日本小児循環器学会雑誌 12巻3号 482〜484頁(1996年)
第20回群馬小児循環器研究会 時所長 日場会
平成8年2月14日群馬大学 刀城会館ホール 曽根 克彦
1.ファロー四徴症術後,心胸享阯ヒ(CTR)に影響 を及ぼす因子について
済生会前橋小児科
岡田 恭典,小野 真康 同 心臓外科
石原 茂樹,手塚 光洋,杉山 喜崇 盆子原幸宏,天野 英樹
目的:現在,多施設でファロー四徴症の心内修復手 術が施行され良好な成績をおさめている.しかし,術 後遠隔期において不整脈をはじめとする様々な問題が 生じ運動制限が必要な症例も存在する.その中で心胸 郭比(以下CTR)は本症の予後を決定する重要な因子 の一つである.そこで,我々は術前,術中および術後 の様々な因子とCTRとの関係について検討した.
対象および方法:対象は当院にて1990年9月から 1995年9月までの5年間心内修復術を施行したファ ロー四徴症患児21例で,手術施行年齢は1歳から6歳 で平均3.5歳,性別は男12例,女9例でそのうち5例は 先行短絡手術(B・Tshunt)が行なわれていた.全例に 術後遠隔期のCTRと手術施行時年齢,性別,大動脈遮 断時間,VSD型,残存PS(mmHg), RVp/LVp,右 脚ブロックの有無,術前PAI,術式の各因子との比較 検討を行なった.
結果:手術施行時年齢,性別,大動脈遮断時間,VSD
型はいずれもCTRとの間に相関は認められなかっ
た.また,術後しばしば問題とされる残存している肺 動脈狭窄や右室圧/左室圧比や右脚ブロックの有無も またCTRとの間に相関関係はなかった.しかし,術前PAIはCTRと負の相関関係を認め,特に術前PAIが 300以上の症例では全例CTRは55%以下と良好で
あった.更に術式において術前肺動脈弁輪径が大きく 自己の肺動脈弁を温存できた症例,すなわち右室流出 路のみの拡大を行なった例は右室肺動脈拡大で1弁付 きパッチを使用した例に比較して有意にCTRが小さかった.
別刷請求先:(〒377)群馬県勢多郡北橘村下箱田779 群馬県立小児医療センター 曽根 克彦
結語:術前のPAIの大きい症例ほど術後のCTR
は小さく経過は良好であるので,術前には十分にβ一プ ロッカーを使用したり,B−T shuntにて肺血流を増加 させて肺動脈の発育を計る必要がある.また,肺動脈 弁を温存した弁下部拡大術を選択し,なるべく弁付き パッチによる右室拡大術は避ける必要があると思われ
た.
2.胸腔鏡下に閉鎖した部分心膜欠損症の1例 群馬大学第2外科
山岸 敏治,吉田 一郎,石川 大滝 章男,高橋 徹,大木 坂田 修治,森下 靖雄 群馬県立小児医療センター循環器科 曽根 克彦,小林 富男,篠原 はじめに:
進 聡
真
部分心膜欠損は放置すると重篤な合併症 を生じることがあり,予防的閉鎖が必要とされている.
今回,左心耳のヘルニアを伴う部分心膜欠損症に対し,
胸腔鏡下で閉鎖術を行なったので報告する.
症例:症例は15歳の男性.平成7年6月,感冒で近 医を受診し胸部異常陰影を指摘された.同年7月,群 馬県立小児医療センターにおいて心臓カテーテル検査 が施行され,部分心膜欠損症と診断,手術目的で当科 へ紹介された.入院時,自覚症状はなく胸部の理学的 所見でも異常はなかった.胸部単純X線写真では左第
3弓の突出を認め,群馬県立小児医療センターで施行 された左房造影でも左心耳の胸腔内への突出を認め,
左心耳のヘルニアを伴う部分心膜欠損症と診断し手術 に踏切った.術中所見では径約3cmの心膜欠損を認 め,左心耳が胸腔内への突出していた.欠損孔の下縁 を引き上げると容易に左心耳を還納できたため,4−Oネ スピレンで胸腔鏡下に直接縫合した.術後経過は良好 で術後6日目に退院した.
