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表面プラズモン共鳴免疫センサによる爆薬成分の高 感度検出

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(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

表面プラズモン共鳴免疫センサによる爆薬成分の高 感度検出

矢田部, 塁

https://doi.org/10.15017/1441268

出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:Fulltext available.

(2)

表面プラズモン共鳴免疫センサによる 爆薬成分の高感度検出

2014

九州大学大学院システム情報科学府 電気電子工学専攻

矢田部 塁

(3)

i

目次

1

章 序章 ... 1

1.1

諸言 ... 1

1.2 本研究における背景と目的 ... 2

1.3

主な爆薬成分 ... 4

1.4 バイオセンサ ... 7

1.5

表面プラズモン共鳴(SPR)センサ ... 8

1.5.1

表面プラズモン共鳴 (Surface Plasmon Resonance ; SPR) ... 8

1.5.2 SPR

センサ ... 12

1.5.3 SPR

センサの特徴 ... 13

1.5.4

本研究で用いた

SPR

センサと実験方法 ... 15

1.6

自己組織化単分子膜(SAM) ... 16

1.6.1 SAM

の作製方法... 16

1.6.2 SAM

の自己組織化メカニズム及び特徴 ... 17

1.7

アミンカップリング反応 ... 19

1.8

抗原抗体反応 ... 21

1.8.1

抗体 ... 21

1.8.2

抗体の作製方法 ... 24

1.9

本論文の構成 ... 26

(4)

ii

2

章 爆発物の検出方法 ... 27

2.1

諸言 ... 27

2.2

爆発物探知装置に求められる性能 ... 28

2.3

高感度検出についての検討 ... 29

2.3.1

測定方式 ... 29

2.3.2

間接競合法 ... 30

2.3.3

置換法 ... 36

2.3.4

タンパク質の非特異吸着 ... 38

2.3.5

測定に影響を及ぼすその他の要因 ... 40

2.4

2章のまとめ ... 42

3

RDX

の高感度検出 ... 43

3.1

諸言 ... 43

3.2 RDX

抗体の作製 ... 44

3.3

センサ表面の作製 ... 47

3.4 RDX

の高感度検出 ... 49

3.5 3

章のまとめ ... 53

4

章 ラジカル重合によるビニル系ポリマーを用いた

TNT

の高感度検出 ... 54

4.1

諸言 ... 54

(5)

iii

4.2

ポリビニルアミンの作製 ... 55

4.3

ポリビニルアミンを用いたセンサチップの作製 ... 57

4.4

ポリビニルアミン・ポリビニルホルムアミド共重合体の作製 ... 61

4.5

ポリビニルアミン・ポリビニルホルムアミド共重合体を用いた 非特異吸着性抑制 ... 65

4.6 TNT

の高感度検出 ... 68

4.7

4章のまとめ ... 70

5

章 表面開始原子移動ラジカル重合を用いた センサ表面による

TNT

の高感度検出 ... 71

5.1

諸言 ... 71

5.2

原子移動ラジカル重合 ... 72

5.2.1

諸言 ... 72

5.2.2

特徴と反応メカニズム ... 74

5.2.3

還元剤による触媒の再活性化プロセス ... 77

5.2.4

重合反応に影響を与える要因 ... 81

5.2.5

表面開始原子移動ラジカル重合 ... 84

5.3

センサ表面の作製方法 ... 85

5.4 MES

DEAEM

による混合ポリマー表面... 87

5.4.1

混合ポリマーによるセンサ表面の作製 ... 88

5.4.2

モノマー混合比と非特異吸着性評価 ... 89

5.4.3

混合

SAM

による親和性制御 ... 91

(6)

iv

5.4.4 TNT

の高感度検出 ... 95

5.4.5

まとめ ... 98

5.5 MES

HEMA

による混合ポリマー表面 ... 99

5.5.1

混合ポリマーによるセンサ表面の作製 ... 101

5.5.2

モノマー混合比と非特異吸着性評価 ... 102

5.5.3

モノマー混合比による親和性制御 ... 103

5.5.4 TNT

の高感度検出 ... 105

5.5.5

まとめ ... 110

5.6

5章のまとめ ... 111

6

章 本論文のまとめ ... 113

6.1

本研究の総括 ... 113

6.2

今後の課題と展望 ... 117

謝辞

... 121

参考文献 ... 122

(7)

v

表目次

表 1-1 主な爆薬成分 ... 6

表 2-1 間接競合法の定式化に用いたパラメータ ... 33

表 3-1 各種物質と

RDX

抗体との結合能力 ... 46

表 3-2 各センサチップの非特異吸着評価 ... 50

表 3-3 間接競合法の測定条件と検出限界 ... 50

表 5-1 MES:DEAEM モル比最適化 ... 91

表 5-2 混合

SAM

による

poly-MES-co-DEAEM

表面の抗体結合量... 93

表 5-3 混合

SAM

ポリマー表面と抗体の親和性 ... 94

表 5-4 センサ表面毎の検出限界 ... 96

表 5-5 poly-MES-co-HEMA 表面の

ATRP

反応条件... 101

表 5-6 混合ポリマーの混合比と親和性 ... 104

表 5-7 混合ポリマー表面の検出限界 ... 108

(8)

vi

図目次

図 1-1 RDX および

TNT

の化学構造 ... 5

図 1-2 空気と金属表面の分散関係 ... 10

図 1-3 クレッチマン配置 ... 11

図 1-4 クレッチマン配置での金属表面の分散関係 ... 11

図 1-5 入射角度と反射光強度 ... 12

図 1-6 SPR センサの光学系とフローセルの断面図 ... 14

図 1-7 GE Healthcare 製 Biacore J の構成... 15

図 1-8 Au 表面へのアルカンチオール

SAM

の吸着サイトと断面図 ... 17

図 1-9 表面への機能性官能基の導入 ... 18

図 1-10 アミンカップリングのメカニズム ... 20

図 1-11 IgG 抗体の構造 ... 23

図 1-12 抗体の親和性 ... 23

図 2-1 間接競合法のセンサグラムと実験の様子 ... 31

図 2-2 抗体と類似物質の親和性と結合率の関係 ... 35

図 2-3 抗体濃度と結合率の関係 ... 35

図 2-4 置換法のセンサグラム ... 37

図 3-1 RDX およびその類似物質の構造 ... 45

図 3-2 RDX の検出のためのセンサ表面の作製 ... 48

図 3-3 間接競合法による

RDX

の検出実験のセンサグラム ... 51

図 3-4 RDX 濃度とセンサ出力の検量線 ... 52

図 4-1 ポリビニルアミンの作製ステップ ... 56

(9)

