2015
年度
修士論文
国際リニアコライダー実験のための電磁カロリメータ読み出し
システムの性能評価
九州大学大学院
理学府
物理学専攻
粒子物理学分野
素粒子実験研究室
平井
寛人
指導教員
川越
清以
概要
国 際 リ ニ ア コ ラ イ ダ ー(ILC)実 験 は 、電 子 と 陽 電 子 を 衝 突 さ せ 、ヒ ッ グ ス 粒 子 、ト ッ プ
クォークの精密測定や新物理の探索を目標に計画されている次世代の加速器実験である。電
子陽電子衝突というレプトン同士の衝突のため陽子など複合粒子同士の衝突よりもバックグ
ラウンドが小さく、シグナルが見やすい環境での実験が可能となる。ILC測定器では、ジェッ
トエネルギー分解能σE/E = 30%/
√
E(GeV)を目標として開発を行っている。その分解能
を実現するために、Particle Flow Algorithm (PFA)という事象再構成法が考えられている。
PFAとは、粒子の種類によって最も分解能の良い検出器で測定するという解析手法である。
例えば、荷電粒子は飛跡検出器、光子は電磁カロリメータ、中性ハドロンはハドロンカロリ
メータでそれぞれ測定し、ジェットエネルギーの分解能を向上させる。PFAを用いるにあた
り、電磁カロリメータには、検出層の細分化が求められている。
ILCの電磁カロリメータの候補の一つであるシリコンタングステン電磁カロリメータ(SiW
ECAL)では、検出層のシリコン半導体検出器を5 mm×5 mmのピクセル状に細分化するこ
とで分解能を向上させている。センサーをピクセル状に細分化するにあたって、電磁カロリ
メータの総チャンネル数が約1億にのぼることが見積もられている。そのため、従来の読み
出し方法では、読み出しケーブルによる不感物質の増加が問題となる。その解決法としてシ
リコンからの読み出しには、検出層と吸収層の間にASIC(特定用途向け集積回路)を含む読
み出し回路を挟み込むことを計画している。現在、ASICの開発研究は、フランスのOmega
グループが主体となって進めており、シリコン半導体検出器専用ASICである、SKIROC2
(“Silicon Kalorimeter Integrated ReadOut Chip”)がSiW ECAL の試 作 機 に 実 装さ れ て
いる。
本論文では、まず九州大学で設計した評価基板を用いて、SKIROC2の性能を評価した結
果を報告する。SKIROC2は、電磁カロリメータへの要求であるジェットエネルギー分解能
向上のために、高いシグナルノイズ比が求められている。SKIROC2のアナログ部とデジタ
ル部に対して線形性やペデスタル、検出効率、シグナルノイズ比などの性能評価を行った。
次 に 、実 際 にSKIROC2を 電 磁 カ ロ リ メ ー タ 試 作 機 に 実 装 し た 場 合 で の 性 能 評 価 結 果 を
報 告 す る 。現 在 、3 種 類 の ASIC 実 装 方 法 (QFP(Quad Flat Package)、BGA(Ball Grid
Array)、COB(Chip On Board))で電磁カロリメータ試作機が研究開発されている。それら
試作機に対し、QFP型試作機は2014年にCERN PS 加速器で、BGA型試作機は2015年
CERNのSPS加速器でビーム試験を行った結果で評価を行った。COB型試作機は、評価
基板を用いて評価を行った。それらの結果を踏まえ実装方法ごとに性能評価した結果を報告
目次
第1章 イントロダクション 7
1.1 はじめに . . . 7
1.2 国際リニアコライダー . . . 8
1.2.1 ILCの物理 . . . 8
1.3 ILC加速器 . . . 11
1.3.1 電子源 . . . 11
1.3.2 陽電子源 . . . 11
1.3.3 減衰リング . . . 12
1.3.4 主線形加速器 . . . 12
1.3.5 ビーム分配系 . . . 13
1.3.6 ILCのビーム . . . 13
1.4 PFA(Particle Flow Algorithm) . . . 14
1.5 ILD検出器 . . . 15
1.5.1 飛跡検出器 . . . 15
1.5.2 カロリメータ . . . 16
シリコンタングステン電磁カロリメータ . . . 17
シンチレータタングステン電磁カロリメータ . . . 17
1.5.3 ミューオン検出器 . . . 18
1.6 本研究の目的 . . . 18
第2章 シリコンタングステン電磁カロリメータ 19 2.1 物質中での荷電粒子の反応 . . . 19
2.1.1 電離損失 . . . 19
2.1.2 電子の制動放射 . . . 20
2.1.3 物質内での光子の振る舞い. . . 22
2.1.4 電磁シャワー . . . 23
2.2 カロリメータの概要 . . . 24
2.3.1 シリコン半導体検出器の検出原理 . . . 25
2.3.2 シリコン検出器の構造 . . . 26
2.3.3 SKIROC . . . 28
2.3.4 SKIROC2の特徴 . . . 29
2.3.5 SKIROC2からのデータ . . . 29
2.3.6 シリコン検出器の読み出し. . . 30
第3章 テストボードを用いたSKIROC2の性能評価 31 3.1 SKIROC2の仕組み . . . 31
3.2 SKIROC2の実装方法 . . . 34
3.2.1 Quad Flat Package (QFP) . . . 34
3.2.2 Ball Grid Array (BGA) . . . 34
3.2.3 Chip On Board (COB) . . . 34
3.3 測定原理 . . . 35
3.4 結果. . . 38
3.4.1 アナログ部線形性 . . . 38
プレアンプ . . . 38
Slow Shaper10 (High gain) . . . 39
Slow Shaper1 (Low gain) . . . 39
3.4.2 Fast Shaper測定 (デジタル部) . . . 39
S-curveについて . . . 40
検出効率 . . . 42
3.4.3 Fast Shaper測定 (アナログ部) . . . 43
検出効率 . . . 44
3.4.4 ADC線形性 . . . 44
High gain . . . 45
Low gain . . . 45
3.4.5 クロストーク . . . 46
3.4.6 ペデスタル . . . 47
3.4.7 Slow Shaper S/N . . . 48
3.4.8 まとめ . . . 48
第4章 電磁カロリメータ試作機でのSKIROC2性能評価 49 4.1 QFP型SKIROC2実装試作機性能評価 . . . 49
4.1.1 測定系 . . . 50
外観 . . . 50
ソフトウェア . . . 51
チャンネルマスク . . . 51
4.1.2 PS T9 beam . . . 53
4.1.3 事前の試験 . . . 55
57Co 線源での測定 . . . 55
クロストーク . . . 56
4.1.4 ペデスタルの評価 . . . 57
4.1.5 MIP信号 . . . 58
解析手法 . . . 58
MIP分布 . . . 58
4.1.6 S/Nの評価. . . 59
4.2 BGA型SKIROC2実装試作機性能評価. . . 60
4.2.1 測定系 . . . 60
DAQ . . . 60
チャンネルマスク . . . 60
4.2.2 SPS H8 beam . . . 61
4.2.3 ペデスタル評価 . . . 62
4.2.4 MIP信号 . . . 63
解析手法 . . . 63
MIP分布 . . . 63
4.2.5 S/N評価 . . . 64
4.3 Chip On Board型SKIROC2実装試作機性能評価 . . . 64
4.3.1 測定系 . . . 64
4.3.2 検出効率 . . . 66
測定方法 . . . 66
4.3.3 ペデスタルの評価 . . . 66
4.3.4 Slow Shaper S/N評価 . . . 68
4.4 まとめ . . . 69
第5章 考察と展望 70 5.1 評価基板を用いたSKIROC2の性能評価について . . . 70
5.2 SKIROC2の実装方法について . . . 71
5.3 ILDカロリメータに向けて . . . 72
