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宇野典明著 新保険論 保険に関する 新たな基礎理論の構築

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宇野典明著 新保険論 保険に関する 新たな基礎理論の構築

中央大学出版部,2012年12月,はしがき6頁,目次4頁,

本文・参考文献・索引268頁 ⎜

1. 本書は,実務家としても研究者としても,真摯な研究を貫いてきた宇野 氏の処女作である。一部はこれまでに学術誌をとおして公表されているが,

それ以外の部分については書き下ろしである。カナダやアメリカとの比較事 例も多く含まれており,在外研究の成果が十分に盛り込まれている。

本書は全7章で構成されているが,大きく分けると, 新たな保険引受け の基礎理論 の提示と数値例を示した第4章までと, 資産負債最適配分概 念 を援用して,従来の 保険数理的危険団体概念 によって生じた問題点 を検討した後半3章からなっている。まず前半と後半にわけて内容を紹介し,

その上で,本書の貢献と課題について簡潔に指摘したい。

前半は,第1章 保険の定義 ,第2章 危険団体の意義と問題点 ,第3 章 新たな保険引受けの基礎理論 および第4章 2パラメータ・アプロー チによる検証 からなる。第1章では,わが国の定義とアメリカおよびカナ ダの定義を比較し,わが国においては危険団体の存在に重きを置いて理解さ れているとする。第2章では 危険団体の存在が,保険会社の不倒神話の理 論的な根拠とされてきた (40頁)として,その淵源を戦前の保険学の学説 にまでたどる。不倒神話は,価格が規制され,かつ当局が比較的強い行政権 限をもっていた 戦後生命保険システム の下で生まれたものであるという 反論があろう。しかし,本書の批判の対象が明確になるという意味で重要な 章である。

第2章までの検討を受けて,著者は次のように主張する。 保険数理的危

【書 評】

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険団体概念 は,保険引受けリスクしか考慮していないので,すべてのリス クを管理できる新たな概念に置き換えるべきである。第3章では 資産負債 最適配分概念 を説明する。 負債の中には,負債の計上時点で見積もった 将来の支出額が実際の支出額と異なることによって,実際の支出の時点で利 益や損失を生じさせるもの (70頁)があり, 負債には利益を生むものが含 まれ (70頁)ているため,資産と負債を合算して 2パラメータ・アプロ ーチ を援用し,最適なポートフォリオの配分を達成すべきと主張する。第 4章では, 資産負債最適配分概念 に基づいて計算することが可能である ことが数値例で示されている。

後半は著者の実務的提言が盛り込まれている部分である。第5章 保険の 定義のあり方 ,第6章 責任準備金のあり方 および第7章 契約条件変 更に係る規制のあり方 からなっている。第5章では, 今後 保険は,保 険契約,保険業,保険者または保険会社を意味する と解するのが適切 (96頁)であるという。第5章が7頁であるのに対し,第6章は88頁にわた る章である。現行法である1995年保険業法ばかりでなく,1900年および1939 年保険業法の責任準備金規制を詳述し,そこに内在する問題点を明らかにし ている。さらにニューヨーク州法およびカナダにおける責任準備金規制につ いても紹介されている。以上の責任準備金規制の検討を踏まえ,本書は,望 ましい保険料積立金規制として, 2パラメータ・アプローチによって最適 な個々の資産と負債の配分比を決定し,その上で,すべての分散可能リスク を対象とする確率論的シナリオ法において計算をおこなう (181頁)方法を 保険実務に対して推奨する。第7章では, 洗練を装った団体優先説 批判 の対象として 契約条件の遡及変更に係る規制 を取り上げている。この規 制は 本来的な保険契約者等の保護を等閑視 して導入されているため,

保険会社のソルベンシーを確保する ことによって,規制を廃止すべきで あると主張する。

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2. 本書は,伝統的な保険の考え方にリターンとリスクにもとづくファイナ ンスの考え方を取り入れようとした点で評価されるべきであろう。また危険 団体概念にもとづく伝統的な保険にもとづいた責任準備金規制を批判し,

資産負債最適配分概念 を規制に導入するよう提言していることも,著者 の実務的な問題意識の高さと勇気を証明するものである。著者によれば,本 書は,新しい 保険論 ではなく, 新しい保険 論であるという。著者の 考える 伝統的な保険論 に対して,新しい概念にもとづく保険の引受けの あり方を提示しているという意味において,本書の書名に偽りはない。

