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手形授受(交付)の合意に関する覚書

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(1)

手形授受(交付)の合意に関する覚書

その他のタイトル Zur Vereinbarung uber die Hingabe des Wechsels

著者 福瀧 博之

雑誌名 關西大學法學論集

巻 46

号 4‑6

ページ 1021‑1089

発行年 1997‑02‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00024543

(2)

手 形 受 授

︵ 交 付 ︶ の合意に関する覚書

(3)

目 次 ま え が き

一手形行為の無因性と手形授受︵交付︶の合意

ー手形行為の性質としての無因性

2

手形行為の原因としての手形授受︵交付︶の合意

3

手形授受︵交付︶の合意の重要性

二手形授受︵交付︶の合意をめぐる疑問

ー手形授受︵交付︶の合意の手形法解釈への応用

2

手形授受︵交付︶の合意をめぐる疑問

三手形授受︵交付︶の合意に関する覚書

ー手形授受︵交付︶の合意

Sc hn au de r

の所説

手形授受︵交付︶の合意に関する覚書

3  2 

(4)

めぐる議論の手形法解釈学における位置付けを試み︵

手形授受 手形行為の無因性と手形授受︵交付︶の合意︶︑次いで︑ 国のそれとの違いも問題となろう︒ 一︑手形法解釈学にいわゆる﹁交付の合意

( B e g e b u n g s a b r e d e

) ﹂または﹁手形の授受︵交付︶に関する合意﹂︵手形

(1 ) 

授受︹交付︺の合意︶﹂は︑比較的目新しい概念である︒ドイツでは︑﹁手形授受の原因関係にもとづく手形抗弁﹂に

(2 )

3

関する判例理論の検討にあたって︑よく用いられる考え方であり︑わが国においても︑近時︑あるいはこれに倣い︑

(4 ) 

あるいはその影響を受けたと解される見解が散見されるようになった︒しかし︑ドイツにおいてもわが国においても︑

(5 ) 

交付の合意をめぐる議論は区々で︑未だその帰一するところを知らない︒

交付の合意という考え方が手形法解釈学において有する機能に関して評価が分かれるだけでなく︑そもそも交付の

合意の意味するところ︵交付の合意の意義︶に関しても見解が分かれている︒またドイツにおける議論の状況とわが

二︑そこで︑本稿においては︑先ず︑私見の立場から︑わが国における交付の合意または手形授受︵交付︶

そのように位置付けられた交付の合意に対して︑私見の立場からする疑問を提出する︵ニ

︵ 交

付 ︶

の準備作業である︒本稿に︑手形授受︵交付︶

手 形

授 受

︵ 交

付 ︶

の 合

意 に

関 す

る 覚

の合意に関する覚書と題する所以である︒

形 授

受 ︵

交 付

( 1

0 二

三 ︶

の 合

をめぐる疑問︶︒しかし︑ここでは︑この疑問に答える準備に欠けるので︑本稿と似た問題意識に出ると解されるド

( 6)  

イツの一論文の説くところを参考にして︑交付の合意をめぐる議論に一定の整理を加えたいと考える

の合意に関する覚書︶︒以上の意味において︑本稿は︑予定している交付の合意に関する本格的な検討のため ま え

の 合

意 を

(5)

手形行為の性質としての無因性 手形行為の無因性と手形授受︵交付︶

関 法 第 四 六 巻 第 四

・ 五

・ 六 号

の合意

§ 

( 1

0 二

四 ︶

( 1

)

最近︑わが国では︑﹁交付の合意﹂という表現が広く行なわれるようになっているが︵たとえば︑後註

( 3

) ︶および

( 4

)

参照︶︑私見は︑従来から︑福瀧博之﹁手形行為とその原因関係﹂竹内昭夫編・特別講義商法

I I

︵ 有 斐 閣 ・ 一 九 九 五 年 ︶ 一

一七頁以下所収︵福瀧博之﹁手形行為とその原因関係﹂法学教室一四六号六二頁︶などにおいて︑

Hu ec k/ Ca na ri s, Re ch t  de r  Wertpapiere, 

12 . 

A ul l . , 

19 86 , 

S . 

166

に倣って︑﹁手形授受︵交付︶に関する合意

(V er ei nb ar un i i g b er   d ie   H in ga be e  d s  We ch se ls

)

﹂という表現を用いてきたので︑本稿においても原則としてこれを維持し︑随時︑﹁交付の合意﹂という表現を

併 用

す る

( 2

)  

Vgl•

Hu ec k/ Ca na ri s,   a .  a .  

0 .  

S . 

1 1 6  

f ・  

( 3

)

たとえば︑菊池和彦﹁手形の無因性の再検討﹂岩手県立盛岡短期大学法経論集︱一号四九頁および菊池和彦﹁交付の合意

と融通手形の抗弁﹂私法五八号二四一頁参照︒

( 4

)

たとえば︑橡川泰史﹁手形の利用方法に関する取り決め﹁交付の合意﹄は日本法にとって有用な道具となるか﹂判例

タイムズ八︱一号五五頁など参照︒

( 5

)

一 九

九 六

年 一

0 月︱二日の私法学会ワークショップ D においても︑﹁交付の合意﹂の問題が取り上げられ︑菊池和彦常葉

学園浜松大学助教授の﹁交付の合意と手形取引当事者﹂と題する報告と参加者の意見の交換が行なわれた︒ワークショップ

に関しては︑報告者である菊池和彦助教授がいずれ﹁私法﹂︵学会誌︶において報告される予定であるので︑ここでは立ち

入らないが︑参加者の見解は相当区々であった︒なお︑ドイツにおいても議論のあることは︑福瀧博之﹁手形授受の当事者 と原因関係上の抗弁ー

Canaris

対 Pflug 論争~」関西大学法学論集四一巻三号八一頁および福瀧博之「原因関係に基づ

く 手 形 抗 弁 の 法 律 構 成 ー

Zo ll ne

r

の所説を中心にー﹂商法・経済法の諸問題︵川又良也先生還暦記念︶︵商事法務研究

会・一九九四年︶︳︱‑九七頁などにおいて紹介してきたところである︒

( 6

)  

Fr an z  Schnauder,

i  E nr ed en   au s  d em   Gr un dv er hi il tn is

  ge

ge n d en   ersten

  W 

ec hs el   , u nd   Sc h e ck g l ii u b ig e r , 

19 90 , 

s .  

10 46 . 

