目:ヒアルロン酸の関節内注射は膝 OAの患者において有用な場合がある.副腎皮質 ステロイドの関節内注射に比べてその作用発現 は遅いが,症状緩和作用は長く持続する.推奨 度は,原著で 64%,JOA委員会で 87%であり, 評価が大きく分かれた項目である.JOA委員会 は,医療保険制度などによる欧米と日本での適 応症例の違いなどに関するコメントを追加して いる.すなわち,欧米では進行例に限定して使 用されるのに対し,日本では早期例から使用さ れる点が異なっており,得られる効果も異な る.強力なエビデンスはないが,日本では有効 な薬物療法の 1 つとして推奨されている.  第17項目:グルコサミンやコンドロイチン硫 酸の投与は膝OAの症状を緩和させる場合があ る.6 カ月以内に効果がみられなければ投与を 中止する.推奨度は,原著で 63%,JOA委員会 で 41%である.  第 18 項目:症候性の膝OA患者では,グルコ サミンやコンドロイチン硫酸が軟骨保護作用を 示す場合がある.推奨度は,原著で 41%,JOA 委員会では31%である.いまだ結論が出ていな いとする考えもあるが,日本の整形外科医の間 では,その効果はほぼ信じられていないようで ある.  第19項目:他の薬剤が無効または禁忌で,強 い疼痛を訴える膝OA患者には弱オピオイドや 麻薬系鎮痛薬を考慮してもよい.強オピオイド については特別の例外を除いては鎮痛薬として る.推奨度は,原著で82%,JOA委員会で67.5% である.この推奨も第 2 版で追加されたもので ある.弱オピオイドに対する欧米と日本の違い も垣間見える.トラマドール塩酸塩やブプレノ ルフィン塩酸塩の貼付薬などが使用される.  第 20 項目:非薬物療法と薬物療法の併用に よって十分な疼痛緩和と機能改善が得られない 膝OA患者の場合は,人工関節置換術を考慮す る.保存療法を行っているにもかかわらず,健 康関連QOL(quality of life)の低下を伴う重篤な 症状や機能制限を有する患者に対しては,関節 置換術が有効かつ費用対効果の高い手段であ る.推奨度は,原著で96%,JOA委員会で94% である.現在,日本では 1 年間に 8 万例を超え る人工膝関節置換術が行われており,成績もお おむね良好である.よく人工関節の耐用年数に ついての質問がなされるが,精通した整形外科 医が行えば,15 年で 90%以上の人工関節の生 存率がある.

おわりに

 JOA変形性膝関節症診療ガイドライン策定委 員会が適合化を完了した膝OAのガイドライン の主たる項目について解説したが,タイトコン トロールすべきindicatorも存在していないた め,多くは推奨される治療法の羅列となってい る.しかし,高いエビデンスがなければ,医療 者側にとっても保存療法を長期に指導し続ける ことは難しいため,このガイドラインは根拠を 与えるものとなっている.また,OARSIは,2010

年にPart III4)を発表したが,effect sizeなどを変

更しただけで推奨の変更はなかった.また,

2014 年に膝OAに限定したガイドライン5)も発

表したが,これも推奨の変更ではなく,合併症 のある場合の治療法の検討となっている.  最後に,高齢者の膝関節痛は,日常診療でよ

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く遭遇する疾患だが,最も重要なことは正確な

診断であることを強調しておきたい. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:津村 弘;寄附講座(帝人ナカシマメディカル,メディック)

文 献

1) Yoshimura N, et al : Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women : the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study. J Bone Miner Metab 27 : 620― 628, 2009.

2) Zhang W, et al : OARSI recommendations for the management of hip and knee osteoarthritis, Part II : OARSI evi-dence-based, expert consensus guidelines. Osteoarthritis Cartilage 16 : 137―162, 2008.

3) 日本整形外科学会変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会:変形性膝関節症の管理に関するOARSI勧告 OARSI によるエビデンスに基づくエキスパートコンセンサスガイドライン(日本整形外科学会変形性膝関節症診療ガイド ラ イ ン 策 定 委 員 会 に よ る 適 合 化 終 了 版 ).http://www.joa.or.jp/member/committee/guideline/files/OARSI_ guidelines_rev.pdf

4) Zhang W, et al : OARSI recommendations for the management of hip and knee osteoarthritis : part III : Changes in evidence following systematic cumulative update of research published through January 2009. Osteoarthritis Cartilage 18 : 476―499, 2010.

5) McAlindon TE, et al : OARSI guidelines for the non-surgical management of knee osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage 22 : 363―388, 2014.

 

参照

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