建 築 物 に お け る 収 納 可 燃 物 特 性 と そ の 火 災 拡 大 性 状 へ の 影 響 に 関 す る 研 究
Characterization of live fire load in buildings for the application to fire investigation and fire safety
design
2007 年 3 月
早稲田大学大学院理工学研究科 建築学専攻 建築防災・設備研究
南 東君 Nam Dong-gun
【 目 次 】
[序論]
第 1 章 研究の背景
1.1 研究の背景及び目的 --- 1
1.2 本論文の構成と各章の内容の概略 --- 2
1.3 既往の研究 --- 5
[本論] 第 1 編 収納可燃物の燃焼実験による火災拡大性状の推定 --- 9
第 2 章 大規模木造体育館の火災事例とその火災拡大要因の推定 2.1 はじめに --- 10
2.2 体育館における急激な火災拡大までの経緯 --- 11
2.3 火災拡大要因の実証実験 --- 16
2.3.1 実験目的 --- 16
2.3.2 実験概要 --- 16
2.3.3 実験結果 --- 22
2.4 燃焼実験の結果に基づく火災拡大性状の推定 --- 33
2.5 まとめ --- 37
2.5.1 体育館におけるフラッシュオーバーまでの火災拡大経過の推定 --- 37
2.5.2 燃焼実験から推定される火災拡大経過の妥当性の検討 --- 37
2.5.3 再発防止のための防火対策 --- 39
第 3 章 集合住宅の火災事例とその初期火災拡大機構の推定 3.1 はじめに --- 42
3.2 現場調査 --- 44
3.2.1 一般事項 --- 44
3.2.2 被災住戸調査で把握された焼毀状況 --- 45
3.2.3 現場調査から推定される火災拡大経過 --- 47
3.3 火災拡大要因の実証実験 --- 50
3.3.1 実験目的 --- 50
3.3.2 出火室の残留物 --- 51
3.3.3 実験概要 --- 52
3.3.4 実験結果 --- 55
3.3.5 本火災における出火原因及び初期火災拡大機構の推定 --- 58
3.3.6 火災原因推定方法の妥当性の検証 --- 60
3.4 まとめ --- 62
第 2 編 建築物の性能的火災安全設計のための収納可燃物特性の実証的研究--- 64
第 4 章 物流施設における収納可燃物特性 4.1 はじめに --- 65
4.2 大規模郵便局における収納可燃物の実態調査 --- 66
4.2.1 調査目的 --- 66
4.2.2 調査概要 --- 66
4.2.3 郵便物の流れ --- 70
4.2.4 調査方法 --- 72
4.2.5 調査結果 --- 74
4.2.6 郵便物量の年間変動における調査データの位置づけ --- 77
4.2.7 物流施設の収納可燃物量の予測モデルの構築と調査郵便局への適用 --- 79
4.2.8 郵便局の単位面積あたり発熱量の評価 --- 84
4.3 郵便局に特有な収納可燃物の燃焼実験 --- 85
4.3.1 実験目的 --- 85
4.3.2 実験概要 --- 85
4.3.3 実験結果 --- 90
4.3.4 実験結果のまとめ-最大発熱速度と積算発熱量について --- 108
4.3.5 実験結果のまとめ-火災成長率について --- 110
4.4 まとめ --- 115
第 5 章 大型書店における収納可燃物特性 5.1 はじめに --- 119
5.2 大型書店における収納可燃物の実態調査 --- 120
5.2.1 調査目的 --- 120
5.2.2 詳細調査(書店 A) --- 120
5.2.2.1 調査概要 --- 120
5.2.2.2 単位面積あたり発熱量や収納可燃物表面積等の算定方法 --- 122
5.2.3 詳細調査の結果(書店 A) --- 125
5.2.3.1 収納可燃物量把握からみた書籍と売場構成の基本特性 --- 125
5.2.3.2 収納可燃物量、収納可燃物密度、単位面積あたり発熱量 --- 127
5.2.3.3 収納可燃物表面積 --- 128
5.2.4 書架の寸法等に基づく収納可燃物量の簡易調査法の検討 --- 129
5.2.4.1 簡易調査法の必要性とその方法 --- 129
5.2.4.2 可燃物量等の算定方法 --- 129
5.2.4.3 簡易調査法と実態調査結果との比較(書店 A)--- 130
5.2.5 簡易調査法による収納可燃物調査(書店 B) --- 131
5.2.5.1 調査概要 --- 131
5.2.5.2 調査結果 --- 131
5.2.5.3 簡易調査法による調査負担軽減効果 --- 134
5.2.6 収納可燃物の実態調査結果のまとめ --- 136
5.3 大型書店における収納可燃物の燃焼実験 --- 137
5.3.1 実験目的 --- 137
5.3.2 燃焼初期性状 --- 137
5.3.2.1 実験概要 --- 137
5.3.2.2 実験結果 --- 143
5.3.2.3 試験体の燃焼初期の発熱性状のまとめ及び考察 --- 153
5.3.3 火災盛期における書架と収納書籍の燃焼性状 --- 162
5.3.3.1 実験概要 --- 162
5.3.3.2 実験結果 --- 166
5.3.3.3 実験結果に基づく試験体の燃焼速度と露出表面積あたり 発熱速度の算定 --- 170
5.4 まとめ --- 175
[結論] 第 6 章 本論文の総括と今後の展望と課題 6.1 本論文の総括 --- 179
6.2 今後の展望と課題--- 186
・謝辞
・研究業績
[序 論]
第 1 章 研究の背景
第 1 章 研究の背景 1.1 研究の背景及び目的
火災時の建物内の煙の流動拡大と制御、室火災盛期の継続時間等については、数多くの実大 規模の火災実験に基づいて、建物の諸条件を入力して予測するモデルが開発され、防災計画等 の実務にも使われている。しかし、火災初期の燃焼拡大や火災盛期の継続時間を規定する最も 基本的な条件である建物内の可燃物の量・燃焼性状のうち、家具、商品等の収納物のそれにつ いては、実際の建物の実態調査や個々の収納可燃物の燃焼実験によらなければ把握できない。
これらの実測、実験例は少ないが、施設の収納可燃物量の調査には一般に時間が要するため、
休みなく使われる施設や収納可燃物量の変動が激しい施設では収納可燃物量の把握は困難で、
大型店舗、物流施設等、性能的防災計画の適用が期待されるにもかかわらず、収納可燃物量の 把握が進んでいない施設は少なくない。このような施設について収納可燃物量のデータを蓄積 するためには、施設の運営に支障を与えずに、収納可燃物特性に基づく可燃物量の調査・予測 方法を開発する必要性が大きい。
一方、収納可燃物の燃焼特性は、従来、防災計画への応用を目的に測定されることが多かっ たが、現実に発生した火災の原因を究明しようとする場合も、その把握は最も基本的な要件で ある。火災原因の把握は、同様の火災の再発防止をはじめ、被災に至る責任解明のためにも必 要である。火災調査は、火災の発見者から消防通報を受けた所轄消防署が、また、事件性があ る火災や死亡者が発生した火災については警察署が行い、消防と警察では火災現場に残された 収納可燃物の残留物の検査・分析等に基づいて火災原因の特定を行うが、現実の火災では、出 火物や火災拡大に重大な影響を及ぼした可燃物が焼失していることが多いため、現場の状況の 調査だけでは火災原因を解明できないことが多い。収納可燃物の燃焼特性の把握や火災拡大性 状のモデル化は、この限界を乗り越える手法になり得ると考えられ、実火災の再現実験が捜査 等の一環として実施される場合も多いが、目撃者がいなかったり、死亡したりした実火災の経 過は、現実には推定の域を出ないため、再現実験自体の信頼性が検証された例は少なく、再現 実験等による火災原因究明の方法論が確立されているとは言い難い。
