博 士 論 文 概 要
全文
(2) 宇宙論とは、我々の宇宙そのものがどのような状態から始まり、どのように進 化をしてきたのかを扱う非常にスケールの大きな学問であり、常に人々の興味を ひきつけている。現代の宇宙論は重力理論としてアインシュタインの一般相対性 理論を採用し、我々の宇宙がおおまかには一様・等方であるという宇宙原理を仮 定したビッグバン宇宙論が標準理論となっている。実際に、このビッグバン宇宙 論は、宇宙の膨張、宇宙背景輻射の存在、宇宙初期の軽元素比などを予言し、そ れが観測的にも正確に確かめられており、科学の枠内に入りつつある。このよう なビッグバン宇宙論ではあるが、この理論の初期条件にかかわる問題として、地 平線問題、平坦性問題、構造の起源の問題などの不思議な点がいくつかある。 現在のところ、宇宙初期に、宇宙が加速度的に膨張していたとするインフレー シ ョ ン シ ナ リ オ を 考 え れ ば 、こ れ ら の う ち の い く つ か が 統 一 的 に 解 決 さ れ る の で 、 このシナリオはビッグバン宇宙論の初期条件を説明するアイデアとして強く支持 さ れ て い る 。し か し 、通 常 の 物 質 を 考 え る 限 り に お い て 、重 力 は 引 力 で あ る の で 、 インフレーションは起こらないことが知られている。そのため、宇宙をインフレ ーションさせていたものにはどのような起源があるのか、そのようなものから、 いわゆる我々がよく知っている物質で満たされたビッグバン宇宙にどのように移 行したのか、といった点については未だ明らかではない。さらに、インフレーシ ョン自体がもっともらしい初期条件から起きるのか、それ以前の宇宙の状態はど うなっていたのか、といった問題にもインフレーションは説明を与えていない。 ま た 、1 9 9 8 年 に 明 ら か に な っ た I A 型 の 超 新 星 を 用 い た 宇 宙 膨 張 の 観 測 結 果 によると、現在の宇宙の膨張も加速的になっていることが明らかになった。これ は、通常の物質で満たされたビッグバン宇宙で記述されていた宇宙が現在に近い 過去になって、やはりわれわれのよくわかっていないダークエネルギーと呼ばれ ている物質の寄与が大きくなっていることを示唆している。このダークエネルギ ーの問題は観測に直結しているという意味において、現代宇宙論の取り組まなけ ればならない第一の課題であると思われる。 このように、宇宙論は未だに多くの課題を抱えており、様々なアプローチがな されているのであるが、それらのうちの一つとして、宇宙初期の高エネルギー期 には、重力理論がアインシュタインの4次元重力理論から変更されているのでは ないか、という考え方がある。今までにも、相互作用の統一という観点から、い く つ か の 高 次 元 理 論 が 提 唱 さ れ て き た が 、な か で も 最 近 は 超 弦 理 論 の 進 展 に よ り 、 ブレインワールドシナリオというものが盛んに研究されている。これは、199 6年にホジャヴァとウィッテンによって提案された、我々の世界は素粒子標準モ デルを内在するようなブレインと呼ばれる超曲面であり、それがバルクと呼ばれ る重力が伝播する高次元内にあるとするアイデアである。このアイデアにより、 今まで別々のものだと思われていた5つの超弦理論が統一的に扱えるようになっ た。また、現象論的にも、このアイデアに基づいて、比較的に低いエネルギース 1.
