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博士(医学)大矢学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博 士 ( 医 学 ) 大 矢 学 位 論 文 題 名

HTLV‑I 感染ラットの病変脊髄における神経病理学的,

分子生物学的変化の経時的解析 学位論文内容の要旨

  ヒトT細胞自血病ウイルスI型(HTLV‑I)はヒトで最初の病原性レトロウイルスとし て分離同定された後,成人T細胞自血病をはじめとしてHTLV‑I関連脊髄症/熱帯性進 行性痙性麻痺(HAM/TSP),関節症,ぶどう膜炎,シェ―グレン症候群等種々の疾患 の病因ウイルスであることが明らかにされてきた.これらの疾患に関する研究は単にひ とつのウイルスに起因する疾患群を対象としたものに止まらず,より普遍的な疾患群に 共通する機序解明にっながる可能性も秘めており,特に本邦において盛んな研究が行わ れている.しかしこれらHTLV‑I関連疾患の発症機序については依然不明な部分が多い.

  著者らはヒトHTLV‑I関連疾患の病因と効果的な治療法の解明に用い得る疾患モデル 動物の開発を目的として,近交系ラットを用いたHTLV‑I感染症モデル系の作製を試み てきた 結果,WKAHラット にHTLV‑I感染細胞 を接種する ことにより ,ヒトHAM/TSP 様の慢性進行性脊髄症を発症するラットモデル(HAMラット病)の樹立に成功した.

HAMラットでは,(1)両後肢の痙性対麻痺,高度筋萎縮,尿失禁の出現,(2)胸髄を中心 とした前側索周辺帯における左右対称性の白質変性,髄鞘の破壊と再生を伴う脱髄変性 および空胞変性,(3)病変部位に一致したアポトーシス細胞の出現,(4)髄鞘断片を貪 食したマクロファ―ジの高度な浸潤,およびァストロサイトの増生(アストログリオ―

シス)が観察されている.更に分子生物学的解析から,(1)全身諸臓器へのウイルス感 染,(2)HTLV‑I pX mRNAの限定された臓器(神経系では病変を発症する脊髄や坐骨神 経のみ )での発現,(3)脊髄でのTNF‑aのmRNA発現及び髄液中のTNF‑aの存在が示さ れ ,HAMラ ッ ト病 に お ける 脱 髄病 変 発症 とHTLV‑| プ ロウ イ ルスDNAのmRNA発現 及びTNF‑aの存在との関連性が示唆されている.

  この様にHAMラットの病変脊髄における神経病理学的および分子生物学的変化は次 第に明らかになりつっあるが,病変の主体である脱髄に対するこれらの諸変化の位置づ けは明らかでない.すなわちこれらの変化が脱髄の原因として関与するのか,あるいは 結果としてむしろ生体防御反応の一部として生ずるのかは不明である.そこで本研究で はHAMラット病に認められるこれら諸変化のうち,神経病理学的変化としてアポト―

シス細胞の出現,マクロファ―ジ浸潤およびアストロサイトの増生,分子生物学的変化 として 病変脊髄に おけるHTLV‑I pXプ ロウイルスDNAの出現 ,およびHTLV‑I pXと TNF‑aのmRNA発 現 に 各 々 着 目 し , こ れ ら 諸 変 化 の 発現 を 経 時的 に 解析 し た.

材料 及 び方 法

1. 動 物: 近 交系WKAH/Hkmラ ット ( 雄性 ) を用 い た.

2. 細 胞 株 :HTLV‑I産 生 不 死 化 ヒ トT細 胞 株 で あ るMT‑2細 胞 を 用 い た . 3.HAMラ ッ ト病 の 誘発 : 生後24時 間 以内 の 新生 仔WKAHラット の腹腔内にlx107

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    個のMT‑2細胞 を接 種し ,抗体 陰性 のHTLV‑|感 染ラ ットを 作製 した ,感 染後 経時     的 に 生 食 液 で 全 身 潅 流 を 行 った ラッ トか ら,DNA.RNA抽 出用 およ び病 理学 的解     析 用に 各臓 器を 分取 した .

