日本小児循環器学会雑誌 10巻3号 481〜483頁(1994年)
第17回群馬小児循環器研究会
時
日場会
所長 平成6年4月28日(木)前橋マーキュリーホテル 小林 敏宏
1.特異な造影所見を呈した限局1生肥大型心筋症の 姉妹例
群馬県立小児医療センター循環器科 小須田貴史,曽根 克彦,田端 裕之 篠原 真,山田 思郎
小児期の肥大型心筋症(以下HCM)では,時に心筋 障害による心不全や不整脈を認めて突然死の危険性も あり.その病態の把握と日常生活管理は重要な問題で ある.今回我々は特異な左室造影所見を呈した限局性 肥大型心筋症の姉妹例を経験した.
症例1は15歳の女性で某病院で心室中隔欠損症の診 断で経過観察されていたが,小学生時の心電図より ST異常に気付かれ,中学3年生時に精査のため当科
に紹介された.左室造影では下壁側の心筋が肥厚して,
発達した肉柱の間に造影剤が入り込み憩室様の突出と して認められた.また心室中隔欠損症は自然閉鎖して いた.心内膜心筋生検では心筋細胞の横径と核の大小 不同,心筋線維の肥大および分岐・配列異常を認め,
心内膜の肥厚と問質の線維化を認め,組織学的にも HCMと診断された. MRIでは左室後下壁に限局した 肥厚を認め,Gd−DTPAによる造影で同部位が増強さ
れた.
症例2(20歳女性)は症例1の姉で同様に心室中隔 欠損症として経過観察されていたが,小学生時の心電 図よりST異常に気付かれ中学2年生時に当科に紹介 された.左室造影では限局性に心筋が肥厚して発達し た肉柱の間に造影剤が入り込み,また心室中隔欠損症 は自然閉鎖していた.MMIでは左室後下壁に限局し て心筋の肥厚を認め,Gd−DTPAによる造影では後下 壁の肥厚部位において高信号の部分と低信号の部分と が不均一に混在している所見が明瞭となった.
以上より症例1・2ともに限局性に肥厚を認めた HCMと診断したが,現在いずれも自覚症状はなく経 過観察中である.本症例では心筋肥厚部位は狭い範囲 に限局はしているが,他の壁厚の正常な部位が組織学 的にも正常か否かは不明であり,また姉妹ともに心室 中隔欠損症および限局性心筋肥厚をほぼ同じ部位に認
めているため家族性の心筋症の可能性が高い.今後の 経過観察には十分な注意が必要と思われた.
2.膜性部中隔瘤を形成したにもかかわらず肺高血 圧症を合併した心室中隔欠損症の1学童例一その後の 経過一
群馬大学医学部小児科
小林 富男,小林 敏宏 金子 浩章,佐藤文有子 症例は16歳の男児で,本症例は第14回群馬小児循環 器研究会で報告した例であるが,その後の経過につい て報告する.現病歴では生後1カ月で心雑音を指摘さ れ,心室中隔欠損症の診断を受けたが,無症状で経過 し成長発達にも問題はなかった.15歳時に右室肥大を 認め心臓カテーテル検査を施行した.左室造影で膜生 部中隔瘤を形成した心室中隔欠損症を認め,左右短絡 率25%,肺体血流比1.33と短絡は少なく閉鎖過程にあ ると思われた.しかし,肺動脈圧65/40(55)mmHg,
肺体血管抵抗比40.6と肺高血圧症の合併を認めた.肺 高血圧症を合併した原因は不明で,α一blockerの投与 にて経過観察としたが,内服状況は不良であった.そ の後,16歳で右室肥大の進行を認め,再度心臓カテー テル検査を施行し,前回とほぼ同様の所見を得たが,
血管拡張剤(tolazoline, PGE、,酸素)に対する肺動脈 の反応性はほとんど消失していた.肺動脈造影で末梢 肺動脈の蛇行,分岐の減少,狭小化,肺毛細血管床の 減少など肺動脈の器質的変化を認めた.
肺高血圧症の原因として,左右短絡が少量にもかか わらず肺高血圧症が進行性であることから,心室中隔 欠損症による2次的な変化とは考え難く,原発性肺高 血圧症と診断してよいような肺動脈の異常を合併して いると思われた.PGI2誘導体の経口投与で経過観察中
である.
3.当院における経皮的バルーン拡大術症例の検討 済生会前橋病院小児科
井上 佳也,小野 真康 同 循環器外科 石原 茂樹,磯松 幸尚 柏木 潤一,宮城島正行
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平成4年3月から平成6年3月までの2年間に7例
に対し計9回の経皮的バルーン拡大術(以下PTA,PTAV)を施行したので報告する.
術後大動脈狭窄性病変群には大動脈縮窄症複合型術
後2例,大動脈弓離断症術後1例の計3例にPTAを 施行した.PTA施行後圧較差は50〜60mmHgから
25〜35mmHgに減少した.Blalock Taussig短絡術後狭窄群には修正大血管転 換症1例,左室性単心室1例,孤立性右室低形成1例
の3例にPTAを施行した.2症例は各々2回PTA
を施行することになったが,バルーンカテーテルを TYSHAKカテーテルに変更することにより,全例狭 窄は改善した.また1症例は血流分配の改善も認めら
れた.