vii

図 4-2 VA-044... 56

図 4-3 ポリビニルアミンを用いたポリマー表面の作製工程... 59

図 4-4 poly-VAm 表面と

EDA

表面の

SPR

センサグラム ... 59

図 4-5 poly-VAm 表面への

TNT

抗体・ビオチン抗体吸着量 ... 60

図 4-6 poly-VAm 表面の非特異吸着性評価 ... 60

図 4-7 各加水分解条件における

FTIR

スペクトルデータ ... 63

図 4-8 50℃における加水分解時間と加水分解率 ... 63

図 4-9 加水分解率とゼータ電位の関係 ... 64

図 4-10 TNT 抗体とビオチン抗体の吸着量比較 ... 67

図 4-11 TNT 抗体とビオチン抗体の吸着量の比率 ... 68

図 4-12 間接競合法による

TNT

濃度と結合率の検量線 ... 69

図 5-1 ATRP 反応の反応式 ... 75

図 5-2 ATRP 反応状態遷移図 ... 76

図 5-3 AGET-ATRP 反応状態遷移図 ... 79

図 5-4 アスコルビン酸による還元作用 ... 79

図 5-5 触媒と還元剤の比を変化させた時の重合反応 ... 80

図 5-6 有機分子の構造と反応定数

KATRP

の大小関係(計算) ... 82

図 5-7 配位子の構造と反応定数

KATRP[ M-1s-1 ] ... 83

図 5-8 SI-(AGET)ATRP を用いた

SPR

センサチップの作製手順 ... 86

図 5-9 センサ表面の作製に用いたモノマーの構造 ... 87

図 5-10 poly-MES-co-DEAEM 表面の非特異吸着評価 ... 90

図 5-11 DTBU と

HEg3UT

の構造 ... 93

図 5-12 混合

SAM

ポリマー表面と抗体の解離速度定数と検出限界... 96

図 5-13 各

TNT

濃度における抗体結合率の検量線 ... 97

(10)

viii

図 5-14 センサ表面の作製に用いたモノマーの構造 ... 100

図 5-15 poly-MES-co-HEMA ポリマー表面の非特異吸着評価 ... 103

図 5-16 poly-MES-co-HEMA センサ表面での間接競合法のセンサグラム例

... 106

図 5-17 一価結合, 二価結合の模式図(仮説) ... 106

図 5-18 モノマー組成と解離速度定数及び検出限界 ... 109

図 5-19 MES:HEMA=1:100, 1:1000 の検量線 ... 109

図 6-1 抗原応答性ポリマー表面 ... 120

(11)

第1章 序章

- 1 -

第 1 章 序章

1.1 諸言

近年, 爆発物の脅威が増している. 特に

2001

9

11

日のアメリカ同時多

発テロ以降, 世界では爆弾を使用したテロ事件が頻発し多くの人々が犠牲にな

っている. このような事件では空港や駅, ショッピングモールなどの人が集ま

る場所に爆弾が仕掛けられる. この様な事件を防ぐために数多くの監視カメラ

等が設置されている. しかし事件後の真相究明には役立っているが予防には必

ずしも効果的ではない. この様な問題を解決するためには爆発物の匂いを簡単

かつ高精度に検出できる装置が必要となる. そのような装置が監視カメラの様

に多数設置されれば爆発物の運搬を検出できるため爆発物を使用した犯罪行為

を予防できると考えられる. その様な装置を開発する上で本研究では表面プラ

ズモン共鳴と抗原抗体反応という二つの原理を組み合わせた表面プラズモン共

鳴免疫センサに注目し, そのセンサ表面の研究開発を行った.

(12)

第1章 序章

- 2 -

1.2 本研究における背景と目的

目標とする爆発物検出装置に求められる性能には第一に高感度・高信頼性 がある. 爆発物の様な低分子量有機物質の測定方法として一般的に用いられる のはガスクロマトグラフィ質量分析装置(GC-MS)や高速液体クロマトグラフ ィー(HPLC)などがあげられる. これらの分析は適切な装置と手順を用いて熟 練者が行えば高感度・高信頼性を実現できるが, 測定には時間がかかる. また測 定による得られるデータが複雑なためにその解釈に熟練を要する. その他には ニトロ化合物や硝酸エステルなどの爆薬分子は電子親和力が高いことを利用し てイオン化した上でイオンモビリティ検出器(IMS)や質量分析器(MS)で検出す る方法もある

1).

またこの爆発物検出装置は空港や商業施設, イベント会場など での使用が想定されるため, 求められる性能として低コスト・可搬性・測定の簡 便性などもある. これらを総合して鑑みると爆発物探知犬を用いる方法が現在 では合理的であるといえる

.

その為, 爆発物探知犬の機能を代替する装置が開 発できれば実用に足りる爆発物検出装置が開発できると考えられる.

これらの性能を満たすべく我々は表面プラズモン共鳴という現象を用いた表

面プラズモン共鳴センサ(SPR センサ)と抗原抗体反応に注目した. この

SPR

センサではセンサ表面の屈折率変化を高感度に検出できる. このためセンサ表

面でなんらかの物質の吸着などの物理的・化学的な変化が起こるとそれに伴う

表面の屈折率変化を

SPR

センサでは検出できる. 屈折率変化を測定しているに

過ぎないのでセンサ応答としては単純なデータが得られるが, その一方で吸着

している物質の種類やなぜその屈折率変化が起こっているのかを

SPR

センサ単

体で解明することはできない. そこで生物が持つ異物認識機能である抗原抗体

反応と組み合わせる. 抗原抗体反応を担う抗体は特定の物質を認識する選択性

(13)

第1章 序章

- 3 -

に優れるため, その原理を用いれば信頼性の高い測定が可能となる. 一般に抗 原抗体反応を利用して特定の物質の検出を行う場合, 抗体に蛍光体などの標識 を行う必要がある. しかし

SPR

センサと組み合わせることでその様な操作も不 要となる. そしてセンサ表面に抗原抗体反応を起こす様な仕組みを作ることで 抗原抗体反応を屈折率変化として高感度に検出可能なセンサを作ることが出来 る. この

SPR

免疫センサを用いれば高感度・高信頼性・測定が簡便・装置が低 コストという特徴をもつセンサを開発できると考えられる.

我々の研究室ではこの

SPR

免疫センサを用いて様々な物質の高感度検出を 行っている. 爆発物に関しても

TNP, TNT, DNP, RDX

などの複数種類の検出を 行っている

2-10).

また装置を試作し拭き取りによって

TNT

を回収し

1

分以内に 検出可能であることを実証している

11).