評者は,著者の保険研究に対する志の高さに対して大いに敬意を表するも のである。しかし本書の主張や記述に対して疑問がなかったわけではない。

紙面の関係もあるので,本書の中心概念である 資産負債最適配分概念 の 孕む問題点について三点に絞って指摘するにとどめる。

第一に,最適なリスクとリターンをしめす配分を求めるために資産と負債 を合算することの妥当性をめぐる問題である。一般に保険会社の資産の大半 は市場性のある金融資産によって構成されており,過去の金融市場の実際の データから期待収益率とボラティリティが導き出される。これに対して,保 険負債は,通常,二次市場がなく,実際に市場で観察されるデータによって 決まるものではない。保険料率を損失の期待値に等しく設定すれば,負債の 期待収益率 は0である。しかし保険料率を計算する過程で一定のマージ ンが乗せられるので,マージンに由来する 期待収益率 が生じる。よって 著者の述べるように保険資産と保険負債はともに期待収益率とボラティリテ ィを持つと考えることが出来るが,前者が実際に観察される市場データに基 づくものであるのに対して,後者は人為的な料率計算の過程を通じて決定さ れるものである。人為的に決定されるマージンによって配分比率が決まって くるような概念から 最適 を導くことができるのだろうか。また本書で正 しく指摘されているように 2パラメータ・アプローチ は, 個々のリス クが正規分布する前提のもとで,複数のリスクの相関係数が1でない (68 頁)という前提によって成立するものであるが,保険負債のリスクにも資産

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と同じ前提が成り立つのだろうか。

第二に,本書において 資産負債最適配分概念 と保険ALMが矛盾なく 併用できると想定されていることに対する疑問である。保険ALMは,資産 と負債の変動の相関に着目し,両者の差額である資本(経済資本)を節約し,

その結果,破綻確率を小さくする管理手法であるといえる。 資産負債最適 配分概念 では,資産と負債を合算して最適配分比率を求めるため,資産と 負債の変動の相関関係が無視される。そのため 資産負債最適配分概念 を,

保険ALMと矛盾なく併用することは難しいのではなかろうか。

最後に,保険負債の配分比率を変更することは,一般的に流動性の大きい 金融資産からなる保険資産に対して困難であるばかりか,その変更にあたっ てはリバレッジについて考慮する必要があるという問題をめぐる疑問である。

著者は, 負債の適切な配分を実現することは,保険募集の関係で難しい

(88頁)が,社債などの通常の負債を増減すればよいと答えている。このよ うな考え方は,株主のいない相互会社では実現可能かもしれない。しかしな がら,保険株式会社を想定した場合,社債の発行によってレバリッジが変わ る。その結果負債のエージェンシーコストが変化する。ところが,本書では,

この点が考慮されていない。したがって,仮に 資産負債最適配分概念 が 計算可能であるとしても相互会社以外の企業形態に対して普遍的に適用でき るのかという疑問が生じる。

3. 以上,本書の中心的概念である 資産負債最適配分概念 のもつ重要な 問題点に焦点を絞って指摘させていただいた。最後に,著者が 資産負債最 適配分概念 を主張するに至った背景について考察し,本書が克服すべき方 向性を検討して書評者の責任を果たしたい。著者が 資産負債最適配分概 念 を着想する前提に, 生命保険の商品性 と 相互会社形態 があった ものと想像できる。生命保険における代表的な商品である養老保険商品は,

図に示したように保険料積立金が増大するにつれて死亡保障が減少し,満期 を迎えた時に保険料積立金が満期保険金となるというものである。このよう

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な商品を中心にリスクの最適化を考える場合,死亡保障(保険負債)と保険 料積立金(資産が手当する部分)を合算して考えるという着想が導かれやす いのではなかろうか。

この着想は,商品に内在するリスクから必要十分な責任準備金を算出する ことができるようにみえるが資本の役割が導かれることはない。つまりこの 着想は,保険負債あるいは保険商品自体に資本の機能がビルトインされてい る相互会社形態を前提にしているように思われる。しかるに, 資産負債最 適配分概念 が,保険会社のリスク管理や健全性規制の 基礎理論 となる ためには,損害保険や保険株式会社でも汎用的に利用できることが要請され る。 資産負債最適配分概念 をモデル化し,かつ汎用性について克服する ことが出来た時に,はじめて新しい保険の基礎理論として受け入れられる可 能性が出てくるのではないだろうか。

ソルベンシーⅡなどの財務健全性規制などが検討されている現在において 本書の提案は誠にユニークなものである。しかし上記のような諸課題があり,

これらを克服することは簡単ではないものと思われる。著者の今後の深い考 察により 新しい保険 の基礎理論が展開されることが待たれる。

(評者:一橋大学教授 米山高生)

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