中学校数学の空間図形領域における問題解決についての研究
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(2) はじめに 中学校の3年生にとって、2月初旬は目前に迫った高校入試や就職試験に向け、 最後の追い込みに忙しい時期である。また、2年生にとってもこの時期は「もうす ぐ最上級生」という意識のもとに、3年生を送る会の計画や修学旅行の準備に追わ れる忙しい時期である。. 1年生にとってこの時期は、中学校生活にも慣れ、2、3年生のような意識や目 標もないため、気がゆるみがちになり生活面での乱れが目立つ時期である。そのよ うな気のゆるみは、授業への取り組みにも顕著に現れる。たとえば、忘れ物やおし. ゃべりが目立つようになり、50分間落ちついていられない生徒とが多くなる。ま た、閉め切った教室の中で、ぼんやりとしている生徒も見られるようになるなど、 4、5.月の取り組みとは大きな違いである。. そのような状況の申で、空間図形領域の学習は行われるのである。したがって、 2、3年生の生徒の申からときどき、’「空間図形の勉強をしたような気がしない」 とか「空間図形の勉強で覚えているのは、模型づくりと大根切りだけ」といった 声が聞かれる一つの背景として、上述したような、生徒の精神状態があると思われ る。. しかしながら、筆者は、そのような状況にある中学1年の生徒でも、空間図形の 持つ不思議な性質を発見したり、空間図形の様々な特性を考察するおもしろさを体 験することによって、意欲的に学習に取り組むことができるようになると考える。 空間図形領域は操作や実験が多く、生徒達の興味、関心をひく教材が豊富である。 そのような点からも、上述したような学習が可能な領域ではなかろうか。. 「そのためには、どのような指導が必要であろう」、この疑問が、筆者の空間図 形領域の研究のスタートである。. 平成6年12月 鈴 木 弘 光. 1.
(3) 【目. 次】. はじめに. 1. 第1章 本研究の意図と先行研究. 第1節 本研究の意図. 一一一”一H’一一一“‘“一 ” 一“”一一一一一一−一”‘一一一一一’一’一“一一一璽曹. 第2節 本研究に関わる先行研究. ・一一一…一一一一一……一一一…一一一……. 1.空間図形領域に関する先行研究 2.問題解決に関する先行研究. 第2章 空間図形領域の諸特性. 第1節 教材面からの考察. ・……一…………一…. 一…一…一一一………一一……. 一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一……. ……一一…一一…一…一…一一一…一一一……. 1.空間図形領域の学習で用いられる図の分類 2.算数、数学科における見取図の扱われ方 3.立体図形の表示方法 第2節 認知面からの考察. ………一…一 ………一…・. ………一一…一一一…一一一…一……一・. …一…………一一一一一一…一一…一一一…,一一. 1. 4 4. 16. @23 25 25 29 32 37. 1.3D←→2Dのコーディング、 及びデイコーディングの心理学的側面. 2.見取図を用いた学習場面で生じる問題点. 一一一……. ………一一…. 54. 第3章 空間図形領域の問題解決に影響を与える認知的諸要因. 第1節 問題解決過程の見取図を視点とした分析 1.空間図形領域における問題の分類. 一一………一…一・. …一………一一’一一一‘’. 2.空間図形領域における問題解決過程 一一…一……一一…・. 3.見取図をディコーディングする際に生じる問題点 4.問題解決過程への見取図の影響. …一一. ・一…一一一一一一一}”“一一一’一’一一一. II. 37 43. 55 55 57 61 67.
(4) 第2節 問題解決過程の内的表現を視点とした分析 1.問題解決と内的表現. 一………一…. 一一一一一…一一一…一…一一一一…一一一一……. 2.内的表現の生成について. ……一…一…一一…一一一一……. 3.探索過程の流れと内的表現のチェック ・一…一一一………. 第4章 空間図形指導への示唆. 第1節. 一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一. 74 74 75 82. @84. 3次元的情報を伝達する際に甥る問題点に回る 指導上の対旛策. …. 第2節. 問題解決に失敗している生徒の状態を診断する方法. 一一…. 第3節. 立体図形に含まれる多様な性質に気づかせる指導. ・一……. 84 92 95. おわりに. 100. 引用・参考文献. 103. 一 III.
(5) 第1章. 本研究の意図と先行研究. 第■節本研究の意図 中学校数学の空間図形領域で扱われる図形は、3次元の物理空間の中に存在す る物体を抽象化したものと考えられる。したがって、学習の対象となる空間図形 の例は、生徒にとってなじみ深いものが多い。また、学習を進める際、模型をつ くって1. モや面の位置関係を調べたり、大根などでつくった立方体を切断して切断. 面の特徴を考察するなど、操作活動が多く、生徒が興味、関心を持って取り組め る内容も多い領域である。. 空間図形領域は、生徒が興味、関心を持って取り組める領域であるにもかかわ らず、数学指導内容の定着度テスト[1]において、この領域の問題に対する正答率 は、 「数と式」 「数量関係」の領域の問題に対する正答率に比べ低い傾向にある。. 以下に、静岡県下で実施された平成元年度と平成5年度の、数学指導内容の定着 度調査[2][3]の第3学年と第2学年の問題別正答率表を示す。 数学指導内容の定着度調査 問題別正答率表 第3学年 【平成5年度】. 【平成元年度】. 京. 箆. 公エの ’. 因数分解 平方根の意味. 数. 有理数・無理数の大小. 無理数の計算 式の値 2次方程式の解法 2次方程式の解法 2次方程式の利用. と. 式. 連立方程式の解とグラフ. 平 面 図. 形. 図. 平行線と比 円の性質と利用 円の論証 相似比の利用 三平方の定理の 平面図形への利用. 形. 空図 間形. 嫌. 92.8 72.7 71.2 72.7 76.2 71.6 82.3 70.0 57.3 60.9. 公エの と. 数. 有理数・無理数の大小. 関. 関. 数. 関数y=ax 2の. 係. 値の求め方 関数y3ax 2の. 変化の割合. 襯. 平均値の求め方. 2次方程式の解法 2次方程式の解法 2次方程式の利用. 式. 平 面. 59.9 70.5 45.2 32.1. 図. 形. 図. 37.8. 三平方の定理の 空間図形への利用 関数y・ax 2のクラフ. 無理数の計算 無理数の計算. と. 形 ,..ゴ:r;鞘=:ヒi咤=∫i;i「:;揖∫. 数 量. 因数分解 平方根の意味. 67.1. 空図 二形. 平行線と比 相似な三角形の利用 円の性質の証明 円の性質の利用 円の論証 三平方の定理の 平面図形への利用. 85.0 82.1 67.8 72.3 75.7 65.1 77.8 60.2 42.0 63.9 44.7 49.0 52.9 37.5 60.9. 三平方の定理の 空間図形への利用 ■rド,9,,.「.「’幽’.F.−.F.㌧㌔. 関. 61.2. 数 量. 47.5. 関. 関数y・ax 2のグラフ. 2乗に比例する関数 数. 関数y・ax 2の. 変化の割合. 係. 統計. 4・9,2. 資料の整理と. ・ の’め. 一1一. 66.2 82.6 61.2 60.5 50 4.