以上の背景から、本論文は、火災性状に関する予測・評価に関する諸分野の中でも、工学的 な把握が立ち遅れている収納可燃物の量・燃焼性状を把握することを目的として、実測調査や 燃焼実験を実施し、防災計画や火災原因調査に必要な収納可燃物特性の基礎データの整備を図 るとともに、火災調査への応用を主な視野に入れて、収納可燃物の燃焼性状に基づく火災拡大 機構の推定方法を提示する。
1.2 本論文の構成と各章の内容の概略
本論文は下記のように序論、本論、結論より構成される。
序論(第 1 章)の後、本論は二つの編に分かれ、第 1 編「収納可燃物の燃焼実験による火災 拡大性状の推定」は第 2 章、第 3 章より、第 2 編「建築物の性能的火災安全設計のための収納 可燃物特性の実証的研究」は第 4 章、第 5 章より構成され、第 6 章が結論である。なお、本論 の第 1 編では、火災原因把握のための可燃物燃焼特性の測定と分析方法を具体的な事例を通し て研究し、また、本論の第 2 編では、可燃物特性の把握に困難があるとされてきた施設の可燃 物量の実測と予測方法の研究、並びに可燃物特性の測定を行っている。
以下、本論文の各章の内容の概略をやや詳しく記述する。
[序論]
第 1 章 研究の背景
本研究に至った背景、研究の目的を記述するとともに、実火災の調査と収納可燃物の燃焼特 性に関する既往の研究や建築物の火災安全設計のための収納可燃物特性の把握に関する既往 の研究と、本論文の研究対象の関係を記述した。また、本論文の各章の内容の概略を記述した。
[本論]
第 1 編 収納可燃物の燃焼実験による火災拡大性状の推定
第 1 編は、第 2 章、第 3 章より成るが、実火災の原因・経過の科学的推定法の構築という観 点から、実際に発生した建物火災を各章で 1 件づつ取り上げ、収納可燃物の燃焼性状の測定と、
それに基づく火災拡大機構の推定を行っている。対象とした火災はいずれも、出火原因や火災 拡大の機構を火災現場や残留物の調査では解明できなかった事例であり、出火点と推定される 位置付近にあった可燃物の燃焼実験を行い、実験結果による火災現場状況の説明可能性の検討 や実験結果を入力条件とする火災性状解析により、出火原因や火災拡大機構の推定を行ってい る。更にその妥当性を、解析実施時には開示されなかった調査資料や他の方法による火災拡大 経過との比較により検証して、可燃物の燃焼特性の把握に基づく出火・火災拡大原因分析の方 法を提示しようとするものである。
第 2 章 大規模木造体育館の火災事例とその火災拡大要因の推定
従来、大空間を有する大規模体育館では、床面積が大きいのに対して収納可燃物量が少ない ため、フラッシュオーバーが起こりにくいと予想されていたが、2000 年 10 月 17 日、広島県福 山市立加茂中学校体育館で発生した火災は、短時間にフラッシュオーバーが発生した点で、火 災安全工学上、強い関心を集めた。本章では、大規模体育館で急激な燃焼拡大が生じた要因を
究明するため、出火点近傍にあった収納可燃物等を対象に燃焼実験を実施し、発熱量や燃焼性 状と、本体育館でフラッシュオーバーが起こり得る燃焼発熱量とを比較・検討することにより、
フラッシュオーバーの発生メカニズムを推定した。この推定結果の妥当性は、火災の発生から 鎮火までの時間経過に関する事象や、建物構造部の集成材の炭化深さの測定結果との比較によ り明らかにした。更に、実験結果に基づき、同様の体育館での火災の再発防止をするための防 火対策について考察した。
第 3 章 集合住宅の火災事例とその初期火災拡大機構の推定
建物火災では出火源となる可燃物と周囲可燃物は焼失することが多いため、出火原因や初期 火災拡大性状を推定するのは困難である。本章では、出火原因が不明と判断された集合住宅火 災事例を取り上げ、まず、現場調査で残留物の焼毀状況から出火位置や初期火災拡大性状の推 定を行った上で、出火位置にあった収納可燃物を対象に燃焼実験を行い、収納可燃物の燃焼発 熱性状や可燃物間の延焼拡大性状から出火原因や初期火災拡大性状を推定した。即ち、燃焼実 験は、小規模な火源を用いて収納可燃物を対象に出火位置を変えて繰り返し行い、実験で観察 された収納可燃物の燃焼拡大性状や燃焼後の焼毀状態が、どの条件であれば、火災現場の残留 物特性と近いかを比較・分析する手法で、出火原因や初期火災拡大性状を推定した。この推定 結果の妥当性は、実験後の収納可燃物の残留物の位置と実験時に開示されなかった所轄消防署 の現場の残留物の位置とを比較検討することにより、明らかにした。
第 2 編 建築物の性能的火災安全設計のための収納可燃物特性の実証的研究
第 2 編では、これまで、収納可燃物量の把握が困難とされたまま、性能的火災安全設計の展 開が停滞していた物流施設(第 4 章)と大型書店(第 5 章)について、火災荷重等の可燃物特性を 実態調査して、設計データとして提示するとともに、施設の運用を妨げずに収納可燃物量等を 調査・予測する方法を示し、火災荷重等を支配する要因を明確化した。また、これらの施設に 特有な収納可燃物の燃焼特性を実験により把握し、火災安全設計等に使うためのモデル化を図 った。
第 4 章 物流施設における収納可燃物特性
建物の性能的火災安全設計を行うためには、収納可燃物の種類や量等の特性が不可欠である。
しかし、物流施設である大規模郵便局は、壁・柱の少ない大空間が要求され、在館者密度も他 の建築空間に比べて少ないため、性能的火災安全設計が望まれるが、収納可燃物特性が把握さ れておらず、性能的火災安全設計を困難にしている。また、大規模郵便局では収納可燃物量が 他の建物と違い、時間的に変動する特徴があるが、このような収納可燃物に対する調査方法は 確立されていない。以上の背景から、本章では、物流施設の性能的火災安全設計に利用する目 的で、大規模郵便局を対象に収納可燃物の実態調査と燃焼実験を行い、収納可燃物の量や燃焼
発熱量等の特性を把握した。実態調査では収納可燃物の変動を考慮した調査方法を開発し、新 たな収納可燃物量の調査方法で把握した収納可燃物量に基づいて、建築基準法の避難安全検証 法で設計火源として用いられる単位面積あたり発熱量の推奨値を提示した。現場調査では莫大 な時間と労力を必要とすることを考慮して、現場調査を軽減する目的で収納可燃物量の予測モ デルを考案し、このモデルの妥当性も検証した。
第 5 章 大型書店における収納可燃物特性
第 4 章で述べたように、収納可燃物特性は建物の性能的火災安全設計に不可欠であるが、商 業施設では、一年を通してほとんど休業がない等、収納可燃物調査に多くの困難があるため、
