博 士 ( 歯 学 ) 原 橋 宏 幸 学 位 論 文 題 名
An immunohistochemiCalStudyofthe 一
per10dontalattaChmenton
SurgiCa11y − denudedrOOtdentinafterperiodontalSurgery
(歯周外科後に生じた歯周組織と既存象牙質との 接 合 に 関 す る 免 疫 組 織 化 学 的 研 究 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
【緒言 】
歯周 治療の最終目標は,破壊された歯周組織を再生して機能と形態を回復させることにある.これには露 出根面 上への新たなセメント質形成が必要である.現在まで,歯根表面上のセメント質再生を狙ったさまざ まな歯 周組織再生療法が臨床応用されている.それらの組織学的研究で,新生セメント質が歯根表面から剥 離して いる報告がある.一方,通常のセメント質が組織標本作成過程で剥離することはほとんど無く,歯周 外科手 術後に生じた新生セメント質と象牙質の接着様式は,通常の発生過程で生じたものとは異なる可能性 がある .
ヒト およ び ラッ トの セメ ント 質の 有機質には,コラーゲン線維以 外に酸性糖蛋白であるBSPとOPNが存 在し, 特にセメント象牙境に集積していることが明らかにされている,また,セメント象牙境に集積したBSP とOPNは セメ ント質の初期石灰化に関与するとともに,セメント象牙 境の接着にも関与すると報告されて いる. また,術後に生じるセメント質と象牙質の接合は根面のEDTA処理によるエッチングや,ブタの歯胚 から抽 出・精製されたEMDの塗布に よって影響を受ける可能性がある.
本研 究は,歯周組織の治癒と再生,特に新生セメント質と象牙質の付着が,異なる根面処理によりどのよ うな影 響を受けるのかを明らかにすることを目的とし,病理組織学的および免疫組織化学的に観察するとと も に組 織計 測 し, 分析 項目 の算 出お よび 統計 分析 を行 い, それ ぞれ の 術式 の効 果に つい て考察した.
【材料 および方法】
実験 動物 として成ニホンザル2匹を用い,上顎歯頬側根面の計36部 位を実験部位とした.実験部位の頬 側歯肉 粘膜弁を全層弁剥離して歯槽骨を露出させ,CEJを基準点として象牙質表面をラウンドバーで削除し,
根 尖方 向ヘ 幅0.5mm, 長さ4mmの 裂開 状欠 損を 作成 した .術 式の 違いにより3群に分け,欠損作成のみの 群 をFop群,24%EDTAで15秒間 エッ チン グ 処理 した 群をEtc群, エッ チ ング 処理 後に エム ドゲインゲル を 塗布 した 群 をEMD群 とし た. 各群 とも に 処置 後, 歯肉 弁を 復位, 縫合した.観察期間は30月間とし,
観 察期 間終 了 後, 試料 をホ ルマ リン 固定し,10%EDTAで脱灰して厚 さ6ルmの連続横断切片を作成した,
各実 験部位の欠損の歯冠側端から根尖側端の聞の中央部の切 片を1枚選択し,中央部と歯冠側端の中間部 を歯冠 側中間部,中央部と根尖側端の中間部を根尖側中間部と してそれぞれ1枚ずつ選択した.各実験部位 に っき 計3枚 をH‑E染色 し, 歯周 組織 再生 に関 する 病理 組織 観察 を行 っ た,3枚 のH‑E染色 切片のそれぞ
− 541―
れ の歯 冠 側 直近 の1枚 と根 尖 側 直近 の1枚の 切 片 を選 び , 歯冠 側 切 片に はBSPの , 根 尖側 切 片 にはOPN の免疫 染色を 施した, 免疫染 色方法に ついては一次抗体として,抗ヒトBSP‑ウサギポリクローナル抗体,
あるいは抗マウスOPN‑ウサギポリクローナル抗体を反応させ,二次抗体としてビオチン標識坑ウサギ・ブタ ポ リ ク ロ ー ナ ル 抗 体 を 反 応 さ せ , 3, 3 ‐ diaminobenzidineに よ っ て 発 色 を 行 っ た , 組 織 計 測を 倍 率100倍 の光学顕 微鏡を 用いて行 った. 同一組織 標本内でBSPとOPNの反 応状況 が類似し ていた ので,BSP染色 切片の みで計測 した. 計測項目 は,欠損 象牙質 表面全体の長さを欠損距離(DL),新 生セメ ント質 に覆われ た欠損 象牙質表 面の長さをセメント質距離(CL),新生セメント質が剥離していなぃ 欠損象 牙質表 面の長さ を形態 学的接合 距離(CDF),BSP反応が 認められ る欠損象 牙質表 面の長さを免疫組 織 化 学 的 接 合 距 離(CDA), お よ び セメ ン ト 質面 積(CA)と した . 分 析 項目 は ,DLに 対 するCLの割 合 を セ メン ト 質 再生 率 ,DLに 対 す るCDFの総 和 の 割合 を 形 態学 的 接 合率 ,DLに対 す るCDAの 総和 の 割 合を 免疫組 織化学 的接合率 とした .3群 間の統計 学的有意差検定にはKruskal‑Wallis検定を用い,2群間の比較 にMann‑Whitneyのび検定を用いた.
