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修 士 学 位 論 文

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(1)

修 士 学 位 論 文

題 名

振 動 系 に お け る 入 力 同 定 に 関 す る 研 究

指 導 教 授 吉 村 卓 也 教 授

平 成

2 5

2

1 5

日 提 出

首都大学東京大学院

理 工 学 研 究 科 機 械 工 学 専 攻 学修番号

11883320

氏 名 髙 橋 一 善

(2)

学位論文要旨(修士(工学)

論文著者名 髙橋 一善 論文題名:振動系における入力同定に関する研究

近年,機械製品は高性能化と共にその付加価値向上が求められており,その 一つとして振動,騒音の低減が重要となっている.また製品の開発期間短縮が 求められる中で,問題となる振動・騒音の発生源を特定し効率的な対策をとる ことが必要とされている.その中で,機械の振動,騒音の実験計測による対策 検討では,伝達経路解析(Transfer Path Analysis,

TPA)が用いられている. TPA

は,

ある評価点における応答を各起振源による加振力とそれらに対応する伝達関数 の積の和で表すことで,評価点における応答への寄与を明らかにするものであ り,特に伝達経路の複雑な自動車の開発等に用いられている.TPA を行うこと で寄与の大きい起振源および伝達経路が特定でき,効果的に振動,騒音を低減 させるための構造変更指針を得ることができる.

TPA

による寄与分析を行うためには,起振源から構造物に加わる加振力を得 ることが必要である.しかし,機械の稼働中における加振力は直接の測定が困 難なことが多い.これは,荷重計測に用いるロードセルの設置スペースや取り 付け面確保が困難であることによる.そのため,加振力を間接的に算出するこ と(入力同定)が必要である.

入力同定の手法として従来から用いられてきたのが逆行列法である.逆行列 法では加振力,加速度間の伝達関数であるアクセレランス行列[m/Ns2

]の逆行列

と,実稼働時の応答加速度を乗じて加振力を同定する.逆行列法は,固有振動 数においてアクセレランス行列の条件数が悪化し計測誤差が同定加振力へと拡 大して伝播するという問題があり,十分な入力同定精度を確保できない.先行 研究で提案された動質量法は,アクセレランスの逆行列に相当する動質量行列 を直接推定することで同定精度を改善しているが,周波数によっては同定精度 が十分でないことがあり,更なる精度向上が求められている.

入力同定精度は各計測点における計測誤差に影響され,逆行列法ではアクセ レランス行列の逆行列の安定性の影響も受ける.そのため入力同定を行うとき,

計測された応答データからどの計測点のデータを選択するかが同定精度に影響 すると考えられる.また,計測誤差は偶然誤差と系統誤差に分類される.偶然 誤差はセンサーケーブルへのノイズ混入などに起因し,誤差の評価が可能であ

(3)

る.一方,系統誤差は計測点位置のずれ,センサー取り付け状態などに起因し,

同一の実験を同一条件で繰り返し行っても誤差を評価することはできない.

以上より本研究では始めに,同定誤差が低減する応答計測点の個数および配 置について検討する.計測した応答点からどの点を選択すれば同定誤差が低減 するか検証し,どのような応答点を選べば同定精度が改善するかを明らかにす る.さらに,系統誤差が入力同定結果に与える影響について明らかにする.本 研究では実験計測に用いるロードセル・加速度計の取り付け状態に起因する系 統誤差を検討するため,実験セットアップのやり直しを行いながら繰り返し実 験計測を行う.

本論文は以下の全

6

章から構成されている.

1

章では,研究背景として入力同定の概要,および現状の課題について述 べ,本研究の目的を明らかにする.

2

章では,本研究で用いる理論について述べる.始めに入力同定手法であ る逆行列法,動質量法の理論,および入力同定に必要となるアクセレランス,

動質量の推定方法について述べる.さらに同定精度の評価に用いる,同定誤差 の算出方法を述べる.

3

章では,数値シミュレーションにより入力同定を行う.始めに応答計測 点の個数および位置を変えて入力同定を行い,それらの入力同定結果を比較す る.入力同定は逆行列法および動質量法で行う.その結果,応答計測点の個数,

位置の違いにより特に構造物の固有振動数において同定精度に差が生じること が確認された.次に同定精度が高い結果を得るときの応答計測点配置を示す.

それより同定誤差が低減する要因について考察し,どのような応答点を選べば 同定精度が改善するか明らかにする.さらに先行研究で提案された同定加振力 の分散推定手法を用い,同定加振力の分散から同定精度の高い結果が得られる 応答計測点配置の予測を試みる.

