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初期乳児期における自発的な肘の屈曲伸展運動の定量評価

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(1)

初期乳児期における自発的な肘の屈曲伸展運動の定

量評価

著者

五十嵐 守

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

11301甲第17667号

URL

http://hdl.handle.net/10097/00121606

(2)

東北大学大学院医工学研究科

博 士 論 文

博士(医工学)

初期乳児期における自発的な

肘の屈曲伸展運動の定量評価

五十嵐 守

2017年 3 月

(3)
(4)

i

目次

要旨

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

第 I 章 序論

1. 研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 2. 方法 2.1.対象・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 2.2.計測機器・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 2.3.計測方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 2.4.データの解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

第 II 章 角加速度変位量と角躍度(角加加速度)変位量の RMS 値の検討

1. 角加速度と角躍度,RMS の表すものについて・・・・・・・・・・・・・26 2. 解析方法 2.1.角加速度変位量と角躍度変位量の時系列データの算出について・・・・・27 2.2.欠損値の補定と群分け・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27

(5)

ii 2.3.統計解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 3. 角加速度変位量と角躍度変位量の RMS 値の解析結果・・・・・・・・・・・28 4. II 章の考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 5. II 章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32

第 III 章 FFT スペクトル解析によるパワーの検討

1. FFT スペクトル解析によるパワーの値が表すものについて・・・・・・・・34 2. 解析方法 2.1.FFT スペクトル解析によるパワーの算出について・・・・・・・・・・・35 2.2.欠損値の補定と群分け・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 2.3.統計解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 3. FFT スペクトル解析を用いたパワーの値の解析結果・・・・・・・・・・・38 4. FFT スペクトル解析を用いた%パワーの値の解析結果・・・・・・・・・・41 5. III 章の考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 6. III 章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45

(6)

iii

第 IV 章 カオス解析による検討

1. カオス解析の表すものについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 2. 解析方法 2.1.カオス解析による最大リアプノフ指数と相関次元の算出方法 2.1.1.カオス解析に用いたソフトウェアについて・・・・・・・・・・・・49 2.1.2.アトラクタの再構成について・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 2.1.3.リアプノフ指数の算出について・・・・・・・・・・・・・・・・・50 2.1.4.相関次元の算出について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 2.2.欠損値の補定と群分け・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54 2.3.統計解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54 3.カオス解析による最大リアプノフ指数と相関次元の結果 3.1.最大リアプノフ指数の解析結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55 3.2.相関次元の解析結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55 4. IV 章の考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56 5. IV 章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57

(7)

iv

第 V 章 考察

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59

第ⅤI 章 臨床的意義

・・・・・・・・・・・・・.・・・・・・・・・・・・69

第 VII 章 研究の限界

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73

第 VIII 章 結論

・・・・・・・・・・・・・・・・・・.・・・・・・・・・・77

文献

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 80

謝辞

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 85

(8)

- 1 -

要旨

【目的】乳児期初期における自発運動である general movements (GMs)の変化に関 する明確な違いは示されていない.そこで本研究では,肘屈曲伸展運動に着目し, a.角加速度変位量時系列データに対する root mean square (RMS) の値と角躍度変位 量の時系列データの RMS の値,b.角加速度変位量時系列データに対する fast Fourier transform (FFT) のスペクトル解析から得られるパワーの値と正規化した%パワー値, c.角加速度変位量時系列データに対するカオス解析から得られる最大リアプノフ指数 と相関次元の値を算出し,これらが乳児期初期における自発運動のパラメータになり 得るかを検討した. 【対象・方法】対象は胎生 36 週未満で生まれた早期産児 15 名であった.修正月齢 -1ヵ月,0ヵ月,1ヵ月,2ヵ月,3ヵ月,4ヵ月の6回,乳児が機嫌良く自発運 動を行っている時の右肘の屈曲伸展運動について,磁気式3次元動作解析装置を用い て計測し,a, b, c, について値を算出し,term I(修正月齢-1ヵ月・0ヵ月の平均値), term II(修正月齢1ヵ月・2ヵ月の平均値),term III(修正月齢3ヵ月・4ヵ月の平 均値)の変化を各期間で比較検討した.

(9)

- 2 - 【結果】

a.角加速度 RMS 値と角躍度 RMS 値の結果

a- 1.角加速度 RMS 値は,term I に比べ term II と term III が小さな値を示し,有意 差を認め (p < 0.05),有意差は保留されたが term II に比べ term III は大きな値を示 した.

a- 2.角躍度 RMS 値は,term I に比べ term II (p < 0.05)と term III (p < 0.01)の値は 有意に小さな値を示した.

b.角加速度の FFT スペクトル解析によるパワーの値と%パワー値の結果

b- 1. 13- 20 Hz の帯域におけるパワー値は,term I に比べ term III は有意に小さな 値を示した (p < 0.01).0- 8 Hz と 8- 13 Hz と 0- 20 Hz の帯域におけるパワー値は, 有意差は保留されたが term II の値が term I と term III より小さな値を示した. b- 2.13- 20 Hz の帯域における%パワー値は,term I に比べ term III は有意に小さな 値を示した (p < 0.01). 0- 8 Hz の帯域における%パワー値は, term I から term III にかけて増加したが有意差は保留された.8- 13 Hz の帯域における%パワー値は各期 ともほぼ一定の値を示した.

c.カオス解析による最大リアプノフ指数と相関次元の値の結果

(10)

- 3 - た (p < 0.01).

c- 2.相関次元は term I に比べ term II は有意に大きな値を示した (p < 0.05).term II と term III の値はほぼ同じ値を示した. 【結論】乳児期初期の自発運動中の肘屈曲伸展運動の term 間の変化を,角加速度 と角加速度の RMS 値,FFT スペクトル解析による 13- 20 Hz 帯域のパワー値と%パ ワー値,カオス解析による最大リアプノフ指数と相関次元で捉えることができ,乳児 の GMs の変化を表すパラメータになり得ることがわかった. 見出し語 乳児,自発運動,general movements (GMs),パラメータ,角加速度, 角躍度,fast Fourier transform (FFT),カオス解析

(11)

- 4 -

Quantitative Evaluation of the Sequential Transform of Spontaneous Elbow Extension–Flexion Movements of Early Infants

Graduate School of Biomedical Engineering, Tohoku University Mamoru Igarashi

Objective: We assessed the sequential transform of spontaneous movements at early infants by the root mean square (RMS) of angular acceleration and the RMS of an angular jerk, FFT analysis, and chaos analysis of angular acceleration.

Methods: During 36–56 weeks post-menstrual age (PMA), 15 premature infants (7 male, 8 female; 36 weeks PMA >) were measured every 4 weeks. A three-dimensional motion analyzer was used to measure spontaneous movements of the upper right limb in the supine infants. Upper limb position data were used to calculate the RMS of angular acceleration and the RMS of angular jerk, power of FFT, percentage power of FFT, maximum Lyapunov exponent, and the correlation dimension obtained from chaos analysis. The calculated data were classified into three terms: 36th–40th week PMA (term I), 44th–48th week PMA (term II), and 52nd–56th week PMA (term III). The

(12)

- 5 - typical value was the mean value for each term.

Results: The RMS of angular acceleration and angular jerk in term II and term III was significantly less than that of term I. The power and the percentage power of FFT analysis (13–20 Hz band) in term III was significantly less than that of term I. The maximum Lyapunov exponent in term III was significantly less than that of either term I or term II. The correlation dimension in term I was significantly less than that in term II.

Conclusion: The RMS of angular acceleration and the RMS of the angular jerk and FFT analysis and chaos analysis are useful for elucidating changes in the strength of spontaneous elbow extension–flexion movements.

