テーパー型定着体を有するあと施工アンカーの耐力に関する摩擦力の影響
東日本旅客鉄道㈱ JR東日本研究開発センター 正会員 ○平林 雅也 東日本旅客鉄道㈱ JR東日本研究開発センター フェロー会員 小林 薫
1.はじめに
あと施工アンカー工法は,コンクリート構造物の補強工事や付帯設備の 取り付けなどで多く用いられている.接着系あと施工アンカー工法は,母 材となるコンクリートに削孔を行い,アンカー筋周辺に充填したモルタル 等が固結することで,アンカー筋の引抜き耐力が発揮される.
アンカー筋の引抜き耐力を発揮させるためには,適切な施工管理が必要 で,管理状況の不備により所定の耐力が発揮できず,アンカー筋周辺全体 が引抜けてしまう場合もあり,工法の信頼性を低下させる要因となりうる.
そこで,あと施工アンカー工法の高耐力化を図り,かつ信頼性を確かな ものとする方法として,図-1 に示すくさび形状のテーパーを有する先端定 着体をアンカー筋先端部に配置する構造1)を考えた.アンカー筋と充填モ ルタルとの付着を無くすることで,アンカー筋に作用する引張力がテーパ ー型先端定着体に直接作用することで,定着体のテーパー部分からの支 圧力を孔壁部に与えることができる.このようにアンカー筋の引張力を 充填モルタル部への支圧力に変換することで,充填モルタルや母材コン クリート強度を有効活用することができ,同時に孔壁部との摩擦力も利 用可能で,低強度コンクリートや孔壁面の状況に作用されずに,安定し たアンカー筋耐力が発揮されると考えられる.
ここでは,テーパー型定着体と充填材の間に発生する摩擦 力の影響を確認にするために,載荷実験と解析を比較検討し たので,その内容を報告する.
2.載荷実験概要と解析モデル
載荷実験は図-2 に示すテーパー型先端定着体を有するア ンカーを,600mm×600mm×600mm の表-1 に示す配合のコンク リートブロックの中心にφ36mm の削孔を行い,図-3 および 表-2 に示すような配置を行った上でテーパーの広い面(底 部)から狭い面(首部)に向けて押し込みを行った.充填材 は1袋10kgのプレミックスタイプのモルタルに水1.9kgを 配合した.これは,アンカー筋の付着を切ることを前提とし ているため,アンカー筋の引張力が直接定着体に作用する機 構となっているからであり,アンカー筋を引っ張ることと定 着体底部を押し込むことは等価となるためである.
定着体の耐力は定着体と充填材の間に発生する支圧力と 摩擦力の合力によるものと考えらえるため,摩擦力の影響を
確認するために FEM 解析による検討を行った.解析モデルは図-5 に示す試験体と同じ寸法で 1/4 対称モデル キーワード 先端定着式アンカー,モルタル,くさび
連絡先 〒331-8513 埼玉県さいたま市北区日進町 2-479 JR 東日本研究開発センターフロンティアサービス研究所 TEL048-651-2552 図-1 テーパー型先端定着体 を有するあと施工アンカー
母材コンクリート
充填材 テーパーを有する
アンカー体
【孔壁面】
支圧力+摩擦
⇒母材強度を 有効利用
引抜き力
アンカー筋
(周面付着なし)
水 セメント 細骨材 粗骨材
24 50 170 340 896 960 13.5 3.4 W/C
(%)
単位重量(kg/m3) スランプ
(cm)
空気量
(%)
設計強度
(N/mm2)
表-1 コンクリート配合
図-2 テーパー型先端定着体
図-3 試験体概要
コンクリートブロック
(600x600x600mm)
充填 モルタル
押し込み D=26mm
H=1, 1.5, 2D
φ=36mm
d=20mm
θ L=100mm
アンカー筋周面の 摩擦を除く
(グリース塗布)
土木学会第68回年次学術講演会(平成25年9月)
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とし,材料特性は表-3 に示 す通りとして,弾塑性体は 塑性後に水平となるバイリ ニアの応力-ひずみ曲線と している.アンカー,治具,
周囲を拘束するスパイラル 筋 は 鋼 材 で , 弾 性 係 数 210000N/mm2の弾性体とした.
