日本小児循環器学会雑誌 13巻6号 818〜8]9頁(1997年)
<Editorial Comment>
先天性冠動脈痩に対する経皮的治療
埼下医科大学小児心臓科 小林 俊樹 先天性冠動脈痩は比較的稀な先天性心疾患である.短絡靖の多い症例では心不全を呈するが,大半の症例は 有意の短絡を有していない.自然閉鎖や心雑音を伴わない程度で閉鎖の適応のない症例もあるが,多くは成人 期にはいると心筋虚血や感染性心内膜炎などの合併症を併発し,50歳以ヒでは80%の症例が心筋虚血を有する との報告がある1).その一方で外科的治療の成績は,20歳以下では良好であるのに対して,20歳以」二では合併症 発生率23%にものぼるとの報告があり2)3),小児期に治療を行う必要がある疾患と考えられる.
以前は開胸手術によって閉鎖が行われていたが,1989年頃よりcoilやdouble umbrella device, detachable balloonなどを用いた経皮的治療の試みが報告されてきている4ト7}.大きな痩孔では血流が早いため,従来の
detachable機能を持たないcoilでは血流に流され他の部位に塞栓をおこす可能性が高いためdouble
umbrella deviceかdetachable ballo(mを用いる必要があった.しかし両方の閉鎖栓はともに太いdelivery catheterを必要とするため対象年齢に制限があったり遠隔期の閉鎖栓の破損やballoonの収縮などの問題がみられている6).
近年detachable機能を有したcoilの出現により,血流が多いため従来のcoilでは血流に流される危険が高 いような血管に対しても留置を試み,もし不適切と考えられた時の回収が可能となった.このため大きな痩孔 に対してもcoilを留置する事が可能となってきている.今回の黒岩らの報告に見られるように,痩孔より流出 しない人きなcoilを瘤の中に留置し,残存短絡がある時には留置したcoilに絡むように小径のcoilを補充留 置することにより完全閉塞を得ることが可能となる8)9).coi|は他の閉鎖栓に比較して,4〜5フレンチの細い
カテーテルでも留置が可能であり,橋本ら9)の報告に見られるように1歳台の症例にも施行可能である.
しかし,冠動脈痩を有する冠動脈の近位側より心筋に血流を供給している冠動脈分枝が分岐してたため,冠 動脈痩の閉鎖時にはそれら分枝にかからない遠位側で閉塞を行う必要がある.手術では可視的に冠動脈痩の遠 位端での閉鎖が可能となるため,これらの冠動脈分枝を閉塞する危険性はかなり少なくなる.しかし経皮的閉 鎖術においては,手術ほど正確な閉鎖部位の選択は不可能である.その上,径の大きいCoilは全長も長く,予 測以ヒにcoilの留置される冠動脈の前後長が長くなる可能性がある.このため冠動脈分枝とcoil留置部位が 近接している場合には冠動脈分枝を閉塞してしまう可能性がある1°].年齢や冠動脈痩の大きさ・形態を考慮に 入れ,慎重に治療手段の選択を行うべきと考えられるが,至適症例と考えられた症例では手術に比較し入院日 数やコスト的にも優位のため試みる価値のある治療法と考えられる.また術後の抗血小板剤等の投与の有無に ついては統・した見解はないようである.残存短絡を減らす意味では抜与しない方がよいと考えられるが,手 術後でも見られるような閉塞後に残存した瘤内の血栓形成川を予防を考慮すると必要とも考えられる.今後症 例を集めて検討する必要のある事項と考えられた.
文 献
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