(6)

手 形

授 受

︵ 交

付 ︶

の 合

意 に

関 す

る 覚

すなわち︑法律行為は︑それによって変動せしめられる法律関係が財産関係であるか身分関係であるかによって①

身分行為と財産行為に分けられるが︑②財産行為は︑さらにそれによって発生する効果の種類によって債権行為と処 で は な い と 考 え る ︒ 一︑手形行為は︑その原因となっている法律関係︵たとえば︑売買契約︑金銭の消費貸借契約︶とは別個の︑それと は切り離された︵抽象された︶行為であると考えられている︒手形行為は︑原因関係とは別個のものであり︑原因関 係の存否︑有効無効の影響を受けない︒これを手形行為の無因性︵抽象性︶といっている︒

もっとも︑手形行為の無因性ということばは︑多義的であり︑その用いられる場面によって︑具体的な意味あいを

異にする︒先ず︑手形上の権利の行使には︑原因関係の主張立証を要しないとされているが︑これが無因性によって

説明されるときは︑手形行為︵手形関係︶が原因関係とは別個︵独自︶のものであることが強調される︵手形行為の

独自性︶︒これに対して︑手形抗弁の制限︵手形法一七条︶などの説明にあたって無因性に言及されることがあり︑こ

の場合には︑手形行為は︑原因関係の存否︑有効無効の影響を受けないということが強調される︵狭義の無因性︶︒

二︑わが国おける手形行為の無因性をめぐる議論は︑このように無因性の定義にあたって主として法的な効果から定

(4 )

5

義するという形をとってきたので︑そのために無因性の手形法体系上の︵延いては︑私法体系上の︶位置付けがきわ

(6 ) 

めて曖昧なままであるように思われる︒

無因性自体が議論の対象となっている場合には︑その法的な存在理由が明らかにされなければならず︑無因性の私

法体系における位置付けにも目を向けるべきであろう︒少なくとも︑無因性が手形行為にのみ特有の問題ではなく︑

およそ一般に法律行為の分類・分析にあたって︑わが国においても広く用いられてきた概念であることを看過すべき

~ (

1 0

二 五

(7)

一︑以上のように無因性を法律行為︵手形行為︶

ける位置を明らかにすることによって︑無因性の効果に着目した従来の無因性の定義にいう﹁手形行為は︑原因関係 2  分行為︵物権行為・準物権行為︶とに区別され︑また︑その財産行為が自己の財産を減少して他人の財産を増加させ るものか︵例︑所有権移転・物権設定・債務免除︶︑そうではないか 出捐行為とそうではない行為とに区別されている︒そして︑③この出捐行為のうち︑その効力が出捐の基礎となった 法律関係︵これを原因ー

c a u s

ー a

と い

う ︶

の不成立や無効の影響を受けないように︑それから︵原因から︶切り離さ

れたものを無因行為といい︑これに対して︑原因が不成立や無効であれば︑出捐行為自体も無効となるものを有因行

(8 ) 

為 と 呼 ん で い る ︒

三︑手形法において︑このように無因性を法律行為︵手形行為︶

系上の位置付けをも考慮した説明をするのは︑小橋一郎・新版手形法小切手法講義︵有信堂高文社・一九八二年︶で

(9 )

1 0 )

 

あり、最近、公けにされた小橋一郎・手形法・小切手法(成文堂•平成七年)も同様である。それによれば、法律行

為の一類型である出捐行為のうち︑たとえば︑売買契約のように︑﹁出捐ー給付または債務の設定│ーを正当づけ

る原因

( c a u s a , R e c h t s g r u n d )

を含んでいる法律行為﹂が有因行為であり︑これに対して︑無因行為とは︑たとえば︑

単に当事者の一方が相手方に対してある金額を支払うというだけの約束のように﹁その出捐を正当づける原因を含ん

( 11 )  

でいない﹂法律行為のことである︒

手形行為の原因としての手形授受︵交付︶の合意 関法第四六巻第四・五・六号

の性質として捉え︑無因性または無因行為の私法体

の性質として捉え直し︑無因行為の法律行為または私法の体系にお ︵例︑所有権の放棄・代理権の授与︶によって 三 二 四

( 1

0 二

六 ︶

(8)

手 形

授 受

︵ 交

付 ︶

の 合

意 に

関 す

る 覚

因﹂として理解すべきことになるであろう︒ とは別個のものであり︑原因関係の存否︑有効無効の影響を受けない﹂という命題の意味も︑より明確になるのでは

さらには︑そこにいう原因関係または原因の意義も明らかになるであろう︒すなわち︑手形行為の無因性をめぐる

議論において問題とされる原因または原因関係に関しても諸見解には微妙なニュアンスの違いがある︒わが国におい

ては︑手形行為の原因関係の典型例としては︑①右に述べたように︵本稿︑

貸借契約に言及されることが多いが︑②既存債務の弁済に関して手形が授受される場合には︑既存債務そのもの︵た

とえば︑売買契約ではなくて︑売買代金債務そのもの︶が原因関係とされることも少なくない︒さらには︑③手形が

授受されるのは︑既存債務の弁済との関連においてだけではないから︑そのような場合をも視野に入れて原因関係の

例示としても﹁債務の弁済・手形上の権利の売買︵手形割引の場合︶・信用の授与︵融通手形︶・債務の取立委任・債

( 1 2 )  

務の保証または担保等﹂の例が挙げられることもある︒

二︑いずれの理解によるべきかは︑原因債権︵売買代金債権︶に着目するか︑原因行為︵売買契約︶に注目するか︑

あるいは原因関係を問題にするかといった︑単なる視点の相違を越えて︑無因性の理解にもかかわる問題であろう︒

無因性を手形行為の性質として捉え︑無因行為とは出捐行為のうち︑﹁その出捐を正当づける原因を含んでいない法

律行為﹂であると理解する場合には︑問題とすべき原因または原因関係は︑前述のように﹁出捐行為を正当付ける原

これは︑右に述べた従来の各見解の内では︑③の見解によるべきことを意味することになるであろうか︒手形の授

受または手形行為が正当とされるのは︑当事者間において債務の弁済・手形上の権利の売買・信用の授与・債務の保 な

い か

と 考

え る

‑ 1

三二五  

( 1

0 二

七 ︶

‑︶︑売買契約とか金銭の消費

(9)

証または担保などの目的で手形を授受すること

( I

O I

︱ 八 ︶

︵手形行為をすること︶が合意されているからである︒出捐を正当付

( 13 )  

ける原因とは︑結局︑そのような﹁手形授受︵交付︶に関する合意﹂に他ならないであろう︒

典型的な手形の利用形態とされる売買代金債務の弁済に関連して手形が授受される場合を例にとると︑売買契約そ

のものには︑本来︑手形を授受する︵手形行為をする︶旨の意思は当然には認められず︑売買代金債務の弁済のため

には︑必ずしも手形が利用されるとは限らない︒売買契約とその代金の支払方法としての手形の授受︵または手形行

為︶との中間には︑両者を結び付けるものとして︑売買契約に関連して手形を授受する旨およびその手形の内容に関

する合意︵すなわち︑手形の授受︵交付︶に関する合意︶が当事者間には存在するはずである︒ドイツにおいても︑

( 14 )  

このような考え方を説く見解が少なくない︒

︱︱‑︑私見によれば︑ここに﹁手形の授受︵交付︶に関する合意﹂または﹁手形授受︵交付︶ の 合 意 ﹂ と 呼 ぶ と こ ろ は ︑

従来から﹁手形予約﹂として知られていたものであるが︑私見は︑かつてこのような﹁手形授受︵交付︶

の 合

意 ﹂

そ︑わが国においても︑手形行為の無因性の問題において問題とされる原因関係︵原因︶であると解すべきではない

( 15 )  