考察:心膜欠損症は動脈管開存症,ファロー四徴症,
気管支嚢胞などに合併することがあり,手術の際に偶 然発見されることも多い.部分心膜欠損は心臓の一部 を絞拒することがあり,突然死した症例も報告されて いる.また,左心耳のヘルニアは,労作時の胸痛や失
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川/J\fl百、:と 12 (3), 1996
神,嵌頓による出血,収縮性心膜炎の原因となり得る ため,f 防的閉鎖が必要とされている.今Lnlの症例は 無症状ながら左心耳のヘルニアを認め,手術適応と考 えられたが,胸腔鏡を用いることで侵襲を少なくする ことができた.先天性心膜欠損を胸腔鏡下に閉鎖した 報告は我々の調べた範囲では過去になく,初めての報 告と思われた.
結語:胸腔鏡下に閉鎖した部分心膜欠損症の1例を 報告した.胸腔鏡下の閉鎖は侵襲が少なく,欠損孔が 小さい場合の予防的閉鎖に特に有用であると思われ
た.
3.当院における川崎病急性期のプロトコール治療 群馬県立小児医療センター循環器科 篠原 真,曽根 克彦,小林 富男 小須田貴史,岡田 恭典
はじめに:川崎病の治療はアスピリン,γ一グロブリ ンやステロイドなどが使用されているが,どの治療法 でも巨大冠動脈瘤の発生は迎えられていない.しかし,
個々の薬剤はそれぞれ,効果は期待できそうである.
そこで,当院においては川崎病の冠動脈拡大性病変の 程度を軽く抑えられないかと考え,1990年10月よりア スピリン,プレドニンの投与を中心に冠動脈後遺症の ハイリスク児にγ一グロブリンを投与する多剤併用療 法のプロトコールで治療を行なってきたので,その概 要について報告する.
対象:対象は1990年10Hから川崎病の診断で当院に 入院し,発症第9病日以内に治療を開始できた71例(男 40例,女31例)である.多剤併用療法のプロトコール を以ドに示す.
1)川崎病確定例全例にアスピリン,ジピリダモー ルに加え,プレドニン(2mg/kg/day)を投与する.プ レドニンは原則的には経[投与で1週ごとに漸減し3 週で中止する.
II)以下の基準を満たすハイリスク群にγ一グロブ リン(200mg/kg/day)を5日間併用した.1)1歳以
ドの症例.2)原田のスコアを満たす症例.3)断層心 エコー法にて,冠動脈病変が疑われた症例.4)プレド ニン投与開始より2日間経過しても解熱の見られない
症例.
III)多剤併用療法を開始しても発熱が続いたり炎症 所見の速やかな低下が認められない場合,プレドニン
は減量せず漸減を延期しγ一グロブリンも,もう1クー ル追加投与をした.また,低アルブミン血症(3.Omg/
dl以下)を呈した症例にはアルブミンの投与を行なっ
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た.さらに,蹄泣等による血圧の変動を抑える目的で 鎮静剤およびβ一プロッカーを投与し,水分過多になら ないように一般状態の管理を行なった.
結語:本プロトコール治療の結果,冠動脈拡大性病 変は11例(15.5%)に認めたが現在のところ,2度以 上の拡大は1例(1.4%)のみで3度の拡大は認めてい ない.また,γ一グロブリン投与例は71例中39例(54.9%)
のみであった.本プロトコール治療はγ一グロブリンの 投与例を減らし,冠動脈拡大性病変は重症度を軽く抑 えられていた.今後,症例を重ねて検討を続ける予定
である.
4.遠隔期に冠動脈瘤が巨大化した川崎病の1例 群馬県立小児医療センター循環器科 小林 富男,曽根 克彦,篠原 真 はじめに:川崎病後の冠動脈瘤に関する報告は多
く,その予後は概ね予想されるが,我々は明らかに異 なった経過をたどった巨大冠動脈瘤の1例を経験した ので報告する.
