空間図形領域の問題解決場面において、問題を解決できずに思い悩んでいる生徒 によく出会った。このような生徒の中には、模型を与えたり、与えられた見取図と は視座の異なる見取図を与えると、はっとした表情で問題を解き始める生徒がいた。
模型が与えられると問題が解ける生徒は、問題に与えられた見取図をディコーディ ングできないために、あるいは、見取図をディコーディングする際に何らかの不都 合が生じたために、問題を解決できないでいたのではなかろうか。また、視座の異 なる見取図が与えられると問題を解けるようになった生徒は、与えられた見取図の 影響によって、問題を解決できないでいたのではなかろうか。つまり、与える見取 図によって問題がやさしくなったり難しくなったりすることが考えられるのである。
また、空間図形領域の問題解決に失敗した生徒の申には、問題が示す3次元的状 況を取り違えたために、誤答を導いたり正解を得られない者が多い。空間図形領域 の問題解決過程には、問題が示す状況を捉えにくくしている何か固有の要因が存在 するのではなかろうか。
このように、空間図形領域の問題解決過程では、問題解決を難しくしているいく つかの要因が存在すると思われる。本章ではそのような要因を探っていきたい。
そこで、第1節において、与えられた見取図をディコーディングする際、障害と なる点としてどのようなものがあるのか、また、与えられた見取図によって問題が やさしくなることや難しくなることがあるのか、ということを明らかにしていきた い。そのために、問題解決過程を、理解過程と探索過程という2つの過程で捉え、
見取図を分析の視点として考察を行っていく。
第2節においては、問題が示す3次元的状況の取り違えを、問題に対する不適切 な内的表現の生成と考え、解決過程において適切な内的表現の生成を阻害する要因 を明らかにしていきたい。そのために、解決過程における内的表現の生成方法を考 察し、その生成方法について、適切な内的表現の生成を阻害する要因を探っていく。
一54一
第■節 問題解決過程の
見取図を視点とした分析
本節では、空間図形領域の問題解決過程での見取図のディコーディングに際して 生じる問題点と、解決過程への見取図の影響について探っていく。そのために、次 のように考察を進める。
(1)空間図形領域の問題を、問われている内容から分類する。
(2)空間図形領域の問題解決過程を、理解過程と探索過程とに分け、それ ぞれの過程を考察する。
(3)見取図をディコーディングする際に生じる問題点について考察する。
(4)問題解決過程への見取図の影響について考察する。
■.空間図形領域における問題の分類
空間図形領域における問題には、どのようなタイプがあるのだろうか。異なる視 点をとることによって様々な分類をすることが可能であるが、ここでは一つの視点
として、問われている内容から問題の分類を試みる。すると、空間図形領域の問題 は、以下の5つのタイプに分類することができる。
①知識・概念を問う問題 ②位置関係の把握を問う問題 ③空間的構成や操作を問う問題 ④角度や長さを問う問題
⑤証明問題 以下で例題を示す。
①知識・概念を問う問題
下のような角柱や角すいには それぞれ面がいくつ ありますか。
②位置関係の把握を問う問題
右のような直方体を2っに切った A
コロロロコサロロのロコロロのの1っの三角柱で,ADと平行な辺を i /つ
い。なさい. Bl 6i
・た,A・・ね・れの位置。あ、 外・・ζ一一一一一;・;
辺をいいなさい・ E F
③空間的構成や操作を問う問題 ④角度や長さを問う問題
」旺三f「1 Hlを,右の図のよう
に,平而AEFで切ります。
(1}切り口は.どんな形にな りますか。
② 切ってできた2つの立体 は,それぞれどんな形にな りますか。
A
D
N NN
NNs s .B
ssX
一一.⊃
E c
F
、1辺が4cmの立方体がある。
この辺の上に右の図のように点 P,Qをとるとき,2点A, P 間の距離,および2点P,Q問 の距離をそれ.それ求めなさい。
A
⑤証明問題
右の面のように、正四面体ABCDの辺BC上に点 Pをとり、点Pと点A、点Pと点Dをそれぞれ結ぶ。
このとき、△PDAは二等辺三角形であることを証ll月 しなさい。
B
A
P
D
c
一一@56
2.空間図形領域における問題解決過程
一般的に、問題解決過程は理解と探索という二つの下位過程によって、次の図の ように表せる〔44]。
國一[璽]一國一[亜ヨ
【図3−1】
ここで、理解過程とは、問題に対する内的表現を生成する過程であり、探索過程 とは、理解過程の産物をもとに、問題の解を見つけたり計算したりする過程である
[45]o