Key words: infant, spontaneous movements, general movements (GMs), parameter, angular acceleration, angular jerk, fast Fourier transform (FFT), chaos analysis

(13)
(14)

- 7 -

(15)

- 8 -

1. 研究の目的

ヒトの乳児の身体運動は反射により惹起されるだけでなく,自発的に行われている ことが知られている.ヒトの乳児の自発運動の中でも general movements (GMs)は, 出生から数ヵ月の間に背臥位に置かれたヒトの乳児がみせる粗大な全身の自発運動で あり,Prechtl は GMs の運動を「正常な子どもの GMs は,複雑で優雅,なおかつ流 暢である.」と表現している1, 2).GMs は優雅で複雑な運動が継続して起こり,数分以 上続くものとされており,頭・体幹・四肢に小さな動きとして現れ,次第に大きく速 い動きへと連なって起きて行くように見え,また次第に小さな動きにもどるシリーズ を形成するとしている1, 2) この GMs は月齢により表出する運動の様子に違いがあることが Prechtl により示 されており,その時期により,preterm GMs,writhing GMs,fidgety GMs と区別さ れている1, 2).preterm GMs は,修正月齢0ヵ月未満の時期の乳児がみせる粗大な自 発運動で,その様子は,骨盤の前傾・後傾の運動や体幹の動きを含む極端に変わりや すい運動であるとされる.writhing GMs は,修正月齢0ヵ月から修正月齢2ヵ月にか けて乳児がみせる粗大な自発運動で,その様子は,変わりやすい運動に力強さが付け 加えられ,運動の速度はゆっくりから中位のものとされる. fidgety GMs は,修正月 齢3ヵ月から修正月齢4ヵ月にかけて乳児がみせる粗大な自発運動で,その様子は滑

(16)

- 9 -

らかで優雅でかつ複雑な運動の速度は中位であるとされる1, 2)

一方で Prechtl は,中枢神経系に障害がある乳児は,writhing GMs から fidgety GMs への運動の様子の変化に滞りがあることを示し,この GMs の変化の有無を用いて乳 児の神経学的予後予測を行なっている1, 3- 5).この Prechtl の方法1, 2) はランダム化比 較試験を含む臨床での比較研究で信頼性が証明されている.Einspieler ら6- 8) は,観察 者間一致度が 89~93 %(kappa 0.84 - 0.92),テスト-再テスト信頼性について正常/ 異常の判別では 100 %,半定量的スコアでは 85 %であると報告している.また,妥 当性も高く脳性麻痺または発達指数スコアで -2SD 未満の遅れを予測した場合,感 度 85~100 %,特異度 46~93 %(preterm と writhing の時期),82 %~100 % (fidgety の時期)という報告もある4- 12) しかし,障害の予後予測に非常に有効とされる Prechtl の方法は,ビデオに記録し た新生児期・乳児期初期の GMs を観察する visual Gestalt perception により正常/異 常の判定,タイプの同定を行う質的評価法であり半定量化はされているが,その変化 を量的に表現するまでには至っていない.

そこで,以下の3つの観点から GMs の変化を定量的に表現できないかを検討し, その臨床的応用を検討した.

(17)

- 10 - 端に変わりやすい運動,writhing GMs の様子は変わりやすい運動に力強さが付け加え られ,運動の速度はゆっくりから中位のもの,fidgety GMs の様子は滑らかで優雅で かつ複雑な運動の速度は中位と述べている1, 2) そこで,GMs の変化で述べられている運動の「速度の変化」を肘の屈曲伸展運動の 角加速度の変化量,そして運動の「滑らかさ-ぎこちなさ」を角躍度の変化量として 表せるものと考え,時系列データのもつ仕事量の平均値を表す root mean square(RMS) を用いて角加速度と角躍度を解析し,量的な変化で表すことができるかを検討した. b. 乳児の運動発達は,原始反射が上位中枢の修飾により統合される結果として獲得

されると,従来から考えられている13).一方,ヒトの成人において石田は,中脳の黒

質の病変のため大脳基底核の線条体のドパミンが不足して起こるパーキンソン病では, 症状が寛解すると振戦の fast Fourier transform(FFT)スペクトル解析のパワーの値

が減少すると述べ14),FFT スペクトル解析で中枢神経系の働きを表すことができると している.乳児の自発運動は,preterm GMs の時期の運動はぎこちなくギクシャクし ており,fidgety GMs の時期に近づくほど運動は滑らかになるといわれている. von Hofstern らによると,GMs の中枢の場所は脳幹以下のレベルであるといわれて いる15) そこで,乳児期初期において上位中枢が何らかの働きかけを増加または減少させた

(18)

- 11 - 結果,ぎこちなさが軽減し運動が滑らかになっているのならば,FFT スペクトル解析 の結果に変化が現れるものと考え,上位中枢の働きの変化を量的に表すことができる かを検討した. c. Prechtl は,GMs の様子は流暢で優雅,かつ複雑であると述べている.時系列デ ータの持つ複雑さの特徴量を表す方法としてカオス解析がある.多賀らは GMs にカ オス解析を行い,GMs にカオス性があることを報告している 16).カオス性を表すパ ラメータとして,最大リアプノフ指数と相関次元がある.最大リアプノフ指数は,カ オス性を持つ時系列データの特徴である軌道の不安定と初期鋭敏性を表し,相関次元 はカオス性を持つ時系列データの自己相似性を表し,この 2 つのパラメータを持って 時系列データの持つカオス性を表すことができるとされる. そこで,肘の屈曲伸展運動の変位量時系列データにカオス解析を行い Prechtl の述 べている GMs の変化を,最大リアプノフ指数と相関次元で捉えることができるかを 検討した. Prechtl による GMs の言語表現と物理的変数の対応をまとめると表1のようにな る.

(19)

- 12 - 表1 Prechtl による GMs の言語表現と物理的変数の対応表

2. 方法

2.1.対象

対象は在胎週数 36 週未満に出生した早期産児 15 名である(表2).出生時,5分 後の APGAR score(表3)17)が 7 点以上で,乳児期の成長発達に明らかな遅れが認め られず研究開始時の身体状況が安定し問題がないと医師により診断された乳児である. また,その後も経過観察を続け,小学校就学以降に脳性麻痺や自閉症スペクトラム等 の発達障害や知的障害の問題が明らかになった児は除外した. RMS値 FFTスペクトル解析 カオス解析 角加速度RMS値 角躍度RMS値 相関次元 最大リアプノフ指数 運動の「複雑さ (complexity)」 運動の「流暢さ (fluent)」 「優雅さ (elegant)] 本研究における定量分析による物理的変数 帯域別のpower値, %power値 PrechtlのGMsの質的分析に よる言語表現 視覚観察 運動の「加速度 (acceleration)」 「力強さ (forceful)」 運動の「滑らかさ (smooth) -ぎこちなさ(jerkness)」 運動の「連なり (series, sequence)」, 「速度の強弱 (wax and wane intensity speed)」

(20)

- 13 - 本研究の実施に当たっては,乳児の両親に研究の趣旨を口頭と書面で説明し書面に よる承諾を得た.また,本研究は東北大学病院(承認番号(2007- 400))と山形県立中 央病院(承認番号(2007- 29))の倫理審査委員会の承認を得て行われた. 表2 対象の出生時情報 対象 性別 在胎週数 出生時体重 (週・日) ( g ) 1 F 35週 3日 2,497 2 F 30週 0日 1,409 3 M 30週 0日 1,449 4 F 30週 0日 1,307 5 M 30週 6日 1,395 6 F 30週 6日 1,449 7 M 22週 2日 410 8 F 30週 6日 1,576 9 F 30週 6日 1,024 10 M 25週 0日 800 11 F 25週 0日 668 12 M 35週 1日 1,950 13 M 30週 2日 864 14 M 34週 4日 1,414 15 F 35週 3日 2,071 平均値 30週3日 1,339 標準誤差 7週1日 142.6

(21)

- 14 - 表3 APGAR scoring (Apgar V. 1953) 出生後 1 分と 5 分でスコアを付ける.もし,乳児に問題があった場合は 10 分後さらにスコアを 付ける.0- 2 点は重症仮死,3- 6 点は軽症仮死,7 点以上は正常と判断され,点数が低い場合は蘇 生措置を必要があるとされる.