収納可燃物特性に関する調査例が少ない。本章では、商業施設の中でも収納可燃物密度が大き いにもかかわらず、収納可燃物密度等の特性が十分に把握されていない大型書店について、性 能的火災安全設計へ利用する目的で、収納可燃物を対象に実態調査を行い、火災安全設計の基 本となる諸量を把握した。大型書店の収納可燃物特性には様々な規則性が認められたため、書 架の寸法に基づく収納可燃物量の簡易調査法を考案し、この簡易調査法の妥当性を検討すると ともに、簡易調査法を現場調査に用いた場合の有効性を明らかにした。また、大型書店では書 籍等の量が多いのに対して、店内に書籍が並べられた状態では空気接触面積が小さいため、火 災時の分解・発熱速度が緩慢になるとの推測もあるが、この事実は実験等により検証された訳 ではない。本章では、これを検証して書店の性能的火災安全設計に利用する目的で、書架に書 籍を入れた状態での燃焼実験を、出火直後を想定した条件と火災盛期を想定した条件の 2 通り の点火・加熱環境条件のもとで実施し、火災初期と火災盛期における書架と収納書籍の燃焼発 熱性状の把握を行った。
[結論]
第 6 章 本論文の総括と今後の展望と課題
第 6 章では、本研究で得られた成果を総括するとともに、今後の展望と課題について論じた。
1.3 既往の研究
1.3.1 実火災の調査と収納可燃物の燃焼特性に関する既往の研究
建物の火災原因や火災拡大機構を究明するためには、火災室内の焼損状況等の一般情報が不 可欠である。しかし、火災調査は消防や警察が行うが、消防や警察では火災に関する情報の守 秘義務があるため、火災調査後も火災の情報を公開することは少ない。また、市街地火災を除 けば、火災はプライバシーの高い建築空間内で発生、終始するため、消防、警察が職権で調査 する場合を除けば、調査には建物所有者、住民等の同意が不可欠である。しかも、一般的な火 災は短時間で復旧又は解体が行われるため、火災直後に調査を準備できなければ学術的に意味 のある調査自体が困難である。学術的な立場から実火災の調査が行われるのは、火災規模が大 きくても死傷者が出なかった等の場合にほぼ限られる。こうした調査により、避難者の避難安 全性や火災拡大機構が究明できた研究報告としては、たとえば、和歌山県白浜温泉のホテル天 山閣火災に対して従業員の対応行動と在館者の避難行動の実態を分析・検討したもの1-1),1-2)、 広島基町高層住宅の火災事例に対して居住者の火災時の避難行動実態について報告したもの
1-3),1-4)、共同住宅の火災事例に対して火災後の建物の被害状況と防災設備の作動状況、居住者
の火災時の避難行動実態について報告したもの1-5)がみられる。特に広島基町高層住宅の火災事 例はバルコニーを経路として建物の 12 層分が急激に上階延焼したが、実大実験を行って上階 延焼した原因を明らかにし、高層住宅での垂直延焼拡大性状について考察している1-4)。しかし、
建物火災事例に関連して、収納可燃物を対象に燃焼実験を行い、その燃焼発熱性状から出火点 や火災拡大性状を解析した研究報告はほとんどない。
1.3.2 建築物の性能的火災安全設計のための収納可燃物特性の把握に関する既往の研究 建物における収納可燃物の種類、密度、燃焼等の特性は火災規模や火災拡大性状に大きな影 響を及ぼすため、建物の性能的火災安全設計を行う上で不可欠である。建物用途別における収 納可燃物特性に関する研究報告としては、1970 年代、1980 年代に事務所や学校等を対象に実 施された数例の可燃物調査の研究報告1-6),1-7)があり、また、1982~1986 年の 5 年間にかけて建 設省が主導で行った総合技術開発プロジェクト「建築物の防火設計法の開発」の一環として実 施された「耐火設計法の開発」のもとで、建築物の耐火性能等を明らかにするために事務所等 の建物用途を対象に収納可燃物の実態調査が行われ、収納可燃物密度1-8)が提案されている。し かし、これらの調査が行われた時期から、情報化等を背景として社会構造、産業構造は大きく 変化しており、当時は存在しなかった新しい用途の施設が出現し、従来からある用途の施設も、
大規模化や管理・利用形態の変化が著しい。本論文の研究対象となる物流施設の大規模郵便局 と商業施設の大型書店は、既往の研究では対象外となっており、収納可燃物密度等の特性が明
らかにされていない。また、物流施設や商業施設は、施設利用の長時間化も目立っており、十 分な数の施設について調査を実施して、収納可燃物データを整備し、その後も調査を継続して その年代的変化も把握できるようにするためには、施設の運営に支障とならないように短時間 で調査する方法を開発する必要がある。過去に収納可燃物特性の調査を合理化するために行わ れた工夫としては、事務所で家具・什器を類型化し、類型毎の代表質量にその数を乗じたり、
書類・資料の判型を仮定し、その判型の単位厚さあたり質量と総厚さを乗じて収納可燃物量を 求めたもの等 1-10)1-11)があるが、同様の方法論を物流施設や商業施設についても確立すること が望ましい。
一方、建物の収納可燃物の燃焼性状等の把握を目的とした燃焼実験に関する既往研究として は、OA 家具の燃焼性状に関するもの1-12) 1-13)、椅子を対象に燃焼発熱性状を把握したもの1-14)~
1-17)、ビール箱や紙製カートンの燃焼実験1-18)等がある。このように、OA 家具や椅子等を対象に
行われた燃焼実験は数多くあるが、本論文で取り上げている大規模郵便局と大型書店の収納可 燃物を対象に燃焼発熱性状の測定を行った研究報告は見られない。
【参考文献】
1-1) 大宮喜文、水野雅之、中野美奈:ホテル火災時における従業員の対応行動に関するア ンケート調査―和歌山県白浜温泉で発生したホテル火災事例、日本建築学会技術報告 集 第 10 号、P125-128、2000.6
1-2) 水野雅之、大宮喜文、若松高旺:ホテル天山閣火災における在館者の避難行動―ホテ ル従業員に対するヒアリング調査、日本建築学会技術報告集 第 10 号、P129-134、
2000.6
1-3) 日本火災学会:広島市期町高層住宅火災時の居住者の避難行動について、火災 vol.47、
No.2、P14-22、1997.4 火災 vol.47、No.48、P54-59、1997.8
1-4) Hokugo, A., Hasemi, Y., Hayashi, Y., Yoshida, M.:Mechanism for the upward fire spread through balconies based on an investigation and experiments for a multi-story fire in high-rise apartment building, Proceedings of the Sixth International Symposium on Fire Safety Science, P649-660, 1999
1-5) 長谷見雄二、古川容子、大山有紀子、徳川未来、柿木英治:中廊下型共同住宅の火災 事例調査―火災・煙による被害範囲と建築側条件・防災設備の状況、日本建築学会技 術報告集 第 19 号、P163-168、2004.6
1-6) 耐火建築物設計における標準可燃物量の調査研究、日本鋼構造協会、1973 1-7) 建築物内の可燃物量に関する実態調査、maun 都市建築研究所、1983
1-8) (財)日本国土開発技術研究センター編:建築物の総合防火設計法 第 4 巻、日本建築 センター、P141-151、1989
1-9) 日本建築学会:鋼構造耐火設計指針、P22-31、1999
