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博士(法学)南 健悟 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(法学)南   健悟 学位論文題名

企業不祥事と取締役の民事責任

―法令遵守体制構築義務を中心に一

学位論文内容の要旨

  本 論 文は 、´ 企 業不 祥事 に おけ る取 締 役の民事責任につい て、取締役の法令 遵守体制構築義務 (内部統制シス テム 構 築義 務) 違 反の 損害 賠 償責 任を 中 心に検討したもので ある。取締役の法 令遵守体制構築義 務は、大和銀行 ニ ュ ー ヨ ー ク 支 店 株 主 代 表 訴 訟 判 決 ( 大 阪 地 判 平 成12920日 判 時17213頁) 等 を契 機と し て一 気に 議 論が 高 まっ た。 他 方、 学説 に おい ても 、 詳細な検討が行われ てきた。しかしな がら、従業員等に よる違法・不正 な行 為 を防 止す る ため の法 令 遵守 体制 と 経営判断原則との関 係について、学説 において少なくと も最低限の水準 の体制を構築す べきであって、経営判断原貝IJの適用はそれ以上の水準に.ヽついて認められるとする見解が提唱され てい る もの の、 そ の「 最低 限 の水 準」 は 何をもって定まるの かということは不 明確なままであっ た。他方、判例 にお い ても 取締 役 の法 令遵 守 体制 構築 義 務違反が認められた 事案は少なく、ど のような場合であ れば責任が問わ れるのか未だ不 明確な状態が続い ており.ヽ裁判所に よる後知恵のりス クが存在している 。そこで、本論文は 法令 遵守 体 制の 水準 と 経営 判断 原 則の 適用 に ついて、そもそも「 法令遵守体制の水 準は経営判断原則 が適用される」

という命題その ものの検討から始 め、.法令遵守体制 構築と経営判断原 則との関係、そし て、近時、ダスキジ 株主 代 表 訴 訟 控 訴 審 判 決 ( 大 阪 高 判 平 成1869日判 時1979号115頁) で重 要 視さ れた 不 正行 為に 対 して 取締 役 がい か なる 対処 を なす べき か 、と いう も うーつの監督義務に ついて、日本法と 類似の問題があり 、法令遵守体制 構築義務が詳細 に検討されている アメリカ法をその素 材として検討を行 った。

  ア メ リカ 法に お いて 、当 初 、Delaware州最高裁判所は取締 役の法令遵守体制 構築義務について 消極的な立場を とっ て いた 。し か しな がら 、 会計 監査 論 の分野で展開してき た内部統制システ ムの議論や、アメ リカにおける取 締役会機能・・ の変容、各種連邦 法の制定や組織に対 する制裁ガイドラインの策定によるインセンテイプの付与等に より、1996年、Caremark事件判決 ,(698A.2d959,Dcl.Ch.1996)によって、明確に取締役の義務として承認され るこ と とな った 。 しか し、 そ のCa―a永 事件 判 決に おい て 、取 締役 の 法令 遵守 体 制構 築義 務 違反 が認 め られる 場合 と は「 継続 的 又は 組織 的 な… 監督 の 懈怠 」の 場 合で ある と され 、そ の よう な場 合には「誠 実性の欠如」が 認められ、責任 が認定きれるとぎ れたのである;

  こ こ にい う「 誠 実性 の欠 如 」は 、ア メ リカ におkIて2000年 以 降に おけ る 企業 不祥 事の続発等 によって新たな 展開 を 迎え 、取 締 役の 誠実 義 務論 のー 端 を担うこととなった 。取締役の誠実性 ・誠実義務は従来 から経営判断原 則の 適 用が なさ れ る場 面で 言 及さ れた り 、忠実義務の下位要 素として表現され たり、また、取締 役の故意の違法 行為 の 場面 で言 及 され るこ と の多 かっ た が、Smitllv.VanGorkom事件判決(488A.2d858,De11985)とDGCL§ 102M項(7)の 制定 に よっ て、 よ り意 識さ れ るこ とと な った 。そして、企業 不祥事の続発等に より、重要な義 務として捉えら れ、学説及び判例 法上、その概念にっ いて議論がなされ ることとなった。 モの結果、Disnり. 事件 判決(906A.2d27,De12006)及びStonev.,恥t町事件判決(911A.2d362,Del.2006)という流れの中で、取締役 の法令遵守体制 構築義務違反は誠 実義務違反を構成し 、ひいては忠実義務違反とな,ると論じられることになった。

