• 検索結果がありません。

第 1 章 序章

1.8 抗原抗体反応

生物は体内に侵入した異物に対応するために様々な防御機構を持っている.

その中で脊椎動物は複雑な防御機構を持っており, これを免疫と呼ぶ. この免 疫システムの中で異物を認識し, これらを排出したり無害化したりするために 働く免疫反応を抗原抗体反応と呼ぶ. この抗原抗体反応の主役は抗体タンパク 質で, 免疫系は様々な種類の異物に対応した抗体を持っている. この抗体に対 応する異物を抗原と呼ぶ. この抗体の抗原に対する認識能力を用いて様々なバ イオセンシングに用いられている.

1.8.1 抗体

抗体は体内に侵入した異物に対して B 細胞が産生するタンパク質で, その 異物(抗原)に対して特異的に結合することで異物の毒性を無力化したり体外 への排出の手助けをしたりする. 抗体はイムノグロブリン(Ig)と呼ばれ, 可変領 域と定常領域に分けられる. 可変領域は抗原結合にかかわる部分で, 抗体によ って様々な多様性を持つ. 定常領域は抗体の種類によってIgG, IgM, IgA, IgD, IgEに分類できる. ここでは最も多く本研究で用いるIgGについて述べる.

IgG は 4 本のポリペプチドがジスルフィド結合を介して接続された構造を 持ち, その可変領域と定常領域はそれぞれFab(fragment, antigen binding)領域 と Fc(fragment, crystallizable)領域と呼ばれる. その模式図を図 1-11 に示す.

IgG 抗体は2つの Fab フラグメントの先端で分子を認識し特異的な吸着を起こ

第1章 序章

- 22 -

すことが出来る. 抗体は通常, 分子量約5000 以上の高分子の異物に対して産生 される. しかし単一の抗体は高分子全体の構造を認識しているわけではなく, 高分子のごく一部の構造を認識して吸着する. 抗体が認識する抗原部位をエピ トープと呼ぶ. 抗体はファンデルワールス力, 静電相互作用, 水素結合, 芳香族 性相互作用などの非共有結合を用いて抗原を認識している. これは抗原を鍵と するならば対応する鍵穴の様な関係で表すことが出来る. その為, 抗原によく 似た構造を持つ部位にも結合してしまう特徴がある. この時, 抗体は抗原と結 合するがその親和性は弱くなる. この様な様子を図 1-12 に示す. この様に抗体 は抗原の小さな領域の化学構造を認識して抗原と結合している.

第1章 序章

- 23 -

図 1-11 IgG抗体の構造

図 1-12 抗体の親和性

C H 3 C H 2

C H 3 C H 2 S S S S

+

-+

--

+

+

-+

-

+

--

+

-+

抗原 抗体の抗原 結合サイト

親和性が高い場合 親和性が低い場合

第1章 序章

- 24 - 1.8.2 抗体の作製方法 18)

脊椎動物の体内に異物が侵入すると免疫細胞の一つの B 細胞によって抗体 は産生される. B細胞は多種多様の種類の物が存在し, 一種類のB細胞は一種類 の抗体を作成することが出来る. 異物が侵入した際, その異物の化学構造に対 応可能な抗体を産生できる B 細胞が増殖し, 抗体を産生する. 抗体はその異物 の分子量が約5000以上の時に産生される. しかし抗体のエピトープ部位は異物 の小さな領域であるため, そのような異物に対しては複数種類の抗体が産生さ れる.

抗体は作製方法でポリクローナル抗体とモノクローナル抗体に分けられる.

ポリクローナル抗体は免疫原となる物質を動物に注射して抗体を産生させた後 にその血漿中の抗体を精製して得られる抗体である. 抗原に対して複数種の抗 体を持つため親和性が高いが, 抗体溶液を一度使い切ると同じ抗体溶液は得ら れず実験での再現性に劣るという欠点がある. 一方で、モノクローナル抗体を用 いるとこの様な欠点を克服できる。抗体を産生する B 細胞を培養できれば同じ 抗体を産生できるが, B細胞は生体外で長期にわたって生存できない. そこで無 限に増殖可能なミエローマ細胞と B 細胞を融合させてハイブリドーマ細胞とす ると生体外で培養できるため同じ抗体を継続的に得ることが出来る. これをモ ノクローナル抗体と呼ぶ.

モノクローナル抗体の作製手順は次の様になる. まず動物に抗原を免疫し て抗体の産生を確認した後, 脾臓を取出し, 個々の細胞まで細分化し, その懸濁 液を得る. 次に脾臓細胞の懸濁液とミエローマ細胞とをポリエチレングリコー ル6000などを用いて融合させる. 次にこの各種細胞の混合溶液を分離用培地で 育成する。この分離用培地はハイブリドーマ細胞のみ選択的に育成可能なもの

第1章 序章

- 25 -

を使用する。次にここで得られたハイブリドーマ細胞溶液をマイクロタイター プレート上に分散させ, 培養する. 次に各ウェルの上清の抗体活性を測定する.

活性の高いウェルを選択し, 再び分離用培地に分散させて培養する. この分散 と選別を繰り返し, モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を得る.

これらは無限に増殖できるので, 必要に応じて増殖させ抗体を産生させれば同 じ構造の抗体を安定的に得られる. 一方で抗体の種類が 1 種類しかいないので 抗原との親和性が低い場合が少なくない. しかし同じ構造の抗体が得られるメ リットは大きくモノクローナル抗体が用いられることは多い.

分子量が約 5000 未満の分子が異物として動物の体内に侵入しても抗体は 産生されない. 一方で抗体のエピトープ部はその様な高分子全体の構造ではな く, 全体に対して極一部の構造である. そのため低分子に対して抗体を産生で きれば抗体を使用した選択性の高い分子認識が可能となる. その方法としてタ ンパク質などの分子量の大きな物質に低分子の目的物質またはその類似物質を 結合させて免疫することで低分子の抗体を得ることが出来る. この時, 使用さ れるタンパク質としては卵白アルブミン(OVA; 分子量 45,000), ウシ血清ア ルブミン(BSA; 分子量 67,000), スカシ貝ヘモシアニン(KLH; 分子量

100,000~450,000)などがある. この様な方法で低分子物質の抗体が得られた

時, その低分子の事をハプテン(抗原類似物質)と呼ぶ. 本研究で用いた TNT 抗体(Strategic Biosolutions製)はTNTの類似物質であるTNP-glycineとKLH タンパク質を結合させた複合体をマウスに免疫して得られたモノクローナル抗 体である.

第1章 序章

- 26 -