経皮的大動脈弁形成術は1例経験した.診断は先天 性大動脈弁狭窄症,右室低形成,肺動脈閉鎖.日齢1,
BSAを施行.左室一大動脈圧較差は35mmHgであっ
た.心不全,呼吸不全が進行したため日齢5,PTAV を施行した.しかし,救命出来ず術中死亡した.4.小児開心術における無輸血手術の現況 済生会前橋病院循環器センター外科 磯松 幸尚,石原 茂樹 柏木 潤一,宮城島正行 同 小児科 井上 佳也,小野 真康 同 ME部 中西 秀雄,高橋 公徳 1988年8月以来,1994年3月までに当施設で行われ
た125例の小児開心術における42例の無輸血手術につ いて検討した.無輸血手術が可能であったのはASD,
VSD, TOFの3疾患群であった.他のVSD・PH,
TAPVC, IAA・CoA, TGA群では乳児期手術が大部 分のこともあり,無輸血手術はなかった.前期(1988 年8月〜1992年4月)と後期(1992年4月〜1994年3 月)を比較すると,ASD群では前期20例中8例(40%)
から後期20例中18例(90%)へ,VSD群では前期6例 中0例から後期14例中12例(86%)へ,TOF群では前 期6例中1例(17%)から後期4例中3例(75%)へ
と無輸血手術は増加していた.現在のところこれら3 疾患群については体重が10kg以上であれば原則とし て無輸血手術を行う方針である.今後体外循環回路充 填量のより低減化をはかり,無輸血手術の適応を拡大
して行きたいと考えている.
5.Mitral valve cleftを伴った二次孔心房中隔欠 損症の1治験例一trisomy 3pの1症例一
群馬大学医学部第二外科
日小循誌 10(3),1994 鈴木 政夫,石川 進,大滝 章男 坂田 一宏,市川 英昭,高橋 徹 森下 靖雄
二次孔心房中隔欠損症に僧帽弁裂隙を合併した trisomy 3p染色体異常の1手術例を経験した.
症例:4歳男児.生下時心雑音により心房中隔欠損 症及びtrisomy 3pと診断された.今回, ASD(secun−
dum type), MVPおよび大動脈弁輪拡大の診断を受 け,手術目的に当科入院.小頭小顎,両眼隔離,内眼 角ぜい皮および停留睾丸があり,精神運動発達遅延を 認めた.心電図は正常洞調律,電気軸は正常でIRBBB であった.LVGでSellors 2度のMRがあり, goose neck signはなかった.
手術および術後経過:20×5mmのASD(central
type)を通して僧帽弁前尖に15mmの裂隙を認めた.裂隙縫合を行いASDは直接縫合した.術後心雑音お よび胸部レ線上の心拡大は消失し,術後第21病日に退 院となった.
まとめ:二次孔心房中隔欠損症と僧帽弁裂隙の合併 は極めて稀でありtrisOlny 3pの合併心奇形として認 められた.僧帽弁裂隙縫合による弁形成と心房中隔欠 損直接縫合により治癒せしめた.
6.遠隔期に冠動脈拡大性病変が増大した川崎病症 例について
群馬県立小児医療センター循環器科 篠原 真,曽根 克彦,田端 裕之 小須田貴史,山田 思郎
川崎病における冠動脈拡大性病変の予後は,様々だ が,拡大性病変の多くは縮小傾向を示すといわれてい る.通常,拡大性病変が出現するのは川崎病急性期で あり,遠隔期には改善することはあっても増大するこ とはないと考えられていた.当院では開院以来,冠動 脈拡大性病変が経過中に増大した4症例を経験したの で報告した.
対象は当院にて冠動脈造影2回以上施行した川崎病 既往児91人のうち,2回目以降の造影にて拡大性病変 の増大が認められた4人(4.4%)である.
まとめ:4症例の川崎病発症年齢は11歳11カ月,2
歳6カ月,2歳9カ月,5カ月で経過観察期間は3年
9カ月から7年2カ月であった.病変冠動脈は右冠動 脈3例,左冠動脈1例である.症例1,2は病変部の 直前に狭窄性病変の出現を認め,病変部増大率は 22.6%,17.2%で,症例3では2回目の造影では一時 縮小した像が得られたが3回目の造影では初回と同程
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度に拡大していた.症例4は増大率が139.1%と最も大 きかった症例で造影剤が長い間血管壁に残っていた.
4症例より川崎病遠隔期に冠動脈拡大性病変が増大 する理由として,1)拡大性病変の直前に狭窄が生じ,
狭窄部位を通過した血流により血管が拡張せしめられ る.2)拡大部の直後での狭窄の進行,その他の原因に より血流の阻害が生じ,その前部での負荷が増大する.
3)血栓の形成と,その融解・剥離により拡大をみるな どが推測された.
これら4症例のように遠隔期に拡大性病変が増大す る例もあり,川崎病冠動脈拡大性病変の予後を判定す るうえで長期にわたっての注意深い経過観察が必要で あると思われた.
7.特別講演
川崎病の心血管障害について 静岡県こども病院循環器科医長
中野 博行
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