本研究においては主に高感度化を目標にセンサ表面の開発を行った. 高感

度な測定が可能になることでセンサとして高度化するだけでなく, 測定時間の

短縮にもつながる. 本研究ではポリマー表面を用いてセンサの高感度化を目指

した. 我々の従来のセンサでは抗原抗体反応を起こすサイトをセンサ表面上に

二次元的に配置してきた. 一方, SPR センサが利用する表面プラズモン共鳴に

よる共鳴電場は表面から指数関数的に減少しながら約

100nm

の範囲に広がって

おり, SPR センサではこの範囲の屈折率変化を検出することが出来る. そのた

め抗原抗体反応の反応場を三次元的に配置できれば反応場の増加により信号の

増強が可能となると考えられる. 本研究ではポリマー上に抗原抗体反応の反応

場を固定することでこの三次元化を試みた.

(14)

第1章 序章

- 4 -

1.3 主な爆薬成分

爆薬は軍用のほか鉱山や工事現場などでも用いられている. その一覧を表

1-1

に示す

12).

この様に爆薬は分子内に硝酸塩, 硝酸エステル結合, ニトロ基, ニトラミン類などを持つ物が多い. 特に芳香族ニトロ化合物は軍用爆薬として 用いられる. 本研究ではその中で

RDX

TNT

の検出を行う. 以下にその物性を 示す.

●TNT ; 2,4,6-trinitrotoluene

・分子量:227

・結晶 :淡黄色柱状昌

・融点 :80.7℃

・溶解度:130 g/ml (水

20℃)

12.3mg/ml (95%

エタノール 20℃)

ベンゼン, エーテルに易溶

●RDX ; research department explosive

(1,3,5-trinitroperhydro- 1,3,5-triazine)

・分子量:222

・結晶 :無色結晶

・融点 :205.5℃

RDX

および

TNT

の化学構造を図

1-1

に示す.

(15)

第1章 序章

- 5 -

TNT ; 2,4,6-trinitrotoluene

RDX ; research department explosive (1,3,5-trinitroperhydro- 1,3,5-triazine)

図 1-1

RDX

および

TNT

の化学構造

(16)

第1章 序章

- 6 -

表 1-1 主な爆薬成分

12)

化合物の種類 化合物名 略号 含有する主な爆薬名

硝酸エステル

ニトログリコール

EGDN

ダイナマイト 液体爆薬

ニトログリセリン

NG

ダイナマイト 無煙火薬 液体爆薬 ペンスリット

PETN

プラスチック爆薬 ニトロセルロース

NC

ダイナマイト

無煙火薬

硝酸塩

硝酸アンモニウム

AN

硝安油剤爆薬 含水爆薬 硝酸カリウム 黒色火薬, 玩具煙火

硝酸ナトリウム 含水爆薬

硝酸尿素

UN

手製爆薬 塩素酸塩 塩素酸カリウム 黒色火薬, 玩具煙火

塩素酸ナトリウム 手製爆薬 過塩素酸塩 過塩素酸カリウム 黒色火薬, 玩具煙火

過塩素酸アンモニウム

AP

ロケット推進薬

ニトロ化合物

ジニトロトルエン

DNT

ダイナマイト

2,4-ジニトロフェノール 2,4-DN

Ph

爆薬原料 トリニトロトルエン

TNT

軍用爆薬 テトリル

Tetryl

軍用爆薬 ピクリン酸

PA

軍用爆薬 ニトロメタン

NM

液体爆薬 ニトラミン ヘキソーゲン

RDX

プラスチック爆薬

オクトーゲン

HMX

プラスチック爆薬

探知剤

2,3-ジメチル-2,3-ジニトロ

ブタン

DMNB

プラスチック爆薬

可燃物 硫黄

S

黒色火薬, 玩具煙火

有機過酸化物

トリアセトントリパーオキ

サイド

TATP

手製爆薬

ヘキサメチレントリパーオ

キサイドジアミン

HMTD

手製爆薬

(17)

第1章 序章

- 7 -

1.4 バイオセンサ

生物起源の分子認識機構を利用したセンサで酵素や特定の受容体タンパク質 を用いたものや免疫システムや微生物を用いたものもある. これらは特定の分 子や構造に対して選択的な親和性を持っており目的物質と相互作用することで 構造が変化したり化学的なポテンシャルが変化したりする. 良く用いられてい る

ELISA (Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)

では蛍光体や酵素または 放射性同位体で標識された抗体を使用して目的物質の定量を行う. 標識された 抗体が目的物質と相互作用を行い, 抗体の標識物質を発色や発光, 放射線を測 定にて定量することで目的物質の定量を行っている. 一方でこの様な抗体の標 識 を 必 要 と し な い 方 法 と し て

SPR (Surface Plasmon Resonance)

法 や

QCM(Quartz Crystal Microbalance)法がある. SPR

法においてはセンサ表面へ

の物質の吸着に伴う表面の屈折率変化を共鳴角変化として出力し, QCM 法にお いては水晶振動子電極表面での質量変化を共振周波数変化として出力している.

本研究においては抗原抗体反応を

SPR

センサで検出した. この時用いる抗体

は目標物質の構造を認識できるため高い選択性を持っているだけでなく高い親

和性も有しており, これにより高感度測定も可能となる. これらの反応を高感

度な屈折率計である

SPR

センサによって検出を行う. SPR センサの詳しい原理

について次に述べる.

(18)

第1章 序章

- 8 -

1.5 表面プラズモン共鳴(SPR)センサ

1.5.1 表面プラズモン共鳴 (Surface Plasmon Resonance ; SPR)13)

プラズマとは荷電粒子が雲のように分布し自由に動き回ることが出来る状態 を指す. 一般的には気体が電離した状態を指し, 太陽の様な恒星や雷の様なも のから蛍光灯の様な放電管の内部もプラズマとなっている. 一方で金属では自 由電子が存在し内部を自由に動くことが出来るため, 金属での自由電子も一種 のプラズマといえる. この自由電子は瞬間的にみると密度が高い部分と低い部 分が存在し, それぞれが負と正に帯電するため疎密波として振動している. こ の様な電子の集団での疎密波を量子化する場合, これをプラズモンと呼ぶ. こ の疎密波は縦波であるため横波である電磁波とは電場の向きが異なり結合しな い. しかし金属の表面では状況が異なる. 真空中に金属の表面がある場合を考 える. この場合, 電子の疎密波によって真空中にそれに応じた電磁波が染み出 ることになる. この様にプラズモンの伝番に付随して表面に電磁波が現れる時, これを表面プラズモン・ポラリトンと呼ぶ. 一般にはポラリトンは省略され表面 プラズモンと呼ぶ. この表面プラズモンは常に電磁波(光)を伴うがこの電磁波 は遠方へは伝番されないため, 目では観察されない.

