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学位論文 Experimental Particle Physicsyushu University

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(1)

ILC

における

Si-W

細分割電磁カロリメータ

試作機の性能研究

2013

年度

修士論文

2SC12016E

宮崎 陽平

九州大学理学府物理学専攻 素粒子実験研究室

指導教員

川越清以 教授

(2)
(3)

概 要

ILC (International Linear Collider)計画は次世代の電子陽電子衝突型線形加速器実験で

あり、重心系エネルギー250 GeV∼1 TeVの領域の物理を低いバックグランド事象のもと

で探索することが可能である。ILCの物理目標はヒッグス粒子、トップクォークの詳細な

研究や超対称性粒子の探索である。ILCでは興味のあるプロセスの終状態に多数のジェッ

トを含むため、測定器には高いジェットエネルギー分解能と粒子分離能が要求される。こ

れらの要求を満たすためにCALICE (Calorimter for the Linear Collider Experimets)コラ

ボレーションは細分化されたサンプリング型の電磁カロリメータを提案し、その試作機を

作製した。この試作機には吸収層にタングステン、検出層にピクセルサイズが1×1 cm2の

シリコンピクセル検出器を用いた。この試作機の性能評価を行うためにCALICEコラボ

レーションは2006年にスイスの欧州原子核研究機構(CERN)、2008年にアメリカのフェ

ルミ国立加速器研究所(Fermi National Acelerator Laboratory:FNAL)でそれぞれビーム

テストを行った。CERNでのビームテストでは有感領域18×12 cm2、厚さ24 X0の試作

機を用い6-45 GeVの電子ビームに対する試作機の応答の線形性及びエネルギー分解能の

性能評価が行われた。FNALのビームテストでは有感領域18×18 cm2、厚さ24 X

0の試

験が4-20 GeVの陽電子ビームを用いて行われた。

本研究では2008年のビームテストで取得したデータを用いて陽電子に対する応答の線

形性とエネルギー分解能の性能評価を行った。まず、各エネルギーに対して陽電子のイベ ントだけを選択するために事象選別を行った。その後エネルギー分布を作成し、性能評価 を行った。この試作機には構造上、有感領域内に不感領域が存在するため、その影響の有

無を調べた。応答の線形性からのずれは0.5%以内であり、エネルギー分解能は統計項が

(4)
(5)

目 次

第1章 国際リニアコライダーと

ILD検出器 8

1.1 イントロダクション . . . 8

1.2 国際リニアコライダー . . . 9

1.3 ILC加速器. . . 9

1.3.1 電子源 . . . 10

1.3.2 陽電子源 . . . 10

1.3.3 減衰リング . . . 12

1.3.4 主線形加速器 . . . 12

1.3.5 ビーム分配系 . . . 13

1.3.6 ILCのビーム . . . 13

1.4 ILD検出器 . . . 13

1.4.1 飛跡検出器 . . . 15

1.4.2 カロリメータ . . . 17

1.4.3 前方検出器 (Forward Detector) . . . 20

1.4.4 ソレノイドコイルとリターンヨーク . . . 22

1.4.5 ミューオン検出器 . . . 22

第2章 カロリメータ 23 2.1 物質中での電磁粒子の反応 . . . 23

2.1.1 電離損失 . . . 23

2.1.2 電子の制動放射 . . . 23

2.1.3 光子の物質中での相互作用 . . . 24

2.2 電磁シャワー . . . 25

2.3 ハドロンシャワー . . . 25

2.4 サンプリング型カロリメータ . . . 26

2.5 Particle Flow Algorithm . . . 27

2.5.1 PFAによるエネルギー測定 . . . 27

(6)

第3章 FNALでのテストビーム実験 30

3.1 CALICE Si-W電磁カロリメータ . . . 30

3.2 電磁カロリメータ試作機 . . . 30

3.3 測定系 . . . 33

3.4 MT6 . . . 35

3.5 テストビームセットアップ . . . 36

第4章 テストビームデータの解析 37 4.1 MIPキャリブレーション . . . 37

4.2 エネルギー再構成と事象選別 . . . 37

4.3 ギャップ補正 . . . 41

4.4 応答の線形性とエネルギー分解能 . . . 46

4.4.1 応答の線形性 . . . 46

4.4.2 エネルギー分解能 . . . 46

(7)

図 目 次

1.1 素粒子標準模型 . . . 9

1.2 ILCのレイアウト . . . 10

1.3 電子源 . . . 11

1.4 陽電子源 . . . 11

1.5 加速空洞 . . . 13

1.6 ILCのビーム構造 . . . 14

1.7 ILD検出器の外観図 . . . 14

1.8 バーテックス検出器の外観図 . . . 16

1.9 シリコン飛跡検出器の外観図 . . . 17

1.10 TPCの外観図 . . . 18

1.11 電磁カロリメータの外観図 . . . 19

1.12 ハドロンカロリメータの外観図 . . . 20

1.13 前方検出器の外観図 . . . 21

1.14 LumiCalの外観図 . . . 21

1.15 BeamCalの外観図. . . 21

1.16 ソレノイド及びリターンヨークの外観 . . . 22

2.1 PandoraPFAによる100 GeVジェットの再構成. . . 27

2.2 各検出器のエネルギー分解能 . . . 28

2.3 ECALのセルサイズによるエネルギー分解能の変化 . . . 29

3.1 CALICE電磁カロリメータ試作機の概略図. . . 32

3.2 検出器スラブの構造図. . . 32

3.3 シリコンセンサーの概略図 . . . 32

3.4 不感領域と各層のオフセット . . . 32

3.5 very front end PCBの写真 . . . 34

3.6 MT6でのビームの詳細 . . . 35

3.7 テストビームのセットアップ図 . . . 36

4.1 MIPキャリブレーション . . . 38

4.2 ビームエネルギー20 GeVでのECAL (left)、HCAL (right)それぞれのエ

(8)

4.3 ECALとHCALの相関図. . . 40

4.4 事象選別前(open histogram)と後(solid histogram)のECALのエネルギー 分布 . . . 40

4.5 8 GeVの陽電子ビームを入射した際のシャワー重心系での平均エネルギー の散布図 . . . 42

4.6 x¯ (左図), ¯y (右図)方向のシャワー重心系でのカロリメータの応答 . . . 43

4.7 4, 6 GeVでのx¯ (左図), ¯y (右図)方向のシャワー重心系でのカロリメータ の応答 . . . 43

4.8 8 GeVの陽電子ビームを入射した際のそれぞれシャワー重心系での平均エ ネルギー分布 . . . 44

4.9 8 GeVの陽電子ビームを入射した際のエネルギー分布 . . . 45

4.10 ギャップの補正後のエネルギー分布とそのフィッティング . . . 46

4.11 ギャップ補正前の応答の線形性と線形性からのずれ . . . 47

4.12 ギャップ補正後の応答の線形性と線形性からのずれ . . . 47

(9)

表 目 次

2.1 代表的な吸収物質の放射長X0、モリエール半径RM、相互作用長λI、放射

長と相互作用長の比X0/λI . . . 26

4.1 それぞれの事象選別後の陽電子数のまとめ . . . 39

4.2 8, 12, 20 GeVのフィット結果 . . . 42

4.3 4, 6 GeVのフィット結果 . . . 44

4.4 “no correction”での各エネルギーの平均値Emean、分散σ、分解能σ/Emean 49 4.5 “gap correction”での各エネルギーの平均値Emean、分散σ、分解能σ/Emean 49 4.6 “center region w/ gap”での各エネルギーの平均値Emean、分散σ、分解 能σ/Emean . . . 50

4.7 “center region w/o gap”での各エネルギーの平均値Emean、分散σ、分解 能σ/Emean . . . 50

(10)
(11)

