• 検索結果がありません。

貨幣的均衡理論における二分法の問題

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "貨幣的均衡理論における二分法の問題"

Copied!
30
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)貨幣的均衡理論における二分法の問題. 澤. 雄. α 一九三六年にJ・M・ケインズが﹁雇傭・利子及び貨幣の一般理論﹂の中で提示した二分法︵9争oδヨ<︶の間題. は︑いかなる経済理論といえども︑経済の実物的側面と︑貨幣的側面との相互作用を論ずるときに直面する重要な間. 題である︒ケインズは︑古典派のH実物経済と貨幣経済の二分法と︑θあらゆる財貨・用役の需給函数は︑すべての. 価格の零次の同次函数であるという二つの仮定を厳しく批判することによって︑﹁一般理論﹂を展開した︒﹁経済学を. 一方価値及び分配の理論と他方貨幣の理論とに分つことは︑私の考へでは問違った分類である︒私の提案し度い正し. い二分法は︑一方に個々の産業または企業の理論鼓びに与へられた資源量の諸々の報酬と各種用途への配分とに関す 到 る理論をおき︑他方には全体としての産出古同及び雇傭に関する理論をおくことである﹂として︑ケインズは古典派の. らも︑貨幣数量の諸変化に対する有効需要の反応ならびに貨幣諸価格の反応を示す統一式を︑弾力性という型で提出. 副 ︵. 4. 5. 6. した︒二分法の問題はケインズによって終ったのではたく︑むしろ一般理論が契機となって︑貨幣理論の根本的な問. 題として表面に浮び出︑ラーナー︵>.勺・5昌實︶︑ヒックス︵−内.雲o訂︶︑カレヅキー︵竃・内巴9ζ︶などによ. lOl. 新. 貨幣価値決定理論の二分性を指摘し︑貨幣と実物の統合の間題を示唆しようとして数式による展開に疑間を持ちなが. 101.

(2) の る流動性選好説の精密化・発展に対して︑古典派の二分湊と同次性の公準を復活させたそジリアニ︵声く己屯一彗一x 8︺ ︵冒霊↑ぎ民己による批判という型で撃々しく議論され. あるいは古典派のこの二つの仮定を排撃したパティンキン た︒. 経済の実物的領域と貨幣的領域との統合の間題は︑貨幣価値の決定とその変動に関する間題であり︑ケインズを侯. つまでもなく︑かかる意味での統合問題の歴史は古い︒したがって貨幣の本質とは何であるか︑貨幣の価値はどのよ. うにして決まるか︑またその変動は︑という設間に対して解答を与えて来た貨幣に関する諸学説を歴史的・系統的に. をとりあげ︑パティンキンの統合問題への貢献を論述しようとするものである︒. 董ξ墨ω一邦訳︑塩野谷九十九訳コ層傭・利子及ぴ貨幣の一般理論L五腹︑三五六頁︒. 註1︺−1冨.穴ξ目轟一↓ケ①Ω彗雪巴↓チooξ艮向昌亘oく昌①自戸H巨睾o9顯自匝ζo;きH竃9o−一. 2. −漫9勺勺.崖甲崖9oチ×F. >−勺.−o;睾一向ω豊壱ぎ向8目o昌ざ>自巴壱グ岩望一〇.ミoo1. 修 旨己−一〇〇.ω冒1ωo㊦1. 勾. 到 −1刃.雪一〇一︷9<巴oo凹冒oO里宮冨一〜目邑oo. 6声穴巴8算↓ぎoξo︷向o昌o邑oU︸冨邑oωL89署.轟ふo︒.. ﹃竃o2阻ぎ己一=o巨まξ勺﹃①守篶目8與目匹;①↓︸①o﹃︸o︷−暮宰窃け凹目﹄彗o冒oく一向oo冒o冒gユo〜くo− 旨1. 9Uこ.雰;〜>ω9ξぎドブo↓ぎoqo︷⁝昌9凹ξ貝目一一享ζ員>Oo昌層冨享①>畠冨亘お運o.H睾. 8冒〜葦一︷貝峯旨§旨一9曇一彗創軍幕9>目H目一轟﹃き昌o︷竃o罵$︷彗o<竺毒↓ぎoξH8⑦.. 一η. 〜ガ七P墨㌣巳o8.. 析﹂︵>ω9ξぎまo↓手oH㌣o︷く昌9胃く向o巨亭Hぎ員>Oo昌寝墨葦o>冨−豆yお叡︶の中から二分法の問題. 本稿は︑かかる意味において︑D・J・ボータ博士︵oこ.︸9臣︶の発表した﹁貨幣的均衡理論の研究−比較分 9︶. 整理し︑現在の水準において反省し︑統合間題を展開することは︑きわめて意義あることといわなけれぼならぬ︒. 102. l02.