表面プラズモンは横波であるため外部からの電磁波と結合可能であるが, 通

常の光とは結合しない. 表面プラズモンがフォトンと結合するためにはエネル

ギーが一致するだけでなく運動量も一致している必要がある. これは波に置き

換えると振動数と波数で, これらの関係を分散関係と呼ぶ. 真空中での金属表

面におけるフォトンと表面プラズモンの分散関係を図

1-2

に示す. 光の振動数

(19)

第1章 序章

- 9 -

を, 波長をλ, 角振動数を, 波数を

k,

光の速度を

c

とすると, 真空中の光の 分散関係は次の式になる.

𝑐 = 𝜈𝜆 = 𝜔

𝑘 𝜆 = 𝜔

2𝜋 , 𝜈 = 2𝜋

𝑘 (1.1)

この式よりと

k

の関係は係数が光速

c

の比例関係となるので図

1-2

の分散関係 は直線となる. 一方で表面プラズモンの分散関係は次の式になる.

k = 𝜔

𝑐𝜀𝑚(𝜔)・𝜀𝑠(𝜔)

𝜀𝑚(𝜔) + 𝜀𝑠(𝜔) (1.2)

ε

m

は金属の誘電率でε

s

は金属の接している物質の誘電率となり, 真空の場合 はε

s=1

となる. この様に二つの分散関係は=k=0 以外で交わることはなく, 表 面プラズモンの分散関係は光の分散関係の右側に現れる

.

その為, 通常の光と 表面プラズモンは共鳴しない. 次に屈折率

n

のプリズムを使用して図

1-3

の様な 光学系の場合を考える. その時の分散関係を図

1-4

に示す. 金属に接している物 質の誘電率はプリズムの誘電率になるため光の分散関係は傾きが

c/n

となり表 面プラズモンの分散関係も右側に傾くが

,

それでも両者が交わることはない.

一方で臨界角以上の角度でプリズム側から金薄膜に光を入射するとプリズム・

金薄膜界面で全反射が起きる. この時, 入射側の反対側にエバネッセント場が

形成される. このエバネッセント場による光は図の縦方向には伝搬することな

く, その電界強度は距離に対して指数関数的に減衰し, 目では観察することは

できない. このエバネッセント場の分散関係は図

1-4

の通りで通常の光の分散

関係に対して右側に位置し

,

表面プラズモンの分散関係と交わる点を持つ. よ

ってエバネッセント場を利用することで表面プラズモンが励起可能となる. こ

の時エバネッセント場に影響を与えるのは

p

偏向(TM 波)のみで共鳴が起き

(20)

第1章 序章

- 10 -

ているときの波数と角振動数を

ksp,

ω

sp

とすると次の式になる.

𝑘𝑠𝑝 = 𝜔𝑠𝑝

𝑐 𝑛・𝑠𝑖𝑛𝜃 (1.3)

このように臨界角以上で入射光の入射角度θを変化させることでエバネッセン ト波の分散関係を表面プラズモンの分散関係と一致させて表面プラズモン共鳴 を起こすことが出来る.

図 1-2 空気と金属表面の分散関係

波数

k

角 振 動 数

光の分散関係

(傾き:

c

表面プラズモンの

分散関係

(21)

第1章 序章

- 11 -

図 1-3 クレッチマン配置

青線:空気・金属界面の分散関係 赤線:プリズム・金属界面の分散関係

図 1-4 クレッチマン配置での金属表面の分散関係

入射光 反射光

θ

エバネッセント場 表面プラズモンによる電場

プリズム 金薄膜

(40

50nm

波数

k

角 振 動 数

表面プラズモンの 分散関係

光の分散関係

(傾き:

c/n

) エバネッセント波の分散関係

ksp

sp

光の分散関係

(傾き:

c

(22)

第1章 序章

- 12 - 1.5.2 SPR センサ

高屈折率なプリズムを介して金薄膜上に臨界角以上の角度で光を入射すると

薄膜・プリズム界面で全反射が起きる. そのため反射光を測定すると強い光強度 が得られる. 一方で入射角度を変化させ表面プラズモン共鳴の条件が整うと入 射光のエネルギーは表面プラズモンの励起に使用され

,

反射光強度は弱くなる.

そのため入射角と反射光強度の関係は図

1-5

のようになる. 表面プラズモンの 分散関係は式

(1.2)からわかるように金属とその表面の誘電率に依存している.

SPR

センサで測定を行う際, 金属自体の誘電率は測定中に変化することはない ため一定と考えると, 表面プラズモンの分散関係を決定づけているのは表面の 誘電率となる. この表面の誘電率変化の影響を受ける表面プラズモンの分散関 係に対して入射光の角度を変化させてエバネッセント波の分散関係を一致させ ると共鳴させることが出来る. この時の角度を共鳴角と呼ぶ. この共鳴角の変 化はすなわちセンサ表面の誘電率の変化と等しくなる. この共鳴角を高精度に 求めることが出来れば表面の誘電率変化を高感度に検出できる.

図 1-5 入射角度と反射光強度

入射角度

[

°

]

射 光 強 度

共鳴角

(23)

第1章 序章

- 13 - 1.5.3 SPR センサの特徴

SPR

センサでは何らかの方法で共鳴角を測定する必要があるが, 一般的に行

われているのはクレッチマン配置の光学系で, 入射光を楔状にして反射光を映 像素子で検出する方法である. その概略を図

1-6

に示す. 入射光を楔状にするこ とで入射角度が連続的に変化する様々な光線を同時に入射でき, 反射光を映像 素子で観察すると共鳴角にあたる光線は吸収されるため画像の特定の場所に暗 線が現れる. この暗線が現れる場所を画像処理で求める事で共鳴角を測定でき る. この様に共鳴角を画像として測定できるためリアルタイム測定が可能にな る.

この表面の誘電率変化を高感度にリアルタイムで測定できる特徴を生かし て物質の表面への吸着などをリアルタイムに測定できる. このためタンパク質 間の相互作用や生物由来物質を用いた測定などにも用いられる. 一般にこれら の物質を測定する場合は蛍光体や放射線マーカーなどを用いて物質に標識を行 い, この標識を手掛かりに測定を行う. しかし

SPR

センサの場合は相互作用を する物質の一方をセンサ表面に固定することでもう一方との相互作用(吸着)

を直接検出可能であるため

,

標識が必要とならない. また測定が行われるのは

センサ表面の極近傍の領域の誘電率変化であるため, 測定に必要な検体の絶対

量も微量で済む. これは非常に高価で大量に準備できない場合も多い生物由来

物質の測定においては利点であることが多い. これらの特徴から表面プラズモ

ン共鳴自体は極めて物理的な現象であるにもかかわらず

SPR

センサは生化学の

分野で多く用いられる.