1

章 国際リニアコライダーと

ILD

検出器

国際リニアコライダー計画に用いる測定器のコンセプトの1つとしてILD (International

Large Detector)検出器 [3]がある。ILD検出器は崩壊点検出器、シリコン飛跡検出器、主

飛跡検出器(TPC)、電磁カロリメータ、ハドロンカロリメータ、ソレノイドコイル、ミュー

オン検出器から構成されている。ILC計画実現のために、各検出器の試作機が作られ性能

測定が行われている。本論文の研究目的は米国フェルミ加速器研究所において、初めてフ ルサイズの電磁カロリメータ試作機を用いて行われたテストビームのデータ解析を行い 陽電子に対する試作機の応答の線形性及びエネルギー分解能の性能測定を行うこと、そし

てその結果がILDが要求する性能を満たすかどうかを検証することである。

この章では国際リニアコライダーとILD検出器について、2章ではカロリメータの原理

について詳しく説明する。また3章から本研究に用いた試作機とテストビームについて、

4章で性能測定について説明する。

1.1

イントロダクション

素粒子物理学には物質を構成する基礎粒子の間の相互作用を記述する標準理論が存在 する。標準理論では物質を構成する粒子であるクォーク・レプトンと力の媒介となるゲー ジ粒子、質量の起源となるヒッグス粒子を最小単位としている。クォークとレプトンは

それぞれ6種類存在し、それぞれスピン1/2を持っている。クォークには電荷2/3を持つ

アップクォーク(u)、チャームクォーク(c)、トップクォーク(t)と、電荷−1/3を持つダウ

ンクォーク(d)、ストレンジクォーク(s)、ボトムクォーク(b)が存在する。レプトンは電

荷−1を持つ電子(e)、ミュー粒子(µ)、タウ粒子(τ)と、電荷を持たない三種類のニュー

トリノ (νe,νµ, ντ)が存在する。これらクォークとレプトンはそれぞれ三世代に分類され、

世代が変わる毎に質量が大きく変わる。これらの粒子間には、力の媒介となるゲージ粒子

を交換する事で相互作用が働く。ゲージ粒子には電磁相互作用を媒介する光子(γ)、強い

相互作用を媒介するグルーオン(g)、弱い相互作用を媒介するW±、

Zの4種類が存在し

ている。ヒッグス粒子(H)は素粒子の質量の起源となる粒子である。2012年7月4日に

大型ハドロン衝突型加速器(LHC)におけるATLAS実験およびCMS実験により標準模型

(12)

が全て出そろった。しかしながら標準理論はいくつかの問題を含んでいる。その問題を解 明するために国際リニアコライダー計画への関心が高まっている。

物質を構成する粒子

レプトン

オー

力を媒介する粒子

電磁相互作用

弱い相互作用 強い相互作用

質量を与える粒子

ヒッ ス粒子

図 1.1: 素粒子標準模型

1.2

国際リニアコライダー

国際リニアコライダー (International Linear Collider:ILC)計画は電子陽電子衝突型線

形加速器実験である。ILCの物理目標はヒッグス粒子、tクォークの詳細な研究や超対称

性粒子の探索である。

加速器の全長は約30kmであり、重心系エネルギーを250 GeV∼500 GeVまで段階的に

上げていき実験を行う。後に1 TeVまで拡張する予定となっている。ILCで衝突させる電

子と陽電子は内部構造を持たない素粒子であるため、LHCの陽子・陽子衝突型加速器と

は異なり、低いバックグランド事象のもとで素粒子反応素過程の精密測定が可能である。

測定器のコンセプトは現時点でILDとSiD (Silicon Detector)の2種類がある。本研究

ではILDを想定した検出器の性能評価を行っているため、後の章では主にILD検出器に

ついて説明する。

1.3

ILC

加速器

加速器は主に、電子源、陽電子源、減衰リング、主線形加速器から構成される。まず電 子源で電子を生成し、その電子を用いて陽電子源で陽電子を生成する。その後それぞれの ビームを減衰リングに入射しビームの広がりを抑え、主線形加速器でビームを一気に加速

(13)

図 1.2: ILCのレイアウト

1.3.1

電子源

電子源 (図1.3)では、偏極したレーザーをGaAs標的に照射し、光電効果により80%偏

極した電子を生成する。生成した電子は常伝導加速管でバンチと呼ばれるかたまりにされ

76 MeVまで前段加速される。その後、超伝導加速管で5 GeVまで加速され、減衰リング

に入射される。

1.3.2

陽電子源

陽電子源 (図 1.4)では、電子源において生成した電子ビームから制動放射により光子

を生成し、その光子を標的に衝突させることで電子・陽電子を対生成させ、そこから陽電 子だけを取り出しビームとして利用する。主線形加速器で加速された電子ビームはいった

ん取り出され、147 mのアンジュレータと呼ばれる真空管を通る。アンジュレータの中で

は磁場の向きを周期的に変えて電子を蛇行させているため、制動放射により電子ビームの

エネルギーに応じて10 MeV∼30 MeVまでの光子を生成することができる。生成された

光子をチタン標的(厚さ0.4 X0の円盤)に衝突させ、電子と陽電子を対生成させる。その

後、磁場により陽電子だけを分離させる。分離した陽電子は常伝導加速管で400 MeVま

で加速され、その後に超伝導加速管で5 GeVまで加速され減衰リングに入射される。陽

(14)

図 1.3: 電子源

(15)

1.3.3

減衰リング

電子・陽電子源において生成した5 GeVのビームは、円周6.7 kmの減衰リングの中を

200 msで周る。減衰リングでは、リングの円弧部分においてビームを曲げることで、制

動放射により光子を放出させ、横方向のビームの広がりを小さくしている。ビームの広

がりはエミッタンスǫと呼ばれる量で評価でき、これは位置と運動量の位相空間における

ビームの位置の広がり∆xphaseと運動量の広がり∆pphaseで表され、互いに相関がない場

合は

ǫ= ∆xphase·∆pphase (1.1)

となる。ビームのサイズσx,yはエミッタンスを用いて

σx,y =√βx,y·γeǫx,y (1.2)

という関係で表される。ここで、ベータ関数βx,yは、ビームの大きさの目安であり、ベー

タが小さい程ビームの分布の広がりが小さくなる。またγe=1/√1v2/c2である。これ

は衝突点でビームをいかに小さく絞るかは、減衰リングでどこまでエミッタンスを小さく できるかに依存することを示している。

1.3.4

主線形加速器

減衰リングから取り出された電子・陽電子ビームはRTML (Ring to Main Linac)によっ

て5 GeVから15 GeVまで加速されて主線形加速器に運ばれる。従って主線形加速器で

は重心系エネルギー500 GeVを実現するために、15 GeVから250 GeVまで電子・陽電

子を加速する。この加速を実現するためには主線形加速器において、電子・陽電子ビーム

を、それぞれ超伝導空洞で11 kmの間を平均加速勾配31.5 MeV/mで加速する必要があ

る。超伝導空洞は、RFユニットと呼ばれるクライオモジュールで構成され、電子ビーム

には282個、陽電子ビームには278個のRFユニットが必要とされる。更に、RFユニッ

トは、周期的構造を持つ3つの加速空洞 (図1.5)で構成され、それぞれの加速空洞は8∼9

個のセルを持ち、RFユニットは合計26個のセルを持つ。粒子が1セルを走る間に、マイ

クロ波が180度位相変化するようにセルの長さと周波数を選択している。これにより、各

セルにおいて順にビームが加速されていく。前述したように、陽電子の生成には150 GeV

の電子を取りだして使用するので、光子発生分のエネルギーだけ電子のエネルギーが減少

してしまう。そのため、電子のRFユニットの数は陽電子のユニット数よりも多くなって

(16)