4.免 疫組 織化 学:4〜 25月 齢の 感染 ラッ ト( 計25頭) ,およ び対 応す る月 齢の 正常     対 照ラ ット (計12頭 )の 脊髄胸索のパラフィン切片を作成し,(1)ED‑1抗体(マ     ク ロフ ァー ジ及 び活 性化 ミク ログ リア ),(2)抗GFAP(Grial fibrillary acidic     protein) 抗 体 ( ア ス ト ロ サ イ ト ) ,(3)抗MOG(Myelin oligodendrocyte     glycoprotein)抗体(オリゴデンドロサイト)による免疫染色を施した.またアポ     トー シス 細胞 の検 出に はTUNEL法 を用 いた .各 染色 に対す る陽 性細 胞数 の定 量的     解 析に は, 各ラ ット 胸髄 から少なくとも3切片の染色標本を作成し,標本の全領域     中に存在する陽性細胞数を計測して平均値を算出した,更にアポトーシス細胞の同     定 のた めに ,成 熟(9〜12箇月 齢,5頭 )お よび 老齢 (21‑‑ 26箇月齢,4頭)の感     染ラ ット 胸髄 から 切片 を作製 し, 異な る発 色基 質を 用い た免 疫染 色及 びTUNEL法     の 二重 染色 を行 った .

5.HTLV‑Iブ ロ ウ イ ル ス ゲ ノ ムの 検 出 : 病 理 組 織 学 的 解 析 に 用い たの と同 一個 体の     HTLVーI感 染ラ ット から 採取 した 脊髄 組織 からDNAを 単離 後,HTLV‑I‑pX領域 のブ     ラ イ マ ― を 用 い たPCR法 に よ ル プ ロ ウ イ ル ス ゲ ノ ム を 検 出 し た , 6.HTLV‑I pXお よ びTNF‑a mRNAの 検 出 :HTLV‑I感 染 ラ ッ ト 脊 髄 か ら 総RNAを 抽     出 し た 後 ,RT‑PCR法 に よ りHTLV‑|pX及 びTNF‑aのmRNAを 検 出 し た ,

結果及び考察

1.HTLV‑I感 染ラ ットの 脊髄 にお ける 神経 病理 学的 変化 の経 時的 解析 から ,アポ トー     シ ス 細 胞 の 出 現 ( 感染7箇 月 後 ) が , 脱 髄 性 変 化( 感 染12箇月 後) やED‑1陽性     細 胞 ( 浸 潤 マ ク ロ ファ ― ジ /活 性化 ミク ログ リア )の 著明 な増 加( 感染15箇月     後) ,ア スト ロサ イト の活 性化 (感 染20箇月後 )に 先行して起こることを明らか     にした.

2.HAMラ ッ ト 病 脊 髄 に 認め ら れ るア ポト ーシ ス細 胞は ,成 熟(9‑‑ 12箇 月齢) ラッ     トで はほ とん どが オリ ゴデ ンド ロサ イト であっ たの に対して,老齢(21〜26箇月     齢 ) ラ ッ ト で は60%が オ リ ゴデ ンド ロサ イト ,30%がED‑1陽性 細胞 であっ た.

3. 分 子 生 物 学 的 解 析 か ら ,HTLV‑| ウ イ ル ス の 病 変 脊 髄 へ の感 染( 感染4箇月 後以     前 ) , お よ びHTLV‑I pXな ら びTNF‑aのmRNA発 現 ( 感 染7箇月 後 ) が , す べ て     の病理学的変化に先行することが示された.

4. 以 上 の 結 果 か らHAMラ ッ ト 脊 髄 に お い て は ,HTLV‑I pX発 現 に 伴 うTNF‑a等 の 傷     害性 因子 の産 生を 介し た間 接的 な, ある いはHTLV‑I感染による直接的な機序によ     ルオリゴデンドロサイトのアボト―シスがfirst eventとして生じ,これに続いて脱     髄性変化が開始され、更に著明なマクロファージの浸潤やアストロサイトの活性化、

    お よ び 後 肢 麻 痺 等 の 臨 床 症 状 へ と 進 展 す る ― 連 の 機 構 が 推 察 さ れ た . 結語

  HTLV‑I感染に よる 神経 病変 の発 症機 構に 関す る知 見は,従来からの神経病理学的解 析に加えて近年の分子生物学的解析により飛躍的に増加したものの,未だ不明な点も多 く,今後の基礎的,臨床的研究の成果が待たれる.基礎的研究の材料としてわれわれが 樹 立 したHAMラ ッ ト 病 モ デ ル は , ヒトHAM/TSPの モ デ ル とし てば かり でな く,HIV‑I 感染による空胞性脊髄症や多発性硬化症等の発症機構を解析するうえで貴重なモデルに なるものと考えられる.