(24)

第1章 序章

- 14 -

図 1-6 SPR センサの光学系とフローセルの断面図

入射光 反射光

プリズム 金薄膜 (4050nm

点光源

SPRの吸収 による暗線 フローセル

(25)

第1章 序章

- 15 -

1.5.4 本研究で用いた SPRセンサと実験方法

本研究においては

GE

ヘルスケア製

BiacoreJ

を用いた. その構成を図

1-7

に示す. この装置はクレッチマン配置の光学系を持ち測定を行うセンサ表面上 はフローセルになっており, 溶液をその流路に流通させることで測定を行う.

フローセルのサイズは

L:2.4mm, W:0.5mm, H:0.1mm

である. また共鳴角測定 の分解能は

10-4

°であり, これはタンパク質の吸着量に換算すると

1pg/cm2

の 吸着量にあたる

14).

フローセルでの実験にはランニングバッファとして

HBS-T

溶液を用いた.

HBS-T

溶液は

10 mM HEPES(2-[4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazinyl]-ethane sulfonic acid), 150 mM NaCl, 0.005vol% Tween 20

の混合溶液で

pH=7.4

であ

った. 測定は

25℃で行われた.

流速は

10l/min

または

30l/min

が用いられた.

図 1-7 GE Healthcare 製 Biacore J の構成

(26)

第1章 序章

- 16 -

1.6 自己組織化単分子膜(SAM)

15,16)

自己組織化単分子膜(self-assembled monolayer; SAM)とは金属基板やシリ コン基板などを溶液に浸漬することでその表面上に形成される単分子膜である.

本研究においては金属(金)基板をチオールまたはジスルフィド化合物の溶液 に浸漬することで金属・チオール結合を用いて自動的に表面に形成されるもの を指す. この単分子膜は配向性が高く, また金属・チオール結合の強さも静電相 互作用と共有結合の中間程度と比較的安定であるため, バイオセンサの表面修 飾技術として良く用いられる.

1.6.1 SAM の作製方法

SAM

を作製するには基板となる金属またはその薄膜が付いた基板を洗浄し

表面の有機物の汚染を取り除く. 次にチオールまたはジスルフィドを持つ化合 物のエタノール溶液(濃度

1 mM

程度)に基板を浸漬する. するとチオール・

金属結合を介して表面の金属元素と結合する. この反応は速く最初の数秒から

数分で金属の表面はほとんど覆われるが

,

この段階では分子の配向性が低く,

膜として安定ではない. その後, 約

24

時間程度で分子の配向性が高く緻密な単

分子膜が形成される

.

反応は室温付近で行われることが多い. この様な膜の分

子は金表面で(

√3 × √3

)R30°構造をしており, その構造を図

1-8

に示す通

り表面に対して垂直から約

30°傾いて形成されている.

(27)

第1章 序章

- 17 -

図 1-8 Au

表面へのアルカンチオール

SAM

の吸着サイトと断面図

1.6.2 SAM の自己組織化メカニズム及び特徴

SAM

が自己組織化されるメカニズムのドライビングフォースは複数存在す る. 第一は硫黄と金属間の親和性である. 硫黄・金属の相互作用は約

45kcal/mol

,

準共有結合レベルの安定な結合が形成される(炭素・炭素間の強さは約

83kcal/mol).

次に重要なものは

SAM

の分子のアルキル鎖同士に働くファンデ

ルワールス力による疎水性相互作用である. この相互作用は分子を表面から垂 直に対して傾けることで表面エネルギーを最小化させることができる

.

またこ の相互作用はアルキル鎖がある程度長い場合に現れ, 一般に炭素鎖が

10

以上で この相互作用が顕著になる. またこの効果のため複数種類の

SAM

試薬を混合し て

SAM

を形成した場合, アルキル鎖が長い方の分子が優先的に吸着し, 試薬の 混合比と

SAM

中の化合物の混合比は同じにならない. これらの事を勘案すると

Au S

30°

(28)

第1章 序章

- 18 -

炭素鎖が

10

以上のアルカンチオール(またはビスアルカンジスルフィド)化合 物を用いることで安定な

SAM

を形成できる.

SAM

では単分子膜が表面に高い配向性で形成されることを利用して表面に 様々な機能を導入できる. これはチオール基とはアルキル鎖を介して逆側に機 能性官能基を持つアルカンチオール化合物を用いることで達成できる

.

この時 の模式図を図

1-9

に示す. R の部分の官能基を変化させることで様々な表面を作 ることが出来る. 例えばメチル基の場合であれば疎水性の表面を作ることが出 来, ヒドロキシル基の場合であれば親水性の表面を作ることが出来る

.

アミノ 基やカルボキシル基を用いれば他の化合物やタンパク質などを固定できる表面 を作ることが出来る. この様に様々な官能基を末端に持つチオール化合物を用 いることで様々な機能性表面を作製することが出来る.

図 1-9 表面への機能性官能基の導入

C13チオール Thiol

Head Group

Substrate S

R

S

R

S

R

R= OH, COOH, NH2, CH3, ...etc

(29)

第1章 序章

- 19 -

1.7 アミンカップリング反応

17)

本研究ではセンサ表面の作製にアミンカップリング反応を用いる

.

この反 応を利用すると一級のアミノ基とカルボキシル基を結合させてアミド結合を作 ることが出来る. すなわちアミノ基を持つ化合物とカルボキシル基を持つ化合 物を結合させることが出来る. 一例を挙げるならばカルボキシル基を

SAM

によ ってセンサ表面に導入した場合, このアミンカップリングによってアミノ基を 持つ類似物質をセンサ表面に導入できる. このアミンカップリングの反応機序 を図

1-10

に示す. このアミンカップリングに用いる試薬は他にもあるが本研究 で は

N

ヒ ド ロ ス ク シ ン イ ミ ド

(N-hydroxysuccinimide; NHS)

EDC(1-Ethyl-3-[3-imethylaminopropyl]carbodiimide HCl)を用いている.

カル ボキシル基を持つ化合物と

NHS/EDC

混合液を混合するとまず

EDC

とカルボ キシル基が反応する. この反応は速いが得られた中間体の寿命も短く水により 加水分解される. また一部の中間体はそのまま一級アミンと反応しアミド結合 を作る. カルボキシル基と

EDC

の中間体は

NHS

と反応し

NHS

エステルを作 る. この

NHS

エステルも加水分解を受けやすいが, 水を避ければ比較的安定で ある. 次にこの

NHS

エステルに脱プロトン化した一級のアミンが反応しアミド を形成する. ここで重要なのは反応する一級アミンは脱プロトン状態であるこ とである. すなわち水溶液では反応は酸性よりもアルカリ性で起きやすくなる.

