はじめに
近年,薬の副作用は社会的にも注目されてお り,その中でも肝障害は劇症化して死に至る場 合もあり,重要視されている.薬物の多くは肝 で代謝されるため1),薬物にさらされる肝の障 害は避けて通れない副作用である.薬物性肝障 害(drug-induced liver injury:DILI)は,近年で は保険収載薬以外にも,民間薬や健康食品に よって起こることも多い.1.DILIの分類
DILIは,成因別には予測可能なものと予測不 可能な特異体質によるものに大別される.アセ トアミノフェンに代表されるような予測可能で 濃度依存性に肝障害を起こす薬物はむしろ例外 的であり,多くは特異体質に基づく予測ができ ない肝障害である.特異体質によるDILIはさら にアレルギー機序によるものと,個体の特異体 質のために産生された肝毒性の高い代謝物が肝 障害を生じると考えられる代謝性とでもいうべ きものに大別される.アレルギー性の診断は発 熱,発疹,皮膚瘙痒,好酸球増多などのアレル ギー所見が得られれば診断の確実性が増加す る.これに対して,代謝性の特異体質によるも のは診断しにくく,特定の個人のみで生じる特 異な代謝物を同定しない限り,あくまで推察に 基づいた診断しかできない. 肝障害のタイプ別には肝細胞障害型,胆汁薬物性肝障害の診断と治療
滝川 一 要 旨 近年,薬の副作用は社会的にも注目されており,中でも肝障害は劇症化して死に至る場合もある.薬物性肝障 害(drug-induced liver injury:DILI)の診断には薬物投与と肝障害の推移との関連と除外診断が重要であるが, 診断基準としては,日本消化器関連学会週間(JDDW-Japan)2004 のワークショップで提案されたものが現在 広く用いられている.これは,診断時のALT値とALP値から肝障害のタイプ分類をした後,8 項目のスコアを計 算し,総スコア 5 点以上については可能性が高い,3,4 点については可能性あり,2 点以下については可能性が 低いとの判定を行うものである.薬物性肝障害の治療は,肝細胞障害型ではグリチルリチン注射薬やウルソデオ キシコール酸経口投与が行われることが多いが,きちんとしたエビデンスはないのが現状である.胆汁うっ滞型 では,ウルソデオキシコール酸,プレドニンゾロン,フェノバルビタールが投与される.劇症化例では血液透析 と持続的血液濾過透析を行い,無効の場合は肝移植が唯一の救命法になる. 〔日内会誌 104:991~997,2015〕 Key words 肝細胞障害型,胆汁うっ滞型,起因薬,健康食品,DLST 帝京大学内科The Cutting-edge of Medicine;Diagnosis and treatment of drug-induced liver injury. Hajime Takikawa:Department of Medicine, Teikyo University School of Medicine, Japan.
うっ滞型および両者の混合型の 3 つに分類され る.
2.DILIの診断
DILIの診断には,薬物投与と肝障害の出現と 消退の時間的関係,他の原因の除外診断の 2 つ がポイントとなる.なお,民間薬や健康食品な どで肝障害が起こる場合もあり,患者が意識し ていない場合もあるので,これらについても忘 れずに聴取する.典型例は,急性肝障害の症状 (全身倦怠感や食欲不振など)もしくは肝内胆 汁うっ滞(黄疸やかゆみ)を呈するが,症状が なく,血液生化学検査値の異常により発見され ることも多い.アレルギー性の機序による肝障 害が多いことから,発熱,皮疹の有無を聴取す るとともに,白血球数と分画(好酸球)を測定 する.また,肝細胞障害型では劇症化を早く予 知するために,プロトロンビン時間の経時的変 化と意識レベルとに注意する. 除外診断としては,急性ウイルス性肝炎,ア ルコール性肝障害,過栄養性脂肪肝,自己免疫 性肝炎,原発性胆汁性肝硬変,胆石症,閉塞性 黄疸,ショック肝などが挙げられ,これらの疾 患を念頭に置いて詳細な病歴聴取と検査とを行 う.具体的には,海外渡航歴,生ものの摂取, 性交渉(以上,急性ウイルス性肝炎),飲酒歴 (アルコール性肝障害),体重の急激な変化(脂 肪肝や悪性腫瘍による閉塞性黄疸),右季肋部痛 (胆石症),黄疸が著明な場合の尿と便の色(閉 塞性黄疸,急性肝炎,他)を聴取し,IgM HA (immunoglobulin M hepatitis A)抗体,HBs(hep-atitis B surface)抗原(IgM HBc(hepA)抗体,HBs(hep-atitis B core) 抗体),HCV(hepatitis C virus)抗体(HCV-RNA), IgM CMV(cytomegalovirus)抗体,IgM EB VCA (Epstein-Barr viral capsid antigen)抗体,IgG, IgM,抗核抗体,抗ミトコンドリア抗体の測定 と腹部超音波検査を行う.B型肝炎とC型肝炎に ついては,できるだけIgM HBc抗体とHCV-RNA を測定するのが好ましい.