(3) ケールで余次元の効果を予言するような興味深いブレインモデルがいくつか提案 されている。これらのモデルでは、あるスケールにおいて重力理論が変更される ことにともない、宇宙論のシナリオも変更される。 本論文ではこのブレインワールドシナリオを考えることによる重力理論の変更 点が宇宙論のシナリオに及ぼす影響について解析し、現代宇宙論の抱えている問 題点の解決に対して寄与があるかを調べる。第1章で本研究の背景についての概 略を述べた後、前半部の第2章から第4章でこれまでになされてきた研究を紹介 し、その問題点や未解決な点についてまとめる。 第2章では、ビッグバン宇宙論とその問題点について述べ、それらの問題点の うちのいくつかはインフレーションによって統一的に解決出来ることを示す。ま た、本論文の解析の中核となっている、宇宙論的なスカラー場のダイナミクスに ついて簡潔に説明を加える。 第3章では、最近の宇宙論研究のメインになりつつあるダークエネルギーの問 題について論じる。一般に観測されているダークエネルギーを説明するには、素 粒子論的観点からするとエネルギースケールに関する微調整の問題が生じるのだ が、スカラー場のダイナミクスを用いてこの微調整を回避するクインテッセンス というシナリオに焦点を当て、現状と問題点についてまとめる。 ここまでの話は、通常の4次元重力理論に基づいたものであり、その枠内で第 2 章 、第 3 章 で 挙 げ た よ う な 問 題 点 を 説 明 す る 試 み も あ る の で あ る が 、第 4 章 で 、 相互作用の統一という観点から、高次元理論の必要性について述べる。さらに、 その高次元理論のなかでも、本研究でテーマとしているブレインワールドシナリ オの考え方、代表的なモデル、それらに基づく現象論について紹介する。 第5章では、1999年にランドールとサンドラムによって提案された、単純 ではあるものの、ブレインワールドの本質が描出されており、新しいタイプのコ ンパクト化を与えるなど現象論的に興味深いブレインモデルを考え、そのブレイ ン上に拘束されているスカラー場のダイナミクスが従来の理論からどのように変 更されるか、それが宇宙論的現象に及ぼす影響について調べる。具体的には、逆 べき型のポテンシャルをもつクインテッセンスモデルを考えたときに、スカラー 場のポテンシャルエネルギーと運動エネルギーの値が同程度になるような初期条 件を選んでもクインテッセンスシナリオが上手くいくことを示した。これは、こ のスカラー場の起源がフェルミ粒子の凝縮によるものであり、この粒子が熱平衡 状態から外れたことによって質量を得たのだとすると、この等分配則が満たされ ている初期条件が自然なのであるが、従来の4次元理論の枠内では得られていな かった結果である。また、カオティックインフレーションモデルの振動期におけ るスカラー場のダイナミクスの解析より、インフレーション終了後のプレヒーテ ィング期に粒子生成が効果的になされるパラメータ領域が従来よりも広がること を示した。このプレヒーティング期の粒子生成は、インフレーションからビッグ 2.
(4) バン宇宙に遷移する際の重要な過程であり、インフレーションシナリオの可能性 にとって、重要な試金石なのであるが、それがより結合定数が自然な値でも可能 になることを示したのは意味がある。 具体的な予言を与えるという点でランドールとサンドラムによって提案された ブレインモデルは盛んに研究されているのであるが、ブレインモデルの効果の現 れるような高エネルギー期にはバルク中の重力とブレイン上の物質の間、及びブ レインが曲がっていることによる効果などによって、このブレインモデルにたい しては曲率項の高次の形で現れる、量子補正が加えられる可能性が示唆されてい る。第6章ではそれらの補正項が宇宙論に及ぼす影響を調べる。具体的には、ま ず、バルク中の重力とブレイン上の物質の間の量子効果によって生じる誘導重力 を補正項として含むモデルを考えた。オリジナルのブレイン誘導重力モデルは2 000年にドゥバリ、ガバダッゼ、ポラティによって提案され、ダークエネルギ ーを導入しなくても、重力理論が4次元から5次元に切り替わるスケールで宇宙 の加速膨張が実現するという性質を持っていたのであるが、相対論的物質に対し ては、4次元重力理論を再現していないという問題点があった。しかし、我々の 考えた誘導重力をランドールとサンドラムのモデルに対する補正項として導入し たモデルにおいて、ブレイン上で成立する共変的な重力場の方程式を導出し、4 次元重力理論がされることを示した。宇宙論的にもブレイン上に負の圧力を持つ 物質を導入することなしに、宇宙が加速膨張する解が得られること、ブレイン上 に 宇 宙 項 を 導 入 し た と き に は 、微 調 整 の 度 合 い を 緩 和 出 来 る こ と を 示 し た 。ま た 、 ブレインが曲がっていることによって生じるトレース・アノマリーを考えること で、このブレインモデルにおいても量子宇宙論的アプローチから宇宙の創生及び 十分なインフレーションが可能な初期条件が可能なことを示した。 最 後 に 第 7 章 で 本 研 究 で 得 ら れ た 結 果 を 総 括 し 、今 後 の 研 究 へ の 展 望 を 述 べ る 。 以上の研究により、ランドールとサンドラムのブレインモデルを考えたときに クインテッセンスの自然な初期条件が可能になったこと、プレヒーティングを考 えたときに粒子生成が効果的に起こるパラメータ領域が広がったこと、ブレイン 誘導重力を補正項として含むモデルで宇宙項の微調整を緩和出来ることなどは、 4次元理論の枠内では得られなかった結果であり、ブレインワールドシナリオを 考えることでより自然なシナリオの得られた具体例を与えている。 今後の課題としては、非一様成分の発展を取り扱い、あらゆる宇宙モデルに対 してもっとも厳しい制限を与えている宇宙背景輻射の非等方性を考えることでブ レイン宇宙論により厳しい制限を課したい。この問題は、最も簡単なブレインモ デルにおいてでさえ、余次元の情報が必要なため、4次元理論で宇宙論的摂動論 を考えるのに比べると困難なのであるが、ある程度の対称性を課した場合の取り 扱いは可能であると思われる。. 3.
