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t t tt t キノホルムによる細胞系譜特異的転写因子の発現変化

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Academic year: 2021

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(1)

A. 研究目的

我が国で亜急性脊髄視神経ニューロパチー (スモン) という重篤な薬害をもたらしたキノホルム (一般名:

クリオキノール) は、 銅・亜鉛・鉄イオンに高い親和 性を示す金属キレート剤・イオノフォアであり、 その 腸内殺菌作用は菌体内の金属酵素の金属をキレートす ることにより発揮されると考えられていた。 一方キノ ホ ル ム に よ る ス モ ン 発 症 の 原 因 に つ い て は ビ タ ミ ン B12の 低 下 に よ る と す る 説 が あ る も の の 、 確 固 た る 証 拠が得られないまま今日に至っている。

キノホルムは metal protein attenuating compounds (MPACs) の一種である。 MPACs は金属イオンを介 する蛋白の凝集を抑制することから、 近年海外におい て神経変性疾患に対する改善効果や制がん作用が注目 され、 医薬品としての価値が見直されている。 オース ト ラ リ ア の 製 薬 企 業 が キ ノ ホ ル ム を 基 に 開 発 し た PBT2 はアルツハイマー病とハンチントン病に対して 第 2 相試験が行われるまでに至ったが、 一定の症状改 善効果が認められたとする同社の報告に対して、 結果 の解釈に懐疑的な意見も存在する。 また同社はパーキ

― 179 ―

キノホルムによる細胞系譜特異的転写因子の発現変化

勝山 真人 (京都府立医科大学大学院医学研究科 中央研究室 RI センター) 矢部 千尋 (京都府立医科大学大学院医学研究科 病態分子薬理学)

研究要旨

キノホルムによるスモン発症のメカニズムは未だ不明である。 我々は DNA チップを用い、

培養神経系細胞株においてキノホルムにより発現が変動する遺伝子を網羅的に解析した。 こ れまでにキノホルムが DNA 二本鎖切断による ATM-p53 経路の活性化を引き起こすこと、

転写因子 c-Fos の発現誘導を介して痛み反応に関与する神経ペプチドの前駆体・VGF の発現 を誘導すること、 また低酸素応答を引き起こすことを見出した。 今回、 キノホルムが細胞系 譜特異的転写因子の発現変動を引き起こすことを見出し、 そのメカニズムについて解析した。

ヒト神経芽細胞腫 SH-SY5Y 細胞および IMR-32 細胞を定法により培養した。 RNA を単離 して逆転写を行い、 定量 PCR によりキノホルムおよび各種阻害薬による Phox2b と SOX9 の mRNA 量の変化を測定した。

両細胞において、 50μM のキノホルムは神経細胞特異的転写因子 Phox2b の mRNA 量を 低下させた。 一方 SH-SY5Y 細胞では、 放射状グリア細胞、 アストロサイト、 オリゴデンド ロサイト前駆細胞に発現し、 神経芽細胞には発現しない転写因子 SOX9 の mRNA 量がキノ ホルム刺激により増加した。 アクチノマイシン D が両 mRNA に対するキノホルムの作用に 拮抗することから、 キノホルムは mRNA の安定性ではなく転写に影響を及ぼすものと考え られた。 ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬のトリコスタチン A (TSA) は Phox2b の発現を 抑 制 し た が 、 キ ノ ホ ル ム は TSA の 作 用 に 影 響 を 及 ぼ さ な か っ た 。 一 方 キ ノ ホ ル ム に よ る SOX9 の発現誘導は TSA により抑制されたことから、 キノホルムの作用はヒストンの脱アセ チル化を介するものと考えられた。

キノホルムによる細胞系譜特異的転写因子の発現変動が、 その神経毒性の一端を担う可能 性が示唆された。

(2)

ンソン病・運動障害、 および脳腫瘍に対する類縁化合 物も開発しており、 それぞれ前臨床試験中と報じてい る。

このようにキノホルム類縁化合物の医薬品としての 価値が見直されている昨今、 キノホルムの神経毒性の 分子基盤の解明は、 臨床への再応用に警鐘を鳴らし、

新たな薬害を阻止するためにも必須である。

我々は DNA チップを用いて培養神経系細胞株にお いてキノホルムにより発現が変動する遺伝子を網羅的 に解析し、 キノホルムの細胞毒性には、 DNA 二本鎖 切断による ATM の活性化と、 それに伴う癌抑制性転 写因子 p53 の活性化が関与することを明らかにした1)。 またキノホルムが転写因子 c-Fos の発現誘導を介して、