4

章では,簡易構造物を用いた実験により入力同定を行い,シミュレーシ ョンによる検討結果が実構造物に対しても妥当であるか確認する.実験の結果,

実構造物においても応答計測点の個数,位置の違いにより同定精度に差が生じ ることが確認された.

5

章では,入力同定の実験計測における系統誤差の影響について考察する.

実験による伝達関数計測を,実験セットアップをし直して複数回繰り返すこと で,計測される伝達関数にどの程度のばらつきが生じるか示す.また,そのば らつきが入力同定に与える影響について明らかにする.

6

章では,本研究で得られた知見についてまとめる.さらに今後の研究課 題について述べる.

(4)

2012

年度 修士論文

振動系における入力同定 に関する研究

首都大学東京大学院 理工学研究科 機械工学専攻

11883320

髙橋 一善 指導教官 吉村 卓也 教授

(5)

目次

1

章 緒論

··· 1

1.1

研究背景

··· 2

1.2

先行研究

··· 3

1.2.1

入力同定

··· 3

1.2.2 TPA ··· 3

1.3

研究目的

··· 4

1.4

論文の構成

··· 5

2

章 理論

··· 6

2.1

はじめに

··· 7

2.2

入力同定手法

··· 7

2.2.1

逆行列法(

Matrix Inversion Method

··· 7

2.2.2

動質量法(

Apparent Mass Method

··· 8

2.3

周波数応答関数の推定方法

··· 8

2.3.1 H

1推定(

1

点加振)

··· 9

2.3.2 H

1推定(多点同時加振)

··· 11

2.4

動質量の推定方法

··· 12

2.4.1

動質量推定(多点同時加振)

··· 12

2.4.2

動質量推定(

1

点加振)

··· 14

2.5

コヒーレンス関数

··· 14

2.6

入力同定誤差の評価方法

··· 15

2.6.1

相対誤差(

Relative Error

··· 15

2.6.2 周波数平均誤差(Frequency Averaged Error) ··· 16

2.7 同定加振力の分散推定 ··· 16

2.7.1 同定加振力の分散 ··· 17

2.7.2 アクセレランスの推定誤差に起因する同定加振力の分散 ··· 17

2.7.3 動質量の推定誤差に起因する同定加振力の分散 ··· 18

2.7.4 実稼働加速度の計測誤差に起因する同定加振力の分散 · 18

(6)

3

章 入力同定シミュレーション

··· 20

3.1

シミュレーション概要

··· 21

3.2

シミュレーション方法

··· 21

3.2.1

シミュレーションモデル

··· 21

3.2.2

シミュレーション手順

··· 23

3.2.3

実稼働加振力の真値の算出

··· 25

3.3

入力同定(計測した全応答点使用)

··· 27

3.3.1

アクセレランス推定

··· 27

3.3.2

入力同定結果

··· 27

3.4

入力同定(応答点配置全パターン)

··· 29

3.4.1

解析手順

··· 29

3.4.2

同定誤差

··· 29

3.4.3

受動系固有振動数付近の周波数平均誤差

··· 33

3.4.4

同定加振力の分散

··· 36

3.5

誤差最小パターンの除外点

··· 39

3.5.1

除外点

··· 39

3.5.2

モード形状

··· 41

3.6

誤差が低減する応答点配置の予測

··· 43

3.6.1

モード振幅の大きい点を除外する場合

··· 43

3.6.2

同定加振力の分散推定を用いる場合

··· 45

3.7

3

章まとめ

··· 47

4

章 入力同定実験

··· 48

4.1

実験概要

··· 49

4.2 実験方法 ··· 49

4.2.1 実験装置 ··· 49

4.2.2 実験手順 ··· 52

4.3 入力同定(計測した全応答点使用) ··· 52

4.3.1 アクセレランス推定 ··· 52

4.3.2 入力同定結果 ··· 52

4.4 入力同定(応答点配置全パターン) ··· 55

4.4.1 受動系の固有振動数 ··· 55

4.4.2 同定誤差 ··· 56

4.4.3 周波数平均誤差 ··· 60

(7)