1-10) 油野健志、山仲秀利、大宮喜文、高橋清、田中哮義、若松孝旺:実態調査に基づく可 燃物量とその表面積分析、日本建築学会計画系論文集 第 483 号、P1-8、1996.5 1-11) 栗岡均、佐藤博臣、矢代嘉郎、掛川秀史、笠原勲、池畠由華、若松孝旺、松山賢:可
燃物調査方法と結果(事務所ビルの避難安全設計火源に関する研究その 1)、日本火災 学会研究発表会概要集、P360-363、2002
1-12) 三木邦宏、須川修身、若松孝旺:パーティションの燃焼性状に関する研究、日本建築 学会大会学術講演梗概集、P735-736、1988
1-13) 高嶋秀一、長谷見雄二、吉田正志、若松高旺:OA 家具の燃焼性状に関する実験的研究、
日本建築学会大会、1993.9
1-14) 水野智之、長岡勉、山田人司、長谷見雄二、吉田正志、薮田孝敏:椅子の燃焼性状に 関する実験的研究、平成 10 年度日本火災学会研究発表会概要集、P290-293、1998 1-15) 水野智之:椅子の燃焼速度について 初期火災時における家具類の燃焼性状に関する
実験的研究その 1、日本建築学会構造系論文報告集 第 363 号、P103-109、1986 1-16) 水野智之:火炎性状に関する考察 初期火災時における家具類の燃焼性状に関する実
験的研究その 2、日本建築学会構造系論文報告集 第 370 号、P102-108、1986
1-17) 長岡勉、小平章夫、上原茂男、長谷見雄二、吉田正志:椅子の燃焼発熱性状、2000 年 度日本建築学会関東支部研究報告集、P301-304、2000
1-18) 吉田正志:収納可燃物の燃焼性状、日本建築学会大会、P37-38、2000.9
1-19) 松山賢:性能的火災安全設計に用いる火災性状モデルの構築と火災安全性能評価への 応用、東京理科大学博士論文、2000
第 2 章 大規模木造体育館の火災事例とその火災拡大要因の推定 第 3 章 集合住宅の火災事例とその初期火災拡大機構の推定
[本 論]
第 1 編 収納可燃物の燃焼実験による火災拡大性状の推定
第 1 編 収納可燃物の燃焼実験による火災拡大性状の推定
可燃物の燃焼性状を、建築空間内での火災拡大性状との関係で分析評価する必要が特に大き い問題として、現実に発生した火災の原因調査があげられる。
火災原因調査は、これまで、消防、警察、損害保険、学術等、様々な立場から行われてきた が、目的は、現象としての機構解明、再発防止、責任解明、損害の把握、被害者への説明など、
立場によって様々で、調査で把握すべき事項や、調査に利用できる情報・資料等は、立場と目 的によって異なる。利用可能な情報・資料のもとで、目的に適った知見が得られるようにする 方法の確立が求められよう。しかし、公的権限以外による火災調査には多くの制約があり、学 術的調査があまり行われていないこと、その他の目的で行われた調査の結果はほとんど公開さ れないことなどのため、火災原因調査の方法の整備が進んでいるとは考え難い。
火災原因調査の基本的な困難は、火災現場や残留物だけでは出火原因の特定が困難な点にあ る。そこで、本編の研究は、火災拡大に影響した可能性のある可燃物の燃焼性状測定という実 験的手法を導入して、従来の一般的な調査手法の限界を克服するとともに、警察・消防による 調査では等閑視されがちであった再発防止対策の誘導など、火災調査を、火災安全対策の中に より積極的に位置づけられるようにしようとするものである。
ところで、詳細な原因調査が要求される火災事例を見ると、目撃者がいなかったり、死亡し たりしているなど、出火や火災の経過に関する事実関係を確認する傍証が得られない場合が多 い。このことは、多くの火災は、どのような方法で出火原因や火災拡大経過を推定しても、そ の妥当性を事実関係から実証することはできないことを意味しており、火災原因調査について は、推定精度の向上等以外に、その信頼性を、目撃証言等以外のどのような方法で検証するか を明らかにしていくことが重要な問題となる。この問題がどう解決できるかは、現状では、事 例ごとに、どのような情報が把握可能かによるところが大きいと思われる。
本編第 2 章、第 3 章では、それぞれ、性格がかなり異なる火災事例を具体的に取り上げて、
火災現場や残留物の調査では解明できなかった火災拡大経過や出火原因を、被災建物にあった 可燃物の燃焼実験をもとに推定することを通じて、実際に起こった火災の経過を推定する方法 と、この推定の妥当性の検証方法を、事例の特質に即して検討していくこととする。
第 2 章 大規模木造体育館の火災事例とその火災拡大要因の推定 2.1 はじめに
2000 年 10 月 17 日 12 時 49 分頃、広島県福山市立加茂中学校体育館で大規模集成木造建築と しては日本初の全焼火災が発生した。従来、大空間を有する大規模体育館では、床面積が大き いのに比較して収納可燃物量が少ないことから、フラッシュオーバーが発生しにくいと予想さ れてきた。しかし、本火災では、体育館部分にはほとんど可燃物がなかったにもかかわらず、
短時間にフラッシュオーバーが発生したため、火災安全工学上の観点から、強い関心を集めた。
本火災は昼休み中に出火したため、幸いにも死傷者は出なかったが、学校行事等で多数の在館 者がいる時に出火した場合には、著しい人的被害を発生する可能性が大きい。同様の体育館は 全国に数多く建設されており、再発防止を図るためにも、本体育館の出火拡大要因を解明する 必要性が大きい。また、被災建物は竣工後、約 3 年しか経過していなかったため、建物の構造 やその仕様等に関する設計図面がよく残されている。更に、本火災は、学校の昼休み中に発生 したため、出火位置や出火原因が明確であり、収納可燃物の製品名、数や配置が十分に把握さ れている上に、火災発見から火災鎮火までの時間経過がよく記録されている。そのため、本火 災は大空間を有する建築物の火災拡大メカニズムが究明できる貴重な火災事例であると言え る。以上の背景から、本研究では、大規模体育館の火災調査に関連し、体育館で急激な火災拡 大が生じた要因を究明することを目的として、出火点近傍にあった収納可燃物等を対象に燃焼 実験を実施した。ここでは、収納可燃物等の発熱や燃焼性状と、本体育館のような大空間でフ ラッシュオーバーを起こすのに必要な燃焼発熱量とを比較検討することにより、フラッシュオ ーバーの発生機構を推定した。本章では、この推定結果と、現地調査で把握された火災の発生 から鎮火までの時間経過に関する事象や、建物構造部の集成材の炭化深さの測定結果を比較し て、その妥当性を検討した。更に、本章ではこの実験に基づいて、同様な体育館での再発を予 防するための防火対策について考察する。
写真 2-1 火炎が運動場全体に拡がった様子(消防隊到着直後の写真 -建物の東側から撮影[福山市消防局提供])
2.2 体育館における急激な火災拡大までの経緯
本火災については、火災安全工学上の重要性から、木造建築フォラム(当時)が調査団を組 織し(団長:長谷見雄二[早稲田大学教授])、調査団は現地火災調査、消防局ヒアリング調査、
被災構造部材の構造性能測定等の全般的な調査を実施した。現地火災調査は 2000 年 12 月 15 日に実施され、建物の被害状況や出火原因等について調査が行われた。調査団による現地火災 調査の結果をまとめると以下の通りである2-1) ,2-9)。
(1) 発災日時等
本火災は広島県福山市立加茂中学校体育館で 2000 年 10 月 17 日 12 時 49 分頃に出火した(現 地ヒアリング調査による)。本火災は、火災規模が大きかったが、昼休み中に発生しており、
