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岡田豊基著 請求権代位の法理⎜保険 代位論序説⎜

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岡田豊基著 請求権代位の法理⎜保険 代位論序説⎜

⎜ 日本評論社,2007年12月,まえがき4頁,目次7頁,本文360頁,

初出一覧1頁 ⎜

はじめに

近時,世界的な金融自由化の波の中で,わが国の保険事業においては,保 険と他の金融商品との間では 保険の金融商品化 現象が,また,保険内部 の変化としては 保険の融合化 現象が進展しており,後者においては 物・財産保険(損害保険)の定額保険化 と 人保険(定額保険)の損害保 険化 が加速している。本書は,この 保険の融合化 現象を,請求権代位 制度の根本的見直しを通じて考察するものであり,本論中,わが国とイタリ アの立法例・約款・判例・学説の全容を網羅的・徹底的に詳述しており,読 む者をして感嘆せしめる業績となっている。そもそも,請求権代位制度は,

伝統的に損害保険契約に固有の制度と解されてきているが,人保険(定額保 険)においてはまったく認められないものなのか,それとも,人保険(定額 保険)の損害保険化により,そこにも認められる領域があるのか,あるとす ればどこまでか。筆者は,本書の全体を通して,この基本的テーマへの肉薄 を試みている。

各編別の内容

本書各編における具体的な内容は,以下のとおりである。

第1編の 請求権代位の存在意義 は,約款中に請求権代位規定をもたな い損害保険においても商法662条が適用・準用されるのかという問題提起から 始まっており, 請求権代位の存在意義に関する理論 (第2章), 請求権代 185

【書 評】

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位に関する法制度の変遷 (第3章), 請求権代位の構造と機能 (第4章),

請求権代位の存在意義 (第5章)について論述している。ここでは,保険 における 損害 を,保険契約者側に発生する経済的損失・保険事故発生前 後の保険契約者側の財産状態の変化ととらえ,損害保険における物や財の滅 失・毀損のほか傷害や疾病による医療費の支払いも 損害 に含まれるとす る。また, 利得禁止原則 の意義に関し,保険制度を通して利得すべきで ないとする 広義の利得禁止原則 とこれを実現するための具体的な 狭義 の利得禁止原則 とに分けるとともに,生保・傷害および疾病保険の死亡給 付部分にまで及ぶ 最広義の利得禁止原則 ,定額給付型傷害保険と疾病保 険のうち傷害・疾病給付部分にまで及ぶ 広義の利得禁止原則 ,そして,損 害の評価には商法が定める時価基準以外の評価も許されるとする 狭義の利 得禁止原則 と,この時価基準による損害塡補しか許されないとする 最狭 義の利得禁止原則 ,という筆者独自の分類が示されている。そして,被保 険者における利得禁止の理由は,損害保険の論理的帰結と公序政策にあり,

第三者の免責阻止 の理由は加害者の不法行為の抑止にあると指摘すると ともに,請求権代位制度とは,被保険者の利得禁止および有責第三者の免責 阻止を実現するうえで,保険者に権利取得させることが政策上望ましいと立 法者が考えた結果の所産であると結論づけている。

第2編の 請求権代位の法的性質 においては,まず イタリア法におけ る請求権代位の法的性質 (第2章)において,イタリアの1882年商法典お よび1942年民法典における請求権代制度をめぐる学説・判例状況が詳述され ている。そこでは,法定代位説(ドナーティ,サランドラ,スカルフィ,パ サニーズィの各理論),債権譲渡類似説(フェッラリーニ,ガスペローニ,

ファルコーニ,ブッタロの各理論),債権の特殊承継説(サンティ,ソッジ ャの各理論)そしてイタリアの判例が示す多様な解釈が紹介されていて興味 深い。ついで 請求権代位の法的性質に関する検討 (第3章)においては,

