• 検索結果がありません。

学位論文 Experimental Particle Physicsyushu University

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2018

シェア "学位論文 Experimental Particle Physicsyushu University"

Copied!
70
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

国際リニアコライダー計画における

ハイブリッド電磁カロリメータの

構造最適化に向けた研究

九州大学

大学院理学府 物理学専攻

素粒子実験研究室

上野 翔

2SC12013G

指導教員

川越 清以

(2)

概要

 国際リニアコライダー計画は電子陽電子衝突型線形加速器実験であ り、ヒッグス粒子の精密測定などに大きな期待が寄せられている。この ような興味のあるプロセスには終状態にハドロンジェットを含むものが多 く、従って検出器には高いジェットエネルギー分解能が求められる。これ を可能にするべくILCではParticle Flow Algorithm(PFA)と呼ばれる解

析手法が導入され、高精細なカロリメータを必要とする。ILD検出器で

は電磁カロリメータの検出層候補としてピクセル型シリコン半導体検出

器とストリップ型シンチレータにMPPCを用いた検出器の2つがあり、

シリコンの場合はピクセル状でPFAに適しているがコストが高く、一方

シンチレータの場合はシリコンの場合と比べて比較的安価であるが、ス

トリップ状なのでPFAの性能としてはシリコンに劣る。

(3)

目 次

第1章 はじめに 7

第2章 国際リニアコライダーとILD測定器 8

2.1 国際リニアコライダー計画 . . . 8

2.2 ILC加速器. . . 10

2.2.1 電子源 . . . 10

2.2.2 陽電子源 . . . 12

2.2.3 ダンピングリング . . . 12

2.2.4 主線形加速器 . . . 12

2.2.5 最終収束システム . . . 13

2.3 ILD測定器 . . . 14

2.3.1 崩壊点検出器(VTX) . . . 15

2.3.2 飛跡検出器(TPC) . . . 16

2.3.3 カロリメータ . . . 17

2.3.4 ソレノイドコイル . . . 17

2.3.5 ミューオン検出器 . . . 18

2.3.6 その他の検出器 . . . 18

第3章 カロリメータ 20 3.1 荷電粒子と物質の相互作用 . . . 20

3.1.1 電離損失 . . . 20

3.1.2 制動放射 . . . 21

3.2 光子と物質との相互作用 . . . 22

3.3 カスケードシャワー . . . 23

3.3.1 電磁シャワー . . . 23

3.3.2 ハドロンシャワー . . . 25

3.4 カロリメータの役割と構造 . . . 26

(4)

3.5.2 ScECAL . . . 28

3.5.3 Hybrid ECAL . . . 29

第4章 測定器シミュレーションとPFA 32 4.1 ILCSoftを用いた測定器シミュレーション . . . 32

4.1.1 Mokka . . . 33

4.1.2 Marlin . . . 33

4.2 カロリメータの再構成とPFA . . . 35

4.2.1 カロリメータのDigitization . . . 35

4.2.2 PandoraPFA . . . 37

第5章 ハイブリッド電磁カロリメータの性能評価 44 5.1 キャリブレーション . . . 44

5.2 性能評価方法 . . . 49

5.3 検出層の構造比較 . . . 51

5.4 吸収層の構造比較 . . . 56

第6章 モンテカルロ情報を用いた性能の理解 61 6.1 Hybrid[Si16+Sc14] . . . 61

6.2 他のECALとの比較 . . . 62

(5)

表 目 次

4.1 カロリメータのみの従来の手法とPFAの場合でのジェット

エネルギーの測定割合比較 . . . 40

5.1 検出層のみ変更する場合の構造 . . . 52

5.2 ECALの厚さを保つ場合の構造 . . . 53

5.3 交互構造にする場合の電磁カロリメータの構造. . . 55

5.4 交互構造と前後構造の性能比較 . . . 56

5.5 全ての吸収層の厚みを均一にした場合の構造 . . . 57

5.6 吸収層の厚みを内側:外側=1:2にした場合の構造 . . . . 57

(6)

図 目 次

2.1 標準理論の構成粒子と発見のあゆみ[4] . . . 9

2.2 ジェットのイメージ図 . . . 10

2.3 ILCの概観図 . . . 11

2.4 ILCの電子源 . . . 11

2.5 ILCの陽電子源 . . . 12

2.6 ILCの超伝導加速空洞 . . . 13

2.7 ILCのビーム構造 . . . 13

2.8 ILDの2つの測定器 . . . 14

2.9 ILD測定器の側面図 . . . 15

2.10 VTXの外観 . . . 16

2.11 TPCの外観 . . . 19

2.12 カロリメータの外観 . . . 19

3.1 電離損失 . . . 21

3.2 鉛中での光子の吸収係数 . . . 24

3.3 カスケードシャワーのイメージ図 . . . 25

3.4 ECALの吸収層候補の比較 . . . 28

3.5 シリコン半導体検出器 . . . 29

3.6 ILC測定器における各検出器のコスト. . . 30

3.7 プラスチックシンチレータ . . . 31

3.8 Hybrid ECALの検出層の構造例 . . . 31

4.1 ILCSoftを用いたシミュレーションの流れ . . . 32

4.2 Mokkaのイベントディスプレイ➀ . . . . 34

4.3 Mokkaのイベントディスプレイ➁ . . . . 35

4.4 SSAのイメージ図. . . 37

4.5 SSA使用時と未使用時の比較 . . . 38

(7)

4.8 各検出器の運動量分解能 . . . 41

4.9 PFAのイメージ図 . . . 42

4.10 従来の手法とPFAでのジェットエネルギー分解能比較. . . 43

5.1 キャリブレーション後の10GeV光子のエネルギー分布 . . 45

5.2 光子に対するエネルギー分解能 . . . 46

5.3 光子に対する線形性 . . . 47

5.4 µ粒子を用いたMIPキャリブレーション . . . 48

5.5 ジェットエネルギー分解能の天頂角依存性 . . . 49

5.6 2ジェットから再構成されたエネルギー. . . 50

5.7 検出層の配置図 . . . 51

5.8 検出層のみ変更した場合のジェットエネルギー分解能 . . . 53

5.9 ECALの厚さを保つ場合のジェットエネルギー分解能 . . . 54

5.10 交互構造における研出層の配置図 . . . 54

5.11 交互構造と前後構造の性能比較 . . . 55

5.12 各層均一の場合のジェットエネルギー分解能 . . . 58

5.13 内外比が1:2の場合のジェットエネルギー分解能 . . . 59

5.14 各層均一の場合の光子に対するエネルギー分解能 . . . 59

5.15 各層均一の場合のハドロンカロリメータへの電磁シャワー の漏れの平均値 . . . 60

6.1 Hybrid ECALのジェットエネルギー分解能内訳 . . . 62

6.2 Hybrid ECALにおける光子の識別ミスの寄与 . . . 63

6.3 5mm×5mmのセル状シンチレータを用いたHybrid ECAL とSiECALのジェットエネルギー分解能内訳 . . . 64

(8)

1

章 はじめに

本研究は国際リニアコライダー計画における測定器の1つ、ILD測定

器の一部である電磁カロリメータについての研究であり、検出層の候補 であるシリコン層とシンチレータ層を併用することでパフォーマンスを 維持しつつコスト削減を行う事が目的である。

 今回の研究ではハイブリッド電磁カロリメータの性能評価を行う事が できるよう再構成ソフトの一部に改善を施し、またシミュレーションの 情報を用いて性能を理解するため、新たなプロセッサを開発した。また 様々な構造のハイブリッド電磁カロリメータについて性能評価を行い、シ ミュレーション情報を用いて性能について調べた。

(9)