この.流れは、 従来、取締役と会 社との間で利害関係 が衝突する場面で 問題となる忠実義 務が、それ以外の場 面に おい て も拡 大す る とい う奇 妙 な理 論的 帰 結をもたらしている が、これは企業不 祥事の続発による 取締役に対する 不信感、それら の不祥事に伴う連 邦立法による州法・ 州裁判所に対する 実質的な介入の結 果であると考えられ る。

その 意 味で 、法 令 遵守 体制 構 築義 務を 誠 実義務へと位置づけ ることによって、 その義務の重要性 を指摘できる。

  し か し、 義務 違 反が 認め ら れる 責任 基 準「継続的又は組織 的な・‥監督の懈 怠」を強調すると 、その義務違反 の認定がかなり 困難であると思わ れる。そこで、実際 にこの責任基準が どのように機能し ているかという.こ とに つい て 考察 を行 っ た。Caremark事 件判 決 以降 の判 例 を概 観す る と、 実際 に 取締 役会 が不正行為 を知り、又は取 締役 会 すら 全く 開 催さ れて い ない 事案 に ついてのみ責任が認 められているとい うことが明らかに なった。また、

Cむcmark事 件判 決 を担 当し たA11en判事 も、 取 締役 の法 令 遵守 体制構築義務違 反はほとんど認め られないという こと を 取締 役就 任 への 萎縮 効 果を 根拠 に 容認し、道徳的義務 として捉えている ということが明ら かになった。そ し て 、 そ の 根 拠 を 子 細 に 検 討 す る と 、 経 営 判 断 原 則 を 支 え る 根 拠 と 類 似 し て い る こ と も 分 か っ た 。   以 上 のよ うに 、 取締 役の 法 令遵 守体 制 構築義務は実質的な 義務として捉えら れているのではな く、道徳的義務 とし て 最低 限、 法 令遵 守体 制 を構 築す べ きであるとされてい ても、その機能は かなり限定的であ るということが 明確 に なっ たが 、 その ー方 で 、法 令遵 守 体制等監督体制によ って得られた情報 により取締役会が 不正・違法行為 に気 付 いた 場合 に は、 アメ ル カ法 にお い て何 らか の 是正 措置 等 を行 わな け れぱ らな いというRedFalgs対処義務 が認められてい ることについて検 討を行った。そして 、最終的゛に、ア メリカ法において は取締役の法令遵守 体制

(2)

構 築 義務以 上に、Red Falgs対処義 務の 方が企 業不祥 事に対 する 取締役 の民事 責任に おいて 、実 質的な 機能を 有 し ている こと を明ら かにし た。

  以 上、 アメリ カ法に おける 議論 を参考 にし、 日本法 への示 唆を 次のよ うに得 た。取 締役 の法令遵守体制にっい て 経営判 断原 則が適 用され るとい う命題 自体 、アメ リカ法 ではほ とん ど議論 がなく 、そも そも監督義務の一種と し て捉え られ ている その義 務にっ いて経 営判 断原則 の適用 がない とさ れてい た。し かし、 体制の水準にっいては 経 営判断 原則 が支え る根拠 から実 質にお いて 内容審 査を行 ってお らず 、日本 法にお いても 裁判所は当該体制の内 容 審査に つい て謙抑 的態度 を取る べきで ある し、従 来の裁 判例を 検討 すると そのよ うな傾 向がある。しかし、前 述 のダス キン 株主代 表訴訟 判決の ように 不正 行為について気付いた取締役会はそれに対して何らかの対処を.しな け ればな らな いので あって 、裁判 所はそ のよ うな不 正行為 に対し てど のよう な対処 をなし たのかということにっ い て詳細 に検 討した 上で取 締役の 責任を 認め るべき である 。