【結果】
1)病理組織観察
いずれの群でも新生セメント質は欠損象牙質表面の大部分を覆っていた.歯周外科後に生じた新生セメン ト質は有細胞性セメント質であった.歯周外科後に生じた新生セメント質と象牙質の接合部には剥離がみら れ,そ の剥離 は欠損最深部よりも欠損側壁部で多く観察された.免疫染色では,3群ともに歯周外科後に生 じた新 生セメ ント質と 象牙質 の接合部 の大部 分にも, 本来のセ メント 象牙境と 同等なBSPとOPNの発現が みられ た.ま た,新生 セメン ト質に隣 接している部分で線維性組織が付着している象牙質表面にBSPとOPN の強い発現がみられる部分が多かった.
2)免疫組織化学的計測および統計学的分析
欠 損 距 離(DL)とセ メ ン ト質 再 生 率と も に3群 間 に 有意 差 は なか っ た , セメント 質面積(CA)に関して は ,Etc群に 対 し てEMD群 は危 険 率1% ,Fop群 は 危険 率5%で 有 意 に 大き かっ た.形態 学的接 合率につ い ては ,Fop群 に 対 してEtc群 とEMD群 と は危 険 率1% で , 有意 に 高 か った ,免疫 組織化学 的接合 率は3 群問に有意差はなかった.
【考察】
本研究では,新生セメント質と既存象牙質との接合についての統計学的分析項目として,一般的に用いら れているセメント質再生率の他に,形態学的接合率,免疫組織化学的接合率を算出した,形態学的接合率は,
組織学的試料作製過程によって剥離しない象牙質とセメント質との強固な接着の指標とした.さらに,通常 の セメ ン ト 象牙 境 はBSPとOPNに 富 み, 両 基 質は 接 着 因子 で あ り,BSPとOPNは初 期 セ メン ト 質 の石 灰 化 に関 わ る とさ れ , 象 牙質 表 面 の接 着 因 子の 集積の 指標と して,免 疫組織 化学的接 合率を算 出した , セメ ント質再 生率に関 して,3群そ れぞれが70%以上の高い割合を示し,3群間に有意な差が認められな かった .この ことはエ ッチン グ処理とEMD塗 布のいず れもセメ ント質 の再生距離に影響しないことを示し ている .しか しながらセメント質面積に関してはEtc群が最も低い値を示した.欠損幅が狭いことによルエ ッチン グ処理 が周囲の 骨や歯 根膜およ ぴ歯肉粘膜弁などの周囲組織にも障害を与えたと思われる.一方,
EMD群 に も同 様 な エ ッチ ン グ 処理 を 行 った が セ メン ト 質 面積 はEtc群 よ りも 大きかっ た.お そらくEMD に よ る 効 果 に よ り , エ ッ チ ン グ 剤 の 周 囲 組 織 へ の 影 響 が マ ス ク さ れ た と 思 わ れ る . 形態 学的接合 率に関し て,Fop群の新 生セメント質と象牙質との接合強度は他の2群よりも弱く,この違 いは根面のエッチング処理の有無によって生じたと思われる,エッチング処理の効果として,象牙質面上の スメア層が除去され内部の基質線維が露出し,この基質線維と新生セメント質線維とが交織することで接合 強度が増した可能性が考えられる,
−542−
免疫組織化学的接合率に関しては3群間で有意差は認められなかっ た.この事は,エッチング処理やEMD 塗布 は付 着因 子で あるBSPとOPNの集積には影響を及ばさなぃ事を示している.ま た,新生セメント質に 隣接 して いる 部分 で線 維 性組 織が 付着 して いる 象牙 質表面にも,3群に共通してBSPとOPNの集積がみら れたことは,光学顕微鏡では観察されにくい微細なセメント質の存在の可能性や,将来的な新生セメント質 が形成される部分である可能性が考えら れる.