第6章 まとめ 73
図目次
1.1 標準模型の粒子[1]。 . . . 8
1.2 ILCの全体図。 . . . 9
1.3 質量125 GeVのヒッグス粒子の主な生成過程。 . . . 9
1.4 重心系エネルギーごとのヒッグス生成過程の全断面積[2]。. . . 10
1.5 陽電子源の外観図[3]。. . . 12
1.6 超伝導加速空洞[3]。 . . . 13
1.7 ILCのビーム構造模式図。. . . 14
1.8 PFAを行ったあとのシミュレーション図 . . . 15
1.9 ILDの外観図[3]。 . . . 16
1.10 ILDの断面図[3]。 . . . 16
1.11 ILDのカロリメータ(中心の青:ECAL、灰:HCAL)。 . . . 17
2.1 粒子と吸収体ごとのエネルギー損失 . . . 21
2.2 原子核近傍による光子の反応[4]。. . . 22
2.3 電磁シャワーの模式図。 . . . 23
2.4 バレル部のalveolar構造試作機。 . . . 25
2.5 シリコン半導体概念図 . . . 26
2.6 シリコン半導体検出器。 . . . 26
2.7 alveolar構造の断面。 . . . 27
2.8 シリコンスラブの模式図。 . . . 27
2.9 接着中の様子[5]。 . . . 28
2.10 読み出しの模式図 . . . 30
3.1 SKIROC2のアナログ部の回路図 . . . 33
3.2 QFPの構造[6]。 . . . 34
3.3 QFP実装ボード。 . . . 34
3.4 BGAの構造[6]。 . . . 35
3.5 BGA実装ボード。 . . . 35
3.7 SKIROC2評価基板。 . . . 36
3.8 Slow Control設定画面。 . . . 37
3.9 100 MIP相当の波形を入れた矩形波(緑)とそのプレアンプの応答(青)。 . . 38
3.10 横軸:入れた電荷量、縦軸:オシロスコープに出力された波高を反転させた 高さ。 . . . 38
3.11 100 MIP相当の波形を入れた矩形波(緑)とそのSlow Shaper10の応答(青)。 39 3.12 横軸:入れた電荷量、縦軸:オシロスコープに出力された波高。 . . . 39
3.13 200MIP相当の波形を入れたパルス(緑)とそのSlow Shaper1の応答(青)。 40 3.14 横軸:入れた電荷量、縦軸:オシロスコープに出力された波高。 . . . 40
3.15 ある閾値を設定し電荷を入力して行った時のS-curveの例。σ はノイズ幅、 µは50%時の閾値である。 . . . 41
3.16 5MIP相当の電荷を入れた時のScurve . . . 42
3.17 Fast Shaperの線形性 . . . 42
3.18 各チャンネルのgain。 . . . 42
3.19 各チャンネルのS/N . . . 43
3.20 NIMモジュールを用いた測定概念図。 . . . 43
3.21 5MIP相当の電荷を入射した際のScurve。 . . . 44
3.22 左:ペデスタル分布、右:1MIP分布。 . . . 45
3.23 上:Slow Shaper10の直線フィット、下:Deviation。 . . . 45
3.24 上:Slow Shaper1の直線フィット、下:直線と実点との残差。 . . . 46
3.25 30chに電荷を入れた時の他チャンネルの反応比率 . . . 46
3.26 ガウス関数でフィットしたチャンネル毎の中央値。 . . . 47
3.27 ガウス関数でフィットしたチャンネル毎のσ。 . . . 47
3.28 ガウス関数でフィットしたメモリセル毎の中央値。 . . . 47
3.29 ガウス関数でフィットしたメモリセル毎のσ。 . . . 47
4.1 セットアップの外観。ビームは右手前から左奥へ流れる。 . . . 50
4.2 検出器の配置図 . . . 50
4.3 読み出しの概念図。実線:データの流れ、破線spillとclockの流れ。 . . . . 51
4.4 Slab DIF LDA CCC。 . . . 51
4.5 FEV8 拡大図。 . . . 52
4.6 シリコン検出器のチャンネル割り当て . . . 52
4.7 CERNビームラインの全体図。 . . . 53
4.8 線源測定のセットアップ。 . . . 55
4.11 ゲイン補正後の 57Coのエネルギースペクトル。 . . . 56
4.12 13chに電荷を入れた時の他チャンネル反応割合。 . . . 57
4.13 49chに電荷を入れた時の他チャンネル反応割合。 . . . 57
4.14 各チャンネルのペデスタルをガウス関数でフィットした時の中央値。 . . . . 58
4.15 各チャンネルのペデスタルをガウス関数でフィットした時のσ。. . . 58
4.16 7 GeV muonのMIPヒストグラム。 . . . 59
4.17 セットアップの外観。 . . . 60
4.18 検出器の配置図。 . . . 60
4.19 FEV10。 . . . 61
4.20 読み出しの概略図。 . . . 61
4.21 FEV10のチャンネル配置図[7]。 . . . 62
4.22 各チャンネルのペデスタルをガウス関数でフィットした時の中央値。 . . . . 63
4.23 各チャンネルのペデスタルをガウス関数でフィットした時のσ。. . . 63
4.24 150 GeV muonのMIPヒストグラム。. . . 64
4.25 Chip On Board型試作機。 . . . 65
4.26 SKIROC2拡大図。 . . . 65
4.27 測定時の様子。 . . . 65
4.28 5MIP入力時のS-curve。 . . . 66
4.29 10MIP入力時のS-curve。 . . . 66
4.30 0∼11chまでのS/N。 . . . 67
4.31 COBのチャンネル毎のペデスタルをガウス関数でフィットした時の中央値。 67 4.32 COBのチャンネル毎のペデスタルをガウス関数でフィットした時のσ。 . . 67
4.33 COBのメモリーセル毎のペデスタルをガウス関数でフィットした時の中央 値。. . . 67
4.34 COBのメモリーセル毎のペデスタルをガウス関数でフィットした時のσ。 . 67 4.35 左からペデスタル、5 MIP、10 MIPのシグナルのADC分布。 . . . 68
4.36 5 MIP、10 MIP、20 MIP、50 MIP、100 MIP相当の電荷を入れた時の線 形フィット。 . . . 68
5.1 先行実験のFast Shaper線形性 . . . 71
5.2 先行実験のLow gain ADC線形性 . . . 71
表目次
1.1 重心系エネルギーごとの物理目標[2]。 . . . 10
1.2 検出器ごとの分解能 . . . 14
2.1 吸収層ごとの各パラメータの比較[8]。λI は相互作用長、X0 は放射長、ρM はモリエール半径を表す。 . . . 25
3.1 各実装方法での特徴。 . . . 35
3.2 1ch, 34ch, 57chでのS/N及び、デジタル部測定との比較。 . . . 44
4.1 ビーム極性が負の時の粒子の割合。 . . . 54
4.2 T9のビームパラメータ。 . . . 54
4.3 H8のビームパラメータ。 . . . 62
11
第
1
章
イントロダクション
この章では、国際リニアコライダー計画で探索する物理、検出器などの概要と本研究の目
的について記述する。
1.1
はじめに
現在、素粒子物理学において、物質を構成する粒子と粒子間の相互作用を記述する理論と
して標準模型(図1.1)が最もよく知られている。標準模型では、物質を構成する基本粒子と
してクォークとレプトン、力を媒介する粒子としてゲージ粒子、質量の起源として知られる
ヒッグス粒子があり、それらを最小の構成粒子としている。クォークとレプトンは3世代に
分類され6種類ずつ存在し、それぞれがスピン1/2をもっている。クォークは、電荷+2/3
を持った粒子であるアップクォーク(u)、チャームクォーク(c)、トップクォーク(t)と電荷
−1/3を持つダウンクォーク(d)、ストレンジクォーク、(s)、ボトムクォーク(b)で構成され