かとの仮説を主張したことがある︒

手形の授受は︑債務の弁済・手形上の権利の売買・信用の授与など種々の目的で行なわれるが︑そのいずれの場合

であっても︑この﹁手形を授受︵交付︶する旨の合意または手形予約﹂が明示または黙示の意思表示によって行なわ

れており︑このような手形の授受︵交付︶に関する合意は︑いずれの場合であっても︑手形を授受︵交付︶する旨お

( 16 )  

よびその内容に関する合意を含むものである点で共通であると主張したのである︒ 関法第四六巻第四・五・六号

二 六

(10)

一︑もっとも︑以上のように手形行為の無因性との関係において︑原因関係としての﹁手形の授受︵交付︶に関する 合意﹂という考え方を強調することは︑従来の通説的な見解とそれほど大きく異なることを説くものではない︒たと えば︑売買代金債務の弁済に関して手形が授受される場合の原囚関係を売買契約または売買代金債務であると考えて

も︑ここにいう手形授受︵交付︶

の合意であるとしても︑結論は必ずしも異ならない場合も多い︒売買契約が無効で

( 17 )  

あれば︑結局︑その代金債務の弁済のために手形を交付する旨の合意も無効になるであろうからである︒

る合意﹂に求めたのは︑それによって︑原因関係にもとづく抗弁を新たな視点から法律構成することが可能になるの

ではないかと考えたからである︒原因関係を手形授受︵交付︶

係にもとづく抗弁﹂と呼ばれていたものは︑手形授受︵交付︶ の合意に由来し︑あるいは関連する事由として捉え直

( 18 )  

すことになるであろうが︑これは︑﹁手形外の特約にもとづく抗弁﹂として人的抗弁の一場合として位置付けること

( 19 )  

ができるのではないかと考えたのである︒さらにいえば︑このように原因関係にもとづく抗弁を新たな視点から再構 成して︑﹁手形外の特約にもとづく抗弁﹂と位置付けることによって︑従来︑原因関係にもとづく抗弁に関して争わ れてきたいくつかの問題に新たな視角から考察を加えることが可能となると考えたからである︒

二︑このように手形行為の原因を手形授受︵交付︶

すべきは︑そのような法律構成が﹁無因性にもかかわらず原因関係にもとづく抗弁が手形授受︵交付︶

おいて認められることの理由付け︵論拠付け︶﹂に役立つのではないか︑ということである︒ 3 

手 形

授 受

︵ 交

付 ︶

の 合

意 に

関 す

る 覚

手形授受︵交付︶の合意の重要性

それにもかかわらず︑このように手形行為の無因性との関係で問題となる原因関係を﹁手形の授受︵交付︶に関す

の合意に求めることによって︑従来︑

の合意に求める法律構成を試みる理由として︑先ず︑第一に言及

三二七 の当事者間に

( I  

0

1  

I

九 ︶ 一般に﹁原因関

(11)

︵ 一

般 悪

意 の

抗 弁

‑ =

二 八

( 1

0 三

0 )

いわゆる原因関係にもとづく抗弁は︑わが国においては︑人的抗弁の典型例とされているが︑手形行為の無因性に

もかかわらず原因関係にもとづく抗弁が手形関係においても抗弁︵手形抗弁︶となりうることの理由付けは︑むしろ

( 20 )  

等閑視されてきたようである︒わが国の判例は︑原因関係にもとづく抗弁が手形受授の当事者間において認められる

理由を示しておらず︑学説には︑①手形無因論を採りながら︑不当利得の抗弁で説明する見解︑②権利濫用の理論

2 2

によるものなどがあるが︑最近では︑③いわゆる手形権利移転行為有因論を採り無権利の抗弁で

( 23 )  

説明する見解も見られる︒これに対して︑原因関係にもとづく抗弁を﹁手形授受︵交付︶の合意に由来する抗弁﹂と

捉え直す考え方は︑それによって︑形式論理としては︑原因関係にもとづく抗弁をすでに認められている﹁手形外の

特約にもとづく抗弁﹂として位置付けることによって説明し︑また実質的には︑原因関係にもとづく抗弁の根拠を手

( 2 4 )  

形を授受する当事者の意思︵合意︶に求めようとしたものである︒

︱︱‑︑このような法律構成を試みた第二の理由は︑従来︑軽視されがちであった﹁手形の授受︵交付︶に関する合意﹂

または手形予約を強調することによって︑これを軽視してきたために説明が困難とされてきたいくつかの手形法上の

問題︵解釈問題︶に新たな視点からする説明の途を開こうとするものであった︒たとえば︑融通手形や書替手形をめ

ぐる諸問題の説明にあたって︑融通手形または書替手形の授受に関する当事者間の合意に立ち返った説明が容易にな

( 25 )  

るのではないかと考えたのである︒

もっとも︑以上は︑必ずしも独自の見解ではなく︑すでにわが国においても同一方向の主張をするドイツの学

( 26 )

2 7

)  

説が紹介されていたことからも明らかなように︑

1

ドイツの学説にアイディアを借りたものであった︒

大隅健一郎・新版手形法小切手講義︵有斐閣・一九八九年︶二六頁︑鈴木竹雄・手形法小切手法︵有斐閣・昭和︱︱︱︱一年︶ 関

法 第 四 六 巻 第 四

・ 五

(12)

手形授受︵交付︶の合意に関する覚書 二 0

頁 参

照 ︒

( 2

)

小橋一郎﹁手形の無因性﹂手形法・小切手法講座第一巻四一頁以下所収は︑無因性を分析して﹁それ︹手形の無因性︺は

まず︑手形上の権利はその原因の主張・立証を要しないでこれを行使することができるということに関連せしめられる︒あ

るいはまた︑手形上の法律関係の内容にその原因関係が入り込まないこと︑ないしは手形上の権利の存在が原因関係の存否

または有効・無効によって影響を受けないことが手形の無因性の意味としてとらえられる︒さらに︑手形抗弁制限の法則に

ついても手形の無因性が問題にせられることが少なくない﹂と述ぺている︒

( 3

)

わが国において有力ないわゆる二段階行為論を前提とする手形権利移転行為有因論も︑債務負担行為との関係では︑この

ような無因性を認めるものであり︑したがって︑その限りでは︑本文に述べたところが妥当するであろう︒鈴木竹雄・手形

法・小切手法︵有斐閣・昭和三︳一年︶の補遺である︹手形法・小切手法︺補遺︵昭和四一・︱‑.︱‑︶および前田庸・

手形法・小切手法入門︵有斐閣・昭和五八年︶四六頁以下参照︒もっとも︑以下においては︑手形理論としては︑交付契約

説︵ただし︑交付欠鋏の場合には︑権利外観理論によるとする見解︶を前提にして叙述することにする︒

( 4

)

もっとも︑ドイツの学説にも教科書などで見る限り︑このような定義を採用するものが少なくないようである︒たとえば︑

Hu ec k/ Ca na ri s, e  R ch t  d er   Wertpapaiere, 

12 . 

