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今井薫著 保険契約における企業説の 法理⎜イタリア保険学説の研究⎜

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今井薫著 保険契約における企業説の 法理⎜イタリア保険学説の研究⎜

⎜ 千倉書房,2005年6月,まえがき6頁,目次5頁,本文278頁 ⎜

1.はじめに

本書はイタリアの保険契約法理の変 遷 を,主 と し て 企 業 説(teoria

dellʼ imprese

) と呼ぶ学説の紹介を兼ねてアプローチするものであり,こ

 

れを通じて保険本質論を考察する。筆者はかねてより保険本質論の重要性を 主張しており( レクチャー保険法(第2版) 11頁〜15頁〔法律文化社,

2006年〕),本書は,保険本質論に関する一連の論文の集大成である。

2.本書の内容

⑴ 本書の構成

本書は,企業説を考察する部分(序章〜第2章),これに基づいて,傷害 保険の法的性質を考察する部分(第3章〜第6章),他人のためにする保険 契約を考察する部分(第7章)に大別できる。

⑵ 企業説を考察する部分

序章では,企業説の特徴を紹介する。ファネッリ(Giuseppe Fanelli)に よれば,企業説はリスク共有組合の設立と参加に保険の本質を認める。筆者 は,企業説は,わが国では技術的特徴説と紹介されたことに起因して,保険 料の拠出と保険金給付の存在が過度に強調されてきたと指摘する。この点は ご指摘の通りであると考える。そこで,企業説を考察するにあたってはこの 説に関する正確な理解が必要であるとして,ファネッリの現代的企業説から 始めて,ヴィヴァンテ(Cesare Vivante)に戻るという手法をとる。

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【書 評】

(2)

第1章では,ファネッリの 三重の利益共有理論(teoria della triplice

comunione dʼ interessi

) を考察する。それによれば,保険では,経済的に

 

危険を消滅させるための利益共有関係が存在し,この関係が,①被保険者・

保険企業間,②被保険者間,③保険企業間に認められ,この関係を形成しう る保険者が現代的保険者となる。そこで,筆者は,ファネッリ説の本質は,

収支均衡する危険共同団体(利益共有関係)という企業を構築し,その資本 を保険料という形式で出資する保険契約者と,保険者が当該団体を代表して 出資契約を締結すると解するところにある,とする。

ファネッリ説はこれまでわが国においてほとんど紹介されたことはなく,

十分な理解がなかったが,本書における検討によって,新損害塡補説に駆逐 されかかっていた従来の企業説を甦らせたものであり,その延長上にあるの がヴォルペ=プッツォール(Giovanna Volpe Putzolu)らの考え方である と捉えることができる。

第2章では,ヴィヴァンテ説を中心に考察する。ヴィヴァンテは,保険企 業を,他人のリスクを引き受けるために,被保険者の拠出により,所定の履 行期に定額を供給しうる基金を形成する者と定義し,かかる企業は,営業上 の全資本を被保険者から取得し,したがって,被保険者は,彼ら自身が提供 した基金の総体において,自らの側で自己の権利のより妥当な保障を得ると している。さらに,保険契約とは,当該取引を営む目的で設立された企業が,

所定の保険料を介して他人のリスクを引き受ける契約であると定義する。そ して,筆者は,この説に基づき,集積リスク処理の手段として,保険供給者 サイドの危険負担量を増大させるカタストロフィ保険オプションについて,

その性質を考察する。すなわち,この説は,被保険者によるリスク基金の形 成,あるいはそれを目的とする大量契約を考慮の対象としているゆえに,純 粋リスクの保有者のみならず,投機的リスクの保有者を,事故不発生時を保 険事故とした被保険者とする保険オプションは想定しておらず,保険オプシ ョンは企業説の説く投機的リスクを排除した保険の概念を逸脱する,とする。

ヴィヴァンテ説を考察するにあたり,筆者は,この説に関するこれまでの

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(3)

研究は十分な理解に基づいてなされているとはいえない,と指摘する。ただ,

イタリアの法理論はいずれもきわめて緻密であるゆえに,その緻密さをきわ めるにあまり,イタリアの法理論を紹介する際,筆者独特な解釈ではないか と感じられる部分がないわけではない。ヴィヴァンテ説を検討する箇所では それが伺えるように思える。

⑶ 傷害保険の法的性質を考察する部分

筆者の傷害保険に関する研究は, イタリア法における傷害保険の法的性 質⑴⑵ 六甲台論集25巻3号(1978年),駒沢大学法学論集21号(1980年)

に始まり, イタリア法における傷害保険理論の展開⑴⑵ 損保研究45巻1号

(1983年),同47巻2号(1985年)等を経て,本書に至っている。

第3章では,イタリアおいて傷害保険の法的性質に関する研究は,請求権 代位を巡って展開されてきたことを明らかにし,ドナーティー(Antigono

Donati

)らによる新損害塡補説を検討する。筆者は,この説は,法の一般

 

理論や民法典の構造から導出できる論理的説明の枠を超えて過度に損害概念 を拡大するものであるとして,その概念に疑問を呈する。ご指摘の通りであ ると考える。

第4章では,傷害保険の法的性質を巡り,判例の展開と旧商法時代におけ る学説について考察を行ない,判例は傷害保険を生命保険と捉えていると明 らかにした後,第5章において,判例理論がプラグマティスト理論の影響を 受けその内容を変更している,とする。そして,第6章において,傷害保険 理論を総括し,学説は,機能主義的性格を有するものから,制度的性格を重 んじるものへと展開しており,ファネッリの理論を経て,ヴォルペ=プッツ ォールらによる傷害保険損害保険説に至っている,と指摘する。

⑷ 他人のためにする保険契約を考察する部分

イタリア民法典においては,わが国の商法典と異なり,他人のためにする 保 険 契 約 と し て,assicurazione per conto altrui(民 法 典1891条)と

as-

保険学雑誌 第 598号

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(4)

 

sicurazione a favore di un terzo

(同1920条)とがあり,両者は識別され ている。この点につき,独法,仏法の内容を明らかにした後,第三者のため にする契約(同1411条)と関連させながら,他人のためにする保険契約の法 的性質を考察する。そして,他人のためにする生命保険契約について,ドナ ーティーとファネッリの説を紹介し,独仏法との比較において,イタリア法 の特徴を明らかにする。その内容は,保険契約法の立法論として考慮すべき 重要なものである。

3.おわりに

本書は,イタリアにおいて保険本質論を巡って展開される企業説を克明に 考察し,それに基づき,傷害保険の法的性質等を検討する。比較法研究とし てイタリアの法理を紹介し,とりわけ保険本質論に関する理論を広く考察し ている点において,その成果は,わが国の保険学界の発展に多大なる貢献す るものであると評価することができる。

筆者は,とりわけ,ファネッリ理論に着目し,難解な説であるにもかかわ らず,これを詳細に検討するとともに,他の理論との違いを際だたせている。

しかし,この理論に拘泥することなく,この理論への批判をも傾聴し,冷静 な考察に終始していることは,法律学の研究者として多いに見習いたい。そ して,本書における一連の成果を法解釈のスタンスとして位置づけ,筆者の 明快な考え方に基づいて,引き続き,わが国における様々な法現象の分析を 期待したい。

筆者は類い希な文才に恵まれておられることから,本書にはきわめて魅力 的な表現がちりばめられており,法律書として独特の趣を持っている。それ ゆえに,保険学説に興味を持つ方々に対して是非とも一読されるよう広くお 薦めしたい。

(評者:神戸学院大学法学部教授 岡田 豊基)

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