間質性肺炎に見られた異型細胞の検討 山梨医科大学検査部1》、同第二内科2)、順天堂大学病理学第一講座3》 中澤久美子 弓納持勉 石井喜雄 早川直美 西川圭一 小澤克良 塚原宗俊 須田耕一 久米章司 1、はじめに 従来より、間質性肺炎特に特発性間質性肺炎に肺癌が合併することが注目され、数多く の報告が見られるも細胞学的な検討はほとんどない。 そこで、今回間質性肺炎あるいは肺線維症に出現する異型細胞にっいて検討を行なった。 2、対象 対象は、山梨医科大学第二内科において間質性肺炎あるいは肺線維症と診断され細胞診 として喀疾、気管支擦過および気管支洗浄液が提出された45症例である。その内訳は、
喀疾67例、気管支擦過21例および気管支洗浄液8例であり、症例によっては複数回の
提出が行われた。また、3例については手術または剖検材料と比較検討した。 3、結果45例の細胞診所見は表1のように異型細胞のないもの16例、杯細胞増生1例、扁平
上皮化生細胞の軽度異型7例、同中等度異型6例、同高度異型2例、扁平上皮癌7例、腺 癌4例および小細胞癌2例であった。すなわち、間質性肺炎あるいは肺線維症にみられた異型細胞は扁平上皮化生細胞が最も多く、そのうちClass皿以上の中等度および高度
異型化生細胞は9例(20%)であった。また、癌細胞の出現は13例(28.9%)で
、組織型は扁平上皮癌が最も多かった。 次に、中等度および高度異型扁平上皮化生細胞が見られた症例および肺癌を合併した症 例の年令、性別、喫煙指数、異物吸入歴を検討した(表2、3)。 年令はともに高齢者に多く、性別では前者が男女半々であるが後者は男性に多い傾向にあ った。喫煙指数は共に高い症例が多いが、特に後者の平均は1216と非常に高かった。 また、後者はアスベストなどの異物吸入歴を持っ症例が5例もあった。 代表例を提示すると、症例4 喀疾、83才女性、特発性間質性肺炎、喫煙指数0
強い炎症性背景に敷石状の配列をした細胞集団が見られ、細胞質はエオジンに好染し、核クロマチンは変性のためか濃染傾向であった。これより、Class皿 中等度異型扁
平上皮化生細胞と診断した(図1)。症例6 喀疾、58才男性、肺線維症、喫煙指数600
敷石状、平面的な細胞集団がみられた。細胞質はライトグリーンやエオジンに好染性で、核クロマチンは中等度に増量していた。これより、Class皿 中等度異型扁平上皮
化生細胞と診断した(図2)。症例7 喀疾、80才男性、肺線維症、喫煙指数1000
強い炎症性背景に比較的結合性のある細胞集団がみられた。細胞質はライトグリーンあ るいはエオジン・オレンジGに好染し、核は大小不同があり、クロマチンは穎粒状に増量し、核小体も認められた。これより、Class皿 高度異型扁平上皮化生細胞と診断し
た(図3)。症例8 気管支擦過、68才男性、肺線維症、喫煙指数1300
平面的な細胞集団で、細胞質はオレンジGおよびエオジンに好染し、核型不整でクロマ チンは融解状や穎粒状に増量しているなど多彩であるが、全体的にはクロマチンの増量に乏しかった。これより、扁平上皮癌と断定し難くClass皿b高度異型扁平上皮化生細
胞と診断した(図4)。症例9 68才男性、肺線維症、喫煙指数1000
検診のE判定により精査が行われ、喀疾21回、気管支擦過5回および気管支洗浄液7
回が細胞診に提出された。喀疾では、孤立散在性に大型の異型細胞が多数みられ、細胞質 はオレンジGに過染し、核共に不整型でクロマチンの増量を認めた(図5a)。また、気 管支擦過洗浄液では、結合性のある細胞集団の中に核クロマチンの増量した大型異型細胞
を認め核小体も著明であった(図5b)。これより、ClassIV 扁平上皮癌と診断し