ている。レプトンは、電荷が−1の電子(e)、ミュー粒子(µ)、タウ粒子(τ)と電荷が0の電 子ニュートリノ(νe)、ミューニュートリノ(νµ)、タウニュートリノ(ντ)で構成されている。 クォークとレプトンの質量は、世代が変わるごとに大きく変わる。クォークやレプトンの間
には、ゲージ粒子を交換することで相互作用が働く。ゲージ粒子は、電磁相互作用を行う際
に交換される光子 (γ)、弱い相互作用を行う際に交換されるダブリューボゾン(W
±
)、ゼッ
トボゾン(Z0)、強い相互作用を行う際に交換されるグルーオン(g)の4種類で構成されてい
る。それらに加え、2012年7月にスイスにある欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロ
ン衝突型加速器(LHC)を用いたATLAS実験及びCMS実験によってヒッグス粒子(h)が発
見された[9]ことで、標準模型で予言されている粒子が全て発見された。しかし、標準模型は
いまだに、解決されていない幾つかの問題を持っており、それらの問題の解決に加えて標準
12 第1章 イントロダクション
図1.1 標準模型の粒子[1]。
1.2
国際リニアコライダー
国際リニアコライダー(International Linear Collider: ILC)(図1.2)は日本での建設が最
有 力 視 さ れ て い る 電 子 陽 電 子 衝 突 型 直 線 加 速 器 で あ る 。ILCの 物 理 目 標 は 、ヒ ッ グ ス 粒 子
の 精 密 測 定 、ト ッ プ ク ォ ー ク の 精 密 測 定 、標 準 模 型 を 超 え る 新 物 理 の 探 索 な ど が 挙 げ ら れ
る 。ILCで 衝 突 さ せ る 電 子 と 陽 電 子 は 、CERNのLHCで 行 な わ れ て い る 陽 子 陽 子 衝 突 の
ような複合粒子同士の衝突ではないため、目的とする物理現象を低バックグラウンドかつ、
見やすい環境で測定することが可能である。ILCの加速器の全長は運転開始時で約 31 km、
重心系エネルギー
√
s にして250 GeV∼500 GeVでの稼働を計画している。その後、重心
系エネルギー1 TeV、全長にして約 50 kmまで拡張できる設計となっている。この加速器
に設置する測定器の候補としては現在、ILD(International Large Detector)とSiD(Silicon
Detector)の 2種 類 が あ る 。本 研 究 で は 、ILD の 電 磁 カ ロ リ メ ー タ で 用 い ら れ る 読 み 出 し
ASIC(Application Specific Integrated Circuit)の性能評価を行っているため、後続の章で
はILDの測定器について説明する。
1.2.1
ILC
の物理
ILC実 験 で は 、ヒ ッ グ ス 粒 子H の 精 密 測 定 が 重 要 な 目 標 の1 つ と な っ て い る (表1.1)。
ILCのヒッグス粒子の生成過程の代表的なものを図1.3に示す。
ILCでは電子、陽電子それぞれのビームでエネルギーと偏極度の調節が可能である。現在、
開始エネルギーとして
√
s = 250 GeVと
√
1.2 国際リニアコライダー 13
図1.2 ILCの全体図。
図1.3 質量125 GeVのヒッグス粒子の主な生成過程。
の生成過程において、前者では、図1.3の(a)に示すe
−
+e+
→Z+H が支配的であり、後
者では、図1.3の(b)に示すe++e
−
→ν+ ¯ν+H が支配的である(図1.4)。前者は、ビー
ムのエネルギーと反跳されたZ ボソンのエネルギーを再構成することで、ヒッグス粒子の
崩壊モードによらずヒッグス粒子の質量と生成断面積を測定することができる。また、後者
は、W fusionと呼ばれるW ボソンとの結合によってヒッグス粒子が生成される過程である。
この過程では、ヒッグス粒子の全崩壊幅の測定を行うことができる。このような物理を探る
ためにILCには、ルミノシティを上げることと検出器の分解能を上げることが要求される。
後続の章ではエネルギーとルミノシティを上げることを要求されている加速器と高いエネル
14 第1章 イントロダクション
図1.4 重心系エネルギーごとのヒッグス生成過程の全断面積[2]。
表1.1 重心系エネルギーごとの物理目標[2]。
エネルギー 生成過程 主な測定項目
91 GeV e+e−
→Z 電弱相互作用の精密測定
160 GeV e+e−
→W W W ボゾン質量の精密測定
250 GeV e+e−
→Zh ヒッグスの精密測定
e+e−
→t¯t トップの精密測定
350 - 500 GeV e+e−
→W W W ボソンの精密測定
e+e−
→ννh¯ ヒッグスの精密測定
e+e−
→ff¯ Z′
探索 e+e−
→tth ヒッグスとトップの結合精密測定
500 GeV e+e−
→Zhh ヒッグス自己結合精密測定
e+e−
→χ˜χ˜ 超対称性粒子の探索
e+e−
→Ah, h+, h−
拡張ヒッグス探索
e+e−
→ννhh¯ ヒッグス自己結合測定
500 - 1000 GeV e+e−
→ννV V¯ 複合ヒッグスセクターの探索
e+e−
→ννt¯ ¯t 複合ヒッグスとトップの探索 e+e−
→˜tt˜∗
1.3 ILC加速器 15
1.3
ILC
加速器
ILCで 探 索 す る 物 理 を 見 る た め に は 、ル ミ ノ シ テ ィ を 上 げ る 必 要 が あ る 。ル ミ ノ シ テ ィ
(L)は以下の式で表すことができる。
L= Ne+Ne−f 4πσxσy
RL (1.1)
ここで、Ne−、Ne+ は1バンチ(電子の塊)に含まれる電子または陽電子の数、f はバンチの 衝突頻度、σx、σy は衝突点での水平または垂直のビームサイズ、RLは補正係数である。高い ルミノシティを得るためには、
• 衝突点での小さいビームサイズ
• 安定したルミノシティで衝突の維持
• 大電流ビームの蓄積
であることが要求される。本説は、これらの要求を実現するILCの電子、陽電子の生成方法、
ビームの構造について説明する。
1.3.1
電子源
ILCの電子源は、偏極したレーザーをGaAsフォトカソードに照射し、光電効果を用いて
80%偏極した電子を生成する。生成された電子は常伝導加速管に送られるまでに20 psの長
さのバンチにされ、加速管で76 MeVまで加速される。その後、超伝導リニアックに送られ
5 GeVまで加速され減衰リングに輸送される。
1.3.2
陽電子源
陽電子を作る方法としてアンジュレータ方式を採用している(図1.5)。この方式では、主線
形加速器で加速された電子ビームを取り出し147 mのアンジュレータという真空管に送る。
アンジュレータ内では磁場の向きを周期的に変えることによって電子の軌道を蛇行させてい
るため、制動放射により電子ビームのエネルギーに依存して10 ∼ 30 MeVまでの光子を生
成することができる。この光子をチタン標的に衝突させることで、電子と陽電子を対生成さ
せる。その後、磁場を用いて電子を取り除き、陽電子を常伝導加速管で400 MeV まで加速
し、さらに後段の超伝導加速管で5 GeVまで加速し減衰リングに入射させる。この時、陽電
16 第1章 イントロダクション
図1.5 陽電子源の外観図[3]。
1.3.3
減衰リング
5 GeVの電子·陽電子それぞれのビームは、円周6.7 kmの減衰リングに入射され、1周を
22µsで周回する。減衰リングでは、リングでビームを曲げることで制動放射を起こし光子を
放出させ、横方向のビームの広がりを小さくしている。ILCの減衰リングでは衝突点でより
ビームを絞って衝突させるためにビームの広がり(エミッタンス: ϵ)を抑えることとバンチを
一時貯蔵することが重要となる。ϵは位置と運動量の位相空間内でのビームの位置の広がり
∆xphase と運動量の広がり∆pphaseで表すことができ、
ϵ = ∆pphase×∆xphase (1.2)
となる。また、ビーム径δx,yはϵを用いて表すことができて、
δx,y =
√
βx,y·γeϵx,y (1.3)
となる。ここで、βx,y は、ビームのx方向y方向の広がりを表す関数である。この関数が
小さいほどビームの分布の広がりは小さくなる。ここで、γe= 1/
√
1−v2/c2
、vは電子の速
度である。よって、衝突点でビーム径をいかに小さく絞ることができるかは、減衰リングのϵ
