報)
著者名(日) 渡辺 雄二, 隅田 衣江
雑誌名 大妻女子大学家政系研究紀要
巻 45
ページ 139‑143
発行年 2009‑03‑03
URL http://id.nii.ac.jp/1114/00002067/
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止
食品加工学実験の授業における情報機器の活用
(第 2報)
渡辺雄二웋웗,隅田衣江워웗
웋웗大妻女子大学食物学科,워웗大妻女子大学食物系助手
Practical Use of Information Machines and Equipment in the Class of Food Processing Experiments
Yuj i Wat anabe and Ki nue Sumi t a
Ke y Wor ds:
板書を利用した口頭での説明,パワーポイントによる要点の提示,ビデオによる製造工程の提示,学生の理解状況
Le c t ur e us i ng wr i t i ng on t he whi t e
‑boar d,Pr e s e nt at i on of t he e s s e nt i al poi nt us i ng Powe r Poi nt , Pr e s e nt at i on of t he manuf ac t ur i ng pr oc e s s us i ng vi de o,De gr e e of c ompr e he ns i on of t he s t ude nt s
1.緒言
私立大学情報教育協会が行った平成 19年私立大 学教員授業改善調査の報告웋웗によると、授業で直面 している教員側の問題点では、「動機付・学習意欲を 高める工夫が難しい」と「授業設計、授業技術の工 夫が必要」の意見が多かった。教育改善に向けた教 員側の今後の課題では、「学習意欲を高める授業作り の工夫」の意見が最も多く、次いで多かったのは「授 業中に学生の理解度を確認して学生の反応に応じた 授業」であった。授業での IT活用状況で 3年前の調 査結果に比べて増加した点は、「授業で理解困難な理 論の映像化」と「理論と実際のマッチングの映像化」
であり、それぞれ 2倍程度多くなっている。
米谷워웗は、心理学の授業において映像メディアの 活用による学生の理解力や授業への関心度を調べて 授業の改善に役立てている。
著者らは既報웍웗において、食品加工学実験の目的 や操作手順を学生が理解するのに板書の利用による 口頭での説明よりもパソコンと VTRの利用による 説明のほうが効果的であると報告した。
2007年度食品加工貯蔵学実験の授業に関するア ンケート集計結果で、「教材資料提示(板書、プリン ト、OHP、ビデオ等)は授業の理解に役立った」の 設問に対する回答の平均点は前期調査で 4.96、後期 調査で 4.78であった。また、良かったと思う自由記 述の中では、「ビデオによる映像がとてもわかりやす かった」という指摘が多かった。
本調査では、授業改善の一環として板書の利用に よる口頭での説明、パワーポイントによる提示、ビ デオによる提示の三つの方法による学生の理解状況 を調べた。前回の調査웍웗では、ポテトコロッケの 1品 目であったが、今回は、いちごジャム、キャラメル、
さばの水煮缶詰、ポテトチップス、ヨーグルトの 5品 目について、製造工程における重要な操作に関する 学生の理解状況を中心に調べた。
2. 方法
(1) 調査対象者
調査対象者は、食物学科管理栄養士専攻 2年(食 管)53名と家政科食物栄養専攻 2年(家食)50名、
計 103名であった。
(2) 調査実施日
調査実施日は表 1に示したとおりである。
(3) ビデオ教材の作成
いちごジャム、キャラメル、さばの水煮缶詰、ポ テトチップス、ヨーグルトに関する製造工程のビデ オ撮影を情報メディアセンター(現、総合情報セン ター)の職員に依頼した。撮影後、ビデオ編集作業 に立ち会い、ビデオ教材を作成した。
(4) 授業の方法
始めに板書を用いて口頭による説明を行い、次に 口頭による説明内容をまとめたパワーポイントによ る提示、最後に一連の製造工程を収録したビデオ教 材を提示した。なお、パワーポイントによる提示と
ビデオ教材の提示の際には、口頭での補足説明を行 わなかった。ビデオ教材の提示が終了後、最もわか りやすかった手法を調査票で回答させた。また、理 解した内容を記述させた(図 1)。
(5) 調査票の後処理
最もわかりやすい手法に関する集計は、エクセル を用いて行った。理解した内容の確認は著者らが 行った。
3. 結果
(1) 水中落下法によるいちごジャムの火止めの判 別に関する調査対象者の理解状況