2.2.計測機器

乳児の肘の屈曲伸展運動の計測には,3 次元動作解析装置 3SPACE Fastrack® (POLHEMUS 社,米国)を用いた.この機器のセンサは位置情報を高精度で計測で き,かつ小型・軽量なので乳児の動きを妨げることが少ないものである.また,非光 学式の測定機器であるため着衣のまま計測ができ,乳児の体温の保持が容易であり, また裸の乳児がみせる啼泣の状況を回避しやすいといった利点がある. 他の入手可能な機器に,加速度センサを用いたもの,角度センサを用いたもの,赤 外線を用いたもの,ビデオ映像を用いたものがある.加速度センサを用いた機器は小 Points 0 1 2

Absent Arms and Legs Flexed

Active Movement Absent Below 100 bpm Above 100bpm No Response Grimace Sneeze, cough,

pulls away Blue-gray,

pale all over

Normal, except for extermities

Normal over entire body Absent Slow, irregular Good, crying Sign

Activity (Muscle Tone) Pulse

Grimace (Reflex Irritability) Appearance (Skin Color) Respiration

(22)

- 15 - 型・軽量のものが入手可能であるが,加速度センサで回転成分を検出するのは困難と される.加速度計から得られる回転加速度成分は回転半径に依存し,重力も加速度成 分に含まれるのでその区別も課題となるためである.角度センサを用いた機器では回 転半径や重力の条件に縛られず角度データを得ることが可能であるが,入手できる機 器に小型・軽量のものがなく乳児に利用することには無理があった.非接触型の装置 として,赤外線を用いたもの,ビデオ映像を用いたものがあるが,両方の機器は乳児 を裸にしなければならず,対象が早期産児であることから体温管理の難しさを排除で きなかった.また,裸の乳児はよく啼泣するので,計測条件を満たさない状況が発生 することが予見できた.さらに,赤外線を用いる機器は反射マーカを付ける必要があ るが,乳児は上肢に付けたマーカを容易に握り込み,頻回に欠測値を生じさせる.こ れらの理由により 3SPACE Fastrack での計測を行った. 3SPACE Fastrack は,磁気を利用した 3 次元位置測定装置で,本体と磁気発生源の トランスミッタとその磁気の強弱を計測する 3 軸のセンサから構成される.トランス ミッタとセンサには 3 方向に直交するコイルがあり,トランスミッタの 3 つのコイル を順に励磁し,センサの 3 つのコイルに順次発生する起電力を計測することで,トラ ンスミッタに対するセンサの相対的な位置(x, y, z)と角度(azimuth, elevation, roll)の 6 つの自由度の情報を得ることができる(図1).

(23)

- 16 - 3SPACE Fastrack の主な仕様は,次の通りである.精度は,位置情報 0.76mm,角度 情報 0.15°,計測半径 76 cm の半球形,サンプリングレートはセンサ 3 個使用で 40 Hz である. 図1.位置と方向を計測する機器のブロック図 この 3SPACE Fastrack は磁性体から影響を受けるため建物の鉄筋が計測範囲に影 響しないように木製のプラットホームを用意し(図2a),センサは,直径 1 cm,重さ 2 g の製品群中最も軽量な tear drop 型を用いた(図2b). X Y Z 計測範囲 X Y Z 仰角(elevation) 回転角(azimuth) 方位角(roll) トランスミッタ センサ コンピューター 計算ソフト 検出回路 駆動回路

(24)

- 17 - 図2.a 木製プラットホームと構成機器と b ティアドロップ型センサ 図2a は,磁性体である鉄筋からの影響を排除するために用意した木製のプラットホームと計測機 器である.プラットホームの大きさは,幅・奥行き 120 ㎝高さ 75 ㎝である.この上に硬質ウレタ ンと綿毛布を敷き乳児を背臥位にして計測した.図2b はティアドロップ型のセンサである.直径 は約 1 cm,重さは 2 g である.ベースを設け球形のセンサ部分を固定した後,ネオプレンゴムの ベルトに取り付けてある.

2.3.計測方法

磁気センサの取り付け位置は,右手関節部(前腕遠位背側面),右肘関節部(肘頭), 右肩関節部(肩峰上)の 3 カ所とした(図3).なお,手関節部と肘関節部のセンサは, 薄いクロロプレン製の面ファスナー付のベルトに取り付けておき,それぞれの部位に 固定した.肩関節部のセンサは円板状の基部を設け医療用テープで直接皮膚に貼付し た. a b 1cm

(25)

- 18 - 図3.磁気センサの取り付け位置 右上肢の,a:肩峰,b:肘頭,c:手関節背側面の3カ所に取り付けた.実際の計測時は, 上半身に肌着を着けている. 生まれたばかりの乳児は,顔を右に向けている児が多いことが報告されている18- 22) また,早期産児において顔の向きと利き手が一致する割合が 75 %との報告がある22. 23). また,生後 3 ヵ月から 4 ヵ月の時期は乳児の上肢に随意運動が出現し,顔の向い

a

c

b

(26)

- 19 - ている方向の玩具を見て手を伸ばすといった目と手の協調した動きが見られるように なることが知られている24) しかし,この時期の乳児の上肢の運動についての先行研究は,センサを手首につけ た報告が多く,肩関節には 6 つの自由度があり,肘の自由度も加わると手首のセンサ の情報からでは,どの筋群を用いた運動なのかを同定することは困難である. そこで,屈筋群が上腕二頭筋・上腕筋・腕橈骨筋,伸筋群が上腕三頭筋と拮抗する 筋同士が分かっている肘の屈曲伸展運動に着目することで,運動の変化を調べること にした. 計測環境は,計測時,乳児の体温が低下しないように,また乳児の行動が落ち着く ように,上肢の動きを妨げない肌着を 1 枚着ける配慮を行い,計測場所は静かでプラ イバシーが保たれ,室温の調整が可能な病院の個室で行った. 計測時期と回数は,修正月齢で-1 ヵ月時,0 ヵ月時,1 ヵ月時,2 ヵ月時,3 ヵ月 時,4 ヵ月時の計 6 回で,退院後は乳児健診時にあわせて行った. 計測時の乳児の状態は,目を開けて機嫌良く動いている状態である Prechtl の state4 の状態25)の時とし(表4),計測を行った.1 回の計測時間は,270 秒間であった.

(27)

- 20 - 表4 プレヒテルのステートの評価尺度 (Prechtl HF. 1974 より和訳 )

2.4.データの解析

3 つのセンサの位置データから,肘の屈曲伸展運動における 10,800 ポイント(40 Hz ×270 s)の角度変位量時系列データ(図4)を,数値解析ソフト MATLAB® (MathWork 社,米国)により余弦定理を用いて算出した(付録2).角速度と角加速 度変位量と角躍度変位量の時系列データ(図5,図6,図7)は,角度変位量時系列 データから差分商を用いて微分した.角度変位時系列データから 1 階差分を取り角速 度の近似解を得た.2階差分を取り角加速度の近似解を得た.3階差分を取り,角躍 度の近似解を得た.なお,差分は後退差分で算出した(付録 3). ステート 1: 目を閉じて,規則正しい呼吸,動きはない. ステート 2: 目を閉じて,乱れた呼吸,少し動いている. ステート 3: 目を開けているが,動きはない. ステート 4: 目を開けて,粗大な動きを見せる. ステート 5: 泣いている.(泣鳴)

(28)

- 21 - 図4.角度変位量時系列データの一例 修正月齢 4 ヵ月の乳児の GMs 中の肘の屈曲伸展運動の角度変位量時系列データの一例である. 縦軸が角度の大きさ,横軸が時系列データのポイント数を表している. 図5.角速度変位量時系列データの一例 図4.の角度変位量時系列データを 1 階微分して得られた角速度変位量時系列データである. 縦軸が角速度の大きさ,横軸が時系列データのポイント数を表している. 0 20 40 60 80 100 120 140 0 1, 20 0 2, 40 0 3, 60 0 4, 80 0 6, 00 0 7, 20 0 8, 40 0 9, 60 0 10, 80 0 (deg) -600 -400 -200 0 200 400 600 0 1, 20 0 2, 40 0 3, 60 0 4, 80 0 6, 00 0 7, 20 0 8, 40 0 9, 60 0 10, 80 0 (deg/s)