図 1.5: 加速空洞

1.3.5

ビーム分配系

主線形加速器において250 GeV まで加速された電子・陽電子ビームは、ビーム分配系

(Beam Delivery System:BDS)において、衝突点でのビームサイズ(5.6 nm × 639 nm)

までに収束させる。ILCでの衝突角度は14mradなので、ビームの入射パイプと引き出し

パイプを分離することが可能であるが、ルミノシティを上げるためにクラブ空洞が必要と なる。クラブ空洞とは、ビームを磁場でキックすることによって回転させ、衝突点におい

て正面衝突させる空洞のことである。また、BDS の役割には衝突後のビームを捨てるこ

とやビームの形状が大きく異なったビームから検出器を守ること、検出器でバックグラン ドとなるビーム・ハローを除去することなどがある。

1.3.6

ILC

のビーム

ILCのビームはトレインと呼ばれる塊が約200ミリ秒間隔で並んでいる。更に、そのト

レインは2650個のバンチと呼ばれる塊からできており、それぞれのバンチは369 n秒間

隔で並んでいる。それぞれのバンチには約2×1010個の電子(陽電子)が詰まっている。こ

のような電子ビームと陽電子ビームはそれぞれの加速管を通って衝突点へと向かう。衝突

点でのバンチのサイズは639 nm × 5.7 nm× 300 µmとなる。

1.4

ILD

検出器

ILDは汎用型測定器であり、アジアを中心とするGLD (Global Large Detector)グルー

プとヨーロッパを中心とするLDC (Large Detector Concept)グループが2007年に統合さ

れたものである。ILD検出器は内側から崩壊点検出器、シリコン飛跡検出器、TPC、カ

ロリメータ、ソレノイドコイル、ミューオン検出器が設置されている。崩壊点検出器によ

(17)

図 1.6: ILCのビーム構造

シリコン飛跡検出器、崩壊点検出器によっても補佐される。カロリメータでは個々の粒子

のエネルギーを測定し、後述するPFAにより粒子の再構成を行う。

図 1.7: ILD検出器の外観図。内側から崩壊点検出器、シリコン飛跡検出器、TPC、カロ

(18)

1.4.1

飛跡検出器

ILDの飛跡検出器は、崩壊点検出器、シリコン飛跡検出器、TPCの3つから構成され

る。飛跡検出器全体の運動量分解能として、

∆pt p2

t ≤

2×10−5

(GeV/c)−1

(1.3)

を目指している。ここでptは横方向運動量である。

崩壊点検出器 (VTX:Vertex Detector)

崩壊点検出器は最も衝突点に近い位置に設置してあり、荷電粒子の飛跡と崩壊点を正確

に再構成する事を目的としている。ILC実験では高精度でのbクォークとcクォークの同

定 (フレーバータグ)が要求されている。そのため要求される衝突点分解能は、

σ 5 10

pβsin3/2θ(µm) (1.4)

という非常に高い精度となる。ここで、pは粒子の運動量、βは粒子の速度、θはビーム

軸方向からの角度である。また、ABは二乗和を表しており、√A2+B2となる。この

式は、検出器の分解能による影響と粒子の多重散乱による影響を表している。粒子の飛跡 を正確に求めるためには崩壊点検出器は出来るだけ衝突点の近傍に設置されることが望 ましい。しかし、衝突点近傍に設置する程、ビームからの電子・陽電子ペアバックグラン

ドが崩壊点検出器に多数衝突してしまう。ILCではビームを200 msおきに衝突させるが、

1トレインにわたってヒット情報を蓄積すると、ピクセル占有率が10%を超えてしまう。

ピクセル占有率が大きくなると飛跡の再構成が正確に行えなくなるため、数%以下に抑え

る必要がある。ピクセル占有率を低く保つ解決策として、2つの方法が考えられている。

1つ目はピクセルを細かくすることで、トレイン中の全ヒットを蓄えてもピクセル占有率

を低く保つ方法である。2つ目はトレイン中に読み出しを行い、ピクセル占有率を低く保

つ方法である。また、多重散乱の影響がフレーバータグの性能に寄与するため、VTXは

低物質量であることが望ましい。前者は日本グループの案であり、独自のアイデアである センサーを高精細にすることでピクセル占有率を抑える方法を採っており、センサーに高

精細CCDを用いた崩壊点検出器の開発を行っている。バーテックス検出器の構造にはシ

ングルレイヤーとダブルレイヤー (図 1.8)のオプションがある。

高精細CCDバーテックス検出器

(19)

図 1.8: バーテックス検出器の外観図。(左)シングルレイヤー、(右)ダブルレイヤー。

(Fine Pixel CCD)バーテックス検出器はピクセルが5 µm×5 µmと非常に小さい。これ

により1トレインの間にヒット信号をためてもピクセル占有率は上がらず、トレイン間の

200 msで信号を読み出すことが可能になる。FPCCDでは有感層が全空乏化されており、

信号電荷がすぐにポテンシャル井戸に移動するため、熱拡散が抑えられ、近接する二粒子 を高分解能で検知できる。更に、ヒットのあるピクセルの並び方により、信号の入射方向 が分かるようになっており、バックグランドは磁場によりビームパイプに垂直な方向へ曲 げられているため、粒子の入射方向の情報によりバックグランドの除去が可能になる。

シリコン飛跡検出器

シリコン飛跡検出器は崩壊点検出器と中央飛跡検出器の間を補完して飛跡検出器全体 としての運動量分解能を向上させること、及び粒子の電磁カロリメータへの入射位置と

時間を測定することを目的とした検出器である。VTXとTPCの間を補完するためのSIT

(Silicon Internal Tracker)がバレル部分に、FTD (Forward Tracking Detector)がエンド

キャップ部にある。ECALへの粒子の入射位置と時間を測定するために、バレル部にSET

(Silicon External Tracker)、エンドキャップ部にETD (End-cap Tracking Detector)が設

(20)

図 1.9: シリコン飛跡検出器の外観図

主飛跡検出器 (TPC:Time Projection Chamber)

TPCは荷電粒子の飛跡を3次元的に再構成するためのガス検出器である。ガスを検出媒

体としたTPCであり、検出器端部にマイクロパターンガス検出器(MPGD:micro-pattern

gas detector)が敷き詰められ、内部空間はガスが充満した構造となっている。粒子の検出

は以下の手順で行われる。まず、荷電粒子がTPC内のガスを通過するとガスが陽イオン

と電子に電離される。電離した電子はビーム軸に平行な電場によってエンドプレートの方 向にドリフトされる。エンドプレートにあるガス検出器に達した電子はそこで電子雪崩を 起こし、数千倍に増幅されて検出される。このドリフトに要した時間の情報と、MPGD による二次元の空間情報を用いることで、荷電粒子の飛跡を三次元的に再構成する。TPC

はガスを用いているため物質量が少なく、それ故TPCの外側にあるカロリメータの測定

精度への影響が少ない。また、TPC中でのトラックのエネルギー損失dE/dxから粒子識

別が可能であるため、物理解析に重要な情報を得ることができる。なお、TPCには

σ(1/p)9×10−5(GeV/c)−1 (1.5)

の運動量分解能、5%以下のdE/dx分解能が要求されている。

1.4.2

カロリメータ

カロリメータでは入射粒子のエネルギー及び位置をカスケードシャワー現象を用い

て測定する。ILD検出器には電磁シャワーを測定する電磁カロリメータ

(Electromag-netic Calorimeter:ECAL)とハドロンシャワーを測定するハドロンカロリメータ(Hadron

(21)

図 1.10: TPCの外観図

リメータは後述するParticle Flow Algorithm (PFA) [5]のために最適化されている。PFA

では粒子を個別に再構成するために、カロリメータには細分度やパターン認識が要求され る。またカロリメータはソレノイドコイルの内側に配置されている。カロリメータの原理