症例:症例は18歳の女性で,生後5カ月で川崎病に 罹患した.急1生期にはアスピリンによる治療を受け,
1年後の冠動脈造影で右冠動脈segment 1に6mmの 冠動脈瘤を認めた.7歳時の2回目の冠動脈造影では 右冠動脈瘤は15mmに拡大していた.断層心エコー法 にて冠動脈瘤が更に拡大していることが疑われたた め,今回,3同目の冠動脈造影の目的で人院した.現 在まで成長発育に問題なく,心筋虚血を思わせる症状 の訴えはなかった.血液生化学的検査や血液凝固能に 異常所見はなく,心電図も異常所見はなかった.断層 心エコー法,MRIで右房,右室を圧迫し薄い壁を有す る巨大な冠動脈瘤を認めた.内部の血流は弱く不規則 だが血栓はなかった.冠動脈造影では右冠動脈のseg−
ment 1〜2に相当する部位に86×67×54×mmの球形 をした巨大な冠動脈瘤を認めた.内部に緩徐な血流を 認め,末梢のsegment 3が淡く造影された.左冠動脈 は正常で明らかな側副血行路の形成はなかった.破裂 の危険性を考慮してバイパス手術を施行した.
結語:一般的に6mm程度の冠動脈瘤は内膜の細胞 線維性肥厚により退縮し,8mmを越える巨大冠動脈瘤 は抗凝固療法にもかかわらず血栓性閉塞する可能性が 高いと報告されている.本症例の如く持続的に拡大し,
巨大化しても閉塞しない例は極めてまれである.原因 として冠動脈の内皮細胞機能や結合組織,凝固能の異 常が推測されたが,検索した範囲では異常所見は認め
られなかった.現在切除した冠動脈瘤の病理組織検査
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の結果を待っているところである.
5.冠状動脈狭窄性病変の進行を認めた川崎病の3 例
群馬大学小児科
渡辺 正之,井上 佳也,小林 敏宏 はじめに:川崎病で生ずる冠状動脈病変が遠隔期に
どう変化するかは非常に重要な問題である.直径8mm 以下の拡大の場合,多くは改善することが多いといわ れているが,遠隔期の予後は不明である.今回,我々 は遠隔期に冠状動脈狭窄性病変の出現を認めた川崎病 の3例を経験したので報告する.
症例1:1歳時,川崎病を発症し,アスピリン及び ステロイドを6週間投与された.発症5年後,断層心 エコー検査にて冠状動脈瘤を指摘されたが放置してい た.発症7年後に冠状動脈造影を施行した.その時の 造影所見で左冠状動脈segment 6に4.5mmの動脈瘤 を認めたため,アスピリンの経口投与を開始した.そ の後,発症12年後に2回目の造影を施行した.その造 影では動脈瘤の中枢側に50%の狭窄性病変を認めた.
症例2:9カ月と1歳2カ月の時に川崎病を発症し た.断層心エコー法にて冠状動脈瘤を指摘されていた が,発症から2年後に冠状動脈造影を施行した.それ によるとsegment 6,7に最大6mmの動脈瘤を認め,
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その中枢側に50%の狭窄を認めた.さらに同部位に一 致する造影剤の停滞を認めている.また,segment 3,
4に最大径3mmの拡大性病変を認めた.その後,発症 9年後に2回目の冠動脈造影を施行した.それによる と左冠動脈segment 6の完全閉塞を認めた.
症例3:6カ月時,川崎病を発症し,断層心エコー 法にて左右の冠状動脈に冠動脈瘤を指摘されていたが 造影検査は施行されなかった.発症1年後の冠状動脈 造影ではsegment 1に最大径6mmの動脈瘤を認めた.
発症5年後の冠状動脈造影検査では冠状動脈瘤は縮小 していたが右冠状動脈segment 1のすぐ末梢側に25%
の狭窄性病変を認めた.
結語:冠状動脈拡大性病変の予後は不明である.今 回,我々は遠隔期に狭窄性病変へ進行した3症例を経 験した.冠状動脈瘤が血管の分岐部にあったり,選択 的冠状動脈造影での造影剤流失速度(いわゆるRun Off)の低下を認めるような症例は狭窄や閉塞を生ずる 可能性が高いと考えられ注意深い経過観察が重要と思
われた.
6.第20回記念特別講演
成人期に達した川崎病を振り返って
日本川崎病研究センター所長 川崎 富作
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