いちごジャムは、いちごに含まれるペクチン、有 機酸を基に、砂糖を加えて加熱濃縮を行うことによ り、ペクチンが凝固する性質を利用して製造された ものである。したがって加熱の状態がいちごジャム の状態に大きな影響を及ぼす。すなわち、加熱不足 の場合はペクチンの凝固が不充分で、流動性が大き いので水様の状態を、加熱のし過ぎは、ペクチンの 凝固により流動性が小さくなり、粘性の強い状態を 示す。食品加工の実験では、このペクチンの凝固状 態を判別するのに水中落下法が用いられる。加熱中 のジャム母液を水中に落として、ジャム母液の状態 を観察する方法である。水中でジャム母液が凝固す ればペクチンの凝固が行われているので火止めの判 別となる。一方、水中でジャム母液が凝固しなけれ ば、ペクチンの凝固は不充分で加熱を継続する必要 がある。
水中落下法によるいちごジャムの火止めの判別に 関する調査対象者の理解状況では、食管、家食とも に ビ デ オ に よ る 提 示 が 最 も わ か り や す く(食 管 77%、家食 62%)、次いで口頭での説明であった(食 管 34%、家食 50%)。どの方法でも理解できなかっ たと回答した者の割合は、食管で 4%、家食で 2% で あった(表 2)。また、理解内容の不正解者は、食管、
家食ともにいなかった(表 3)。
(2) キャラメル生地の色調変化による火止めの判 別に関する調査対象者の理解状況
キャラメル生地を加熱すると、アミノカルボニル 反応とカラメル反応によってキャラメル特有の色調 を呈する。したがって、食品加工の実験では、その キャラメル特有の色調に基づいて火止めの判別を行 う。
キャラメル特有の色調に基づいた火止めの判別に 関する調査対象者の理解状況でも、食管、家食とも に ビ デ オ に よ る 提 示 が 最 も わ か り や す く(食 管 78%、家食 84%)、次いで食管ではパワーポイントに よる提示(14%)、家食では口頭での説明(25%)で、
食管と家食で異なる傾向を示した。どの方法でも理 解できなかったと回答した者の割合は、食管、家食 ともに 6%であった(表 2)。理解内容の不正解者数 は食管で 2名、家食で 1名であった(表 3)。
(3) サバの肉詰めの方法に関する調査対象者の理 解状況
缶詰の製造工程では、密封操作と加熱滅菌操作が 完全でないと、缶詰の長期間の保存は不可能である。
密封操作を完全に行うためには、ヘッドスペースを とる必要がある。ヘッドスペースをとるということ は、缶の高さより内容物を低めに入れることである。
ヘッドスペースをとるための肉詰め方法に関する 調査対象者の理解状況では、食管、家食ともに最も わかりやすい手法がビデオによる提示であり(食管 75%、家食 72%)、次いで口頭での説明であった(食 管 31%、家食 22%)、(表 2)。理解内容の不正解者数 は食管で 1名であった(表 3)。
(4) 着色によるポテトチップスの揚げ上がりの判 別に関する調査対象者の理解状況
じゃがいもの切片を油で揚げる過程での着色は、
アミノカルボニル反応による。180°Cの高温で揚げ るために着色による変化が速く、ポテトチップスの 揚げ上がりの判別は、初心者には難しい。
着色による揚げ上がりの判別に関する調査対象者 の理解状況では、食管、家食ともにビデオによる提 示が最もわかりやすく(食管 76%、家食 70%)、次 いで口頭での説明であった(食管 15%、家食 19%)、
(表 2)。理解内容の不正解者数は、家食で 3名であっ た(表 3)。
(5) 達温殺菌の方法に関する調査対象者の理解状 況
ヨーグルトは、乳酸菌による乳酸発酵で乳酸を生 成し、その乳酸が乳汁中に含まれるたんぱく質のカ ゼインを酸変性して凝固させたものである。すなわ 表 1 製造品目別調査実施日
製造品目 管理栄養士専攻 食物栄養専攻 いちごジャム 4月 18日 4月 22日 キャラメル 5月 16日 5月 20日 サバの水煮缶詰 5月 30日 6月 3日 ポテトチップス 6月 6日 6月 10日 ヨーグルト 7月 4日 7月 8日
ち、乳酸菌を用いた発酵食品の一つであり、使用目 的の乳酸菌以外の生菌、いわゆる雑菌が混在すると、
ヨーグルトの製造はできなくなる。達温殺菌は、目 的の殺菌温度に達したら火を止めて余熱で殺菌を行 う方法で、この方法の利点は、香気成分など熱に不 安定な成分の損失を少なくすることである。
達温殺菌の方法に関する調査対象者の理解状況で は、食管、家食ともに最もわかりやすい手法がビデ オによる掲示であり(食管 57%、家食 67%)、次い
表 2 調査対象者の理解状況 水中落下法によるいちごジャムの火止めの判別に関しての理解状況
板書利用による 口頭での説明
パワーポイントよる 要点の提示