(6) 数学指導内容の定着度調査 問題別正答率表 第2学年 【平成元年度】 嶽 同 項の ・. 数. 単項式の乗法 多項式の単項式 による除法. と. 分数を含んだ式の計算. 式の値 等式の変形 不等式の解の意味 不等式の解法 連立不等式の解法. 式. 2元1次方程式. 平 面 図. 形 図. 【平成5年度】. 93.4 70.1 67.1 58.4 55.5 63.6 30.9 61.6 60.6. の解の意味 連立方程式の解法 連立方程式の応用. 30.9 73.0 44.0. おうぎ形の弧の長さ 平行線の性質と 三角形の角 多角形の角 三角形の合同条件 平行四辺形に なるための条件. 32.5 71.6 49.8 5.9.5. 蜘 同 の ・. 単項式の乗法 単項式の除法. 数. 分数を含ん賦の計算. 式の値 等式の変形 文字式の利用 数の表し方 不等式の性質 不等式の解法 不等式の応用. と. 式. 2元1次方程式 の解の意味 連立方程式の解法 連立方程式の応用. 平 面 図. 図. 形. 28.1 =1響iii鞭卜. 形. 空聞図 形. 空間図形の切断面. 間図形の側面積 転体の体積 数 量. 関. 関. 数. 係. 1次関数の式表示 1次関数の増加量 1次関数のグラフ (かく). 1次関数のグラフ 綾む. 懸1. 形. 58.0 54.5. 数 量. 関. 関. 数. 84.2 56 6. 空図. 平行線の性質と 三角形の角 多角形の角 平行四辺形に なるための条件 三角形の合同条件 を使った論証. 空間図形の切断面. ヤ形 渇e図. 、. 1次関数の式表示 1次関数の増加量 1次関数のグラフ 1 の心. 91.0 66.5 66.3 65.4 56.6 62.7 26.4 50.6 50.0 63.9 32.3 46.1 67.8 42.5 58.0 57.7 36.7 56.5. 灘 18.4 58.6 78.4 66.7. 「数学指導内容の定着度調査報告書」[4]ではミ空間図形の問題での誤答の原因 として、 「展開図と見取図との対応関係が確認できない」、 「見取図の中に直角. 三角形を見いだせない」などをあげている。. また、筆者は、わずかばかりの現場経験において、空間図形領域の問題解決の 場面で、次のような生徒に多く出会った。. ・どこから手をつけていいのかわからず、頭を抱えこんでいる生徒。. ・見取図などの略図がかけず、問題の3次元的状況がつかめない生徒。. ・問題や見取図から誤った3次元的状況をよみとり、誤答を導いてしまってい る生徒。. こうした生徒でも、問題で与えられた見取図とは視座の異なる見取図が示され たり、模型が与えられると、はっとした表情で正解を導き出す者がいるのである。 一2一.
(7) こうした実態を見ると、空間図形領域の問題解決の成績がふるわない原因をすべ て「空間概念が身についていないため」と考えるあは単純すきるように思われる。. 空間図形領域の問題解決では、問題文と見取図で示された3次元的状況を解釈 し、その見取図上で何らかの操作を行うなどして、問題の解決をはかることがよ くある。問題を解決できないで思い悩んでいる生徒の中には、見取図を利用でき なかったり、そこから必要な情報をよみとることができないために、問題を解決 できない生徒がいるかもしれない。また、模型が与えられると問題が解ける生徒 は、見取図を3次元の立体図形として捉えることができないために、問題を解決 できないのかもしれない。. このように中学校数学の空間図形領域の問題解決では、空間概念が身について いないこととともに、問題解決を難しくしている要琿が他にも存在するのではな かろうか。. そこで本研究では、中学校数学の空間図形領域の問題解決過程に焦点を当て、 問題の解決を阻害する要因を探ることを目的とする。. 一3一.
(8) 第2節. 本研究に関わる先行研究. ■.空間図形領域に関する先行研究. ここでは、中学校数学の空間図形領域の学習全般を見たとき、どのような問題 点が指摘されているのかをみていく。. (1)指導法についての問題点. 村上[5]は、現在の空間図形領域の指導の問題点を次のように述べている。. 《 現在の空間指導の問題点を端的に言えば、空間図形の性質 は平面図形の性質から簡単に推測できるという安易なそして 誤った指導理念にもとづいて指導されているということであ る。》 ([5】,P.86). 空間図形のもつ性質が、平面図形のもつ性質から、すべて導き出せるものでは ないということは、当然といえば当然であろう。しかし、空間図形のもつ多くの 性質は、平面図形での学習内容をもとにして導き出すことが可能であり、実際の 学習指導も、そのように行われているのが一般的である。したがって、村上の上 の指摘は、空間図形の学習すべてを平面図形と切り離して行うべきというもので はなく、平面図形からは導き出すことが難しい空間図形固有の性質の指導にあた っては、それに応じた特別の方策が講じられる必要がある、ということを言って いるものと解釈する方が妥当であろう。. そうした、空間図形に固有の性質に気づかせ、空間概念を身につけさせるため に、彼は、次の2つの方策をとることの必要性を主張している。. ①平面図形から立体を構成する多様な仕方を考えなければならないこと。. ②平面図形からは推測できない空間領域の様々な性質に観点をおく指導をしな ければならないこと。. この方策の例として、彼は、次のようにして「三角錐の四角形による構成」を. 一4一.
(9) 指導することを提案している。. 《三角錐ABCDは、四角形ABCDの対角線AC、 BDを連 続的に離すことによって構成される。(図7)この構成を説明. する教具とすれば、2本の木AC、 BDをゴムAB、 BC、 CD、 DAで結んだものが考えられ、2本の木を離せばゴム が伸びて三角錐ができる。. A−p A//p 図⇒B B. C. 乙. t12Xク. 》. ([5],P.88). この三角錐の四角形による構成によって、三角錐が三角形とだけ関係する立体 図形でなく四角形とも関係の深い立体図形であるということが認識され、さらに、. ねじれ21直線の存在もイメージできることを述べている。また、このような指導 を通して、空間図形のよりよいイメージが得られることを実践研究によって示し ている。. 風間[6]は、中学校の3年間における空間概念の育成を考えた上で、次のような 問題点を指摘している。. 《[1]現行指導要領下(昭和52年、平成元年)において、中学校 1学年の指導が円滑に行われていないように思われること. [2]中学校第1学年の学習内容と第2、3学年の学習内容との関 連がうすく、学習のつながりがスムースではないこと 》([6],P.127). この例として、彼女は、次のことをあげている。. [1]については、中学校1学年における空間図形の指導は学年末に指導され る場合が多く、 「立体の切断だけを4時間で行った」とか「空間図形の指導は全. 体で3時間」という教師の指導の曖昧さをあげている。. 一5一.
(10) [2]については、第1学年の空間図形自体魅力に富んだ指導内容であっても、. 第2、3学年の学習内容との関連が薄いことから、中学校全体として曖昧な指導 になること。そして、中学校1年では直観的な扱いが主で、第2学年から平面図 形における論証が主とされているが、空間図形においても想像力を伸ばし、論証 の意味を見いだす探究的な学習がなされるべきであることをあげている。. 彼女は、このような問題点に対して、生徒の実態調査をもとに、中学校3年間 の空間図形の指導内容および指導方法について、次のような指導計画を作成し、 授業を実践している。. 《① 第1学年の内容は、中学校3年間の空間図形の基礎として位置 づける。. ②切断、投影という操作は、立体を考察するためのものという立 場にたって、いたずらに深入りすることがないように指導する。. ③切断という操作は、第1学年では、水平方向、垂直方向程度に とどめ、投影と一体化した見方を大切にする。. ④見取図、投影図、展開図の2次元表示の図は、それぞれのかき 方を指導するのではなく、投影、展開などの見方を大切にし、そ れぞれの図のよさを理解させ活用する能力を伸ばす。. ⑤平面の決定条件をおさえ、空間図形の中に平面を見いだして考 えることを大切にする。. ⑥第2学年の内容は、主に切断を中心に図形の論証との関連を重 視し、探究的な学習場面を設定する. ⑦第2学年の内容は、総合数学として既習内容を活用させ、探究 的な学習場面を設定する。》 ([6],P.129). 以上の研究の中では、指導法の問題点として、以下のことが指摘されている。. ・空間図形の性質が平面図形の性質から簡単に推測できるという安易な、そ して誤った指導理念にもとづいて指導されていること。. ・中学校1学年の指導が円滑に行われていないこと。. ・中学校1学年の学習内容と2、3学年の学習内容との関連が薄く、学習の つながりがスムーズでないこと。. 一6一.