4.4.4

同定加振力の分散

··· 65

4.5

誤差最小パターンの除外点

··· 67

4.5.1

除外点

··· 67

4.5.2

モード形状,実稼働応答のパワースペクトル

··· 70

4.6

誤差が低減する応答点配置の予測

··· 72

4.6.1

モード振幅の大きい点を除外する場合

··· 72

4.6.2

同定加振力の分散推定を用いる場合

··· 74

4.7

4

章まとめ

··· 77

5

章 入力同定における系統誤差

··· 78

5.1

概要

··· 79

5.2

入力同定実験概要

··· 79

5.2.1

実験概要

··· 79

5.2.2

実験方法

··· 79

5.3 FRF

のばらつき

··· 80

5.3.1 FRF

計測詳細

··· 80

5.3.2 FRF

のばらつき評価方法

··· 81

5.3.3

実験結果

··· 81

5.4

入力同定のばらつき

··· 84

5.4.1

実稼働計測

··· 84

5.4.2

入力同定

··· 84

5.4.3

同定加振力のばらつき評価方法

··· 84

5.4.4

実験結果

··· 84

5.5

考察

··· 89

5.5.1

共振点におけるばらつきに関する考察

··· 89

5.5.2 同定加振力のばらつき低減方法 ··· 91

5.6 第 5

章まとめ ··· 91

6

章 結論

··· 92

6.1 結論 ··· 93

6.2 今後の課題 ··· 93

参考文献

··· 95

(8)

- 1 -

1

緒論

(9)

1章 緒論

- 2 -

1.1

研究背景

近年,機械製品は高性能化と共にその付加価値向上が求められており,その一つとし て振動,騒音の低減が重要となっている.また製品の開発期間短縮が求められる中で,

問題となる振動・騒音の発生源を特定し効率的な対策をとることが求められている.そ こで機械の振動,騒音の実験解析の現場,では,伝達経路解析(Transfer Path Analysis,

以下TPAと表記)(1)が用いられている.TPAでは,ある評価点における応答を各加振力 による寄与の総和であると考える.応答を音圧P

 

とすると,P

 

は式(1.1)のよう に表される.

 

    

i

i

i f

h

P

  

(1.1)

 

P :ある評価点における音圧[Pa]

 

fi :点iにおける加振力[N]

 

hi fi

 

に対応する伝達関数[Pa/N]

が点iに加わる加振力による寄与であり,各加振力による寄与を全て足し合 わせて音圧 を表現している.

ある評価点における音圧を式(1.1)のように表現することで,評価点における音圧 への寄与が大きい加振力および振動伝達経路を特定することができる.このように振動,

騒音の寄与分析を行うことで,振動,騒音を低減させるための構造物の構造変更指針を 得ることができる.振動,騒音への寄与の大きい加振力および振動伝達経路に対して重 点的に対策を施すことにより,効果的に振動,騒音を低減させることができる.TPAは,

特に伝達経路の複雑な自動車の開発に用いられる.

TPA による寄与分析を行うためには,寄与分析の対象とする系に加わる加振力 fi() を得ることが必要である.しかし,機械の稼働中における加振力は直接の測定が困難な ことが多い.これは,荷重計測に用いるロードセルの設置スペースや取り付け面確保が 困難であることによる.そのため,系に加わる加振力を他の計測データから間接的に算 出すること(入力同定)が必要である.

入力同定の手法として従来から用いられてきたのが逆行列法(Matrix Inversion Method)である.逆行列法では加振力,加速度間の伝達関数であるアクセレランス行列

[m/Ns

2

]

の逆行列と,実稼動時の応答加速度を乗じて加振力を同定する.しかし,逆行

列を用いたこの演算を行うと,応答加速度やアクセレランス行列に含まれる誤差が同定 加振力に拡大して伝播するという問題点があり(2),十分な同定精度を確保できない.振 動,騒音低減のための構造変更指針をより正確に得て,効果的な振動,騒音対策をとる ためには TPA の精度向上が求められる.そのためには加振力の同定精度を向上させる ことが必要である.

 

P

    

i

i f

h

(10)

1章 緒論

- 3 -

1.2

先行研究

本節では,TPAおよび入力同定に関する先行研究について述べる.

1.2.1 入力同定

入力同定に関する先行研究として,入力同定精度の向上のための研究であるTikhonov の正則化,特異値分解を用いたノイズ除去,動質量法,また新しい入力同定手法である エネルギー解析による実稼働時の入力パワー推定について述べる.

Tikhonovの正則化法による精度改良法(3)は,逆行列法による同定精度を改善する方法

である.最小二乗法によって応答の予測誤差だけを最小化するのではなく,解のノルム も最小化することによって精度の高い入力同定を行うというものである.この手法はい くつかのパラメータを解析者が任意に設定する必要があり,パラメータを設定する基準 も不明確であるため,使用が困難である.

特異値分解を用いた擬似逆行列のノイズ除去は,最小二乗法において行列の特異値分 解を行ない,最大特異値に対して十分に小さい特異値をノイズとみなし切り捨てること で擬似逆行列を得る手法であるが,厳密には特異値分解でノイズを分離することは難し い.