については2章で詳しく述べる。

ECAL

ECALは光子と電子のエネルギーを測定することを目的としたカロリメータである。

ECALに要求される細分度、小型化、粒子の分離能力の点から吸収材としてタングステン

(放射長X0 = 3.5 mm、モリエール半径RM = 9.3 mm、相互作用長λI = 99 mm)が使わ

れる。そのため20 cmで約24X0の厚みとなり小型化が可能となる。また吸収材が鉛であ

る場合と比べてモリエール半径が小さいことから電磁シャワーがよく分離できる。

ILDのECALには使用する検出層の物質の違いにより3つのオプションが存在する。

Si-W ECAL

基本設計では、ECALは30層のシリコン (Si)と29層のタングステン (W)で構成され

ている。29層の最初の20層に0.6 X0 (2.1 mm)のタングステン、次の9層に1.2 X0 (4.2

mm) のタングステンが挟まれている。検出層にはセルサイズが5 mm×5 mmのシリコン

ピクセル検出器を用いる。読み出しチャンネルは合計で約108個あり、可能な限り小型化

(22)

図 1.11: 電磁カロリメータの外観図

Sc-W ECAL

日本グループが中心となり研究しているカロリメータであり、シリコンより安いコスト

で製作するために考えられた。Sc-W ECALの検出層には長さ45.0 mm、幅5.0 mmのシン

チレータストリップを使用している。これを縦横交互に配置することで仮想的に5 mm×5

mmのセルを実現することができる。このような構造により読み出しチャンネルはSi-W

ECALよりも少ない。シンチレータ内で発生したシンチレーション光はシンチレータの端

に取り付けられた光検出器MPPC (Multi Pixel Photon Counter)で信号を読み出す。

Hybrid ECAL

Hybrid ECALは検出層においてシリコン層とシンチレータストリップ層を併用する案

であり、性能を保ちつつコストを削減することが期待できる。

HCAL

ハドロンカロリメータの役割は荷電ハドロンと中性ハドロンのエネルギー損失を分離

し、中性ハドロンのエネルギーを正確に測定することである。HCALはECALと同様に

サンプリングカロリメータであり、吸収層にステンレス鋼、検出層にはセルサイズが3×3

cm2 のシンチレータタイル (analogue HCAL)もしくはガス検出器 (semi-digital HCAL)

が用いられる。ステンレス鋼の剛性によりそれ自身で支えられるため補助の支持構造が 必要なく不感領域を少なくできる。さらに、鉄はより重い物質と比べてハドロン相互作用

(23)

なサンプリングが可能であり、検出器の大きさと読み出しチャンネルの数を少なくするこ

とができる。HCALのデザインにも2種類あり(図 1.12)、そのどちらもがシンチレータ、

ガスを選んで装備することができる。デザイン1はバレル部分がビームパイプの方向に2

つに分かれていて、エレクトロニクスはその側面に配置されている。一方デザイン2はバ

レル部分が5つに分かれていて、エレクトロニクスはバレルの周辺に位置する。どちらも

エンドキャップのデザインは共通であり、四分円で構成される。

図 1.12: ハドロンカロリメータの外観図

1.4.3

前方検出器

(Forward Detector)

ILDでは検出器の超前方方向にLumiCalとBeamCalと呼ばれる2つの特別なカロリ

メータが設置される予定である。LumiCalとBeamCalは円筒形のECALで、衝突後の

ビーム軸を円の中心としている。LumiCalはECALのend-capに接している。BeamCal

は最終収束マグネットの前に設置されている。

LumiCal

LumiCal (図 1.14)はBhabha散乱(e+e−→

e+e

)を利用してルミノシティを測定する

カロリメータである。重心系エネルギー500 GeVで10−3より良い精度でルミノシティを

精密に測定する。LumiCalは、シリコンとタングステンから成るサンプリングカロリメー

(24)

図 1.13: 前方検出器の外観図

BeamCal

Beamstrahlungによる低エネルギーの電子・陽電子ペアがBeamCal (図 1.15)でエネル

ギーを落とすことになる。これによりバンチ毎のルミノシティの見積もりや、ビームサイ

ズの測定が可能となる。BeamCalはセンサーとタングステンから成るサンプリングカロ

リメータであり、放射線は1年間で数MGyにも及ぶため、放射線に強いセンサーが不可

欠となる。BeamCalはビーム軸からの角度5∼40 mradの範囲をカバーしている。

(25)

1.4.4

ソレノイドコイルとリターンヨーク

ソレノイドで磁場を作り出し、リターンヨークで磁場が外に漏れることを防ぐ。超伝導

ソレノイドを使用して、3.5 T (最大 4T)の磁場を発生させる。コイルは5つのモジュー

ルからなり(内径:3.6 m、外径:4.1 m)、クライオスタット内に設置される。コイルの長

さは7.4 mである。

リターンヨークは十二角形で、バレル部分及びエンドキャップ部分に10 cmの厚さの鉄

の板が10枚入っている。図1.16はソレノイドとリターンヨークの全体図である。

図 1.16: ソレノイド及びリターンヨークの外観

1.4.5

ミューオン検出器

最も外側に位置する検出器であり、ミューオンを識別することを目的としている。ビー ムの衝突で生成される粒子のうち、カロリメータを通過してくる粒子のほとんどはミュー

オンである。ILDにおける強い磁場のもとでは、約3 GeV以上の運動量を持つミューオ

ンがミューオン検出器に到達する。ミューオン検出器は非常に広い範囲をカバーしなくて はならないため、安価で容易に製造できることが求められる。検出器案としては、ガスと

シンチレータの2種類が考えられている。なお、ミューオン検出器で検出された信号と飛

(26)

2

章 カロリメータ

カロリメータは高エネルギー物理実験における粒子のエネルギーを測定する検出器で ある。高エネルギーの光子、電子陽電子やハドロンは物質と相互作用し二次粒子を生成す る。この二次粒子はさらに物質と相互作用することで粒子を生成する。これが続いて起こ る結果カスケードシャワーが起こる。カロリメータではこのカスケード現象を利用して粒 子のエネルギーを効率的に測定する。

2.1

物質中での電磁粒子の反応

2.1.1

電離損失

高エネルギーの粒子が物質を通過すると原子をイオン化しエネルギーを失う [6]。入射

粒子が微小距離dxを通過する際に失う平均エネルギーはBethe-Blochの式に従い、

−dE

dx = 4πNAr

2

emec2z2 Z A

1

β2

(

ln2mec

2γ2β2

I −β

2

− δ2

)

(2.1)

で与えられる。ここでzは素電荷を単位とした入射粒子の電荷、ZとAは吸収体の原子

番号と質量数、meとreはそれぞれ電子の質量と古典半径でme = 0.511 MeV/c2、re =

2.82×10−15 m、

NAはアボガドロ数でNA = 6.022×1023 mol1

、Iは吸収体特有の平均

電離エネルギーであり、I = 16Z0.9 eV、δは物質を構成する原子内の電子による電場の

遮蔽効果を表したパラメータである。この式(2.1)は荷電粒子の物質中での電離と励起に

よるおよそのエネルギー損失を表しているが、数100GeVのエネルギーまで2, 3%のレベ

ルで正確に表している。電子では10%程度の補正が必要である。またこの式(2.1)は入射

粒子の質量によらずβに依存する関数である。エネルギー損失はβの増加に伴い減少し

β=0.95付近で最小値をとる。ここからβがさらに増加してもエネルギー損失はわずかに

増加するだけでほぼ一定の値をとる。このような最小の電離損失で物質を通過する粒子を

最小電離損失粒子 (Minimum Ionizing Particle:MIP)と呼ぶ。

2.1.2

電子の制動放射

電子・陽電子は質量が小さいため、高エネルギーになると式(2.1)の電離によるエネル

(27)