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(3)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

企業不祥事と取締役の民事責任

―法令遵守体制構築義務を中心にー

  

本論文は、取締役の監視監督義務の問題、とりわけ内部統制システム構築義務ないし法 令遵守体制構築義務の理論的検討として、法令遵守体制の構築とその水準に関する取締役 の法的責任をテーマとする。具体的には、様々な事情を考慮して、取締役会が内部統制シ ステムを構築しないと判断した場合、善管注意義務違反を構成するのか、また、「構築すべ き最低水準のシステムを前提とした上で、それを超えてどこまで充実させるかという点に 経営者の裁量が働くと考えるべき」といわれるが、その最低水準とはどの程度であるかと いう問題である。この分野は、大和銀行代表訴訟(大阪地判H12.9.20判時1721‑3)以来、

企業不祥事における取締役の民事責任として議論が盛んな分野であり、笠原武朗、柿崎環 の先行文献が存在するが、本論文は、制度論としての内部統制システムが、実際の訴訟に おいて、どのようを法的機能を有しているのか、とりわけ経営判断原則との関係はどうな っているのかという従前の文献の検討が不充分な角度から問題に焦点を当てる。とりわけ、

「内部統制システムの内容は経営判断の問題である」という命題が成り立っか否か、そし て そ も そ も か か る 命 題 が ど の よ う な 意 味 を 持 っ て い る の か を 検 討 す る 。

  

本論文の研究手法は比較法により示唆を獲得するという伝統的分析を採用し、素材とし て内部統制システムについて最も議論の進んでいるアメリカ法、特にデラウェア州判例法 と連邦証券規制を選択する。この手法は先行文献と重なるが、訴訟に韜ける機能という問 題意識・着眼点が異なる。

  

本論文の アメリ カ法の整 理は、 一方では 、1996年の

Caremark

判決による内部統制構築 義務の高度化やStonev.

Ritter

判決による第三の義務としての「誠実義務」化・忠実義務 化といっ たデラ ウェア州判例の一般論及ぴSOX法等の証券規制改革を契機とする法令遵守 体制構築の義務化・厳格化の議論及びそれに対する学説の反応を紹介し、抽象論として法 令遵守体制義務が重要視されている姿を描き出す。他方、個別の裁判の結論と事案の関係 を丹念に読み込むことで、抽象論レベルの義務の高度化・厳格化にもかかわらず、具体的 適用の場面においては実質的な取締役責任・義務の厳格化はたされていないことを指摘す る。このようなアメリカ法の全体像を描いた上で、それでも法令遵守体制構築義務概念が 取締役責任の有無に実質的に意味を持っ場面として、何らかの不正行為の徴憑(Red Flags) が発生した場合に対処をしなかった場合には責任が認められるとする一連の裁判例群に着 目する。こうして、抽象的に法令遵守体制構築義務(の厳格化)の議論をするのではなく、

‑ 125

場 生

   

   

   

   

林 山

授 授

   

   

教 教

査 査

主 副

(4)

red flags

対処義務として議論すべきであるという示唆をアメリ カ法研究から獲得する。

  

本論文は、アメリカ法比較による 示唆から、日本法において以下の二点を主張する。抽 象的な法令遵守体制構築義務を徒に 論ずることは、個別の会社において要請される最低限 の法令遵守体制を裁判所は判断能カ の欠如により判断できない点、また既に行われた不正 行為に対して後知恵的な判断がなさ れてしまう危険等からすれば、通常取締役の注意義務 と同様、裁判所の判断を控えるべき であるという経営判断原則と類似の状態にあることを 指摘し、取締役責任の厳格化という 一般論は採用できないとする。他方、法令遵守体制構 築義務が具体的に訴訟で意味を持っ のは、Red Flagsが発見された場合には対処する義務が あるという場面であるとし、このよ うな構成は取締役の監視・監督義務の消極的側面とし て整理することができ、また、日本 の従前の下級審裁判例を内在的に読むことで既に採用 されていることを指摘ナる。