動質量法(Apparent Mass Method)(4)は,アクセレランス行列の逆行列に当たる動質 量を直接推定することで逆行列を用いた演算を回避し,入力同定精度を向上させる手法 である.逆行列法に用いるアクセレランスは,最小二乗法により加速度の予測誤差を最 小化するように推定する(5).一方,動質量は最小二乗法により加振力の予測誤差を最小 化するように推定しており,加振力の同定に適していると考えられている.

エネルギー解析による実稼働時の入力パワー推定(6)は,統計的エネルギー解析法

(Statistical Energy Analysis,SEA)およびエネルギー分布(Energy Distribution,ED)を 含んだエネルギー解析に基づくモデルを用いて実稼働時の入力パワーを同定する手法 を提案している.この手法は外力作用位置が明確でない場合の入力同定が可能である,

という利点を持つと言われている.

1.2.2 TPA

TPA に関する先行研究である,実稼働TPA,主成分TPAについて述べる.

実稼動TPA(Operational Path Analysis,以下OPAと表記)(7)は,入力同定を必要とし ない新たなTPAの手法として,能村らによって提案されたものである.OPAは,加振 点付近の参照点での加速度と評価点での応答を使用し,その間の伝達比を求めて寄与を 評価するものである.実稼動データのみを用いるため伝達関数測定が不要であり,その 測定工程や,測定のためにエンジン,サスペンションなどをボディから取り外す工程が 削減できる利点がある.OPAに関しては,寄与分離結果の精度を評価する手法(8),また

(11)

1章 緒論

- 4 -

評価点における振動騒音を目標値まで低減するために,各参照点でどの程度振動を低減 すれば良いか,という目標を設定する方法(9)について検討がなされている.一方でOPA に対しては,各点に作用する力が独立でなければ従来の TPA と同等の寄与を得ること ができないという問題点が指摘されている(10)(11)

主成分TPA(12)では,逆行列法における FRF に相当するもの(主成分伝達関数)を,

応答データに対して主成分分析を行うことで求める.そして主成分伝達関数と実稼働応 答より加振力(主成分仮想力)を求める.仮想力と主成分伝達関数の積から寄与分析を 行う.この手法は面接触などの分布力を持つ入力に対しても寄与分析が可能である,と いう利点がある.

1.3

研究目的

機械構造物の振動騒音低減のための構造変更指針を得るために行われている TPA おいては,構造物に加わる加振力を同定することが必要である.入力同定を必要としな OPAはその適用に制約があり,入力同定と伝達関数推定を行う従来のTPAを実施す ることが適当であると考えられる.しかし,入力同定の手法として従来から用いられて きた逆行列法では十分な同定精度を確保できない場合がある.また動質量法についても 周波数によっては同定精度が十分でないことがあり,更なる同定精度の向上が求められ ている.

入力同定の精度は計測誤差に影響を受ける.計測誤差は偶然誤差と系統誤差に分類さ れる(13).偶然誤差は真値の周りにデータをばらつかせるもので,センサーケーブルへの ノイズ混入などに起因する.偶然誤差は計測データの平均化することで影響を低減する ことができる.一方,系統誤差はデータをある量だけ偏らせるものであり,計測点位置 のずれ,計測センサー取り付け状態などに起因する.系統誤差は一般的な実験工程では 平均化により誤差を除去することはできず,誤差が存在するかどうかも分からないもの である.

以上を踏まえ,本研究では入力同定の実験計測における偶然誤差の影響を低減する方 法を検討すること,また系統誤差について入力同定への影響を明らかにすることを目的 とする.

偶然誤差の影響低減のため,本研究では応答計測点の個数および配置について検討す る.入力同定精度は各応答計測点における計測誤差に影響され,逆行列法ではアクセレ ランス行列の逆行列の安定性の影響も受ける.入力同定を行うための応答計測点の個数 は入力点数以上であれば任意であるが,入力同定を行うとき,計測された応答計測点か らどの点を選択し,どの点を除外するかが同定精度に影響すると考えられる.そこで,

(12)

1章 緒論

- 5 -

入力同定に用いる応答点の選び方全パターンについて入力同定を行い,それらの同定誤 差を比較することで,誤差が最小となる応答点配置を明らかにする.その結果より,ど のような応答点を選べば精度の高い入力同定が可能となるか明らかにする.

系統誤差については,本研究では実験計測に用いるロードセル・加速度計の取り付け 状態に起因する系統誤差を検討する.実験セットアップのやり直しを行いながら繰り返 し実験計測を行い,得られるFRFに生じるばらつきを求める.またそのFRFを用いて 同定した加振力に生じるばらつきを求め,系統誤差の入力同定への影響を明らかにする.

