Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Title
咀嚼能力検査
Author(s)
野首, 孝祠
Journal
日本口腔検査学会雑誌, 2(1): 14-21
URL
http://hdl.handle.net/10130/1965
Right
咀嚼能力検査
野首孝祠 *
大阪大学先端科学イノベーションセンター *:〒 596-0046 大阪府岸和田市藤井町 2-1-29 TEL:072-439-8775 FAX:072-433-0230 e-mail: [email protected] 1.はじめに 歯科医療の主な目的として、患者の訴えに耳を傾け、 様々な不快や症状への対処、欠損した組織の形態的回 復、加えて「噛む・味わう・話す・感じる」などの口 腔諸機能のうち、とりわけ咀嚼機能の回復は不可欠で ある。一般に、咀嚼は、上下顎の歯や義歯による安定 した咬合を基点として、口唇・頬・舌・咀嚼筋・下顎・ 頸部などが巧みに連動して食べ物を捉え、咬断、粉砕、 臼磨を行いながら、唾液との混合によって形成した食 塊を嚥下するまでの一連の作業と定義されている。 咀嚼機能の重要な役割としては、多種多様な食べ物 からの栄養の確保をはじめ、いろいろな味や噛み応え などの認知、唾液分泌の促進、嚥下機能の円滑化や消 化吸収の効率化、口腔内の清掃効果、脳循環の向上、 健康の維持・増進、それに食生活の豊かさの確保や生 活の質 (QOL) の向上などがあげられる。したがって、 咀嚼機能を十分に発揮させるためには、その基盤とな る上下顎の歯や義歯による安定した咬合の確保が極め て重要であることはいうまでもない。 厚生労働省の平成 17 年歯科疾患実態調査結果1) によれば、咬合の確保や咀嚼機能に対して重要な役 割を果たしている歯については、高齢であるほど多 く喪失しており、また歯の喪失への対応として、65 歳以上 75 歳未満においては、部分床義歯装着者が 44~48%、全部床義歯装着者が 18~29%を占めてい る。さらに、75 歳以上の高齢者においては、部分床 義歯装着者は 42~46%とほぼ等しいが、全部床義歯 装着者は43~64%と著しく増加している。このことは、 わが国の超高齢化の一つの現象である加齢とともに歯 が喪失し、加えて義歯による補綴治療で咀嚼機能の回 復を求める国民が依然として増えていることを意味し ている。したがって、咀嚼機能の回復を担う歯科医療 の社会的責任は極めて大きく、歯科医療における一つ の評価基準として、客観的な咀嚼能力検査を導入する ことは不可欠である。 一般に、医科領域における検査には、身長・体重の 測定、血液検査、尿検査、エックス線検査、血圧など 全身に関連する検査や、肝機能検査、腎機能検査、呼 吸器系や消化器系に関連した検査などがあり、多面的 な検査結果を精査、統合することによって、より確率 の高い診断が下されている。一方、歯科領域における 主な検査には、表 1 に示すような項目があげられ、患 者の様々な徴候や症状などに対して、それぞれに適応 した検査が実施されている。各医療の現場において行 われる一つひとつの正確な検査結果が、適切な治療の 選択とその効果判定、ならびに健康の現状把握やそ の予知などに対し極めて有効な情報源となり得ること は、改めて強調するまでもない。しかし、歯科医療の 過程において、口腔の中で最も重要な咀嚼機能に対す る客観的な検査が、臨床の現場ではほとんど行われて いないのが実状である。 本稿では、このような実態を少しでも改善できれば との強い願いを込めて我々が長年取り組み、広く社会 において容易に適用できるよう開発してきた咀嚼能力 検査法の現状と展望を中心に概説する。 表 1 歯科領域における主な検査項目 ・ う蝕検査 ・ 歯周検査 ・ エックス線検査 ・ 細菌検査 ・ 真菌検査 ・ 唾液量検査 ・ 口臭検査 ・ 味覚検査 ・ 金属アレルギー検査 ・ 咬合力検査 ・ 咀嚼能力検査 ・ 顎機能検査(筋電図・顎運動)日本口腔検査学会雑誌 第 2 巻 第 1 号: , 2010 2.歯科医療における咀嚼能力検査の実態 これまで、咀嚼能力の評価法には、Manly ら2)が 1950 年に報告し、長年にわたり活用されてきた、ピー ナッツを用いる篩分法をはじめ、数々の咀嚼試料によ る直接的検査法や間接的検査法3)が提唱されている ( 表2)。