た。 剖検所見 両肺組織は蜂窩肺を呈した間質性肺炎で、癌組織は検出されなかった(図6 a)。また、気管支上皮には炎症を伴った扁平上皮化生が見られ、核小体も著明で細胞診 で認められた細胞に類似していた(図6b)4、考察
従来より、間質性肺炎や肺線維症、特に特発性間質性肺炎に肺癌の合併が数多く報告さ れている1∼7)。特発性間質性肺炎に合併する肺癌の頻度は7∼48%と諸家の報告1∼7)に より開きはあるものの高率であり、当院の28.9%もそれに合致するものであった。一般にわが国の肺癌の罹患率は、70歳代の男性に限っても約0.26%であり、喫煙など
の肺癌相対危険度が4倍としても間質性肺炎に合併する肺癌が非常に高率であることが伺 える。また、今回の結果は間質性肺炎、特に肺癌合併例には高度喫煙者が多いという報告 1∼4)’6−v7)にも一致していた。さらに、異物吸入との関係にっいてはほとんど言及されて いないが、今回の肺癌合併例13例中5例に何らかの異物吸入歴があり癌との関連が示唆 された。 肺癌合併症例の組織型(細胞像)をみると、扁平上皮癌が13例中7例と最も多く、次 いで腺癌が4例であった。本邦の報告では腺癌が最も多く、松下6)(1993)によると腺癌47%、扁平上皮癌20%、小細胞癌22%、大細胞癌11%であった。しかし、M
eyer&Liebowl》(1965)は32例中扁平上皮癌19例、腺癌10例、大細
胞癌2例、小細胞癌1例と、またTurner 一一Warwick et a1.2)(19
80)は20例中扁平上皮癌9例、腺癌4例、小細胞癌および大細胞癌各1例とそれぞれ
報告している。っまり、当院の今回の結果は本邦の報告には一致せずむしろ欧米の結果に 類似していた。 また、これら合併肺癌の発生部位は、上肺野発生が8例、下肺野発生が 5例であった。一般に、特発性間質性肺炎に合併する肺癌は末梢部発生が多いとされ、特 に下肺野の病変の強い部位に発生するという。病理学的には線維化ないし廠痕化した部位 の腺様化生、腺腫様増殖、扁平上皮化生および異型上皮化生を基盤に癌が起こると言われ ている1)・3)。しかし、このことは未だ明確ではなく、岡野ら5)(1989)によると、 合併する肺癌は下葉に最も多いが上葉にも多く、また線維化等の病変の弱い部位にも認め られ、本症の病態そのものが肺癌発生母地になるとしている。 一方、今回の結果から扁平上皮化生、特に中等度、高度異型化生細胞が20%と非常に 高率に認められた。斉藤8)(1985)による喀疾細胞診集検例における喫煙指数と扁平 上皮化生出現頻度との関係では、喫煙指数800以上の高度喫煙者でも中等度、高度異型化生の出現率は2.8%であり、軽度までもあわせた出現率でも13%であった。これよ
り、今回の我々の結果がいかに高率かが伺える。このことにっいては、間質性肺炎に高度 喫煙者が多いことからだけでは説明ができず、やはり間質性肺炎に見られた扁平上皮化生 に由来するとも考えられた。また、この結果から間質性肺炎合併肺癌と異型上皮化生細胞 とは何らかの関係があるのではないかと考えられた。 今回の結果から、細胞診をみる上で間質性肺炎、肺線維症の症例にっいては肺癌の合併 を念頭にいれて診断すべきである。また、これらの症例はレントゲン像で早期に肺癌を発 見することが困難な症例が多いとされ、岡野ら5)は8例中3例が喀疾細胞診で初めて見つ かったという。このことからも定期的に喀疾細胞診をすることが必要である。 5、結語①山梨医科大学において、間質性肺炎または肺線維症例で細胞診が検討された45症例
のうち肺瓶を合併したもの13例(28.9%)、中等度および高度異型性の扁平上皮化