1.4

論文の構成

本論文は以下の全6章から構成されている.

1章では,研究背景として入力同定の概要,および現状の課題について述べ,本研 究の目的を明らかにする.

2章では,本研究で用いる理論について述べる.始めに入力同定手法である逆行列 法,動質量法の理論,および入力同定に必要となるアクセレランス,動質量の推定方法 について述べる.さらに同定精度の評価に用いる,同定誤差の算出方法を述べる.

3章では,数値シミュレーションにより入力同定を行う.始めに応答計測点の個数 および位置を変えて入力同定を行い,それらの入力同定結果を比較する.入力同定は逆 行列法および動質量法で行う.次に同定精度が高い結果を得るときの応答計測点配置を 示す.それより同定誤差が低減する要因について考察し,どのような応答点を選べば同 定精度が改善するか明らかにする.さらに,同定精度の高い結果が得られる応答計測点 配置の予測を試みる.

4章では,簡易構造物を用いた実験により入力同定を行い,シミュレーションによ る検討結果が実構造物に対しても妥当であるか確認する.

5章では,入力同定の実験計測における系統誤差の影響について考察する.実験に よる伝達関数計測を,実験セットアップをし直して複数回繰り返すことで,計測される 伝達関数にどの程度のばらつきが生じるか示す.また,そのばらつきが入力同定に与え る影響について明らかにする.

6章では,本研究で得られた知見についてまとめる.さらに今後の研究課題につい て述べる.

このように本論文は全6章で構成され,逆行列法および動質量法による入力同定の理 論を述べた後に,数値シミュレーションおよび実験について述べ,入力同定における応 答計測点配置について検討する.さらに実験における系統誤差の影響についても考察す る.

(13)

- 6 -

2

理論

(14)

2章 理論

- 7 -

2.1

はじめに

本章では,入力同定に用いる理論について述べる.始めに本論文で入力同定手法とし て用いる,逆行列法と動質量法による入力同定の方法を述べる.次に,逆行列法で用い

FRF(アクセレランス),および動質量法で用いる動質量の推定方法を述べる.さら

に,入力同定の精度を評価するために用いる,同定誤差の求め方について述べる.

本章では,以下の記号を用いる.

m:加振点数 n:応答計測点数

N:アクセレランス・動質量推定における計測回数 Na:実稼働計測における計測回数

AT:行列Aの転置 A*:行列Aの複素共役 AH:行列Aの複素共役転置

2.2

入力同定手法

本節では,入力同定の手法として従来から用いられてきた逆行列法(Matrix Inversion

Method),およびより高精度の入力同定が可能な手法として先行研究で提案された動質

量法(Apparent Mass Method)の理論を述べる.

2.2.1 逆行列法(Matrix Inversion Method)

逆行列法による入力同定では,始めに加振実験により入力加振力,応答加速度間のア クセレランスを推定する.

次に,実稼動時の応答加速度を計測する.ここで,加振力,加速度,およびアクセレ ランスの間には,次式の関係がある.

 

 

   

   

 

 



















m nm

n

m

n f

f

h h

h h

a a

1

1

1 11

1

(2.1)

:点iにおける加振力のフーリエスペクトル[N]

:点jにおける応答加速度のフーリエスペクトル[m/s2]

:点i入力,点j応答のアクセレランス[m/Ns2]

式(2.1)を書き直して,

  

fi

 

aj

 

hji

(15)

2章 理論

- 8 -

 

H

   

f

a (2.2) 加振点数mが応答計測点数nに等しいときは,アクセレランスH

  

の逆行列H1

  

式(2.2)に左からかけて,

  

H

    

a

f1 (2.3) 加振点数mと応答計測点数nが異なるとき(m<n)は,アクセレランスH

  

の擬似逆 行列H

  

を式(2.2)に左からかけて,

  

H

    

a

f (2.4) ここで,

  

HHH

HH

H

1 (2.5) 入力同定精度の観点から,応答計測点数 n を加振点数m より多くとるのが一般的であ る.

式(2.3)または式(2.4)を用いて,アクセレランスH

  

と実稼動時の応答加速度a

  

ら実稼動時の加振力f

  

を同定する.

2.2.2 動質量法(Apparent Mass Method)

動質量法は,逆行列法で用いるアクセレランス行列の逆行列H1

  

,または擬似逆 行列H

  

に当たる動質量G

  

を直接推定する手法である.

動質量法による入力同定では,始めに加振実験により動質量G

  

を推定する.