しかし、これら検査法の中には、本来の咀嚼 機能を反映していないこと、機能分析に長い時間を要 すること、また咀嚼試料に対して安心して咀嚼できる とはいい難いこと、一定の物性を有しているとはいえ ないことなどの様々な理由から、生理学的な咀嚼能力 そのものを評価するためにはさらに検討を要するもの が見受けられる。 現在、日常の歯科医療の現場において、一般的には 歯の欠損に対して様々な補綴治療が行われており、そ の治療による形態や機能の回復度の確認はほとんどが 患者の感覚的な評価に頼っている。今後歯科医療に よって、咀嚼機能がどの程度回復したのかを客観的に 評価するためには、いままさに、科学的根拠に基づい た定量的かつ正確に実施できる咀嚼能力検査法を開発 し、加えて歯科医療の現場で容易に活用できるよう積 極的に取り組むことが、強く求められる状況であると 考える。 3.咀嚼能力検査法の開発のコンセプト 我々の咀嚼能力評価開発プロジェクトは、1993 年 に山本4)が初めて報告した、検査用グミゼリーによ 図 1 咀嚼能率手動測定法 ( グルコース法 ) に使用する器材 ・分注器 (ディスペンセッテ) (35℃、15ml) ・恒温槽 (サーマルロボ) ・プラスチック容器 ・回転子 ・スターラー (回転速度:400rpm) ・血糖値測定装置 (グルテストエブリ) ・グルテストセンサー ・ストップウォッチ ・ピンセット 表 2 咀嚼能力検査法 1. 直接的検査法 1)咀嚼試料の粉砕粒子の分布状態(篩分法) (ピーナッツ、米、寒天印象材) 2)咀嚼試料の内容物の溶出量 (チューインガム、グミゼリー、米、ATP 顆粒剤等の人工試料) 3)咀嚼試料の穿孔状態(ポリエチレンフィルム) 4)食品の混合状態、食塊形成(ガム、ワックスキューブ、煎餅) 5)咀嚼能率判定表(アンケート調査:咬度表、咀嚼スコア) 2. 間接的検査法 1)咀嚼時の下顎運動 2)咀嚼時の筋活動 3)咬合接触状態 4)咬合力 (咀嚼障害評価法のガイドライン ‐ 主として咀嚼能力検査法 ‐ より抜粋、補綴誌:46 巻、2002) 図 2 咀嚼能率手動測定法 ( グルコース法 ) の基本的な測定手順 包 装 し た 検 査 用 グ ミ ゼ リーを患者自身で開封 30 回自由に咀嚼後、咬断 片試料を回収 30 秒間水洗 プ ラ ス チ ッ ク 容 器 に 咬 断 片 を 移 し、35 ℃ の 水 15ml を分注器より注入 スターラー(400rpm)に て、10 秒間撹拌 ピンセットで上清を 1 滴採取する 水滴に血糖値測定装置のセ ンサー先端を接触させる グルコース濃度(mg/dl) が表示される 15 秒後 咀嚼能率(咬断片表面積増加量:mm2) = 13.5 ×(グルコース濃度)- 250 14-21
る咀嚼能率測定法 ( ゼラチン法 ) を原点として、これ まで歯科医学における科学的根拠に基づく評価法への 展開とともに、歯科医療において広く活用できる咀嚼 能力検査法の開発に向けた検討を種々行ってきた5)- 9)。特に、新しい咀嚼能力検査法を開発するにあたっ て、我々が最も重視したコンセプトは、「いつでも、 どこでも、誰でも、簡単で正確に咀嚼能力の客観的評 価が短時間で行えること、併せて咀嚼という生理学的 な機能を忠実に反映させるために、一定の品質管理の もとで実際に食べられる食品によって検査が行えるこ と」とした。そのために、咀嚼試料が具備する必須条 件としては、個別包装により衛生面かつ物性面の管理 が可能であること、咀嚼ならびに嚥下に対して安全な 食べ物であること、年齢や性別に関係なく馴染み易い 味であること、様々な検査目的ならびに測定環境にも 適用できることなどをあげている。 そこで、開発当初のゼラチン法における測定操作の 煩雑さや結果表示までの時間の長さなど、臨床の現場 で適用する際のいくつかの課題に対して種々検討を加 え、歯科医療の前後や、経過観察時における咀嚼機能 の変化などを客観的に評価し、かつ容易に適用できる 咀嚼能率手動測定法 ( グルコース法 ) を新たに開発し た。本測定操作についてこれまで改良を重ね、現在実 際に行っている基本的な測定手順は、以下に示す通り である。 4.