(11) (2)心理学的問題点. R.Hershk◎witz[7]は、幾何学習における「視覚化」についての問題を次のよう に述べている。’. 《Wha七 kinds.of visual abilities are needed for geometry learning ?. In particular, how do children create docu皿entation of their. surrondings and how do they interpret this docu皿entation;that is,how do children describe (verbally or visually) 七he three−. dimensional world,and how do they interpret such a description?>>. ( [7],p.70). (どんな種類の視覚的能力が幾何学習に必要とされるか。特に、どのよう にして子どもたちは、彼らの周囲の状況の記述を創り出し、どのように してこの記麸を解釈するのか;すなわち、どのようにして子どもたちは. 3次元的世界を(言葉で、または視覚的に)描写するのか、そしてどの ようにして彼らはそのような描写を解釈するのか。). この問題に対して、彼女は「個人によって空間がどのように知覚され解釈され るか」ということに関して行われた先行研究をあげ、おおむね次のように述べて いる。. 3次元の対象を2次元の図に表すことは広範囲にわたって研究され、そこに重 大な困難性があることが報告されている。しかしその反対の方向である、3次元 の世界にもどって2次元の図を解釈することは、ほとんど研究されていない。. (3)表現方法における問題点. 3次元(3D)の対象と2次元(2D)の表現との間の2方向の関係について の問題、つまり、. ・3D→2D(3次元の対象を2次元の図に表すこと) ・2D一>3D(3次元の現実世界にもどって2次元の図を解釈すること) について、日本や諸外国でいくつかの研究が行われてきている。次のページから 一7 一・.
(12) それらの研究をみていく。. ①3D一>2Dに関する先行研究 狭間らは、 「数学教育における空間図形の2次元表示の図の役割についての研. 究」[8]において、図1−1のような7個の立方体からつくられたポリキューブを. 用いた調査を行い、小学校3学年から高等学校1学年までの生徒の情報伝達場面 で見られる次のような発達的特徴について研究している。. 「情報の送り手として、ポリキューブを紙の上に表現するとき生徒は. 立方体のどのような空間的性質、関係をどのような表示手段(言語 表現、見取図、投影図、コード図など)で伝えるのか。」. 【図1−1】. 課題は、次の2つからなっていた。. 課題1 手もとにある7個の木製の立方体から作られたポリキューブ模型につい て、遠くにいる同級生が同じ型の模型が作れるように紙にかいて伝えさせ る。. 課題2 手もとにある、1辺12cmのストローとモールから作られた正四角錐をメ ッセージの情報として表示させる。. 彼女らの調査結果を、次のようにまとめることができる。. ・課題1と課題2での児童・生徒の平面上での立体表示パターンを学年にそっ 一8一.
(13) て見たとき、平面的表示(小学校3、4年)→不十分な立体的表示今見取図 (小学校5年生以降)→多様な見取図、といった変化が見られた。 ・見取図で立体の奥行きを表す斜めの線がかけるかどうかが、図表示における 発達的特徴と考えられる。. ・課題1で、ポリキューブの状態を表した描写では、キューブの個数などの必. 要情報が不足しているのが目立ち、特に見取図を用いた描写では3−4年生が 見えない部分のキューブの有無に無頓着である。. ・見たこと、知っていることをそのままメッセージとして表示するのではなく・ 見たこと、知っていることといった認知をうまく調整しながら表示する。こ. の調整能力は、小学校4年から5年にかけてと、中学校1年から2年にかけ て質的に発達する。. D.Ben−Chaim, G.LapPan,耳・T・Houang[9]は・図1−2のようなテープで止めら. れた10個の小さな立方体で作られた建物を用いた建物描写課題(Building Descrip七ion Task)を使って、6学年から8学年の中等学校の生徒の視覚的情報 伝達能力を調査した。生徒には、次のような課題が与えられた。. 【図1−2】. <<You are seated on one side of a screen and your friend is seated. on the other. Your friend cannot hear what you say,but you may pass a piece of paper to him. Your friend has a supply of cubes to work with. Here is a building made of cubes. You are the only. person that can see the building.. 一9一.
(14) Your task is to help your friend to know what your building looks like. Be as creative as wish.>> ([9],p.124). (あなたは、ズクリーンの一つの側に座っており、友達は別の側に座って. います。友達は、あなたの言うことを聞くことはできませんが、彼に一 枚の紙を手渡せます。友達には、作業用の立方体が与えられています。. ここに立方体でつくられた建物があります。あなたは建物を見ることが できるただ一人の人です。. あなたのすることは、あなたの建物がどのようであるかを知るように友 達を助けることです。あなたがしたいようにやって下さい。). 生徒の課題に対する試みは、メッセージをどのような表現で伝えたかによって、. 次の3つの表現モードに分類され考察された。. ・グラフィヅクモード(ラベルや数を伴った、視覚的図による表現)。 ・ことばモード(すべて言葉か、ぼとんど情報を与えない図を伴う言葉に よる表現)。. ・混合モード(語と図の両方を使用した表現)。. その結果、生徒は視覚的情報をうまく伝達することに大きな困難性を持ってい る、ということが明らかにされた。また、生徒が空間図形を図にかき表す際、次 のような問題点があることが指摘されている。. ・平行線と垂直線をうまくかき表すことができない。. ・3次元性や見えない部分に対する自覚があまりない。 ・奥行きの知覚ができない。. また、彼らは、3週間の「空間視覚化活動授業(instruction in spatial visualization activities)」の後で、6学年から8学年の生徒の空間的能力が、 学年と性別に関わらず劇的に改善された、ということを述べている。. 一10一.
(15) 赤井[10]は、小学生がかく見取図の特徴を研究している。. 彼は、小学校5、6年生を対象として、 「直方体と立方体の見取図をかく際、 どこに視点を当ててかき出すか」ということを調査した。生徒がかいた見取図は、 その図の中で最初にかき始められた箇所によって、次のように分類された。. ・正面を中心にした図 ・.. 繧フ面を中心にした図. ・側面を中心にした図 ・頂点を中心にした図. この研究の結果として、彼は、児童にとって見取図をかく視点の基準は「かき 易さ」であり、個々の児童によって見取図のかき易いところが違う、ということ を述べている。. また、第4学年で見取図の指導がされているが、かき方についての記述が少な く、どのように指導していい⑱か難しい、という問題点を指摘している。. 上述の先行研究に見られる3D→2Dでの問題点を、次のようにまとめること ができよう。. (ア)生徒が見取図をかくときの問題点 ・見えない部分の自覚に欠ける。. ・奥行きを斜めの線としてうまくかき表せない。 ・平行線と垂直線をうまくかき表すことができない。. (イ)かき方の指導についての間題点 ・教科書には、見取図のかき方についての記述が少なく、その指導方法 も確立されていない。. 一11一.
(16) ②2D一>3Dに関する先行研究 同じ一つの見取図でも、ある生徒にはそれが特定の空間図形と認められ、別の 生徒には認められないといった場合がある。このような現象の要因を探るために、. 見取図などの2次元図から3次元的状況をよみとる際の生徒の傾向についての研 究がいくつか行われてきている。. 風間[11]は、中学校1年生を対象とし、 「生徒がどのような図を立方体を表す. 図と捉えるのか」という傾向を調査した。調査方法は、下の図1−3で奥行きの. 長さxと傾きaの値を変えた30種類の立方体の見取図を示し、立方体として認 めるものに○印をつけさせるというものであった。. t I. L一“一一 一. x開. 鯉」o 【図1−3】. この調査の結果として、彼女は、次のことを報告している。 ・全員が立方体と認める図は一つもない。. ・多くの生徒が立方体として認めた見取図は、奥行きが正方形の1辺の3分. の2、または2分の1である。 ・傾きが20。、75。の場合には立方体と認めにくい。 ・一人の生徒が立方体と認める見取図の個数には個人差がある。. B.Parzysz[12]も同様な研究を行っている。その結果として、彼は、児童が表現. における平行性の保存と長さの相当性を図の中に求める傾向が強いことを述べて いる。. 一12一.