次に,実稼動時の応答加速度a

  

を計測する.加振力f

  

,加速度a

  

,および動 質量G

  

の間には次式の関係がある.

 

G

   

a

f (2.6) 式(2.6)を用いて,動質量G

 

と実稼動時の応答加速度a

  

から実稼動時の加振力f

  

を同定する.

2.3

周波数応答関数の推定方法

線形な系において,入力加振力のフーリエスペクトルをx(),応答加速度のフーリエ スペクトルをy(),周波数応答関数(Frequency Response Function ,以後FRFと表記)

h()とする.任意の周波数において,入力と応答の間には次式の関係が成り立つ.

     

h

x

y (2.7) ここで,入力と応答のフーリエスペクトル間に成り立つ線形関係の比例定数を表すの

h()である.FRFの推定とは,入力と応答のフーリエスペクトルを実験的に計測し,

それから比例定数h()を求めることである.したがって,1回の加振実験を行って入力 加振力と応答加速度を得たとすれば,式(2.8)からFRFを推定できる.

(16)

2章 理論

- 9 -

      

 

x

hy (2.8) しかし実際には加振実験において,何らかの計測誤差が入力加振力と応答加速度に混 入する.計測誤差を除去するため,複数回の加振を行い,複数個の入力加振力と応答加 速度の組み合わせを用いてFRFを推定する.FRFの推定には,一般的にH1推定法を用 いる.この方法は,加振実験で得られる入力加振力と応答加速度のうち,応答加速度の みに計測誤差が含まれると仮定して,その計測誤差を最小化するように最小二乗法で FRFを推定するものである.2.3.1項で1点加振,2.3.2項で多点加振の場合のFRF推定 法を述べる.

2.3.1 H1推定(1点加振)

N回の計測で入力加振力と応答加速度を得たとする.応答加速度のみに誤差が含まれ るとすると,任意の周波数において次式が成り立つ.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

h x

x

y y

N N

N















1 1

1

(2.9)

x(k)(), y(k)(),(k)()はそれぞれ第k回目の計測で得られた次の量を意味する.

x(k)():入力加振力のフーリエスペクトル

y(k)():応答加速度のフーリエスペクトル

(k)():応答加速度に含まれる誤差のフーリエスペクトル

ここで,応答加速度に含まれる誤差の二乗和

 

 

N

k k 1

2

(2.10) が最小になるようなh()を求めるのがH1推定である.

これをx-y平面で模擬したのが図2.1である.ここで,誤差は応答加速度である縦軸 y方向のみに含まれることを仮定しているので,観測データ と直線y = hx とのy方向の誤差(k)の二乗和が最小になるような傾きhを求めていることになる.

ここで,式(2.9)を次のようにベクトル表記する.

h ε x

y  (2.11) 最小二乗法により誤差

ε 2

(2.12) が最小になるような係数hを決定する.これをN次元空間で模擬したのが図2.2である.

ここで誤差ベクトル は,入力ベクトルxの定数倍xhから応答ベクトルyに向かうベ

   

xk

,

yk

(17)

2章 理論

- 10 -

クトルであるから,誤差 を最小にするにはxhがベクトルyから直線xに下ろした 垂線の足になるようにすればよい.これをベクトルの直交条件で示せば,

h

0

H y x

x (2.13) すなわち,

x x

y x

H H

h (2.14) が得られる

2.1 H1推定における観測データと直線y = x hの関係

2.2 N次元空間におけるH1推定の入力ベクトルxと応答ベクトルyの関係

 

,

 

) (

xk y k

 k

y = x h

0

X

Y

y



x xh

ε 2

(18)

2章 理論

- 11 - 2.3.2 H1推定(多点同時加振)

N回の計測で入力加振力と応答加速度を得たとする.応答加速度のみに誤差が含まれ るとすると,任意の周波数において次式が成り立つ.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



















m N

m N

m

N

N h

h

x x

x x

y y

1

1

1 1

1 1

1

, ,

, ,

(2.15)

xi

(k)():点iにおける入力加振力のフーリエスペクトル

y(k)():応答加速度のフーリエスペクトル

(k)():応答加速度に含まれる誤差のフーリエスペクトル

hi():点iの入力による周波数応答関数(FRF)

なお,xi(k)(),y(k)(),(k)()はそれぞれ,第k回目の計測で得られた値である.

ここで,測定回数Nが加振点数mに等しければ式(2.15)は連立方程式となり, を 求めることができるが,一般には測定回数Nを加振点数mよりも多くとることができ る.そこで,応答加速度に含まれる誤差の二乗和

 

 

N

k k 1

2

(2.16) が最小になるようなhi()を最小二乗法により求める.