咀嚼能率手動測定法 ( グルコース法 ) 本グルコース法に用いる器材 ( 図1) は、水を一定 温度に保温し蓄えておく恒温槽とガラス瓶、その保温 した水を一定量供給するための分注器、水溶液を撹拌 するためのスターラー、グルコース濃度を測定する簡 易型血糖値測定装置 ( グルテストエブリ、三和化学 ) などである。 本法の測定手順は、図2に示した通りである。まず、 成分と形状、ならびに物理的性質などを規格化し、個 別包装した検査用グミゼリー 1 個 (5.5g、ユーハ味覚 糖 ) を患者自身が取り出し、自由に 30 回咀嚼した後、 その咬断片をガーゼの上にすべて回収する。次いで、 グミゼリー表面に付着している唾液や血液、溶け出し たグルコースなどを可及的に除去するため、流水下で 30 秒間水洗する。さらに、その咬断片をプラスチッ ク容器に入れた後、その容器に恒温槽で温められたガ ラス瓶の中の水 (35℃ ) を分注器 ( ディスペンセッテ ) により 15ml 注入し、スターラー (400rpm) で 10 秒 間撹拌して、咬断したグミゼリーの表面からその構成 成分であるグルコースを水中に溶出させる。撹拌後直 ちに、その上清からピンセットの先端に少量採取し、 きれいなガラス面や金属面に滴下した後、簡易型血糖 値測定装置に装着したセンサー先端部を接触させる と、その 15 秒後にグルコース濃度 (mg/dl) が表示さ れる。 本グルコース法においては、咬断片の表面より水中 に溶出したグルコース濃度と、グミゼリー咬断片の表 面積増加量 ( こなれ具合 ) との間には高い直線性の相 関が認められている6)ことから、一次回帰式 ( 図 2、 現在使用中の同一製造条件のグミゼリーの場合を表 示している。) に、得られたグルコース濃度の値を入 力することによって、咬断片表面積の増加量 ( 単位: mm2) が算出される。 このように、咀嚼能力の一部を示す指標で、食物を 規定の粉砕度に要する作業量を咀嚼能率といい、また 規格化された条件下で食物粉砕度を測定することを咀 嚼能率測定とそれぞれ定義されている10)。したがっ て、我々はこの検査用グミゼリーの原形 ( 表面積は、 1,545mm2であるが、表面積増加量は原形を基準とす るため、0mm2とした。) から、咀嚼後の咬断片表面 積の増加量を咀嚼能率と定めた。なお、この一連の測 定操作は、グミゼリーの咀嚼後、2分以内で終了する。 5.義歯装着者における咀嚼能力の実態 1) 有床義歯の機能的有用性に関する検証 様々な歯の欠損に対する義歯装着時の咀嚼能力の実 態を知る目的で、大阪大学歯学部附属病院咀嚼補綴 科 ( 第二補綴科 ) において、新義歯を製作した 188 名 ( 男性 76 名、女性 112 名、平均年齢 65.6 ± 10.1 歳 ) 図3 新旧有床義歯における咀嚼能率の比較 P 群 79 名 P/P 群 48 名 F/P 群 29 名 F/F 群 27 名 4000 3000 2000 1000 0 咀嚼能率(mm 2 ) *:P<0.01 旧義歯 新義歯
日本口腔検査学会雑誌 第 2 巻 第 1 号: , 2010 を対象に調査を行った。咀嚼能力の評価は、新義歯製 作前に使用していた旧義歯装着時、ならびに新義歯製 作後、調整がほぼ終了した新義歯装着時において、前 述のグルコース法を用いてそれぞれの咀嚼能率を測定 し、新旧義歯の比較検討を行った。なお、義歯の装着 状況については、片顎のみに部分床義歯を装着した群 (P 群 )、上下顎ともに部分床義歯を装着した群 (P/P 群 )、部分床義歯と全部床義歯を上下顎に装着した群 (F/P 群 )、さらに上下顎ともに全部床義歯を装着した 群 (F/F 群 ) とし、片顎のみに全部床義歯を装着した 群については 5 名と症例数が少なかったため分析対象 から削除した。また、この調査に用いたグミゼリーは、 現在使用中のβ - カロチン色素含有グミゼリー ( 後述 ) と製造条件が異なるため、当時の一次回帰式を用いて 咀嚼能率を算出した。 その結果、図3に示した通り、咀嚼能率は、部分床 義歯ならびに全部床義歯の装着状況に関係なく、旧義 歯装着時と比較して、新義歯装着時ではいずれも約 1.5 倍に増加し、旧義歯と新義歯の咀嚼能率の間には、有 意な正の相関がみられ (r=0.725、P<0.01)、新義歯の 機能的有用性が確認された。 