に依存している。また、減衰リングはビームを周回させ蓄積することで、ビームを決められ
たタイミングで放出するキッカーの役割も持っている。
1.3.4
主線形加速器
減 衰 リ ン グ か ら 取 り 出 さ れ た 電 子 や 陽 電 子 の ビ ー ム は 、始 め に RTML(Ring to Main
Linac)によって5 GeVから15 GeVまで加速され、主線形加速器へと送られる。この加速
器によってILCの運転エネルギーである片側250 GeVまで一気に加速させる。この加速を
実現するためには、それぞれの主線形加速器11 kmにおいて、超伝導加速空洞を用いて平均
1.3 ILC加速器 17
イオモジュールで作成されており、全体で14560個必要とされている。電子や陽電子が1つ
のセル(1.6の9つの空洞)を走っている間にマイクロ波が180度位相を変化するようにセル
長と周波数を決めている。このような加速空洞を用いてビームを加速させていく。
図1.6 超伝導加速空洞[3]。
1.3.5
ビーム分配系
250 GeV ま で 主 線 形 加 速 器 で 加 速 さ れ た そ れ ぞ れ の ビ ー ム は 、ビ ー ム 分 配 系 (Beam
Delivery System: BDS) で衝突点でのビームサイズ(5.6 nm × 639 nm)まで収束させる。
ILCでの衝突点での衝突角度は14 mradなのでビームの入射パイプと引き出しパイプを分離
することは可能である。しかし、そうするためにはルミノシティをあげるクラブ空洞が必要
となる。クラブ空洞とは、塊となって運ばれてきたビームを磁場でキックすることで回転さ
せ向きを合わせ、衝突点で電子、陽電子それぞれを正面衝突させる空洞のことである。
また、BDSには、衝突後のビームを捨てることやビームの形状が大きく違うビームから検出
器を守ること、バックグラウンドとなるビーム・ハローを取り除くことなどの役割もある。
1.3.6
ILC
のビーム
ILCのビームは、5 Hzの周期でバンチ化されたビームが送られてくる構造となっている
(図1.7)。1つのバンチには2×1010 個の電子(陽電子)が詰まっており、そのバンチが554 ns
の間隔で並んでいる。さらにそのバンチが1312個集まって出来た1 ms間隔のトレインとい
う大きなバンチを形作っており各トレインが200 ms 間隔で並ぶ構造になっている。このよ
うにバンチ化されたビームが加速管を通って衝突点へと送られる。そのため、200 msのうち
199 msはビームが送られてこない仕様となっている。ILCで使用する検出器は、このタイミ
ングに合わせてデータの取得のON/OFFを行うpower pulsingという方式をとることが予
18 第1章 イントロダクション
図1.7 ILCのビーム構造模式図。
1.4
PFA(Particle Flow Algorithm)
ILCのような加速器実験では、衝突時にできた2次粒子が密集したことでできるジェット
が生じる。電子と陽電子同士の衝突で発生する粒子の多くは、ジェットとして観測されるた
め、ジェットエネルギーを高い分解能で測定することが重要となる。そのために、ILCでは
ジェットのエネルギー分解能としてσE/E = 30 %/
√
E(GeV)を達成することを目標として
検出器の設計、解析手法が研究されている。こうすることで、Z ボソンとW ボソンのジェッ
トの判別が可能となり、Z →qq¯やW →qq¯のような事象を分離することができる。
PFA と は 、そ の 目 標 を 達 成 す る た め の 、各 検 出 器 で 検 出 さ れ た エ ネ ル ギ ー か ら 粒 子
を 再 構 成 す る 解 析 手 法 の こ と で あ る 。過 去 の 加 速 器 実 験 で は 、カ ロ リ メ ー タ で 検 出 さ れ
た エ ネ ル ギ ー を 元 に 再 構 成 が 行 わ れ て き て い る が 、ハ ド ロ ン カ ロ リ メ ー タ の 分 解 能 は σE/E ∼ 55%/
√
E(GeV)ほ ど で あ る の でILCの 目 標 と す る 分 解 能 に 到 達 す る こ と が で き
ない。そのため、ILCでは、粒子の種類によってどの検出器の情報を再構成時に使用するか
場合分けをして分解能を向上させる。ILCは、ジェット中に多く含まれる荷電粒子はエネル
ギー分解能の高い飛跡検出器で測定し、光子は電磁カロリメータ、中性ハドロンはハドロン
カロリメータで検出する。このように、検出する粒子に対し一番高い感度を持った検出器で
測定することで、ILCの目標とするジェットエネルギー分解能へ到達する。
表1.2 検出器ごとの分解能
Ejet の割合[%] 検出器 エネルギー分解能
荷電粒子 ∼60 飛跡検出器 ≤1% (30 GeV)
光子 ∼30 電磁カロリメータ 15 % /
√
E(GeV)
中性ハドロン ∼10 ハドロンカロリメータ 55 % /
√
E(GeV)
具体的には以下の手順でPFAは実行される(図1.8)。
1.5 ILD検出器 19
2. 飛跡検出器で粒子のトラックから運動量を測定し荷電粒子を同定する。
3. カロリメータのクラスターから飛跡検出器で検出した荷電粒子のトラックを取り除く。
4. 電磁カロリメータでエネルギーを測定し、光子を判別する。
5. 光子、荷電粒子と判別された粒子を取り除いたクラスターを中性ハドロンとする。
クラスターを再構成する際に、それぞれの粒子のエネルギー損失を分離し、粒子を重複して
検出しないようにしなければならない。そのためにもカロリメータは細分化しなければなら
ない。
図1.8 PFAを行ったあとのシミュレーション図。色ごとに粒子が識別されている。[8]
1.5
ILD
検出器
ILD(International Large Detector)は汎用型測定器であり、日本をはじめとしたアジアと
ヨーロッパを中心とする国際研究グループで共同開発している。ILD 検出器は内側から崩壊
点検出器、シリコン飛跡検出器、TPC(Time Projection Chamber)、カロリメータ、ソレノ
イドコイル、ミューオン検出器が設置されている。崩壊点検出器は崩壊点の精密測定を、シ
リコン飛跡検出器とTPCは荷電粒子の飛跡と運動量を、カロリメータは粒子のエネルギー
を測定する。
1.5.1
飛跡検出器
ILDの飛跡検出器は、崩壊点検出器、シリコン飛跡検出器、TPCによって構成されている。
崩壊点検出器では、bクォークとcクォークの同定(フレーバータグ)が高精度で要求されて
20 第1章 イントロダクション
図1.9 ILDの外観図[3]。
図1.10 ILDの断面図[3]。
設置し、インパクトパラメータの分解能3 µmを達成することが要求されている。
シリコン飛跡検出器は、崩壊点検出器とTPCの間を補う形で運動量分解能の向上とカロリ
メータへの粒子の入射位置と時間を測定することを目的とした検出器である。
TPCは、荷電粒子の飛跡を3次元的に再構成するためのガス検出器である。検出器の端部
は、MPGD(Micro pattern gas detector)検出器が敷き詰められている。荷電粒子がTPCの
内部を通るとガスが電離し、電離した電子は、ビーム軸に平行な電場によって検出器端部の
方向へドリフトされる。検出器の両端にあるガス検出器で電子雪崩を起こして増幅し信号を
検出する。この時のドリフト時間と2次元情報を用いて粒子の飛跡を3次元的に再構成する。
1.5.2
カロリメータ
カロリメータでは、粒子のエネルギーの測定を行う。ILD 測定器はサンプリング型のカロ
リメータを採用しており、吸収層と検出層の2種類の層を交互に重ねた構造となっている。
入射粒子は、吸収層でシャワーを起こすことでエネルギーの低い粒子を多量に生成し、その粒
子のエネルギーを検出層で測定する。ILCのカロリメータでは、荷電粒子や光子の検出を主
とする電磁カロリメータ(Electromagnetic calolimeter: ECAL)とハドロンの検出を主とす
るハドロンカロリメータ(Hadron Calorimeter: HCAL)の2つで構成されている(図1.11)。
ILCの電磁カロリメータはチャンネルを細分化することによって高い位置分解能を実現し、
1.5 ILD検出器 21
図1.11 ILDのカロリメータ(中心の青:ECAL、灰:HCAL)。
シリコンタングステン電磁カロリメータ
