早稲田大学大学院情報生産システム研究科
博 士 論 文 概 要
論 文 題 目
動力伝達用歯車の非線形噛合いに伴う起 振荷重と振動応答解析手法に関する研究
Study on Analysis Method of Dynamic Excitation Force and Vibration Response of Power Transmission Gears due to Non-linear Gear Tooth Meshing Condition
申請者
正田功彦
Katsuhiko Shoda
情報生産システム工学専攻
生産情報・生産機械システム研究
2008 年 5 月
機械の軽量化や大伝達トルク化に伴い,歯車装置負荷運転時に歯車噛合いが円滑でな くなる非線形噛合いとなる状況が多く生じるようになってきた.特に入出力変動が大き く,かつ大型の歯車装置では,歯車を用いる機械装置の全体の信頼性を確保するために,
歯車装置弾性変形量の増加や歯車誤差の増大に伴う運転時の振動荷重の増加を的確に 予測し,歯車損傷未然防止のための非線形振動現象を考慮できる設計解析手法が必要と なっている.
動力伝達用歯車の強度設計は,トルク伝達による弾性変形量が歯車に固有の歯車誤差 よりも大きい場合はトルク(作用荷重)と噛合い方向の変位量がほぼ線形関係でかつ回 転速度も線形であることを前提とした噛合い歯面の歯当り解析および振動起振荷重の 解析によって行われている.しかし,弾性変形量が歯車誤差の絶対値より小さい場合は,
トルクの変化に伴う歯当りが大きく変化するため,噛合いの非線形性が強まり,新たな 振動解析手法が必要となっている.さらに,極端に誤差が大きくなると運転中に歯車噛 合い歯面が分離する「歯打ち」現象が生じ,噛合いがランダムになる強い非線形性が生 じ運転騒音増大や歯車早期破損のトラブルが生じやすくなる.しかし,これまでは高精 度の非線形振動荷重予測手法がなく,的確な動的荷重予測が困難であった.
そのため,動力伝達システム業界では重要機器の歯車の使用条件を線形噛合いの範囲 に抑制することが行われてきたが,機械装置のトレンドは,非線形振動が生じても壊れ ない歯車装置設計を行うために,歯車強度設計に用い得る荷重と振動の予測手法が必要 になってきている.
本研究はその解決手法を提示するもので,これまで歯車装置の解析に用いられたこと がない振動解析手法である,全体系を個々の部品に分割し,部品の振動を重ね合わせて 全体系の振動を評価するモード合成法を歯車の非線形噛合い解析に適用し,歯車設計に 適用できるシミュレーション手法として取りまとめた.入出力変動が大きい実際の大型 歯車装置での解析結果の検証実験を通して,新たな手法の有効性が確認でき,非線形噛 合いを伴う歯車の振動,強度設計評価が可能となった.
本論文は全5章構成である.第1章では非線形振動解析に関する従来の研究例と未解 決技術課題を整理した.第2章では,新たなモード合成法による振動伝達特性解析手法 を述べ,風力発電風車用増速歯車装置を用いた実験検証結果をまとめ,有効な解析手法 であることを示す.第3章では,歯車対の剛性および振動減衰の非線形特性解析手法を 述べ,噛合い対が多い舶用タービン減速歯車装置歯車継手を用いた実験検証した結果を 示し,実用手法とできることを示す.さらに第4章では,歯車噛合い歯面間に形成され る潤滑油膜の非線形特性を考慮した振動解析手法を示し,大型ディーゼルエンジン用カ ム軸駆動歯車を用いた検証実験を行い,有効な手法であることを示す.最後に第5章に て,これまでの評価結果をまとめ総括とした.
第1章では,インボリュート歯形歯車の噛合いに伴う振動として噛合い振動,歯面分 離・衝突(歯打ち)および自励振動の現象と従来の解析手法例を述べ,非線形振動に影 響を及ぼす因子と必要な解析技術を整理した.さらに線形解析である従来の歯車振動解 析,歯当り解析,歯面油膜負荷能力解析手法を骨子とし,新たな非線形解析手法に拡張 する実現見通しについて述べた.最後に,本研究の目的と内容をまとめた.
第2章では,個別の軸の振動モードを歯車歯部の剛性特性で結合させて全体系の振動 モードを解析するモード合成法による非線形時刻歴振動伝達特性の解析手法と実験検 証結果を示した.解析対象を平行軸多段歯車系とし,遊星歯車系の解析も可能とした.
実験検証対象を構造弾性変形量や歯車誤差の絶対値が大きくかつ大型である風力発電 風車用複合遊星増速歯車装置(2段遊星歯車式増速歯車装置,入力回転数 32rpm,出
力回転数 1500rpm,伝達動力 500kW)とし,振動解析結果と運転実験結果とを対比
させた.その結果,従来,歯車誤差の大きい遊星歯車装置を含む多段歯車軸系の噛合い 起振力振動応答計算は困難であったが,遊星歯車の歯の歯元応力と歯車振動加速度スペ クトルが 10~15%以内の誤差で対応し,モード合成法が大型遊星歯車装置のような複 雑で歯車誤差の絶対値が大きい多段変速歯車系に適用できることを示した.また,本検 討を通して,遊星歯車特有の噛合い周波数成分の増加要因に内歯車ピッチ点付近のコン ケーブ状溝の歯形誤差が大きく影響することを見出し,また噛合い周波数高次成分の増 加要因に内歯車リング状振動モードが大きく影響することを見出し,具体的な歯車の非 線形噛合い振動低減対策項目も明らかとなった.