(3) 103. この論文はボータがオラソダ海外銀行および一九五六−七年匿マンチェスター夫掌研究助成費を得てウェイルズ大学におい て発表した も の で あ る o. 貨幣理論には古くから商品学説と名目主義学説とが対立しているが︑対立の原因は︑貨幣の本質に関する見解の相 リ. 違である︒しかしH・S・エリス︵雷.oo・里一玖がいっているように︑貨幣の概念的独自性︑すなわち貨幣が他の財. と異って名目価値で流通するという事実は︑どの理論も認めているのである︒この事実認識からして貨幣理論に︑数. 量分析が重要になるのであるが︑永い間貨幣の価値決定理論は︑一方では数量説︑他方では生産費説︑あるいは限界 到 ︵ 効用学説によって並列的に説明された︒この二分法の誤りは︑シェムペーク︵−>.ωoぎ昌9胃︶が強調しているよ. うに︑従来の経済学者が主として貨幣本質論にのみ興味を抱き︑財と貨幣との閻の組織的分析を行わなかったことに. 起因する︒またこのような部分的な分析が︑貨幣理論は経済理論とは別個の部門であるという信念を一層助長させ︑. 貨幣理論を一般経済理論に統合させるということができなかった︒唯一の例外はワルラス︵■︒オ苧鶉︶であって︑. 全体小い心小経済の作用を分析したが︑ワルラスは恒等式を示すにすぎず︑貨幣理論と価格理論を完全に統合する問. 題を結局解決しなかった︒ケインズは二般理論﹂で古典派の二分法に決定的な攻撃を加え︑﹁正しい二分法﹂とし. て﹁企業の理論と産出物と雇傭の理論﹂を提出したが︑ボークはケインズの﹁一般理論﹂が貨幣理論と価格理論の統 3︶ 合に対して最終的な解決を与えるものではない見ているのである︒ボータによれぱ︑単に経済理論の分析用具を貨 勾 幣理論に適用するだげではこの澗題の頁の解決ではなく︑統合間題に必要なのは︑パティンキンによって展開された ワルラス流の一般均衡分析であるとしているのである︒. 一03. 二.