2

章 国際リニアコライダーと

ILD

測定器

2012年7月4日、欧州原子核研究共同機構(CERN)のLarge Hadron

Collider(LHC)加速器におけるATLAS実験及びCMS実験にてヒッグ

ス粒子と思われる粒子が発見されたと発表され[1][2]、更に2013年3月

14日にCERNはこの粒子がヒッグス粒子であると発表した[3]。このヒッ

グス粒子は標準理論で予言される粒子の中で唯一未発見であった。  標準理論は4つの相互作用のうち電磁気力、強い力、弱い力の3つを

記述する理論である。図2.1に示すように、構成粒子は物質を構成する粒

子であるフェルミオンと力を媒介するゲージボソン、素粒子に質量を与 えるヒッグス粒子に分けられる。フェルミオンは各6種類のクォークとレ プトンから構成され、どちらも3つの世代に分類される。また、ゲージ ボソンは電磁気力を媒介する光子、弱い力を媒介する3種類のウィーク ボソン、強い力を媒介するグルーオンに分けられる。ヒッグス粒子の発 見によって、標準理論における全ての素粒子が発見されたことになる。

しかし、この理論には重力が含まれていない事や、実験的に確認され

たニュートリノ質量が0とされている事などいくつもの問題を抱えてお

り、その解明に向けてより高いエネルギー領域での加速器実験が期待さ れている。

2.1

国際リニアコライダー計画

国際リニアコライダー(ILC)は2020年代に実験開始が予定されている

全長30kmを越える電子陽電子衝突型線形加速器であり、重心系エネル

ギー250ギガ電子ボルト(GeV)から1テラ電子ボルト(TeV)での実験

が予定されている。LHCは陽子陽子衝突型の円形加速器であり高いエネ

ルギー領域での実験が可能であるが、素粒子でない陽子同士を衝突させ

(10)

図 2.1: 標準理論の構成粒子と発見のあゆみ[4]

子陽電子衝突型の線形加速器でありエネルギーの高さではLHCに劣るも

のの、素粒子である電子と陽電子を用いて対消滅を起こさせるため全エ ネルギーが反応に用いられ、背景事象の少ないクリーンな環境で解析を 行う事ができる。そのためヒッグス粒子やトップクォークの精密測定、未 知粒子の探索などに大きな期待が寄せられている。

 電子陽電子衝突型の加速器実験としては、1989年から2000年にかけて

行われたCERNでのLEP(Large Electron-Positron collider)実験がある

[5]。このLEPは円形加速器として最高重心系エネルギー209GeVでの運

転によりヒッグス粒子の探索等に活躍したが、円形の加速器で更に高い エネルギーを実現することは難しいため、線形加速器での実験が計画さ れている。ILCは2013年6月12日に技術設計書であるTDR(Technical

Design Report)[6]が出版され、実現にむけて更なる研究開発および準備

が進められている。

ILCではヒッグス粒子やトップクォークの精密測定、未知粒子の探索な

ど様々な物理の検証に期待が寄せられている。これら興味のある物理プロ

セスには終状態に図2.2に示すようなハドロンジェットと呼ばれるクォー

(11)

図 2.2: ジェットのイメージ図。測定器の右側を示しており、クォークま たはグルーオンからなる多数の粒子の束が放出される様子が描か れている。

ILCではこのジェットのエネルギー分解能を飛躍的に向上させるため、

Particle Flow Algorithm(PFA)と呼ばれる解析手法を用いる。またILC

の測定器はPFAに最適化される形で研究開発が行われている。

2.2

ILC

加速器

ILCの加速器は図 2.3のように電子を加速する部分と陽電子を加速す

る部分に分かれており、主に電子源、陽電子源、ダンピングリング、主線 形加速器から構成される。

2.2.1

電子源

電子源ではガリウム砒素(GaAs)等の標的に偏極レーザーを当てて光

(12)

図 2.3: ILCの概観図

後、図2.4に示すように前段加速器を通り5GeVまで加速された後、ダン

ピングリングへと送られる。

図 2.4: 電子源。右端の標的で生成された電子は前段加速器で5GeVまで

(13)

2.2.2

陽電子源

陽電子源については現在undulator法と呼ばれる方法が採用される予

定である。これは主線形加速器で数百GeVに加速された電子を磁石で螺

旋状に蛇行させて制動放射を起こさせ、放出された数十MeVの光子をチ

タン標的に当てて対生成を起こし、陽電子を回収するという方法である。

回収された陽電子も5GeVまで加速された後、ダンピングリングへと運

ばれる。

図 2.5: 陽電子源。左側にあるundlatorで電子を螺旋状に曲げ、得られた

光子をチタン標的に衝突させて陽電子を生成する。

2.2.3

ダンピングリング

ダンピングリングの目的はビームをダンプ(減衰)させる事でビーム の広がりを抑え、ビームを衝突させる時により反応が起きやすくする事

である。ダンピングリングで収束されたビームは取り出され、5GeVから

15GeVまで加速されながら主線形加速器へと運ばれる。

2.2.4

主線形加速器

主線形加速器では超伝導加速空洞を用いる事により、31.5MV/m以上

という電場勾配で目標となるエネルギーまで電子及び陽電子を加速する。

図2.6は超伝導加速空洞のユニットの1つであり、重心系500GeVでの運

転の場合電子陽電子それぞれの線形加速器にこのユニットを約7400個ず

(14)

図 2.6: 超伝導加速空洞のユニットの1つ。

2.2.5

最終収束システム

主線形加速器によってほぼ光速まで加速されたビームは、最終収束シ

ステム(Final Focus System)で収束させられて衝突点へ送られる。こ

こでは4極磁石と6極磁石を用いてビームを収束させる。最終的にビー ムは衝突点で474nm×5.9nm×300µmのサイズまで絞られる。このビーム

は2×1010個の電子(陽電子)を含むバンチが

0.73msの間に1312個並

び、トレインと呼ばれるそのバンチの塊が200msごとに並ぶ構造になる

(図2.7)。

(15)

2.3

ILD

測定器

電子ビームと陽電子ビームの衝突点にはILDとSiD、2つの測定器が

設置される予定である(図 2.8)。どちらも電子ビームと陽電子ビームの

衝突点に置かれ、プッシュプル方式と呼ばれる検出器をそのままスライ ドさせる方法で片方ずつ測定を行う予定である。本研究ではこれら2つ

の測定器のうちILD測定器について行っているため、以下にその構成を

述べる。

図 2.8: ILCの2つの測定器、SiD(左)とILD(右)

図2.9はILD測定器を側面から見た図である。主な装置としては、内側

から順に崩壊点検出器、飛跡検出器(TPC)、電磁カロリメータ(ECAL)、

(16)

図 2.9: ILD測定器の側面図

2.3.1

崩壊点検出器

(VTX)

衝突点に最も近い崩壊点検出器の目的は、B中間子やD中間子の崩壊

点を測定することでbクォークやcクォークの同定を行う事である。この

検出器には、高い位置測定精度と低いピクセル占有率、高い放射線耐性 が求められる。要求される位置分解能は、

σrφ = 5µm⊕

10GeV/c

p(GeV)βsin3/2θ µm (2.1)

である。ここで、pは粒子の運動量、βは粒子の速度、θはビーム軸から

(17)

に検出器が配置された層が3枚、もしくは15mm60mmの距離で片側に 配置された層が5枚設置されたものとなっている。検出器の候補として

はCMOSセンサーを用いたCPS、CCDセンサーを用いたFPCCD、空

乏層式電界効果トランジスタを用いたDEPFETの3種類があり、それぞ

れ研究開発が進められている。

図 2.10: VTXの外観。左が片側5層、右が両側3層の構造。

2.3.2

飛跡検出器

(TPC)

主飛跡検出器であるTime Projection Chamber(TPC)は荷電粒子の

飛跡を検出する測定器である(図 2.12)。TPCは物質量の低いアルゴン

ガスで満たされており、荷電粒子が入射するとガス中の分子が電子と陽 イオンに電離する。この電離した電子を、ビーム軸と平行に高電場をかけ ることでエンドプレートまでドリフトさせ、Micro Pattern Gas Detector