シリコンタングステン電磁カロリメータ(Si-W ECAL) は、検出層にピクセル状に細分化
されたシリコン半導体、吸収層にタングステンを用いたサンプリング型である。シリコン半
導体は、ピクセルサイズ5.5 mm×5.5 mm、厚さ320 µm となっている。そのため、シリ
コン検出器は高い位置分解能を誇るが、読み出しチャンネル数が約 1億に及ぶ構造となる。
Si-W ECALについては第2章で詳しく説明する。
シンチレータタングステン電磁カロリメータ
シンチレータタングステン電磁カロリメータとは、検出層にシンチレータと光検出器、吸
収層にタングステンを用いたサンプリング型である。シンチレータは、粒子が入射すると物
質中の電子が励起状態となり、基底状態に戻る際に2つの状態の差分のエネルギーを光とし
て放出する。この光を光検出器で検出することでエネルギーを測定する。基準設計では、45
mm × 5 mm × 2 mmの直方体のシンチレータを用い、それを層ごとに直交させることで、
5 mm × 5 mmのピクセルを擬似的に作り出すことになっている。こうすることでPFAか
ら要求されている位置分解能を達成することができ、シリコンタングステンと比べて、チャ
ンネル数を抑えることが可能となる。
ハドロンカロリメーターは、電磁カロリメータと同じくサンプリング型の構造を持ち、主
にハドロンシャワーの検出を目的としている。ハドロンは物質中の原子核と強い相互作用す
ることでシャワーを起こすため、荷電粒子の電磁シャワーより遠くまで到達する。そのため、
22 第1章 イントロダクション
1.5.3
ミューオン検出器
ビームの衝突によって生成される粒子の中でカロリメータを超えて通過してくる粒子の多
くがミューオンである。ミューオン検出器は鉄とシンチレータのサンドイッチ構造をしてお
りミューオンの検出を行う。
1.6
本研究の目的
ILC実験実現のために現在、各検出器の試作機が研究開発され性能評価が行われている。
本研究は、Si-W ECALの読み出しシステムのうちの1つであるASIC(汎用集積回路)の性能
評価を行うことを目的としている。その中で私は、2種類の評価を行った。1つ目は、ASIC
が、要求される性能を満たしているかの評価を行うことである。電磁カロリメータに使用が
予定されているASICは、幅広いエネルギー測定領域をもち、ILCの測定環境下に耐えうる
設計が要求されている。ASIC自体の開発はフランスのOmegaグループが行っているが、本
研究ではASIC自体が要求を満たしているかどうかの検証を九大独自で開発した評価基板を
用いて行った。
2つ目は、ASICを実際に電磁カロリメータに実装した際に目標性能を満たしているのか評
価することである。現在、電磁カロリメータ試作機として、後述する3種類(QFP、BGA、
COB)の試作機が研究開発されている。その試作機には、別々のASIC実装方法が施されて
いる。私は、実装方法それぞれで目標とする数値を達成しているか検証を行った。QFP実装
型試作器は2014年に、BGA実装型試作器は2015年にそれぞれCERNでビーム試験を行い
評価し、COB実装型試作器では、2015年に評価基板を用いて評価を行った。次に本論文の
構成を説明する。第2章で、ILDの電磁カロリメータやその読み出し系、研究の対象である
ASICについて詳しく説明する。第3章では、読み出しに使われるASICについて九大独自
に開発した評価基板(テストボード)を用いて性能評価を行った結果を説明し、第4章では、
QFP型、BGA型のシリコン電磁カロリメータ試作機2種についてCERNで行ったビーム
23
第
2
章
シリコンタングステン電磁カロリ
メータ
この章では、カロリメータの検出原理、本研究の対象であるASICが使われている、シリ
コンタングステン検出器の検出原理と読み出し方法、またASICの設計性能について詳しく
説明する。
2.1
物質中での荷電粒子の反応
2.1.1
電離損失
高いエネルギーを持った荷電粒子は物質中を通過すると、物質中の原子をイオン化させエ
ネ ル ギ ー を 失 う[4]。粒 子 が 微 小 距 離 dxを 通 過 す る 際 に 失 う 平 均 の エ ネ ル ギ ー は 、以 下 の
Bethe-Blochの式に従う。
− dEdx = 4πNAr2ec2z2
Z A
1
β2 (
ln2mee
2γ2β2
I −β
2
24 第2章 シリコンタングステン電磁カロリメータ
z : 素電荷を単位とした入射粒子の電荷
Z, A : 吸収体の原子番号と質量数
me, re : 電子の質量 = 0.511[MeV/c2] 、古典半径 = 2.82 × 10
−15 [m] I : 平均電離エネルギー ≈16Z0.9[eV]
NA : アボガドロ数 = 6.022× 1023[/mol ]
δ : 物質を構成する原子内の電子の電場の遮蔽効果
β : v/c
γ : (1−β2)−1/2 c : 光速=3.0×108
v : 粒子の速度
この式は、荷電粒子の物質中のエネルギー損失を表しており、数100 GeVのエネルギーま
で2∼3 %のレベルで正確に表している。電子に関しては、10%ほどの補正が必要である。ま
た、この式は入射粒子の質量には依らず、βに依存する関数となっている。粒子のエネルギー
損失は、β が増加するにつれて減少し、ある値で最小値を取る。入射粒子の中でも特に、最
小の電離損失で物質を通過するときの粒子をMIP(Minimum Ionizing Particle)と呼ぶ(図
2.1)。
Bethe-Blochの式によって計算されるのは、エネルギー損失の平均である。薄い物質中では、
電子との散乱の回数が少なくなり、ポアソン統計によるエネルギー損失のばらつきが大きい。
このため、エネルギー損失の分布は、エネルギー損失の大きな値へと長い尾をひく左右非対称
なランダウ分布を取る。そのため、ランダウ関数でフィットを行うことができる。ランダウ
関数のMost Probable Value(分布のピーク)は、エネルギー損失のピークに相当する[10]。
2.1.2
電子の制動放射
電 子 や 陽 電 子 な ど の 粒 子 は 、質 量 が 小 さ い た め 、高 エ ネ ル ギ ー 領 域 に な る と 前 述 し た
Bethe-Bloch の 式 の よ う に イ オ ン 化 に よ る エ ネ ル ギ ー 損 失 だ け で は な く 、原 子 核 周 り に あ
る ク ー ロ ン 場 に よ る 放 射 光 を 放 出 す る こ と で も エ ネ ル ギ ー を 失 う 。こ の 現 象 を 制 動 放 射
(Bremsstrahlung)と呼ぶ。微小距離dxを通過する際に失う平均エネルギーは以下のように
表される。
− dEdx = 4αNAZ2/Ar2eEln
183
Z1/3 = E X0
(2.2)
ここで、αは微細構造定数(α∼1/137)であり、X0は放射長と呼ばれる電子のエネルギーが
入射前のエネルギーの1/eになる平均の長さである。この式より制動放射によるエネルギー
2.1 物質中での荷電粒子の反応 25
1
2
3
4
5
6
8
10
1.0
10
100
1000
10 000
0.1
Pion momentum (GeV/c)
Proton momentum (GeV/c)
1.0
10
100
1000
0.1
1.0
10
100
1000
0.1
βγ
=
p/Mc
Muon momentum (GeV/c)
H
2liquid
He gas
C
Al
Fe
Sn
Pb
〈
–
dE/dx
〉
(MeV g
—1
cm
2
)
1.0
10
100
1000
10 000
0.1
図2.1 粒子と吸収体ごとのエネルギー損失[4]。この図は、µ粒子や陽子などの重い粒子 を記述しており、電子などに当てはめるには補正が必要である。
は無視できる。
また、相対論的極限ではエネルギーE0 を持つ入射粒子が物質をx進んだときに持つ平均の
エネルギーは、以下のように表せる。
E =E0exp(− x X0
) (2.3)
ここで、
dE E =−
dx X0
26 第2章 シリコンタングステン電磁カロリメータ
と放射長のみで表すことができる。ここで、放射長は次の式で表すことができる。
X0 = 716.4×
A
287Z(Z+ 1)√Z [g/cm
2] (2.5)
電子のエネルギーが十分に大きくなると、制動放射で失うエネルギーが電離損失で失うエ