ビデオによる 製造工程の提示
どの方法でも 理解できなかった
管理栄養士専攻(n=53) 34% 6% 77%웬웬 4%
食物栄養専攻 (n=50) 50% 12% 62% 2%
キャラメル特有の色調に基づいた火止めの判別に関しての理解状況 板書利用による
口頭での説明
パワーポイントよる 要点の提示
ビデオによる 製造工程の提示
どの方法でも 理解できなかった
管理栄養士専攻(n=51) 12% 14% 78%웬웬 6%
食物栄養専攻 (n=49) 25% 12% 84%웬웬 6%
ヘッドスペースをとるための肉詰め方法に関しての理解状況 板書利用による
口頭での説明
パワーポイントよる 要点の提示
ビデオによる 製造工程の提示
どの方法でも 理解できなかった
管理栄養士専攻(n=51) 31% 8% 75%웬웬 0%
食物栄養専攻 (n=49) 22% 12% 72%웬웬 0%
着色による揚げ上がりの判別に関しての理解状況 板書利用による
口頭での説明
パワーポイントよる 要点の提示
ビデオによる 製造工程の提示
どの方法でも 理解できなかった
管理栄養士専攻(n=53) 15% 6% 76%웬웬 0%
食物栄養専攻 (n=47) 19% 13% 70%웬웬 0%
達温殺菌の方法に関しての理解状況 板書利用による
口頭での説明
パワーポイントよる 要点の提示
ビデオによる 製造工程の提示
どの方法でも 理解できなかった
管理栄養士専攻(n=53) 36% 9% 57%웬 0%
食物栄養専攻 (n=49) 22% 6% 67%웬웬 0%
表中の数字は、最もわかりやすい手法と回答した者の割合 nの数は、理解内容の正解者数
웬:쓕ビデオによる製造工程の提示」と「板書利用による口頭での説明」との間で有意な差が認められた。(p<0.05) 웬웬:쓕ビデオによる製造工程の提示」と「板書利用による口頭での説明」との間で有意な差が認められた。(p<0.01)
表 3 理解内容の不正解者数
製造品目 管理栄養士専攻 食物栄養専攻
いちごジャム ⎜ ⎜
キャラメル 2名 1名
サバの水煮缶詰 1名 ⎜
ポテトチップス ⎜ 3名
ヨーグルト ⎜ 1名
で口頭での説明であった(食管 36%、家食 22%)、(表 2)。理解内容の不正解者数は家食で 1名であった(表 3)。
4. 考察
(1) 調査実施の手順について
方法の 4)で既述したとおり、調査実施の手順は、
① 板書を利用しての口頭での説明、② 口頭での説 明内容をまとめたパワーポイントによる提示、③ 一連の製造工程を収録したビデオの提示であった。5 品目ともに、パワーポイントによる提示の評価が低 かったのは、口頭による説明で充分理解されていた ためと考えられる。しかし、調査票の自由記述で、「材 料の分配を行う時のパワーポイントによる配合の提 示や製造中における製造工程の提示は、わかりやす かった」との意見が多かった。材料発注担当の助手 から、配合の提示により学生の分配量に関する勘違 いが少なくなり、材料の過不足の状態がなくなった との報告を受けている。
(2) ビデオ教材の利用による利点と欠点
わかりやすさの評価でビデオによる提示が高かっ た理由として、製造工程の一連の作業が理解できた ことが挙げられる。調査票の自由記述欄で、「使用す る鍋の種類と大きさ、火加減の火の強さ、加熱時に おける状態の経時的変化などがビデオの映像を見て よく理解できた」という意見が多かった。また、ビ デオでは映像のほか BGM などの音声による効果も 考えられた。「口頭での説明が続いて集中力が散漫に なりそうな時に、BGM の音声でビデオを見ること に集中した」という意見もあった。BGM の音声その ものが直接わかりやすさに関係しているとは考えに くいが、調査対象者の集中力を高めることには効果 的であると考えられた。
一方、ビデオ教材の利用による欠点を指摘する意 見もある。宇田웎웗は、心理学の授業でわかりやすい講 義の目的で VTRを導入したが、「口頭での説明より も VTRのほうがわかりやすい」との学生からの感 想が多く、VTRの使用は大学教員の地位を脅かす ものと指摘している。また、「パワーポイントやビデ オでの提示では教室内を暗くすることがあり、ノー トをとることが出来ないために学生の不満は大き い」という指摘もある웏웗。独学を支援するためには、
プリント教材の利用を推奨する指摘원웗もある。先に 述べた平成 19年私立大学教員授業改善調査の報 告웋웗でも、情報技術の利用により、学生がノートやメ
モをとらなくなることを指摘している。
ビデオ教材の利用など情報技術の利用のみで、わ かりやすい授業を行うことが出来るとは思えない。