(MPGD)検出器で電子雪崩を起こさせて検出する。TPCではこの検出

位置とドリフト時間から荷電粒子の飛跡を3次元的に再構成する。その ためより多くのヒット情報があるほど正確に飛跡を再構成でき、外径が

大きく、測定点が多いほど運動量分解能が良くなる。ILCで要求される運

動量分解能は、3.5Tの磁場においてδ(1/pt)∼10−4 GeV−1であり、崩壊

点検出器なども含めての全運動量分解能ではδ(1/pt) ∼ 2×10−5 GeV−1

(18)

2.3.3

カロリメータ

カロリメータは入射した粒子のエネルギーを測定する検出器である。検 出を目的とする粒子によって2種類に分かれており、内側に電子や光子

のエネルギーを測定する電磁カロリメータ(ECAL)が、外側には陽子や

中性子、π中間子、K中間子などのハドロンのエネルギーを測定するハド

ロンカロリメータ(HCAL)が配置される。どちらのカロリメータもサン

プリングカロリメータと呼ばれる種類のものであり、シャワーを起こさ

せる吸収層とエネルギーを測定する検出層に分かれている。ECALの吸

収層はタングステン、HCALの吸収層は鉄が用いられる。また検出層に

ついてはECAL、HCALどちらについても複数の候補がある。ECALの

検出層候補としては、

• シリコン半導体検出器を用いたシリコンタングステン電磁カロリ

メータ(SiECAL)

• プラスチックシンチレータを用いたシンチレータタングステン電磁

カロリメータ(ScECAL)

HCALの検出層候補としては、

• プラスチックシンチレータを用いたAnalog HCAL(AHCAL)

• 高抵抗の板の間にガスを封入したResistive Plate Chamber(RPC)

を用いるSemi-Digital HCAL(SDHCAL)

が挙げられている。

2.3.4

ソレノイドコイル

コイルは荷電粒子の運動量を測定する為に測定器内に強い磁場をかけ る装置である。図2.9のようにコイル内にはVTX、TPC、ECAL、HCAL

があり、これらの検出器にはビーム軸と平行に3.5Tの磁場がかかる。そ

(19)

2.3.5

ミューオン検出器

µ粒子を識別するための検出器である。µ粒子は質量が重いレプトンで

あるため電磁シャワーを起こさず、また貫通力が高くカロリメータを通 り抜けてしまうため、ミューオン検出器は一番外側に設置されている。ま た、カロリメータに収まりきらなかったシャワーを測定する役割も担っ ている。

2.3.6

その他の検出器

その他の検出器として、以下のものが挙げられる。

• シリコン飛跡検出器(SIT、SET)

• ルミノシティカロリメータ(LumiCAL)

• ビームカロリメータ(BeamCAL)

シリコン飛跡検出器はSilicon Inner Tracker(SIT)とSilicon Extarnal

Tracker(SET)がある。SITはVTXとTPCの間に設置され、両者間の

検出効率を改善する。そのため横方向運動量の小さな荷電粒子の再構成精

度が改善される。SETはTPCとECALの間に設置されて運動量分解能を

改善し、またECALへの粒子の入射位置の測定に用いられる。LumiCal

はビームのルミノシティを測定する事に、BeamCalはビームをモニタし

(20)

図 2.11: TPCの外観。中央のカソード側から両端のエンドプレートに向 けて電子がドリフトされる

図 2.12: カロリメータの外観。左が電磁カロリメータ(ECAL)、右がハ

ドロンカロリメータ(HCAL)。ハドロンカロリメータは電磁カ

(21)

3

章 カロリメータ

この章ではカロリメータ内で起こる相互作用とカロリメータの役割及

び構造、ILDの電磁カロリメータについて述べる。

3.1

荷電粒子と物質の相互作用

3.1.1

電離損失

荷電粒子は、物質中を通過する際にその原子核や電子と衝突し励起、電

離させながらエネルギーを失っていく。荷電粒子がdx進んだ時に失うエ

ネルギーは、Bethe-Blochの式より

−dEdx = 4πNAre2mec2z2

Z A 1 β2 [ 1 2ln

2mec2β2γ2Tmax

I2 −β

2

− δ2

]

(3.1)

と表される。ここで、NAはアボガドロ数、reとmeはそれぞれ電子の古

典半径と質量、cは光速度、zは1.6×10−19

Cを単位とした入射粒子の電

荷、ZとAは物質の原子番号と質量数、β =v/c(vは入射粒子の速度)、

γ = 1/√1β2、Iは有効電離ポテンシャル、δは物質を構成する原子内

の電子による電場の遮蔽効果を表したパラメータである。式3.1は入射粒

子の質量に依らず、その速度v=βcに依存する関数である。またこの式を

βの関数としてみるとdE/dxはβ= 0.95付近で最小となり、これ以上β

が増加してもエネルギー損失は僅かに増加するのみでほぼ一定の値をと る(図3.1)。このような粒子をMinimum Ionizing Particle(MIP)と呼

ぶ。なお、このBethe -Blochの式は入射粒子の速度vが原子の軌道電子

の持つ速度と比較して大きい場合のみ成り立つ式であり、同程度もしく

は小さくなった時には成立しない。また図 3.1にはµ粒子や陽子など電

(22)

図 3.1: 電離損失。β = 0.95(βγ = 0.3)付近で最小となり、それ以上の エネルギーでは物質中でほぼ一定のエネルギーを失う。

3.1.2

制動放射

入射粒子が高いエネルギーを持っていると、粒子は原子核の周りのクー ロン場によって減速され、光子を放出してエネルギーを失う。この現象

を制動放射(Bremsstrahlung)と呼ぶ。この制動放射により光子を放出

する確率は入射粒子の質量の2乗に反比例するため電子のような質量の 小さい粒子、特に高エネルギーの電子が物質中を通過する場合にはエネ

(23)

する際の平均的なエネルギー損失は以下の式で表される。

−dEdx = 4αN0

Z2

2

eEln

(

183

Z1/3

)

(3.2)

       = E

X0

(3.3)

ここでαは微細構造定数(1/137)、X0は放射長(Radiation Length)

と呼ばれ、制動放射によって電子のエネルギーが初期エネルギーの1/eに

なる平均の長さを表したものであり、次の式で表される。

X0 = 716.4×

A

Z(Z + 1)287√Z g/cm

3

(3.4)

相対論的極限では電離損失は無視できる程小さいため、エネルギー損失 は放射長のみで表す事ができ、

dE

E =−

dx

X0

(3.5)

と書ける。従って入射エネルギーE0の電子が厚さxを通過した後に持っ

ている平均のエネルギーは

hEi=E0e

− x

X0 (3.6)

これに対し、電子の速度が遅い所では電離損失が支配的である。この電 離損失と制動放射によるエネルギー損失が等しくなるエネルギーを臨界 エネルギー(Critical Energy)と呼ぶ。電子に対するEcは近似的に以下

の式で表される。

Ec =

800

(Z+ 1.2) MeV (3.7)

3.2

光子と物質との相互作用

光子と物質中の原子との相互作用は、主に次の3つの過程である。

• 光電効果

(24)

してくる現象である。この現象は光子のエネルギーが増加すると急 激に減少するため、光子のエネルギーが電離ポテンシャルより少し

上の所で最も起こりやすく、鉛では500keV以下の領域で大きな寄

与を示す。

• コンプトン散乱

コンプトン散乱は、入射した光子と自由電子との弾性散乱である。

この過程は鉛において0.65MeVで大きな寄与を示す。

• 電子陽電子対生成

対生成は光子が原子核の近傍で消滅して電子、陽電子の対が生成さ れる過程である。この過程が起こるためには光子のエネルギーが静

止した電子と陽電子のエネルギーの和1.022MeVより大きくなけれ

ばならない。光子のエネルギーが1.022MeVより大きい場合は、超

過した分のエネルギーが電子と陽電子の運動エネルギーに転化する。

吸収係数は鉛において5MeV以上で大きな寄与を示す。

これらの吸収係数の寄与をまとめたのが図 3.2である。この図から分

かる通り、5MeV以上のエネルギー領域では対生成が支配的な過程となっ

ている。

3.3

カスケードシャワー

高エネルギーの粒子が物質中に入射すると、物質と相互作用を起こし て二次粒子を生成する。生成された粒子もまた物質と相互作用する事で 二次粒子を生成する。このような過程が続くと、粒子の生成は二次粒子 が新たな粒子を生成できるエネルギーを下回るまで続くために粒子数は 指数関数的に増大する。この雪崩的に粒子が生成される現象をカスケー ドシャワーと呼ぶ。入射粒子の違いによりカスケードシャワーは電磁シャ ワーとハドロンシャワーに分けられる。