体育館には学生や教諭等の在館者がいなかったため、幸いにも死傷者は出なかった。火災当時 の気象状況については、風は西南西の風、風速 1m/s であり、天気は曇りであった(消防局ヒ アリングによる)。
(2) 被災建物概要
被災建物の配置図を図 2-1 に、1 階と 2 階の平面図をそれぞれ図 2-2、図 2-3 に示す。被災 建物は 1997 年 2 月に竣工した延床面積 979m2の体育館である。建物の内装材料は主として木 質系材料で構成されていた。被災建物の構造は、1 階が RC 造、2 階部分は木造(集成材による 準耐火構造)である。被災建物は鉄筋コンクリート造の教室棟及びプールに隣接しているが、
他の建物とは約 30m以上の間隔がある。舞台の両袖部分(2 階部分)にはそれぞれ面積約 15 m2のロフトがあり、このうち南東側のロフトが用具庫として使われていた。当事者の証言よ り、本火災は南東側の用具庫で出火したと考えられている(図 2-3、写真 2-2 参照)。被災建物 の主な内部仕上げ材料を表 2-1に示す。
図 2-1 被災建物配置図(木の建築フォラム調査団の火災調査報告書より)
教室棟 体育館 教室棟
教室棟
教室棟
プール
室 名 床 巾 木 壁 天 井 屋内運動場 コンパネ(12)下地、
ブナプライフローリ ング(15)ポリウレ タン樹脂塗装
タモ集成材(30) 木毛セメント板(30)、リ ブ : タ モ 集 成 材 30 × 45@100、音響調整版:集 成材化粧合板(12)
ステージ コンパネ(12)下地、
ブナプライフローリ ング(15)ポリウレ タン樹脂塗装
木製(25) 合板(5.5)、コンクリー ト面:モルタル金コテ
2 階用具庫 モルタル金コテ押エ
(30)
タモ集成材(25) 合板(5.5)
着 色 木 毛 セ メ ン ト 板
(25)
写真 2-2 被災建物竣工時の被災建物内観2-1)
用具庫
※( )内の数値は、厚さを示す。(単位:mm)
図 2-2. 1 階平面図(木の建築フォラム調査団 の火災調査報告書より、単位:mm)
22,000 舞台 屋内運動場
36,000
図 2-3. 2 階平面図(木の建築フォラム調査 団の火災調査報告書より、単位:mm)
吹き抜け
吹き抜け
用具庫 出火点 36,000
22,000
写真 2-3 被災建物の炎上中の様子(建物の 西側から撮影[福山市消防局提供]) 表 2-1 被災建物の主な内部仕上げ材料2-1)
(3) 現場調査で把握された建物の被害状況
建物の被害状況を図 2-4 に示す。被災建物は全焼したが、被災後も建物の全体は形状を保っ ていた(図 2-4A・B)。1 階部分の内壁表面に貼られていた有孔化粧合板パネルは燃焼して脱落 し、壁内部の損傷も激しかった。2 階部分の構造部以外の外壁は脱落融解し、2 階部分の窓は 全て焼失した。2 階部分の用具庫と運動場の間にあった間仕切り壁は焼失した(図 2-4D)。木 造のアーチ部材には著しい焼毀が認められたが、倒壊・変形せずに残存していた(図 2-4A)。 特に出火点となった南東側の用具庫上方のアーチ部材には深い炭化が認められた。建物の天井 には燃え抜けは認められず、火災後も天井は崩壊しなかった(図 2-4A・B・D)。1 階及び 2 階 の RC 造床部分はそのまま残存していた。舞台近傍にあったカーテン等の可燃物は焼失し、舞 台上部には金属類のみが残っていた(図 2-4C・D)。
B.火災後の建物外部(建物の東側か E.出火点付近(2 階南東側の用具庫の南東角) D.舞台から 2 階南東側の用具庫を見る
C.2 階南東側の用具庫から舞台上部を見る 図 2-4 被災建物における写真の視点(写真 A、C~E:
木の建築フォラム調査団の火災調査報告書より)
用具庫 2 階部分(抜粋)
舞台 屋内運動場
D A
C E B
(4) 火災の時間経過
ヒアリング調査と火災を報じた新聞記事より、火災の発生から鎮火までの時間経過に関する 情報が得られたが、その内容を表 2-2 に整理する。
12:30 頃 ・2 階南東用具庫で男子生徒 4,5 人が集まっているのを教諭が発見した。
・教諭は、用具庫から生徒を出させた後、ウレタンマットや体育用畳の間からタバ コを数本、拾った。
12:40 迄 ・2 年男子 40 人が体育の授業を受けていた。
・授業[4 時間目]で体育館にいた 2 年生男子(14 歳)は、体育館を出る時には、異 常は無かったとしている。
12:49 ・火災感知器[空気管]が発報した。
・昼休みに入って、火災感知器で出火に気付いた男性教諭らがホース[体育館の屋内 消火栓の消化ホース]で水をかけ、天井に燃え広がった火を消そうとしたが、間に 合わなかった。
・校長の話「4 時間目の授業が終わった直後、体育館の火災を知らせる警報がなっ たため、駆けつけたところ、体育館南側のステージ上の天井から、北側に沿って、
炎がふき出しているのが見えた。館内では、4 時間目に体育の授業をしていた教 諭 2 人が消火作業をしていたが、火の勢いが強まったため、避難するように指示 した。」
12:58 ・消防隊が到着した。
・消防隊員の話「体育館が全面的に炎上しており、2 階の窓から炎が上に上がって いた。1 階では炎が出ず、カマドの中のようであった。体育館の内部には、煙が 充満して、消火活動が困難であった。」
13:10 ・火勢を鎮圧した。
・エンジンカッターでドアを開いて体育館の内部に進入した。
・体育館内部には煙が充満していた。
・南側ステージ下の倉庫にあった折りたたみ椅子の背もたれに最後の火が残った。
・ステージ下から折りたたみ椅子を台車ごとに引き出した。
13:22 ・鎮火した。
出火点となった用具庫には、発熱機器がなく、表 2-2 のように、12 時 30 分頃に教諭がウレ タンマットと体育用畳の間からタバコを数本、拾ったことから見て、生徒が隠れて喫煙したタ バコの火の消し忘れにより、周辺可燃物に燃え移ったと推定された。また、表 2-2 を見ると 12 時 58 分に消防隊が現場に到着し、現場到着直後には、体育館の窓から火炎が噴出しており、
フラッシュオーバーが発生していたことが分かる。即ち、本火災で火災感知器が発報したのが 有炎燃焼のごく初期に当たると考えると、タバコの燻焼から周囲の可燃物を含む有炎燃焼に移 行して出火とみなせる状態になったのはほぼ 12 時 49 分と推定でき、本火災で火災発生からフ ラッシュオーバーが生じるまでの時間は 9 分以内であると判断できる。更に火災継続時間は、
表 2-2 のように、火災発生時間 12 時 49 分から火災鎮火時間 13 時 22 分までと 33 分間であり、
表 2-2 火災の時間経過2-1)
被災建物の構造部材は最長で 33 分間に火炎に暴露されたものの、被災後も被災建物は自立し ている(図 2-4A 参照)。
なお、出火点となった用具庫は体育館の南東側の 2 階部分に位置している(図 2-3 参照)。 当時、用具庫には体育用畳 15 枚、ウレタンマット1枚(2m×3m×0.3m)が収納されており、
ウレタンマット 1 枚は合板仕上げの壁に立て掛けた状態で、体育用畳 15 枚は平積みの状態で 配置されていた(図 2-5 参照)。用具庫は、舞台側が開放されているが、舞台側以外の 3 方向 は合板仕上げの壁で囲まれており、天井面は木毛セメント板で仕上げていた。用具庫の運動場 側はタモ集成材を縦格子状に取り付けた木毛セメント板で仕上げていた。