さらに最近,IgA HEV (hepatitis E virus)抗体測定が保険適応となった ので,この測定も行ってほしい.なお,肝細胞 障害型では劇症化することもあるので,重症例 では他の急性肝障害と同様,プロトロンビン時 間の経時的変化と意識レベルに注意する.ま た,重症例ではできるだけ速やかに専門医に相 談することが必要である. 2002 年に,国際コンセンサス会議の診断基 準2)を日本の現状に合うように改訂した診断基 準案を提案した3).その後の議論を経て,2004 年 の 日 本 消 化 器 関 連 学 会 週 間(JDDW-Japan) 2004 のワークショップでそれをさらに改訂し た診断基準を提案した(表1)4,5).まず表2のご とく,初診時のALT(alanine aminotransferase) 値とALP(alkaline phosphatase)値から肝細胞 障害型と胆汁うっ滞型+混合型に病型を分類す る.次いで,表 1のように,1.発病までの期 間,2.薬物中止後の経過,3.危険因子,4. 薬物以外の原因の有無,5.その薬物による肝 障害の報告,6.好酸球増多,7.DLST(drug-in-duced lymphocyte stimulation test),8.偶然の 再投与が行われたときの反応の 8 項目でスコア リングを行い,総スコアが 5 点以上で可能性が 高い,3,4 点で可能性あり,2 点以下で可能性 が低いと判定するものである.まだ改善の余地 は残されているものの,その有用性のコンセン サスは得られている.この診断基準およびスコ ア 計 算 の ソ フ ト は 日 本 肝 臓 学 会 のHP(home page) からダウンロード可能である(http:// www.jsh.or.jp/medical/guidelines/medicalinfo/ mtphama). この診断基準では,国際コンセンサス会議の ものと同様,ALT値が正常上限の2倍,ALP値が 正常上限を超えたものを肝障害と定義してい る.2 種類以上の薬物が投与されている場合に は,一番疑わしい薬に関してスコアリングを行 い,次のステップとして併用薬の中でどれが疑 わしいかを表1の1,2,5,7の項目から推定す表1 DDW-J 2004薬物性肝障害ワークショップのスコアリング4) 肝細胞障害型 胆汁うっ滞または混合型 スコア 1.発症までの期間1) 初回投与 再投与 初回投与 再投与 a.投与中の発症の場合 投与開始からの日数 5~90日 1~15日 5~90日 1~90日 +2 <5日,>90日 >15日 <5日,>90日 >90日 +1 b.投与中止後の発症の場合 投与中止後の日数 15日以内 15日以内 30日以内 30日以内 +1 >15日 >15日 >30日 >30日 0 2.経過 ALTのピーク値と正常上限との差 ALPのピーク値と正常上限との差 投与中止後のデータ 8日以内に50%以上の減少 (該当なし) +3 30日以内に50%以上の減少 180日以内に50%以上の減少 +2 (該当なし) 180日以内に50%未満の減少 +1 不明または30日以内に50%未満の減少 不変,上昇,不明 0 30日後も50%未満の減少か再上昇 (該当なし) -2 投与続行および不明 0 3.危険因子 肝細胞障害型 胆汁うっ滞または混合型 飲酒あり 飲酒または妊娠あり +1 飲酒なし 飲酒,妊娠なし 0 4.薬物以外の原因の有無2) カテゴリー1,2がすべて除外 +2 カテゴリー1で6項目すべて除外 +1 カテゴリー1で4つか5つが除外 0 カテゴリー1の除外が3つ以下 -2 薬物以外の原因が濃厚 -3 5.過去の肝障害の報告 過去の報告あり,もしくは添付文書に記載あり +1 なし 0 6.好酸球増多(6%以上) あり +1 なし 0 7.DLST 陽性 +2 擬陽性 +1 陰性および未施行 0 8.偶然の再投与が行われたときの反応 肝細胞障害型 胆汁うっ滞または混合型 単独再投与 ALT倍増 ALP(T.Bil)倍増 +3 初回肝障害時の併用薬と共に再投与 ALT倍増 ALP(T.Bil)倍増 +1 初回肝障害時と同じ条件で再投与 ALT増加するも正常域 ALP(T.Bil)増加するも正常域 -2 偶然の再投与なし,または判断不能 0 総スコア 1)薬物投与前に発症した場合は「関係なし」,発症までの経過が不明の場合は「記載不十分」と判断して,スコアリングの対象とし ない. 投与中の発症か,投与中止後の発症かにより,aまたはbどちらかのスコアを使用する. 2)カテゴリー1:HAV,HBV,HCV,胆道疾患(US),アルコール,ショック肝 カテゴリー2:CMV,EBV. ウイルスはIgM HA抗体,HBs抗原,HCV抗体,IgM CMV抗体,IgM EB VCA抗体で判断する.