3.3.1

電磁シャワー

(25)

図 3.2: 鉛の場合の光子のエネルギーと全吸収係数µへの寄与。5MeV以 上では対生成によるエネルギー損失が支配的である事が分かる。

ため、対生成によって電子陽電子対を作る。更に生成された電子、陽電子 が制動放射によって光子を放出する。このようにして粒子数が増加して いく現象を電磁シャワーと呼ぶ。電磁シャワーはシャワーを構成する粒

子のエネルギーがEcになったところで最大になる。Ec以下のエネルギー

では電離損失が支配的であるため電子は急速にエネルギーを失い、シャ ワーを構成する粒子数は指数関数的に減少する。電磁シャワーについて は以下の性質が知られている。

• シャワーが最大になる時の粒子数は入射粒子の初期エネルギーE0

に比例する。

• シャワーを構成する全荷電粒子の飛跡長の積分値はE0に比例する。

• シャワーが最大になる深さXmaxはE0に対して対数的に増加し、

Xmax

X0

= ln

(

E0

Ec

)

(3.8)

(26)

図 3.3: カスケードシャワーのイメージ図。入射した粒子(ここでは電子) が二次粒子を生成し、更にその粒子が二次粒子を生成する。

3.3.2

ハドロンシャワー

π±中間子や

K±中間子などのハドロンが物質中に入射した場合、物質

中の原子核との強い相互作用によってπ中間子やK中間子、陽子や中性

子などの二次粒子が生成される。電磁シャワーと同様、この粒子群も新 たな二次粒子を生成する事で粒子数が指数関数的に増大していく。この 現象をハドロンシャワーと呼ぶ。ハドロンシャワーは生成されたハドロ ンのエネルギーが小さくなり、電離損失で止まるか核反応によって吸収 されるまで続く。ハドロンシャワーは基本的には電磁シャワーと同じよう に振る舞うが、事象毎にみると平均値からの揺らぎが大きく、事象を統

一的に表す事ができない。これはπ0中間子の生成が大きく関っている。

ハドロンシャワー中でπ0中間子が生成されると、

π0中間子は

10−16秒の

(27)

3.4

カロリメータの役割と構造

電磁カロリメータは、前述の電磁シャワーを利用して入射した電磁粒 子のエネルギーを測定する検出器である。カロリメータには吸収体と検 出体の構造によって2種類ある。

 シャワーの吸収体と検出体が一体となっているものは全吸収型と呼ば れ、NaI、BGO、ScI、BaF2などの密度が一様でかつ高い無機結晶シンチ

レータから構成される。粒子がカロリメータ中で失う全エネルギーを検 出できるため、エネルギー分解能は非常に優れている。しかしコストが

高い上に高精細化することが難しいので、ILDのカロリメータとしては

向いていない。

 一方、吸収層と検出層を交互に組み合わせた積層構造のものはサンプ リングカロリメータ、またはサンドイッチカロリメータと呼ばれる。これ は吸収層に鉛や鉄などの重い金属を用いてカスケードシャワーを発生さ せ、検出層には不活性ガスやプラスチックシンチレータなどを用いる事 で通過する粒子を検出するものである。この構造では吸収層で失われた エネルギーを測定できないため、全吸収型に比べてエネルギー分解能は 劣るが高精細化が比較的容易で、また全吸収型と比べると安価である。

 エネルギーEを持った粒子がサンプリングカロリメータに入射したと

きのエネルギー分解能は、経験的に以下の式で表される。

σE

E =

σstoch √

E ⊕σconst (3.9)

ここでEは入射粒子のエネルギー(GeV)である。σstochは統計項と呼ば

れ、統計的な揺らぎによる項である。また、σconstは定数項と呼ばれ、検

出器の系統誤差による項である。また統計項には検出層を通過する粒子

数の揺らぎが含まれている。この揺らぎは吸収層中でエネルギーがEcを

(28)

3.5

ILD

の電磁カロリメータ

ILDで用いられる電磁カロリメータはサンプリングカロリメータであ

る。ジェットエネルギー分解能を上げるためには、以下の項目が重要と なる。

• 高精細であること

ジェット中の粒子を細かく分離するために重要である。ILDではPFA

に最適化するため、ECALで5mm×5mm、HCALで30mm×30mm

の高精細センサーが要求されている。これはATLAS実験の60倍と

いう超高精細さである。

• サンプリング比が大きい

先述の統計項による揺らぎが小さくなるため

• シャワーの広がりが小さい

後述するPFAの際に他の粒子のシャワーと被って識別できなくな

ることを抑える。

• シャワーの漏れが少ない

エネルギー分解能の劣るHCALで測定するエネルギーをなるべく

小さくする。

• ハドロンの相互作用長が長い

電磁シャワーとハドロンシャワーを分離するため。

吸収層にはタングステンが用いられる。これは、図 3.4に示すように

他の吸収層候補と比べた場合に以下のような利点があるためである。

• 放射長が短い

• ハドロンの相互作用長が長い

• シャワーの広がりの度合いを示すモリエール半径が小さい

(29)

図 3.4: 吸収層候補の比較[7]。λIはハドロンの相互作用長、X0は放射長、

ρM はモリエール半径を表しており、タングステン(W)が他の

候補と比べて電磁カロリメータに向いていることが分かる。

3.5.1

SiECAL

SiECALはシリコン半導体検出器を検出層に用いるものであり、図3.5

のようにセンサーは5mm×5mmのセル状になっている。この半導体検出

器ではまず粒子が入射すると検出器中の電子が電離され電子-正孔対を作

る。電場をかける事で電離された電子を電極に集め、電荷を増幅させるこ とで信号を読み出す。粒子のエネルギーによって電離される電子数が変わ

るので、エネルギーを測定することができるという原理である。SiECAL

はセンサーがピクセル状になっているためPFAに適しているが、図 3.6

に示すように他の検出器と比べてコストが高くILDの主なコスト要因と

なっている

3.5.2

ScECAL

ScECAL はプラスチックシンチレータに光検出器としてMulti-Pixel

Photon Counter(MPPC)を用いるものである。この検出器では粒子が

入射するとシンチレータ内の電子が励起され、その電子が基底状態に戻る 際にシンチレーション光を放出する。発光量は粒子のエネルギーに比例す るため、光検出器を用いることでエネルギーが測定できるという原理であ る。またMPPCはガイガーモードのAvalanche Photo Diode(APD)と

いう半導体検出器が敷き詰められている形をしている。APD内にシンチ

レーション光が入るとそのAPDが信号を出し、MPPC内のAPDの信号

をまとめて読み出す事でそのエネルギーに比例した大きさの信号が得られ

るとう仕組みである。シンチレータは図3.7の左図のように45mm×5mm

(30)

図 3.5: シリコン半導体検出器。各センサーは5mm×5mmのピクセル状 になっている。

とで、実質的に5mm×5mmのピクセルに近い粒子分離能を得る事ができ

る。ScECALはSiECALと比べ安価でコストを抑えることができるが、

ゴーストヒットによって粒子の識別精度が落ちるという問題も抱えてい

る。ゴーストヒットとは、図3.7に示すように右の図で丸印がついている

ストリップが同時に鳴った場合、左上と右下の2点を粒子が通ったのか、 右上と左下の2点を粒子が通ったのかが分からなくなる現象である。ま

たSiECALの場合と比べて検出層が厚くなってしまうため、測定器全体

の径が増加してコストの増加につながる事も問題である。

3.5.3

Hybrid ECAL

SiECALとScECALにはそれぞれメリットがあるがデメリットも抱え

(31)