ネルギーを超える。両方のエネルギー損失が等しくなるときのエネルギーを臨界エネルギー
(EC)と呼び以下のような近似式で表すことができる。
EC ≃
610
Z+ 1.2 [MeV] (2.6)
2.1.3
物質内での光子の振る舞い
強度I0 の光子ビームが、密度ρ、厚さxの媒質の層を通るとき、通り抜けた後の強度は、
I(X) =I0exp(−λx) =I0exp(−(λ/ρ)X) (2.7)
と書ける。ここで、X =ρxであり単位面積当たりの質量、λは線形吸収係数、λ/ρは質量吸
収係数である。光が吸収される場合、λと断面積σの間の関係は
λ =σNAρ/A (2.8)
となる。断面積σ には光子(γ)のエネルギー(Eγ)に依存する3つの反応によるものが含ま れる。1つ目は、光電効果(Eγ ≤ 100 keV)、2つ目は、コンプトン効果(Eγ ≈ 1 MeV)、3
つ目は電子陽電子対生成(Eγ ≥2 MeV)がある。特に電子陽電子対生成の断面積は、
σpair ≈
7 9
A NA
1
X0
= A
NA
1
λpair
(2.9)
と書ける。放射長X0 は式(2.5)のように定義される。これはエネルギーの高い光子におい
て対生成が確率P ≈1−e
−7/9
≈54%で起こる媒質の厚さに相当する。
2.1 物質中での荷電粒子の反応 27
2.1.4
電磁シャワー
100 MeVを超えるエネルギーを持った電子や光子は物質中において制動放射や電子陽電子
対生成が支配的になる。物質中に高エネルギーの電子が入射すると、制動放射によって光子
が放出される。そして、その光子が電子陽電子対生成を生じる事象が起こる。この事象が繰
り返し起こることによって電磁シャワーが形成される。電磁シャワーは、粒子のエネルギー
が臨界エネルギーEcより小さくなると電子による電離や励起作用、光子によるコンプトン効
果や光電効果の方が優勢となるため、電磁シャワーの発達は止まる。電磁シャワーの横方向
の広がりを表すパラメータである、モリエール半径(RM)は以下のように表せる。
RM =
21(MeV)X0
Ec
[g/cm2] (2.10)
これは、エネルギーの 90%が入るシャワーの半径を表しており、入射粒子のエネルギーに
は、ほとんど依存しない量となっている。
28 第2章 シリコンタングステン電磁カロリメータ
2.2
カロリメータの概要
ILDのカロリメータは前述した電磁シャワー現象を用いて、入射した荷電粒子や光子のエ
ネルギーを測定する検出器である。シリコンタングステン電磁カロリメータは、検出層に粒
子を検出するシリコン半導体検出器、吸収層にシャワーを起こさせるタングステンを交互に
配置したサンプリング型の構造となっている。検出層を粒子が通過する際、粒子はMIP相当
のエネルギーを落とすため、検出されるエネルギーはカウントされた粒子数に比例する。サ
ンプリング型カロリメータにエネルギーE(GeV)の粒子が入射した時、相対的なエネルギー
分解能は経験的に以下のように表すことができる。
σE
E = σstoch
√
E ⊕σconst (2.11) σstoch は統計的な揺らぎを表す項、σconst は検出器の系統誤差に起因する項、⊕は直和であ る。
ILDの電磁カロリメータには、以下のような要求が課せられている。
• 高精細である。
ジェットを構成する粒子を細かく分離するためである。PFAからくる要求として電磁
カロリメータでは、5 mm×5 mmの高精細なセンサーが要求されている。シリコン
電磁カロリメータでは、ピクセル状に細分化されたシリコンセンサーを用いることで
目標を達成している。
• サンプリング比が大きい。
吸収層で落とすエネルギーに対する検出層で落とすエネルギーの比であり、これが小
さいと統計項の揺らぎが小さくなる。
• シャワーの広がりが小さい。
PFAの粒子識別能力を向上させるため
• シャワーの漏れが小さい。
エネルギー分解能の低いハドロンカロリメータで測定するエネルギーをなるべく小さ
くする。
また、吸収層には、タングステン(W)が用いられる。タングステンは、他の物質量の大きい
物質と比べ以下のような利点があるため選んでいる(表2.1)。
• 放射長(X0)が短い
• ハドロンとの相互作用長が長い
2.3 シリコンタングステン電磁カロリメータの構造 29
吸収体 λ/cm X0/cm ρM/cm λI/X0
Fe 16.8 1.76 1.69 9.5
Cu 15.1 1.43 1.52 10.6
W 9.6 0.35 0.93 27.4
Pb 17.1 0.56 1.00 30.5
表2.1 吸収層ごとの各パラメータの比較[8]。λIは相互作用長、X0は放射長、ρM はモ リエール半径を表す。
2.3
シリコンタングステン電磁カロリメータの構造
ILDのシリコン電磁カロリメータは、高精細かつコスト削減のためにコンパクトな構造が
求められている。そこで、電磁カロリメータでは、図(2.4)に表されるalveolar構造に検出
器と吸収層を格納する方法をとっている。この構造は、細かいスロットに分かれており、(図
2.7)のように検出層として全30層のシリコン半導体検出器と全29層のタングステンを交互
に配置できる。このような形で格納することで、電磁カロリメータをコンパクトにすること
ができ、不感領域を減らすことができる。
図2.4 バレル部のalveolar構造試作機。
2.3.1
シリコン半導体検出器の検出原理
シリコン半導体検出器は図2.6のように厚さ320 µmで5 × 5 mm2 ピクセル状になって いる。シリコン半導体検出器では、荷電粒子が入射すると、荷電粒子の種類やエネルギーに
30 第2章 シリコンタングステン電磁カロリメータ
ン力による相互作用によって電子・正孔の対が生成される。生成される電子・正孔対の数は、
荷電粒子の種類に依存せずエネルギー損失に依存する。そのため、電荷量を検出することに
より、エネルギー損失が推定できる。シリコン半導体は、(図2.5)のような構造をしている。
有感領域は、空乏層化させたN
−
領域となる。なので、測定時にはシリコン半導体に逆電圧
をかけN
−
層を完全空乏層化させ、有感領域を最大にして使用する[11]。
図2.5 シリコン半導体概念図[11]。
図2.6 シリコン半導体検出器。
2.3.2
シリコン検出器の構造
Alveolar 構 造 の 中 身 は 図 (2.7) の よ う に な っ て い る 。SiW ECAL で は 、コ ン パ ク ト 性
も 要 求 さ れ て い る 。よ り コ ン パ ク ト に す る た め に 、シ リ コ ン 検 出 器 は 、検 出 層 と 吸 収 層 の
間 に 読 み 出 し ASICを 挟 み 込 む 構 造 を と っ て い る 。そ う す る こ と で 、108 チ ャ ン ネ ル 分 の ケーブル領域を削減することができる。シリコン検出器はスラブという単位で構成される。
1 枚 の ス ラ ブ は 、図 2.8 の よ う な 形 で 構 成 さ れ て い る 。シ リ コ ン 半 導 体 を PCB (Printed
Circuit Board)で挟み込み、下面のKapton filmからシリコン半導体への電源を供給する。
2.3 シリコンタングステン電磁カロリメータの構造 31
てASIC(SKIROC2)へと送る。スラブにおいてセンサーとASICが乗ったPCBの部分を
ASU(Active Sensor Unit)と呼ぶ(図2.8)。ASICとPCBは表面実装をすることで接続を行
う。ASIC内では、シリコンから読み取ったアナログ信号をデジタル信号へと変換しPCBを
介して外部のDAQ(Data Aquisition System)へ送る。また、検出層で発生する熱は、検出
層に挟み込んだ銅シートを通して外の冷却システムによって放出される。
図2.7 alveolar構造の断面。
32 第2章 シリコンタングステン電磁カロリメータ
図2.9 接着中の様子[5]。
2.3.3
SKIROC
電 磁 カ ロ リ メ ー タ の 細 分 化 と コ ン パ ク ト 化 を 実 現 す る た め に 、Si-W ECAL で は 現 在 、
読 み 出 し に ASIC を 用 い る こ と を 計 画 し て い る 。そ の 中 で 、電 磁 カ ロ リ メ ー タ 試 作 機 に
は SKIROC2 と 呼 ば れ る ASIC を 搭 載 し て い る 。SKIROC と は 、”Silicon Kalorimeter