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学位論文審査の要旨

主 査   教 授   吉 木   

副査    教授    田代邦雄 副査    教授    長嶋和郎

学 位 論 文 題 名

HTLV‑I 感染ラットの病変脊髄における神経病理学的,

     分子生物学的変化の経時的解析

  ヒ トT細 胞 白 血 病 ウ イ ル ス | 型(HTLV‑I)は ヒ ト で 最 初 の 病 原 性 レ ト ロ ウ イ ル ス と し て 分 離 同 定 さ れ た 後 , 成 人T細 胞 白 血 病 を は じ め と し てHTLV‑I関 連 脊 髄 症 / 熱 帯 性 進 行 性 痙 性 麻 痺(HAM/TSP), 関 節 症 , ぶ ど う 膜 炎 等 種 々 の 疾 患 の 病 因 ウ イ ル ス で あ る こ と が 明 ら か に さ れ が , こ れ ら 疾 患 の 発 症 機 序 に つ い て は 依 然 不 明 な 部 分 が 多 い . 申 請 者 ら は ヒ トHTLV‑I関 連 疾 患 の 病 因 と 効 果 的 な 治 療 法 の 解 明 に 向 け , ヒ トHAM/TSP 様 の 慢 性 脊 髄 症 を 発 症 す る モ デ ル ラ ッ ト(HAMラ ッ ト 病 ) を 樹 立 , 解 析 し て き た , こ れ ま で にHAMラ ッ ト の 病 態 と し て , (1) 両 後 肢 の 痙 性 対 麻 痺 , 筋 萎 縮 , 尿 失 禁 等 の 臨 床 症 状 発 症 ,(2)胸 髄 前 側 索 周 辺 帯 に お け る 左 右 対 称 性 の 白 質 脱髄 変 性 ,(3)病変 部 位 に 一 致 し た オ リ ゴ デ ン ド ロ サ イ ト の ア ポ ト ー シ ス 死 , マ ク ロ フ ァ ー ジ の 浸 潤 , 及 び ア ス ト ロ グ リ オ ー シ ス を 明 ら か に し て き た .ま た 分 子生 物 学 的 解析 か ら ,(1) 全身 諸 臓 器 へ の ウ イ ル ス 感 染 ,(2)HTLV‑I pX mRNAの 限 定 さ れ た 臓 器 ( 神 経 系 で は 脊 髄 や 坐 骨 神 経 の み ) で の 発 現 ,(3)脊 髄 で のTNF‑amRNA発 現 及 び 髄 液 中 のTNF‑aの 産 生 を 証 明 し て き た , こ れ ら の 結 果 か ら ,HAMラ ッ ト 病 に お け る 脱 髄 病 変 発 症 に はHTLVlpX mRNA発 現 及 び TNF‑aの 産 生 が 密 に 関 連 す る こ と が 示 さ れ た . そ こ で 本 研 究 で は HAMラ ッ ト 病 に 認 め ら れ る こ れ ら 諸 変 化 の 関 連 性 を 明 ら か に す る 目 的 で , 各 々 の 発 現 を 経 時 的 に 解 析 し た , 研 究 に 用 い たHAMラ ッ ト は 既 報 に 従 い , 生 後24時 間 以 内 の 新 生 仔 WKAHラ ッ ト の 腹 腔 内 に1x10 個 の MT‑2細 胞(HTLV‑I産 生 不 死 化 ヒ ト T細 胞 株 ) を 接 種 し て 作 成 し た ,4 ‑‑26月 齢 の 感 染 ラ ッ ト 及 び 対 応 月 齢 の 無 処 置 対 照 ラ ッ ト か ら 経 時 的 に 胸 髄 パ ラ フ ィ ン 切 片 を 作 成 し ,ED‑1抗 体 ( マ ク ロ フ ァ ー ジ 及 び 活 性 化 ミ ク ログ リ ア ), 抗GFAP  (Grial fibrillary acidic protein)抗体 ( アスト ロサイト ),抗 MOG (Myelin oligodendrocyte glycoprotein)抗 体 ( オ リ ゴ デ ン ド ロ サ イ ト ) に よ る 免 疫 染 色 , 及 びTUNEL法 に よ る ア ボ ト ー シ ス 細 胞 の 検 出 を 行 い , 陽 性 細 胞 数 を 計 測 し た . 更 に ア ボ ト ー シ ス 細 胞 の 同 定 の た め に , 各 月 齢 の 感 染 ラ ッ ト 胸 髄 切 片 に 免 疫 染 色 及 び TUNEL法 の 二 重 染 色 を 施 し た . 一 方 病 理 組 織 学 的 解 析 と 同 一 個 体 の 感 染 ラ ッ ト 脊 髄 組 織 か ら 抽 出 し たDNA及 び RNAを 用 い て ,HTLV‑Iプ ロ ウ イ ル ス ゲ ノ ム (pX領 域 ) の