図 3.6: ILD測定器において各検出器が占めるコストの割合。電磁カロリ

メータが最も大きな要因となっており、特にSiECALでは全体の

約4割を占める。[6]

究ではHybrid ECALの構造を最適化するため、シミュレーションを用い

(32)

図 3.7: プラスチックシンチレータとMPPC(左)、シンチレータの直交 配置(右)。右図において黒丸のストリップ4本が同時に鳴ると 赤の2点と青の2点のどちらを粒子が通過したか分からなくなる (ゴーストヒット)。

図 3.8: Hybrid ECALの検出層の構造例。青い層はシリコン層、緑の層

(33)

4

章 測定器シミュレーション

PFA

4.1

ILCSoft

を用いた測定器シミュレーション

ILDでは共通のシミュレーションツールとして、ILCSoft[8]と呼ばれ

るソフトウェアパッケージが用いられている。このILCSoftにはシミュ

レーションソフトであるMokkaやイベント再構成のフレームワークであ

るMarlinが含まれており、ILDの検出器情報やPFAなどシミュレーショ

ンに必要な情報やソフトを統一的に用いる事ができる。まずMokkaで測

定器シミュレーションを行い、その後Marlinで実際の実験で得られる種

類のデータを用いてイベントの再構成を行う。

図 4.1: ILCSoftを用いたシミュレーションの流れ。Mokkaで測定器シミュ

(34)

4.1.1

Mokka

MokkaはGeant4(GEometry ANd Tracking 4)と呼ばれる粒子と物質

の相互作用を記述する汎用ソフトウェアをベースにした、ILDで標準的

に用いられている測定器フルシミュレータである。粒子反応はモンテカ

ルロ(MC)シミュレーションで行われる。モンテカルロ法とは乱数を用

いた統計サンプリングを何度も行うことにより近似解を求める数学的手

法であり、測定器シミュレーションの中核となる。MokkaにはILD測定

器のモデルがいくつかデフォルトで用意されているため、細かい設定を 一から行うことなく測定器シミュレーションを行う事ができる。また必 要に応じて検出器の構造や設定を簡単に変更する事ができるほか、個々 の検出器や、テストビーム実験で用いた試作機なども用いる事ができる。

ユーザーが設定する事は以下の3点である。

1. 測定器の構造。

ILC測定器のモデルを選択する他、必要に応じて細かな構造も設定

できる。本研究では主に検出層の構造と吸収層の厚みを変更して いる。

2. シミュレーションを行う粒子。

粒子の種類やエネルギー、射出方向などを細かく設定できる。

3. Physics List。

粒子が行う相互作用の種類についての設定である。

Mokkaで作成されるデータには粒子の飛跡が正確な位置に記録されて

おり、また粒子の反応過程も記録されているため、この情報を用いるこ

とで再構成の一部を正確に行う事もできる。Mokkaでのシミュレーショ

ンにおけるe+

e−

→Zh µ+

µ−

hのイベントディスプレイを図 4.2及び

図 4.3に示す。

4.1.2

Marlin

Marlin(Modular Analysis & Reconstruction for the LINear collider)

は、Mokkaで生成されたシミュレーションデータからイベントの再構成を

(35)

図 4.2: Mokkaにおけるe+

e−

→ZH µ+

µ−

Hのイベントディスプレイ

[9]。上下に長く延びる2本の線がµ粒子の飛跡である。

み込まれており、それらを組み合わせて再構成を行う事ができる。Marlin

では以下のような事を行う。

• Digitization

Mokkaに記録されている飛跡検出器やカロリメータでのヒットの位

置情報を検出器のサイズに合わせて出力する行程である。これによ り、実際の検出器のヒットと同様に扱う事ができる。

• Tracking

VTX、TPC、SIT、SETなどの飛跡検出器のプロセッサで得られた

粒子のヒット情報を元に、荷電粒子の飛跡を再構成する。

• Particle Flow Algorithm(PFA)

(36)

図 4.3: Mokkaにおけるe+

e−

→ Zh µ+

µ−

hのイベントディスプレイ

の断面図(左)と側面図(右)。[9]

• Jet Clustering、Flavor Taggingなど高次の再構成ツール

Jet Clusteringは多数のジェットが放出されたイベントにおいて、ど

の粒子がどのジェットに由来するものかを識別するプロセッサであ

る。Flavor Taggingはbクォークやcクォークを同定するのに用い

るプロセッサである。

ここではカロリメータのDigitizationとPFAに集中して話を進めてい

く。

4.2

カロリメータの再構成と

PFA

4.2.1

カロリメータの

Digitization

カロリメータのDigitizationでは、まずMokkaに記録されたデータか

(37)

SiECAL

SiECALでは検出器がピクセル状になっているため、各ピクセルごと

にDigitizationを行う。Digitizationされたヒット情報はそのままPFAに

用いられる。

ScECALとStrip Splitting Algorithm

ScECALでは検出器がストリップ状になっているため、45mm×5mmの

ストリップごとにDigitizationを行う。その後、PFAのために5mm×5mm

の仮想セル状のデータに焼き直す必要があるため、Strip Splitting

Algo-rithm(SSA)という解析手法を用いる。この手法は45mm×5mmのスト

リップを9つの5mm×5mmの仮想セルに分割し、ストリップが交差して

いる領域内の前後の層で検出したエネルギーを基にこのストリップで検

出したエネルギーを配分するというものである。例えば図4.8で星形の仮

想セルに配分されるエネルギーは、衝突点とこの仮想セルを結んだ直線 上にある前後の層のセルのエネルギーの和を前後の層のストリップエネ ルギーの総和で割ったものである。前後の層がシンチレータの場合でも

ストリップが直交しているために分割する事が出来る。このSSAによっ

てストリップのまま再構成した場合よりもジェットのエネルギー分解能を

向上させる事ができる(図 4.5)。

また、SSAを行う際にはストリップで検出されたエネルギーを一度全

て足し上げてそこから分割するため、Mokkaで記録されていた各ヒット

の位置情報などが破棄されるという問題があった。またMC情報を用い

ての性能評価はこれまでSiECALでしか行われてこなかったためSSAと

の間に互換性がなく、使用する事ができなかった。そのため今回の研究に おいて新たなプロセッサを開発し、両者を併用することに成功した。具体

的な流れは図4.7に示す通り、通常のPFAで再構成する粒子のヒットの

みSSAに通し、MC情報を用いる粒子のヒットについてはSSAを通さず

に再構成を行うようにしている。MC情報にはどの粒子由来のヒットなの

かという情報が記録されているためこのような分割が可能であり、また位

置情報も保持されているためMC情報を用いた場合にはSSAを用いる必

要がない。これによってSiECALだけでなく、Hybrid ECAL、ScECAL

についても部分的にMC情報を使った性能理解を行うことができるよう

(38)

図 4.4: SSAのイメージ図[10]。前後の層で検出したエネルギーを基に分 割した仮想セルへのエネルギー配分を決定する。

Hybrid ECAL

Hybrid ECALにはシリコン層とシンチレータ層の両方が含まれている

ため、上述の方法を用いてそれぞれの層でDigitizationを行う。しかしな

がらこれまではSiECAL、ScECALのみでしか測定器シミュレーションが

行われてこなかったため、キャリブレーションパラメータについてはこ れまで全てのカロリメータヒットに対して同じ値が適用されていた。そ のためシリコン層とシンチレータ層を同時に用いる場合にはどちらかの 値しか設定できず、正確なキャリブレーションができなかった。今回の研 究において再構成ソフト中でシリコン層とシンチレータ層それぞれを識 別させることで各々に対して適切な値を用いることができるよう改善を 行い、それぞれの層のヒットに対して適切な値を設定できるようにした。

4.2.2

PandoraPFA

(39)