しかし強アルカリ性では

NHS

エステルが加水分解を受けやすくなる. そのため

低分子同士のアミドを作る場合は

pH=8.5

程度の水溶液を用いる. また

NHS

EDC

は水の影響を受けやすいのでその水溶液は冷凍状態で保存する必要があり,

使用直前に常温に戻し, 常温に戻した後は速やかに使用されるべきである.

(30)

第1章 序章

- 20 -

図 1-10 アミンカップリングのメカニズム

赤:原料(アミノ基・カルボキシル基) 青:生成物 (アミド)

橙:中間体 緑:カップリング剤(NHS/EDC) 紫:副生成物

(31)

第1章 序章

- 21 -

1.8 抗原抗体反応

生物は体内に侵入した異物に対応するために様々な防御機構を持っている.

その中で脊椎動物は複雑な防御機構を持っており, これを免疫と呼ぶ. この免 疫システムの中で異物を認識し, これらを排出したり無害化したりするために 働く免疫反応を抗原抗体反応と呼ぶ. この抗原抗体反応の主役は抗体タンパク 質で, 免疫系は様々な種類の異物に対応した抗体を持っている. この抗体に対 応する異物を抗原と呼ぶ. この抗体の抗原に対する認識能力を用いて様々なバ イオセンシングに用いられている.

1.8.1 抗体

抗体は体内に侵入した異物に対して

B

細胞が産生するタンパク質で, その 異物(抗原)に対して特異的に結合することで異物の毒性を無力化したり体外 への排出の手助けをしたりする. 抗体はイムノグロブリン(Ig)と呼ばれ, 可変領 域と定常領域に分けられる

.

可変領域は抗原結合にかかわる部分で, 抗体によ って様々な多様性を持つ. 定常領域は抗体の種類によって

IgG, IgM, IgA, IgD, IgE

に分類できる. ここでは最も多く本研究で用いる

IgG

について述べる.

IgG

4

本のポリペプチドがジスルフィド結合を介して接続された構造を 持ち, その可変領域と定常領域はそれぞれ

Fab(fragment, antigen binding)領域

Fc(fragment, crystallizable)領域と呼ばれる.

その模式図を図

1-11

に示す.

IgG

抗体は2つの

Fab

フラグメントの先端で分子を認識し特異的な吸着を起こ

(32)

第1章 序章

- 22 -

すことが出来る. 抗体は通常, 分子量約

5000

以上の高分子の異物に対して産生

される

.

しかし単一の抗体は高分子全体の構造を認識しているわけではなく,

高分子のごく一部の構造を認識して吸着する. 抗体が認識する抗原部位をエピ

トープと呼ぶ. 抗体はファンデルワールス力, 静電相互作用, 水素結合, 芳香族

性相互作用などの非共有結合を用いて抗原を認識している. これは抗原を鍵と

するならば対応する鍵穴の様な関係で表すことが出来る

.

その為, 抗原によく

似た構造を持つ部位にも結合してしまう特徴がある

.

この時, 抗体は抗原と結

合するがその親和性は弱くなる. この様な様子を図

1-12

に示す. この様に抗体

は抗原の小さな領域の化学構造を認識して抗原と結合している.

(33)

第1章 序章

- 23 -

図 1-11 IgG 抗体の構造

図 1-12 抗体の親和性

C H 3 C H 2

C H 3 C H 2 S S S S

+

-

+

- - +

+

-

+

- +

-

- +

-

+

抗原

抗体の抗原 結合サイト

親和性が高い場合 親和性が低い場合

(34)

第1章 序章

- 24 - 1.8.2 抗体の作製方法 18)

脊椎動物の体内に異物が侵入すると免疫細胞の一つの

B

細胞によって抗体 は産生される. B 細胞は多種多様の種類の物が存在し, 一種類の

B

細胞は一種類 の抗体を作成することが出来る. 異物が侵入した際, その異物の化学構造に対 応可能な抗体を産生できる

B

細胞が増殖し, 抗体を産生する. 抗体はその異物 の分子量が約

5000

以上の時に産生される. しかし抗体のエピトープ部位は異物 の小さな領域であるため, そのような異物に対しては複数種類の抗体が産生さ れる.

抗体は作製方法でポリクローナル抗体とモノクローナル抗体に分けられる.

ポリクローナル抗体は免疫原となる物質を動物に注射して抗体を産生させた後 にその血漿中の抗体を精製して得られる抗体である. 抗原に対して複数種の抗 体を持つため親和性が高いが, 抗体溶液を一度使い切ると同じ抗体溶液は得ら れず実験での再現性に劣るという欠点がある. 一方で、モノクローナル抗体を用 いるとこの様な欠点を克服できる。抗体を産生する

B

細胞を培養できれば同じ 抗体を産生できるが, B 細胞は生体外で長期にわたって生存できない. そこで無 限に増殖可能なミエローマ細胞と

B

細胞を融合させてハイブリドーマ細胞とす ると生体外で培養できるため同じ抗体を継続的に得ることが出来る. これをモ ノクローナル抗体と呼ぶ.

モノクローナル抗体の作製手順は次の様になる. まず動物に抗原を免疫し

て抗体の産生を確認した後, 脾臓を取出し, 個々の細胞まで細分化し, その懸濁

液を得る. 次に脾臓細胞の懸濁液とミエローマ細胞とをポリエチレングリコー

6000

などを用いて融合させる. 次にこの各種細胞の混合溶液を分離用培地で

育成する。この分離用培地はハイブリドーマ細胞のみ選択的に育成可能なもの

(35)

第1章 序章

- 25 -

を使用する。次にここで得られたハイブリドーマ細胞溶液をマイクロタイター プレート上に分散させ, 培養する. 次に各ウェルの上清の抗体活性を測定する.

活性の高いウェルを選択し

,

再び分離用培地に分散させて培養する. この分散 と選別を繰り返し, モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を得る.

これらは無限に増殖できるので, 必要に応じて増殖させ抗体を産生させれば同 じ構造の抗体を安定的に得られる. 一方で抗体の種類が

1

種類しかいないので 抗原との親和性が低い場合が少なくない. しかし同じ構造の抗体が得られるメ リットは大きくモノクローナル抗体が用いられることは多い.