を放出することでもエネルギーを失う。これを制動放射 (Bremsstrahlung)と呼ぶ。電子

が微小距離dxを通過する際、制動放射により失う平均エネルギーは

(

−dE dx

)

Brem

= 4αNAZ

2

Ar

2

eE ln

183

Z1/3 =

E X0

(2.2)

である。ここでX0は放射長といい制動放射によって電子のエネルギーが初期のエネルギー

の1/eになる平均の長さである。超相対論的極限では、電離によるエネルギー損失は無視

できる。このときエネルギー損失は

dE

E =−

dx X0

(2.3)

と放射長のみで表すことができる。エネルギーE0を持った入射粒子が厚さxの物質を通

過後に持つ平均のエネルギーは

E =E0exp

(

− x

X0

)

(2.4)

となる。制動放射で失うエネルギーと電離損失で失うエネルギーが等しくなるエネルギー を境にエネルギーを失う支配的な過程が変わる。この時のエネルギーを臨界エネルギー

(Ec)と呼び、近似的に

Ec = 610 MeV

Z+ 1.24 (2.5)

と与えられる。

2.1.3

光子の物質中での相互作用

強度I0をもつ光子ビームが、厚さxの層、または質量X =ρxの厚さの媒質の層を通過

するとき、この層を通り抜ける強度は

I(X) =I0e

λx

=I0e

(λ/ρ)X

(2.6)

である。ここでλは線形吸収係数であり、λ/ρは質量吸収係数である。光の吸収の場合こ

のλと断面積σの間の関係はλ=σNAρ/Aである。この断面積には光子のエネルギー(Eγ)

によって次の3つの過程が寄与する。光子のエネルギーが100 keV以下では光電効果(γ+

原子→イオン+e−)、1 MeV付近ではコンプトン効果

(γ+e−→

γ+e−)、

Eγ>2 MeVに

なると原子核の近傍で電子・陽電子対が生成される。原子核による対生成の断面積は

σpair ≈4αr2eZ2 (

7 9ln

183

Z13 ) = 7 9 A NA 1 X0

(28)

と書ける。

λpair =

9

7X0 (2.8)

このとき放射長はX0は式(2.7)で定義され、これは高い光子エネルギーにおいて対生

成過程が確率P1-e−7/9

≈54%で起こるような媒質の厚さに対応する。

2.2

電磁シャワー

エネルギーが100 MeVを超える電子および光子の物質との相互作用はそれぞれ主に制

動放射と電子陽電子対生成過程が支配的である。従って高エネルギーの電子が物質中に入 射すると制動放射により光子を生成し、光子は電子陽電子対生成により電子陽電子を生 成する。この過程の繰り返しにより電磁シャワーが起こる。電磁シャワーは粒子のエネル

ギーが臨界エネルギーEcよりも低くなると電子は電離や励起作用、光子はコンプトンや

光電効果による相互作用が支配的となるため電磁シャワーの発達は止まる。電磁シャワー の奥行き方向の発達は

dE

dt =E0b

(bt)a−1e−bt

Γ (a) , t =x/X0 (2.9)

であらわされ、シャワーの発達が最大となる深さは

tmax = ln

( E0

Ec

)

+Cγe (2.10)

と近似的に表せる。ここでCγeは入射粒子によって値が異なり、電子の場合0.5であり、

光子の場合+0.5をとる。また、シャワーの横方向の広がりを表す量としてモリエール半

径がある。モリエール半径は

RM = 21 (MeV)X0

Ec

g/cm2 (2.11)

と書き表せ、エネルギーの90%が入るシャワーの半径を表し、入射粒子のエネルギーにほ

とんど依存しない量である。

2.3

ハドロンシャワー

高エネルギーのハドロンが物質中に入射すると物質中の核子との相互作用により弾性散

乱や非弾性散乱を起こし、πやK中間子、陽子、中性子などの二次粒子を生成する。この

(29)

生成ハドロンのエネルギーが小さくなるか核子に吸収されるまで続く。通常ハドロンシャ

ワーの奥行き方向の発達は相互作用長λIを用いて表わされる。λIの大まかな値は

λI≈35 g/cm2A1/3 (2.12)

で表される。この値は放射長X0に比べ十分大きいためハドロンカロリメータは電磁カロ

リメータより大きくなくてはならず、電磁カロリメータよりも外側に置かれる。

表 2.1に代表的な吸収物質の放射長X0、モリエール半径RM、相互作用長λI、放射長

と相互作用長の比X0/λIをまとめている。

表 2.1: 代表的な吸収物質の放射長X0、モリエール半径RM、相互作用長λI、放射長と相

互作用長の比X0/λI。

吸収物質 X0 (cm) RM (cm) λI (cm) λ/X0

Fe 1.76 1.69 16.8 9.5

Cu 1.43 1.52 15.1 10.6

W 0.35 0.93 9.6 27.4

Pb 0.56 1.00 17.1 30.5

2.4

サンプリング型カロリメータ

カロリメータは上で述べたようなシャワー現象を利用して粒子のエネルギーを効率的に 測定する。カロリメータは全吸収型カロリメータとサンプリングカロリメータに分けられ る。ここでは本研究に用いたサンプリング型カロリメータについて説明する。サンプリン グ型カロリメータはシャワーを発生させる吸収層と粒子を検出できる検出層とを交互に組 み合わせて構成される。通常吸収層には物質量の大きい物質を用い効率的にシャワーを起 こさせ、エネルギーを測定する。検出層には粒子を検出できる軽い物質を用いる。粒子が

検出層を通過する時、粒子はMIPとして扱えるため、検出されるエネルギーは粒子数に

比例する。

カロリメータの性能を評価する上で指標となるのがエネルギー分解能である。これはエ ネルギーをどこまで正確に測定できるかということを意味している。カロリメータのエネ ルギー分解能は

σE

E =

σstoch

E ⊕σconst (2.13)

と表せる。ここで、σstoch⊕σconst =

√ σ2

(30)

での検出する粒子の統計的揺らぎを表す。σconstは電磁シャワーの漏れや個々の読み出し

チャンネルの非一様性に起因する。

2.5

Particle Flow Algorithm

ILCでは終状態に多数のジェットを含むため、検出器には高いジェットエネルギー分解

能を持つことが要求される。そのようなジェットエネルギ―分解能を達成する為に、ILC

ではParticle Flow Algorithm (PFA)と呼ばれる事象再構成法が提案されている。PFAで

はジェットを構成する粒子を、荷電粒子は飛跡検出器で、光子は電磁カロリメータで、中 性ハドロンはハドロンカロリメータでと各粒子を最も良い検出器で測定しジェットエネル ギ―分解能の向上を目指す。

図 2.1: PandoraPFAによる100 GeVジェットの再構成。

2.5.1

PFA

によるエネルギー測定

典型的なジェットのエネルギーは60%が荷電粒子、30%が光子、残りの10%が中性ハドロ

ンで構成されている。また、荷電粒子のほとんどはハドロンであり、HCALのエネルギー

分解能はECALに比べ良くない(HCAL :σE/E60%/√E、ECAL :σE/E20%/√E)。

従来の方法では、エネルギーの測定はカロリメータのみで測定していたが、ジェットエネル

ギー分解能の向上のためにはHCALを極力使わない方が良い。図2.2にTracker、ECAL、

(31)