Energy of One Jet [GeV]

0

50

100 150 200 250 300

) [%]

j

) / Mean(E

j

RMS90(E

3

3.5

4

4.5

ScECAL(2.1x20/4.2x9) 45x05 w/o SSA ScECAL(2.1x20/4.2x9) 45x05 w/ SSA ScECAL(2.1x20/4.2x9) 05x05

図 4.5: SSA使用時と未使用時の比較。SSAを用いると(w/o SSA w/

SSA)性能が向上していることが分かる。

WボソンとZボソンを2.32.6σ の統計的有意性で測定できることであ

る[7]。これをジェットのエネルギー分解能に置き換えるとσ/Ej < 3.5%

(@91GeV)となり、これがジェットエネルギー分解能の目標値となる。

ジェットを構成する荷電粒子はそのほとんどがハドロンであり、またジェッ ト中の各粒子が持っている運動量は小さいため、各粒子に対するカロリ メータのエネルギー分解能は悪い。そのため従来通りにジェットのエネ ルギーをカロリメータだけで測定した場合、カロリメータのエネルギー 分解能以上の精度では測定する事はできない。この精度を超えるために

Particle Flow Algorithm(PFA)が用いられ、ILCではM.Thomsonが開

発したPandoraPFAと呼ばれるPFAが用いられている。この解析手法で

は、カロリメータよりも荷電粒子の運動量測定に関して精度の良い飛跡

検出器を用いる事で測定精度を上げる(図 4.8)。ただし、中性粒子は飛

(40)

図 4.6: 再構成におけるソフトの改善。PFAで用いるキャリブレーション パラメータをシリコン層とシンチレータ層それぞれに割り当てら れるように改善した。

め、荷電粒子のエネルギーを重複して計算しないようカロリメータ中で

荷電粒子を正確に分ける事が要求される。図4.9はPFAのイメージ図で

ある。このように飛跡検出器での飛跡とカロリメータでのシャワーを1 対1対応させることでカロリメータ中の荷電粒子によるシャワーをエネ ルギー計算から取り除く。最終的に荷電粒子を飛跡検出器で、光子を電磁 カロリメータで、中性ハドロンをハドロンカロリメータで、というよう

にそれぞれの粒子に適した検出器でエネルギーを測定する。また表4.1は

各検出器で測定するジェットのエネルギーの割合を示している[7]。ジェッ

トのエネルギーにおいて荷電粒子(主に荷電ハドロン)が占める割合は

62%、光子は27%、中性ハドロンは10%となっている。従来の手法では

荷電ハドロンについてもハドロンカロリメータで測定していたため、全

体の72%を比較的エネルギー分解能の悪いHCALで測定していた。しか

しPFAを用いて飛跡検出器で荷電粒子のエネルギー測定を行う事により、

HCALで測定するエネルギーを10%にまで減少させることができる。

PFAの主な手順は以下の通りである。

1. 飛跡検出器での飛跡を再構成する。

(41)

図 4.7: MC情報とSSAを併用する際の再構成の流れ。Mokkaが記録して

いる位置情報を用いる事ができるよう、MC情報を用いる粒子に

対しては選別してSSAを適用しないよう変更している。

検出器 従来の手法 PFAの場合

飛跡検出器 0% 62%

ECAL 27% 27%

HCAL 72% 10%

表 4.1: カロリメータのみの従来の手法とPFAの場合のジェットのエネル

ギー測定割合比較。

3. 再構成したクラスタのエネルギーを求める。

4. 荷電粒子の飛跡とクラスタを1対1対応させ、荷電粒子のクラスタ

を同定する。

5. 荷電粒子の飛跡から得られるエネルギーがクラスタのエネルギーと

一致しない場合はクラスタの構成を再計算して対応させる。

6. 荷電粒子の飛跡とクラスタのエネルギーが一致したものは、カロリ

(42)

図 4.8: 粒子のエネルギーに対する飛跡検出器、ECAL、HCALの運動量

分解能[11]。100GeV以下のエネルギー領域では飛跡検出器の方

が精度が高い。

7. 飛跡検出器で測定した荷電粒子の運動量とカロリメータで測定した

中性粒子のエネルギーからジェットのエネルギーを再構成する。

図 4.10に示すように、PFAを用いる事によりカロリメータのみの手法

と比べてジェットのエネルギー分解能が飛躍的に向上している。このこと

(43)
(44)

図 4.10: カロリメータのみの手法の場合とPFAの場合とのジェットのエ

ネルギー分解能[7]。横軸は1つのジェットのエネルギー、縦軸は

ジェットのエネルギー分解能である。縦軸中に記してあるrms90

については第5.2節で説明する。太線がPFAを用いた場合、一

点鎖線がカロリメータのみの手法の場合。100GeV以上のエネル

(45)

5

章 ハイブリッド電磁カロリ

メータの性能評価

この章ではMarlinを用いてのイベント再構成と本研究のメインとなる

性能評価について述べる。性能評価は以下の手順で行う。

1. Mokkaによるシミュレーション

2. キャリブレーション

3. イベント再構成

4. 性能評価

まずMokkaを用いて各構造でのシミュレーションを行いデータを作成す

る。次に再構成のためにキャリブレーションを行い、その後PFAを用い

てイベントを再構成する。そして得られた結果をもとに性能評価を行い、 構造間で比較し、傾向を調べ、また最適な構造を探す。本研究では検出 層と吸収層の構造についてそれぞれいくつかの場合を設定し、性能評価 を行った。

5.1

キャリブレーション

第3章で述べたように、ILDの電磁カロリメータはサンプリングカロ

リメータのため、粒子が吸収層で失うエネルギーを検出層で測定するエ

ネルギーから見積もる必要がある。またHybrid ECALの検出層はシリコ

ン層とシンチレータ層の2つの場合を考えるため、それぞれに対してキャ リブレーションを行う必要がある。このキャリブレーション定数は直前の 吸収層の厚みに依存する事が経験的に分かっており、吸収層の厚みが全 層均一でない場合にはそれぞれの厚みに比例してキャリブレーション定

(46)

ションを行い、検出層で落としたエネルギーにキャリブレーション定数 をかけて吸収層で落としたエネルギー分を補正し、エネルギー分布をガ

ウス分布でフィットした中心値が10GeVになるようキャリブレーション

定数を調整する(図5.1)。Hybrid ECALの場合には、まず全てシリコン

層の場合と全てシンチレータ層の場合の対象となる吸収層の構造につい てキャリブレーションを行いキャリブレーション定数を求めた後、評価

した構造にして求めたキャリブレーション定数を用いて光子が10GeVに

なる事を確認する方法をとっている。

Energy Sum of Calorimter Hit [GeV] 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

events 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 ScECAL SiECAL Hybrid[Si16+Sc14]

図 5.1: キャリブレーション後の10GeVの光子のエネルギー分布。横軸は

キャリブレーションされた光子のエネルギー、縦軸はイベント数

である。正しく10GeVにキャリブレーションされている事が分

かる。

またこのキャリブレーション方法が適切であるかどうかを確認する為に、

150GeVの光子を用いてエネルギー分解能及び線形性を評価した。ILD

のECALに要求される単独光子のエネルギー分解能は、(3.9)式の統計項

σstochで15∼20%である。図5.2に示すようにσstochはScECALが17.7%、

SiECALとHybrid[Si16+Sc14]は18%と、検出器固有のエネルギー分解能

ではどのECALもほぼ同等の性能を持ち、またいずれも要求性能を満た

している事が分かった。また線形性のずれも1.3%以内であり、解析する

上では問題ないと判断した。

(47)

Photon Energy [GeV] 0 10 20 30 40 50

of gaussian fit

σ 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16 0.18 0.2 0.22 SiECAL ScECAL Hybrid[Si16+Sc14]

