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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

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Academic year: 2022

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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

論文提出者氏名 佐々木 亨

論 文 題 目 明治戯作の研究―草双紙を中心としてー 審査要旨

幕末から明治十年代までの文学が、近代への過渡的な位置を占めるものとして注目されてきたこと は周知、また、その時期の作品や関連資料が大量に残存していることも広く知られはている。しかし その研究は、大正末から昭和初期の明治文学研究会によった柳田泉をはじめとする研究者たち、また 戦後は、興津要、前田愛その他の若干の研究者たちの努力によって,その一部のジャンルを対象に推進 されるのみであった。とりわけ文学的評価の点で下位に置かれがちな草双紙系の戯作は、個々の作品 への十分な論及がおこなわれず、綿密・詳細な研究の対象とはなっていなかったといってよいであろ う。

そのような研究状況のなかで本論文は、明治期における(幕末期とは若干ならず趣を異にする)草 双紙系の戯作の内実、この作者のありよう、出版の状況など明治戯作の問題を中心として詳細な考察 を行っていく。

序章においては、江戸期の草双紙とは挿絵の担う役割が異なる故に東京式(明治式)合巻等と称せ ず、明治草双紙のジャンル名称が必要なる所以を論ずるが、第一章以下は、作家論、作品論の形を生 かして各論が展開していく。

第一章では、この時期の代表的な戯作者仮名垣魯文の明治期における転身と同時期の著作の問題を 検討する。明治期の魯文はこれまで、三条の教憲発令に伴って転向した、卑屈にして機を見るに敏な 人物ととらえられて来たが、論者は、魯文の交友、戯作的な作品の存在のありよう、その著作の中で の揶揄の方法などを問題としつつ、新たな時代をしたたかに生きのびて行く魯文の明治期を、興津要 らの従来の所論とは異なったものとして把握している。

第二章では、明治草双紙の嚆矢とされる明治十一年刊『鳥追阿松海上新話』が出現する直接的な要 因、同書の成立過程、その明治草双紙としての特質、その読者層等の問題について詳細な考察を行う。

その第一、二節は、その出現の直接的な要因として、前年大流行した西南戦争に取材した草双紙群の 存在の意義を詳細にとりあげ、その挿絵、三冊一編という構成等々に関する両者の関連の指摘は興味 深い。また、第三節は、『仮名読新聞』連載時の作品と単行本を比較し、その物語としての深化を具体 的に示し、第四節は、爆発的な売れ行きを見た同作の大量の読者と版元との関係から、生まれる諸問 題をとりあげ、明治草双紙の読者の拡大の様相を具体化することで、明治草双紙読者の問題を新たな 視点から提示している。

第三章では、『鳥追阿松海上新話』に後続する、いわゆる毒婦物の代表作三作品の詳細な考察が行わ れる。第一節は、従来注目されることの少なかった『夜嵐阿衣花廼仇夢』をとりあげ、『さきがけ新聞』

の連載はその一部に過ぎないこと、その人情本的なテーマや主人公像のあり方、本文と挿絵のずれ、

造本様式の簡易化等の問題をとりあげ、同作品の特色に対する多面的な考察を行なっている。また第 二節は、魯文作『高橋阿伝夜刃夜叉譚』初稿の書誌的な細かな問題点を具体的にとりあげて解明して いる。第三節は、岡本勘造『東京奇聞』をとりあげ、その新聞連載時と単行本との相異、両者の成立 経緯などを問題にし、従来とりあげられなかった側面を明らかにして、明治期草双紙の特色の一面を 浮びあがらせている。

第四章は、明治草双紙の主な題材の供給源となった「つづきもの」についての諸問題を考察する。

第一節は、『仮名読新聞』の明治九年時の連載ものを分析、そのつづき物は、完成した原稿の分載と考 えられ、連載によって商品価値を持たせようとする意識は希薄であると結論づけられる。第二節では、

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分載から連載への大きな転換点が、西南戦争の続報に求められることを考証し、戦争の報道の影響に よって、連載による「長物語」への転換が始められるという結果を生みだした、と論ずる。第三節は、

「東京絵入新聞」のつづき物『金之助の説話』を種々の側面から問題とし、その完結に至るまでの過 程を明らかにする。また、第四節は「長物語」の出現が、大小の新聞いずれの場合も大阪が東京に先 行する実態を明らかにする。これまで明治初期草双紙の研究で、その存在は知られていても大阪出来 の作品が軽視されていたことは周知であるが、その点から見て本節以降の大阪草双紙界をとりあげる 諸論は、とりわけ本論文中でも大きな意味を持つものと考えられる。

第五章は、仮名垣魯文と対峙した高畠藍泉の作風形成とテーマの変化について考察する。第一節で は、藍泉を大阪に招聘した宇田川文海の影響や大阪での諸体験が、藍泉の流行作家としての契機とな ったことを論じ、第二~四節では『巷説児手柏』以後『筆の命毛』の成立までの若干の藍泉作品をと りあげ、連載した作品の単行本化に至る過程での挿絵や造本上の諸問題が興味深く考察されている。

第六章は、活版による明治初期草双紙の成立を、上方から東京へという順で具体的に追及するが、

その流れが大阪の宇田川文海を補助線とすることによって藍泉の位置づけが具体的に明らかとなるこ とを詳論して、明治初期草双紙の大阪から東京への流れを十分に跡づけたことには大きな意義が認め られるであろう。

以上のように本論文は、大量の作品や資料が残存するにもかかわらず、十分に検討されぬままに放 置されていた幕末・維新期の文学のうちから、明治初年以後十年代の戯作系の草双紙に焦点をあてて 展開する。その時期の代表作者仮名垣魯文の明治期におけるしたたかな転身のありようを把握した論、

『鳥追阿松海上新話』その他のいわゆる毒婦物を対象としながら、その文学史的な位置を詳細・適切 に跡付けた論、魯文と対峙した高畠藍泉の作風形成とテーマの変化についての考察を行なう論等々が、

数多くの資料を検討しつつ説得力を保持して提示される。また、上方(大阪)出版の活版草双紙等に 注目し、従来余り問題にされなかった当時の大阪出版界の状況を具体的に把握し、明治初期草双紙に 大阪から東京への流れを見うること、すなわち、大阪出版界が東京出版界と関連を持ち諸種の影響を 与えていること等を論じ、興味深い優れた成果をあげているということができる。

以上により本論文は、博士(文学)の学位を授与するに足るものであると判定する。

公開審査会開催日 2009 年1月 14 日

審査委員資格 所属機関名称・資格 博士学位名称 氏 名 主任審査委員 早稲田大学文学学術院 教授 文学博士(早稲田大学) 谷脇 理史 審査委員 早稲田大学政治経済学術院 教授 宗像 和重 審査委員 早稲田大学教育・総合科学学術院 教授 博士(文学)早稲田大学 中嶋 隆 審査委員

審査委員

参照

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