(29)

- 22 - 計測・算出した角加速度時系列データに 7,200 ポイント(40 Hz×180 s)の窓を設定 し,この窓内の RMS 値が最大になる区間を解析用角加速度時系列データの区間とし て選定した(図6).RMS の値は次の式で表される.式の 𝑥𝑥𝑖𝑖 は角加速度の変位量, N は時系列データのポイント数である. 𝑅𝑅𝑅𝑅𝑅𝑅[𝑥𝑥] = �𝑁𝑁 �1 (𝑥𝑥𝑖𝑖)2 𝑁𝑁 𝑖𝑖=1 図6.角加速度変位量時系列データの一例 図4.の角度変位量時系列データを2階微分して得られた角加速度変位量時系列データである. 縦軸が角加速度の大きさ,横軸が時系列データのポイント数を表している.このデータより, 7,200 ポイントの RMS 値が最大になる区間を解析用角加速度時系列データとして選定した.この 図では A から B までの区間が,その区間にあたる. この区間と同じポイント間で角躍度変位量時系列データを抽出した. -8.0E+03 -6.0E+03 -4.0E+03 -2.0E+03 0.0E+00 2.0E+03 4.0E+03 6.0E+03 8.0E+03 0 1, 20 0 2, 40 0 3, 60 0 4, 80 0 6, 00 0 7, 20 0 8, 40 0 9, 60 0 10, 80 0 (deg/s2)

B

A

(30)

- 23 - 図7.角躍度変位量時系列データの一例 図4.の角度変位量時系列データを3階微分して得られた角躍度変位量時系列データである.縦 軸が角躍度の大きさ,横軸が時系列データのポイント数を表している.角加速度のデータで定め た区間で解析用角躍度時系列データを選定した.この図では A から B までの区間が,その区間に あたる. 乳児の覚醒レベルが低い区間,機嫌は良いが何かに注意を向けている区間,指吸い を行っている区間は,運動量が乏しくデータの取得が困難であった.これらの区間に ついては,角度変位量時系列データから解析用角加速度変位量時系列データと同じ区 間で角度変位量を求め,その値が 1,500 度未満の場合には分析から除外した. 除外データの箇所は,欠損値データとして扱い,R 言語(ver.3.1.1.)26)の環境下でパ ッケージソフト MICE(2.25.)27)を用いて多重連鎖代入法により補定した.なお,欠損 値のデータ分布を図8に示す. -4.0E+05 -3.0E+05 -2.0E+05 -1.0E+05 0.0E+00 1.0E+05 2.0E+05 3.0E+05 4.0E+05 0 1, 20 0 2, 40 0 3, 60 0 4, 80 0 6, 00 0 7, 20 0 8, 40 0 9, 60 0 10, 80 0 (deg/s3)

B

A

(31)

- 24 -

図8.欠損値データの分布

は計測データあり. は欠損値を示す.欠損値は多重連鎖代入法を用いて補定 した.

補定データは,Prechtl1, 2)により区分された preterm GMs,writhing GMs,fidgety

GMs の相が変化する時期に合わせ,term I (修正月齢-1 ヵ月時と 0 ヵ月時),term II (修正月齢 1 ヵ月時と 2 ヵ月時),term III (修正月齢 3 ヵ月時と 4 ヵ月時)の 3 つの群 に分けて,各群の計測データの平均をその群の代表値として,群間比較を行なった. 統計解析は R 言語を用いて holm の分散分析の検定を行った.有意水準は危険率 5 %とした. -1ヵ月 0ヵ月 1ヵ月 2ヵ月 3ヵ月 4ヵ月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 修正月齢 症例

(32)

- 25 -

第 II 章 角加速度変位量と角躍度(角加加速度)

変位量の RMS 値の検討

(33)

- 26 -

1. 角加速度と角躍度,RMS の表すものについて

角加速度は角速度の変化率を表しており,角度変位の2階微分で求められる.本研 究で計測の対象とした肘の屈曲伸展運動において,角加速度の値が大きいということ は角速度の変化が大きいと言うことであり,肘の屈曲伸展運動は反復して向きを逆転 させる運動であることから,肘の屈曲伸展運動の力強さを表すと考えられる. 角躍度は加速度の変化率を表しており,角度変位の3階微分で求められる.角躍度 の値が大きいと言うことは,急激な力の変化があることを示しており,本研究で計測 の対象とした肘の屈曲伸展運動においては,ギクシャクとした動きとして表れている と考えられる. しかし,先行研究では乳児の自発運動の大きさや運動の回数の変化について報告さ れているが,加速度や躍度をパラメータにして明らかな変化を示した先行研究はなく, 加速度や躍度がどのような変化を示すのかわかっていない. そこで,乳児期初期の肘の屈曲伸展運動に着目し,角加速度変位量時系列データと 角躍度変位量時系列データの RMS の値がどのように変化するのか,また乳児の発達 を表すパラメータになり得るかを検討した.本研究で用いた角加速度と角躍度はベク トル単位であり正と負の値を持っているので,二乗を取る RMS を用いてパワーの大 きさを算出した.

(34)

- 27 -

2. 解析方法

2.1.角加速度変位量と角躍度変位量の時系列データの算出について

解 析 用 角 加 速 度 変 位 量 と 解 析 用 角 躍 度 変 位 量 の 時 系 列 デ ー タ か ら , Excel®(Microsoft, 米国)を用いて RMS の値を算出した.

2.2.欠損値の補定と群分け

除外データ規定に基づき欠損値データとなった箇所は,R 言語の環境下で多重連鎖 代入法のパッケージソフト MICE を用いてより補定した.MICE の設定は,角加速度 変位量時系列データに対しては,seed=23,109, 繰り返し回数 m は 350,角躍度変位 量時系列データに対しては,seed=23,109, 繰り返し回数 m は 10 を適用した. 補定したデータは,term I,term II,term III の 3 群に分けて,各群の計測データの 平均をその群の代表値として群間比較を行なった.

2.3.統計解析

統計解析は R 言語を用いて holm の分散分析の検定を行った.有意水準は危険率 5 %とした.

(35)

- 28 -

3. 角加速度変位量と角躍度変位量の RMS 値の解析結果

乳児の肘の屈曲伸展運動における角加速度変位量 RMS 値は,tern I に比べ term II と term III の値は有意に小さな値を示した (p < 0.05)(図9).有意差は保留された が,term II に比べ term III は大きな値を示した.

乳児の肘の屈曲伸展運動における角躍度変位量 RMS 値は,term I に比べ term II (p < 0.05)と term III(p < 0.01)は有意に小さな値を示した(図 10).

図9.角加速度変位量 RMS 値を各群間で比較した結果

縦軸が角加速度変位量 RMS 値,横軸が各群を表している.各群の値と標準誤差は,term I 689.13±29.85,term II 573.67±28.15,term III 593.34±23.45 で,term I に比べ term II と term III の値は有意に小さくなった.有意差は保留されたが term II から term III にかけて大きな値を 示し,U 字型の変化を示した.なお,検出力は 0.81 であった.

400 500 600 700

tern I term II term III

角 加速度変 位量 RM S 値 (deg/s2) p < 0.05 p < 0.05 0

(36)

- 29 -

図 10.角躍度変位量 RMS 値を各群間で比較した結果

縦軸が角躍度変位量 RMS の値,横軸が各群を表している.各群の値と標準誤差は,term I 3.34E+04 ± 1.21E+03,term II 3.01E+04 ± 8.51E+02,term III 2.85E+04 ± 8.48E+02 で, term I に比べ term II と term III の値は有意に小さくなった.term II と term III の間には有意差 は保留されたが term III は term II より小さな値を示した.なお,検出力は 0.9 であった.