【結論】
歯 周外 科後 に生 じた 新 生セメント質と象牙質,およぴ線維性組織と象牙質との 接合にはBSPとOPNが関 与しており,エッチング処理は周囲歯周組織に為害作用を及ばす可能性はあるものの,新生セメント質と象 牙質の接合強度を高めることが示唆され た.
一543―
学位論 文審査 の要旨 主 査 教 授 川 浪 雅 光 副 査 教 授 土 門 卓 文 副 査 教 授 網 塚 憲 生 副査 准教授 山本恒之
学位論文題名
An immunohistochemical study of the periodontal attachment on
surgically‑denuded root dentin afterperiodontalSurgery
(歯周外科後に生じた歯周組織と既存象牙質との 接 合 に 関 す る 免 疫 組 織 化 学 的 研 究 )
審査は主査、副査全員が一同に会して口頭で行った。はじめに申請者に対して本論文の概要の説明を求めた ところ、以下の内容について論述した。
本研究は、術式の異なる歯周外科後に生じた歯周組織の治癒と再生を検索した。特に、新生セメント質と象牙質の 接合部を、組織学的および免疫組織化学的に解析する一方で、分析項目の算出およぴ統計分析を行い、それぞれ の術式の効果について考察した。
成獣期のニホンザル2匹における上顎歯頬側根面の計36部位を実験部位とし、同部位に裂開状欠損を作成した。
歯周外科的な術式として、欠損作成のみの群をFop群、24%EDTAで15秒間処理した群をEtc群、エッチング処理 後にエ ムドゲ インゲル を塗布し た群をEMD群の3群 に分けた 。30月問 の観察期間終了後、厚さ6pmの連続横断 切片を作成した。各実験部位にっき3枚を選択してH‑E染色を行うとともに、その連続切片において骨シアロ蛋白 (bone sialoprotein: BSP)とオステオポンチン(osteopontin:OPN)の免疫染色を施した。組織計測を倍率100倍の 光学顕微鏡を用いて行い、BSP染色切片で計測した。計測項目は、欠損表面の長さを欠損距離(DL)、新生セメント 質に覆われた欠損表面の長さをセメント質距離(CL)、新生セメント質が剥離していない欠損表面の長さを形態学的接 合距離(CDF)、BSP反応が認められる欠損表面の長さを免疫組織化学的接合距離(CDA)、およびセメント質面積 (CA)とした 。分析 項目は、CL/DLX100を セメン ト質再生 率、CDF/DLX100を 形態学 的接合率 、CDAfDLx 100を 免疫組織化学的接合率とした。
いずれの群でも、有細胞性セメント質で構成される新生セメント質が欠損表面の大部分を覆っていた。新生セメント 質と:象牙質の接合部の一部分に剥離が生じ、それは欠損最深部よりも欠損側壁部で多く観察された。免疫染色を行う と、本来のセメント象牙境と同様に、全群の新生セメント質と象牙質の接合部には、線状のBSPおよびOPN陽性反応 がみられた。また、線維性組織が付着している象牙質表面にもBSPとOPN強陽性反応を示す部位を認めた。統計学 ‑ 544―
的分 析 では、 欠損距離(DL)とセメント質再 生率ともに3群問において有 意差はなかった。セメント 質面積(CA)に関し て は 、Etc群 に 対 し てEMD群 は 危 険 率1% 、Fop群 は 危険 率5%で 有意 に高 い値 を 示し た。 形態 学的 接 合率 につ い て は 、Fop群 に 対 し てEtc群 とEMD群 と は 危 険 率1% で、 有意 に高 値を 示 した 。免 疫組 織 化学 的接 合率 は3群共 に 90%以上で、3群間 に有意差はなかった。