(17) さらに、B.Parazysz[13]は、見取図などの2次元図から3次元的状況をよみと る際の問題点を、次のようなモデルを用いて指摘している。. << 一 level 1〈close representation).:the representation ‘resembles’. the geo皿etrical figure:sa皿e dimension,apart fro皿 the 皿ove from. abstract to concrete. 一level 2(distant representation):the di皿ension of representa− tion is strictly inferior to that of the figure.. geometry. 2D. @. 1eve10 do5εrρρr.. 1eve11. 4f5伽’即r.. 1eve星2. 3D. loss. 行gure. drawing. mode置. drawing. of info rmation. >> ([13],p.80). (一レベル 1(近表現):表現は、幾何的図形に「似ている」:抽象 から具体への動きは別として、同じ次元である。. 一レベル 2(遠表現):表現の次元は、図形の次元よりも厳密に低 い。). 彼は、このモデルを用いながら、次のような問題点を説明する。. 上のモデルにおいて、レベル0→レベル2への移行が空間図形を2次元図に表 現する場合に当たる。この場合は、立体図形の持つ辺の長さや角の大きさなどは 正確に表されず、ある幾何的対象と、その表現との間の関係は、平面幾何の場合 よりもいっそうはっきりとせず、3次元図形の性質をその図から推測することは しばしば困難になる。. 空間図形とその2次元図との間には、このような情報の欠損関係があるにもか かわらず、子どもたちはそのことを意識しないため、あるいは意識できないため に、2次元図の性質を空間図形自体の性質と取り違えてしまう。. 一13一.
(18) 山本[14]は、中学生に18種類の立体図形の見取図のそれぞれを3方向に並べ 変えた54の見取図を与え、「見取図に対する見方はその位置にどの程度左右さ れるのか」ということを研究した。 結果として、彼は、次のことを述べている。. 同一の見取図であっても、テスト用紙に対する向きを変化させた場合、被検者 はそれを同一の図形とは見なさない場合がある。見取図の配置を変えただけで、 一定の見方が妨害され、見取図の見方が安定していない。. 狭間ら[15]は、7個の木製の立方体からつくられたポリキューブの図1−4に. 示すような5つの表示を、小学校3年生から高校1年生までの児童・生徒に示し、 情報の受け手として、 「与えられた表示から情報を判断、選択し、実際にポリキ. ューブを組み立てられるかどうか」を調査した。さらに、小学校4年生と申学校 1年生については、面接を行い、ア∼オに対して、それを選んだ理由、選ばなか った理由を尋ねた。. アー 即ロコ. 調. 軽’溺難総∵ ム へうしるム. ら. ゐ. オ腎帽〕〔『 し. エ. ニ. モ』[仲㊥. 【図1−4】. その調査の結果ア∼オのどれを選ぶかは個人差があるものの、使用率、復元率 のもっとも安定しているものはイ、次にアである。. またこれらの調査と面接から、立体模型の図に関する解釈で、次のような段階 一14一.
(19) が見られ、1)と2)、2)と3)の間には子どもの認識において断絶があることを報告 している。. 1)かかれた図を実態(物)と捉える段階。 2)作図、読図などに関する図そのものが問題になる段階。 3)図を(立体)図形として見られる段階。. 上述の先行研究に見られる、2D→3Dでの問題点を、次のようにまとめるこ とができよう。. (ア)同じ見取図でも、ある生徒にはそれが特定の空間図形と認められ、別の 生徒には認められない場合がある。. (イ)子どもたちは、図を解釈する際、図の性質を図形自体の性質と取り違え ている。. (ウ)同一の見取図であっても、テスト用紙に対する向きを変化させた場合、 それを同一の図形とは見なさない場合がある。. (エ)立体模型の図に関する解釈で、次のような3つの段階がある。 1)かかれた図を実態(物)と捉える段階。 2)作図、読図などに関する図そのものが問題になる段階。 3>図を(立体)図形として見られる段階。. 2D←→3Dに関する最近の先行研究のいくつかを概観してきた。そこには、 空間図形学習に見られるいくつかの特徴的な現象が報告されている。. 筆者は、2D・←→3Dの変換に関わる心理学的側面が、空間図形領域の問題解 決過程に大きく影響を与える要因であると考える。しかしながら、先行研究で報 告されているような現象に対する心理学的な理由は、あまり解明されていない。. 特に、2D←一今3Dの変換に関する認知的負荷が、中学校の空間図形領域の学習 や問題解決場面で、実際にどのような影響を与えているのかということについて の研究は、筆者の見る限り、ほとんどなされていないように思われる。. 一15一.
(20) 2.問題解決に関する先行研究 問題解決については、さまざまな角度から多くの研究がなされてきている。. ここでは、それらの研究の中で、本研究と深く関わると思われるものを、次の3つ の視点からみていく。. (1)問題解決過程についての研究 (2)問題解決と表象についての研究 (3)幾何領域の問題解決についての研究. (1)問題解決過程についての研究. ヴァンレーンは『問題解決と認知技能の獲得』[16]の中で、ニューウェルとサイ. モンの研究を参考にしながら、問題解決についての理論を述べている。彼は、問題 解決の過程について、次のように述べている。. 《重要な理想化の第2は、理解と探索という協動する二つの下位過程によ って問題解決過程全般が分析できるというものである。理解過程は、問. 題を構成する刺激を同化したり、被検者の問題理解を構成する内的情報 を生成する責任を持つ。探索過程は、問題刺激それ自身よりもこれら理 解過程の産物によって働く。探索過程は問題の解を見つけたり計算する 役割を持つ。難しく書えば、理解過程は問題に対する人間の内的表現を 生成し、探索過程は解答を生成する。. 》 ([16],p.141). 彼が述べる問題解決の過程は、次の図のように表せるであろう。. 國→. 理解羅. 一一. r. 探索過程. 【図1−5】 一16一. →團.
(21) (2)問題解決と表象についての研究. ヤング[17]は、 「一辺しの正四面体と、すべての辺の長さがしであるような正四. 角錐(ピラミッド)がある。この2つの立体を2つの合同な面(すなわち正三角形) でくっつけたら、できあがった立体は何面体になるであろうか」という問題を考察 し、図のような正解を得易いような表象と、まちがいを導き易い表象の存在を示し た。. Hx. ’」 N N>,t. 一一. 娠” 1,一’. 【図1−6】. さらに彼は、問題解決の成功、不成功の原因を、 「ある人は頭の申に有効な表象. を持っていたから正答ができ、別の人はまちがいではないが誤解させ易い表象を持 っていたから正答できなかった」ということで説明しようと試みている。 そして、彼は、次に示すような研究方略を提案している。. 《[認知的存在定理]:“認知的存在定理”を適用することで、ある人が問題を. 正しく(もしくは間違って)解いたことを説明できる。そのためには以下のこ とをする必要がある。. (1)ある表象によって問題が正しく(もしくは間違って)解けることを示す。 (2)その表象が実際に頭の中にあったことを示す。 (3)その表象が学習されたと推測される過去の経験を示す。. [表象に固有な課題]:ある特定の表象を頭の中に持っているかを確認するた. め、その表象を用いればやさしいが、「論理的に同等」な情報が別の形で表象 されていれば難しくなる問題を出してみることができる。》([17],PP.235−236). 一17一.