Integrated ReadOut Chip”の 略 で あ り 、シ リ コ ン 半 導 体 専 用 の64ch 読 み 出 し ASICで あ
る。SKIROCを始めとするカロリメータのASICは以下の要求を満たすように開発研究され
ている。
• 自動トリガーとゼロデータ抑制。
自動トリガー:信号に対しASIC自身でトリガーをかける。
ゼロデータ抑制:トリガーがかかったイベント以外は記録しない。
• 完全デジタル出力。
シリコンからくるアナログ波形情報をすべてデジタル変換しデータとしてDAQに送
る。データ量の圧縮、データの劣化などを防ぐ。
• ILCのビーム構造に耐えうる設計かつ1チャンネルあたり25µW 以下の発熱。
さらに、電磁カロリメータは、ジェットエネルギー分解能を向上させるために、高精細に粒
子分離をすることを目指しており、読み出しには、1 MIP相当の信号を見分けられる高いシ
グナルノイズ比(S/N比)が求められている。本研究の対象であるSKIROC2にも1MIP時
2.3 シリコンタングステン電磁カロリメータの構造 33
2.3.4
SKIROC2
の特徴
SKIROC2の持つ基本的な特徴を以下に示す。
• Austria Micro Systems社製 SiGe 0.35µm
• サイズ: 7.1 mm×8.5 mm
• 1チップあたり64チャンネル
• High gain (0.5MIP-150MIP)とLow gain (150MIP-2500MIP)2種類のダイナミック
レンジADC
• 1バンチあたり15イベント保存可能なanalog memory cell
• 1/2MIP時でのオートトリガー
• 数珠つなぎ型の読み出し
• 10 bit DAC threshold
これらの機能を主としてSKIROC2は開発されている。
2.3.5
SKIROC2
からのデータ
SKIROC2からは、以下の情報を読み出すことができる。
• ChipID
SKIROC2を識別する番号。Chip IDとchannel IDでどのSKIROC2のどのチャン
ネルかを特定できる。
• Channel ID
チャンネルの番号。0∼63の値をとる。
• Hit bit
Auto triggerモードで信号が閾値を超えた時Hit bitとして1を返す。
• Gain bit
High gain / Low gainモードの時は1、TDC / High gainモードの時は0となる。
• Event number
各チャンネルは15個のメモリーセルを持っており、15イベント分の電荷を保存でき
る。デジタル化と読み出しが行われるまで、データは、セルに貯えられる。
• Acq number
15 個 の メ モ リ ー セ ル が 埋 ま る と デ ー タ が 読 み 出 さ れ る 。そ の 読 み 出 し 回 数 に 相 当
する。
• BunchX ID(BX)
34 第2章 シリコンタングステン電磁カロリメータ
ロックの立ち上がりと共に1カウントアップする。
• ADC
High gain とlow gainのモードがある。信号の大きさによって2つのモードを使い分
ける。
• TDC
200 nsの分解能で時間情報を保存する。
2.3.6
シリコン検出器の読み出し
大量のチャンネルの読み出しには、データラインと電力供給を最小化することが求められ
る。そのため、ILCのカロリメータの読み出しには、ILCのビーム構造に同期した運転を予
定している。ILCのビームは200 ms の間に1 msのバンチトレインが来る構造になってい
る。そのため、図(2.10)に表すように、ASICの読み出しを数珠つなぎにし、ビームの来な
い199 msで読み出しを行う。自身以外のチップが読み出しを行っている時には、待機状態
とし、スイッチを切った状態になっている。この方式をpower pulsingという。
35
第
3
章
テストボードを用いた
SKIROC2
の性能評価
この章では、BGA版テストボードによるSKIROC2の性能評価について説明する。
3.1
SKIROC2
の仕組み
SKIROC2は、1MIP相当の信号とノイズの比がS/N >10という高い分離能力を目標値
として開発されている。SKIROC2のアナログ回路図を図3.1に載せる。
SKIROC2は、シリコン半導体からのアナログ信号が64 チャンネル分をそれぞれ、まず
前 段 増 幅 の プ レ ア ン プ に 入 る 。プ レ ア ン プ で は 、feedback capacitor(Cf) をSlow Control
parameter(SC)で変更することによって増幅率を変えることができる。Cf は、0∼6 pFま
で変えることができるが、6 pF の場合、増幅率が最小となる。ILC稼働時では、feedback
capacitorは、6 pFでの運転を予定としている。次にプレアンプを出た信号は、Fast Shaper、
Slow Shaper(Gain=1)、Slow Shaper(Gain=10) の3 つ の 経 路 に 分 岐 す る 。こ れ は そ れ ぞ
れ、トリガーライン、Low Gain ADC(150 - 2500 MIPs)、High Gain ADC(0.5 - 150 MIPs)
に対応する。
Fast Shaperに入る信号は、高い増幅率をもつCRRC shaperに入り、その後discriminator
を通って、閾値を超えた信号にトリガーがかかる。CRRC shaperはコンデンサ2つと抵抗2
つを用いた、微分回路と積分回路組み合わせもので、信号増幅率と立ち上がり時間を調節で
きる波形成形器である。閾値は64チャンネル全体にかかる10-bit DACと、各チャンネルに
対し細かく指定できる4-bit DAC によって決められており、最小は0.1 MIPの信号までト
リガーをかけることができる。トリガーにかかった信号は、Slow Shaperラインではデータ
として保存される。
2つのSlow Shaper(G=1 or G=10)は、それぞれプレアンプから出力された波形に対し1
36 第3章 テストボードを用いたSKIROC2の性能評価
はその後、15個あるメモリーセル(Depth=15)にそれぞれのイベントの時間情報と共に保存
される。保存された電荷は、その後マルチプレクサー(MUX)を通り、電荷測定用の12-bit
のピークホールド型ADCによってデジタル変換されデータとして保存される。
マ ル チ プ レ ク サ ー で は 、Slow Shaper(G=1)と Slow Shaper(G=10)と 時 間 情 報(TDC:
Time Digital Converter)を選択的に後段に流せるような機構である。MUXでどれを流すよ
うにするかは、SCで設定することができる。SKIROC2のデジタル部では、アナログ部から
読み出されたデータを、第2章で説明したSKIROC2から読み出されるデータ方式に変換さ
れる。SKIROC2は、power pulsing下で使用することで消費電力を1.5 mW/channel まで
抑えることができるように設計されている。SKIROC2は、プレアンプの前に3 pFのコンデ
ンサが付いている(C test)。これは、任意波形生成器(ファンクションジェネレータ)から矩
形波等をを入れ、電荷に変換することでASICの性能を直接評価するためのラインである。
本論文での測定では、TDCはうまく動いていないことがわかっていたため、調査には用い
ていない。また、本論文の説明の中で記述される閾値(DAC)は、10-bit DACのことを指し
ている。4-bit DACについては、制作元が調節のオーダーを間違えたために、ほとんど効か
3.1 SKIROC2の仕組み 37
38 第3章 テストボードを用いたSKIROC2の性能評価
3.2
SKIROC2
の実装方法
SKIROC2は前述のようにPCBに表面実装することになっている。その中で、PCBの厚
さは、alveolar構造の都合上1.2 mm程度になるよう開発が行われている。現在、研究開発
が進められている電磁カロリメータ試作機(Front End Board: FE Board) にはSKIROC2
の実装方法としてQFP、BGA、COBの3種類が考えられている。
3.2.1
Quad Flat Package (QFP)
2014年のビームテストで試験したFEV8に実装された手法である。ASICをパッケージ化