式(2.16)を次のように行列表記する.

x x

h ε

y  1

,

,

m

Xh (2.17) ここで,

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



N m N

m m

x x

x x

, ,

, , ,

,

1

1 1

1 1

x x X

(2.18)

 

 







hm

h

1

h

この関係を加振点数が2のときにN次元空間で模擬して示したのが図2.3である.誤差 ベクトル のノルムが最小になるようにするには,ベクトルyからベクトルx1x2 任意の線形結合で作られる平面R(X)(行列Xの列空間)に下ろした垂線の足が Xh なるようにhを定めればよい.このとき,誤差ベクトル と行列 Xの列空間は直交す

 

hi

(19)

2章 理論

- 12 -

るので XH

yXh

0

(2.19) したがって,誤差を最小にするFRFベクトルhは次式より得られる.

X X

X y

hH 1 H (2.20)

2.3 多点同時加振におけるH1推定

2.4

動質量の推定方法

この節では,振動試験により得られた入力加振力のフーリエスペクトルと応答加速度 のフーリエスペクトルを用いて,H2推定により動質量を推定する方法について述べる.

2.4.1項で多点同時加振,2.4.2項で1点加振の場合の動質量推定法について述べる.

2.4.1 動質量推定(多点同時加振)

次式で表される動質量行列について考える.

Gy

x (2.21) G:動質量行列(m×n)

y:応答加速度のフーリエスペクトル(n×1)

x:加振力のフーリエスペクトル(m×1)

ここで,多点同時加振が行われたときの,多点計測された応答加速度と入力点iとの動 質量に着目する.加振力にのみ誤差が含まれると仮定すると次式が成り立つ.

   

   

   

 

   

 



















n N n N

n

N

N g

g

y y

y y

x x

1

1

1 1

1 1

1

, ,

, ,

(2.22)



y

x1

x2

R(X)

Xh

θ

(20)

2章 理論

- 13 -

x(k):点iにおける入力加振力のフーリエスペクトル yj

(k):点jにおける応答加速度のフーリエスペクトル

(k):応答加速度に含まれる誤差のフーリエスペクトル gj:点jの加速度と点iの加振力との動質量

なお,x(k),yj(k)(k)はそれぞれ第k回目の計測で得られる量である.

式(2.22)を次式のように行列表記する.

i

i ε Yg

x   (2.23) giは動質量行列のi行目を縦に並べた列ベクトルである.

入力加振力に含まれる誤差の二乗和が最小になるようなgiを最小二乗法により求める.

誤差ベクトル とYの列空間が直交するという条件より,

ii

0

H x Yg

Y (2.24) 式(2.24)より動質量ベクトルgiは次のように得られる.

 

i

H H

i Y Y Y x

g1 (2.25) giは式(2.21)における動質量行列の行ベクトルであるので,式(2.25)の両辺の転置をとっ て,

 

H

T

T i T i

1

x Y Y Y g

iT xY

YTY

1 (2.26) 全ての加振点における動質量行列を作成すると,式(2.26)は次式のように行列表記でき る.

1

X Y Y Y

G T T (2.27) Xは加振力のフーリエスペクトル行列(N×m)である.

式(2.27)をスペクトル行列を用いて書き換えると次式になる.

WXY WYY 1

G (2.28) WXY:入力加振力と応答加速度のクロススペクトル行列

WYY:応答加速度のパワースペクトル行列 Y

X WXYH

Y Y WYYH

(21)

2章 理論

- 14 - 式(2.28)を用いて動質量の推定を行なう.

2.4.2 動質量推定(1点加振)

ここでは,複数ある加振点を1点ずつ加振して動質量行列を推定する場合について述 べる.動質量は加速度が入力,加振力が応答であるため,1点ずつ加振する場合でも全 加振点を加振したときの応答を知る必要がある.そのため全点を加振したときの応答を 全て計測しておき,最後に全データを平均して動質量行列を推定する.

複数の加振点を1点ずつ加振した場合には,式(2.27)は次式になる.

 

 

 

 

 

 

1 1 1 1

1 2

1 2 1

1 1

0 0

0 0

0 0

0 0

0 0

0 0





























































m T

m m

T

N m

m N N

x x x

x x

x

Y Y

Y Y

Y Y

G   

(2.29)

xi

(k):点iを加振した時の第k回目の計測における加振力のフーリエスペクトル Yi:点iを加振した時の応答加速度のフーリエスペクトル行列(N×n)

2.5

コヒーレンス関数

本節では,計測データの信頼性の指標となるコヒーレンス関数について述べる.