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検 出 (PCR法 ) 及 びHTLV‑I pX,TNF‑a mRNAの 検 出 (RT‑PCR法 ) を 行 っ た ,   HTLV‑I感染ラット脊髄における神経病理学的変化として,アボト―シス細胞の出現

( 感染7箇 月後)が,脱髄性変化(感染12箇月後)やED‑1陽性細胞(浸潤マクロフ アージ/活性化ミクログリア)の著明な増加・(感染15箇月後),アストロサイトの活 性化(感染20箇月後)に先行することを明らかにした.これらのアポト―シス細胞は,

成熟(9〜12箇月齢)ラットではほとんどがオリゴデンドロサイ卜であったのに対し て,老齢(21〜26箇月齢)ラットでは60%がオリゴデンドロサイト,30%がED−1陽 性細胞であった.更に感染ラット脊髄の分子生物学的解析から,HTLV‑Iウイルスの病 変 脊 髄へ の 感染 ( 感染4箇 月後 以 前) , 及びHTLV‑I pXな ら びTNF‑aのmRNA発 現

(感染7箇月後)が,すべての病理学的変化に先行することが示された.以上の結果 か らHAMラッ 卜脊髄においては,HTLV‑I pX発現に伴うTNF‑a等の傷害性因子の産生 を介した間接的な,あるいはHTLV‑I感染による直接的な機序によルオリゴデンドロサ イトのアボト―シスが初期病変として生じ,これに続いて脱髄性変化が開始され、更 に著明なマクロファ―ジの浸潤やアストロサイトの活性化、および後肢麻痺等の臨床 症状へと進展する一連の機構が推察された.

  申請者の学位論文内容の発表後,副査の田代邦雄教授から,脱髄が胸髄に生ずる理 由,後肢麻痺の性質(痙性か弛緩性か),axon破壊の有無についての質問があった.

  次いで副査の長嶋和郎教授から,伝導路と病変部位との関係,脳でのTNF‑aの発現,

各 臓器でのpX以 外のmRNAの発現, アボトーシ スとcaspaseの 関連性,オ リゴデン ド ロ サ イ ト の 同 定 に 用 い た 抗 体 の 選 択 理 由 に つ い て の 質 問 が あ っ た .   最後に主査から,ヒトHAMモデルとしての妥当性,pX‑トランスジェニックマウス に関する最新情報,今後の検討項目(感染経路,caspaseとの関連,ヒト疾患治療へ の応用)についてのコメントがなされた.

  申請者はいずれの質問にも過去の文献や実験結果等を引用しつつ適切に回答した,

  HAMラット病 モデルは, ヒトHAM/TSPの モデルとし てばかりで なく,HIV‑I感染 による空胞性脊髄症や多発性硬化症等の発症機構を解析するうえで貴重なモデルにな るものと考えられる.

  審査員―同は,これらの成果を高く評価し,申請者が博士(医学)の学位を受ける のに充分な資格を有するものと判定した,

参照

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