本 研 究で は、 統計 学的 分 析項 目として 、セメント質再生率の他に、 形態学的接合率、免疫組織 化学的接合率を算 出した。形態学的 接合率は、組織学的試料作製 過程によって剥離しなぃ象 牙質とセメント質との強固な接着の指標と した 。 さら に、 本来 のセ メ ント 象牙境の 接着因子であるBSPとOPNを象 牙質表面の接着因子の集積 の指標として、免 疫組織化学的接合 率を算出した。セメント質再 生率に関して、3群間に有意 な差が得られなかったことは、エッチング 処理 とEMD塗 布 がセ メン ト質 の再 生距離に 影響しないことを示唆して いる。形態学的接合率に関し ては、Fop群の新 生セメント質と象 牙質との接合強度が他の2群よりも低く、この違いは根面のエッチング処理の有無によって生じたと思 われる。従って、 エッチング処理の効果として 、象牙質面上のスメア層が除去されることで接合強度が増した可能性が 考え ら れる 。3群間 で免 疫組 織化 学 的接 合率 の有 意差 が 認め られ なか っ たこ とか ら、エッチング 処理やEMD塗布は BSPとOPNの 集積 には 影響 を 及ば さな いと 推 測さ れた 。ま た、3群 に共 通 して 線維 性組 織が 付 着し てい る象 牙質表 面に もBSPとOPNの集 積が み られ たことは 、光学顕微鏡では観察されに くぃヽ微細をセメント質の 存在の可能性や、
将来的な新生セメ ント質が形成される部分であ る可能性が推察される。
以 上 のこ とか ら、 歯周 外 科後 に生 じた 新 生セ メン ト質 と象 牙 質、 およ び線 維性 組 織と 象牙 質の 接 合に はBSPと OPNが関与し、接合 の強さはエッチング処理に よって高まることが示唆され た。
引 き 続 き 審 査 担 当 者 と 申 請 者 の 間 で 、 論 文 内 容 及 び 関 連 事 項 に つ い て 質 疑 応 答 がな され た 。主 な質 問事 項 は 、
(1) 根 面 処 理 に 使 用 し た エ ッ チ ン グ 剤 の 濃 度 ・ 作 用 機 序 に っ い て
(2)新 生 セ メ ン ト 質 の 定 量 評 価 に 対 し て 、 今 回 設 定 し た 分 析 項 目 の 有 用 性 ・ 意 義 に つ い て (3)新 生 セ メ ン ト 質 を 形 成 す る 細 胞 由 来 と そ の 分 化 に っ い て
(4) OPN,BSPの 基 質 間 接 着 作 用 の メ カ ニ ズ ム に っ い て な ど で あ っ た 。
こ れら の質 問 に対 し、 申請 者は 適 切な 説明 によ って回答し、本研究の内 容を中心とした専門分野は もとより、関 連分 野に っい て も十 分な 理解 と学 識 を有 して いる こと が 確認 され た。 本 研究 は歯 周外 科後 に 生じた 歯周組織と既 存 象 牙 質 と の 接 合 部 に っ い て 組 織 学 的お よび 免 疫組 織化 学的 に観 察 する とと もに 組 織計 測し 、統 計学 的 な検 討 をし たこ とが 高 く評 価さ れた 。本 研 究の 内容 は、 歯科医学の発展に十分貢 献するものであり、審査担 当者全員は、
学位 申請 者が 博 士( 歯学 )の 学位 を 授与 する のに 値す る もの と認 めた 。
―545―