分子量が約

5000

未満の分子が異物として動物の体内に侵入しても抗体は 産生されない. 一方で抗体のエピトープ部はその様な高分子全体の構造ではな く, 全体に対して極一部の構造である. そのため低分子に対して抗体を産生で きれば抗体を使用した選択性の高い分子認識が可能となる. その方法としてタ ンパク質などの分子量の大きな物質に低分子の目的物質またはその類似物質を 結合させて免疫することで低分子の抗体を得ることが出来る

.

この時, 使用さ れるタンパク質としては卵白アルブミン(OVA; 分子量 45,000), ウシ血清ア ルブミン(

BSA;

分子量 67,000)

,

スカシ貝ヘモシアニン(

KLH;

分子量

100,000~450,000)などがある.

この様な方法で低分子物質の抗体が得られた

時, その低分子の事をハプテン(抗原類似物質)と呼ぶ. 本研究で用いた

TNT

抗体 (Strategic Biosolutions 製) は

TNT

の類似物質である

TNP-glycine

KLH

タンパク質を結合させた複合体をマウスに免疫して得られたモノクローナル抗

体である.

(36)

第1章 序章

- 26 -

1.9 本論文の構成

本論文は本章を含めて以下の章で構成される.

第1章 序章

第2章 爆発物の検出方法 第3章

RDX

の高感度検出

第4章 ラジカル重合によるビニル系ポリマーを用いた

TNT

の高感度検出 第5章 表面開始原子移動ラジカル重合を用いたセンサ表面による

TNT

の高感 度検出

第6章 本論文のまとめ

第1章では本研究の背景と本研究で用いる

SPR

センサの原理や装置の説明, 表面修飾に用いる

SAM

やアミンカップリング反応の説明, 測定原理として用い る抗原抗体反応の説明などを行う.

第2章では爆発物の検出方法について述べる. 検出に影響を与える要因や 具体的な測定方法である間接競合法や置換法の説明を行う.

第3章では

RDX

の抗体を作製し, RDX の検出を行う.

第4章ではラジカル重合を用いて作製したポリマーによるセンサ表面につ いて述べる. ここではポリマーの作製条件と非特異吸着性を評価し

TNT

の高感 度検出を行う.

第5章では表面開始原子移動ラジカル重合を用いて作製したセンサ表面に ついて述べる. まず表面の作製に用いている原子移動ラジカル重合についてメ カニズムや影響を与える要因について説明する. また混合モノマーや混合

SAM

を用いての非特異吸着抑制や抗体とセンサ表面の親和性制御と

TNT

の高感度検 出についても述べる.

第6章では本論文の総括と今後の展望について述べる.

(37)

第2章 爆発物の検出方法

- 27 -

2 章 爆発物の検出方法

2.1 諸言

本章では

SPR

免疫センサを用いて爆発物の検出を行う場合に必要となる性

能や具体的な方法について述べる. SPR センサは高感度な屈折率計で, センサ

表面での物質の相互作用を検出することが出来る. しかし

RDX

TNT

分子の

様な低分子との相互作用は屈折率変化が小さく

SPR

センサにおいても直接検出

することが難しい. また

SPR

センサ自体には表面で起こる相互作用に関して選

択性はない. そこで選択性を持ち相互作用による屈折率変化が大きい抗体の吸

着を用いる. 本研究では抗原抗体反応の抗体とセンサ表面の相互作用を用いて

RDX

TNT

を間接的に検出するが, その方法についても述べる.

(38)

第2章 爆発物の検出方法

- 28 -

2.2 爆発物探知装置に求められる性能

爆発物探知装置にとって最も重要な性能は即応性, 感度, 選択性である. 一

般に感度や選択性は即応性とトレードオフの関係にある. そのため測定に時間

をかけると感度を高めることが出来るが, 逆に言えば即応性を犠牲にしない方

法で感度や選択性を高めることが出来れば, それらを犠牲にして即応性を高め

ることもできる. それ以外に重要な性能は測定の正確性や簡便性である. 正確

性は測定の信頼性である. 誤検出を繰り返す様な測定装置ではその検出に信頼

がおけず装置として使用できない. これを防ぐには機器のセルフチェック機能

や校正用試薬によるキャリブレーションが必要になる. 簡便性は装置の操作や

データ解析の簡便性である. 簡便性が無ければ検査員の育成に時間とコストが

かかる上, 誤検出の可能性も高くなる. また即応性にも関係してくる. これらの

要求に応えるべく, 我々は

RDX

TNT

抗体を用いた

SPR

免疫センサを用いた.

(39)

第2章 爆発物の検出方法

- 29 -

2.3 高感度検出についての検討

SPR

センサと抗原抗体反応を用いて低分子を高感度に検出するには多種多 様なパラメータを制御する必要がある. まず

SPR

センサの方では測定に用いる ランニングバッファの種類やその扱い, また流速なども影響を与える. 低分子 物質の表面への吸着に伴う誘電率変化は小さいので, それを補う測定法も必要 となる. 抗原抗体反応の特異的な結合を用いて検出を行うため, その様な反応 によらない表面への吸着である非特異吸着なども測定に影響を与える

.

このセ クションではそれらについて述べる.

2.3.1 測定方式

RDX

TNT

の分子量は数百と低く, 抗体をセンサ表面に固定して

RDX

TNT

分子を抗原として表面に直接吸着させたとしても屈折率変化が小さいため

SPR

センサで検出することは難しい. そこでセンサ表面には抗原の類似物質を 固定して抗原・抗体と類似物質・抗体の親和性の差を利用し, 表面に対する抗体 の吸着特性を

SPR

センサで測定することで間接的に抗原の検出を行う. この研 究 で は 間 接 競 合 法

(indirect competitive assay)19)

と 置 換 法

(displacement

assay)20,21)

を用いた. 間接競合法は高感度の検出に向いている一方で測定時間

が長く, 置換法は測定時間が短いが感度は低い. 次にこれらについて述べる.

(40)

第2章 爆発物の検出方法

- 30 - 2.3.2 間接競合法

間接競合法では抗原類似物質への抗体の結合が抗原の存在によって競合す ることを用いる. すなわち抗原が存在すると抗体は抗原類似物質よりも抗原に 吸着しやすくなり, 抗原類似物質を固定しているセンサ表面には抗体は吸着し にくくなる. この時, 表面に吸着している抗体の量から抗原濃度を推定する.

次に具体的な方法を述べる. 間接競合法ではある一定濃度の抗体溶液を使用 する. 抗体溶液は

SPR

測定に用いるランニングバッファを溶媒として作製する.

