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 この変化の中には、未熟な表現法で見たままにかく段階から、次第に幾何的な性 質を図の中にとり入れ、図としてのバランスを考えながらかくようになっていく変 化も現れている。そのことは、調査で報告されている次のような生徒の行動記録か

ら、うかがうことができる。

くく小学校1、2年の児童は見えるまま、感じるままに素直にかくのと異な  り、3年になると、まず模型をしっかりと研究しようとする児童が多く  なり、いろいろなことに気づきはじめる。そしてかかれた図の中に×印  が現れかき直された図が多くなる。…・このような試行錯誤は観察の確  立とかく技術との成長に伴って小5くらいで少なくなる〉〉([40],P.72)

 この変化の中で、児童・生徒はどのような図をかくようになっていくのだろう。

そして、どのような図法にちかづいていくのだろうか。子どもたちがかいた四角錐 の図の底面に注目してみるのも一方策と考える。つまり、平行投影法にちかづけば 底面はひし形や平行四辺形にちかづいていくだろうし、透視図法にちかづくなら底 面は台形などにちかづいていくと考えられる。 (図2−12を参照)。

正方形 長方形

学校5年生になると底面の形として、正方形や長方形以外にひし形や平行四辺形や 台形をかくようになるものが現れ、小学校高学年あたりから底面がひし形や平行四 辺形の描写をするものが多くなり、特に中学校からは平行四辺形の表示が安定して 現れ、それが主流になる。このことは、次のように解釈することができるだろう。

つまり、低学年の生徒は、見たままを苦労しながら図に表す。そして少しずつその 対象が持っている幾何的性質を図に付け加えていく。5っの頂点があること、5つ の面があること、8つの辺があることなどから始めるだろう。ある生徒は底面が正 方形であることに気づくが、実際にはそのように見えないことから底面を長方形と

して表したのかもしれない。このように幾何的性質を加えながら、常に図としての 見た目をチェックし修正していく。さらに学年が進み、辺の相等性や平行性に着目

し、図としての見た目もよく表現できるように底面をひし形や平行四辺形にした表 現方法をとるようになっていくのではないだろうか。彼らが図としてかきあげた、

底面がひし形や平行四辺形の図は、かき方はかなり曖昧ではあるものの平行投影法 にかなり近い表現法となっている。

 しかしながら、この傾向は、教科書で使用されている図や、教師が指導の際に使 用する図の影響も多大にあると思われる。

 一方、底面を正方形でかき表す児童・生徒が、どの学年にもコンスタントに出現 することが報告されており、このことは注目すべきことである。正方形でかいた生 徒のインタビューはないが、相手にどのような立体なのか、ということを伝える目 的を果たすために、正方形でかかざるをえなかった生徒も何人かいたのではない.だ ろうか。つまり、本当は底面は正方形である。そめ情報を平行四辺形やひし形で表 すことにより、対角線が直交していることや、4つの角が等しいというということ は図土から失われる。伝達者と解釈するものが共通のコーディング・ルールや、四 角錐の図の共通のイメージを持たない場合、ディコーディングにおいて、伝達者が 意図した情報が相手につたわらない可能性は十分ある。極端な話、底面をひし形で かいた場合、その図が示す通り、そこにかき表された立体図形は底面がひし形であ ると解釈することも有り得る。したがって、図としては歪んでしまうが情報を正確 に伝えるために、何人かの生徒は、底面の表示として正方形を選んだのかもしれな い。このことはディコーディングにおける問題点のいくつかを暗に示していると思

われる。

一40一

(2) ディコーディングでの心理学的側面

 ディコーディングにおいて、児童・生徒にはどのような心理学的傾向があるのだ ろうか。そこで、「どのような図をその立体図形を最もよく表す図として捉えてい るのか」ということについてB.Parzysz[42]の先行研究をもとに考察してみたい。

 B.Parzyszは、5、6年生の児童が何を立方体の「よい図(good drawing)」とし て考えているかを調べるために、彼らにいくつかの立方体の図を提示した。そして、