(22) 國岡[18]は、「問題を解くのに十分な知識を持っていながら、適切な表現を利用. できないために、あるいはその表現を操作できないために、その問題の解決に失敗 することがある」という現象の背後にある問題解決失敗の要因を探るために、次の ような研究を行っている。. 彼は、外部に表現されたものはその背後にある心的表象の結果であるという考え 方をとり、表象の生成とその役割を考えながら問題解決失敗の要因を探った。. 彼は、表象生成に関わる知識を問題解決過程をもとに分析し、問題認識のモデル [19](図1−7)の表象構成の部分を詳細に記述したモデル[20](図1−8)を示 した。. 酬圃 手鏡き的知識. 知. ◎暗黙一. 表象構戒の知謡. 周題. 【図1−7】. 腱. 方向付け. @. 表象構成. 慧. 禄作. 【図1−8】. そして、知識と表象の視点から、問題解決失敗の要因を探り、次の7つの要因を指 摘している。. 《(1)表象構成過程の要因 ①概念的知識の欠落により、問題状況に対して表象を構成できない。. ②それに対して手続き的知識のない(つまり操作できない)表象が 構成される。 ③問題に対して不適切な表象を構成する。 (2)表象操作過程の要因 ④手続き的知識の欠落により、表象を操作できない。 ⑤手続き的知識のバグにより、操作が正しく行われない。 ⑥複数の表象が構成され、どれを用いたらよいか判断ができない。. ⑦一つの表象に対して複数の手続きが存在し、どれを適用すべきか 判断ができない。》 ([18],p.141). 一18一.
(23) 彼はこれらの要因の内②③⑥⑦についてはいまだ有効な指導法が確立されていな いことを指摘し、②③に対しては、表象構成の方法を数学教育の指導対象とすべき であるということを述べている。. 上述の先行研究では、問題解決と表象について、次のようなことが指摘されてい る。. (ア)正解を得易いような表象と、間違いではないが誤答を導き易いような表象 が存在すること。. (イ)正解を得易いような表象は学びとることができること。 (ウ)問題解決失敗の要因を表象の生成、操作という視点から分析できるこ と。. (3)幾何領域の問題解決についての研究. グリーノ[21]は、 「幾何の問題を解決するのに必要な知識」を明らかにするため. に、次のような研究を行っている。. 彼は、情報処理心理学の諸理論の考え方をもとに、生徒たちが幾何の問題を解く ときに利用する諸過程を、パーディヅクスと呼ばれるコンピュータのプログラムの. 形式を利用し、かなり詳しく表現した。そのパーディックスの開発は、幾何を受け. ている第9学年の生徒6人から得られたプmトコルを手がかりに行われた。 パーディックスで表現される様々な手続きは、生徒たちが幾何の問題を解く際に 典型的に用いる手続きと同じものであると想定された。そして、パーディックスが 幾何の問題を解くのに利用する知識構造が、生徒が幾何の問題を解決するのに必要 な知識と見なされた。. 彼は、幾何の問題を解決するのに必要な知識として、次の3つをあげている。. ①視覚的パターン認識のための知識. たとえば、ある角とある角を見てそれらが対頂角であるということを認 識するために必要な知識。. ②推論のための諸命題についての知識 一19一.
(24) 《たとえば、 「同位角は同じ大きさである」、 「直線をなす角は補角の. 関係にある」、「三角形の内角の和は百八十度である」などである。》 ([21],p.46). ③方略的知識 《たとえば、生徒はある角の角度を求めるために、その角とすでに角度 のわかっている角との間の量的関係、たとえば合同であるとか補角であ るとかの量的関係を見つけだす必要があることを知らなければならない。》 ([21],p.18). そして、彼は、幾何の問題解決で必要とされる知識のうちパターン認識と推論の ための知識ははっきりと教えられているが、方略的知識はそうではないということ を指摘し、《何人かの生徒が幾何で困難さを持つのは、彼らが与えられた問題を解 くのに必要な方略的知識を獲得していないことによるかもしれない》 ([21],p.97)、 と述べている。. 飯島[22]は、次の問題に対する、高校生と大学生と彼の解決過程をそれぞれ分析. し、「数学における問題解決がどのような過程を通って行われるのか」を研究した。. 《図のような円筒形をその底面に平行で. ない平面で切った図形の側面はどんな 図形になるか」. >> ([22],p.97). 思考過程の分析から、次のことが明らかになった。. ・高校生や大学生は、結果の予想をする段階で、一応の結論が出たり、大体条 件にあっていることがわかると、それで安心し思考がストップする。 この分析の結果から、彼は、問題解決における生徒や学生の思考過程に不足して いることとして、 「結果を予想するための実験の後で、確かにそれでよいのだとい う証明検証の段階がない」ということを指摘している。. 一20一.
(25) また飯島[23]は、 「どこから手をつけてよいのかわからないような問題」を題材. として、「問題解決における実験や思考実験の意義」について研究を行っている。. 彼は、次のような問題を大学生31人に与え、正解を図示させ、考え方を述べさ せる調査を行った。. 《調査問題:「図のような正四角錐A−B. A. CDEを、点B,Fを通り、点A,B,. 、』〆. 11ぴハ 1覧? Dを通る平面に垂直な平面で切ったとき 一1’ ’E. ”.X b civv’. の切り口の形と大きさを予想せよ。」. (1)図示. SN i /v. 8囲. (2)考え方を簡単に述べよ。. 90.. し. 》 ([23],p.20). 調査の結果は、おおむね次のようであった。. ①形について「たこ形」を予想したものは全体の約3分の2で、残りの3分の 1は見当違いの予想ないしは予想できない、というものであった。 ②大きさ(長さ)について何らかの予想をした者はいなかった。 ③予想するためのアイデアについて述べた者は一人もいなかった。. 彼は、これらの結果の原因と対策について次のように述べている。. 《切り口の形や大きさについて予想ができなかったり、予想のしかた がわからないのは、立体図形について考えることが少ない一一その ために空間観念が弱い一一からとしか言いようがない。したがって、 立体図形を題材としての具体的操作や実験をもっと増やす必要があ る。 》 ([23],p.23). 一21一.
(26) 上述の先行研究では、幾何領域の問題解決について、次のようなことが指摘され ている。. (ア)幾何の問題解決に必要な知識として、次の3っの知識があげられること。 1)視覚的パターン認識のための知識 2)推論のための諸命題についての知識 3)方略的知識. この内、方略的知識ははっきりと教えられていないこと。. (イ)学生の問題解決過程では結果を予想した後、確かにそれでいいのか、とい うことを証明、検証する段階がないこと。. (ウ)ある種の問題では、空間観念の優劣が、その問題解決の正否を左右してい ること。. 筆者の見る限りでは、幾何領域における問題解決の研究のほとんどは、平面図形 領域に関するものであり、空間図形領域の問題解決に関する研究は、その数が非常 に少ないように思える。空間図形領域の問題の解決過程で思い悩んでいる生徒の様 子や定着度テストなどの成績の落ち込みを見ると、空間図形領域の問題解決に焦点 を当てた研究の必要性を強く感じる。. 一22一.
(27) 第2章. 空間図形領域の諸特性. 空間図形領域の特性の一つは、学習の対象である3次元の空間図形を2次元の図 にかき表し、その図をもとに学習活動が展開されることである。. 3次元の対象を2次元の図にかき表す際よく用いられる図として、「見取図」が あげられる。見取図は空間内の図形に対して平行光線を当て、映し出されたかげを かく、 「平行投影法」をもとにしていると思われる。. 斜投影法 ㌍デテ兆耀. 励叢濃診ゆi豊i. 原 理. 原 理. 等角図. 【図2−1】. 見取図は、空間図形領域の学習において、中心的な役割をもつものと思われるに もかかわらず、その位置づけは明確にされているとは言い難い。たとえば、見取図. が、どのような図法をもとにしているのか、どのような特性を持っているのか、ど のような点で空間図形領域の学習に適しているのか、ということは明らかにされて. おらず、そのかき方のルールも曖昧である。筆者の見る限り、見取図の明確な指導 法はなく、指導する教師によって見取図の指導内容、方法が異っているのが現状で ある。. このような状況に対して、先行研究[24】[25][26][27][28]では、生徒が、空間図. 形を見取図にかき表すことや、かかれた見取図を解釈することに大きな困難性を持 っているということが報告されている。また筆者も、空間図形領域の指導場面で、 直方体や立方体などのごく基本的な立体図形の見取図でさえもかき表せない生徒や、 それらの見取図を3次元的に解釈できない生徒に出会ってきた。. このような見取図に対する生徒の実態を改善するためには、見取図のかき方のル 一23一.