  

法令遵守体制構築義務を抽象論で 捉えるのではなく、Red Flags義務に具体化するという 本論文の主張は、近時、議論が集中 ・錯綜しているコンプライアンス分野において、新規 性の高いものであり、また、現実の 裁判における意義という本論文の首尾一貫した問題意 識に裏打ちされ、主張の内容も明確 である。この意味で、本論文は、今後この分野の研究 を進める者にとって参照価値が高い ばかりか、現実の訴訟における主張・立証のターゲッ トのガイドラインとなり実務におい ても非常に意義のある論文である。その根拠としてア メリカ法の議論を抽象論ばかりでは なく広い時期範囲の現実の裁判例及びその利害状況ま で丹念に読み込んだ点は資料的価値 も高く、特に、近時、Disney判決等で日本でも話題に なった、取締役の第三の義務として の誠実義務概念の誕生・発展から忠実義務への収斂・

消滅までの経緯の紹介、その間のデ ラウェア州の衡平裁判所と最高裁との間の対立を描き 出した点は、誠実義務概念を持て余 している日本法の取締役責任に関する議論状況へ資す るところは大きい。このような丁寧 な作業を経た上で、アメリカ法からの示唆として上記 命題を獲得するのは、大胆ながらも 、アメリカ法の裁判例の一部を恣意的に無視する等の 乱暴な点は見られない。また、比較 法の示唆を日本法に応用する際に、取締役の置かれて いる状況の日米の差異にも配慮がな されており、単にアメリカ法の議論をそのまま取り込 むのではなく日本に潟いても妥当す ることを積極的に根拠づけている点等、論旨の運びも 丁寧ながら明快である。

  

他方、本論文に対して、若干の疑 問も存在する。まず、法令遵守体制構築義務なる概念 を想定するのは主に上場会社を対象 とするようであるが、会社法上、取締役と会社の関係 として委任契約が結ばれているのは 、閉鎖会社・中小会社も同じであり、ここで取り扱い を別異にする理由はあるのか。関連 して、委任契約の債務不履行として取締役の責任を理 解するならば、なぜ、法令遵守体制 構築義務の様な特別な義務が出てくるのか、また、経 営判断原則まで含めて民法債務不履 行法との議論との平仄が取れているのかという点が挙 げられる。より内在的には、Caremark判決以降、抽象論として法令遵守体制構築義務は厳 格化したというが、現実の裁判例の 判文からは必ずしも厳格化を見いだせないのではない かという点も挙げられた。外在的に は、Red Flags対処に着目するという本論文の主張は、

法令遵守体制構築義務という法律上 の概念に対してどのレベルの議論をしているのか、当 てはめの問題なのか、それとも法律 上の概念の変更を目指しているのかという問題が裁判 における機能という問題意識によっ て蚊帳の外に置かれているのではなぃかという点があ る。また、本論文の整理では、法令 遵守体制構築義務は監視監督義務・注意義務の一側面 に吸収されるが、取締役個人の法令 違反行為の責任である法令遵守義務と切断されてしま わないか、すなわち、株主利益最大 化原則が妥当する場面とそうでない場面とに分かれて しまうが、野村証券損失補填最高裁

(H12.7.7

民集54巻6号1767頁 )の整理とは異なる点は 留意すべきである。

ー126ー

(5)

  

以上の 疑問への応答は改善すべき点ではあるが、公表までにー部は修正が期待できるこ と、また 民事債務不履行制度との接続等はそれ自体大きなテーマであり、しかも債権法の 枠組みも 変容し得る状態にあり、本論文を受けて学界全体の課題となるものといえ、本論 文の価値 を否定するものではなぃ。よって、審査委員全員一致で、本論文は博士号相当と 考える。

‑ 127

参照

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