痛み反応に関与する神経ペプチド前駆体 VGF の発現 を誘導することを見出した2)。 さらにキノホルムが低 酸素応答を引き起こし、 ミトコンドリアのオートファ ジーに関与する蛋白群の発現を誘導することも見出し ている。

今 回 、 網 羅 的 解 析 に お い て 、 キ ノ ホ ル ム に よ り mRNA の発現が増加した 2,429 個の遺伝子のうちから SOX9、 また mRNA の発現が減少した 2,727 個の遺伝 子のうちから Phox2b という、 2 種の転写因子に着目 した。 Phox2b は神経細胞特異的に発現する転写因子 である。 一方 SOX9 は放射状グリア細胞、 アストロサ イト、 オリゴデンドロサイト前駆細胞に発現し、 神経 芽細胞には発現しない転写因子である。

本研究では、 キノホルムが細胞系譜特異的転写因子 の発現変動を引き起こすメカニズムについて解析した。

B. 研究方法

【細胞培養】

ヒ ト 神 経 芽 細 胞 腫 SH-SY5Y 細 胞 は ハ ム F12 : EMEM (アール塩含有) (1:1) (1%非必須アミノ酸 と 15%ウシ胎仔血清を添加) で培養した。 ヒト神経 芽細胞腫 IMR-32 細胞は、 EMEM (アール塩含有) (1

% 非 必 須 ア ミ ノ 酸 と 10% ウ シ 胎 仔 血 清 を 添 加 ) で 培 養 し た 。 キ ノ ホ ル ム は ジ メ チ ル ス ル ホ キ シ ド (DMSO) に溶解し、 培地中に 1000 倍希釈して添加し て、 刺激 24 時間における濃度依存性と、 50μM にお け る 時 間 経 過 を 測 定 し た 。 対 照 の サ ン プ ル に は

DMSO を添加した。 アクチノマイシン D またはトリ コスタチン A (TSA) を用いた実験では、 それぞれ最 終濃度 1μg/ml、 1μM になるよう、 キノホルムと同 時に培地中に添加し、 3 時間培養した。

【定量 PCR】

キノホルム存在下で培養した細胞とコントロールの 細胞から、 QIAGEN 社の RNeasy Plus Mini Kit を用 いて total RNA を抽出した。 TOYOBO 社の ReverTra Ace qPCR RT Master Mix と KOD SYBR qPCR Mix を用いて逆転写と PCR 反応を行った。 反応と解析は サ ー モ サ イ エ ン テ ィ フ ィ ッ ク 社 の StepOnePlus を 用 いて行った。 段階希釈したプラスミドを対照に絶対定 量を行い、 ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェ ラーゼ (HPRT) の発現量を指標に補正を行った。

C. 研究結果

【キノホルムによる Phox2b mRNA の発現抑制】

網羅的解析によってキノホルムによる発現抑制が認 め ら れ た Phox2b に つ い て 、 定 量 PCR に よ り 発 現 変 化 の 確 認 を 行 っ た 。 50μ M の キ ノ ホ ル ム で 経 時 変 化 を 調 べ た と こ ろ 、 SH-SY5Y 細 胞 、 IMR-32 細 胞 と も に、 刺激 3 時間で既に有意な mRNA 量の減少を認め た。 また刺激 24 時間で用量依存性を調べたところ、

どちらの細胞でも 50μM で有意な mRNA 量の減少を 認めた (図 1)。

【キノホルムによる SOX9 mRNA の発現誘導】

網羅的解析によってキノホルムによる発現誘導が認 められた SOX9 について、 定量 PCR により発現変化 の 確 認 を 行 っ た 。 50μ M の キ ノ ホ ル ム で 経 時 変 化 を 調べたところ、 SH-SY5Y 細胞では刺激 3 時間で既に 有 意 な mRNA 量 の 増 加 を 認 め た 。 IMR-32 細 胞 で は 有意な発現誘導を認めなかった。 また刺激 24 時間で 用 量 依 存 性 を 調 べ た と こ ろ 、 SH-SY5Y 細 胞 で は 50 μM で有意な mRNA 量の増加を認めた (図 2)。