(28) 一ルを明確にすることが必要と考える。そのためには、ま・ず、見取図が、図学にお. けるどのような図法をもとにしているのか、ということを明らかにすることも一方 策であると考える。. ところで、見取図に対するいくつかの困難性が報告されているにもかかわらず、. 生徒の認知面に着目したとき、空間図形領域における見取図の使用は、その学習指 導に対して適しているのかどうか、ということはあまり明らかにされていない。ま. た、見取図を用いた空間図形領域の学習場面で生ずる問題に対して、生徒の認知面 からその原因を考察することもあまり行われていない。. そこで、本章ではこれらのことを明らかにするために、次のように考察を進める。. 第1節では、図学、学習指導要領、教科書などをもとに、教材面から、次の4点 を考察していく。. ・空間図形領域の学習では、どのような図が用いられているのか。 ・算:数、数学科において、見取図は、どのように扱われているのか。. ・立体図形をかきあらわす方法としてどのような図法があり、見取図はその中 のどの図法をもとにしているのか。. ・見取図は、どのような特性を持っており、どのような点で空間図形領域の学 習に適しているのか。. 第2節では、生徒の認知面から、次の3点を考察していく。 ・見取図は、空間図形領域の学習指導に適しているのか。 ・生徒は、見取図をどのようにかき、どのように解釈するのか。. ・見取図を用いた学習場面で生じる問題の原因として、どのようなことが考え られるか。. 一24一.
(29) 第■節. 教材面からの考察. ■.空間図形領域の学習で用いられる図の分類. 小学校や中学校の図形の学習において扱われる対象(直線、平面、点、… )は、. 物理空間内に存在している物体を単純化、理想化したものと見ることができる。た とえば、児童・生徒にとっては、ノートの上にものさしで引いた線の跡が「直線」. であり、机の表面や教室の床などが「平面」の具体的イメージとなっている。この ように、図形の学習で扱われる対象は、児童・生徒の経験世界内の事物と強く結び ついており、具体物からのイメージの影響を受け易いものである。こうした意味で も、図形領域は、中学校数学の中で特異な位置をしめる。また、そこで使用される. 図の機能も、他の領域において使用される図の機能とは、多少異なる面を持ってい ると考えられる。さらに、厳密に言えば、平面幾何と空間幾何における図の機能も. 違う。たとえば、平面図形の学習においては、2次元の対象を2次元に表現するこ とになるが、空間図形の学習においては、3次元の対象を2次元に表現することに なる。したがって、平面図形領域では図が測定や構成の直接の対象と成り得るが、 空間図形領域ではそうはいかない。 ここでは、B.Parzysz[29〕の示す「図の機能」をもとに、中学校の教科書の空間図 形領域に使用されている図を、次のように分類する。. (a)定義や用語を説明する図 (b)情報の複雑な集まりを要約する図 (c)操作や図のかき方を説明する図 (d)推測や証明を助ける図. (e)その他の図(イメージを呼び起こしたり、動きを強調したり、問題を 提示する図). 以下のページで、これらの例を示す。. 一25一.
(30) (a)定義や用語を説明する図. sJ. p 一.“”一: e. N. s. s. ca. N. ρ ”嘩葡響一一一一一印,… s. タ. el;’・. 6etTl,t.. 平行である. 交わる. 底面. 側面. ‘讐線. ・L. 個1刷. 母線. B l. 毎?rLy lrti. 、一底醐. (b)情報の複雑な集まりを要約する図(証明や問題などで与えられている図). D. 右の図のように,立方体の辺の中. 点LgM,Nを通る平面で.Aのか. c. tsualf t iNLl. A. どを切り落とす。同じように,残り. ’s. ,ノ. ’. itt. !l11\. 柱の衰面にふくまれるものをあげ (;. 惣二二簿猟 ・ミミー馴. 立体について,次の.1∼・3.に答えな. E. さい。. ft. のうちの2点を結ぶ線分でこの円. ’t. へ ’ロノi\. N. 郷審1. うに円柱の表面上にある。これら. BI N. ヲ. ’ ;K. の7つのかども切り落としてできる. 4点A,B, P.Qが右の図のよ. s:. なさい。. ”. 1). t’. (c).操作や図のかき方を説明する図(切断や投影図のかき方). D. A. A. ..’. E. ’. t. ..’. t. F. /い. :. 号 : ,. G. @H. ノi. D. 1. , ;. i一:. C. D. c. t. ,レz∠ G. G. gX ’. ’. F. F... 8’づ:)》 :. 、. り一ρ. ’. ’. E. J). 投1杉図 lt lt. 征. 叩幅. iitl:i. X. K. Y. 奄 ”x.,’. 騨M. e. ,. ●. コ. ロ. 1. 9. = 1. . コ. ・. ;. 0. コ. ,. ロ. lt. tl. tl. , ). tt. 1 . ,. A,.tL . 一 .. ..E一 一 一.. コ ハ. i i i平 l i i面 i. 1. tt lt. tt. ロ. 図 ). 一26一. N. × 1}’. s. 、、 弓’”ρ. x. 葡一一願噸, 一.一. .一. M. A.
(31) (d)推測や証明を助ける図 (考える道具としての図、要素間の潜在的な関係を思いつかせる図). o. p.. /!’グi. ず1}. F6;rlT:”II.....B’”. ・. \謝へ. 一yL一一一一:;;rc /一’M’一.・’4;i>. ノ 〆!/. κ,ジ監、’..6” .Xkt=一一一. き. ,9. ’ヌζ一一. P,’;;.一pi−N一一;;;一一i一)1c. ’〆. Ct7 :7/・”H’N. ., .x. 3,r2一. B. (e)その他の図 ・イメージを呼び起こす図. ・動きを強調する図. 。. i’ ’”” ’. )・ll ]:J17 ,.. N. ・問題を提示する図. 次の図形を、直線1を軸として1回転させてできる立体の見取図をか け。身のまわりでこのような立体の例をあげよ. o. o. f @. e @. f. o 一27一.
(32) ところで実際の授業は、教科書の図だけを使って進められるわけではない。教師 が指導場面で使う図も、教師の意図していることを生徒に伝えたり、教科書の内容 をさらにわかりやすく説明するための重要な媒体である。そして、この教師が用い る図は、教科書の図と同様に、問題解決場面で生徒が使用する図のプロトタイプに. もなることも十分に考えられる。もちろん、教師は(a)∼(e)の例であげたよ うな図を使うだけでなく、生徒の理解を助長したり、細かい微妙な点を指導するた めに、生徒の実態や指導内容を考慮し、図の中に強調のマークをするなどした独自 の図を使うことも多い。そこで教師が使う図については、手法や目的別に次のよう に分類する。. (ア)標準的な図以外のものを示す (イ)アングルを変えて構図を工夫する (ウ)標準的な図の強調するところにマークを入れる (エ)図を見る視点を示す. (オ)操作の手法や考え方を示す. 以下で例を示す。. (ア)標準的な図以外のものを示す (イ)アングルを変えて構図を工夫する. し/. ,r. 1. r:・:−一一±. /ノ・・ tlt. /. @lt. !一一一一帥一一一一 _ ノ t)”;’. ノ /. (ウ)標準的な図の強調するところにマークを入れる. 撫一調蕊. 1・ 1 一一一 P一. )N. 一 28 一一.