る.薬物の再投与によって肝障害が起こるかを 調べるチャレンジテストは,現在では倫理的に 行うべきでないとされているので,項目 8 はあ くまで偶然に基づく場合に用いるものである. 薬剤リンパ球刺激試験(drug-induced lympho-cyte stimulation test:DLST)は保険適応でなく, 疑陽性や偽陰性が起こり得るという欠点も指摘 されているが,可能であれば被疑薬について 行った方がよい.
3.DILIの最近の動向
1) 2008年の全国アンケート調査1,676例の分析 結果6,7) 2008 年 6 月の日本肝臓学会総会で,29 施設 から1997~2006年の10年間の1,676例の薬物 性肝障害症例の集積を行った.男性が 721 例, 女性が955例で,平均年齢は55歳であった.服 薬開始から肝障害発現までの期間は,不明を除 いた症例の期間を累積すると 7 日以内が 26%, 14日以内が40%,30日以内が62%,90日以内 が 84% で あ り,90 日 を 超 え る 症 例 が 16% も あったことは注目すべきである.肝障害のタイ プ別では肝細胞障害型が 59%,混合型が 20%, 胆汁うっ滞型が20%で,肝細胞障害型の割合が 1989~1998 年の 10 年間の 2,515 例の薬物性肝 障害症例の集計での 46%3)より増加していた. DLSTは 61%の症例で施行され,陽性率は 33% であった.DDW-Japan 2004 ワークショップの 診断基準のスコアリングでは,可能性が高いが 87.3%,可能性あり以上が 97.8%と感度は良好 であった. 表2 肝酵素による薬物性肝障害の病型分類4) 肝細胞障害型 ALT>2N+ALP≦NまたはALT比/ALP比≧5 胆汁うっ滞型 ALT≦N+ALP>2NまたはALT比/ALP比≦2 混合型 ALT>2N+ALP>Nかつ2<ALT比/ALP比<5 N:正常上限,ALT比=ALT値/N,ALP比=ALP値/N 表3 1997年~2006年の薬物性肝障害例の起因薬と10年前と の比較6)(起因薬を1剤に特定できた879例での検討) 起因薬 1997~2006 年 1989~1998 年8) 抗生物質 14.3%(126 例) 22.0% 精神科・神経科用薬 10.1%(89 例) 7.8% 健康食品 10.0%(88 例) 0.7% 解熱・鎮痛・抗炎症薬 9.9%(87 例) 11.9% 循環器薬 7.5%(66 例) 6.5% 漢方薬 7.1%(62 例) 4.7% 消化器用薬 6.1%(54 例) 7.4% 一般市販薬 5.5%(48 例) 5.8% ホルモン製剤 3.6%(32 例) 4.6% 抗アレルギー薬 3.2%(28 例) 3.7% 造血と血液凝固関係製剤 2.8%(25 例) 3.6% 高脂血症薬 2.7%(24 例) 0.7% 抗がん薬 2.6%(23 例) 2.9%表3に2008年の1,676例の症例集積での起因 薬の割合と 1999 年の日本肝臓学会西部会での 為田らの 1989~1998 年の症例集計8)との比較 を示す.抗生物質 14.3%,解熱・鎮痛・抗炎症 薬が 9.9%と頻度が高いのは 10 年前と同様であ るが,健康食品が 10.0%,漢方薬が 7.1%と 10 年前より増加しており,特に健康食品による報 告の増加が著しい.なお,健康食品と漢方薬は, 服用開始から肝障害発現までの日数の平均が 各々260 日,124 日と,他の薬物の平均 64 日よ り長かったので,起因薬の検索に際して注意が 必要である. 65 歳未満の非高齢者と 65 歳以上の高齢者を 比較してみると,薬物の投与日数が非高齢者の 78±222 日に対し,高齢者で 104±297 日と有 意に長く,合併症ありの比率が非高齢者の64% に対し,高齢者で 93%と有意に多く,DDW-Ja-pan 2004 ワークショップの診断基準のスコア が非高齢者の6.7±1.9点に対し,高齢者で6.4± 1.9点と有意に低かった.高齢者では,起因薬で 循環器用薬や造血と血液凝固関係製剤の割合が 高く,これらの薬物を服用する頻度が増加して いるためと想定される.逆に健康食品,消化器 用薬や和漢方薬は,非高齢者に比較して割合が 低下していた. 2) 医薬品医療機器総合機構情報提供HPからの薬 物性肝障害症例の集計 医薬品医療機器総合機構情報提供HPには,医 療用医薬品の有害事象の報告件数が掲載されて いる.