このように、正しい診断のもとで適切に製作された 義歯を、さらに経過観察の中で咬合を安定させるなど、 生体により適合させることによって、咀嚼機能の多岐 にわたる役割を種々展開させる可能性が示唆された。 しかし一方で、現実問題として、新義歯装着時の咀嚼 機能が、旧義歯装着時よりも低下するといったケース も時折経験する。その場合は、新義歯に対して何らか の処置が必要であることを示唆しており、義歯の経過 観察の重要性を再認識すると共に、咀嚼機能を向上さ せる際の適切な処置に対する一つの指針となり得るも のと考える。 2) 咀嚼能力に影響を及ぼす要因 次に、一般歯科医院に通院中の義歯装着者の咀嚼能 力に影響を及ぼす様々な要因について検討を行った。 調査対象として、大阪府、東京都、兵庫県における 4 か所の歯科医院 ( 各医院においては、大学病院の歯科 補綴科に在職経験を有する歯科医師が少なくとも 1 名 勤務していることを条件とした。) に通院している 50 歳以上の患者の中から、義歯を必要としない対照群 (N 群 ) と、部分床義歯や全部床義歯を装着している有床 義歯群 (P1 群、P2 群、F1 群、F2 群の 4 群 ) に対し て各 30 名 ( 表3) をそれぞれ無作為に抽出し、義歯の 装着状況間の比較検討を行った。調査項目は、年齢、 性別、機能歯数 ( 咀嚼機能に関与している天然歯や処 置歯を合計した歯数とし、智歯は除いた。)、咬合支 持 (Eichner の分類 )、最大咬合力 ( オクルーザルフォー スメータ GM10、長野計器 ) とし、各項目と咀嚼能率 との関係について検討を行った。その結果の概要は、 表 3 義歯の装着状況 男性 / 女性 有歯顎(義歯を必要としない対照群) : 30 名 ( 9/21) N 群 片顎のみに部分床義歯を装着 : 30 名 (10/20) P1 群 上下顎ともに部分床義歯を装着 : 30 名 (12/18) P2 群 片顎に全部床義歯を装着 : 30 名 (10/20) F1 群 上下顎ともに全部床義歯を装着 : 30 名 ( 6/24) F2 群 図 4 咀嚼能率と年齢との関係 図 5 機能歯数と年齢との関係 図 6 咀嚼能率と機能歯数との関係 50 60 70 80 90 100 年齢(歳) 8000 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 咀嚼能率(mm 2 ) 50 60 70 80 90 100 年齢(歳) rs=- 0.255 rs=- 0.406 30 25 20 15 10 5 0 機能歯数(本) rs= 0.286 0 5 10 15 20 25 30 機能歯数(本) 8000 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 咀嚼能率(mm 2 ) 14-21
以下に示す通りである。 ( 1)咀嚼能率に対する年齢・性別・機能歯数の影響 対象者は、年齢 50~96 歳 ( 平均年齢:69 歳 )、男 性 47 名、女性 103 名であった。まず、咀嚼能率と年 齢との間 ( 図4) には、弱い負の相関関係が示されたが、 統計学的に明らかな影響は認められず、また咀嚼能率 の性差もみられなかった。 機能歯数は、加齢とともに減少し、両者の間には強 い負の相関関係が認められた ( 図5)。一方、咀嚼能 率は、機能歯数との間において弱い正の相関関係がみ られるにとどまった ( 図6)。 ( 2)最大咬合力に対する咀嚼能率、咬合支持と義歯 の装着状況の影響 咀嚼に対して直接的に作用すると考えられる咬合力 に関して、個人の最大咬合力を測定したところ、最大 咬合力と咀嚼能率との間には強い正の相関関係が認め られた ( 図7上段 )。また、最大咬合力は、Eichner A、B、 C 群のすべての群間で有意差が認められ、上下顎の歯 による咬合接触のない C 群においては、平均約 10kgf と著しく低い値を示した ( 図7中段 )。同様に、義歯 の装着状況の中でも全部床義歯装着者 (F1 群及び F2 群 ) において、最大咬合力は著しく低くなり ( 図7下 段 )、咀嚼能率の低下に影響を及ぼす可能性が示唆さ れた。 ( 3)咀嚼能率に対する咬合支持と義歯の装着状況の 影響 咬合支持において、Eichner の A 群と、B、C 群と 図 7 最大咬合力と咀嚼能率 ( 上 )、咬合支持 ( 中 ) 及び義歯の 装着状況 ( 下 ) との関係 図 8 咀嚼能率と咬合支持 ( 上 ) 及び義歯の装着状況 ( 下 ) と の関係 8000 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 咀嚼能率(mm 2 ) 0 20 40 60 80 100 最大咬合力(kgf) A B C 咬合支持(Eichner 分類) 70 60 50 40 30 20 10 0 最大咬合力(kg f) 70 60 50 40 30 20 10 0 最大咬合力(kg f) N P1 P2 F1 F2 義歯の装着状況 *:P<0.05 *:P<0.05 rs = 0.493 *:P<0.05 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 咀嚼能率(mm 2 ) A B C 咬合支持(Eichner 分類) *:P<0.05 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 咀嚼能率(mm 2 ) N P1 P2 F1 F2 義歯の装着状況
日本口腔検査学会雑誌 第 2 巻 第 1 号: , 2010 の間の咀嚼能率に有意差がみられ、咬合支持域の減少 に伴い、咀嚼能率も低下する傾向がみられた。しかし、 B 群と C 群との間の咀嚼能率には有意差は認められず ( 図8上段 )、義歯装着 4 群の各群間においても、差 がみられないことが示された ( 図8下段 )。このことは、 機能歯数の多少が咀嚼能率に対して与える影響の小さ いことを反映しているものと考えられる。 以上の一般歯科医院においても、50 歳以上を対象 とした調査結果より、年齢、性別、機能歯数の減少、 咬合支持域の減少、義歯の装着状況に関わらず、生体 に適合した義歯を装着することによって、咀嚼能率を 向上させる可能性が示唆され、有床義歯による機能的 効果が大きく期待できるものと考える。 6.グルコース法における課題 現在のグルコース法は、当初のコンセプトに沿って 確立した、咀嚼能力の基本的な評価法と考えている。 しかし、測定操作が手作業であることが、測定精度に 少なからず影響を及ぼしており、我々のコンセプトに おける「いつでも、どこでも、誰でも正確に評価でき る」という点について、若干の課題を残している。例 え同一の測定者であったとしても、一連の操作の中で、 水洗操作や撹拌操作における水の温度や操作時間など が、微妙に変動し、グルコース濃度の測定精度に影響 を及ぼすことが懸念される。さらに、測定する地域や 季節ごとに変動する水温など、様々な測定環境が精度 に与える影響も考えられる。そこで、これらの課題を 可及的に解消すべく、現在我々が取り組んでいる状況 について触れておきたい。 7.咀嚼能率自動測定法 ( 色素法 ) 我々は、測定操作を自動制御し、様々な測定環境を 限りなく一定の条件とすることによって前述の課題を 克服し、かつ全国各地における咀嚼能率のデータを共 有することを目的として本測定法を開発した。 そのプロトタイプ測定装置を図9に示す。本測定法 は、測定対象成分として天然色素の一種であるβ-カ ロチンを含有させた、色素含有グミゼリーを用い、咬 断片表面から水溶液中に溶出するその色素濃度を発光 ダイオードとフォトダイオードにて検出し、表面積増 加量を自動測定する方法である。なお、今回開発した β-カロチン含有グミゼリーは、これまでのグルコー ス法においても、本色素法においても、同様に使用で きるよう改良した咀嚼試料である。 1) 咀嚼能率自動測定装置の構成11) 本測定装置は、咀嚼後の咬断したグミゼリーを水洗 する部分 ( 水洗部 )、水洗後の咬断片を一定量の水中 で撹拌し、その表面から色素 ( β - カロチン ) の溶出 図 9 咀嚼能率自動測定法 ( 色素法 ) における測定装置と測定のフローチャート 14-21