(33) (エ)図を見る視点を示す. 藏 s‘ft.. (オ)操作の手法や考え方を示す. 口㊧〔丁9 ’6. 2.算数、数学科における見取図の扱われ方. 算数、数学科において見取図はどのように扱われているのであろう。ここでは、 そのことを学習指導要領、指導書、教科書をもとに探ってみる。 現行の学習指導要領[30]において、初めて「見取図」という用語が登場するのは、. 第4学年の「3 内容の取扱い」においてであり、次のように記述されている。. 《(3) 内容の「C図形」の(2)については、適宜簡単な見取図や展開図. をかくことができるようにし、立体図形を平面に表現することのよさ が漸次分かるよう配慮する必要がある。 》 ([30],P.49). また、小学校指導書[31]の図形領域の内容の解説の「d.図形の見方. 工展開図、. 見取図など」においては、次のように記述されている。. 《中学年では、直方体や立方体の観察を通して、見取図や展開図を基に、. 頂点、辺、面やそれらの位置関係に着目し、立体図形の頂点、辺、面 の対応関係やつながりを正しくとらえることができるようにする。そ の際、簡単な見取図や展開図をかく活動を取り入れ、立体図形を平面 に表現することのよさが漸次分かるよう配慮する必要がある。》 ([31],P.52). 一29一.
(34) つまり、小学校4年生では、簡単な見取図をかくことができるようにすること、. 直方体や立方体の見取図をもとに辺や面の対応関係を捉えることができるようにす ることが述べられている。. それではこれらのことを受け、教科書では見取図がどのように説明され、取り扱 われているのであろう。小学校4年生の教科書では、見取図の説明として次のよう. な曖昧な記述が多く、かき方のルールについての記述はほとんどない。わずかに 「見えない辺は点線でかくこともある」などの注意がある程度である。. <<. 右のように,全体の形を. :. 1. み とり ず. 見やすくかいた図を見取図. p一一一一一/一一一 ! 一. − 一. といいます。. z. z. z. −. >> ([32],P.87). <<. 〔亟〕右のような図を見取図 といいます。この見:取図の ノ ぜ. ノ ノ. 3㎝. /’. .. ノ ヲ. ,/. ような直方体を作りましょう。. 一___. ・/. /7cm. ’5㎝ノ 》. ([33],P.93). また、見取図についての明確な指導法が確立しているとは言い難く、指導内容、 指導方法は教師によって大きく異っているのが現状である。. 次に6年での見取図の扱われ方を見てみよう。学習指導要領[34]では見取図に関 して「3 内容の取扱い」において、次のように記述されている。. 《(5) 内容の「C図形」の(2)については、適宜見取図や展開図をよんだり. かいたりすること、簡単な場合について、立面図又は平面図に当たるもの をよんだりかいたりすることなどを取り扱うものとする。》([34],P.55). 一30一.
(35) また、小学校指導書{35]の図形領域の内容の解説の「d.図形の見方. 工展開図、. 見取図など」においては、次のように記述されている。. 《高学年では、角柱、円柱、角錐、円錐を加え、見取図、展開図、立面 図や平面図を用いて、立体図形の概念や性質についての理解を深める ようにする。この際、中学年の場合と同様、立体図形を平面に表現す ることのよさが分かるよう配慮する必要がある。. 》 ([35],P.52). 6学年では、角柱、円柱、角錐、円錐の見取図をかいたりよんだりしながら、立 体図形の概念や性質についての理解を深めていく。. 筆者の見た限りでは、見取図についての記述は教科書にはなく、見取図をかいた りよんだりすることの指導はあまりなされていないと思われる。. 最後に、中学校での見取図の扱われ方を見てみよう。中学校の空間図形領域の学 習においては、基本的な立体図形上での様々な3次元的構成を、見取図にかいたり 見取図上で操作を行いながら、考察することが多くなる。見取図に関して学習指導 要領には記述はないが、中学校指導書数学編[36]の図形領域の内容の概観の「イ. 図に表現したり、正しく作図したりする能力」において、次のように記述されてい る。. 《 ここではまた、空間図形の表現に関する能力も含まれる。いうまでもな く、空間図形をそのままの形で平面土に図表示することはできない。した. がって、空間図形の平面上での図表現、例えば、見取図や投影図、展開図 をかくこと及びその立体の特徴をとらえるために切断面を考えたりするこ となどは、その図形の特性を適切に表す数学的な考え方であるといえる。. そして、このような表現の仕方には、それぞれ一定のきまりがあり、技 術的な側面がある。中学校では、そのような技術的な面や応用的な面に深 入りするのではなく、必要とされる空間図形の特徴をどのように表現する かという面に焦点を絞って、指導することになる。. 》 ([36】,P.35). 教科書には見取図についての記述はまったくない。また、見取図のよみかきに関 する指導もまったく行われていないものと思われる。. 一31一.
(36) 3.立体図形の表示方法 数学教育において、一般に、「見取図」と呼ばれているものは、いったいどのよ うな図法をもとにしているのであろう。このことに明確に答えられる教師は、少な いのではなかろうか。また、そのようなことを意識して指導している教師も少ない と思う。ほとんどの教師は、教科書に載っている図や.、自分が中学校で教わったと. きに使用されていた図を思い出し、指導しているのではないだろうか。. ここでは、まず立体図形をかき表す方法について述べ、それをもとに申学校数学 の空間図形領域で使用されている「見取図」が、どの図法に属するのか、というこ とを分析する。. (1)立体を表す方法. 製図や絵画などにおいて、立体図形の位置、形状を正確に一平面上にかき表す方 法として、主として「投影法」が用いられる。投影法とは、眼と立体図形の各点と を連結する直線が、平面と交わる点を連結することによって、その立体を平面上に. 表す方法である。このようにして作られた図を、立体図形の「投影」といい、投影 される平面を「投影面」、立体図形の各点と投影面間にある線分を「投射線」とい う。. 投影法は、おおむね次のように分類できよう[37][38】[39]。. 一[1ゴ畿[1撫. 【図2−2】. 一32一.
(37) 図2−3のように、すべての投射線を平行にする投影法を「平行投影法」といい、. 図2−4のように、すべての投射線が1点に会する投影法を「中心投影法」という。 平行投影法において、図2−3(1)のように、投射線が投影面と直交する場合を「直 投影」といい、(2)のように、斜交する場合を「斜投影jという。数学用語の正射影 は直投影に相当する。. D. A. A. D. PP. ix,c/n,,”,c. ;. Ii B}. ム. Ie At. A ’/↑・. D1. P ,([1一,・ny..,,!1一くt t・6×/. 農く≡. D・. 凾. 1 X/ XJtt. g. 音.. C’ 百 (1). D. 玉. x. CPP. B. txh..... N−R. c. x. c. (2). 【図2−3】. 【図2−4】. 直投影においては、一投射線上の各点がすべて重なって、1点として表現され、 ただ一つの図で、立体の3次元的な広がりを表すことはできない。しかし、以下で 示すような投影法においては、我々が眼で見る像とよく似た投影を得ることができ る。. 図2−5のように、 Oi\IY. lづllz\i 1. 111. 1 1. 立体に直交3主軸を想 定し、それらの直投影. X. l. X ’. @i l. または射投影である軸. @’. 0 @「 @ハ ” C燈’,’1’. @’ @’. @卜 日 l l. @’. 測軸をかき、これらを. ll l l. 基準として立体を作図. Illz’目 O’. 量. する投影法を「軸測投. w’. ”. 一ll. コl l. 「 ’. l l _. ?l l l X l l ?. 影」,という。このうち. ’. 61\斗. ,1. l. Y’. マ. PP. (1)を「直軸測投影」. (2)を「斜軸測投影」. (1). という。. 【図2−5】 一33一. (2).