A uf l

・ "

  1

98 6,

s .  

 

44

における手形の性質としての

Ab st ra kt he it

の 説

明 参

照 ︒

( 5

)

このことは︑手形法だけの問題ではなく︑民法の学説もそのような定義で満足することが多い︒四宮和夫・民法総則︵第

四版︶︵弘文堂・昭和六一年︶一四六頁も︑そのように読めなくもない︒そこでも︑有因行為においては︑原因が不成立や

無効であれば︑出捐行為自体も無効となる︑とされているのである︒しかし︑これに続けて︑無因行為は︑出捐行為の効力

が原因の不成立や無効の影響を受けないように﹁原因から切り離された出捐行為である﹂と説明されているのであり︑ここ

に﹁原因から切り離された︹出捐行為︺﹂とは︑後述の︵後註︵11︶︶を伴う本文参照︶﹁その出捐を正当付ける原因をふくん

でいない︹出捐行為︺﹂をいうものであるとすれば︑これは︑もっぱら法的な効果からする定義とはいえないであろう︒

( 6

)

また︑このように効果の側からだけ無因性に検討を加える見解は︑勢い︑無因性は︑﹁手形法から直ちに生ずる以上のこ

とを意味するものではない﹂

(H ub er , Ei nw en du ng en e  d s  B ez og en en   ge ge n  d en   We ch se l,   Fe s t sc h r if t   fi i r   W er ne r  F lu me   zu m 

70 . Geburtstag,

a  B nd  I I ,   19 78 ,  S .  83 ,  S .  10 4)

と い

r

? 蘊 函 辛 ‑ に 渚 ‑ を 開 く こ と に な る の で は な い か ︑ 少 な く と も ︑ そ の よ う

な考え方に馴染みやすいのではないか︑と考える︒

三 二 九

( 1

0 三

一 ︶

(13)

関 法 第 四 六 巻 第 四

・ 五

・ 六 号

三 三

( 1

0 三

二 ︶

( 7

)

四宮和夫・前掲書一四五頁以下︒

( 8

)

四宮和夫・前掲書一四六頁︒このような無因性の説明は︑

Fl um e, Al lg em ei ne r  T e i!   de s  Burgerlichen

  Re ch st , 

3.  A u f l. ,  

19 79 , 

s .  

152 

f f .  

の そ

七 い

と 基

本 的

に 同

じ で

あ ろ

う ︒

(9) 小橋一郎•新版手形法小切手法講義(有信堂高文社・一九八二年)八頁。

( 1 0 )

小橋一郎・新版手形法小切手法講義︵有信堂高文社・一九八二年︶八頁︒なお︑木内宜彦・手形法小切手法︵企業法学

m )

︹ 第 二 版 ︺ ︵ 勁 草 書 房 ・ 一 九 八 二 年 ︶ ニ ︱ 0 頁も︑これと同旨を述べている︒ (11) このことは、小橋一郎・手形法・小切手法(成文堂•平成七年)九頁以下においては、より詳細に次のように説明されて

い る

﹁法律行為のうち出捐を内容とするものを出捐行為という︒出捐とは︑当事者の一方が︑その意思に基づいて財産上の損 ︒ 失をすることによって︑相手方を利得させることであって︑具体的には給付または債務の設定である︒出捐行為としては︑

その出捐を正当づける原因

( ca u s a, Re ch ts gr un d)

を型としての法律行為の中に含んでいるものと︑そうでないものとが考

えられる︒原因を含んでいるものが有因行為であり︑そうでないものが無因行為である︒売買契約という法律行為を例にと ると︑⁝⁝買主は︑この法律行為によって売買代金支払債務を負うから︑この法律行為は出捐行為である︒また︑買主がこ のような出捐をするのは︑売主が目的物の所有権移転の債務を負うからであり︑すなわち︑買主の出捐を正当づける原因は︑

売主の債務負担である︒売買契約⁝⁝には︑買王の出捐を正当づける原因が含まれており︑売買契約は有因行為である︵売 主を中心としてみても︑同様のことがいえる︶︒これに対し︑単に当事者の一方が相手方に対して一定の金額を支払うとい うだけの約束は︑その出捐を正当づける原因を含んでいない︒勿論︑実際には︑そのような約束をするにはなんらかの原因 があるであろうが︑行為の型としては出捐を正当づける原因を含んでいないとき︑その行為は無因行為である︒﹂

(12) 大隅健一郎•前掲書六六頁。

( 1 3 )

無因性を手形行為の性質として捉えると︑本文において述べたように︑無因性において問題とすぺき原因または原因関係

とは︑﹁出捐を正当付ける原因﹂であり︑それは︑結局︑﹁手形授受︵交付︶の合意﹂に他ならないということになるが︑こ

のような図式は︑必ずしも論理上必然的なものではない︒

たとえば︑無因性を手形行為の性質として捉える四宮和夫・前掲書一四五頁以下は︑註︵ 8 ︶を伴う本文において引用した

(14)

手形授受︵交付︶の合意に関する党書 ように︑原因を﹁出捐の基礎となった法律関係﹂であるとしているが︑これは︑原因の例として﹁売買契約または金銭の消 費貸借契約﹂を挙げる従来の一般的な見解と同旨をいうものであろう︒

しかし︑無因性を手形行為の性質として捉え︑小橋一郎・前掲書︵前註︵

1 1 ︶︶九頁以下の有因行為の説明に見るように︑

﹁買主の出捐を正当づける原因は︑売主の債務負担である﹂と説く場合には︑原因は︑これを﹁出捐の基礎となった法律関 係﹂と表示するよりは︑﹁出捐を正当付ける原因﹂と表示する方が分かりよいであろう︒また﹁出捐を正当付ける原因﹂の

意味に関しても︑前註

( 1 1 ) を伴う本文のように考える場合には︑結局︑本文において述ぺたようになるであろう︒また︑ド イツでは︑近時︑そのように考える見解が相当有力である︵なお︑後註

( 1 4 )

参 照

︶ ︒

いずれにせよ︑このような問題は︑不当利得法の検討をまって︑初めて判断すべきものであると考える︒本稿の﹁まえが き﹂においても述ぺたように︑本稿は︑この問題に関する今後の検討のための準備作業にすぎない︒

( 1 4 )

 

Pr an tl ,  D ie   Ab st ra kt he it   de

s  W 

ec hs el s,  1 98 9,  S .

 63 

f.