し横に配線を伸ばしてPCBに表面実装する形(図3.2, 3.3)となる。配線の自由度が大きい
分、占有面積が大きくなることが欠点である。
図3.2 QFPの構造[6]。
図3.3 QFP実装ボード。
3.2.2
Ball Grid Array (BGA)
2015年 に ビ ー ム テ ス ト で 試 験 し た FEV10 に 実 装 さ れ た 手 法 で あ る (図3.4, 3.5)。パ ッ
ケージ裏に格子状に並んだ端子とASICの端子を半田付けすることでQFPよりも占有面積
の少ない実装方法となっている。
3.2.3
Chip On Board (COB)
ASICに パ ッ ケ ー ジ を 施 さ ず 、む き 出 し の ま まPCB の 窪 地 に 収 め 、PCBと の 間 で ワ イ
ヤーボンディングを行って実装する方式である(図3.6)。ASICとPCB間の配線経路が一番
短く、一番薄い構造となっている。この方法では経路長によるノイズが一番少ないことが予
想される。
この章で説明する評価基板を使っての調査は、BGAパッケージを施したASICを用いて
3.3 測定原理 39
図3.4 BGAの構造[6]。
図3.5 BGA実装ボード。
図3.6 Chip On Board実装型ボード。
2013年試作機 2015年試作機 次期試作機
実装方法 QFP(Quad Flat Package) BGA(Ball Grid Array) COB(Chip On Board)
占有面積(mm2) 35×35 17.5×17.5 7.1×8.5
配線長(ASIC to PCB) 長い - 短い
厚さ(PCB + ASIC) [mm] >3.15 >3.15 >1.2
表3.1 各実装方法での特徴。
3.3
測定原理
測定には、図3.7に示す評価基板を用いた。この評価基板は、フランスのOmegaグルー
プが開発したQFP実装用評価基板をBGA版に修正し、新たに九大で開発したものである。
SKIROC2の設定(Slow Control: SC)は、Omegaグループが作成したLabView スクリプ
トを用いて行った(図3.8)。測定は、ASIC取り付けソケットにSKIROC2をセットし、SC
をPCから送ることで行う。評価基板の電荷入力ソケットより任意波形生成器を用いて波形
を入れて、アナログ波形出力ソケットから(図3.1)のプレアンプやSlow Shaper 1/10、Fast
Shaper のアナログ応答をオシロスコープを用いて見ることができる。また、SKIROC2の
40 第3章 テストボードを用いたSKIROC2の性能評価
SKIROC2には、ASICそのものの性能を調べるために外部からプレアンプに直接電荷を
送るinjection line(図3.1のC test)が備わっている。評価基板では、電荷入力ソケットがそ
の線への入力に該当する。ここに、矩形波を入れることでASIC内の3 pFのコンデンサに
よって電荷に変換されプレアンプに送られる。シリコン半導体は、1 MIP相当の粒子が垂直
入射した際、1 µm進むごとに80個の電子空孔対を生成する[12]。厚さ320 µmのシリコン
半導体のとき生成される電子空孔対は、25600個である。これは素電荷で電荷換算すると約
4.1 fC相当のため、その値に正に比例した矩形波を入れて測定した。
3.3 測定原理 41
図3.8 Slow Control設定画面。
本測定では、以下の項目について評価した。
• アナログ部線形性
– プレアンプ
– Slow Shaper10 (High gain Shaper)
– Slow Shaper1 (Low gain Shaper)
• Fast Shaper測定
– デジタル部測定
∗ 検出効率
∗ S/N
– アナログ部測定
∗ 検出効率
∗ S/N
• 電荷測定
– High/Low gain ADC線形性
– クロストーク
– ペデスタル
– Slow Shaper S/N
以降に結果を報告する。本測定には、任意波形生成器にTEXIO社製の FGX-2220を、オシ
42 第3章 テストボードを用いたSKIROC2の性能評価
3.4
結果
3.4.1
アナログ部線形性
SKIROC2のアナログ部にあるプレアンプと2つのSlow Shaperのアナログ波形をアナロ
グ波形出力ソケットを使って出力させ、オシロスコープを用いて線形性について調査した。
1000 MIPsを超える波形については、周波数が1 Hzより大きい波形を入れてしまうと電荷
をASICに送るラインでチャージアップを起こしてしまい、正しい波形が出力されない。そ
のため、1000 MIPs以下に関しては、入力波形の周波数を100 Hz、1000 MIPs以上に対し
ては、1 Hzで測定を行った。データ点には、横軸のエラーに任意波形生成器の波高のふらつ
きを、縦軸のエラーに目測誤差を入れた。線形性が正しいかどうかを示すDeviation には、
±10% 以内を要求した。
プレアンプ
テストボードからのをアナログ出力をプレアンプに設定し、feedback capacitorを6 pF、
入力電荷が1-2500 MIPs相当になるよう波形を入れた。SKIROC2に100MIPs 相当の波形
を入れた時の図が図3.9であり、波高をプロットしたグラフが図3.10である。フィッティン
グに関しては、1800 MIPsまでの領域を用いた。
1800 MIPsまでは、線形性を確認できるが、1800-2500 MIPsの間は、直線から外れていた。
図3.9 100 MIP相当の波形を入れた矩形波(緑) とそのプレアンプの応答(青)。
0 500 1000 1500 2000 2500
pulse height[mV]
0 100 200 300 400 500 600
y=0.33x + 0.28
Q_inj[MIP] 0 500 1000 1500 2000 2500
Deviation
0.1
−
0.05
− 0
0.05 0.1
図3.10 横軸:入れた電荷量、縦軸:オシロス コープに出力された波高を反転させた高さ。
3.4 結果 43
Slow Shaper10 (High gain)
2つあるSlow Shaperのうち10倍の増幅率を持つSlow Shaper10をテストボードの出力
に設定し、同じくオシロスコープを用いて測定した。入力した電荷は、High gain ADCの
測定領域である0-150 MIPsである。フィッティングには、0-150 MIPsまでを使用した(図
3.11, 3.12)。
図 3.11 100 MIP 相 当 の 波 形 を 入 れ た 矩 形 波
(緑)とそのSlow Shaper10の応答(青)。
0 20 40 60 80 100 120 140 160
pulse height[mV]
0 50 100 150 200 250 300
y=1.96x + 0.01
Q_inj[MIP] 0 20 40 60 80 100 120 140 160
Deviation
0.1
−
0.05
− 0
0.05 0.1
図3.12 横軸:入れた電荷量、縦軸:オシロ スコープに出力された波高。
Slow Shaper10に関しては、設計領域の0-150 MIPs に対し線形性を持っていることが確
認できた。
Slow Shaper1 (Low gain)
150 - 2500 MIPsの領域をカバーする、Slow Shaper1についても同様に、テストボード
の出力を設定し測定した。フィッティングは、150 - 1800 MIPまでを用いている(図3.13,
3.14)。1800 MIPsまでは、線形性が確認できるが、それ以降は飽和している。これは、前段
にあるプレアンプで飽和を起こしていることが原因である。
3.4.2
Fast Shaper
測定
(
デジタル部
)
Fast ShaperはASICのトリガーとなる部分である。ここでは、入力として10 kHz、duty
cycle 50%、大きさ1∼10 MIPsの矩形波を2秒間、SKIROC2に入れた。そして、閾値を変
えながらSKIROC2がデジタルデータとして返すカウント数を元に検出効率を見積もった。
その検出効率を元にS-curveを描きFast Shaperの線形性、ノイズ、S/Nを見積もった。検
出効率は、以下のように定義する。
検出効率=
2秒間に実際にカウントされた数
2秒間に入れた矩形波の数