変位量の RMS 値の検討
4. II 章の考察
今回,GMs の変化を定量的に評価するためのパラメータを見いだすために乳児の 自発運動について3次元動作分析を行い,運動の「力強さ,速度の変化」を角加速度
の成分,「ぎこちなさ-滑らかさ」を角躍度の成分として捉えられるのではないかと考 え研究を行った.本研究ではGMs 中の肘の屈曲伸展運動に焦点を当て,時系列デー
タの平均的な強度を示すパラメータである RMS 値を用いて,角加速度と角躍度の
RMS 値が乳児の自発運動の経時的変化を表す客観的なパラメータになり得るかを検
討した.
2.4E+04 2.6E+04 2.8E+04 3.0E+04 3.2E+04 3.4E+04 3.6E+04
term I term II term III
角躍度変位量RMS値
0
p < 0.05 p < 0.01 (deg/s3)
- 30 -
角加速度変位量RMS値は,tern Iに比べterm II の時に有意に小さくなることが認
められ,term II とterm IIIの群間において有意差は保留されたが大きくなる変化を示
し,一時的にterm IIの時期に角加速度変位量RMS値が小さくなる変化を示すことが
わかった.
Prechtl は,月齢を経るごとに乳児の自発運動の速さと力強さが増すと述べている
が1, 2),角加速度変位量RMS値は直線の変化ではなくU字型の変化を見せた.
このように乳児の発達が単純に右肩上がりに進まないことは,小西ら28)や高谷ら29) が報告している.小西ら28)は早期産児を対象に手首足首にマーカを付けその軌跡の大 きさを半定量的に比較して,1・2ヵ月時に軌跡の大きさが一時的に小さくなること を報告している.高谷ら29)は早期産児を対象に乳児が手を口に運ぶ回数を数え1・2 ヵ月時にその回数が減少することを報告している.また同じように von Hofstern15)
は,乳児が玩具に向かって手を伸ばす回数を調べ2ヵ月頃一時的に見られなくなるこ とを報告している.
von Hofstern15)は,玩具に手を伸ばす運動について,胎児期から新生児期では脳幹以
下のcentral pattern generator (CPG)30, 31)によって駆動され,それ以降はCPGに上位
中枢が関与することにより駆動されるとし,CPG と上位中枢の連携が始まる2ヵ月 頃一時的に見られなくなり,連携ができあがると再び見られるのではないかと考えて
- 31 - いる.
乳児の肘の屈曲伸展の自発運動の変化を同じ機序によるものと考えると, term I までの乳児の肘の屈曲伸展の自発運動はCPGに組み込まれたものであり,term IIと
term III 以降の運動は上位中枢が関与し引き起こされたものと推測され,角加速度の
変化はこの変化を捉えたものと考えられた.
躍度は運動の「ぎこちなさ-滑らかさ」を示すパラメータであり,Flash ら 32)はヒ トが腕をある点から目標まで動かす運動の過程で,躍度の値が小さいほどその運動が 滑らかであることを示している.
本研究において,角躍度のRMS 値が大きいことは肘の屈曲伸展運動がぎこちなく
行われていることを示し,角躍度のRMS 値が小さいことは肘の屈曲伸展運動が滑ら
かに行われていることを示している.Prechtlはヒトの新生児の動きはぎこちなくギク
シャクしていると言い,早期産児ほどその傾向が強く,月齢を経る毎にぎこちなさは 弱くなると述べている1, 2).
本研究では,乳児の肘の屈曲伸展運動の角躍度変位量RMS値は,term Iに比べ,
term IIとterm IIIの値は有意に小さく,term Iからterm IIIにかけて月齢とともに肘
の屈曲伸展運動が滑らかになることを示しており,Prechtlが述べている乳児の自発運
動の滑らさが増してゆく変化を捉えることができたと考える.
- 32 -
比較した群間のすべてに有意差を認めたわけではないが,得られた角加速度と角躍 度のRMS値の結果から,term Iの運動は速度の変化がとても大きくギクシャクした
運動,term IIの運動は速度の変化は小さくやや滑らかな運動, term IIIの運動は速度
の変化が大きくかつ滑らかな運動であるといえる.
これらの変化は,preterm GMs,writhing GMs,fidgety GMsの各時期の運動の特 徴を備えており,乳児期初期の自発運動の発達の変化を客観的に表すために,角加速 度と角躍度のRMS値を用いることは有効な手段の一つになり得ると考えられた.