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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

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Academic year: 2022

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(1)博士(文学)学位請求論文審査報告要旨 論文提出者氏名. 廣瀬 直記. 論 文 題 目. 六朝道教上清派再考――陶弘景を中心に. 審査要旨. 廣 瀬 直 記氏 (以下 「論 者」と称す ) の学位請 求 論文は、六 朝道教 にお け る 道士陶 弘景 (456-536)と、彼が深く関与した道教経典群である上清経の関係を問い直し、従来の、所謂「上 清派」という排他的な流派を立てて陶弘景をその中心人物と見ることを前提に議論してきた道教 学の視点に対して深刻な疑問を提起するものである。 中国道教の歴史において、六朝時代は霊宝経と上清経という二大経典群が確立し、道教が最 初の完成を迎えた時期である。本論文で検討対象となる上清経は、道教徒にとって修行過程の 最後に伝授されるべき最高経典としての格付をもつ経典群であり、道教思想史の探究において その研究が基礎中の基礎であることは言を俟たない。ところで、従来の六朝道教研究では上清 経を奉じる人々を「上清派」と呼び、陶弘景はその中心的人物として重要な研究対象とされてき た。しかし、本論文は、従来の議論では捨象されていた陶弘景と上清経との関係における揺らぎ を示す種々の事実を指摘することで、所謂「上清派」の中心人物という陶弘景のアイデンティティ を解体し、さらに上清経展開史における陶弘景の立場の特殊性を際立たせることで、この伝統に おける彼の位置づけを周縁化する。これによって、これまで道教史を記述する際の起点になるよ うな視点に、訂正を促すのが本論文の主旨といえるであろう。 このような論を構築する第一歩として、論者は第一部の冒頭において、陶弘景が弟子に天師 道の資格証明とでもいうべき仙靈籙を授けている事実を指摘することによって、陶弘景が天師道 の道士としての資格を有していたことを明かにする。信頼できる資料によって疑問の余地無く把 握できる陶弘景の道士としての身分が、とりあえず上清経に関連づけられるものではなく、天師 道に立脚するものであるという事実の指摘は、従来の陶弘景像の根幹に疑問を生じさせるに足 る。 第一部でなされた、陶弘景の立場についての問題提起を受け、第二部では問題の多い陶弘 景の著作とされる文献について、それらが実際に陶弘景の作であるかどうかが検討される。『紫 文行事訣』の注釈者が陶弘景であること、『上清握中訣』が『登真隠訣』の再編本であること、『上 清明堂元真経訣』がその佚文であることが示される一方、従来陶弘景の作と信じられる傾向の強 かった『真霊位業図』はむしろ陶弘景の作とは認め難いことを指摘。陶弘景の実像を見定める上 での基礎資料を決定する議論といえる。 第三部では、論者は、陶弘景が六朝期の上清経を奉じる人々のなかにあって、必ずしも主流 的な立場にあったわけではないことを明かにする。まず、陶弘景には彼なりの上清経の真偽を見 分ける視点があることを明かした上で、陶弘景が偽書であるとした経典の多くが、その後、れっき とした上清経として認められ世に伝えられている状況が指摘される。もちろん、従来から、王霊期 が霊宝経を模して作った上清経典が、陶弘景の意に反して、正統な上清経として伝えられている ことは先学によって指摘されてきた。しかし本論文では、六朝末期には正統な上清経と認められ ていた諸経典を具体的にとりあげながら、陶弘景が偽作とした経典がむしろ正統的経典としての 地位を占めている状況を指摘する(『紫度炎光経』の場合)。あるいは、陶弘景が正統とみなした 経典が、陶弘景の水準からすると受け入れられないはずの改編を経て、いわば偽経化されて伝 えられていくさまが追跡される(『九真中経』の場合)。.

(2) 氏名 廣瀬 直記. これらの考察において、論者は陶弘景による真偽判断と、現在『道蔵』によって知られる上清 経の内容をどうやって照らし会わせ、陶弘景によってそれらの経典がかつて真とされたのか、偽と されたのかを推論してゆく方法を開拓してゆく。この方法を発見し実践してゆく点にも、本論文の 独創性があるといえよう。その考証は時に錯綜を極めるが、先学の議論も丁寧に参照し、総じて 妥当な結論へと導かれているように思われる。第三部第三章で、論者はフランスの道教研究者で ある故・イザベル・ロビネによる上清経の真偽に関する論評を批判的に検討する。ここでは、ロビ ネの研究を土台にしながらも、論者による独自の上清経発展史が示されている。このように、個別 の経典の様相に分け入って、上清経群全体の展開の位相を示した研究は、ロビネ以来、類を見 ないものでありすぐれた研究といえる。 かくて、論者は陶弘景を、上清経を伝える人々の中心からずらし、かりに「上清派」というものが 存在するなら陶弘景は決してその主流たり得ないことを論証するのである。 その一方で論者がとりくむのは、所謂「上清派」というアイデンティティそのものが解体してしまう ような状況の指摘である。順序は前後するが、第一部第三章で論者は、上清経を用いる六朝期 の儀礼書である太真齋にはじめて正面から光を当て、この儀礼の執行者の地位が、天師道や三 洞法師といった様々の立場をもつ者ともたない者の両方に開かれている事実を明かにし た。これによって、六朝末の上清経儀礼は、およそあらゆる道士たちが乗り入れ可能な状 況を呈していることが示されるのである。 以上のように、論者は従来「上清派」といわれてきたものの中核にあった陶弘景のアイ デンティティを問い直し、陶弘景が認めたものとは異なる正統性に依存して展開する上清 経の歴史を詳細に掘り起こし、さらに上清経の儀礼実践のありようが、排他的な上清派と いう様式を裏切るものであることを指摘することで、所謂「上清派」という観念の有効性 に疑問を突きつけたといえる。この指摘は、いわゆる「上清派」のみならず、「霊宝派」 という想定や、「天師道」のありかたについても同時に問い直しを要求するものであり、 流派の区別に基づいて六朝道教をとらえようとする従来の傾向全体に疑問を投げかける ことになる。 排他的な流派を前提する従来の道教学の視点を否定した後、それに代わる新しい見方をど のように提示するかは、著者にとって今後の課題といえよう。しかし、この論文の中では、これまで の道教研究史の中枢を支えてきた観点の弱点と限界を、独創的で客観的、かつ広汎な資料分 析によって多局面から指摘しており、その意義は極めて重要だといえる。また、著者は、日本語 による研究以外に、中国語、英語、フランス語の研究を網羅的かつ丁寧に参照し、国際的な道 教研究の文脈の中でこの問題を有効に位置づけている。博士学位を授与するにふさわしい論文 であるといえる。. 公開審査会開催日. 審査委員資格. 2017 年 4 月 3 日 所属機関名称・資格. 氏名. 博士学位名称. 主任審査委員. 早稲田大学文学学術院・教授. 森. 審査委員. 早稲田大学文学学術院・教授. 土田 健次郎. 中国哲学、日本哲学、儒教思想. 博士(文学)早稲田大学. 審査委員. 早稲田大学文学学術院・教授. 渡邉 義浩. 中国哲学史、儒教史. 文学博士(筑波大学). 審査委員 審査委員. 由利亜. 専門分野 中国哲学 道教思想.

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参照

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