のエネルギー分解能が良いことが分かる。このことから荷電粒子は飛跡検出器でエネル

ギーを測定する方が良い。従ってPFAでは以下の手順でエネルギーの測定を行う。

1. カロリメータにおいてジェット中の各粒子に対応するクラスターを再構成する。

2. 飛跡検出器で荷電粒子の飛跡から運動量を測定する。

3. 飛跡検出器で測定された荷電粒子に対応するカロリメータのクラスターを取り除く。

中性粒子はシャワーの位置 (ECAL/HCAL)により光子、中性ハドロンの粒子識別

を行う。

4. 飛跡検出器で測定した荷電粒子の運動量とカロリメータで測定した中性粒子のエネ

ルギーよりジェットのエネルギーを再構成する。

このようにPFAではHCALで測るエネルギーの割合を減らし、精度の良い飛跡検出器

で荷電粒子を測定することでジェットエネルギー分解能を高めることができる。

図 2.2: 各検出器のエネルギー分解能。黒線は飛跡検出器、赤線はECAL、青線はHCAL

のエネルギー分解能を表している。

2.5.2

電磁カロリメータに要求される性能

PFAを用いてジェットエネルギー分解能

σ

(32)

を達成するために電磁カロリメータに要求される単粒子に対するエネルギー分解能は

σ

E =

1020%

E(GeV) (2.15)

である。図2.3は縦軸にジェットエネルギー分解能、横軸にシリコンのピクセルサイズを

示したものである。ここでrms90は得られたエネルギー分布において、イベントの90%が

入る最も狭い領域の分散(RMS)のことである。この図から要求されるジェットエネルギー

分解能を達成するためには、ECALの細分度として10 mm以下のセグメントが必要であ

ることがわかる。

図 2.3: ECALのセルサイズによるエネルギー分解能の変化。評価に用いたイベントはZ

→qq (q = u,d,s)であり、測定器モデルはLOI (Letter of Intent)のLDCPrimeを使用し

(33)

3

FNAL

でのテストビーム実験

3.1

CALICE Si-W

電磁カロリメータ

前章で説明したようにPFAを用いてジェットエネルギー分解能の向上のためにはコン

パクトかつ超高精細なカロリメータが必要である。CALICE (Calorimeter for the Linear

Collider Experiments) [7]コラボレーションではそのようなカロリメータの研究開発を行

い、電磁カロリメータ試作機として検出層にシリコン、吸収層にタングステンを用いる 高精細なサンプリングカロリメータを作製した。吸収層にはジェット中の粒子を分離する こととカロリメータをコンパクトに保つ必要があることからタングステンが選定された。

タングステンの放射長は3.5 mmであり、モリエール半径は9.3 mmである。従ってタン

グステンは小さなシャワーの広がりにより、カロリメータのコンパクトさを保証する。更

に相互作用長と放射長の比が27.4であるので、ハドロンシャワーと電磁シャワーとの分

離が良い。また検出層に用いるシリコンはピクセル化することができることから高い粒子 分離能を満たすことができる。

この電磁カロリメータ試作機の性能試験を行うために2006年欧州原子核研究機構(CERN)

にて初めてのビームテストが行われた。このビームテストでは有感面積18×12 cm2の試作機

を用い6 GeVから45GeVまでの電子ビームを入射し、試作機の応答の線形性とエネルギー

分解能の評価を行った。カロリメータの線形性からのずれは1%以内であり、エネルギー分解

能は統計項が16.53±0.14 (stat.)±0.40(syst.)%、定数項が1.07±0.07(stat.)±0.10(syst.)%と

なった。次に2008年米国フェルミ国立加速器研究所(FNAL)で有感面積18×18 cm2の試

作機の性能試験を4 GeVから20 GeVの陽電子ビームを用いて行った。FNALでのテス

トビームの動機は応答の線形性とエネルギー分解能を評価し、試作機の電子と陽電子に対 する応答を比較することであった。

3.2

電磁カロリメータ試作機

電磁カロリメータ試作機は検出層と吸収層の組を1層として合計30層から構成されて

いる。図 3.1に電磁カロリメータ試作機の構造図を示す。検出層は一層あたり、3×3枚の

シリコンセンサーが配置してあり18×18 cm2の有感面積を有している。1枚のシリコンセ

(34)

となっている。30層全体では9720の読み出しチャンネルをもちそれぞれ独立に信号を読 み出せるようになっている。

また電磁カロリメータ試作機はそれぞれ10層からなる3つの構造体に分かれており、

構造体毎にタングステンの厚みが異なっている。

• Structure 1.4: 0-9層、0.4 X0 (1.4 mm)

• Structure 2.8: 10-19層、0.8 X0 (2.8 mm)

• Structure 4.2: 20-29層、1.2 X0 (4.2 mm) 

試作機全体としては奥行き方向に24X0 (20 cm)の厚みがある。このように奥行き方向に

向けてタングステンの厚みを増やしている理由は、低いエネルギー粒子の分解能を上げる ために、シャワーの発達を細かく見るためである。カロリメータをできるだけコンパクト

に保つため、また自己支持ができるようにするためにタングステン吸収層は図3.1のよう

に各構造体毎に5層組み込まれている。一方残りの5層は図 3.2に示すようなスラブに結

合されている。

1つのスラブは2層の検出層を含んでいる。それぞれは長さ600 mm、厚さ2.1 mmプ

リント基板の上に接着されており、タングステンで作られたH型の支持体の両側に据え

付けられている。またスラブはシリコンセンサーを電磁ノイズから守るために0.1 mmの

アルミホイルで両側を遮蔽している。

図 3.1にあるように一つのCentral slabs (Bottom slabs)の検出層には6 (3)枚のシリコ

ンセンサーが配置されている。シリコンセンサー(図 3.3)の大きさは62×62 mm2であり、

厚みは525 µmである。MIPは1 µmあたり約80電子・正孔対を生成するため、525 µm

では約42000の電子・正孔対が生成される。

シリコンセンサーはその周りを1 mmのガードリングで囲まれている。ガードリングは

表面電流の集積や、放電の防止などシリコンセンサーを保護する役割を持つが検出層の主

な不感領域となっている。不感領域の重なり合いを減らすために図 3.2にあるようにx方

向に2.5 mmのオフセットが設けられている。更に各スラブ間にはx方向に1.3 mmのオ

フセットを設けている。しかしながらy方向にはオフセットは設けられていない。不感領

(35)

図 3.1: CALICE電磁カロリメータ試作機の 概略図.

図 3.2: 検出器スラブの構造図.

(36)

3.3

測定系

プリント基板 (図 3.5)の上にはシリコンセンサーの他に、シリコンの信号を読み出す

ためのASICも搭載されている。シリコンセンサーの信号を読み出すために使った

very-front-end (VFE) ASICs [10]は試作機のためにデザインされたものであり、FLC_PHY3と

呼ばれている。VFE ASICsで得られたアナログ信号は差動アナログ線を使って外部のエ

レクトロニクスへ送られる。

FLC_PHY3 VFEチップは18チャンネルからなる電荷有感型集積回路であり、入力電

荷に比例し整形された信号を出力する。1枚のシリコンセンサーを読み出すためには2つ

のチップが必要となる。Central slabsでは12個のFLC_PHY3チップを使い、216チャン

ネルの信号を読み出している。またプリント基板には、6チャンネル持つ16ビットのキャ

リブレーション用ASICsも2個搭載されている。

FLC_PHY3で読み出したアナログ信号をデジタル信号に変えるために、差動アナログ

線で繋いだVME boards-“CALICE Readout Cards”(CRC) [10]と呼ばれる16ビットの

ADCが使われる。それぞれのCRCでは1728チャンネルに対応する96 VFE ASICsを読

み出すことができる。それ故、試作機の9720チャンネルを読み出すためには6つのCRC

(37)

図 3.5: very front end PCBの写真。PCB上にはシリコンセンサーの他に信号読み出しの

(38)