(4) 104. ︶ 価. すなわち︑ボータは︑貨幣の純粋理論において︑貨幣理論の発展とその方向を︑︿イエク︵■>.=陣︸︒汀︶の論理. 的分類を用いて︑次のように要紛している︒ハイエクのいう第一段階とは︑経済の物価水準︑貨幣量︑総生産相互間. に直接的因果関係を設定し︑貨幣の価値の説明をしようとするものであり︑貨幣は物価水準の変化を通じてのみ生産. に影響し︑物価水準の上昇が常に生産物の増加を費すという誤った見解をもつ段階である︒第二段階は︑カンテイヨ. ︵F. 冒一︑︒眈︶によっ. ン︵射・O彗書昌︶・ヒューム︵︼︶・国冒旨①︶によって代表される考え方であって︑貨幣量の変化が個人の所得に影響. し︑個人の所得の変動を通して価格に影響を与えるとする段階である︒この段階は︑・︑ーゼス. て限界効用分析が適用され︑更に拡張された︒第三段階には︑物価水準に影響を与える要因として︑貨幣量のほか. に・利子率が入る︒この段階にはベンサム︵−団彗庄φ冒︶︑マルサス︵H印峯筆プ嘉︶︑ワルラスが入り︑近代貨幣. 理論では︑ヴィクセル︵声オ庁訂竺︶によって採り上げられ︑強制貯蓄の理論と結びついて展開された段階である︒. 最後の第四段階では︑生産におよぽす相対価格の変化の影響︑相対価格におよぼす貨幣の影響が研究されたげれぱた らない︒. ⑥ ハイェクの四段階に照らしてボー急︑ケイソズの﹁貨幣論﹂と﹁一般理論﹂とを次のように分類する︒前者が. ﹁貨幣理論の役割は物価水準が決定される因果の過程を分析する﹂とする限り︑いかに物価水準決定の要因として貨. 幣所得一利子率︑総現金残古同を採り入れてもハイエクが指摘したように貯蓄投資の乖離は︑ヴイクセル派の市場利子. 率と貨幣利子牽との乖離と同義であるから︑第三段階に入る︒また﹁一般理論﹂で︑ケイγズは流動性に対する主観. ︿イエクのいういずれの段階にも属して. 的一客観的動因の分析を強調しているが︑貨幣の純粋理論に対する貢献は殆んどないとボiタはいいきる︒というの は︑﹁一般理論﹂で貨幣量があつかわれるのは︑雇傭水準のためであって︑ ないと考えるからである︒. 104.

(5) 105. ボータは︑﹁貨幣の現代的理論とは︑全体としての経済組織におよぼす貨幣の影響に関連するものであり︑これは つ ︵ 経済組織と貨幣の双方の役割を満足するような理論でなげればならぬ﹂と規定する︒また︑経済の場を結論的に規定. して不完全雇傭の場にあっては︑もし貨幣と価格の関係が弱げれぼ︑反数量説的た因果関係が支配的となり︑生産水. 準と雇傭水準とが主要な従属変数であって︑貨幣は独立変数であるが︑これに反して︑︵超過需要と物価騰貴によっ. て引き起された︶完全雇傭に近い水準の時期には︑貨幣が本来の姿をとりもどすとしている︒したがって︑不完全雇. 傭の場にあっては︑ケインズの﹁一般理論﹂がその分析に遺合し︑貨幣的均衡理論において分析される場は完全雇傭 が達せられた後であると結論する︒. このボークの結論は重要である︒というのは貨幣と実物との相互影響の問題に関して︑ケインズの二分法がより一. 般的であるのか︑あるいは︿イエクの四段階からして︑ボータの支持する二分法が実質的に意味をもつのかが︑論議. の対象となるからである︒ケインズの提出した二分法の背景には︑一九三〇年代の不況を直視し︑分析し︑何等かの. 解決策を与えんとする問題意識があった︒不完全雇傭の場に従来の経済理論は何等の解答を与えなかったが︑その根. 本的な理由をケインズは︑古典派の誤まてる二分法に見出したのである︒貨幣は完全雇傭の場において︑その本来の 割 姿を取り戻すというボータの意見は︑たとえそこにボータのいう貨幣の純粋理論が組み立てられるとしても︑経済理. 甲ω.目=9Ω睾冒竃竃o目g彗︸弓ぎ昌き︸彗毒邑一岩巳oトー. 論における特殊性を免れることはできない︒ 註ω. ② −>一ω9目昌弓9胃一U竃ωON邑肩02﹄ζ目目O隻O内ωOチ彗忌彗己血目9>﹃争孝富﹃ω§茎至詔彗8訂津自目Oω§巨君=巨ぎ嚢 ︸彗♀岩ミ\Ho〇一弓o−3o−竃H.. これは巨p實畠巨o量−向8昌昌−o勺署①轟zo.9−89竃o冨㌣頸目o亭①ω8邑軍a; に英訳されているo. l05.