質問等の対話を含む授業のシナリオに基づき、学生 の授業内容に関する理解状況を確認して学生の反応 に応じた授業を行うことが、学生の理解力の向上に 結びつくと考えられる。そのためには、板書を用い ての口頭による説明、パワーポイントによる要点の 提示、ビデオによる一連の製造工程の把握など学習 目的に応じて手法の使い分けが必要かと思われる。
(3) わかりやすい教材作成による学生の勉学意欲 の低下
学生がわかりやすい授業と評価する基準の一つと して、教員の工夫による教材作成が挙げられる。従 来は、復習の一環として学生が理解状況に応じて授 業内容の整理を行っていた。しかし、現在では教員 が教材作成により学生の代行を行っていると考えら れた。すなわち、教員がわかりやすい教材を作成す ることにより、理解不充分な用語を学生自身が調べ なくなり、結果的に学生の勉学意欲を損ねていると 思われる。今後、入学してくる学生の学力格差がま すます拡がることを考えると、学生の理解状況に応 じた授業シナリオを作成し、学生の理解状況の把握 に努める教員の姿勢が必要であろう。
5. 要約
板書を用いての口頭による説明、パワーポイント による要点の提示、ビデオによる製造工程の提示の 三つの方法により、いちごジャム、キャラメル、サ バの水煮缶詰、ポテトチップス、ヨーグルトの製造 工程における重要な操作に関する学生の理解状況を 調べた。得られた結果は、次のとおりであった。
1) 最もわかりやすいと評価された手法は、ビデ オによる製造工程の提示であった。
2) 板書を用いての口頭による説明がわかりやす かったので、パワーポイントによる要点の提示の評 価は低かった。しかし、材料の分配時や製造中での 製造工程の確認には、パワーポイントによる提示が 効果的であった。
以上の結果から、学習目的に応じて板書を用いた 口頭による説明、パワーポイントによる要点の提示、
ビデオによる製造工程の提示の三つの方法を組み合 わせることが、わかりやすい授業を行うのに効果的 であると考えられた。
終わりに、教材製作にご協力をいただいた本学情
報メディアセンター(現、総合情報センター)の木 村祐美子氏、三浦秀雄氏、山田光栄氏に深謝する。ま た、木下ふみこ氏、柴崎愛氏、土金日華里氏、中村 望氏、吉田泰子氏にも深謝する。調査にご協力をい ただいた食物学科管理栄養士専攻 2年生、家政科食 物栄養専攻 2年 A組の皆様に深謝する。
参考文献
1) 私立大学情報教育協会 :平成 19年私立大学教員 授業改善調査の報告,大学教育と情報 17巻 1 号 60頁 2008年
2) 米谷淳 :第 5章大学教育への映像メディアの活用
―その実践と研究― 大学授業研究の構想過去か ら未来へ 京都大学高等教育支援システム開発セ ンター編 149頁 東信堂 東京 2002年 3) 渡辺雄二・大瀧未鶴希 :食品加工学実験の授業に
おける情報機器の活用 家政系研究紀要 39号 大妻女子大学 2003年
4) 宇田光 :大学講義の改革 BRD(当日レポート方 式)の提案 15頁 北大路書房 京都 2005年 5) 山田耕路 :大学教育について考える 77頁 海
鳥社 福岡 2006年
6) 鈴木克明 :教材設計マニュアル独学を支援するた めに 96頁 北大路書房 京都 2005年
Summary
The degree of comprehension of the students was investigated by changing the lesson method. The following results were obtained.
1) The technique estimated to be the most intelligible for the students was the presentation of manufacturing process using video.
2) Since the lecture using writing on the white‑board was intelligible,the evaluation of presentation using PowerPoint was low. However the presentation using PowerPoint was effective for the check of manufac- turing process under distribution of materials.
3) It was suggested that the combination of three methods was effective according to the study purpose performing an intelligible lesson from the above resul ts.