ここでは1点加振の場合を考える.2.3.1項の図2.2において入力ベクトルxと応答ベ クトルyの関係を示しているが,線形系では入力ベクトルxと出力ベクトルyは本来線 形関係に,すなわち幾何学的には同一直線上にあるはずのものである.しかし,実際に は計測誤差によりこの関係が成り立っていない.そこで,入力ベクトルxと出力ベクト yの線形性の尺度を表すものとして,N次元空間における2つのベクトルの余弦を考 えると,

y x

y y x

x y x

H

H  cos cos  (2.30) 式(2.30)より以下のようにコヒーレンス関数2が定義される.

(22)

2章 理論

- 15 -

2 2

2 2 2

cos

y x

y xH

(2.31) 式(2.31)よりコヒーレンス関数は

1

0

2 (2.32) である.コヒーレンス関数の値が1に近い程計測データの線形性が高いということにな り,計測データの信頼性が高いといえる.

2.6

入力同定誤差の評価方法

本節では,入力同定の精度を評価するための誤差指標値について述べる.入力同定の 精度は,各周波数において同定加振力と,加振力の真値(実験の場合はロードセルによ って直接計測する加振力)の差をとり,それを加振力の真値で除して正規化した値で評 価する.

2.6.1 相対誤差(Relative Error)

同定される加振力の,計測される加振力に対する相対誤差を用いて,周波数毎に入力 同定誤差を評価する.

相対誤差はある加振点1点における加振力の誤差を評価する場合,および全加振点に おける加振力の誤差を評価する場合の2種類定義する.

ある加振点1点における加振力の誤差を評価する場合,ある周波数の点iにおける 加振力の相対誤差i,rel.()は次式で表される.

 

 

 

 

 

 

 

N

k k i N

k

k i k

i rel

i

f f f

1

2 1

2

. ,

ˆ

(2.33)

:k回目に同定された,点iにおける加振力のフーリエスペクトル :k回目に計測された,点iにおける加振力のフーリエスペクトル

全加振点における加振力の誤差を評価する場合は,各点の加振力を縦に並べた加振力

ベクトルの誤差として評価する.ある周波数の加振力ベクトルの相対誤差rel.() は次式で表される.

 k

  

f

ˆ

i

 k

  

fi

(23)

2章 理論

- 16 -

 

 

 

 

 

 

 

N

k k N

k

k k

rel

1

2 1

2

.

ˆ

f f f

(2.34)

 

 

 

 

 

 







k m

k k

f f

ˆ ˆ

ˆ 1

f :k回目に同定された加振力ベクトル

 

 

 

 

 

 







k m

k k

f f

1

f :k回目に計測された加振力ベクトル

2.6.2 周波数平均誤差(Frequency Averaged Error)

周波数平均誤差は,各周波数について求めた同定誤差(相対誤差)をある周波数範囲 において平均し,その周波数範囲における誤差を評価する.周波数平均誤差も相対誤差 と同様,ある加振点1点における加振力の誤差を評価する場合,および全加振点におけ る加振力の誤差を加振力ベクトルの誤差として評価する場合の2種類定義する.

ある加振点iにおける加振力の周波数平均誤差i,ave.()は次式で表される.

  

M

l

l rel i ave

i, . M 1 ,

1  

(2.35) 加振力ベクトルの周波数平均誤差ave.()は次式で表される.

  

M

l

l rel

ave. M 1 .

1  

(2.36) なお,Mは周波数平均誤差を求める周波数範囲の周波数点数を示す.

2.7

同定加振力の分散推定

3章および第4章では,同定誤差の評価に同定加振力の分散を用いる.本節では,

先行研究(14) (15)で提案された同定加振力の分散推定方法について述べる.

始めに,同定誤差の評価に分散を用いる理由を述べる.同定加振力の標本分散は,入 力同定の平均回数分得られる加振力と,それらの平均値の差の二乗平均で求められる.

加振力の平均値が真値である,とすれば分散は同定加振力と真値の差の二乗平均,すな わち同定誤差となり,分散を用いて同定誤差を評価することが可能となる.

表 3.1    同定加振力の周波数平均誤差  i,ave. ,   ave. [-]
図 3.8    同定誤差の比  (応答点数 8 点誤差最小パターン・4 点誤差最小パターン,逆行列法)  (図中の        線は受動系固有振動数を示す)  0 50 100 150 20000.511.522.533.54 Frequency[Hz]
図 4.5    計測器の接続
表 4.4  同定加振力の周波数平均誤差  i,ave. ,   ave.  [-](25~400[Hz])

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