表4はここから個人的に集計した2007~ 2013年の薬物性肝障害報告数を示す.これはあ くまで医薬品医療機器総合機構に報告のあった 数に基づいたもので,診断の精度については不 明であることをご了解いただきたい.塩酸テル ビナフィン,硫酸クロピドグレル,カルバマゼ 表4 2007~2013年の経口薬による薬物性肝障害報告数(医薬品医療機器総合機構情報提供HPから) 代表的商品名 症例数(劇症肝炎/肝不全) 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2007―2013 ラミシール 83 121 44(3) 18 34 21 19(4) 340(7) プラビックス 37(3) 62(3) 43(1) 37(1) 16 24(2) 22(1) 241(11) テグレトール 45(1) 29(1) 41(4) 33 35(1) 13(1) 23 219(8) パナルジン 67(3) 62(1) 28(2) 18(2) 14(1) 4 5 198(9) イレッサ 21 20(2) 30(3) 23 61 19 23 197(5) ロキソニン 41(3) 29 22(1) 22(1) 21 29(1) 28 192(6) UFT 21(1) 27(3) 38(6) 18(1) 22(3) 20(1) 10(2) 156(17) ローコール 33 59(1) 25 18 2 3 1 141(1) クレストール 29(1) 26(1) 19(2) 17(1) 13 14(1) 19 137(6) リピトール 33(1) 18 17(1) 16(1) 19(1) 13 19 135(4) イスコチン 19 17(2) 17(1) 14(1) 29(1) 22 16(4) 134(9) クラリス 16(1) 19(3) 17(1) 18 17(1) 26(3) 14 127(9) クラビット 12 13(1) 17(1) 32 18(1) 11 16 119(3) カロナール 11 15(2) 17 15(1) 18(1) 27(2) 14(1) 117(7) ザイロリック 18 11(3) 12 13 28 16 13(1) 111(4) ユリノーム 15(1) 23(5) 12 21 10(1) 10(1) 13 104(8) ガスター 19 27 6 16(2) 19(2) 8 8 103(4) リピディル 30 16 10 21 9 13 3 102
ピン,塩酸チクロピジン,ゲフィチニブが起因 薬のベスト 5 である. 3)全国施設の前向き症例集計の結果 現在,全国の施設にお願いして,薬物性肝障 害症例を集計している.昨年 7 月までに安佐市 民病院,北里大学病院,帝京大学病院,東海大 学病院,三重大学病院,愛媛大学病院,福岡大 学病院,福島県立医科大学病院,増子記念病院, 群馬大学病院,金沢大学病院,山形大学病院, 倉敷成人病センター,東京女子医科大学病院, 久留米大学病院,富山大学病院,岡山済生会病 院,愛知医科大学病院,東京医科大学茨城医療 センター,昭和大学病院,千葉大学病院,順天 堂大学病院,埼玉医科大学病院,聖マリアンナ 医科大学病院および岡山大学病院から 211 例の 症例を集積することができた. 男性 87 例,女性 124 例,平均年齢 57 歳(17 ~84歳)で,肝障害のタイプは肝細胞障害型が 137 例(65%),混合型が 43 例(20%),胆汁 うっ滞型が31例(15%)であった.DLSTは59% の症例で施行され,陽性率は44%であった.発 症までの期間は 30 日までが 53%,60 日までが 69%,90 日までが 78%であり,22%の症例は 3 カ月以上服用して発症した点に注目すべきで ある.DDW-Japan 2004 ワークショップの診断 基準のスコアは,可能性が高いが93%,可能性 あり以上が 99%と感度は良好であった. 被疑薬(重複あり)については,抗菌薬・抗 真菌薬が 41 例(11%),非ステロイド性抗炎症 薬が40例(11%),消化器科用薬が35例(10%), 精神・神経科用薬が 32 例(9%),健康食品が 29 例(8%),抗癌薬が 28 例(8%),循環器科 用薬が25例(7%),漢方薬が24例(7%)と上 位を占めていた.