4. II 章の考察

今回,GMs の変化を定量的に評価するためのパラメータを見いだすために乳児の 自発運動について 3 次元動作分析を行い,運動の「力強さ,速度の変化」を角加速度 の成分,「ぎこちなさ-滑らかさ」を角躍度の成分として捉えられるのではないかと考 え研究を行った.本研究では GMs 中の肘の屈曲伸展運動に焦点を当て,時系列デー タの平均的な強度を示すパラメータである RMS 値を用いて,角加速度と角躍度の RMS 値が乳児の自発運動の経時的変化を表す客観的なパラメータになり得るかを検 討した. 2.4E+04 2.6E+04 2.8E+04 3.0E+04 3.2E+04 3.4E+04 3.6E+04

term I term II term III

角躍度変位量 RM S値 0 p < 0.05 p < 0.01 (deg/s3)

(37)

- 30 -

角加速度変位量 RMS 値は,tern I に比べ term II の時に有意に小さくなることが認 められ,term II と term III の群間において有意差は保留されたが大きくなる変化を示 し,一時的に term II の時期に角加速度変位量 RMS 値が小さくなる変化を示すことが わかった. Prechtl は,月齢を経るごとに乳児の自発運動の速さと力強さが増すと述べている が1, 2),角加速度変位量 RMS 値は直線の変化ではなく U 字型の変化を見せた. このように乳児の発達が単純に右肩上がりに進まないことは,小西ら28)や高谷ら29) が報告している.小西ら28)は早期産児を対象に手首足首にマーカを付けその軌跡の大 きさを半定量的に比較して,1・2ヵ月時に軌跡の大きさが一時的に小さくなること を報告している.高谷ら29)は早期産児を対象に乳児が手を口に運ぶ回数を数え1・2 ヵ月時にその回数が減少することを報告している.また同じように von Hofstern15) は,乳児が玩具に向かって手を伸ばす回数を調べ2ヵ月頃一時的に見られなくなるこ とを報告している. von Hofstern15)は,玩具に手を伸ばす運動について,胎児期から新生児期では脳幹以

下の central pattern generator (CPG)30, 31)によって駆動され,それ以降は CPG に上位

中枢が関与することにより駆動されるとし,CPG と上位中枢の連携が始まる2ヵ月 頃一時的に見られなくなり,連携ができあがると再び見られるのではないかと考えて

(38)

- 31 - いる. 乳児の肘の屈曲伸展の自発運動の変化を同じ機序によるものと考えると, term I までの乳児の肘の屈曲伸展の自発運動は CPG に組み込まれたものであり,term II と term III 以降の運動は上位中枢が関与し引き起こされたものと推測され,角加速度の 変化はこの変化を捉えたものと考えられた. 躍度は運動の「ぎこちなさ-滑らかさ」を示すパラメータであり,Flash ら 32)はヒ トが腕をある点から目標まで動かす運動の過程で,躍度の値が小さいほどその運動が 滑らかであることを示している. 本研究において,角躍度の RMS 値が大きいことは肘の屈曲伸展運動がぎこちなく 行われていることを示し,角躍度の RMS 値が小さいことは肘の屈曲伸展運動が滑ら かに行われていることを示している.Prechtl はヒトの新生児の動きはぎこちなくギク シャクしていると言い,早期産児ほどその傾向が強く,月齢を経る毎にぎこちなさは 弱くなると述べている1, 2) 本研究では,乳児の肘の屈曲伸展運動の角躍度変位量 RMS 値は,term I に比べ, term II と term III の値は有意に小さく,term I から term III にかけて月齢とともに肘 の屈曲伸展運動が滑らかになることを示しており,Prechtl が述べている乳児の自発運 動の滑らさが増してゆく変化を捉えることができたと考える.

(39)

- 32 -

比較した群間のすべてに有意差を認めたわけではないが,得られた角加速度と角躍 度の RMS 値の結果から,term I の運動は速度の変化がとても大きくギクシャクした 運動,term II の運動は速度の変化は小さくやや滑らかな運動, term III の運動は速度 の変化が大きくかつ滑らかな運動であるといえる.

これらの変化は,preterm GMs,writhing GMs,fidgety GMs の各時期の運動の特 徴を備えており,乳児期初期の自発運動の発達の変化を客観的に表すために,角加速 度と角躍度の RMS 値を用いることは有効な手段の一つになり得ると考えられた.

5. II 章のまとめ

本研究の角加速度変位量と角躍度変位量の RMS 値において有意な変化がみられた. 脊髄レベルの CPG の働きに対し,より上位の中枢の働きが関与することで角加速 度変位量 RMS 値は U 字型を示したと推測され,角加速度変位量 RMS 値は各 GMs の運動の内容が切り替わる時期を指し示すパラメータになり得ることがわかった. 角躍度変位量 RMS 値は月齢を経るごとに小さくなり,運動の滑らかさを指し示す パラメータになり得ることがわかった. 従来の GMs の視覚認知的観察による変化を,本研究での角加速度変位量と角躍度 変位量の RMS 値の結果は支持することがわかった.

(40)

- 33 -

第 III 章 FFT スペクトル解析による

パワーの検討

(41)

- 34 -

1. FFT スペクトル解析によるパワーの値が表すものに

ついて

手の把握反射などの原始反射や自動歩行は脊髄に反射中枢を持つといわれ,新生児 期は明瞭に観察することができるが,2 ヵ月頃には消失する13).モロー反射やギャラ ン反射などの原始反射は脊髄から脳幹(橋など)に反射中枢を持つといわれ,新生児 期から見られるが,2 ヵ月頃から明瞭に観察することができ,4~6ヵ月頃には消失 する13).種々の立ち直り反応や保護伸展反応は中脳に反射中枢を持つといわれ,6 ヵ 月頃から明瞭に観察することができ,8 ヵ月以降になると大脳皮質・基底核・小脳な どが,総合的に関与する平衡反応がみられるようになる13) このように,下位レベルに中枢を持つ反射・反応はより上位レベルに中枢を持つ反 射・反応が出現すると統合され見えなくなりながら,乳児の運動発達は進んでゆくと 考えられている13) 一方で,中枢神経系の関与が症状の寛解増悪に影響する疾患にパーキンソン病があ る.パーキンソン病は中脳の黒質の病変のため大脳基底核の線条体のドパミンが不足 して起こることが知られている.ヒトの成人の研究例になるが,大江33)はパーキンソ ン病患者の後根を切除し感覚の入力を遮断しても振戦が消失しないことから,パーキ ンソン病患者の振戦の症状は中枢神経系によるものとしている.石田14)はパーキンソ

(42)

- 35 - ン病の症状が寛解すると振戦の FFT スペクトルの周波数のピークが変化しパワーの 値が減少すると述べ,FFT スペクトル解析で中枢神経系の作用の変化を表すことがで きることを示している. しかし,先行研究では成人を対象に FFT スペクトル解析を用いた研究は多数ある が,乳児の自発運動について FFT スペクトル解析での比較を行ったものはなく,どの ような変化を示すのか明らかになっていない. そこで,本研究では乳児期初期の自発運動における肘の屈曲伸展の運動の角加速度 に FFT スペクトル解析を行いパワー値と正規化した%パワー値を求め,その変化が どのように現われるのか,また FFT スペクトル解析が乳児の発達を表すパラメータ になり得るかを検討した.