【転写阻害剤アクチノマイシン D の効果】

SH-SY5Y 細胞を用い、 50μM のキノホルムにより 3 時間刺激した際の転写阻害剤アクチノマイシン D の

― 180 ―

(3)

効 果 を 調 べ た 。 ア ク チ ノ マ イ シ ン D は Phox2b mRNA 量を低下させたが、 キノホルムによる Phox2b mRNA の発現抑制には影響を及ぼさなかった。 一方 キノホルムによる SOX9 mRNA の発現誘導は、 アク チノマイシン D によりほぼ完全に抑制された (図 3)。

以上のことから、 キノホルムは両 mRNA の安定性で はなく転写に影響を及ぼすものと考えられた。

【 ヒ ス ト ン 脱 ア セ チ ル 化 酵 素 阻 害 剤 ト リ コ ス タ チ ン A の効果】

SH-SY5Y 細胞を用い、 50μM のキノホルムにより 3 時間刺激した際のヒストン脱アセチル化酵素阻害剤 トリコスタチン A (TSA) の効果を調べた。 TSA は Phox2b mRNA 量を低下させたが、 キノホルムによる Phox2b mRNA の発現抑制には影響を及ぼさなかった。

一 方 キ ノ ホ ル ム に よ る SOX9 mRNA の 発 現 誘 導 は TSA によりほぼ完全に抑制されたことから、 キノホ ルムによる SOX9 mRNA の発現誘導はヒストンの脱

アセチル化を介するものと考えられた (図 4)。

D. 考察

キノホルムが神経細胞特異的転写因子 Phox2b の発 現を転写レベルで抑制する一方、 グリア系細胞に高発 現する転写因子 SOX9 の発現を転写レベルで誘導する ことが明らかとなった。

過去に述べたように、 本研究で用いたキノホルムの 濃度 (50μM) はスモン患者における血中濃度と乖離 するものではない3, 4)

Phox2b はホメオドメインを持つ転写因子であり、

自律神経の発生に必須であることが知られている5)。 また Phox2b 遺伝子の変異と先天性中枢性低換気症候 群との相関が報告されている。 SH-SY5Y 細胞に NGF 受容体の TrkA を強制発現させると Phox2b の発現が 強力に抑制されるという報告がある一方6)、 PC12 細胞 ではキノホルムが NGF による TrkA の自己リン酸化 を 抑 制 す る と 報 告 さ れ て お り7)、 キ ノ ホ ル ム に よ る

― 181 ―

0 0.5 1 1.5

0 3 8 24

Phox2b/HPRT

Time (h)

0 0.5 1 1.5 2

0 µM 10 µM 20 µM 50 µM

Phox2b/HPRT

Concentration

*

*

* *

*

*

* *

50 µM 24 h

□ SH-SY5Y

■ IMR-32

図 1 キノホルムによる Phox2b mRNA の発現抑制

HPRT: hypoxanthine phosphoribosyl transferase

* P< 0.05 vs. 0 h * P< 0.05 vs. 0μM

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

0 3 8 24

SOX9/HPRT

Time (h)

0 10 20 30 40 50

0 µM 10 µM 20 µM 50 µM

SOX9/HPRT

Concentration

*

*

*

50 µM * 24 h

□ SH-SY5Y

■ IMR-32

図 2 キノホルムによる sox9 mRNA の発現誘導

HPRT: hypoxanthine phosphoribosyl transferase

* P< 0.05 vs. 0 h * P< 0.05 vs. 0μM

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

Control Actinomycin-D

Phox2b/HPRT

*

0 10 20 30 40 50 60

Control Actinomycin-D

SOX9/HPRT

*

*

□ DMSO

■ Clioquinol

図 3 アクチノマイシン D の効果

HPRT: hypoxanthine phosphoribosyl transferase

* P< 0.05 vs. Control-DMSO * P< 0.05 vs. Control-DMSO

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

Control TSA

Phox2b/HPRT

0 5 10 15 20

Control TSA

SOX9/HPRT

*

*

*

□ DMSO

■ Clioquinol

図 4 トリコスタチン A の効果

HPRT: hypoxanthine phosphoribosyl transferase

* P< 0.05 vs. Control-DMSO * P< 0.05 vs. Control-DMSO

(4)