このモデルの定着体を底部
から首部へ押し込む方向へ強制変位を与えた.
3.解析結果
一例として D/H=1/2.0 の実験および解析における,
アンカーの底部の鉛直反力と鉛直変位の関係を図-6 に 示す.テーパー面の摩擦係数がμ=0 のときは,実験結 果に対して低い反力を示した.D/H=1/1.0, 1/1.5, 1/2.0 に対しμ=0.20, 0.17, 0.23を設定することで,実験と解 析の荷重-変位の関係が概ね一致することがわかった.
これらより,摩擦係数μをパラメータとした解析モデル の適用性を確認できた.定着体からモルタルに支圧力と 摩擦力が生じていることを確認するため,最小主応力の ベクトルを図-7 に示す.最小主応力はテーパー面の法
線に対して傾斜しており,支圧力と摩擦力に対する反力のベクトルの合力と考えられる.テーパー角θのみを パラメータとした解析結果を図-8 に示す.この結果より D/H=1/2.0 が最大となり,D/H=1/1.0 に対する
D/H=1/2.0 の反力は最大 1.3 倍となった.そのため,底部と首部の径が決まっている場合,テーパー高さ H
を長くし,テーパー角θを小さくすることで高い耐荷力となることが分かった.
4.まとめ
・摩擦を考慮した解析で定着体耐力への摩擦力の影響を確認した.
・テーパー角θを小さいほど高い耐荷力となることが分かった.
参考文献
1) 鈴木雄大,小林薫:先端にテーパーを有する先端定着式あと施工 アンカーに関する基礎検討,土木学会第67 回年次学術講演会,Ⅴ -447,pp.893-894,2012.9
:モルタル降伏応力
:コンクリート降伏応力
定着体 モルタル 母材コンクリート テーパー面の
法線
支圧力に対する反力ベクトル
摩擦力に対する反力ベクトル
表-2 強度確認試験体
充填モルタル 底部径D
(mm)
首部径d (mm)
高さH (mm)
角度θ (°)
寸法 (mm)
強度 (N/mm2)
強度 (N/mm2)
1/1.0 26 6.5 31.0 68.8
1/1.5 39 4.4 30.9 86.6
1/2.0 52 3.3 28.6 128.2
試験体No.
テーパー形状
試験項目
コンクリートブロック
最大荷重 (kN) 穿孔径φ
(mm)
定着長 (mm)
26 20 押込試験 □600 65.7 36 100
表-3 解析条件
テーパー面 充填材境界
アンカー筋
充填材境界 材質 材料特性 弾性係数 (N/mm2)
降伏応力
(N/mm2) 材質 材料特性 弾性係数 (N/mm2)
降伏応力 (N/mm2)
1 D/H=1/1.0 0.00 31.0
2 D/H=1/1.5 0.00 30.9
3 D/H=1/2.0 0.00 28.6
4 D/H=1/1.0,μ=0.20 5 D/H=1/1.5,μ=0.20 6 D/H=1/2.0,μ=0.20 モデル
No.
充填材 モデル名称
母材コンクリート
0.00
~ 1.00
25000 65.7 コンクリート 静止摩擦係数μ
弾塑性体 25000 モルタル 弾塑性体
モルタル
0.20 0.00 弾塑性体 25000 60.0 コンクリート 弾塑性体 25000 30.0
図-8 反力-変位(テーパー角θのみ変化)
0 50 100
0 2 4 6 8 10
荷重(kN)
変位(mm)
D/H=1.0, μ=0.20 D/H=1.5, μ=0.20 D/H=2.0, μ=0.20
図-6 反力-変位(D/H=1/2.0)
0 50 100 150
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
荷重(kN)
変位(mm)
D/H=1/2.0
実験 μ=0.00 μ=0.23
図-5 解析モデル
強制変位
治具 テーパー型
定着体
アンカー筋
スパイラル筋 充填材
母材コンクリート
図-7 モルタル内の最小主応力ベクトル分布 土木学会第68回年次学術講演会(平成25年9月)
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