 

によれば︑ここにいう﹁手形交付の合意

(B eg eb un gs ab re de )

に も

︑ さらに次のような二つの場合があるという︒すなわち︑原因関係上︑①原因関係︵原因債務︶の債務者が債権者に対して手 形を交付する義務を負う場合と︑②原因関係︵原因債務︶の債務者が債権者に対して手形を交付する義務を負うものではな いが︑債務者の側で一定の目的を達成するために︵たとえば︑原因債務の履行︶︑手形の交付を希望しており︑債権者がそ の目的を知りながら︑これを了解している場合とである︒いずれの場合にも︑当事者は︑そのためにする手形の交付および その結果生ずる権利義務に関して合意する必要がある︒これによって︑始めて︑手形と原因関係とが関連付けられるのであ

る ︒ こ の 合 意 が ︑

1

これは︑すでに原因関係となる契約と同時に行なわれるか︑あるいは︑その後︑手形の交付契約に際 して︵さらに原因関係の変更のような場合には︑さらにその後に︶明示または黙示に行なわれるものであるが︑ここで いう﹁交付の合意﹂に他ならない︒その内容は︑当事者の自由に委ねられているが︑多くは︑右のいずれかである︒すなわ ち︑交付の合意は︑①手形法上の債務を負担すぺき旨の

( di e Be gr ii nd un g  e in er e  w ch se lr ec ht li che n  Ve rb in dl ic hk ei t)

債務

契約であるか︑それとも︑②手形法上の債権は︑原因債権の履行のためのものであるとの債権者と債務者との合意︑すなわ

ち︑単なる目的の合意

(N we ck ve re in ba ru ng )

であるかのいずれかである︒

ま た

Ca na ri s, De r  E in we nd un gs au ss ch lu B  i m  W e丑 pa pi er re ch t, Ju S 

19 71 , 

S . 4

41 , 

S . 

446

は︑交付の合意に関して次のよ

うに述ぺている︒

>

( 1

0 三

三 ︶

(15)

関法第四六巻第四•五・六号

>

( 1

0 三

四 ︶

すなわち︑手形の交付の﹁法律上の原因﹂

(, ,R ec ht sg ru nd

^ ^  

de r  W ec hs el hi ng ab e)

は︑売買契約または金銭の消費貸借契

約ではなくて︑それとは区別すべき特別な﹁交付の合意﹂

(, ,B eg eb un gs ab re de

'

^︶である︒このような見解による場合︑た

とえば︑手形によってその支払が担保︵確保︶される原因債務が瑕疵のないものであっても︵瑕疵のない原因債務︶︑債務

者が手形の授受︵交付︶を瑕疵ある意思表示︵瑕疵ある交付の合意︶にもとづいて行なっているときは︑その交付義務︵交

付の合意︶を取消して︑手形の返還を請求できるはずである︒このように考えるときは︑不当利得返還請求の認められるの

は︑︹原因である︺交付の合意の無効または消滅の場合であって︑その支払が手形によって担保︵確保︶されている債権の

無効・消滅によってではないことになるはずである︒もっとも︑手形によってその支払が担保︵確保︶されている債権の無

効・消滅は︑例外なく交付の合意に影響を及ぼすのであるから

1

ドイツ民法一三九条︹一部無効

( Te i l ni c h ti g k ei t )

に 関

する規定︺の類推に拠るにせよ︑あるいは︑法律行為の基礎

(G es ch ii ft sg ru nd la ge )

に関するルールに拠るにせよ︑ーー結

局︑通説の結果には︑︵その法律構成には従うことはできないとしても︑︶従ってよいのである︒

な お

Hu ec k/ Ca na ri s, a .   a .  

0 .  

( Fn .  4 )  S.

 166

も︑同旨を述べる︒ただし︑そこでは︑﹁交付の合意

'( Be ge bu ng sa br ed e)

という表現ではなくて﹁手形の授受︵交付︶に関する合意

(V er ei nb ar un t i g b er   di e  H in ga be e   d s  We ch se ls

)

﹂という表現が

用いられていることは︑すでに︵本稿︑まえがき︑註(1)︶指摘した通りである︒ (15) 福瀧博之「手形行為とその原因関係」竹内昭夫編•特別講義商法

II

(有斐閣·一九九五年)―-七頁以下所収‘―二四頁

以下および︱二六頁以下参照︒

なお︑本文において述べたところは︑

P ra n t l, a .   a .  

0 .  

S . 

64

に拠ったものであるが︑このように手形授受︵交付︶の合意

を手形予約と同視することには︑批判も予想される︒交付の合意の場合には︑当事者は︑一定の目的の達成のために手形を

交付することだけではなくて﹁その結果生ずる権利義務﹂に関しても合意する必要があるのである︵前註

( 1 4 )

において引用

す る

P ra n t l, a .   a .  

s .   •

63

.

 

参照︶︒しかし︑他方︑ここにいう手形授受︵交付︶の合意も﹁原因関係と手形関係との中間に

あって︑これを媒介する法律関係﹂︵大隅健一郎・前掲書六六頁の手形予約の定義︶なのであって︵

Vg l. P ra n t l,   a .   a .  

0 .  

S.  

17)

︑その限りにおいて︑

1

仮に両者を完全に同一視することはできないとしても︑両者の共通点も少なくないよう

である︒結局︑これは︑手形授受︵交付︶の合意と手形予約という二概念の定義の問題であるといえるであろう︒ (16) 福瀧博之•前掲(前註 (15) )―二六頁参照。

(16)

( 1 7  

( 1 8  

手形授受︵交付︶の合意に関する覚書 前註 (14) に掲げた

Canaris

の見解および福瀧博之•前掲(前註 (15) )―二六頁参照。

手形外の特約にもとづく抗弁の意義も問題となる︒わが国の手形抗弁に関する理論も区々に分かれている︒

たとえば︑ある見解は︑人的抗弁を﹁被請求者と請求者の間の人的関係に基づく抗弁﹂であるとし︑具体的には︑﹁原因

関係に基づく抗弁︑手形外の特約に基づく抗弁︵たとえば︑支払の猶予︑請求しない旨の合意︶︑手形に記載されていない 支払•免除・相殺など」であるとしている(小橋一郎・前掲書〔手形法・小切手法〕―二四頁)。この見解に関しても、議

論はあろうが︑しかし︑少なくとも︑このように﹁原因関係に基づく抗弁﹂および﹁手形外の特約に基づく抗弁﹂を人的抗

弁の典型例とすることは︑かなり一般的であろう︒結局︑本文において述ぺるところは︑手形行為の原因関係を﹁手形の授

受︵交付︶に関する合意﹂と捉えることによって︑従来﹁原因関係に基づく抗弁﹂とされていたものをも︑﹁手形外の特約

に基づく抗弁﹂の範疇に入るものとして説明するものである︒ (19) 福瀧博之•前掲(前註 (15) )―二七頁以下。

( 2 0 )

すでに︑木内宜彦・前掲書二 0 九頁もこのことを強調している︒なお︑上柳克郎﹁手形の無因性についての覚書﹂会社

法・手形法論集︵有斐閣・昭和五五年︶三八六頁以下所収︑三八八頁以下参照︒ (21) たとえば、最判昭和三九•一・ニ三民集一八巻一号三七頁参照。

( 2 2 )

