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喀痰細胞診における肺癌疑陽性例の検討 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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喀痰細胞診における肺癌疑陽性例の検討

 山梨医科大学検査部病理1)、同病理学教室2)、同第二内科3) 中澤久美子 弓納持勉 石井喜雄 早川直美 長田美智子 貴家基 茂垣雅俊 須田耕一 小沢克良 概要:喀疫細胞診において比較的同様な出現パターンを示した2例の肺癌疑陽性 例を報告する。症例1は43才男性で咳噺と喀擾を主訴とし、胸部X線で両側の 上中肺野外側に異常陰影が認められた。また、末血で好酸球の増加が見られ喀擾 細胞診では背景に好酸球を伴った腺由来の異型細胞が多数見られClass皿とした。 その後数回の細胞診の提出により異型性は低下しClass Iとなった。本例は、気 管支喘息に合併したPIE症候群と診断された。症例2は62才男性で症例1と 同様に咳噺、喀痩を主訴とした他に右背部痛があり、喫煙指数は560であった。 入院時喀痩細胞診はClass I。胸部X線では右下肺野に均等な異常陰影が認めら れた。治療により右肺外側に陰影が残ったが、臨床症状の改善が見られたため退 院し外来にて経過観察を行っていた。この間、喀擾細胞診で症例1と同様な異型 細胞が認められClass皿とした。その後異型性は増加し、また生検によりadeno− ca・rc’・in・omaと診断され、手術になり最終的にbronchiol⑪alveolar cell carcino− maと診断された。  以上より、喀疲に異型細胞が見られた場合、その背景にも十分注意し、また繰 り返し細胞診検査を行うことが重要である。 1.はじめに  喀痩細胞診における腺由来の異型細胞は肺結核、気管支拡張症、気管支喘息、 慢性気管支炎、肺梗塞等で出現し、高分化型の腺癌や肺胞上皮癌と鑑別困難な細 胞像を呈することがある。これらの異型細胞は、線毛の脱落した気管支細胞や増 生した杯細胞あるいは気管支肺胞上皮系細胞の増生、肥大、変性修飾像であるこ とが多い。  今回我々は、喀疫細胞診において比較的同様な出現パター一一ンを示した2例の肺 癌疑陽性例を報告する。 皿.症例1 患者:43才、男性、喫煙歴なし 主訴:咳噺、喀痩 家族歴:特記すべきことなし 現病歴:昭和60年8月頃より朝方や激しい運動後に咳噺が出現し、その後増強 したため、昭和61年5月山梨県立中央病院を受診し、気管支喘息と診断された。 同年10月発熱のため当院第二内科を受診し、胸部異常陰影を指摘され入院した。 初診時の喀痩細胞診はClass皿で、末血には好酸球の増加が認められた(表1)。

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その後約1ヵ月間に喀疫細胞診が6回と気管支擦過細胞診が1回提出され、表2 のごとくClass皿が続き、その間ステロイドの吸入療法が行われた。胸部の異常 陰影消失後の喀痩細胞診(5回目)ではClass Iと陰性になった。 胸部X線写真:入院時、両側の上中肺野外側に異常陰影が認められたが(図1)、 退院時には両側とも異常陰影が消失している(図2)。 細胞所見:背景に好酸球を多数認め、その中に線毛の見られない腺由来の異型細 胞集団が多数認められた。同細胞は比較的小型で、重積性に乏しいが粘液空胞を 有するものも見られた。クロマチンは軽度増量し好酸性の核小体が見られた(図 3、4)。その後、前述のように喀疲の繰り返し提出により異型性は低下し、ま た治療の効果と共に異型細胞は認められなくなった。

最終診断:PIE症候群

皿.症例2

患者:62歳、男性

主訴:咳噺、喀疲、右背部痛

喫煙歴:25歳∼53歳、20本/日(BI:560)

家族歴:兄弟1人が肺癌で死亡 現病歴:昭和62年8月(入院5日前)嘔気、悪寒と翌日主訴出現し当院第二内 科入院。入院時、喀痩細胞診はClass Iであった。胸部X線上右下肺野にほぼ均 等な異常陰影が認められた。その後、右肺外側にのみ陰影を残して臨床症状の改 善が見られ、同年10月退院、以後外来にて経過観察を行っていた。  外来で経過観察中、喀痩細胞診でClass IHが3回続き(表3)、気管支ブラシ では陰性であったが同時に採られた生検でadenocarcinomaと診断されたため、昭

和63年10月23日手術目的で再入院となった。

胸部X線写真:入院時、右下肺野にほぼ均等な異常陰影が認められたが(図5)、 退院時には右肺外側にのみ陰影の残存が認められた(図6)。 細胞所見:背景に好中球を主体とした多数の炎症細胞が見られ、その中に症例1 と同様な腺由来の異型細胞集団が多く認められた。異型細胞集団は比較的小型で 重積性はなく、クロマチンは軽度増量し核小体もみられた(図7)。その後の喀 擾細胞診では前回に比較しクロマチンは増量し異型度も強くなった(図8)。 病理組織所見:腫瘍細胞は高円柱状で、肺胞壁に沿って配列し部分的に乳頭状を 呈している。腫瘍細胞の核は小型で基底側に位置し、異型性は目立たなかった。 以上よりbronchioloa1veolar cell carcinomaと診断された(図9、10)。 N.考察  今回の報告例の細胞像は表4のように2例ともほぼ同様で、背景に白血球を 伴った異型細胞が比較的小集団で多数出現し、粘液様空胞を保有する集団も見ら れた。核はクロマチンが軽度増量し、核小体が明瞭なものが多かった。しかし、 提出回数を重ねるたびに、症例1のPIE症候群では治療の効果とあいまって異 型細胞の出現が少数になり、同時に異型性の低下も見られた。肺の陰影が消失し た頃には異型細胞は見られなくなった。一方、症例2では次第に細胞の異型性は