3.4

MT6

ここでは、電磁カロリメータ試作機のテストビームを行ったフェルミ研究所のビーム

について説明する。フェルミ研究所ではTevatoron加速器を用いた重心系エネルギー1.96

TeVの陽子反陽子衝突実験が行われていた。電磁カロリメータ試作機が設置されたMeson

Test Beam Facility 6 (MT6) [11]ではTevatoronのメインインジェクターで120 GeVに

加速された陽子ビームが、厚さ30cmのアルミニウムに入射した際に生成される二次粒子

を用いることができる。ビームの詳細については図3.6に示している。粒子ビームの構成

は、8 GeV/cから32 GeV/cまではパイオンが支配的であり、陽電子やミューオンも含ま

れる混合ビームである。8 GeV/c以下では電子が支配的となる。実験で用いる粒子の選択

は、検出器の前方に設置されているチェレンコフカウンターで行うことができる。また運

動量の揺らぎは2.3-2.7%であった。運動量の揺らぎに関しては運動量の値によって正しく

見積もられていないものがあるため、後の解析では考慮していない。

(39)

3.5

テストビームセットアップ

電磁カロリメータ試作機の性能測定を行うために2008年5月から6月の間にFNALで

高エネルギービームを用いたビームテストを行った。2006年にCERNで行ったテストビー

ムでは、検出層は3×2 (有感面積: 18×12 cm2)のシリコンセンサーで構成されており、試

作機の上部のみを使ってテストが行われた。FNALのテストビームでは初めてフルサイズ

の検出器を用いて試験が行われた。図 3.7にはテストビームのセットアップ図を示してい

る。この図では右手系を使っている。3つのシンチレータのコインシデンスをビームトリ

ガーとしている。試作機に入射するビームの広がりは試作機の前に置かれた20×20 cm2

のシンチレータにより決まっている。また4つのドリフトチェンバー (DC1, DC2, DC3,

DC4)はビームのモニターとして使用している。前節で説明したようにFNALのビームに

はパイオンの混入が多いため、ビームラインの上流に設置されたガスチェレンコフ検出器

により陽電子とパイオンの分離を行っている。試作機の後ろにはアナログHCAL [12]と

ミューオンを捉えるためのテイルキャッチャーが置いてあり、同時にテストを行った。そ

のため解析にはHCALのヒット情報を使うことができる。この解析では4-20 GeVの正電

荷ビームを入射した。

図 3.7: テストビームのセットアップ図。この図にはガスチェレンコフ検出器は書かれて

(40)

4

章 テストビームデータの解析

この章では試作機のキャリブレーションと陽電子の事象選別方法、有感領域内に存在す る不感領域の補正方法、そして本研究の目的である応答の線形性及びエネルギー分解能 の性能評価について述べる。まずミューオンを用い試作機のキャリブレーションを行い、

チャンネル毎の個体差を補正し、試作機の応答をMIP換算で表した。その後、事象選別を

行い混合ビームの中から陽電子のイベントを選択し、エネルギー分布を作成した。このエ ネルギー分布は、有感領域内に存在する不感領域の影響で非対称となるため試作機の応答 の補正を行った。この補正後、応答の線形性とエネルギー分解能について性能評価した。

4.1

MIP

キャリブレーション

各チャンネルに同じエネルギーを落としたとしても、チャンネル毎に個体差があるため それぞれで応答が異なる。そのためこの個体差を同じエネルギーを用いて補正する必要 がある。このことをエネルギーキャリブレーションと呼ぶ。このキャリブレーションによ

く用いられるのはミューオンである。運動量が数百MeVから数十GeVの領域のミュー

オンはほとんど電離損失のみでエネルギーを失い、最小電離損失粒子(Minimum Ionizing

Particle:MIP)として振る舞う。よって検出層を同一のエネルギー損失で貫通する。従っ

てここでは32 GeVのミューオンを使ってMIPキャリブレーションを行った。各チャンネ

ルの応答はランダウ関数とガウシアンを畳み込んだ関数でフィットした。各チャンネルの

MIP値はランダウ関数の最頻値と定義する。詳細なMIPキャリブレーション方法は [10]

に書かれている。図4.1にはチャンネルの典型的なエネルギー分布とそのフィッティング

結果を示している。MIPキャリブレーション後、各チャンネルのヒットエネルギーはMIP

単位で測られる。また、ノイズヒットを排除するために0.5 MIPの閾値を設け、それ以下

のエネルギーのヒットは除去している。

4.2

エネルギー再構成と事象選別

粒子が電磁カロリメータに落とした合計のエネルギーErawは次の式で計算する。

Eraw =

9

i=0

Ei+ 2

19

i=10

Ei + 3

29

i=20

(41)

図 4.1: 典型的なMIPに対するエネルギー分布とそのフィッティング [10]。フィッティン グにはランダウ関数とガウシアンを畳み込んだ関数を用いている。

ここでEiはi番目の層に落とした合計エネルギーを表している。吸収層ではエネルギー

を検出できず、吸収層の厚みにより吸収層内で落とすエネルギーが異なるため、このよう

に厚さに応じて1:2:3の重みをかけている。電磁カロリメータの典型的なエネルギー分布

を図 4.2 (左)に示している。この図で陽電子のイベントは5000 MIP付近のピークに含ま

れており、85 MIP付近にはミューオンのピーク、そして2つのピークの間にパイオンに

よるピークが見られる。このようにチェレンコフ検出器で粒子を選別しただけではミュー オンやパイオンの混入が多く陽電子を正しく選択するには不十分であった。そのため陽

電子のイベントを正しく選び他の粒子の混入を排除するために、次の3つの事象選別を

行った。

1. 低いエネルギーのピークや2粒子が同時に入射したイベントを排除するために入射

エネルギーにスケールした合計エネルギーErawにエネルギーウィンドウを設けた:

125 < Eraw(MIP) Ebeam(GeV)

<375. (4.2)

2. HCALのヒット情報を用いてパイオンの混入を減らす:図 4.2にはHCALのエネル

ギー分布、図 4.3にECALとHCALの相関図を示している。HCALではパイオン

によるハドロンシャワー、ECALから漏れ出た電磁シャワーのエネルギーを測定す

る。ECALで漏れ出た電磁シャワーはHCALの前方で止まるため低い位置にピーク

を作る。従って、これらの図からHCALのエネルギー分布に見える25 MIP付近の

(42)

EHCAL<50 MIPs. (4.3)

3. ECAL内で電磁シャワーの発達が最大となる層 (Lmax)が5層から24層目にある:

5Lmax≤24. (4.4)

このカットにより試作機に入射する前に陽電子が電磁シャワーを起こすイベントやパ イオンが電磁カロリメータ内で相互作用を始めるイベントを排除することができた。

図 4.4にはこれらのカットをかける前と後の試作機のエネルギー分布を示している。こ

の図から分かるようにミューオンやパイオンの混入を排除し、陽電子のイベントを選択す ることができている。

表 4.1にそれぞれのカット後のイベント数を載せている。

(MIPs)

raw

E

0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 10000

Eve n ts 10 2 10 3 10 4

10 CALICE preliminary

Si-W FNAL 2008 ミューオン

パイオン

陽電子

(MIPs) HCAL E

0 200 400 600 800 1000 1200

Eve n ts 0 500 1000 1500 2000 2500 CALICE preliminary Si-W FNAL 2008

陽電子

図4.2: ビームエネルギー20 GeVでのECAL (left)、HCAL (right)それぞれのエネルギー

分布。

表 4.1: それぞれの事象選別後の陽電子数のまとめ

全イベント数 エネルギーウィンドウ HCALカット シャワー最大層

4 GeV 41195 31692 28311 27526

6 GeV 41290 29231 25840 25495

8 GeV 48922 30258 23828 23633

12 GeV 60886 28117 17570 17427

(43)

ECAL (MIPs)

4000 4200 4400 4600 4800 5000 5200 5400 5600 5800 6000

H C A L ( M IP s ) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 100 200 300 400 500 600

図 4.3: ECALとHCALの相関図。横軸にECALのエネルギー、縦軸にHCALのエネル

ギーをプロットしている。

(MIPs)

raw

E

0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 10000

Eve n ts 10 2 10 3 10 4

10 CALICE preliminary

Si-W FNAL 2008 CALICE preliminary

Si-W FNAL 2008

selected

図 4.4: 事象選別前 (open histogram)と後 (solid histogram)のECALのエネルギー分布。

(44)