した水溶液中を発光ダイオードの光が透過する際に減 少する光量を電気的に測定する部分 ( 撹拌 ・ 測定部 )、 それに赤 (R)、緑 (G)、青 (B) 3色の光線の透過光量よ り変換した受光部電圧ならびに表面積増加量を算出 し、それぞれを表示する部分 ( 表示部 ) で構成されて いる。また、加温器は、設定温度に保った水を、本測 定装置の水洗部に一定時間供給するための付属装置で ある。さらに、測定条件の設定及び変更は、本測定装 置の付属ソフトとして製作した「咀嚼装置通信サポー ト」を用いて行った。なお、本測定法について種々検 討を行った結果、グミゼリーの水洗温度 35℃、水洗 時間 30 秒、β-カロチンの溶出温度 35℃、溶出時間 10 秒 ( 撹拌時間 :8 秒、静置時間 :2 秒 ) の条件で、現 在測定を行っている。 2) 咀嚼能率自動測定法 ( 色素法 ) における測定精度11) まず、本測定装置におけるβ-カロチン水溶液の希 釈率 ( 色素濃度 ) と受光部電圧との関係について検討 した結果、溶液中の色素濃度が高くなるにつれて受光 部電圧は低くなり、β-カロチンの希釈率と受光部電 圧との間には、三次式において r=0.999 と極めて強い 相関関係が示された。したがって、本測定装置で受光 部電圧を測定することにより、溶液中の色素濃度が正 確に検出できることが示された。 次に、本測定装置とβ-カロチン含有グミゼリー (既知の表面積を有する数種の分割試料)を用い、表 示された受光部電圧 (mV) から既知の表面積増加量 (mm2) を回帰する式を求めた結果、三次回帰において、 r=0.992 と強い相関関係が示された。 これらのことから、水洗操作から測定結果の表示に 至るまでの過程を自動化することによって、これまで 懸念されていた、測定者や測定環境が測定結果に与え る影響が十分抑えられる可能性を示したものであり、 本測定法の有用性が示唆された。 8.まとめ 本稿では、我々が 10 数年間にわたり客観的な咀嚼 機能評価の一環として開発した、検査用グミゼリーに よる咀嚼能率手動測定法 ( グルコース法 ) と、更なる 汎用性と簡便性、かつ自動化を目指して改良したβ- カロチン含有グミゼリーと咀嚼能率自動測定法 ( 色素 法 ) を中心に概説した。 一般に、歯の欠損、咬合支持域の減少や歯の欠損に 対して製作された部分床義歯や全部床義歯などによっ て、咀嚼能力は低下するといわれているが、我々のこ れまでの疫学的調査においては、これらの要因が咀嚼 能力に対して有意に影響を及ぼさないことが示され た。実際、最大咬合力の低下の影響がやや残ることに より、有歯顎時の咀嚼能力まで回復できなくとも、義 歯を適切に装着、管理することによって、年齢、性別、 機能歯数や咬合支持域、さらには有床義歯の種類に関 係なく、咀嚼能力は十分回復できる可能性が示唆され た。 以上のことから、社会全体に咀嚼能力検査を導入し、 それによる一つの客観的な機能評価としての新たな展 開とともに、歯科医療における一つの治療指針として の可能性が示されたものと考える。 咀嚼能力検査法に関する今後の研究開発について、 我々は前述のコンセプトを堅持しつつ、様々な測定環 境に対して適応でき、検査目的ごとの食品の開発とと もに、歯科医療の分野や摂食・咀嚼・嚥下障害などの 介護の分野における客観的評価への支援、さらに児 童から高齢者の生涯にわたる、時系列的な咀嚼能力評 価及び QOL の向上や ADL の充実に向けた身体と口の 健康管理への支援などを目指し、本咀嚼能力検査の社 会貢献に向けた更なる開発に引き続き努める所存であ る。 謝 辞 稿を終えるにあたり、本咀嚼能力評価法を開発する 過程の中で、ご尽力を頂き、また温かいご理解とご協 力を頂いています、当先端科学イノベーションセン ター咀嚼能力評価開発プロジェクトの特任研究員の吉 牟田陽子先生と野首文公子先生、また共同研究者とし て検査用グミゼリーの製作にあたり格別のご支援とご 協力を頂いています、ユーハ味覚糖株式会社の関係各 位に深謝いたします。さらに、臨床上の疫学調査に格 別のご協力を頂きました横田歯科医院、深水歯科医院、 吉田歯科医院、野首歯科医院の各院長ならびにスタッ フ、患者各位の方々にも心から感謝いたします。 参考文献 1) 厚生労働省ホームページ:平成 17 年歯科疾患実態調査 結 果 に つ い て (http://www.mhlw.go.jp/topics/2007/01/ tp0129-1.html)
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