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増し、核の切れ込み、クロマチンの増量等が著明になり悪性細胞と認識できるよ うになった。  ここでPIE症候群とは、 pulmonary irifiltration with eosinophiliaといい、

1952年Reederらにより好酸球増多を伴った…過性肺浸潤を総称して提

唱されたものであり、最近ではアレルギー性肺疾患として取り扱われている。本 症候群に共通の好酸球増多は過敏性反応により惹起され、アレルギーの原因とな る外的要因としてはアスペルギルスによることが多く、寄生虫などもあげられて いるが実際には原因を明らかできないことが少なくない。本症候群は組織学的に は肺胞腔内、肺間質(肺胞壁)、気管支壁や血管周囲などに好酸球浸潤を特徴と し、それが胸部X線上異常陰影として認められるが、異型細胞の存在は知られて いない。ところが、気管支喘息ではしばしば異型細胞の出現が確認されており、 今回の症例1に見られた異型細胞はPIE症候群というより喘息に伴う良性変化 であったと考えられる。  症例2の肺胞上皮癌については、周知の如く胸部X線上で肺炎様陰影と捉えら れることが多く、また細胞診でも小集団で出現しN/C比も小さくクロマチンの 増量も明らかでない。今回の症例でもそのような特徴がよく現れており良悪の判 定に困難であった。しかし、経過を追うごと核の切れ込み、クロマチンの増量が 明らかになり悪性と確診できた。  このような対照的な2例よりみると、喀痩細胞診において経過観察の重要性が 強調された。 文献 1)木村禧代二、田島基男、柴田偉雄:鑑別を主体とした細胞診断学.名古屋大   学出版会,90−103,1989 2)本間日臣:呼吸器病学.第2版 医学書院,273−284、1987 3)滝沢敬夫:臨床呼吸器病講i座.第3巻 金原出版,57−61,1978 4)沢田勤也,他:細気管支肺胞上皮領域における腺癌の捺印塗抹細胞の形態像   .日臨細胞誌20:231−239,1981 5)荒川三紀雄,他:肺腺癌の組織分化度と喀痩中にみられる細胞形態との関連.   日臨細胞誌26:110−115,1987 6)中川 仁,他:肺分化型腺癌の細胞病理学的検討.日臨細胞誌22:509−520   ,1983 7)伊藤正美,他:肺腺癌の細胞型別分類と気管支擦過による細胞形態像の関係   について。日臨細胞誌24:457 −462,1985

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表1 好酸球の増加(症例1)

]蓮白血球数

  15%     7100/μ2 表2 喀擾細胞診の経過(症例1) 初診時 (10月18日) 入院時 25% 7500/μ2 10月25日   31日

11月1日

  19日   21日   25日 12月3日 Class皿 Class fi(気管支擦過) Class m Class田 Class III CIass I CIass I 表3 喀擾細胞診の経過および生検結果(症例2) 昭和62年 8月12日 Class I      11月10日 Class田

63年 9月4日

   10月2日      11日      1旧

TBLB

   10月11日 Class IH CIass皿 Class I(気管支擦過) Class I(気管支洗浄液) adenocarcinoma  背景 出現パターン  異型性  経過 表4 喀疲細胞診の比較       症例2 多数の好酸球 結合性の強い集団   中等度 異型性の低下 炎症性(好中球) 結合性の強い集団   中等度 異型性の増加

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図1 入院時胸部X線写真(症例1) 図2 退院時胸部X線写真(症例1)

縫鰯贈饒一t講遠

図3 喀痩細胞診(症例1) 背景に好酸球を伴い線毛の見られない 異型細胞集団を認める。 Pap.染色  x200 馨

図4 喀援細胞診(症例1) 重積性は乏しいが、クロマチンは 軽度増量し核小体が見られる。 Pap.染色    x400 図5 入院時胸部X線写真(症例2) 図6 退院時胸部X線写真(症例2)

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図7 喀疲細胞診(症例2) 背景に好中球を伴い症例1と同様な 異型細胞集団を認める。 Pap.染色  x400 鳶 蒙 襲 懸 ’冷 醗 難 図8 喀陵細胞診(症例2) 前回に比べ、クロマチンは増量し異 型性が強くなった。 Pap.染色  x400 図9切除肺病理組織像(症例2) 肺胞壁に沿って増生する腫瘍細胞 H.E.染色 x200 図10切除肺病理組織像(症例2) 腫瘍細胞の核は小型で基底側に位置 し、異型性は目立たない。 H.E.染色 x400

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