図 5.2: 光子に対するエネルギー分解能。横軸は光子のエネルギー、縦軸

はフィットしたガウス分布のσである。

メータ中でシャワーを起こさずに検出器を貫通する。またMIPとして振

る舞い検出器中で一定のエネルギーを落とすため、粒子が通過して検出 したエネルギーかどうか判断する基準として用いることができる。検出

器が非常に薄い場合にはµ粒子のエネルギー分布はランダウ分布をとる

ため、ランダウ分布でフィットを行った。図 5.4はSiECAL、ScECAL、

Hybrid ECALそれぞれでのµ粒子のエネルギー分布である。ピークの位

置をMost Probable Value(MPV)とし、1MIPとしてスケールしている。

µ粒子が検出層に落とすエネルギーは吸収層によらずほぼ一定であるが、

このエネルギーはキャリブレーション定数で補正されているため、直前の 吸収層が厚い場合にはその分多く見積もられることとなる。そのため今

回のような吸収層が2.1mmの層と4.2mmの層に分かれている場合には、

この図のように2MIPの所にもう1つのピークができる。フィット後、そ

のMPVに対して一定のエネルギー閾値を設けることでノイズヒットを取

り除く。本研究ではシリコン層では各セルに対して0.5MIP、シンチレー

タ層では仮想セルに対して0.3MIPの閾値を設け、それ以下のエネルギー

のヒットを除去した上で再構成を行っている。

(48)

Generated Energy [GeV]

0 10 20 30 40 50

Reconstructed Energy [GeV]

0 10 20 30 40

50 HybridECAL

ScECAL SiECAL

図 5.3: 光子に対する線形性。横軸は生成した光子のエネルギー、縦軸は

キャリブレーション後の光子のエネルギー。

述のキャリブレーション定数に加えて更に補正を行う必要があるためで

ある。これには10GeVのKLを用いてシミュレーションを行い、PFAを

用いて再構成して10GeVに再構成されるようにパラメータを調整した。

KLは比較的長い寿命を持つハドロンでカロリメータまで崩壊せずに到達

(49)

MIP scale [MIP]

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5

0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 16000 18000 20000 22000

ecal barrel MIP peak

Hybrid[Si16+Sc14] SiECAL

ScECAL

Hybrid[Si16+Sc14] SiECAL

ScECAL

図 5.4: µ粒子を用いたMIPキャリブレーション。横軸は検出したエネル

(50)

5.2

性能評価方法

本研究における性能評価はジェットのエネルギー分解能についての評

価である。評価に用いたイベントはe+

e−

→ Z qq¯(q = u, d, s)であ

り、重心系エネルギーは91GeV、200GeV、360GeV、500GeVの4種類 を用いた。即ち、45 250GeVのジェット2本がback-to-backに放出さ れるイベントである。エネルギーが高くなればなるほどジェット中の粒

子のシャワーが集中して分離が困難になるためPFAの性能に影響に差

が出やすくなることが予想される。また本研究の性能評価では、バレル 領域(|cos(θ)|<0.7)に向けてジェットが放出されたイベントのみに限定

(図5.5)することで、エネルギー分解能が悪いバレル部とエンドキャップ

部の境目およびビーム軸近傍でのイベントを避けている。

)

θ

cos(

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1

RMS90/E (%)

0 2 4 6 8 10 12 14

Mean value: 3.718 ± 0.03553 Mean value: 3.718 ± 0.03553

図 5.5: ジェットエネルギー分解能の天頂角依存性(Hybrid[Si16+Sc14]、

uds91GeV)

ジェットのエネルギー分解能は再構成されたジェットのエネルギー分布

(図5.6)から、RMS90という手法を用いて計算される。RMS90は、得ら

(51)

は測定器中で検出できないニュートリノがエネルギーを持ち去ってしまう

ため、低エネルギー側に裾が延びてしまうが、RMS90を用いる事によっ

てこの影響を抑える事ができる。

fPFA

Entries 10000

Mean 89.81

RMS 4.567

Reconstructed Eenrgy [GeV]

60 70 80 90 100 110 120

events

0 100 200 300 400 500 600

fPFA

Entries 10000

Mean 89.81

RMS 4.567

total pfo energy

図 5.6: 2ジェットから再構成されたエネルギー。横軸は再構成されたジェッ

(52)

5.3

検出層の構造比較

検出層の構造による比較は、シリコン層とシンチレータ層の配置を変

える事による性能の変化について調べることで行った。まずは図 5.7の

ように内側にシリコン層を並べその外側にシンチレータ層を配置するこ ととし、その層数の比率を変えてシミュレーションを行った。

図 5.7: 検出層の配置図。左が内側で、青がシリコン層を、緑がシンチレー

タ層を表している。

その中で以下の2つの場合に分けて性能評価を行った。

• 検出層の条件のみを変更し全ての構造について同じ構造の吸収層を

用いた場合

• シンチレータ層の増加によって生じるECAL全体の厚みの増加を外

側の吸収層の厚みを削減する事で維持した場合

検出層の条件のみ変える場合は吸収層による影響を考慮する必要がない ため、シリコン層とシンチレータ層の性能の違いのみを評価する事がで きる。また放射長を維持できるため、シャワーの漏れの増大を防ぐ事が

できる。一方、ECALの厚さを維持する場合は外側のHCALやソレノイ

(53)

更する場合においてシミュレーションを行った構造である。全ての構造

において検出層の層数は30層としている。また、SiECALとScECALを

比べると約40mmほどScECALの方が厚くなっており、HCALなどはそ

の分だけ外側へ押し出されている。

Configuration Si層 Sc層 吸収層の厚み(内/外) ECAL厚

SiECAL[30] 30 0 2.1mm×20/4.2mm×9 185.0mm

Hybrid[Si22+Sc8] 22 8 2.1mm×20/4.2mm×9 196.3mm

Hybrid[Si16+Sc14] 16 14 2.1mm×20/4.2mm×9 204.8mm

Hybrid[Si10+Sc20] 10 20 2.1mm×20/4.2mm×9 213.3mm

ScECAL[30] 0 30 2.1mm×20/4.2mm×9 224.6mm

表 5.1: 検出層の条件のみ変更した場合の電磁カロリメータの構造。[ ]中

は検出層の数を表しており、例えば[Si16+Sc14]ならシリコン層

が16層、シンチレータ層が14層の構造である。

図 5.8はジェットエネルギー分解能のエネルギー依存性と層数比依存

性を表している。左の図は横軸が1つのジェットのエネルギーで縦軸が

ジェットのエネルギー分解能である。この図において緑の点はScECAL、

水色の点はHybrid[Si22+Sc8]、赤の点はHybrid[Si16+Sc14]、肌色の点は

Hybrid[Si10+Sc20]、青の点はSiECALを表している。また右の図は横軸

が検出層におけるシンチレータ層の割合を表し、縦軸はジェットのエネル ギー分解能である。

まず左の図から、ジェットのエネルギーが高くなるにつれて性能に差 が大きくなる事が分かる。またカロリメータのエネルギー分解能は本来

(3.9)式のように1/√Eに比例して良くなるはずであるが、エネルギーが

高くなると性能が悪くなっていることが分かる。右の図からは、45GeV

のジェットでは構造間で性能に差がないが、エネルギーの高いジェットに なるにつれてシンチレータ層の割合が増えると性能が緩やかに悪くなっ ていくことが分かる。低エネルギーで性能が同じであるのは、ジェット

があまり密でなくPFAの粒子識別精度に差がないためであると考えられ

る。しかしエネルギーが高くなりジェットが密になると、シャワーが他の

粒子のものと被ることでPFAの識別精度が落ち、性能が悪くなっている

(54)

Energy of One Jet [GeV]

0 50 100 150 200 250 300 ) [%] j

) / Mean(E j

RMS90(E 3 3.5 4 ScECAL(30) HybridECAL(Si10+Sc20)) HybridECAL(Si16+Sc14) HybridECAL(Si22+Sc 8) SiECAL(30) Sc/(Sc+Si)

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 ) [%] j

) / Mean(E j

RMS90(E 3 3.5 4 uds91GeV uds200GeV uds360GeV uds500GeV

図 5.8: 検出層の条件のみ変更した場合のジェットエネルギー分解能のエ

ネルギー依存性(左)と層数比依存性(右)