2. 解析方法

2.1.FFT スペクトル解析によるパワーの算出について

本研究では,I 章で求めた解析用角加速度変位量時系列データに対し,数値解析ソ フト MATLAB®を用いて FFT スペクトル解析を行った. 𝜔𝜔𝑝𝑝 =2𝜋𝜋𝑝𝑝𝑇𝑇 �𝑝𝑝 = 0, 1, 2, ・・・, 2𝑁𝑁 − 1�として,角周波数ωを導入し,時間間隔(0, 𝑇𝑇)

(43)

- 36 - に対して,離散的な時間値𝑡𝑡𝑘𝑘で測定される時間の関数𝑓𝑓(𝑡𝑡𝑘𝑘)を考えたとき, 𝐹𝐹�𝜔𝜔𝑝𝑝� = 2𝑁𝑁 � 𝑓𝑓1 (𝑡𝑡𝑘𝑘) 2𝑁𝑁−1 𝑘𝑘=1 𝑒𝑒𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖𝑝𝑝𝑘𝑘 �𝑘𝑘 = 0, 1, 2, ・・・, 2𝑁𝑁 − 1� を構成できる34) ここで直行関係を適応し,振幅𝑓𝑓(𝑡𝑡𝑘𝑘)を求めると, 𝑓𝑓(𝑡𝑡𝑘𝑘) = � 𝐹𝐹�𝜔𝜔𝑝𝑝�𝑒𝑒−𝑖𝑖𝑖𝑖𝑝𝑝𝑖𝑖𝑘𝑘 2𝑁𝑁−1 𝑝𝑝=0 となり,時間の関数から周波数の関数を得ることができる34) ヒトの成人を対象とした研究になるが,坂本らは 0- 8 Hz の帯域は上肢の質量や長 さの機械的条件に依存し35, 36),8- 13 Hzの帯域は上位中枢レベルの活動に関係し35, 37) それ以上の帯域は脊髄での反射性の働きを示している35, 37)と述べていることから,0- 20 Hz の帯域と,0- 8 Hz,8- 13 Hz,13- 20 Hz の帯域とに分け,各帯域の FFT スペ クトルのパワーの総和の値と,0- 20 Hz の帯域のパワーの総和で各帯域のパワーの総 和を除して正規化した%パワーの値を求め,それぞれ比較検討した.元データのサン プリングレートが 40 Hz であるため,ナイキスト周波数の関係から 0- 20 Hz の帯域 を解析対象としている.このようにして求めた FFT スペクトル解析の結果の一例を 図 11 に表す.

(44)

- 37 - 図 11.角加速度変位量時系列データに対する FFT スペクトル解析の結果の一例 図6.で算出した角加速度変位量時系列データに FFT スペクトル解析を行った結果である. 縦軸が時系列データの持つpower (deg/s2・s),横軸が周波数帯域(Hz)を表している.

2.2.欠損値の補定と群分け

除外データ規定に基づき欠損値データとなった箇所は,R 言語の環境下で MICE を 用いて多重連鎖代入法により補定した.FFT スペクトルのパワー値を求める MICE の 設定は,各帯域とも seed=23,109 を適用し, 繰り返し回数 m は,0- 8 Hz の帯域では 70,8- 13 Hz の帯域では 310,13- 20 Hz 帯域では 10,0- 20 Hz 帯域では 170 を適用 した.FFTスペクトルの%パワー値を求めるMICEの設定は,各帯域ともseed=23,109 を適用し, 繰り返し回数 m は 0- 8 Hz の帯域では 370,8- 13 Hz の帯域では 330,13- 20 Hz 帯域では 130 を適用した. 0.0E+00 2.0E+06 4.0E+06 6.0E+06 8.0E+06 1.0E+07 0 5 10 15 20 (Hz) (deg/s2・s) pow er

(45)

- 38 -

補定データは,term I,term II,term III の 3 群に分けて,各群のデータの平均をそ の群の代表値として群間比較を行なった.

2.3.統計解析

統計解析は R 言語を用いて holm の分散分析の検定を行った.有意水準は危険率 5 %とした.

3. FFT スペクトル解析を用いたパワーの値の解析結果

13- 20 Hz の帯域において,term I に比べ term III の群の値は有意に小さくなるこ とがわかった(p < 0.01)(図 12).

0- 8 Hz の帯域においては,term I に比べ term II は小さな値を示し term III では大 きな値を示す U 字型の変化を示したが有意差は保留された(図 13).

8- 13 Hz の帯域においも U 字型の変化を示したが有意差は保留された(図 14). 0- 20 Hzの全帯域においてもU字型の変化を示したが有意差は保留された(図15).

(46)

- 39 -

図 12. 13- 20 Hz 帯域のFFT スペクトルのパワーを各群間で比較した結果

縦軸は FFT スペクトルのパワー(deg/s2・s)の総和,横軸は各群をあらわす.各群の値と標準誤差

は,term I 2.44E+08 ± 9.40E+06,term II 2.15E+08 ± 9.34E+05,term III 1.93E+08 ± 1.26E+07 で,term I に比べ term III は有意に小さな値を示した.また,term I と term II,term II と term III 間の有意差は保留されたが,値は月齢を経る毎に小さくなっていった.なお,検出 力は 0.91 であった.

図 13. 0- 8Hz 帯域の FFT スペクトルのパワーを各群間で比較した結果

縦軸は FFT スペクトルのパワー(deg/s2・s)の総和,横軸は各群をあらわす.各群の値と標準誤差

は,term I 6.86E+08 ± 9.62E+07,term II 5.01E+08 ± 4.14E+07,term III 5.42E+08 ±

5.84E+07 で,有意差は保留されたが,term II は term I や term III より小さな値を示した.term I

と term II 間のp値は 0.2,term II と term III 間のp値は 0.68,term I と term III 間のp値は 0.3

であった.なお,効果量は0.31 で検出力は 0.41 であった. 1.0E+08 1.5E+08 2.0E+08 2.5E+08 3.0E+08

term I term II term III

po we r ( 13 -2 0 H z ) 0 (deg/s2・s) 2.0E+08 3.0E+08 4.0E+08 5.0E+08 6.0E+08 7.0E+08 8.0E+08 9.0E+08

term I term II term III

po we r ( 0-8 H z) 0 p < 0.01 (deg/s2・s)

(47)

- 40 -

図 14. 8- 13 Hz 帯域の FFT スペクトルのパワーを各群間で比較した結果

縦軸は FFT スペクトルのパワー(deg/s2・s)の総和,横軸は各群をあらわす.各群の値と標準誤差

は,term I 1.48E+08 ± 1.27E+07,term II 1.22E+08 ± 6.44E+06,term III 1.56E+08 ±

1.34E+07 で,有意差は保留されたが,term II は term I や term III より小さな値を示した.term I

と term II 間のp値は 0.17,term II と term III 間のp値は 0.08,term I と term III 間のp値は

0.59 であった.なお,効果量は 0.37 で,検出力は 0.57 であった.

図 15. 0- 20 Hz 帯域の FFT スペクトルのパワーを各群間で比較した結果

縦軸はFFTスペクトルのパワー(deg/s2・s)の総和,横軸は各群をあらわす.各群の値と標準誤差は,

term I 1.63E+04 ± 1.20E+08,term II 8.01E+08 ± 3.87E+07,term III 8.66E+08 ± 6.97E+07 で, 有意差は保留されたが,term II は term I や term III より小さな値を示した.term I と term II 間の

p値は 0.15,term II と term III 間のp値は 0.57,term I と term III 間のp値は 0.31 であった.な

お,効果量は 0.32 で,検出力は 0.45 であった.

5.0E+07 1.0E+08 1.5E+08

term I term II term III 0 po we r (8 - 13 H z) 4.0E+08 5.0E+08 6.0E+08 7.0E+08 8.0E+08 9.0E+08 1.0E+09 1.1E+09 1.2E+09

term I term II term III 0 po we r (0 - 20 H z) (deg/s2・s) (deg/s2・s)

(48)

- 41 -

4. FFT スペクトル解析を用いた%パワーの値の解析結果

13- 20 Hz の帯域において term I に比べ term III の群の値は有意に小さくなること がわかった(p < 0.01)(図 16).

0- 8 Hz の帯域においては term I に比べ term III の群の値は大きな値をとったが, 有意差は保留された(図 17).

8- 13 Hz の帯域においはほぼ同じ値を示し,有意差は保留された(図 18).

図 16. 13- 20 Hz 帯域のFFT スペクトルの%パワーを各群間で比較した結果

縦軸は FFT スペクトルの%パワー,横軸は各群をあらわす.各群の値と標準誤差は,term I 31.9±2.28,term II 29.46±1.56,term III 23.43±1.82 で,term I に比べ term III は有意に小さな 値を示した.term I ・term II,term II ・term III 間の有意差は保留されたが,値は月齢を経る毎 に小さくなっていった.なお,検出力は 0.83 であった. 10 15 20 25 30 35 40

term I term II term III

% p ow er (1 20 Hz ) ( % ) p < 0.01

(49)

- 42 -

図 17. 0- 8 Hz 帯域の FFT スペクトルの%パワーを各群間で比較した結果

縦軸は FFT スペクトルのパワー,横軸は各群をあらわす.各群の値と標準誤差は,term I 52.3±2.99,term II 55.74±1.56,term III 59.9±2.29 で,有意差は保留されたが,term I から

term III にかけて値は増加した.term I と term II 間のp値は 0.44,term II と term III 間のp値

は 0.43,term I と term III 間のp値は 0.09 であった.なお,効果量は 0.35,検出力は 0.52 であ

った.