周知のようにわが国には︑ドイツ民法におけるような無因債務の負担によって成立する不当利得に関する明文の規定はな

いが︑学説にはドイツ法と同様の解釈を試みる見解もみられる︒たとえば︑四宮和夫・事務管理・不当利得︵青林書院・昭

和五六年︶︱二四頁︒ (23) わが国における見解は区々である。高窪利一・現代手形・小切手法(改定版)(経済法令研究会•平成一年)三六九頁以

下 参

照 ︒

(24) 福瀧博之•前掲(前註 (15) )二てハ頁以下、一三

0頁。

(25) 福瀧博之•前掲(前註 (15) )―二八頁。いずれにせよ、あるいは、書替手形といい、あるいは、融通手形というも、手形

法の規定する約束手形または為替手形に他ならないのであって︑そのような特別な名称で呼ばれる理由は︑もっぱらその原

因関係または︑手形授受に関する当事者の合意に求めることができるのではないかと考える︒

そのような考え方にもとづいて︑書替手形をめぐる一問題の処理を試みたものに︑福瀧博之﹁手形とその原因関係に関す

>

( 1

0 三

五 ︶

(17)

る一考察~手形の書替に関する一判決との関係において—|'」関西大学法学論集四二巻三•四号四一ニ―頁がある。

( 2 6 )

菊 池

和 彦

﹁ 手

形 の

無 因

性 の

再 検

討 ﹂

岩 手

県 立

盛 岡

短 期

大 学

法 経

論 集

︱ 一

号 四

九 頁

( 2 7 )

福 瀧

博 之

・ 前

掲 ︵

前 註

( 2 5 )

︶ (

﹁ 手

形 と

そ の

因 原

関 係

に 関

す る

一 考

察 ﹂

︶ 参

照 ︒

手形授受︵交付︶

手形授受︵交付︶の合意の手形法解釈への応用

一︑私見も︑かつて﹁手形授受︵交付︶

なる原因関係︵原因︶ の合意﹂こそ︑わが国においても︑手形行為の無因性の問題において問題と

(1 ) 

であると解すぺきではないかとの仮説を主張したことがあり︑さらに︑そのような考え方にも

(2 ) 

とづいて︑書替手形をめぐる一問題の処理を試みたこともあるが︑近時︑このような法律構成には︑まだ検討すべき

点があるのではないか︑とも考えるに至っている︒

ところで︑近時︑わが国においては︑ここで取り上げている﹁手形授受︵交付︶ の合意﹂という目新しい概念を用

いて具体的な手形法の解釈問題を処理しようとする見解が私見の他にも複数登場するに至っている︒ここでは︑先ず︑

(4 ) 

このような考え方をもっとも早くかつ詳細にわが国に紹介した見解の一によるそのような試みを紹介することによっ

て︑私見が手形授受︵交付︶の合意に対して疑問を懐くに至った事情を示すことから始めることにする︒

(4 ) 

二︑この見解は︑先ず︑手形または手形行為の無因性との関係において問題となる原因または原因関係をいわゆる

﹁交付の合意﹂に求めている︒これは︑本稿において﹁手形の授受︵交付︶に関する合意﹂と呼んでいるものに相当

する︒すなわち︑たとえば︑次のような説明が行なわれている︒ 関法第四六巻第四・五・六号

の合意をめぐる疑問

三 三

( 1

0 三

六 ︶

(18)

手 形

授 受

︵ 交

付 ︶

の 合

意 に

関 す

る 覚

﹁不当利得法にいう法律上の原因とは何であろうか︒たとえば︑売買代金支払のために手形を振り出した場合︑

売買契約から生じる債務は契約履行債務であって︑手形債務はそれ自体からは導き出すことができない︒⁝⁝こ

の場合︑当事者の履行の目的の取り決め ︵ないしは合意︶が法律上の原因となるのではないか︒⁝⁝この考え方

によれば︑手形振出の法律上の原因とは交付の合意であり︑原因契約は法律上の原因ではないことになる︒﹂﹁原

因契約からは手形交付契約の原因が導き出せず︑そこで原因債務の履行のために手形を交付する当事者間におけ

る交付の合意という付加的な合意が必要となり︑この合意によって始めて手形関係と原因関係が関係づけられる

とになる︒したがって︑手形交付契約の直接の根拠は交付の合意から生じ︑間接的な根拠はその基礎にある原因

(5 ) 

関 係

か ら

生 じ

る ﹂

この見解は︑﹁交付の合意﹂を以上のように説明したうえ︑この﹁交付の合意﹂という考え方を﹁手形債務者がい

わゆる原因関係にもとづく抗弁をもって所持人︵手形授受の直接の相手方である所持人︶に対抗できること﹂の説

(6 ) 

明・根拠として用いることを提唱される︒

しかも︑さらにこのような立場から手形法解釈学における具体的な問題をも検討される︒たとえば︑いわゆる融通

手形の抗弁をめぐる問題を検討したうえ︑次のような結論に到達される︒すなわち︑﹁交付の合意﹂は︑﹁手形行為の

前提となる原因契約の瑕疵を手形債権に及ぼすための根拠﹂であり︑交付の﹁合意の内容に合致しない被融通者の行

(7 ) 

為は合意違反さらに融資契約に違反するととらえて﹂これを抗弁として認めることになるというのである︒

三︑右の学説は︑このような法律構成は︑﹁手形の無因性を無視しない形﹂になっているという︒わが国の学説が

﹁原因関係の瑕疵から生ずる結果を抗弁として手形関係の効果を定める方式をとっている﹂のは︑﹁原因関係を直接

三 三

( 1

0 三

七 ︶

(19)

すなわち︑私見によれば︵本稿︑ 手形関係に持ち込むという形式﹂であって︑﹁この限りで無因性を無視することになるのではないか﹂と説き︑これ に対して同説は︑﹁原因関係上の瑕疵を直接でなく交付の合意という概念を媒介とし間接的に手形債権に及ぼし︑手

(8 ) 

形の無因性を無視しない形にしている﹂というのである︒

手形授受︵交付︶の合意をめぐる疑問

一︑以上のように見てくるとき︑私見によれば︑﹁手形授受︵交付︶

形法の解釈に応用する以上のような考え方に対しては︑次に見るように︑いくつかの点において疑問が生ずる︒

一 ︑

3 )

︑ 手

形 授

受 ︵

交 付

ものに他ならないが︑まさにこの点において疑念を生ずる︒

( 1

0 三

八 ︶

の合意﹂または﹁交付の合意﹂という概念を手

の合意という概念は︑原因関係にもとづく抗弁を法

律的に再構成するとともに︑それによって手形法解釈上の問題に新たな視角からする分析を加えることを目的とする

先ず︑①このような概念は︑

1

すなわち︑私見にいう﹁手形の授受︵交付︶に関する合意﹂または﹁交付の合

意﹂は︑ーー'原因関係にもとづく抗弁を﹁手形授受︵交付︶の合意に由来する抗弁﹂と捉え直すものであるといって

よいであろうが︑このことによって︑果して﹁無因性にもかかわらず原因関係にもとづく抗弁が手形授受︵交付︶

当事者間において認められることの理由付け︵論拠付け︶﹂に成功しているのであろうか︒また︑②﹁手形の授受

︵交付︶に関する合意﹂または手形予約を強調することによって︑手形法上の問題︵解釈問題︶に新たな視点からす

る分析を加えることが本当に可能になっているのであろうか︒

すなわち︑右の前者︵①︶との関係では︑原因関係にもとづく抗弁を﹁手形授受︵交付︶ 2  関法第四六巻第四•五・六号 六

の 合 意 に 由 来 す る 抗 弁 ﹂

(20)