(38) 直軸測投影では、座標軸に沿う長さは、3軸とも縮小されて投影されるが、3軸 方向のうち、いちばん縮小率の少ない軸を原寸でかき、他の2軸を、軸角度・縮率 比はそのままに、それに比例して拡大してかいた図を「直軸測図」という。この図 は、簡単にかくことができ、しかも立体の実態をよく表すので説明図としてしばし. ば用いられる。3軸の縮率比が簡単な整数比である直軸測図の例を図2−6に示す。. 最もよく使われるのは3軸が120。おきになり、各回の縮率の等しい等測図であ る。. 2・. 暑. 甚. ユ. 4 30’ 36’sot. 3Q’. 36i50’ IE]ti60. 5e・scr ?4’46’. 17’. (a》等測図. (c)三軸測図. (b)二軸醐図. 【図2−6】. 斜軸測投影では1つの面が実形で、第3の次元はつけたしの形となり、立体感も やや不自然であるが、作図が簡単なので、説明図としてよく使われる(図2−7参 照)。実用されている図の奥行き方向の軸の傾きは、他の軸に対して30。45。60。 などの簡単な角度のものが用いられ、縮率も0.5∼1の間の便利な値が用いられる。. これらは「斜軸測図」とよばれる。図2−7は(軸の傾き,縮率)を(45。,1) (45。,1/2) (300,3/4)でかいた立方体である。. /. / /. /. .L:. 一一. 【図2−7】 一34一. /. /.
(39) これらのことから、数学教育で用いられる「見取図」は、平行投影法の中の直軸 測投影と斜二三投影による図法と考えられる。. (2)平行投影法の性質. 見取図、すなわち平行投影法による図は、どのような点で空間図形領域の学習に. 適しているのであろう。そのことを考察するために、図2−8の平行投影図と図 2−9の透視図を比較しながら、平行投影図の性質を考えていく。. 1 1. .L一” /. 一. 【図2−8】. 一. 一. /. 【図2−9】. 平行投影法において、平面図形の投影は原図形とアフィン幾何的に同値である。 たとえば、三角形は三角形に、楕円は楕円に投影される。しかし合同ではない(た だし、投影面に平行な平面図形の投影は原図形に合同に投影される)。このことは、. 投影によって変化する幾何的性質と変化しない幾何的性質があることを示す。すな わち、. ①投影によって変化しないもの ・直線の投影は直線であり、直線上の点の投影は直線の投影上にある。. ・平行な直線群は平行に投影される(透視図法では、平行な直線群は1 点に集まるように投影される。つまり平行性は保存されない)。. ・平行な直線分の長さの比は変わらない(透視図法では、平行線の長さ の比は投影によって変化する)。. ・線分の内、外分比は変わらない(透視図法では、線分の内、外分比は 一35一.
(40) 変化する)。. ②投影によって変化するもの ・線分の長さ、平面角は一般には投影によって変化する。. 3次元の立体図形を2次元に表現するためには、次元が下がる分、何等かの幾何 的性質の変化が必ず伴う。空間図形領域が空間図形の性質を研究、考察する学習領 域である以上、立体の視覚的現実感よりも幾何的性質を優先することは当然のこと. である。そのような点から考えると、平面曲線の次数、点と線の結合関係、直線の 平行性、平行直線分の長さの比、直線分の内、外分比が変化されずに保持される平 行投影法が空間図形領域で使用される理由がわかる。. 本節では、教材面から空間図形領域の学習についての考察を進めることにより、 次のような点を明らかにすることができた。. ①見取図は、平行投影法の直軸測投影と斜軸測投影をもとにしている。. ②見取図では、次に示す立体図形の幾何的性質が保持されるため、空間図形 領域の学習に適している。 ・直線の平行性。. ・平行な直線分の長さの比。 ・直線分の内、外分比。. 一36一.
(41) 第2節. 認知面からの考察. ■.3D〈一→2Dのコーディング、及びディコーディングの心理学的側面. 前節では、空間図形領域で使用されている図を、図法の性質から捉えたが、その 図を通して知識を獲得し、問題解決の道具として使っていくのは生徒である。した. がって、生徒の3D←→2Dのコーディング、ディコーディングにおける心理学的 側面を研究し、生徒の認知面から使用されている図の特性を考察することが必要で あると考える。. ここで、コーディングとは、3Dの幾何対象を2Dに表現することである。また、. ディコーディングとは、2Dに表現された対象を3Dの立体図形としてよみとるこ とである。. (1) コーディングでの心理学的側面. コーディングの際、図のかき方には次の2通りの方法が考えられる。見えるまま にかく方法と、幾何的性質を保持するようにかく方法である。見えるままにかくと いくうかの幾何的性質が奪われ、幾何的性質を保存したものは、見た目からはなれ ていく。それでは、生徒はコーディングにおいて、どのような幾何的性質を残しな がら、どのような図をかくのであろう。 橋本、重松[40][41]らは「物理空間のモデル化における図的表現の役割一スケル. トン四角錐の表示」の研究において、立体模型を紙にかいて伝達するという場面で、. 立体模型が持つ幾何的な性質、関係をどのような表示手段(「見取図」、投影図、. 言葉、記号など)を使って2次元に表示するのか、また、表示に際して「知ってい ること」と「見たこと」をどのように子どもたちは調整するのかということを調査. している。彼らは、小学校1年から高等学校1年までの児童・生徒を対象に、彼ら にとってある程度なじみがあり、しかも単純すきることのない四角錐を表示させた。. 使用した四角錐は「スケルトン四角錐」といいビニール性のストローとモールでつ. くられていた(図2−10参照)。 調査では次のような手続きがとられた。生徒に一つのスケルトン四角錐が与えら れ、彼らは、それを手にとっていろいろと観察することが許された。教師は、より 大きなスケルトン四角錐で辺の数や面の形について説明した。説明の後、教師用の 一37一.
(42) 四角錐は生徒たちの目のふれぬ所へ移され、「東京に住んでいるあなたの友達に、. あなたが何をかいたかわかるようにかきなさい」という指示が生徒に出された。一 つのグループは四角錐を見ないで、もう一つのグループは自分の四角錐を持ってか いた。. 【図2−10】. 全体的な結果として、児童・生徒の平面上での立体表示パターンは、学年があが るにつれて、平面的表示→不十分な立体的表示→見取図→多様な見取図、と変化す. ることが見られた(図2−11を参照)。. ≒璽. 小1. 小5. 小3. 小6. 中1. 【図2−11】 一38一. 中2.
(43) この変化の中には、未熟な表現法で見たままにかく段階から、次第に幾何的な性 質を図の中にとり入れ、図としてのバランスを考えながらかくようになっていく変. 化も現れている。そのことは、調査で報告されている次のような生徒の行動記録か ら、うかがうことができる。. くく小学校1、2年の児童は見えるまま、感じるままに素直にかくのと異な り、3年になると、まず模型をしっかりと研究しようとする児童が多く なり、いろいろなことに気づきはじめる。そしてかかれた図の中に×印 が現れかき直された図が多くなる。…・このような試行錯誤は観察の確 立とかく技術との成長に伴って小5くらいで少なくなる〉〉([40],P.72). この変化の中で、児童・生徒はどのような図をかくようになっていくのだろう。 そして、どのような図法にちかづいていくのだろうか。子どもたちがかいた四角錐. の図の底面に注目してみるのも一方策と考える。つまり、平行投影法にちかづけば 底面はひし形や平行四辺形にちかづいていくだろうし、透視図法にちかづくなら底 面は台形などにちかづいていくと考えられる。 (図2−12を参照)。. 合. 6A>か. 正方形. 長方形. ひし形. .A 平行四辺形. 台形. 【図2−12】. 橋本、重松らは、底面の形状の違いを分類し、次のことを明らかにしている。小 一39一.
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