(6) リ ︵. って︑代表的な貨幣数量説として周知のフイヅシャー︵H・ヨ臣胃︶の交換方程式と︑ケムブリヅジ学派の残高方程式 をとり上げ次に対比する︑. 交換方程式について︑貨幣数量と物価の正比例の定理が︑不完全雇傭の場の場合︑また一殻的統制価格の場の場合. に妥当しないという批判は︑数量説の応用性には影響するが︑その妥当性に影響するものではないということができ. る︒数量説の妥当性に対する批判を整理すれば︑H︑貨幣を指図証券と見る所にあり︑また︑⇔7イヅシャーの交換. いては妥当せず︑㈲︑方程式そのものが各変数の事後の等値関係を示すにすぎないことにある︒したがって︑貨幣理. 論がより完全になるためには︑事後の関係を決定する経済諾力の事前の椙互作用を考察する必要がある︒すなわち︑. 事前と事後との比較によってのみ貨幣価値決定および因果関係の間題が明かになるのである︒この意味でケムブリッ. l06. U.−−︸o;〜opqゴp巳o.. U.勺津ぎ巨po〇一9ゴ. 戸>.曽ξoぎ軍−8ω彗o市﹃a;ユo員−o邑op岩お︵冨p︶opでωド U.−困o艘poo.qゴ勺七.畠−−ρ. −一︸O片す顯.−Oも1o岸−10巨凹O−=OP−−NN.. U一−一︸o亭凹一〇p9ゴo.H9 −︶. 三. 経済の実物的領域と貨幣的領域とを最も素朴な形で数量的に関連ずげたのは︑古典的な貨幣数量説である︒したが. (8〕(つ(6〕(5〕(4)(3〕. 方程式が︑ワルラスの意味におげる純粋な恒等式ではなく︑目︑物価水準を唯一の受動要因とする前提が過渡期にお. 106.

(7) 107. ジ方程式はフイッシャーの交換方程式とは全く異なっている︒すたわち︑マーシャルのKは︑一般にフイッシャーの. 流通速度Vの逆数と考えられているが︑Kを流動性選好係数と同値とみれぱ︑このKは流動性を欲求する度合Kを示. すべきだから︑Kは事前変数であるべきであって︑事後変数Vの単なる逆数ではたい︒このようにKを附と解すること. によって︑ケムブリッジ方程式は因果の方向を一応示しているということができる︒しかし交換方程式も残高方程式. も所得変化に対する貨幣量の変化のみをあつかっていて︑投機的動機に基ずく貨幣需要を欠いている︒. すなわち︑実物と貨幣の数量分析には因果の方向と同時に︑利子率の変化による貨幣量の変化を考察せねぼならぬ のである︒. 貨幣数量説の中で利子率の影響を認め︑一九三〇年代より殆んど顧られなかった貨幣数量説を発展せしめたのは︑ 到 ︵. M・フリードマン︵く・寄一&目竃︶を中心とするシカ中コ学派である︒. シカ中コ学派の理論は︑所得︑生産物︑物価水準の理論ではなく︑ケムブリッデ学派のような貨幣需要の理論であ. る︒この学派によれば︑貨幣は個人または企業が所有する富または資産の一種であって︑趣味︑選好︑所得︑価格︑. 収益にその需要は依存する︒個人または企業家は︑趣味︑選好に応じて効用を極大にしようとして各種資産について. の配分を決定する︒富︵W︶はストヅクであり︑所得︵Y︶は富から派生するフローであるが︑この両者は全体の. 利子率︵〆︶によって関係ずげることができる︒価格︵P︶はあらゆる富の実質収益に影響する変数である︒債券収. 益は︑債券利子︵r︶と賃券価格によって決定される︒株式収益は︑価格変化のない期間に取得される配当︑価格変. 化を相殺するための配当の増減︑価格または利子率の変化に伴う株の名目価格の騰落によって決定される︒もし価格. および利子率に対する期待が︑各個人の間にあって同一であれば︑債券収益と株式収益の間に裁定が行われるから︑. 債券利子率rは︑株式利廻りに価格変化の期待収益率を加えたものに等しい︒一般に財貨の実質価値は価格の動きに. loフ.