手 形

授 受

︵ 交

付 ︶

の 合

意 に

関 す

る 覚

問 を

禁 じ

え な

い ︒

と読み替え︑それを﹁手形外の特約にもとづく抗弁﹂と位置付けることによって︑問題は片付いたといってよいので

あろうか︒無因性にもかかわらず︑﹁手形外の特約にもとづく抗弁﹂を主張しうるとすることは︑手形の無因性に矛

盾しないのであろうか︒あるいは︑無因性にもかかわらず︑﹁手形外の特約にもとづく抗弁﹂を主張しうる根拠は何

に求めるべきであろうか︒そして︑もしこの点︵①︶ に疑問が残るとすると︑手形の授受︵交付︶に関する合意に由

来する抗弁という視点から手形法解釈学上の問題を見直すべきであるという右の後者の問題︵②︶との関係において

も︑議論の余地が残っているといわざるを得ないであろう︒

二︑これを要するに︑手形交付の合意ないし手形授受︵交付︶に関する合意という考え方に対しては︑次のような疑

本稿における私見のように無因性を法律行為の種類の一である無因行為との関係において位置付けて︑無因行為を

︑ ︑

︑ ︑

﹁出捐を正当化する法律上の原因が法律行為自体にふくまれない法律行為﹂として捉える場合にも︑その結果として︑

手形行為の無因性を﹁手形行為は︑原因関係とは別個のものであり︑原因関係の存否︑有効無効の影響を受けない﹂

ことをいうとする点では︑従来の一般的な見解と異ならないであろう︒また︑このように理解される無因性の法的根

拠についても︑少なくとも手形行為に限っていえば︑無因性は︑手形が要式の書面行為であり︑かつその方式として

は実定法上﹁単純な支払約束・支払委託﹂が規定されているということにその法的な根拠を有するといってよいであ

( 10 )  

ろ う

仮に右のように考えてよいとすると︑このような無因性の理解からは︑近時︑﹁交付の合意﹂という考え方を用い ︒

て主張されているところは︑必ずしも理解が容易ではない︒ドイツの学説のように手形行為の原因︵または法律行為

三 三

( 1

0 三

九 ︶

(21)

履行するために交付されたことを強調するとしても︑そのことによって︑ 三 三 八

( 1

0 四

0 )

の原因︶を﹁手形交付の合意﹂に求め︑ドイツ連邦通常裁判所(BGH)の判例のように手形が原因関係上の債務を

無因性の法的根拠として︑単純な支払約束・支払委託という手形の記載文言を強調する場合には︑手形には原因の

( 11 )  

記載が許されず︑しかも書面行為たる手形行為の内容はもっぱら手形に記載されているところによって決定されるか

ら︵手形行為の文言性︶︑手形行為は原因関係の存否︑有効無効の影響を受けないはずである︵これが無因性に他な

らない︶と説明してきたのではなかったのか︒このことを敷術して︑たとえば︑約束手形の振出人︵為替手形の引受

人︶の意思表示は︑﹁原因関係についてどのような事情があろうとも手形金を支払う﹂というものであるとして︑﹁も

し︑そうであるならば︑原因関係の当事者間で振出人︹約束手形の振出人︺が原因関係にもとづく抗弁を主張するの

を認めることも︑手形振出の際に表示した意思の内容とは異なる主張をすることを許すことになり︑行為者の意思に

( 1 2 )  

よって法律関係を処理すべきであるという私的自治の基本観念と矛盾することになる﹂と指摘する見解がある︒

果たして︑そうであるならば︑このことは︑一体なぜ﹁手形外の特約にもとづく抗弁﹂には妥当しないのであろうか︒

﹁書面行為たる手形行為の内容はもっぱら手形に記載されているところによって決定されるから︵手形行為の文言

性︶︑手形行為は原因関係の存否︑有効無効の影響を受けないはずである﹂というのであれば︑﹁書面行為たる手形行

為の内容はもっぱら手形に記載されているところによって決定されるから︵手形行為の文言性︶︑手形行為は原因関

係の存否︑有効無効の影響を受けない﹂だけではなく︑およそ﹁手形外の特約﹂を典型とする﹁手形外の事情によっ

て影響を受けない﹂ということにはならないのであろうか︒約束手形の振出人︵為替手形の引受人︶の意思表示は︑ おいても抗弁として認められることになるのであろうか︒

関 法 第 四 六 巻 第 四

・ 五

・ 六 号

一体なぜ︑原因関係上の抗弁が手形関係に

(22)

手形授受︵交付︶の合意に関する覚書

﹁原因関係についてどのような事情があろうとも手形金を支払う﹂というものであるだけでなく︑およそ﹁手形外に

どのような事情があろうとも手形金を支払う﹂というものであるということには︑ならないのであろうか︒右におい

て︑手形行為が原因関係の存否︑有効無効の影響を受けないことの理由とされている事情︵書面行為たる手形行為の

内容はもっぱら手形に記載されているところによって決定されるということ︶は︑手形外の事情である原因関係との

関係において妥当するだけでなく︑およそ手形外の事情一般に関してもいえることではないのであろうか︒

このように考えるときは︑かつて私見が試みたように︑原因関係にもとづく抗弁を﹁手形の授受︵交付︶

由来する抗弁﹂と読み替え︑それを﹁手形外の特約にもとづく抗弁﹂と位置付けてみても︑必ずしもそれで問題が片

( 13 )  

付いた訳ではないであろう︒

︱ 一

七 頁

以 下

所 収

の合意に ︱

二 四

( 1

)

福瀧博之﹁手形行為とその原因関係﹂竹内昭夫編・特別講義商法

I I

︵ 有

斐 閣

・ 一

九 九

五 年

︶ 以下および︱二六頁以下参照︒

(2) 福瀧博之「手形とその原因関係に関する一考察~手形の書替に関する一判決との関係においてー」関西大学法学論集

四一巻――•四号四――――頁。

( 3

)

本稿︑まえがき︑一︑およびその註

( 3

) ︵4

) 所掲の菊池和彦﹁手形の無因性の再検討﹂岩手県立盛岡短期大学法経論集一 一号四九頁および菊池和彦﹁交付の合意と融通手形の抗弁﹂私法五八号二四一頁ならびに橡川泰史﹁手形の利用方法に関す る取り決め﹃交付の合意﹄は日本法にとって有用な道具となるか﹂判例タイムズ八︱一号五五頁など参照︒