生細胞が認められたもの9例(20%)であった。②合併した肺癌の組織型はこ扁平上皮癌7例、腺癌4例、小細胞癌2例であった。 ③出現した異型細胞は扁平上皮化生細胞が最も多く、なかには癌との鑑別が非常に困難 な症例が認められた。 【文献】 1・Mayer, E・C・ and Liebow, A. A.: Relationship of interstitial pneumonia honeycomb− ing and atypical proliferation to cancer of the iung・ Cancer, 18.: 322−351, 1965. 2 Turner−Warwick, M., Lebowitz, M., Burrows, B.,et a1.: Cryptogenic fibrosing alveolitis and lung cancer. Thorax, 35: 496−499, 1980. 3.池田真一郎,山口善文,谷川 恵ほか:肺癌を合併した特発性問質性肺炎の3症例. 日胸,46:358−362,1987. 4谷村一則,本間行彦:特発性間質性肺炎における肺癌合併.医学のあゆみ,140:926− 928, 1987. 5.岡野 宏,谷本晋一,中田紘一郎ほか:特発性間質性肺炎の肺癌合併。日胸,48:189 −198, 1989. 6.松下央:特発性間質性肺炎と肺癌.病理と臨床,11:178−182,1993. 7.Kawai, T., Yakumaru, K., Suzuki, M. and Kageyama, K.: Diffuse interstitial puemonia and lung cancer. Acta Pathol Jpn 37: 11−19, 1987. 8.斉藤雄二:早期肺癌とその発見。臨床VISUAL MOOK肺癌,128,1985. 表 1 細胞診所見の結果(45例) 異型細胞なし 杯細胞増生 軽度異型扁平上皮化生細胞 中等度異型扁平上皮化生細胞 高度異型扁平上皮化生細胞 扁平上皮癌 腺 癌 小細胞癌
16例
1例 7例s 6例 2例 7例s’ 4例 2例 *:1例は手術により扁平上皮癌 **:1例は解剖になったが癌なし 表 2 異型細胞出現例の背景因子 症例 年令・性 喫煙指数 異物吸入歴 ■ 異型細胞 1 73才・女 0 な し 中等度異型扁平上皮化生細胞 2 67才・女480
〃 〃 3 68才・女 0 〃 〃4
83才・女 0 〃 〃 5 70才・男1600
〃 〃 6 58才・男600
〃 〃 7 80才・男1000
〃 高度異型扁平上皮化生細胞 8 68才・男1300
〃 〃 9 68才・男1000
〃 〃 竈 *:細胞診では扁平上皮癌を考えた表 3 肺癌合併例の背景因子と組織型 症例 年令・性 喫煙指数 異物吸入歴 細胞および組織型 10 76才・男
1200
アスベスト 肩平上皮癌右一S2
11 85才・男800
な し 扁平上皮癌左一S9
12 75才・男1500
〃 小細胞癌左一S4
13 66才・男1200
〃 扁平上皮癌’左一S6
14 72才・女3600
コンクリート舗鯛 腺癌右一S2
i5 70才・男2000
な し 小細胞癌右一S6
正6 63才・男1200
道路工事 扁平上皮癌右一S3
17 77才・女 0 な し 腺癌左一S1
18 66才・男1500
〃 扁平上皮癌左一S10
19 72才・男700
石灰運搬 扁平上皮癌右一S2
20 62才・男700
カヰ瀕λ 腺癌左一S1
21 72才・男1800
な し 扁平上皮癌左一S4
22 73才・男750
〃 腺癌左一S9
*:細胞診は軽度異型化生細胞のみ難
骸 ・纏 図1(症例4) 日客疾 中等度藁獺平上皮ingA Pap.染色 x250 図2(釧6) 喀疾 中等度異型肩平上皮化生原E Pap.染色 x250図3(fill7) ロ客疾 高度異襲平上皮化生損胞 Pap,染色 X250