Phox2b の発現抑制に TrkA のシグナリングが関与す る可能性もある。 また Phox2b 遺伝子のプロモーター 領域に Phox2b が結合することによる転写の自己調節 が存在することも報告されている8)

一方 SOX9 は性決定に関わる転写因子 Sry の HMG ボックスに高い相同性を示す転写因子群の一員であり、

精巣や軟骨の形成に必須であることが知られている。

神経系では放射状グリア細胞、 アストロサイト、 オリ ゴデンドロサイト前駆細胞に発現し、 神経芽細胞には 発現しない。 ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤トリコ スタチン A (TSA) がキノホルムによる SOX9 の発現 誘導を抑制したことから、 キノホルムの作用はヒスト ンの脱アセチル化を介するものと考えられる。 このこ とはキノホルムがアセチル化ヒストン量を減少させる という報告と一致する9)

我々はキノホルムによる Phox2b の転写抑制機構、

および SOX9 の転写活性化機構の解明を試みたが、 遺 伝子上のキノホルム応答領域の同定などには至ってい ない。

E. 結論

キノホルムによる細胞系譜特異的転写因子の発現変 動が、 その神経毒性の一端を担う可能性が示唆された。

G. 研究発表 2. 学会発表

勝山真人, 矢部千尋. クリオキノールによる細胞 特異的転写因子の発現変化. 第 90 回日本薬理学 会年会. 2017 年 3 月 17 日. 長崎.

H. 知的財産権の出願・登録状況 なし

I. 文献

1 ) Katsuyama M, Iwata K, Ibi M, Matsuno K, Matsumoto M, Yabe-Nishimura C. Clioquinol in- duces DNA double-strand breaks, activation of ATM, and subsequent activation of p53 signaling.

Toxicology. 2012; 299: 55-59.

2 ) Katsuyama M, Ibi M, Matsumoto M, Iwata K,

Ohshima Y, Yabe-Nishimura C. Clioquinol in- creases the expression of VGF, a neuropeptide pre- cursor, through induction of c-Fos expression. J Pharmacol Sci. 2014; 124: 427-432.

3 ) Egashira Y, Matsuyama H. Subacute myelo- optico-neuropathy (SMON) in Japan. With special reference to the autopsy cases. Acta Pathologica Japonica. 1982; 32 Suppl 1: 101-116.

4 ) Jack DB, Riess W. Pharmacokinetics of iodochlor- hydroxyquin in man. Journal of Pharmaceutical Sciences. 1973; 62: 1929-1932.

5 ) Pattyn A, Morin X, Cremer H, Goridis C, Brunet JF. The homeobox gene Phox2b is essential for the development of autonomic neural crest derivatives.

Nature. 1999; 399: 366-370.

6 ) van Limpt V, Schramm A, van Lakeman A, Sluis P, Chan A, van Noesel M, et al. The Phox2B homeobox gene is mutated in sporadic neuroblasto- mas. Oncogene. 2004; 23: 9280-9288.

7 ) Asakura K, Ueda A, Kawamura N, Ueda M, Mihara T, Mutoh T. Clioquinol inhibits NGF- induced Trk autophosphorylation and neurite out- growth in PC12 cells. Brain Research. 2009; 1301:

110-115.

8 ) Cargnin F, Flora A, Di Lascio S, Battaglioli E, Longhi R, Clementi F, et al. PHOX2B regulates its own expression by a transcriptional auto- regulatory mechanism. J Biol Chem. 2005; 280:

37439-37448.

9 ) Fukui T, Asakura K, Hikichi C, Ishikawa T, Murai R, Hirota S, et al. Histone deacetylase inhibi- tor attenuates neurotoxicity of clioquinol in PC12 cells. Toxicology. 2015; 331: 112-118.

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参照

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