このモデルをもとに、以下で空間図形領域の問題解決過程における、理解過程と 探索過程について詳しく見ていく。
(1)理解過程
筆者は、空間図形領域の問題解決過程における理解過程を、その問題の3次元的 状況の内的表現を生成する過程と捉える。その内的表現の生成のしかたとして、次 の二つが考えられる。
・解決者は、自分の所有する個人的標準図と見取図とを照合する。この過程を ディコーディング①と呼ぶ。
・解決者は、その問題にのみ関連する特殊な3次元的状況を構成する。この過 程をディコーディング②と呼ぶ。
ここで、次の問題[46]を用いて、これらのことを説明する。
右の図で,正四面体A−BCDの馬出の長さは 2cmである。底面BCDと同じ平面上に,2点 E,Fを△BCDの外側にとワ,△BEC,△CFD
がともに正三角形となるようにする。
(1)∠EAFの大きさは何度か。 E
A
Q・B/ 1 XD
g−NdiKi C F
正四面体はなじみ深い立体図形であり、生徒はその2次元表現を知っている。そ のよく知っている2次元表現を生徒の個人的標準図とみなす。この個人的標準図と 問題で与えられた正四面体の見取図とを照合することによって、見取図上の太線
(筆者記入)部分を立体と捉える(図3−2参照)。これがディコーディング①で
ある。
ところで、二つの三角形(△BEC,△CFD)が図のように加わっている状況 は、この問題に出会うまでは経験したことのない状況ではなかろうか。これはこの 問題に関連した特殊な状況である。生徒はその内的表現を生成する必要がある。内 的表現を生成する、とき、ディコーディング①で捉えた基本図形と三角形の知識など を整合的に組み立てていかねばならない。この過程がディコーディング②である。
理 解 過 程
個人的標準図
@一 一 ● 圃 一 一 階 幽 の
ワ。↓ A
知 識 ウ三角形の
@角の大きさ
@辺の長さ一
A
a 一一『.卿
内三一↓ A
@ P B P嶋 画 ・一鱒卿一一
D B 御
E c F
@ 見取図
£ C F E C F
fィコーディンク① ディコーディング②
【図3−2】
一58一
このように、空間図形の問題において、その理解過程の中に、2つの異なる過程 を指摘することができる。一つは、見取図などで示されたなじみ深い立体の認識過 程(ディコーディング①)であり、それは個人的標準図との照合という方法によっ て行われると考える。もう一つは、ディコーディング①で認識された立体に、さら に新しい空間的状況を加えていく構成過程(ディコーディング②)である。
ところで、55ページでの分類の「①知識・概念を問う問題」のように、ディコー ディング①だけで解決できる問題もある。
(2)探索過程
筆者は、空間図形領域における問題解決過程での探索過程を、理解過程で得られ た3次元的状況をもとに、問題解決に必要な情報を探索する過程と捉える。空間図 形の問題に対しては、解決情報を探索するための操作として、次の6つの操作が考
えられよう。
(a)新しい図形を構成する。
(b)切断する。
(c)投影する。
(d)展開する。
(e)組み立てる。
(f)回転させる。
次のページで、ここにあげた操作が、探索過程において中心的な役割を果たすよ うな問題の例を示す。
(a)新しい図形を構成する (b)切断する
1辺が4cmの享方体がある。
この辺の上に右の図のように点 P,Qをとるとき,2点A, P 間の距離,および2点P,Q間 の距離をそれぞれ求めなさい。
A
正:三角柱を,右の図のよう に,平而AEFで切ります。
(1)切り口は,どんな形にな りますか。
② 切ってできた2つの立体 は,それぞれどんな形にな りますか。
A
D
Ns NsN
NN NNB
NN SNs
E C
F
(c)投影する (d)展開する
直線xyで垂繭【に交わ っている平両P,Qがあり.
ます.右のように,正四角.
すいをt平而Q上に暇さ, x この立体に真正而から平行 ひコ
な光をあてたとき.,その彫 ρ はどんな形になりますか。
P
t r t A一一一 一鱒,
1
右の図のように,1辺の長さが4cmの正四面体 AβCDがある。点Mは辺BCの中点で,点Pは辺AC 上を動く点である。線分MPと線分PDの長さの和.
MP十PDで表す。
{11点Pが辺ACの中点にきたときのMP+PDを
求めよ。
〔2)MP+PDが最小になるときのMP+PDを求めよe A
P
一一一一一一一D B
M c
(e)組み立てる
右のような展開図を組み立てて できる立方体を考えます。 A B
(1)辺みBと平行な面はどれです p
か。
(2}面Pと垂直な面はどれですか。
〔3}頂点Aと重なる頂点に●印をっ けなさい。
Q
R .
g..
T : U
m 60 m.