図 18. 8- 13 Hz 帯域の FFT スペクトルのパワーを各群間で比較した結果

縦軸は FFT スペクトルのパワー,横軸は各群をあらわす.各群の値と標準誤差は,term I 16.9±0.46,term II 16.35±0.68,term III 15.34±0.85 で,term I ・term II・term III の値はほぼ

同じ値であった.term I と term II 間のp値は 0.56,term II・term III 間のp値は 0.56,term I と

term III 間のp値は 0.27 であった. なお,効果量は0.27,検出力は 0.33 であった. 45 50 55 60 65

term I term II term III (%) 0 % p ow er (0 - 8 H z) 5 10 15 20

term I term II term III

% p owe r ( 8-13 H z) (%) 0

(50)

- 43 -

5. III 章の考察

今回,中枢神経系の変化を表すことができるとされる FFT スペクトル解析を用い て,乳児期初期の GMs 中の肘の屈曲伸展運動の角加速度変位量時系列データの解析 を行い,その変化がどのように現われるのか,また FFT スペクトル解析が乳児の発達 を表すパラメータになり得るかを検討した. 13- 20 Hz 帯域のパワーは脊髄レベルの働きを表しているとされるが35, 37),13- 20 Hz 帯域のパワーは月齢を経る毎に減少していった.この変化は何らかの上位中枢の 関与により脊髄レベルの働きが修飾され,反射的な運動がコントロールされてゆく変 化を捉えたものと考えられた. また,%パワーにおいても 13- 20 Hz の帯域のパワーは月齢を経る毎に減少してい った.これは全体のパワーに占める脊髄レベルの働きの減少を示しており,これも何 らかの上位中枢の関与により脊髄レベルの働きが修飾され,反射的な運動がコントロ ールされてゆく割合を量的に表しているものと考えられた. 0- 8 Hz と 8- 13 Hz と 0- 20 Hz の帯域のパワーは,有意差は保留されたが U 字型 の変化を示した.

0- 8 Hz 帯域のパワーのp 値は term I と term II 間では 0.2,term II と term III 間で

(51)

- 44 -

量 0.31,検出力 0.8 満たすn数を計算すると 36 以上であった.

8- 13 Hz 帯域のパワーのp 値は term I と term II 間では 0.17,term II と term III 間

では 0.08,term I と term III 間では 0.59 で,効果量は 0.37,検出力は 0.57 であり, 効果量 0.37,検出力 0.8 満たすn数を計算すると 25 以上であった.

0- 20 Hz 帯域のパワーのp 値は term I と term II 間では 0.15,term II と term III 間

では 0.57,term I と term III 間では 0.31 で,効果量は 0.32,検出力は 0.45 であり, 効果量 0.32,検出力 0.8 満たすn数を計算すると 33 以上であった.

8- 13 Hz 帯域の%パワーのp 値は term I と term II 間では 0.56,term II と term III

間では 0.56,term I と term III 間では 0.59 で,効果量は 0.37,検出力は 0.57 であり, 効果量 0.37,検出力 0.8 満たすn数を計算すると 25 以上であった.

一方で有意差は保留されたが,0- 8 Hz 帯域の%パワーは月齢を経るごとに大きな 値を示し,8- 13 Hz 帯域%パワーは term 間における変化がなく一定の値を示した.

0- 8 Hz 帯域の%パワーのp 値は term I と term II 間では 0.44,term II と term III

間では 0.44,term I と term III 間では 0.09 で,効果量は 0.35,検出力は 0.52 であり, 効果量 0.35,検出力 0.8 満たすn数を計算すると 28 以上であった.

8- 13 Hz 帯域の%パワーのp 値は term I と term II 間では 0.56,term II と term III

(52)

- 45 - 効果量 0.27,検出力 0.8 を満たすn数を計算すると 45 以上であった. 0- 8 Hz と 8- 13 Hz 帯域の FFT スペクトル解析では,n数が不足していたことがわ かった.

6. III 章のまとめ

本研究の角加速度変位量時系列データに対する FFT スペクトル解析の結果,13- 20 Hz 帯域の FFT スペクトルのパワー値と%パワー値において有意に減少する変化がみ られた. 13- 20 Hz 帯域のパワーと%パワー値の減少は,上位中枢の関与により反射的な運 動がコントロールされてゆく変化を捉えたものと考えられ,GMs の運動の変化を表 すパラメータになり得ることがわかった.

(53)
(54)

- 47 -

(55)

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1. カオス解析の表すものについて

Prechtl は GMs の運動を「正常な子どもの GMs は,複雑で優雅,なおかつ流暢で ある.」と表現している1, 2).その GMs の表す複雑さに対し,多賀らはカオス解析を用 いた研究報告をしている16).生後1カ月の乳児の手足にマーカを付け GMs の運動を ビデオ撮影し,2次元での時系列データに対してカオス解析を行った結果,正常な乳 児の GMs は決定論的なカオスダイナミクスを持ち,脳性麻痺児の GMs はカオスダ イナミクスを持たない周期性の単調な運動であると見いだしており,正常な乳児が表 出する運動と中枢神経系に障害がある乳児が表出する運動の複雑さに差があることを 示している16) しかし,先行研究では手首に付けたセンサやマーカのデータを用いた横断的研究が なされ正常・異常について有意差が示されているが,縦断的研究での量的な変化は明 らかにされておらず,カオス性を表すパラメータがどのような変化を示すのかわかっ ていない. そこで本研究では,乳児期初期の自発運動における肘の屈曲伸展の運動の角加速度 変位量時系列データにカオス解析を行い,GMs のダイナミクスの変化を表す最大リ アプノフ指数と相関次元の変化がどのように現われるのか,また乳児の発達を表すパ ラメータになり得るかを検討した.

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2. 解析方法

2.1.カオス解析による最大リアプノフ指数と相関次元の算出方法

2.1.1.カオス解析に用いたソフトウェアについて

I 章で求めた解析用角加速度変位量時系列データに対し,カオス複雑系解析プログ ラム®(株式会社 CCI,東京)を用いて,最大リアプノフ指数と,フラクタル次元を推 定するための相関次元を求めた.

2.1.2.アトラクタの再構成について

得られた変位量時系列データが決定論的カオスダイナミクスを有するか否かを判 断するにあたり,1 変数の解析用角加速度変位量時系列データを高次元空間における 力学系のアトラクタの軌道に再構成する必要がある.アトラクタとは,十分な時間を 経て位相空間内に収束した時系列データの軌跡のことである38- 40) このアトラクタの再構成に用いられるのが,Ruelle と Packerd らにより提案された, 時間遅れごとの差分による座標系への変換である38- 41).この変換が埋め込みであるこ とは,Takens の埋め込み定理により保証されている38- 40) 理想的に決定論的カオスダイナミクスを判別するには膨大なデータが必要となる が,実際にはデータ数や精度に限界があるので,より正確な推定を行うには,この時 間遅れを適切に設定する必要がある.この遅れ時間を設定する手法は大きく 2 つに分

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- 50 - 類できる.一つ目は,対象とする時系列データの時間相関に関する情報に基づいて座 標軸を構成する方法,二つ目が再構成されたアトラクタの空間分布を考慮することに より適切な遅れ時間を求める方法である38- 40) 本研究では,前者の手法の一つである,自己相関関数が最初に0となる時刻を遅れ 時間とする0クロス法を用いて,角加速度変位量時系列データのアトラクタを再構成 し,最大リアプノフ指数と相関次元を推定した.

