手形の無因性と「原因」関係に
基づく抗弁に関する若干の考察
――「交付合意論」を踏まえて――
その基礎にある債務(=原因)関係、すなわち法律上の原因からの手形小切手 債権の存立及び内容の純然たる切断(独立性)として理解される。すでにこの ことから、無因性の2つの意味が導かれる。ひとつは、証券上の権利が基礎に ある原因債権の存在から独立していること、法律上の原因の独立性であり、も うひとつは、権利が内容的にも原因関係上の抗弁から切断されていること、抗 弁の独立性である」と説明する (12) 。シュナウダーの説明においては、福瀧教授の 説明と異なり、原因が不当利得の成立要件と関連する「法律上の原因」(日本 民法703条、ドイツ民法812条)であることが明確にされ (13) 、また、「法律上の原 因の独立性」とともに「抗弁の独立性」が重視されている。シュナウダーは、 こ の 両 者 を 重 視 す る も の を「折 り 紙 つ き の 無 因 原 則(altbewährten Abstraktionsgrundsats)」と呼んでいるが (14) 、ここでは、手形行為の「法律上の 原因の独立性」としての無因性について検討する。
は、手形の交付に際して異なる事情がある。給付目的として原因関係に関連づ けられる履行目的は、この類型においては存在しない。むしろ交付は、ここで は実際に証券交付合意の類型における特別な担保合意に基づいて生ずる」と述 べている (27) 。 手形の交付は、売買契約における代金支払債務のような「原因」債務の履行 に代えてなされる場合とその履行のためになされる場合とに分けられ、後者 は、さらにその履行の方法としてなされる場合とその担保としてなされる場合 とに分けられる。このうち「原因」債務の履行に代えてなされる場合における 手形の交付は、「原因」債務の代物弁済と解されることから、主観説に立つ場 合、その「目的」は、やはり「原因」債務の履行と解されよう。問題となるの は、手形の交付が「原因」債務の履行のためになされる場合についてである が、ツェルナーによると、「原因」債務の履行の方法としてなされる手形の交 付は「原因」債務の履行を「志向」するものであるため、その「目的」は「原 因」債務の履行にあり、「原因」債務の担保のためになされる手形の交付は「原 因」債務の履行に対して「追加」されるものであるため、その「目的」は、手 形の交付合意の履行にあるということとなる。 しかし、手形の交付が「原因」債務の履行のためになされる場合には、それ が履行の方法としてなされようが担保のためになされようが、「原因」債務は 消滅せず、手形債務が「原因」債務に対して新たに「追加」されることは変わ りがない。そして、判例によると、手形債務は、「挙証責任の加重、抗弁の切 断、不渡処分の危険等を伴うことにより、原因関係上の債務よりも一層厳格な 支払義務」であり、会社がその取締役に宛てて約束手形を振り出す行為は、原 因債務の負担とは別個に現行会社法356条1項2号の「取引」にあたる (28) 。そう (27) Zöllner, Die Wirkung von Einreden aus dem Grundverhältnis gegenüber Wecsel- und