4.DILIの治療
DILIを疑った場合,起因薬物を現在も服用中 であれば直ちに中止するのが基本である.全身 倦怠感,食欲不振などの症状が強い場合,黄疸 例(例えば総ビリルビンで 4 mg/dl以上),ALT 高値(例えば400 IU/l以上),プロトロンビン時 間延長例では,入院加療が望ましい.その場合 は,急性肝炎の治療に準じ安静臥床とし,消化 のよい食事を与え,摂食できない場合は輸液を 行う. 多くの場合は薬物中止により軽快し,薬物療 法の必要ない場合が多く,基本的に必要なのは 黄疸遷延化例と劇症肝炎移行が疑われる例であ る. 肝細胞障害型の肝障害でグリチルリチンの静 注が行われる場合がある.きちんとしたエビデ ンスは得られていないが,ALT値が高値の場合 には現実的に用いられることも多い.また,ウ ルソデオキシコール酸を投与することもある が,これもエビデンスは得られていない. 胆汁うっ滞型で黄疸が長期に遷延する場合に は,ウルソデオキシコール酸,副腎皮質ステロ イド薬,フェノバルビタールが有効なことがあ る.副作用の点からこの順に使用するのがよい と考える.併用も可能である.その他,茵陳蒿 湯やタウリンが有用との報告もある.瘙痒感が 強い場合は,コレスチミドの投与が有用であ る.黄疸が遷延した場合は,脂溶性ビタミンの 補給も必要になる. プロトロンビン時間の著明な延長や意識障害 など劇症化が認められた場合には,直ちに人工 肝補助療法を行うか,可能な施設に転送する. 血漿交換+血液濾過透析により改善がみられな い場合は,家族と相談のうえ,早めに肝移植の 行える施設とコンタクトを取る必要がある. なお,今後,同じ薬物服用により,もっと重 篤な肝障害を起こす可能性があるので,被疑薬 の名前を伝えて,注意を喚起する必要がある.おわりに
諸外国では,以前からDILI症例の集計と遺伝 子分析用のサンプルの保存と分析を行ってお り,我が国でも行う必要があると感じていた. 数年前から全国の施設にお願いして,DILI症例 と遺伝子分析用の血液サンプルを集積してい る.遺伝子分析については国立医薬品食品衛生 研究所,東京大学薬学系研究科および理化学研 究所との共同研究である.これまで,GST M1, T1の遺伝子多型の解析,HLA(human leukocyte antigen)の解析とGWAS(genome-wide associ- ation study)の途中経過も出ている.これらに ついてはさらにデータを集積してから報告した いと考えている. 今後も,症例を集積して我が国のDILIの実態 を明らかにしていくとともに,遺伝子分析を行 い,発症と関連する因子を明らかにしたいと考 えている.症例をご提供いただいた先生方に深 謝する. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし 文 献 1) 滝川 一:肝薬物代謝と臨床との係わり.肝臓 42 : 277―308, 2001.2) Danan G, Benichou C : Causality assessment of adverse reactions to drugs. I. A novel method based on the conclu-sions of international consensus meetings : application to drug-induced liver injuries. J Clin Epidemiol 46 : 1323―1330, 1993.
3) 滝川 一,他:新しい薬物性肝障害診断基準の提案―国際コンセンサス会議による診断基準の改定をもとに―.肝 臓 44 : 176―179, 2003.
4) 滝川 一,他:DDW-J 2004 ワークショップ薬物性肝障害診断基準の提案.肝臓 46 : 85―90, 2005.
5) Takikawa H, Onji M : A proposal of the diagnostic scale of drug-induced liver injury. Hepatol Res 32 : 250―251, 2005.
6) 堀池典生,他:薬物性肝障害の実態―全国調査―,薬物性肝障害の実態.恩地森一監修.中外医学社,東京,2008, 1―10.
7) Takikawa H, et al : Drug-induced liver injury in Japan : an analysis of 1676 cases between 1997 and 2006. Hepa-tol Res 39 : 427―431, 2009.
8) 為田靭彦,他:薬剤性肝障害の全国集計,「最新肝臓病学」.渡辺明治,樋口清博編.新興医学,東京,2001, 50―61.