わが商法662条の立法経過を見たうえで,請求権代位制度と他の法制度(法 定代位弁済,代位訴権,債権譲渡,賠償者の代位等)とを比較している。そ

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して,筆者は,請求権代位制度を 債権譲渡に類似する特殊な法定代位制 度 と解したうえで,第三者の行為により保険事故が発生し保険者が被保険 者に保険金を支払った場合には,保険者は当然に被保険者の第三者に対する 損害賠償請求権を取得するが,その行使のためには指名債権譲渡の対抗要件

(民法467条1項)が準用されるべきであり,保険者は,第三者に対して,被 保険者に保険金を支払ったことによりこの者の第三者に対する請求権を取得 したことを通知した上で,これを代位行使する意思を表示するか,第三者の 承諾を必要とする,解している。

第3編の 請求権代位の適用基準と適用範囲 は, 判例にみる検討視座

(第2章), 各視座に基づく判例と学説 (第3章), 請求権代位の適用基 準 (第4章), 請求権代位の適用範囲 (第5章)から構成されている。そ して, 損害 には,財の減少(実損害と予見された利益の侵害)と経済的 負担の発生があり,これには損害保険における物や財産の滅失・毀損に起因 する損害の他,傷害・疾病による医療費の支払い・所得減少・期待利益の喪 失・逸失利益・費用負担なども含まれ,請求権代位の適用基準は損害塡補型 保険にあるとする。そして,請求権代位の適用範囲に関しては,人保険であ っても損害塡補型保険である限り商法662条が適用され,損害塡補型保険に おける請求権代位を放棄する旨の約款規定は,被保険者に利得をもたらさず,

かつ,故意による第三者の損害賠償責任をも免責することにならない限りで 有効である,と解する。また,生命保険においても約定により請求権代位を 認めることはできるが,定額給付型の傷害・疾病保険の死亡給付については 損害塡補性が認められないので請求権代位は認められず,死亡給付以外の部 分については損害塡補性が認められるので請求権代位が認められるとする。

第4編の 被保険者による賠償請求権の保全と保険者による代位権の放 棄 では,保険事故発生後,保険金が支払われるまでに,被保険者が負担す る第三者に対する損害賠償請求権の保全義務,あるいは,保険利益享受約款 や損害防止義務に関して論じられており, 請求権保全義務の理論的根拠お よび法的性質 (第2章), 請求権保全義務違反の要件 (第3章), 請求権

保険学雑誌 第 603号

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(4)

保全義務違反の効果 (第4章), 保険者による代位権の放棄 (第5章),

などから構成されている。保全義務は真正の義務(obbligo=他人の利益を 保護するために課される行為義務)か責務(onere=自己の利益を保護・達 成するための行為義務ないし自己の利益を達成するための付随的行為)か,

というイタリアの論争を紹介したうえで,筆者は,保全義務は義務性が希薄 な責務と解し,保全 義務 とは表現されているものの,これは保険者の塡 補責任の範囲を画する前提要件であると解する。

第5編の 請求権代位における第三者の範囲 では,請求権代位制度にお いて被保険者が損害賠償請求権を有すべき相手方たる 第三者 の範囲につ いて検討しており, 加害行為者の範囲 (第2章), 加害行為者に代わって 責任を負担する者 (第3章), 第三者の範囲に関する立法論を巡って

(第4章),などからなっている。そして,自己の過失に基づいて債務不履行 責任・不法行為上の責任・その他の法律上の責任に基づく損害賠償責任を負 う者が第三者にあたるとする。また,債務者が履行補助者を使用する場合に,

履行補助者の行為が原因で債務不履行が生じた場合には,債務者が債権者に 対して損害賠償責任を負担し,債権者が保険金を受領した場合には,保険者 は当該債務者を第三者とみなして債権者の債務者に対する損害賠償請求権を 代位取得すると解する。

むすび

本書は,その脚注の豊富さにおいても注目され,日本とイタリアにおける 保険契約法関連の文献のほぼすべてを読破した努力の跡がうかがわれる。現 代における請求権代位制度の諸研究を総括したうえで,それを凌駕する一つ の到達点を示す業績の一つとして,学界・実務界への貢献が期待される。

(評者:日本大学法科大学院・法学部教授 石山卓磨)

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