(5) 研 究 業 績 種 類 別. 題名、. 発表・発行掲載誌名、. 発表・発行年月、. 連名者(申請者含む). ○論文. Cosmological evolution of general scalar fields in brane‑world cosmology. Physical Review D 掲載決定. S. Mizuno S. J. Lee E. Copeland. ○論文. Effective Gravitational Equations on Brane World with Induced Gravity. Physical Review D 2003 年 7 月 68, 024033. K. Maeda S. Mizuno T. Torii. ○論文. Dynamics of Scalar field on a Brane. Physical Review D 2003 年 1 月 67, 023516. S. Mizuno K. Maeda K. Yamamoto. ○論文. Quintessence in a Brane‑World. Physical Review D 2001 年 11 月 64, 123521. S. Mizuno K. Maeda. ○論文. Brane preheating. Physical Review D 2001 年 5 月 63, 123511. S. Tsujikawa K. Maeda S. Mizuno. Trace‑anomaly driven inflation in brane‑world with curvature corrections. 日本物理学会. 2004 年 3 月. S. Mizuno K. Maeda T. Torii. 第 13 回「一般相 対論と重力」 研究会. 2003 年 12 月. S. Mizuno K. Maeda T. Torii. 講演. 講演 Cosmology in a brane‑induced (研究会) gravity model with trace‑anomaly terms 講演 Brane Cosmology with ( ポ ス タ Induced gravity ー). The 6th RESCEU International Symposium. 講演 Cosmology in a brane‑induced (研究会) gravity model with trace‑anomaly terms. Mini workshop on Brane‑world. 2003 年 10 月. S. Mizuno K. Maeda T. Torii. 講演 Cosmology in a brane‑induced (研究会) Gravity model. The 3rd Brit‑ grav. meeting. 2003 年 9 月. S. Mizuno K. Maeda T. Torii. 5. 2003 年 11 月. S. Mizuno K. Maeda T. Torii.
(6) 研 究 業 績 種 類 別. 題名、. 発表・発行掲載誌名、. 発表・発行年月、. 連名者(申請者含む). 講演 (国際 会議). Cosmology in a brane‑induced gravity model with dilaton and trace‑anomaly terms. COSMO‑2003. 2003 年 8 月. S. Mizuno K. Maeda T. Torii. 講演 (国際 会議). Cosmology baced on the brane‑induced gravity theory. 1st Thai Phys Universe. 2003 年 4 月. S. Mizuno K. Maeda T. Torii. Trace‑anomaly driven inflation in a brane world scenario. 日本物理学会. 2003 年 3 月. S. Mizuno K. Maeda T. Torii. Workshop on the extradimension and brane‑world. 2003 年 1 月. S. Mizuno K. Maeda T. Torii. 講演. 講演 Trace‑anomaly driven inflation (研究会) in the brane‑induced gravity theory 講演 Trace‑anomaly driven inflation (ポスタ in the brane‑induced gravity ー) theory. 講演 Cosmology based on the brane‑ (研究会) induced gravity theory with higher curvature terms. 21st Texas Symp. 2002 年 12 月 on relativistic Astrophysics and Cosmology. S. Mizuno K. Maeda T. Torii. 第 12 回「一般相 対論と重力」 研究会. 2002 年 10 月 S. Mizuno K. Maeda T. Torii. 日本物理学会. 2002 年 3 月. S. Mizuno K. Maeda K. Yamamoto. 講演 Natural quintessence (研究会) scenario on a brane. 2nd Workshop on brane‑world. 2002 年 1 月. S. Mizuno K. Maeda. 講演 Natural quintessence (研究会) Scenario on a brane. 第 11 回「一般相 対論と重力」 研究会. 2002 年 1 月. S. Mizuno K. Maeda. 講演 Quintessence in ( ポ ス タ Brane‑World ー). The 5th RESCEU International Symposium. 2001 年 11 月 S. Mizuno K. Maeda. 日本物理学会. 2001 年 9 月. 講演. 講演. Dynamics of Scalar field on a brane. Quintessence in Brane‑World. 6. S. Mizuno K. Maeda.
(7) 研 究 業 績 種 類 別. 題名、. 発表・発行掲載誌名、. 7. 発表・発行年月、. 連名者(申請者含む).
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