2.1.3.リアプノフ指数の算出について

決定論的カオスダイナミクスを持つ時系列データの特徴の一つに軌道不安定性が ある.これは,同じ系でも初期状態にごくわずかな差があれば時間経過と共に指数関 数的にその差が大きくなる性質であり,最終的にはアトラクタのサイズまで拡大する. リアプノフ指数は,この初期状態のごくわずかな差の伸び率を定量的に表すパラメー タで,決定論的カオスの力学的特徴である軌道不安定性は,リアプノフ指数とそのス ペクトラムで定量化することができる.このリアプノフ指数の値が大きければ,より 強い軌道不安定性を有していると考えられ,対象の時系列データが決定論的カオスで あれば最大リアプノフ指数は正の値となる38- 40) カオスを予測するために最初に用いられたのは Lorenz による類推法である38- 40) これは再構成されたアトラクタ上のある 1 点から近傍にある点を探索し,探索された

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- 51 - 点を小さい順に並べ変え一番小さい点に注目し,ある時刻におけるパターンが過去の どのパターンに最も似ているかを求め予測を行うものである38- 40).類推法はデータに ノイズがない時などは有効であるが,ノイズが多くなったときには良い予測を導き出 せないという問題がある38- 40).この問題を解決するためには,近傍点を増やすことに よりノイズを減らし予測精度を上げる必要がある.この考えを活かした方法が局所線 形予測法であり,リアプノフ指数の推定にヤコビアン行列を用いた方法が Sano – Sawada 法である38- 40, 42) リアプノフスペクトラムの 𝑖𝑖 番目のリアプノフ指数は次の式で表される. 𝜆𝜆1 = lim𝑁𝑁→∞𝑁𝑁 � log 𝑟𝑟1 𝑖𝑖𝑖𝑖 𝑁𝑁 𝑗𝑗=1 (𝑗𝑗) for 𝑖𝑖 = 1, 2, ⋯ , 𝑚𝑚 ただし,𝑟𝑟𝑖𝑖𝑖𝑖(𝑗𝑗) は上三角行列𝑅𝑅1 の第𝑖𝑖対角成分である38- 40, 42). また,リアプノフ指数を用いると,予測の限界を定量化することができる.ある状 態空間にサイズが 𝑅𝑅 のアトラクタがあり,その中に任意の時刻で半径 𝑟𝑟 の円がある とする.この 𝑟𝑟 が時刻 𝑇𝑇𝐶𝐶 後に変化率𝜆𝜆+でアトラクタの大きさと同じサイズにまで 伸びていったとすると, 𝑟𝑟𝑒𝑒𝜆𝜆+𝑇𝑇𝐶𝐶 = 𝑅𝑅 で表される38- 40) このアトラクタサイズまで延びる時間𝑇𝑇𝐶𝐶を予測臨界時間と考えると,

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- 52 - 𝑇𝑇𝐶𝐶 =𝜆𝜆1 +log � 𝑅𝑅 𝑟𝑟� で,表すことができ,𝜆𝜆+の値が大きいほど,つまり軌道の不安定性が強いほど軌道の 予測可能な時間は短くなり,軌道の不安定性が弱いほど軌道の予測可能な時間は長く なることがわかっている38- 40)

2.1.4.相関次元の算出について

決定論的カオスダイナミクスの時系列データが持つ特徴の一つは,アトラクタのフ ラクタル性,自己相似性である.アトラクタの幾何学的形状をマクロから見た時から ミクロで見た時へ拡大してみた時,元の構造と同じ構造が次々に現れる構造は自己相 似構造と呼ばれる.多くの場合,決定論的カオスダイナミクスのアトラクタの幾何学 構造はフラクタル構造(自己相似構造)を持つので,非整数のフラクタル次元をもっ て定量化できる38- 40) フラクタル次元を推定する基本的な手法に,ボックスカウンティング法がある.こ れは低次元のデータには有効な手段であるが,非常に大きいデータ数を必要とするた め,高次の次元が見込まれる実際のデータでは,ボックスカウンティング法を適応す ることは困難であった38- 40) Grassberger と Procaccia は,この欠点を解決する方法として,相関積分を用いたフ

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- 53 - 43, 44).これは相関積分を用いてフラクタル次元の一種である相関次元(𝐷𝐷 2)を求めるこ の方法である.相関次元は,アトラクタの幾何学的な複雑さを定量化することができ る特徴量で,フラクタル次元を推定する一つの方法である38- 40, 43, 44).この GP 法は, ボックスカウンティング法に比べ比較的簡単に計算でき,計算時間の短縮,良好な収 束性をなどの長所を有するため実データの解析によく用いられている38- 40).GP 法の 基本的な考え方は,アトラクタに含まれる任意の 1 点𝑣𝑣𝑖𝑖を中心とした円(球・超球) に含まれるアトラクタの構成点𝑣𝑣𝑗𝑗の確立𝐶𝐶𝑚𝑚(𝑟𝑟)を算出するというものである. GP 法の定義は次の式で表される38- 40, 43, 44) 𝐷𝐷2 = lim𝑟𝑟→0ln�𝐶𝐶(𝑟𝑟)�ln(𝑟𝑟) 再構成されたアトラクタ上の 1 点を𝜐𝜐𝑖𝑖 ∈ 𝑅𝑅𝑚𝑚 とすると,相関積分は次の式で表すこ とができる. 𝐶𝐶𝑚𝑚(𝑟𝑟) = lim 𝑁𝑁→∞ 1 𝑁𝑁2 � 𝐼𝐼�𝑟𝑟 − |𝑣𝑣𝑖𝑖 − 𝑣𝑣𝑗𝑗|� 𝑁𝑁 𝑖𝑖,𝑗𝑗=1 𝑖𝑖≠𝑗𝑗 ただし,𝐼𝐼(𝑡𝑡) はヘビサイト関数で 𝐼𝐼(𝑡𝑡) = �1 (𝑡𝑡 ≥ 0) 0 (𝑡𝑡 < 0) である.なお,�𝑣𝑣𝑖𝑖 − 𝑣𝑣𝑗𝑗� は2点間の距離である.埋め込み次元𝑚𝑚を変えて 𝐷𝐷2 の変化 をプロットし,飽和した 𝐷𝐷2 の値がその時系列データの持つアトラクタの軌跡の相関

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- 54 - 次元である38- 40, 43, 44) 本研究では,最大リアプノフ指数には Sano - Sawada 法を,相関次元には GP 法を 用いることで決定論的カオスダイナミクスを定量化した.

2.2.欠損値の補定と群分け

除外データ規定に基づき欠損値データとなった箇所は,R 言語の環境下で MICE を 用いて多重連鎖代入法により補定した.MICE の設定は,最大リアプノフ指数は seed=23,109,繰り返し回数 m=10,相関次元は seed=23,109,繰り返し回数 m は 290 を適用した.

補定データは,term I,term II,term III の 3 群に分けて,算出されたデータの平均 をその群の代表値として群間比較を行なった.

2.3.統計解析

統計解析は R 言語を用いて holm の分散分析の検定を行った.有意水準は危険率 5 %とした.

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3. カオス解析による最大リアプノフ指数と相関次元の結果

3.1.最大リアプノフ指数の解析結果

最大リアプノフ指数を見ると,term I と term II に比べ term III の群は有意に小さ な値を示した(p < 0.01)(図 19).

図 19.最大リアプノフ指数の値を各群間で比較した結果

縦軸は最大リアプノフ指数の値,横軸は各群をあらわす.各群の値と標準誤差は,term I 6.8411±0.6766,term II 5.4087±0.3164,term III 4.0432±0.2059 で,term I と term II に比べ term III は有意に小さな値を示した.最大リアプノフ指数の値は月齢を経る毎に値は小さくなって いった.なお,検出力は 0.98 であった.

3.2.相関次元の解析結果

相関次元を見ると,term I に比べ term II の群の値は有意に大きくなることがわか った(p < 0.05)(図 20).term II と term III はほぼ同じ値を示していた.

2.0 4.0 6.0 8.0

term I term II term III

M ax im um L ya pu no v ex po ne nt p < 0.01 p < 0.01 0.0

参照

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