ンを行った構造の一覧である。シンチレータ層が増えるにつれて検出層

が厚くなるため、185.0mm±1.0mmに収まるよう吸収層の厚みを削減し

ている。

Configuration Si層 Sc層 吸収層の厚み(内/外) ECAL厚

SiECAL[30] 30 0 2.1mm×20/4.2mm×9 185.0mm

Hybrid[Si22+Sc8] 22 8 2.1mm×20/3.9mm×9 185.6mm

Hybrid[Si16+Sc14] 16 14 2.1mm×20/3.6mm×9 185.4mm

Hybrid[Si10+Sc20] 10 20 2.1mm×20/3.3mm×9 185.2mm

ScECAL[30] 0 30 2.1mm×20/2.9mm×9 185.7mm

表 5.2: ECALの厚さを保った場合の電磁カロリメータの構造

図 5.9は、ジェットエネルギー分解能のエネルギー依存性及び層数比

依存性である。各点の色については先の場合と同じである。この場合も ジェットのエネルギーが高くなると、シンチレータ層が増加するにつれて

エネルギー分解能は緩やかに悪くなっていることが分かる。しかし45GeV

(55)

いエネルギーであればサンプリング比が良くなって性能面で有利になっ ているためであると思われる。

 これらの2つの結果から、ジェットのエネルギーが高くなるとシンチ レータ層が増加するにつれてエネルギー分解能が緩やかに悪くなるが、低 いエネルギーでは大きな差は見られないという結論が得られる。

Energy of One Jet [GeV]

0 50 100 150 200 250 300 ) [%] j

) / Mean(E j

RMS90(E 3 3.5 4 ScECAL(30), W=2.1mmx20/2.9mmx9 HybridECAL(Si10+Sc20), W=2.1mmx20/3.3mmx9 HybridECAL(Si16+Sc14), W=2.1mmx20/3.6mmx9 HybridECAL(Si22+Sc8), W=2.1mmx20/3.9mmx9 SiECAL(30), W=2.1mmx20/4.2mmx9 Sc/(Sc+Si)

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 ) [%] j

) / Mean(E j

RMS90(E 3 3.5 4 uds91GeV uds200GeV uds360GeV uds500GeV

図 5.9: ECALの厚さを保った場合のジェットエネルギー分解能のエネル

ギー依存性(左)及び層数比依存性(右)

次に、内側にシリコン層を固めて配置する前後構造ではなくシンチレー タ層とシリコン層を2層ずつ、もしくは1層ずつ交互に並べる構造につ

いて性能評価を行った。図 5.10は交互構造の配置図である。シンチレー

タ層の間に挟む事でシンチレータ層のデメリットであるゴーストヒットを シリコン層の位置情報から解き、性能劣化を防ぐことを目的としている。

(56)

表 5.3は2層交互構造及び1層交互構造と、検出層のみを変更した前 後構造の場合のHybrid[Si16Sc14]、SiECAL、ScECALの構造である。

Configuration Si層 Sc層 吸収層(内/外)[mm] ECAL厚

SiECAL[30] 30 0 2.1×20/4.2×9 185.0mm

Hybrid[Si16+Sc14] 16 14 2.1×20/3.6×9 204.8mm

2層交互[Si16+Sc14] 16 14 2.1×20/3.6×9 204.8mm

1層交互[Si16+Sc14] 16 14 2.1×20/3.6×9 204.8mm

ScECAL[30] 0 30 2.1×20/2.9×9 224.6mm

表 5.3: 交互構造を用いる場合の電磁カロリメータの構造。SiECAL、

ScE-CAL、Hybrid ECALは検出層のみ変更する場合と同じ構造である。

Energy of One Jet [GeV]

0 50 100 150 200 250 300 ) [%] j

) / Mean(E j

RMS90(E

3 3.5 4

ScECAL(30) HybridECAL(Si16+Sc14) SiECAL(30)

Double Alternating(Si16+Sc14) Single Alternating(Si16+Sc14)

図 5.11: 交互構造と前後構造の性能比較

また図 5.11及び表 5.4はジェットエネルギー分解能のエネルギー依存

性について交互構造と前後構造を比較したものである。交互構造、前後

構造ともに高いエネルギーにおいてScECALの場合よりも良く、180GeV

まではSiECALと同等の性能である事が分かる。交互構造と前後構造を

(57)

RMS90 / Mean 45GeV 100GeV 180GeV 250GeV

SiECAL[30] 3.70% 2.94% 2.98% 3.09%

Hybrid[Si16+Sc14] 3.66% 2.94% 3.00% 3.20%

2層交互[Si16+Sc14] 3.67% 2.95% 3.01% 3.16%

1層交互[Si16+Sc14] 3.74% 2.96% 2.98% 3.17%

ScECAL[30] 3.70% 3.03% 3.11% 3.24%

表 5.4: 交互構造と前後構造の性能比較。両者の間に有意な差は見られ

ない。

影響が出ていると考えられるので、前半のシンチレータ層のSSAの不確

定性か、もしくは交互構造にすること自体がPFAに対して何らかの悪影

響を与えている可能性がある。今後はゴーストヒットの発生量とその影 響を定量的に評価し、どの領域でどのような理由により性能が左右され るのかを評価していく必要がある。

5.4

吸収層の構造比較

 吸収層の構造比較の目的は2つである。1つは吸収層の最適な構造 を見つけ出す事であり、もう1つはシンチレータ層の増加による厚さの増 加分を性能を維持しつつ吸収層の削減で補えないか調べる事である。吸 収層の構造による比較では、以下の2通りについてシミュレーションを 行った。

• 各吸収層の厚みを全て均一にした場合

• 内側20層と外側9層の厚みの比を1:2とした場合

1:2の構造は、内側のサンプリング比を大きくすることでより内側の層の

粒子識別を有利にしようとするものであり、反面外側のサンプリング比 は小さくなる。尚、検出層はどちらの場合も1層交互の構造を用いてい る。まず各層の厚みが均一な場合についてシミュレーションを行った構

造を表5.5に示す。

各層の厚みを1.4mm4.2mmとしている。これにより吸収層全体での

図 2.1: 標準理論の構成粒子と発見のあゆみ [4] 子陽電子衝突型の線形加速器でありエネルギーの高さでは LHC に劣るも のの、素粒子である電子と陽電子を用いて対消滅を起こさせるため全エ ネルギーが反応に用いられ、背景事象の少ないクリーンな環境で解析を 行う事ができる。そのためヒッグス粒子やトップクォークの精密測定、未 知粒子の探索などに大きな期待が寄せられている。  電子陽電子衝突型の加速器実験としては、1989 年から 2000 年にかけて 行われた CERN での LEP(Large Elect
図 2.2: ジェットのイメージ図。測定器の右側を示しており、クォークま たはグルーオンからなる多数の粒子の束が放出される様子が描か れている。
図 2.3: ILC の概観図
図 2.6: 超伝導加速空洞のユニットの1つ。
+7

参照

関連したドキュメント

問についてだが︑この間いに直接に答える前に確認しなけれ

存在が軽視されてきたことについては、さまざまな理由が考えられる。何よりも『君主論』に彼の名は全く登場しない。もう一つ

大きな要因として働いていることが見えてくるように思われるので 1はじめに 大江健三郎とテクノロジー

これらの定義でも分かるように, Impairment に関しては解剖学的または生理学的な異常 としてほぼ続一されているが, disability と

だけでなく, 「家賃だけでなくいろいろな面 に気をつけることが大切」など「生活全体を 考えて住居を選ぶ」ということに気づいた生

巣造りから雛が生まれるころの大事な時 期は、深い雪に被われて人が入っていけ

市場を拡大していくことを求めているはずであ るので、1だけではなく、2、3、4の戦略も

いかなる使用の文脈においても「知る」が同じ意味論的値を持つことを認め、(2)によって