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第 5 章 表面開始原子移動ラジカル重合を用いた

5.5 MES と HEMA による混合ポリマー表面

5.5.4 TNT の高感度検出

まず間接競合法にてTNTの検出を試みた. 間接競合法では抗体のみの溶液 をセンサ表面に流通させた時の抗体の結合量に比べて抗体と抗原の混合溶液を 流通させた場合の抗体結合量が減少することを利用してTNTの濃度を測定して いる. しかしこのセンサ表面では抗体と抗原の混合溶液を流通させた時の抗体 結合量の方が増加してしまうという現象が再現性良く表れた. その際のセンサ グラムの一例を図 5-15に示す. このセンサグラムは以下の操作を行った時の物 である. まず500 ppbの抗体溶液を5分間流通させた後, 約1分間自然解離させ, その後5 Mグアニジン酸塩酸塩水溶液を2分間流通させて抗体をセンサ表面か ら強制的に解離させた. 次に500 ppbの抗体と100 pptのTNTの混合溶液を5 分間流通させた後, 約1分間自然解離させ, その後, 5 Mグアニジン酸塩酸塩水 溶液を流通させたものである. まず抗体のみの溶液を流通させた時の結合量は

297.2 R.U.だが, 抗体と抗原の混合溶液を流通させた場合の結合量は325.9 R.U.

で抗体のみの場合よりも結合量が高くなっている. 一方で, それぞれの自然解 離のセンサグラムを見ると抗体のみの場合よりも抗原抗体混合溶液の場合の方 が解離の速度が速くなっている. つまり抗体抗原混合溶液の場合は抗体の結合 量も多いが解離速度も速いという一見矛盾した様な結果となっている. この原 因はよくわかっていないが, 可能性の一つとして次のような仮説がある. 抗体 IgG には抗原と結合するサイトが二つ存在する. そのため表面の抗原類似物質 とは一価または二価の結合があり得る. 抗体のみの溶液を流通させた時の場合, 抗体は主に二価の結合で表面と結合し, 抗原抗体混合溶液の場合は主に一価の 結合であると仮定するとこの現象の説明はできる. 表面の結合サイトが少ない 場合は二価結合で抗体が結合するとあまり多くの抗体が結合できないのでセン

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サ応答が小さくなる. 一方, 二価で結合しているため解離しにくい. 一価で結合 する場合はより多くの抗体が結合できるためセンサ応答は大きくなるが一価の 結合であるため解離速度が速い. この模式図を図 5-16 に示す. これらの仮定を 検証するには抗体のFc部に存在するジスルフィドを開裂させることで一価結合 しかできない抗体を作製し, このセンサ表面で評価を行うことで検証できるが, この件に関しては今後の課題とする.

図 5-16 poly-MES-co-HEMAセンサ表面での間接競合法のセンサグラム例

図 5-17 一価結合, 二価結合の模式図(仮説)

500ppb anti-TNT antibody 500ppb anti-TNT antibody + 100ppt TNT

結合

解離 結合 解離

297.2 RU

325.9 RU

抗原

二価結合の場合 一価結合の場合

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次にこの様な問題が起こり難い置換法で TNT の検出を行った. まず 25 ppmの抗体溶液を2分間流通させ抗体を表面に結合させる. 次に40秒間ランニ ングバッファを流通させる. この間, 抗体は表面から自然解離する. 次に各種濃 度の抗原溶液を 2 分間流通させる. 抗体の表面からの解離速度は抗原濃度に応 じて速くなる. 抗原溶液流通前後のセンサ応答値からセクション2.3.3で定義し た解離率を各濃度で計算し, 検量線を作成する. 測定は濃度毎に3回行う. 抗原 溶液の代わりにランニングバッファを流通させた時の解離率の標準偏差の 3 倍 から検出限界を求めた. その結果を表 5-7に示す. なお, 濃度に関しては0, 1, 5,

10, 50, 100 ppbで測定を行っているが検出限界が100 ppb以上の条件のみ1000

ppbの測定を行っている.

解離速度定数と検出限界に相関がみられる. その様子を図 5-17 に示す. 解 離速度定数が大きいほど高感度検出が可能なのは置換法の理論とも一致する.

MES:HEMA=1:1000 の条件が最も高感度で検出限界は0.4 ppbとなった. 次に

MES:HEMA=1:00, 1:1000の検量線を図 5-18に示す. MES:HEMA=1:100の検 量線は全濃度域にわたってフィッティングカーブと実測値が合っているが

MES:HEMA=1:1000 の検量線は低濃度領域しかフィッティングカーブと実測

値が合っていない. これは MES:HEMA=1:1000 のセンサは高感度検出が可能 だが測定できる濃度範囲が狭いことを意味する. 一方で MES:HEMA=1:100 の

センサは MES:HEMA=1:1000 に比べれば感度の点で劣るが広い範囲の濃度を

測定できる. MES:HEMA=1:1000のセンサで高濃度領域を測定できないのはセ ンサ表面と抗体の親和性が低いため表面に結合している抗体が少なく, 高濃度 領域を測定するとほとんどの抗体が解離してしまい, センサの応答が小さくな りノイズ等の影響を受けやすくなるため, 上手く測定できないと考えられる.

爆発物検出においては爆弾があるかないかを検出できればよいので必ずしも大

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きなダイナミックレンジは必要ないと考えられる. しかし実際に使用する際に はセンサが正しく動作しているのかを確かめるためある程度のダイナミックレ ンジは必要と考えられる. どの程度のダイナミックレンジが必要なのかはフィ ー ル ド テ ス ト な ど で 検 証 す る 必 要 が あ る . い ず れ に せ よ こ の

poly-MES-co-HEMA ポリマー表面を使用したセンサにおいては MES:HEMA

混合比を変えることで検出限界とダイナミックレンジを調節可能であるといえ る.

表 5-7 混合ポリマー表面の検出限界

Monomer Sensor

Response *1 [ R.U. ]

Dissociation Rate Constant

kd [ s-1 ]

LOD [ ng/ml ]

(ppb) Molar Ratio

MES HEMA

1 0 201.0 3.49E-04 271.3

1 1 356.3 2.08E-04 77.1

1 2 566.0 9.16E-04 245.8

1 5 431.0 1.19E-03 37.0

1 10 714.1 1.92E-03 8.4

1 100 529.8 2.65E-03 12.9

1 1000 113.0 2.02E-03 0.4

*1 Sensor Response は抗原溶液流通直前のセンサ応答値

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図 5-18 モノマー組成と解離速度定数及び検出限界

図 5-19 MES:HEMA=1:100, 1:1000の検量線

0.00E+00 5.00E-04 1.00E-03 1.50E-03 2.00E-03 2.50E-03 3.00E-03

0.1 1.0 10.0 100.0 1000.0

解離速度定数 k

d

[ s

-1

]

検出限界 [ n g /ml ] (p p b )

検出限界[ ng/ml ] (ppb) 解離速度定数kd [ s-1 ]

MES = 1 1 1 1 1 1 1 HEMA = 0 1 2 5 10 100 1000

0%

10%

20%

30%

40%

50%

1 10 100

Displacement Ratio [ % ]

TNT Concentration [ ng/ml(ppb)]

MES:HEMA=1:100

0%

10%

20%

30%

40%

50%

1 10 100

Displacement Ratio [ % ]

TNT Concentration [ ng/ml(ppb)]

MES:HEMA=1:1000

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