このうち︑橡川泰史﹁手形の利用方法に関する取り決め﹂は︑日本法とドイツ法とでは︑置かれている状況が異なること

を 強 調 し な が ら も ︑

Be ge bu ng sa br ed

e

という道具概念が﹁原因取引と手形・小切手債権との関係を考察するに際して︑こ

れまでにない視点を与える可能性もある﹂と評価して︑原因取引を類型的に取り上げて︑﹁

Be ge bu ng sa br ed

e

という道具概

念を前提として原因取引と手形・小切手関係とをとらえ直す﹂という意欲的な試みである︒

( 4

)

ここでは︑菊池和彦・前掲︵前註

( 3 ) )

を 取

り 上

げ る

三三九

( 1

四 0

一 ︶

(23)

菊池和彦﹁交付の合意と融通手形の抗弁﹂私法五八号二三五頁︑二三八頁および二三六頁︒ 菊池和彦•前掲(前註 (5))

二三五頁。

なお︑この見解による﹁手形債務者がいわゆる原因関係にもとづく抗弁をもって対抗できること﹂の根拠の説明は︑次の

ようなものである︒すなわち︑﹁交付の合意の内容は手段たる手形の機能により決せられ︑原因債務の履行に対して補助的

機能を有する︒その結果︑原因債務の履行のために手形が交付されるとき︑その合意は一方で原因債務の履行を保証し︑他

方で原因債権に瑕疵が生じた場合には手形債権に対して抗弁の対抗を認め︑手段としての手形が行使できないことを保証す

ることを内容とする﹂というのである︒菊池和彦・前掲︵前註

( 5 ) )

二三七頁︒他方︑﹁手形は当事者のこの合意︹引用者

註︑交付の合意︺によって原因関係にある程度従属することになる﹂ともいう︒菊池和彦・前掲︵前註︵ 5

︶ ︶

二 三

五 頁

( 7

)

菊池和彦・前掲︵前註

( 5 ) )

二 四

0 頁 ︒

(8) 菊池和彦•前掲(前註 (5) )二四

0頁。

なお︑この見解がいうように︑わが国の通説が原因関係にもとづく抗弁を認めていることが﹁原因関係を直接手形関係に

持ち込むという形式﹂になっているといえるかどうかは疑問である︒なぜならば︑通説が﹁直接の当事者間においては原因

関係上の事項を﹃人的抗弁﹄として対抗しうる﹂としているのは︑﹁論理的には手形上の権利の存在を前提としている﹂の

であって﹁手形上の権利の成立を否定するものではない﹂からである︒石井照久・鴻常夫・手形法小切手法︵商法

N )

︵ 増

補版︶︵勁草書房・昭和五 0 年 ︶ 七 四 頁 参 照 ︒ (9) 橡川泰史•前掲(前註 (3) )は、交付の合意という名称を避けて「手形の利用方法に関する取り決め」というが、ここで は、この問題には立ち入らない。橡川泰史•前掲(前註 (3) )五八頁参照。

( 1 0 )

手形行為の独自性という意味の無因性は︑手形が設権証券であり︑しかも原因行為とは別個の書面行為であることから説

明でき︑また狭義の無因性は︑手形の記載文言︵単純な支払約束・支払委託︶と手形行為の文言性から説明できるであろう

︵なお︑独自性および狭義の無因性という概念に関しては︑本稿︑一︑ 1

︑ 一

参 照

︶ ︒

(11)支払約束︑支払委託など手形行為は単純であることを要する︵手形法一条二号︑七五条二号︑なお︑手形法︱二条一項︑

二六条一項参照︶︒﹁従って︑手形には原因関係を記載することを要しないのみならず︑手形の効力を原因関係にかからしめ

ることもできない︒この結果︑手形は当然無因証券となるのである﹂︒鈴木竹雄・手形法・小切手法︵有斐閣・昭和三二年︶

( 5

)  

( 6

)  

関法第四六巻第四・五・六号

三 四 〇

( 1

0 四 ︱

‑ ︶

(24)

手形授受︵交付︶の合意に関する覚書 一七六頁註

( 9

︒しかし︑仮に原因関係に関する付記︵原因文句︶があっても︑手形の効力がなくなるものではない︒鈴木 )

竹雄・前掲書二

0

0 頁︒なお︑手形の記載事項に関して一般的にいえば︑法が記載を許した事項以外の事項は︑これを記載

しても︑法が明文をもって手形上の効力を否認する事項に限らず︑およそ原則としてその記載は手形上の効力を生じないが (ただし、鈴木竹雄・前掲書一九八頁参照)、他方、手形自体の効力には影響を及ぼさないとされている。大隅健一郎•新版

手形法小切手法講義︵有斐閣・一九八九年︶九一頁参照︒

( 1 2 )

上柳克郎﹁手形の無因性についての覚書﹂会社法・手形法論集︵有斐閣・昭和五五年︶三八六頁以下所収︑三九一頁以下︒

もっとも︑この見解がこのように主張しているのではない︒無因性の根拠を手形行為者の意思に求める見解の論理を徹底す

れば︑そのようになるということを指摘するにすぎない︒

すなわち︑上柳克郎・前掲書三九二頁は︑手形の無因性の根拠を単純な支払約束または支払委託に求める解釈は︑①手形

に単純な支払約束または支払委託が記載されているという事実だけをその根拠とすることはできないのであって︑これに加

えて︑さらに︑②原因関係について主張立証する責任を負担せずに債権を訴訟によって実現できるようにするという法技術

的要請と︑③手形抗弁の制限を無理なく説明︵法律構成︶するという法技術的要請が相侯って初めて成立する解釈であると

し て

い る

( 1 3 )

なお︑ドイツでもわが国においても手形法一七条の規定する人的抗弁の典型例として︑﹁原因関係にもとづく抗弁﹂と

﹁手形外の特約にもとづく抗弁﹂とを挙げるのが一般的であるが︑両者の関係は必ずしも明らかではない︒

ドイツにおいても︑

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のように︑﹁手形外の特約にもとづく抗弁﹂が認められていることを根拠に︑原因関係にもと

づく抗弁が手形授受の当事者間では抗弁となりうるとする判例を支持する見解もある︒

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151  (

19 87 )  2 66 . 

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まさに﹁手形外の特約にもとづく抗弁﹂が無因性にもかかわらず認められるかどうか︑ということも問題となるであろう︒

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の諸説に関しては︑福瀧博之﹁手形授受の当事者と原因関係上の抗弁ー

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論 争 ー

﹂ 関 西 大 学 法

学論集四一巻三号八一頁︱二八頁参照︒

また︑この関係で︑前田庸・手形法・小切手法入門︵有斐閣・昭和五八年︶三九頁が﹁手形債務負担行為の無因性とい

うことは︑⁝⁝それがたんに原因関係上の瑕疵の影響を受けないというだけではなく︑それより広く︑手形外の法律関係に

よる影響を受けない行為としてとらえられる﹂としていることが注目される︒

三 四

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0 四

三 ︶

参照

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