4.3

ギャップ補正

3.2節で述べたようにシリコンセンサーは幅1 mmのガードリングで囲まれており、こ

れが感度領域の主な不感領域となる。従って隣り合うセンサーの間にそれぞれ2 mmの

ギャップが生じる。粒子がこのギャップに入射するとエネルギーの測定に影響を及ぼし、

カロリメータ応答の非一様性の主な原因となる。この影響は図4.4から分かるように、エ

ネルギー分布が低い方に尾を引き、分布の形が非対称となる。そのため、エネルギー分布 においてギャップの影響を考慮し、カロリメータの応答を補正する必要がある。ギャップ 付近でのカロリメータの応答を補正するために、エネルギースケール因子をシャワー重心 の関数として定義する。シャワー重心はエネルギーの重みをかけた全てのヒットの平均位 置とした。

(¯x,y¯) =

( ∑ i wiEixi,∑ i wiEiyi ) /∑ i wiEi (4.5)

ここでiはカロリメータにヒットのあったチャンネル全てを表し、Eiは各チャンネルに落

としたエネルギー、また式(4.1)と同様にタングステンの厚さに応じて重みwi(= 1,2,3)を

かけている。図 4.5はイベント毎にシャワー重心を計算し、平均のエネルギーをシャワー

重心系でプロットしたものである。ギャップの補正を行う準備としてまずビームのエネル

ギー依存性を減らし利用できる統計を増やすために、高いエネルギーの方では8, 12, 20

GeVのイベントを結合し、低いエネルギーの方では4, 6 GeVのイベントを結合した。イ

ベントを結合する際にそれぞれのエネルギーの平均値を1に規格している。次にこれらの

結合したイベントに対して図 4.6、図4.7にあるようにギャップ周りのエネルギーの応答

をx¯とy¯でそれぞれガウス関数でフィットした。その補正関数は

f(¯x,y¯) = [1ax,−exp{−

(¯xx−,gap)2

2σx,− }

][1ax,+exp{−

(¯xx+,gap)2

2σx,+ }

]

×[1ay,−exp{−

(¯yy−,gap)2

2σy,− }

][1ay,+exp{−

(¯yy+,gap)2

2σy,+ }

] (4.6)

である。この補正関数はCERNのデータの解析に用いたものと同じである[8]。この補

正関数のパラメータであるax,xgap,σx,ay,ygap,σyはフィットの結果から得られる。フィッ

トの結果はそれぞれ表 4.2 と表 4.3に載せている。これらの表から分かるようにy方向に

はオフセットが設けられていないためにギャップの影響をより大きく受け、ayがaxより

も大きな値となっている。またy−,gapとy+,gapの間の違いはCentral slabsとBottom slabs

の間の構造体による不感領域に起因する。x方向に関しては+と−方向で構造上の違いは

見られないため、σとaの値は等しくなるはずである。しかしながら、図4.6左図のx¯が

0から20にかけて1より小さな値となっている。この影響でフィッティングが引っ張られ

(45)

(mm) x

-80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80

(mm) y -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000

図 4.5: 8 GeVの陽電子ビームを入射した際のシャワー重心系での平均エネルギーの散布

図。エネルギーはMIP換算で表示している。ギャップの影響が60 mm間隔で表れており、

これがギャップ間の長さに相当する。

エネルギー応答の補正は、フィットの結果から得られたパラメータの値を補正関数に代

入して補正因子1/f(¯x,y¯)を作り、この補正因子をそれぞれのイベントに適用することで

行った。図4.5は補正前後のギャップ周りのエネルギーの応答を示している。この図から

ギャップの補正後カロリメータの一様性が改善されたことが分かる。図 4.9はギャップの

補正を施す前と後のエネルギー分布を示したものである。この図からギャップの補正後は 低い方に引くテイルが減り、分布の形がより対称的になったことが分かる。ギャップ補正 後の陽電子のピークはわずかに高い方へシフトする。

表 4.2: 8, 12, 20 GeVのフィット結果。positionはギャップの中心の位置、σはギャップの

幅、aはギャップの中心での深さを表している。

position (mm) σ (mm) a

x−,gap −25.5 4.77 0.15

x+,gap 36.2 5.92 0.13

y−,gap −31.1 4.94 0.25

(46)

(mm) x

-40 -20 0 20 40 60

) y, x f( 0.6 0.65 0.7 0.75 0.8 0.85 0.9 0.95 1 1.05 1.1 CALICE preliminary

Si-W FNAL 2008

(mm) y

-40 -20 0 20 40 60

) y, x f( 0.6 0.65 0.7 0.75 0.8 0.85 0.9 0.95 1 1.05 1.1 CALICE preliminary

Si-W FNAL 2008

図 4.6: ¯x (左図), ¯y (右図)方向のシャワー重心系でのカロリメータの応答。エネルギーの

応答はそれぞれのギャップの間のイベントを用い規格化を行った。また規格化したサンプ

ルは8, 12, 20 GeVのデータを合わせたものを用いている。

(mm) x

-40 -20 0 20 40 60

) y, x f( 0.6 0.65 0.7 0.75 0.8 0.85 0.9 0.95 1 1.05 1.1 (mm) y

-40 -20 0 20 40 60

) y, x f( 0.6 0.65 0.7 0.75 0.8 0.85 0.9 0.95 1 1.05 1.1

(47)

表 4.3: 4, 6 GeVのフィット結果。positionはギャップの中心の位置、σはギャップの幅、a

はギャップの中心での深さを表している。

position (mm) σ (mm) a

x−,gap -25.5 4.99 0.14

x+,gap 36.3 5.34 0.12

y−,gap -31.1 4.27 0.28

y+,gap 30.8 3.92 0.16

(mm) x

-40 -20 0 20 40 60

(MIPs) raw E 1000 1200 1400 1600 1800 2000 2200 CALICE preliminary Si-W FNAL 2008

raw data

corrected data

(mm) y

-40 -20 0 20 40 60

(MIPs) raw E 1000 1200 1400 1600 1800 2000 2200 CALICE preliminary Si-W FNAL 2008

raw data

corrected data

図4.8: 8 GeVの陽電子ビームを入射した際のそれぞれシャワー重心系でのx¯(左図), ¯y(右

図)方向の平均エネルギー分布。それぞれの図ではギャップ補正を行う前 (黒)と行った後

(48)

(MIPs)

raw

E

1000 1200 1400 1600 1800 2000 2200 2400 2600 2800 3000

Events

0 100 200 300 400 500 600 700 800

CALICE preliminary Si-W FNAL 2008

w/o gap correction

w/ gap correction

Out of gap events

図 4.9: 8 GeVの陽電子ビームを入射した際のエネルギー分布。これらの分布は全てのイ

ベントに対してギャップ補正を行っていないもの(黒)、行ったもの (赤)、またギャップの

影響が少ないギャップの中心から4σ離れた中央のイベントのみを使ったもの(緑)をそれ

図 1.2: ILC のレイアウト 1.3.1 電子源 電子源 (図 1.3) では、偏極したレーザーを GaAs 標的に照射し、光電効果により 80%偏 極した電子を生成する。生成した電子は常伝導加速管でバンチと呼ばれるかたまりにされ 76 MeV まで前段加速される。その後、超伝導加速管で 5 GeV まで加速され、減衰リング に入射される。 1.3.2 陽電子源 陽電子源 (図 1.4) では、電子源において生成した電子ビームから制動放射により光子 を生成し、その光子を標的に衝突させることで電子・陽電
図 1.3: 電子源
図 1.5: 加速空洞
図 1.6: ILC のビーム構造
+7

参照

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