5.8m
3.8m
ウレタンマット 1枚
(2m×3m 厚さ30cm)
出火点
4.0m 合板(厚さ5.5mm)
合板(厚さ5.5mm)
合板(厚さ5.5mm)
木毛セメント板
人通孔
屋内運動場側 ステージ側 4.3m
体育用畳 15枚
(各7枚程度平積み)
RC床 ギャラリー
に接続
すき間からタバコの 吸殻が見つかる 5.8m
3.8m
ウレタンマット 1枚
(2m×3m 厚さ30cm)
出火点
4.0m 合板(厚さ5.5mm)
合板(厚さ5.5mm)
合板(厚さ5.5mm)
木毛セメント板
人通孔
屋内運動場側 ステージ側 4.3m
体育用畳 15枚
(各7枚程度平積み)
RC床 ギャラリー
に接続
すき間からタバコの 吸殻が見つかる
図 2-5 出火した用具庫の可燃物配置2-1)
2.3 火災拡大要因の実証実験 2.3.1 実験目的
2.2 節で述べたように、本火災は、2 階南東側の用具庫内で出火し、体育館に火災拡大して 火災感知器作動から 9 分以内にフラッシュオーバーが発生したことが確認された。しかし、用 具庫は周壁を含めて全焼し、その内部の収納可燃物等も焼失しており、本体育館でフラッシュ オーバーが発生した原因は、火災現場の状況からは明らかにならなかった。そこで、用具庫内 の収納可燃物等を対象に燃焼実験を実施し、その燃焼発熱性状から、体育館で急激な火災拡大 が生じた原因を究明することとした。即ち、燃焼実験では出火点近傍にあったウレタンマット、
体育用畳、間仕切壁を再現したものを対象に燃焼実験を行い、これらの発熱や燃焼性状と、体 育館でフラッシュオーバーを起こすに足る発熱や燃焼性状となり得るかどうかを検討するこ とにより、体育館で急激な火災拡大が生じた原因を検討する。
2.3.2 実験概要
実験は国土交通省建築研究所(現在:独立行政法人建築研究所)の防耐火実験棟で実施した。
実験で用いた実験装置の構成を図 2-6 に示す。実験では、試験体を集煙フードの下に置いて点 火させ、集煙フードから排煙ダクトを介してガス分析(O2)を行ない、酸素消費法により発熱 速度を算出した。酸素消費法2-2)とは、材料の燃焼時に消費される酸素の単位重量あたり発熱量 は材料の材質によらず、ほぼ一定(13.1MJ/kg)であることを利用して、材料の燃焼時に発生 する煙のガス分析を行い燃焼による消費酸素量を計測して、その酸素量に酸素の単位重量あた り発熱量を乗じて発熱速度を求める方法である。また、燃焼実験では、収納可燃物の火炎形状 を目視で観察し、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラで記録した。
排煙ダクト 集煙フード
プロパンガス
バーナー
試験体 ガス流量計
ガス分析器 ガス
分析
図 2-6 実験装置の構成
(1) 試験体の概要
燃焼実験の試験体の概要を表 2-3 に示す。
実験 NO. 試験体 寸法(cm) 質量(kg) 特徴 1 100×50×30(1/12) 3.12
2 100×100×30(1/6) 6.24 3
ウレタン マット
100×100×30(1/6) 6.24
試験体の主材料はウレタンフォ ームで、外皮は木綿である。
4 体育用畳 91×181×6 16.43
合板の芯材の両外側にクッショ ン材があり、外皮(畳表)は塩 化ビニールである。
5 182×182×25.5 6 合板壁
182×182×25.5 -
2×4 間柱。仕上げは用具庫側 5.5mm 合板、運動場側は木毛セメ ント板にタモ集成材縦貼り。
出火した用具庫には火災当時、ウレタンマット 1 枚と体育用畳 15 枚が収納されており、燃 焼実験では被災用具庫にあったものと同じ製品を試験体として使用した。但し、用具庫にあっ たウレタンマットは 3m×2m×0.3m と大きく、全部を燃焼させると発熱が計測機器の容量を超 過する可能性があるため、ウレタンマットの初期の燃焼性状に大きな影響を及ぼさない範囲で、
ウレタンマットを切り出したものを試験体とした(表 2-3)。実験 1、2 の試験体は、それぞれ 実物の 1/12、実物の 1/6 であるため、マット 1 枚の最大燃焼速度等は本実験で直接には得られ ない。そこで、実験で得られた最大発熱速度からマット 1 枚の最大発熱速度を安全側で推定す ることとした。例えば、実験 1 の最大発熱速度を単純に 12 倍して算定したマット 1 枚の最大 発熱速度と、実験 2 の最大発熱速度を単純に 6 倍して算定したマット 1 枚の最大発熱速度とを 比較し、実験 1 の最大発熱速度から推定したマット 1 枚の最大発熱速度が実験 2 より大きけれ ば、実物から切り出して製作した試験体の単位重量(もしくは単位平面面積)あたり最大燃焼 発熱速度は試験体が小さいほど安全側に現れることになり、実物から切出して製作した小型試 験体の最大発熱速度をマット 1 枚の大きさに単純倍数するとマット 1 枚の最大発熱速度の安全 側推定値になる。また、出火点となった用具庫には畳 15 枚が積んであったが、実験では畳 1 枚のみを点火させて燃焼発熱速度を求めた。後述するように、マットについては実物を切り出 して製作した小型試験体の燃焼実験により実物の燃焼発熱速度を安全側で予測できる。このこ とから見て、より発熱速度の小さい畳についても、実験で得られる畳 1 枚の最大発熱速度を単 純に 15 倍すれば、畳 15 枚の最大発熱速度を安全側で評価できると考えられる。
一方、用具庫と屋内運動場の間には、間仕切壁があったが、この間仕切壁を設計図書に基づ いて再現した。間仕切壁の詳細については、2.3.2(3)C で説明する。
表 2-3 体育館用具庫可燃物の燃焼実験の試験体
(2) 点火方法
2.2 節で述べたように本火災の出火源はタバコと推定されるが、タバコのような微弱な燃焼 による出火の様態は再現性が乏しいため、本実験では、各試験体をより安定した火源で点火さ せた場合、各試験体が着火後にどのような燃焼拡大性状を表すかを比較検討するため、一定規 模の着火源を繰り返し使用できるように、プロパンガスを燃料とする拡散炎バーナーを用いた。
実験 1、2、4 では、試験体を水平置きにした状態で試験体の上面を点火させるため、California State Bulletin 133 点火用バーナー2-3)( 図 2-7 参照、今後、CSB133 バーナーという)を利用し た。CSB133 バーナーは米国カリフォニア州で家具試験の点火用に開発されたものであり、特に タバコ等による出火を想定して、家具等を上面から点火させる際に良く使われている。実験 3 では試験体を垂直置きの状態で試験体の最下部を点火させる必要があるが、本来、水平面の点 火用に設計された CSB133 バーナーでは点火困難なため、同じパイプで図 2-8 のような T 字型 バーナーを製作して使用した。間仕切壁を試験体とする実験 5 では実験 3 と同様に T 字型バー ナーを用いて、試験体の最下端を点火させたが、間柱で囲まれた範囲の燃焼に留まり、壁全体 への燃焼は見られなかった。そのため、実験 6 では、実験 5 の間仕切壁を再利用し、比較的に 大きな火源で壁を点火させた場合の壁全体への燃焼拡大の有無を調べることを目的として、
15cm×15cm の正方形拡散バーナーを使用した(写真 2-4 参照)。
図 2-7 CSB133 バーナー(単位:mm)
a.上方から見る 250
