博士(農学)松村 学位論文題名
イネ 萎縮ウ イルス ゲノム の cDNA クローニングと ゲノムセグメント10 の構造解析
学位論文内容の要旨
健
植 物 ウ イル ス の 多 く は 一本 鎖 のRNAを ゲ ノ ム に持 っ こ と が 知 られ て お り , これ ら の ウ イ ル スに関 しては ,その ゲノム 構造 の解析 が進め られて いる 。しか し,本 研究で 用いたイネ委縮ウイ ル ス(RDV)は ニ ニ 本 鎖 のRNAを ゲ ノ ム に 持 っ ウ イ ル ス で , そ れ ら の ウ イ ル ス ゲ ノ ムのcDNA クロ ー ニ ン グ およ び 構 造 解 析に 関 す る 研 究は 行 わ れ て い なか っ た 。 そ こで 本 研 究 で はRDVゲ ノム のcDNAク 口 一 二 ング を 行 っ て ,初 め て そ の 一 分節 ゲ ノ ム10番 の 塩基 配列を 決定 し,そ の 構 造 を 明 ら か に し , 他 の 植物 レ オ ウ イ ルス , ク 口 一 バ― のwound tumor virus (WTV) のゲ ノム 構 造 と 比 較・ 検 討 し た 最初 の 研 究 で ある 。 さ ら にin vitroで 分 節 ゲノ ム10番RNAを 合 成 し, 発 現 さ せ る系 を 確 立 するこ とによ り,ゲ ノ厶構 造か ら推測 される 機能を 初め てin vitroで 実証し た研究 である 。
1) RDVの 転 写 活 性 と ゲ ノ ム 転 写 産 物 のcDNA合 成 :RDV自 体 が 持 っ て い るRNA転 写 酵 素 は 純 化RDV標 品100ロgか ら 約150〃gの 転 写 産 物を 得 た 。 本 純化 標 品 は 凍 結 保存 に よ り 本酵素 活性は 極端に 滅少し た。 本ゲノ厶転写産物はアクリルアミドー尿素電気泳動を行った結果,
一 本 鎖RNAに 変 性 し た ゲ ノ 厶RNAと 対 応 す る 位 置 に バ ン ド が 認 め ら れ , 全 分 節 ゲ ノ ム に相 当 す る 転 写 産 物 が 得 ら れ た。 本 ゲ ノ ム 転写 産 物 を 鋳 型と し て ,cDNAク 口 ー ニン グ 法 と し て Okayama and Berg法 とGubler and Hoffman法 で 合 成 し たcDNAを 用 い て 大 腸 菌HB101 株を 形 質 転 換 され た 結 果 , 後者 の 方 法 で より 容 易 にcDNAク ロ ー ンが 得 られる ことが 明らか に なった 。
2) RDVの 分 節 ゲ ノ ム10番 のcDNAク ロ ー ン の 構 造 解 析 :Gubler and Hoffman法 で 得 ら れ たRDVのcDNAク 口 ー ン の 中 か ら 分 節 ゲ ノ ム10番 のcDNA断 片 を 選 抜 し , そ の 完 全 な 長 さ のcDNAで 全 塩 基 配 列 を 決 定 し た 。 本 ゲ ノ ム10番 は5 末 端 配 列 は5 NGUAAACUUG・ で あ り ,3 末 端 の そ れ は―GGAUUCUGAU3 で あ るこ と が 明 ら かと な り , 全 体で は ,1,321 塩基 対より なり ,5 末端 から27番 目の開 始コ ドンか ら1,086番目の 終始コ ドンま での ーっの 大
←394
きな翻訳領域を持っており,分子量約39kの翻訳産物をコードしていると推測され,従って,本 産物は非構造 蛋白質であろうと考えられた 。RDVに類似のウイルス,WTVの分節ゲノム10番 の塩基配列と 対応するRDVのそれを比較す ると約58%と高い相同性が認められ,両ウイルス のゲノム10番の5 および3 末端の4塩基対がそれぞれ全く同一配列であることを明らかにし た。また,RDVの分節ゲノ厶10番の保存された両末端配列の近傍に逆向き相同配列が存在する ことを明らか にした。また,RDV,WTV両ウ イルスのゲノム10番の翻訳 領域の塩基配列を比 較した結果, その長さにおいて,18塩基対,アミノ酸数にして6個,WTVの方が短く,翻訳産 物のアミノ酸の相同性も61%と高いものであった。
3)RDVの 分節 ゲ ノム10番RNAの試験官内 合成:これまでの推測を実証 するために,f凡 ULtroでGubler and Hoffman法 で 得 ら れ たcDNAク 口一 ンと 合 成DNAプラ イ マー を用 い て , 完 全 な 長 さ の ゲノ ム10番 のcDNA鎖 を合 成 し, このcDNA鎖 をT7RTAプ 口 モー タの 転 写 開始 部位 に挿 入 して クロ ーン を作 成 した 。こ のク ローンのcDNAをT7RNAポリメラ―ゼ と 反応 させ て, 完 全な 長さ の分節ゲノ厶10番RNAをin vitroで転写させ た。このRNAをウ サギ網状赤血球溶血液を用いて翻訳させた結果,塩基配列から推測された分子量と同じ約39kの 翻訳産物の合成が認められた。このことから,塩基配列から推測された翻訳領域が実際に機能し ており,その分子量から分節ゲノ厶10番は非構造蛋白質をコードしていることを明らかにした。
さらに,分節 ゲノム10番のcDNAを大腸菌での発現ベクターに挿入することにより,プ口テイ ンAとの融合蛋白質として大腸菌内で大量に発現して,その分子量から分節ゲノム10番の翻訳領 域は大腸菌でも同様に機能することを実証した。