おのおのの図について、それが立方体の適切な表現と思うか、そうでないと思うか を尋ねた。生徒たちに与えられた指示は、次のようなものであった。「下の図で、

立方体を決して表さないと思うものを指摘しなさい。おのおのの場合について、あ なたの意見が正しいことを説明しなさい」 (図2−13を参照)。

z

3di]

lmp

8

10

仔〔‡〕

43

【図2−13】

 結果は、立方体を表していな いと答えた者の割合にしたがっ て、A, B, Cの3つのカテゴ

リーに分類された。

Catcgory   No・of drawing   Frcquency(%)

         8         95 レ       2      88

@        u      85

@         9      70

@        7      52 W       5      49

@        10      45

@        6      44

@        12      19

@        4      9 b        I      9

@        13       6

@        3       4

また、生徒の説明をもとに、次の4つの拒絶の理由が明らかにされた。

Lタイプ:辺が同じ長さでない Pタイプ:辺が平行でない Tタイプ:立方体がねじれたよ      うに見える

0タイプ=その他

右の表は、A, Bタイプの頻度を

表す。

No. of dτawiロg Type L P τ 0

8 106

2 87 13

11 42 50 6 2

9 98 2

7 59 37 1 3

5 29 7且

10 Ioo

6 30 69 1

 以上の結果から、児童は、表現における長さの相等性と平行性の保存を図の中に 求める傾向が強いことがわかる。つまり、実際に見えるようにかかれた透視図法の 図(上の場合の5、6、7)よりも、実際の見え方とはやや違うが、長さの相等性 や平行性といった幾何的性質を保持した平行投影法による表現を、立方体を表す

「よい図(good drawing)」として受け入れたのである。これと同様の傾向は、わ が国においても報告されている[43]。

一42一

2.見取図を用いた学習場面で生じる問題点

 見取図は、その図法の持つ性質や、生徒の心理的な側面からみて、空間図形領域 の学習に適したいくつかの要因を持っている。また、見取図は、思考の道具や、考 え、発想を相手に伝える道具にもなり得そうである。しかし、筆者の現場経験で見 た限りでは、見取図は、生徒にとって、そのような道具にはなっていないように思 われる。その原因の一つとして、中学校の空間図形領域の指導において、そこで使 用されている図のかき方やルールなどがほとんど指導されていないことが考えられ る。教師は、生徒が、なじみ深い立体図形の見取図については、小学校の低学年か ら見慣れており、ほとんどの生徒はそれらの立体の見取図を、かいたりよんだりす ることができる、と思いがちである。また、生徒がさまざまな図をかいていくうち に、図のかき方もさらに上達していくものと思いがちである。しかし実際はそうで はない。

 そこで以下では、空間図形領域の見取図を用いた学習場面で生ずる問題点を、生 徒の認知面に着目して考察していきたい。そのために、まず、見取図へのコーディ

ングと見取図からのディコーディングのモデルを示す。そしてそのモデルをもとに、

学習場面での問題点を考察していく。

(1)コーディングとディコーディングのモデル

 基本的な立体図形に対して、生徒や教師は、その人特有の2次元表現を持ってい ると思われる。そこで、 「ある立体に対するその人特有の2次元表現」を個人的標 準図とよぶ。

 児童・生徒の個人的標準図を調べるために、小学校6年生と中学校2年生を対象 として、基本的な立体図形の見取図をかかせる簡単な調査を行った。次に、その調 査で見られた代表的なものをあげる。

立方体

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四角錐

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三角錐(中学校2年生は正四酢)

小6

中2

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 筆者は、このような個人的標準図をもとにして、見取図へのコーディングや、見 取図からのディコーディングが行われているものと考える。

 ある立体図形の見取図へのコーディングを、図2−14で示すモデルを用いて説

明しよう。

 ある立体図形の情報をもとに、記憶内に保持されている個人的標準図の中から、

その立体図形に対する個人的標準図が想起される。その想起された個人的標準図を もとにコーディングが行われる。

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【図2−14=コーディング・モデル】

 次に、.ある与えられた見取図からのディコーディングを、図2−15で示すモデ ルを用いて説明しよう。

一46一