250 30°
プロパンガス プロパンガス
250
鉄 パ イ プ
(直径:13)
b.横から見る
図 2-8 T 字型バーナー(単位:mm) a.上方から見る
205 プロパンガス
鉄パイプ
(直径:13)
13 プロパンガス
b.横から見る
写真 2-4 正方形拡散バーナー
実験 1~6 で点火の口火に用いたプロパンの流量と継続時間を表 2-4 に示す。実験で用いた 火源は、燃焼規模が大きいと試験体の燃焼性状に影響を及ぼすため、火源の発熱強度は安定な 火炎を形成できる範囲で出来るだけ低い値に制御した。各実験のプロパンの流量から完全燃焼 を仮定し、その発熱量を 93.58kJ/ℓとして発熱速度に換算すると実験 1~5 では約 20kW、実験 6 では約 40kW となる。
プロパン 実験
NO. 試験体 寸法(cm) 流量 (l/min)
継続時間 (sec)
点火用バーナー
1 100×50×
30(1/12) 13 80
2 100×100×
30(1/6) 12 90
CSB133 バーナー
3
ウレタン マット
100×100×
30(1/6) 12 90 T 字型バーナー 4 体育用畳 91×181×6 13 80 CSB133 バーナー 5 182×182×25.5 13 80 T 字型バーナー 6 合板壁
182×182×25.5 25 燃え尽きる まで
正方形拡散バーナー
(15cm×15cm)
(3) 実験方法
a.実験 1~3:ウレタンマット
2.3.2(1)で述べたように、ウレタンマットは 3m×2m×0.3m と大きく、全体を燃焼させると 発熱が計測機器の容量を越える可能性があるため、まず実物 1/12 の大きさに切り出したもの をフード直下で燃焼させた(写真 2-5 参照、実験 1)。火災当時、用具庫にあったウレタンマッ トは不燃壁に立てかけた状態であったが、まずマットの燃焼性状等に関する基本情報を得るた め、実験 1 ではウレタンマットを水平置きの状態で実験を行なった。実験 1 では CSB133 バー ナーを水平に置いた試験体の中央、3cm 上方に設置した(写真 2-5 参照)。実験 2、3 では実物 の 1/6 のウレタンマットを配置を変えて実験を行った。実験 2 では試験体を床に平置きにした 状態で実験 1 と同様の場所に CSB133 バーナーを設置し、実験 3 では、火災当時、用具庫にあ ったウレタンマットの配置を考慮して、試験体を不燃壁に立てかけた状態で T 字型バーナーを 下端から 5cm の場所に設置した(写真 2-6、2-7 参照)。
b.実験 4:体育用畳
用具庫には体育用畳 15 枚が水平置きの状態で 7、8 枚づつ積んであったが、本実験では、畳 単体を試験体とした。畳全体が炎上するまでは、多数の畳が積んだ状態でも同様の燃焼性状を
表 2-4 実験 1~6 におけるプロパンの流量と継続時間
示すはずである。実験では CSB133 バーナーを水平に置いた畳の中央 3cm 上方に設置した(写真 2-8 参照)。
c.実験 5、6:合板壁
用具庫、アリーナ間の間仕切りで、舞台のプロセニアムの一部も構成する間仕切壁を、設計 図書に基づいて再現した。本間仕切壁は、図 2-10 のように用具庫側の表面に 5.5mm 合板が貼 ってあり、その裏側に 43cm 間隔で 2×4 間柱が並んでいる。アリーナ側表面はタモ集成材を鉛 直方向に 10cm 間隔で貼り付けた木毛セメント板で仕上げられている。 実験では、壁の最下段 には中空部への漏気を防ぐために不燃材料のブロックを置き、耐火ボンドで隙間をなくした状 態とした。また、被災建物では、出火点近傍の木質壁は高さ約 5.8m で上部が閉鎖されている が、燃焼実験では実験装置の高さに制限があるため、壁高さを 1.82m とし、火炎が中空部に貫 通した後の火炎伝播を防げないために上部を開放して実験を行った。1.82m×1.82m の壁試験体 を一体製作し、実験条件を変え、点火位置を移動させて 2 回燃焼実験を繰り返した(図 2-9、
2-10・写真 2-9~2-11 参照)。実験 5 では T 字バーナーを壁下端から 5cm の高さに設置したが、
結局、間柱を超えた燃焼に至らなかったため、残った試験体を再利用し、隣りの間柱間の直前 に、15cm×15cm の正方形拡散バーナーを壁下端から 5cm の高さに設置して実験 6 を行った。
写真 2-5 ウレタンマット(実験 1)
写真 2-8 体育用畳(実験 4)
写真 2-7 ウレタンマット(実験 3)
写真 2-6 ウレタンマット(実験 2)
(実験6)
120 454040505090 30
1820 木毛セメント版
2×4 木材(50×100)
木材(45×40) タモ集成材(30×45)
T字バーナー 150×150バーナー 合板
(実験 5)
図 2-10 壁の断面図(単位:mm)
図 2-9 壁試験体の立面と配置(単位:mm)
1820
1820
T字 バ ー ナ ー
150× 150バ ー ナ ー 排 煙 フ ー ド
ブ ロ ッ ク
写真 2-9 壁の正面 写真 2-10 壁の後方 写真 2-11 壁の内部
2.3.3 実験結果
(1) 収納可燃物等の燃焼発熱性状 a.実験 1~3:ウレタンマット
・実験 1(平置き、大きさ 1/12):試験体に点火後、試験体は徐々に炎上し始め、黒煙が発生 した。試験体の燃焼は着火点より試験体表面を放射状に、また、試験体の内部にも急速に広が った。点火開始後 2 分 30 秒には試験体の半分が燃焼し、点火後 4 分には試験体がほぼ全焼し た(写真 2-12 参照)。火炎先端高さについては、点火開始 1 分後には約 1.8mに、点火開始後 2 分には約 2.3m に達した。
実験 1 の発熱速度、積算発熱量を図 2-11 に示す。
図 2-11 を見ると点火開始後 2 分付近で発熱速度は急激にピーク値まで上昇してその後、減 衰して短時間の内に燃え尽きた事が分かる。点火後 2 分 36 秒に発熱速度はピーク値の 463kW に達したが、実験 1 で用いた試験体は、実験装置の制限上、ウレタンマット 1 枚の 1/12 の大 きさであったため、ここでは、ウレタンマット 1 枚が燃焼する際の最大発熱速度を推定する。
まず、試験体の露出表面積あたり最大発熱速度は、実験 1 で得られた最大発熱速度 463kW を試 験体の露出表面積 1.4 ㎡で割ると 330.7kW/㎡になる。そこで、ウレタンマット 1 枚の最大発熱 速度の推定値は、試験体の露出表面積あたり最大発熱速度 330.7kW/㎡にウレタンマット 1 枚の 露出表面積 9 ㎡を乗じて計算すると 2976.4kW になる。
図 2-11 実験 1(ウレタンマット 1/12、平置き)燃焼発熱性状 0
2 0 0 4 0 0 6 0 0 8 0 0
0 2 4 6 8 1 0 1 2
時 間 (分 )
発熱速度(kW)
0 5 0 1 0 0 1 5 0
積算発熱量(MJ)
発熱速度 積算発熱量
写真 2-12 実験 1(ウレタンマット 1/12、平置き)の燃焼の様子 240 秒
180 秒 210 秒
150 秒
点火 30 秒 60 秒
120 秒 90 秒
・実験 2(平置き、大きさ 1/6):実験 2 では試験体に点火すると徐々に炎上し始め、実験 1 と 同様に、試験体の燃焼は着火点より表面を放射状に、また試験体の内部に急速に燃え広がった
(写真 2-13 参照)。