まず最終濃度の倍の濃度の抗体溶液を用意する. この溶液と同容量のランニン グバッファを混合させ抗体溶液を作製する. 同様に最終濃度の倍の抗体溶液と 最終濃度の倍の抗原溶液を

1:1

で混合させて抗体抗原混合溶液を作製する. この 抗体抗原混合溶液は抗原分子と抗体を結合させるため必要に応じて一定時間静 置する(インキュベーション)

.

測定においてはまず抗体溶液をセンサ表面に流 通させる. この時, センサ表面の類似物質に抗体が結合しセンサグラムが上昇 する. 一定時間の流通の後, 流通前後のセンサグラム変化を

0

として記録する.

次に再生溶液を流通させてセンサ表面から抗体を解離させる

.

その後, 抗体抗 原混合溶液を先ほどと同じ時間流通させて流通前後のセンサグラム変化を

1

として記録する. この時, 抗体抗原混合溶液では抗原濃度に応じて抗体が抗原

分子と結合している. この様な抗体は表面と結合しないため抗原濃度に応じて

表面へ結合する抗体の量は小さくなる. この時のセンサグラムと実験の概要を

2-1

に示す. この

1/0

の比を結合率(Bond Percentage)と呼ぶ. この結合率

を各抗原濃度で測定し検量線を作成する. また各濃度で

3

回の測定を行う. 検出

限界は最も低濃度の抗原溶液での測定値の標準偏差の

3

倍から求める.

(41)

第2章 爆発物の検出方法

- 31 -

図 2-1 間接競合法のセンサグラムと実験の様子

次に間接競合法で測定に影響を与える要因を探るためにモデル化を試みる.

間接競合法における抗原と抗体の濃度の関係は

Piehler

らによって報告されて いる

22).

この報告では抗原と抗体の親和性と抗原, 抗体, 抗原抗体複合体の濃度 を用いて定式化されている. しかし我々のセンサでは抗原と抗体の親和性だけ でなく抗原類似物質と抗体の親和性も重要である. そこで抗原類似物質の要素 を含めて定式化を試みた. ただし簡単化のため抗体と抗原・抗原類似物質の結合

時間

Sen sor gr am

抗原 抗原類似物質 抗体

0

1

抗体 再生 のみ フロー

抗体+

TNT フロー

再生 抗体 再生 のみ フロー

抗体 再生 のみ フロー 抗体+

TNT フロー

再生

(42)

第2章 爆発物の検出方法

- 32 -

は簡単化のため一価のみとした. また抗原・抗体および抗原類似物質・抗体の結 合量は平衡状態であるとした. これは実際の測定においては溶液の流通時間を 無限時間としたことに対応する. 定式化に用いるパラメータを表

2-1

に示す. ま ず平衡の関係から次の式が導かれる.

𝐶𝑎𝑏𝑎𝑔

𝐶𝑎𝑏∙𝐶𝑎𝑔 = 𝐾1 (2.1)

𝐶𝑎𝑏ℎ𝑎𝑝

𝐶𝑎𝑏∙𝐶ℎ𝑎𝑝 = 𝐾2 (2.2)

次に抗原・抗体・抗原類似物質の総量は一定であるから次の式が導かれる.

𝐶𝑎𝑏,0 = 𝐶𝑎𝑏 + 𝐶𝑎𝑏𝑎𝑔+ 𝐶𝑎𝑏ℎ𝑎𝑝 (2.3) 𝐶𝑎𝑔,0 = 𝐶𝑎𝑔 + 𝐶𝑎𝑏𝑎𝑔 (2.4) 𝐶ℎ𝑎𝑝,0 = 𝐶ℎ𝑎𝑝+ 𝐶𝑎𝑏ℎ𝑎𝑝 (2.5)

最終的に

SPR

センサの信号として出力されるのは類似物質に結合した抗体なの

Cabhap

を求める必要があるが, ここではまず

Cab

を求める. まず式(2.1)(2.2)を

用いて連立方程式(2.3)(2.4)(2.5)は次の様に書き換えられる.

𝐶𝑎𝑏,0= 𝐶𝑎𝑏 + 𝐾1𝐶𝑎𝑏𝐶𝑎𝑔+ 𝐾2𝐶𝑎𝑏𝐶ℎ𝑎𝑝 (2.6) 𝐶𝑎𝑔,0 = 𝐶𝑎𝑔+ 𝐾1𝐶𝑎𝑏𝐶𝑎𝑔 (2.7) 𝐶ℎ𝑎𝑝,0 = 𝐶ℎ𝑎𝑝+ 𝐾2𝐶𝑎𝑏𝐶ℎ𝑎𝑝 (2.8)

(43)

第2章 爆発物の検出方法

- 33 -

表 2-1 間接競合法の定式化に用いたパラメータ

連立方程式(2.6)(2.7)(2.8)を

Cab

に対して一つにまとめると次の様になる.

𝐾1𝐾2𝐶𝑎𝑏3+ {𝐾1+ 𝐾2+ 𝐾1𝐾2(𝐶𝑎𝑔,0 + 𝐶ℎ𝑎𝑝,0− 𝐶𝑎𝑏,0)}𝐶𝑎𝑏2+ {𝐾1(𝐶𝑎𝑔,0− 𝐶𝑎𝑏,0) + 𝐾2(𝐶ℎ𝑎𝑝,0− 𝐶𝑎𝑏,0) + 1}𝐶𝑎𝑏 − 𝐶𝑎𝑏,0 = 0 (2.9)

この式を

Cab

について解を求める. 解は複雑であるため記述は省略する. そして 式(2.2)(2.5)から得られる次式で

Cabhap

に変換する.

𝐶𝑎𝑏ℎ𝑎𝑝 =𝐾2𝐾𝐶𝑎𝑏𝐶ℎ𝑎𝑝,0

2𝐶𝑎𝑏+1 (2.10) Cab

平衡時の抗原・類似物質と結合していない抗体濃度

Cag

平衡時の抗体に結合していない抗原濃度

Chap

平衡時の抗体に結合していない類似物質濃度

Cab,0

初期の抗体濃度

Cag,0

初期の抗原濃度

Chap,0

初期の類似物質濃度

Cabag

平衡時の抗体抗原複合体濃度

Cabhap

平衡時の抗体抗原類似物質複合体濃度

K1

抗体と抗原の結合定数

K2

抗体と抗原類似物質の結合定数

図  1-1    RDX および TNT の化学構造
図  1-7 GE Healthcare 製  Biacore J  の構成
図  1-10  アミンカップリングのメカニズム 赤:原料(アミノ基・カルボキシル基) 青:生成物 (アミド)
図  3-2  RDX の検出のためのセンサ表面の作製 1 mM PEG6-aromatic dialkanethiol in ethanol at R.T. for 24 h0.4 M EDC / 0.1M NHS at R.T
+6

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