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坂口光男著 保険法学説史の研究

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坂口光男著 保険法学説史の研究

⎜ 文眞堂,2008年7月,はしがき4頁+目次4頁+略語表1頁

+本文423頁+あとがき1頁 ⎜

本書は,坂口教授が保険法学の全体的な歴史的研究の一環として多くの時 間をかけて進めて来られた成果である。同教授には,すでに 保険法立法史 の研究 (文眞堂,1999年)があるが,本書は,その続編としての意味もあ ると考えられる。内容的には,とくにドイツの保険法学(保険学を含む)に 多くの頁数が当てられており,わが国の保険法学説史というよりは,ドイツ

(及びドイツ語圏の諸国)のそれに重心がある。大陸法系に属する日本法の 研究をする際には,日本法のみに目を凝らすのではなく,より視野を広げて,

ドイツの学説・理論を参照して議論することが相当にある。その面でも,ド イツ保険法学説の歴史的展開は,大いに関心を呼ぶテーマである。学説の生 れ来た由来を知り,基礎的な理解をした上で,わが国の保険法の理論的検討 が進められるべきものであろう。このことを坂口教授は,強く意識され,ド イツと日本における重要問題に関する保険法学説の形成・発展・承継過程を,

可能な限り社会的・経済的・歴史的背景および隣接の諸領域と関連づけて明 らかにしようと試みられる。私たちが当面する 現実的・具体的問題を巨視 的な観点から根源的に把握し解決するという視点 を失わないようにして,

歴史的文脈の中で学説のもつ意味・内容,そして射程を考えることが意図さ れている( はしがき ⅰ頁)。このため,数多のドイツ語文献を渉猟され,

多くの問題についてドイツの歴史的な事情が考察されており,その成果が一 書にまとまった形で公刊された。私たちが今後も保険法を研究する上で,そ の基礎となる大切な歴史的研究であり,大いに活用されることが期待される。

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【書 評】

(2)

本書の概要は,次のようである。

大きくは,二つに区分できる。第一章 保険学説一般 と第二章 保険法 学説 である。第一章は,保険法学説のみならず,保険学説の形成・発展史 にも重心がある。 保険の理論的研究の開始 に始まり, 保険制度の体系的 浸透 , 保険学の制度化 , 第二次世界大戦までの時期 , 第二次世界大戦 後における保険法学 の5節に分けて論じられる。16世紀に遡る保険の法学 的研究に言及した文献から当時のハンブルクにおける研究動向,そしてプロ イセン普通法の保険法関係規定の起源がハンブルク保険・海損条例に求めら れることなどに言及されている。また,国家学や商業学において保険がどの ように取扱われてきたか,保険数理の学問的展開過程にも目配りされ,次の 保険制度の体系的浸透 という19世紀の基礎的状況を述べられる。海上保 険法の研究で名高い著書を紹介されるなどしながら,保険制度が社会に定着 し,保険契約の法体系上の地位が問題となる19世紀半ばの事情が明らかにさ れる。普通保険約款が保険法の形成・発展に大きく貢献したこと,保険監督 の基本的な考え方がこの時期に成立し,生命保険の数理的基礎づけが19世紀 に進化・発展することが論じられ,1848年にアクチュアリー会がロンドンで 創設されたことなどに言及される。とりわけ興味深いのは,この時期の保険 専門雑誌が保険企業の職員や代理店に対する教育,情報提供の重要性から刊 行されていることである。19世紀後半からの 保険学の制度化 の時期には,

ドイツにおける社会保険の導入が問題となり,私保険との関係が実際的にも 理論的にも重要な問題となっている。そして,この時代に,ドイツの大学で 保険学のゼミナールや講座が生れていくことが,ゲッチンゲン大学保険学ゼ ミナールやケルン,ライプツィヒ,ミュンヘン,ハンブルク,ベルリンなど の大学事情などに触れながら,詳しく説明される。これに合せて,ドイツ保 険学会の創立の経緯と活動が詳述され,そして1908年保険契約法成立前夜の 状況が保険監督法に言及しながら明らかにされる。第二次世界大戦までの時

坂口光男著 保険法学説史の研究

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(3)

期については,保険の定義に関する諸学説の状況とともに,保険法の私法的 研究上,重要な論点とされた保険者の給付,被保険利益,責務などについて の議論状況が紹介される。各保険部門の各論的な研究については,名高い著 書の概要が紹介されている。最後の第二次大戦後における保険法学は,ハン ブルク大学を始めとする保険法研究の伝統をもつ諸大学の著名研究者につい てその研究動向が摘示されている。

第二章は,保険法学説の考察に重点が置かれ,保険法総論に関する論点の 検討から始められる。各論点について,ドイツと日本の客観的な紹介の後に 考察が行われるという形が採られている。対象としては,保険の定義,危険 団体,保険法の体系的地位,普通保険約款が検討されている。続いて,保険 契約法総論の課題として,保険契約の定義,保険契約の分類,責務,告知義 務,質問表の効力,保険証券の有価証券性,保険事故の意義,保険料の不可 分,保険金請求権の消滅時効,危険増加の継続性,保険事故招致における故 意,保険法における立証責任が取り上げられている。各論としては,損害保 険契約法で,被保険利益概念,利得禁止原則,損害防止義務,損害保険と譲 渡担保が検討対象とされる。この第二章の部分は,それぞれの課題の網羅的 な学説史的検討ではなく,著者も 試論の域にとどまっている とか, 不 徹底さ が残っていると自認されている(424頁)。

本書は,いずれの論点についても詳しい検討が行われており,それぞれに 示唆が多い。とくにドイツ学説の紹介検討の部分は,古い時代に遡った貴重 な歴史的研究であり,大いに参考になる。わが国におけるドイツ保険法学説 史の研究という,これまで十分に考察が進められていない分野に意欲的に取 り組まれた作品である。本書で取り上げられた個別の項目の一つだけでも,

相当に展開可能な課題であり,それらを包括的に論じられていることでも,

本書が大変な労作であることが分る。

しかし,書評としては,いくつかの問題点を指摘することもその任務であ

保険学雑誌 第 605号

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(4)

り,少し触れておきたい。本書は,社会的・経済的・歴史的背景から学説の 理解を深めることを基調とされているが,その時代の基本的な背景から必ず しも十分に説明されていない部分もある。たとえば,第二次世界大戦前の時 期は,ナチスの思想がドイツを覆っていたはずであるが,この時期の理論上 の重要項目として検討されている 保険法と信義則 や 保険制度と倫理 においてその影響の有無についてやはり考察されるべきではなかろうか。ま た,全体として膨大な外国文献等を利用されたこと,そして忠実に祖述され ようとすることの影響であろうが,翻訳調に感じられる面があり,日本語の 文脈で読むときに,やや心地悪さを感じさせる部分がある。これは,感想の 域を出ないものであるが,著者の見解をいっそう強く前面に打ち出して,大 胆に表現して頂いたほうが,読者としては,さらに得るものが大きかったよ うにも思われる。しかし,それは原典に忠実な立場を維持されている著者に 対する私の無謀な要望かもしれない。以上の指摘は,本書の全体的価値を損 なうものではない。主としてドイツ語圏の保険法学説の大きな流れについて 個別の議論にも係わりながら,全体像を描き,わが国の現在につながる課題 を明らかにしようとされたその意図は,十分に伝わっていると思われる。著 者が あとがき で,なお残された課題とされた検討が待望されるところで ある。

(評者:立命館大学教授 竹濵修)

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坂口光男著 保険法学説史の研究

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