以上のように 本研究はRDVゲノムのcDNAク 口ーニングを行って,分節 ゲノム10番の遺伝 子構造を明らかにし,その塩基配列から推測される機能を実証したものである。特に,fn vLtro でRDVの完全な 長さの分節ゲノムを転写合 成し,翻訳発現させることに成功した。本研究で 開 発 し た ゲ ノ ムRNAの 転 写 系 は 他 の 分 節 ゲ ノ ム に も 容 易 に 応 用 で きる も ので ある 。
395
学位論文審査の要旨
主査 教授 木村郁夫 副査 教授 生越 明 副査 教授.喜久田嘉郎 副査 助教授 上田一郎
本論文は156頁の和文論文で,表2,図52,引用文献104を含み,7章で構成されている。別に 参考論文10編が添えられている。
本 研 究 は 二 本 鎖RNAを ゲ ノ ム に 持 っイ ネ 萎縮 ウイ ルス(RDV)ゲ ノム のcDNAク口 一二 ングを行って,その一分節である分節ゲノム10番の全塩基配列を決定して構造を解明し,他の植 物のレオウイルスで類 似のク口一バのwound tumor vlrus (WTV)ゲノム構造と比 較・検討 した 最初 の 研究 であ る。さら にin vitroでRDV分節ゲノム10番のRNAを合成し,ウサギ の 網状赤血球溶血液を用いて翻訳させ,その発現系を確立したことにより,ゲノム構造から推測さ れる機能をin witroで初めて実証した研究である。
1)RDV転 写 活 性 と ゲ ノ ム 転 写 産 物 のcDNA合 成 :RDV自 体 が 持 つRNA転 写 酵 素 は 純 化RDV標品100肛gから約150ルgの転写産物を得た。 本純化標品は凍結保存により 本酵素活 性が極端に減少した。 ゲノムの転写産物を鋳型とし て,cDNAクロ一二ング法としてOkaya‑
ma and Berg法 とGubler and Hoffman法 で 合成 したcDNAを用 い て, 大腸 菌HB101を形 質転換させた結果,後者の方がより容易にcDNAクローニングが得られることが明らかになっ た。
2) RDVの 分節 ゲノ ム10番のcDNAク 口一 ンの 構造 解 析:Gubler and Hoffman法で得 ら れ たRDVのcDNAクロ ーン の中 から 分 節ゲ ノム10番 のcDNA断片 を選 抜し , その 完全 な長 さのcDNAで 全塩 基配 列を 決定 し た。 本ゲ ノム10番は5 末端配列NGUAAACUUG−であり , 3 末端 のそ れは ―GGAUUCUGAU3 であることが明らかと なり,全体では1,321塩基対 よ りなり,5 末端より27番目の開始コドンより1,086番目の終始コドンまでのーっの大きな翻訳 領域を持っており,分子量約39kの翻訳産物をコードとしていると推測され,従って,本産物は 非構造蛋白質であろう と考えられた。RDVとWTVの分 節ゲノ厶10番の塩基配列は58%の高い 相同性が認められ,両ウイルスの分節ゲノム10番の5 および3 末端の4塩基対がそれぞれ全 く同一配列であること を明らかにした。またRDV分節ゲノム10番において,この保存された
396
両末端配列の近傍に逆向き相同配列が存在することを明らかにした。他方,両ウイルスのゲノム 10番の翻訳領域の塩基配列を比較した結果,その長さにおいて,18塩基対,アミノ酸数にして6 個 ,WTVの 方 が 短 く , 翻 訳 産 物 の ア ミ ノ 酸 の 相 同 性 も61% と 高 い も の で あ っ た 。 3)RDVの 分 節 ゲ ノ ム10番RNAの 試験 官内 合 成:in vitroでGubler and Hoffman法 で 得ら れたcDNAク 口一 ンと 合 成DNAプラ イ マー を用 いて 完 全な長さ の分節ゲノム10番cDNA 鎖を 合成 し ,こ のcDNA鎖 をT7RNAプ口 モ 一夕 の転 写開 始 部位に挿 入してクローンを作成 した 。こ の クロ ーン のcDNAをT7RNAポ リ メラ ーゼ と反 応 させて, 完全な長さの分節ゲノ ム10番RNAをin vitroで 転写 させ た。 このRNAをウサギ網状赤血球 溶血液を用いた翻訳さ けた結果,塩基配列から推測された分子量と同じ約39kの翻訳産物の合成が認められた。このこ とから,塩基配列から推測された翻訳領域が実際に機能しており,その分子量から分節ゲノム10 番は非構造蛋白質を コードしていることが明らかにされた。さらに,分節ゲノム10番のcDNA を大腸菌での発現ベク夕一に挿入することにより,プ口テインAとの融合蛋白質として大腸菌内 で大量に発現して,この分子量から分節ゲノム10番の翻訳領域は大腸菌でも同様に機能すること を確認した。
以 上の よ うに本研究はRDVゲノムのcDNAクローニングを行って, 分節ゲノム10番の遺伝 子構造を明らかにし,その塩基配列から推測される機能を確認したものであり,特に,in vLtro でRDVの完全な長さの 分節ゲノムを転写合成し, さらに翻訳発現させることに成功した。本 研究で用いたゲノムRNAの転写系は他の分節ゲノ ムでも容易に応用できる。これらの研究は 二本鎖RNAウイルスの 複製過程,すなわち,転写 および翻訳機構の分子レベルでの解明に,
重要な基礎的知見を与えるもので,ウイルス学上寄与するところ極めて大であり,その成果は高 く評価されている。
よって審査員一同は,別に行った学力認定試験の結果と合わせて,本論文の提出者松村健は博 士(農学)の学位を受けるのに十分な資格があるものと認定した。
397 ‑