第3章では,歯車の歯当り変化に伴う噛合いの非線形特性を評価するために,通常は 同時接触線上の線接触として行う歯当り解析を,面接触でも行う大規模解析手法とその 実験検証結果を示した.歯すじ方向片当り,軸偏芯や歯面すべり摩擦による非線形性が 強く出る歯車装置としてギヤカップリングを選び,噛合い歯車の曲げモーメントとせん 断力および歯元曲げ応力の解析手法を作成した.実験検証対象は,歯車誤差が構造変形 料よりも大きくかつ歯面が面接触する場合もあるものとして,伝達トルク500N・mの 舶用タービン減速歯車用ギヤカップリングとした.ギヤカップリングの歯当り解析は,
歯の接触の有無の判定条件と歯に作用する荷重が平衡する条件から歯面に作用する全 荷重を解析し,歯面の作用荷重分布,歯元曲げ応力および弾性変形量を求めて実施した.
具体的には,ギヤカップリング全歯に接触点を設け,変位の適合条件と平衡条件から導 かれる大規模連立不等式を解く手法とした.実験検証は,ギヤカップリングに角変位,
せん断変位およびトルクを加え,誤差や荷重を与えたときの反力トルクを計測した.解 析値と実験検証値の対比を行った結果,傾き角が大きくなると両者の差が大きくなる傾 向はあるが,曲げモーメントで約5~10%,せん断力で約5~10%および歯元曲げ応力 で約 10~20%との違いに収まった.これにより,従来,歯車誤差の大きい面接触を有
するギヤカップリングの歯当り解析と非線形特性評価は困難であったが,提案手法が歯 当り変化に伴う非線形特性を評価する手法として有効であることが示された.また検証 されたギヤカップリングの非線形特性は,剛性と振動減衰の行列で表すロータダイナミ ック係数として整理し,ギヤカップリングを用いる回転機械の設計に実用できるように した.ギヤカップリングのローターダイナミクス特性は剛性マトリックスが重力方向と水 平方向で非対称であり不安定要因を含むこと,および回転数2次の係数励振項を有するこ とを明らかにした.
第4章では,典型的な非線形噛合いとして歯面の分離と衝突(歯打ち)を対象とし,
歯面間に形成される潤滑油膜の負荷能力を考慮した歯車装置全体の振動系解析手法と その実験検証結果を示した.噛合い歯面間の潤滑油膜のくさび作用やスクイズ作用によ る振動減衰と歯のたわみの連成を考慮するために,噛合う歯を油膜要素,ばね・ダンピ ング要素の直列結合とした新たな振動モデルを提案した.油膜要素は噛合い部に形成さ れる流体潤滑油膜の噛合い進行に伴う変化を,またばね・ダンピング要素は歯の噛合い 枚数と同時接触線上の噛合い位置による剛性変化をモデル化した.油膜負荷能力と接触 減衰は,2円筒が転動および接近・離反するモデルを弾性流体潤滑理論で解析した.実 験検証は舶用ディーゼルエンジン(2サイクル6気筒ディーゼルエンジン,伝達動力
46800kW,定格回転数 76rpm)のカム軸駆動歯車系を対象とし,歯元曲げ応力値の計
算値と実測値を対比させた.振動解析はモード合成法を適用した.カム軸駆動歯車はエ ンジンの燃料噴射タイミングを制御するために,エンジンシリンダ内の燃焼爆発による クランク軸トルクと,燃料噴射圧によるカム軸トルクの変動にさらされて動力伝達して いる.定常噛合い時の動的荷重から歯面分離に伴う衝突荷重までの計測に成功し,計算 荷重による歯元曲げ応力にて解析結果と対比させたところ約 15%の誤差で,計算値と 実測値が対応した.さらに,従来予測が困難であった歯面が分離,衝突する噛合いタイ ミングが約 15%程度の誤差で予測できることを明らかにした.これにより,従来,歯 打ちを伴う多段歯車系の歯車強度は衝突時の減衰が明らかでなかったため評価が困難 であったが,歯車歯面間の潤滑状態を考慮した非線形振動解析により歯車噛合い歯面の 歯打ちの防止と歯打ち時の強度設計が可能となった.
第5章では,第2章から第4章にかけて示した動力伝達用歯車の非線形振動に関する 新たな解析手法と検証結果についてまとめた.従来,精度の良い解析が困難であった歯 車の非線形振動問題を一括して解析できる手法を提案し,大型歯車装置を用いた理論検 証試験を通して実用設計に使えるレベルに達したことを示した.最後に,歯車装置を用 いる機械の小型化,軽量化,損傷未然防止につながる可能性を示し,総括とした.