実験 2 の発熱速度、積算発熱量を図 2-12 に示す。図 2-12 を見ると点火開始 3 分 10 秒後に 発熱速度はピーク値の 501kW に達したことが分かる。実験 2 で用いた試験体(平置き)はウレ タンマットの実大 1/6 の大きさであったため、実験 1 と同様に、ウレタンマット 1 枚の最大発 熱速度を推定する。試験体の露出表面積当たり最大発熱速度は、実験 2 で得られた最大発熱速 度 501kW を試験体の露出表面積 2.2 ㎡で割ると 227.8kW/㎡になる。従って、ウレタンマット 1 枚の最大発熱速度の推定値は、ウレタンマット 1 枚の露出表面積 9 ㎡に試験体の露出表面積あ たり最大発熱速度 227.8kW/㎡を乗じて計算すると 2050.2kW になる。
・実験 3(縦置き、大きさ 1/6):実験 3 では試験体に点火すると短時間に炎上し始め、試験体 の最下端から最上端へ急速に燃え広がった(写真 2-14 参照)。試験体の火災成長は実験 3 の方 が実験 2 より速かった。
実験 3 の発熱速度、積算発熱量を図 2-13 に示す。図 2-13 を見ると点火開始後 4 分 10 秒に 発熱速度はピーク値に達しており、その値は 703kW であることが分かる。
実験 3 では、2.3.2(3)a で述べたように、ウレタンマット 1 枚の 1/6 の大きさを試験体とし て使用し、試験体を不燃壁に立てかけた状態で点火させた。そこで、ウレタンマット 1 枚が縦 置きの状態で炎上する際の最大発熱速度を推定する。試験体の露出表面積当たり最大発熱速度 は、実験 3 で得られた最大発熱速度 703kW を試験体が縦置きの状態での露出表面積 3.2 ㎡で割 ると 219.7kW/㎡になる。従って、ウレタンマット 1 枚が縦置きの状態で炎上した場合、ウレタ
写真 2-13 実験 2 の燃焼の様子
図 2-12 実験 2(ウレタンマット 1/6,平置き)燃焼 発熱性状
0 200 400 600 800
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 時 間 (分 )
発熱速度(kW)
0 50 100 150
積算発熱量(MJ)
発熱速度 積算発熱量
ンマット 1 枚の最大発熱速度の推定値は、マット 1 枚が縦置きの状態での露出表面積 15 ㎡に 試験体の露出表面積当たり最大発熱速度 219.7kW/㎡を乗じて計算すると 3295.5kW になる。
因みに、実験 2(実物の 1/6 の大きさ、平置き)、実験 3(実物の 1/6 の大きさ、縦置き)の 最大発熱速度を比較すると実験 2、3 の最大発熱速度はそれぞれ 501kW、703kW であり、実験 3 の方が実験 2 より大きく、その火災成長も速い傾向が見られた。これは、可燃表面では上向水 平面よりも壁面の方が燃え広がりが速いことと同様の機構によると考えられる。
なお、実験 1、2 を比べると試験体はそれぞれ実大の 1/12、1/6 の大きさであるが、最大発 熱速度は実験 1 が 463kW、実験 2 が 501kW であり、試験体の大きさは実験 2 が実験 1 より 2 倍 大きいにもかかわらず、実験 1、2 の最大発熱速度にはそれほど違いが見られない。これは、
前述のように、大型可燃物を切り出した試験体では小型に切り出したものほど、単位重量(も しくは単位平面投影面積)あたり最大燃焼発熱速度が大きく現れることを示している。このよ うな傾向が現れるのは試験体が小さいほど試験体の表面全体に及ぶ燃焼が起こり易く、試験体 が大きくなるにつれて試験体の広い範囲が同時炎上するということが起こりにくくなるため と考えられる。このことから、ウレタンマット 1 枚の最大発熱速度を推定する際には、本実験 のように実物から切出して製作した小型試験体の最大発熱速度をウレタンマット 1 枚の大きさ に単純倍数すれば、ウレタンマット 1 枚の最大発熱速度は実際より大きめに評価できると考え られる。
写真 2-14 実験 3 の燃焼の様子
0 200 400 600 800
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 時 間 (分 )
発熱速度(kW)
0 50 100 150
積算発熱量(MJ)
図 2-13 実験 3(ウレタンマット 1/6、縦置き) 燃焼発熱性状
発熱速度 積算発熱量
b.実験 4:体育用畳
・実験 4:試験体に点火すると試験体は緩やかに燃焼し続けた。試験体は激しく燃焼せず、長時 間かけて表面から内部を水平に燃え広がった(写真 2-15 参照)。体育用畳の発熱速度は着火後 15 分間にわたって約 50kW 以下の小さな値に留まっているが、15 分頃からやや急速に発熱速度 が増加し、点火開始後 29 分 23 秒に最大発熱速度 164kW が観測された(図 2-14)。
火災当時、用具庫には体育用畳 15 枚が 7、8 枚づつ積んであったことから、ここでは、体育 用畳 15 枚が同時に炎上する際に発生する最大発熱速度を推定する。まず、試験体(畳 1 枚)
の露出表面積あたり最大発熱速度を算定する。試験体の露出表面積あたり最大発熱速度は、実 験 4 の最大発熱速度 164kW を試験体の露出表面積 1.97 ㎡で割ると 83.1kW/㎡になる。体育用畳 15 枚の最大発熱速度の推定値は、畳 7、8 枚づつ積んである状態の露出表面積が 8.19 ㎡であり、
それに試験体の露出表面積当たり最大発熱速度 83.1kW/㎡を乗じると 681kW になる。但し、上 記で求めた畳 15 枚の最大発熱速度の推定値は実験 4 で得られた試験体の最大発熱速度から算 定したものであるが、試験体が最大発熱速度に達するまでに点火から 29 分 23 秒も経過してお り、発熱速度が 100kW 以上に達したのも約 20 分である。しかし、本体育館ではフラッシュオ ーバーは火災感知器作動後 9 分以内に起こっているのであり、点火後、このように長時間経過 した後の実験データに基づいて畳の燃焼によるフラッシュオーバーの発生の可能性を議論す るのは適当とは言えない。ここで、実験 4 で得られた発熱速度のうち、点火開始 9 分以内の発 熱速度の最大値から畳 15 枚が炎上する際の発熱速度を推定する。試験体の露出表面積あたり 発熱速度は、点火開始 9 分以内の発熱速度の最大値 49.5kW を試験体の露出表面積 1.97 ㎡で割 ると 25.1kW/㎡になる。そこで、畳 15 枚の最大発熱速度の推定値(着火から 9 分以内)は、畳 15 枚の露出表面積 8.19 ㎡に試験体の露出表面積あたり発熱速度 25.1kW/㎡を乗じると 205.5kW になり、かなり小さな値となる。このように、畳 15 枚の発熱速度の推定値(着火から 9 分以内) はかなり小さな値であることから見て、畳の燃焼は体育館で感知器作動後 9 分以内にフラッシ ュオーバーが発生したことに対して大きな役割を果たした可能性はないと結論できる。
図 2-14 実験 4(体育用畳)燃焼発熱性状 0
100 200 300
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 時 間 (分 )
発熱速度(kW)
0 100 200 300 400 500
積算発熱量(MJ)
発熱速度 積算発熱量
5 分 9 分
15 分 25 分
30 分 40 分
写真 2-15 実験 4(体育用畳)の燃焼様子