(8) 108. 依存する︒株式のように財貨は︑貨幣価値の増減の形で名目収益を生み出すから︑零期におげる財貨の一貨幣単位の H o勺. 価値は﹂﹁−創﹁である︒これらの主要な富の収益に影響する諸要因は︑個人または企業家が︑貨幣保有を区分す. o〜. る各種の富の需要を決定する︒したがって総貨幣需要は次式によって表わされる︒. H. 峯←一欠︑二︑﹁︑津.三︶.e. 勺. H. 勺. H. 津. 一㌧く︶⁝⁝⁝・:⁝⁝⁝⁝︵5︶. 一k︶:⁝⁝:⁝⁝⁝⁝:︵巳︺︶. 邑勺. ま. o勺. WをYによって置換し︑ω式が価格と所得について一次の同次函数であれば︑ω式は︑ 峯−11−︵㌧欠■ボ. したがって︑ 峯−m註︵■■一−. この場合 冒−u㌧竃. 勺. o勺. く. これによってω式を︑実質残高需要を表わす式と︑所得と貨幣の関係を表わす式に書き改めることができる︒ ﹈.. 〜11−−− とすれば︑. H. −〜.︑工︵︑二↓■﹁・勺=︶︑:§. 呂. ︸. とすれば︑. この式は︑実実貨幣残高需要が︑実質変数の函数であって︑名目貨幣価値に影響されないことを表わしている︒ま た︑. ﹈1. ㌧11−. l08.

(9) ■. 峯. ■. 勺. 勺 串. H 創勺. 〜. .. H. 庄勺. −−11︷︵−−−﹂■ボー−︶⁝−⁝・⁝・⁝::⁝︵ω︶ よって︑. く. lHく︵1一﹃二一i−−−︶⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:︵設︶ 竃 ■ 勺 .串. すなわち︑所得は︑貨幣量と所得速度の積であって︑しかも︑所得速度は独立変数の函数である︒上述の式は個人. または企業家に関する函数であって杜会全体の総需要函数ではない︒したがって所得︑期待価格の変化率︑趣味︑選. 好に関して集計の問題が残る︒この問題に対する第一次接近として所得を総所得と定義し︑期待価格の変化を経済全. 体の期待の平均値と仮定すれぱ︑杜会全体の総需要函数を求めることができる︒これが7リードマンの数量説の要約. であるが︑利子率に関連せしめうれた全資産に対する期待収益︑価格の時問的変化を数量方程式にとり入れ︑所得速. しかしながら︑ボータのいうように財と貨幣の統合をワルラス流の一般均衡理論まで前進させるためには︑ブリー. ドマンの価格変化に影響される実質貨幣残高需要は︑財貨需要函数と結合される必要があるのである︒ U.−1︸O亭POP9け一bP杜山H. ② ⁝.写⁝&昌葭p&岸&一望邑一鶉ぎ;①o毒目幸㌣↓臣昌くo市竃o昌きH89oo・甲曽・. 註ω. フリードマソの編集したこの論丈はわが国にほとんど紹介されてい恋い︒シカ︒コ学派の数量説は狭義の意味の貨幣数量説で. はないが︑フリードマソは貨幣数量説を貨幣需要の理論と解し︑数量説は遠度を定義することであるとして︑実質貨幣残高需. 要数量を方程式にをとり上げている︒本稿ではボータに沿ってフリードマンを紹介した︒. 109. 度を明確に定義したことば︑貨幣理論の数量的分析を高度に押し進めたものということができる︒. 109.

(10) 110. α パティンキンによれぼ現金−取引残高型の方程式を利用する貨幣理論を新古典派という︒新古典派は一般に︑貨. 幣量の増加の需要におよぽす影響を認識しているが︑パティンキンのいわゆる実質残高効果を個有の方法で用いたの. は︑ヴィクセルとフイッシャアに過ぎない︒実質残高効果とは︑貨幣量の増加が︑個人の欲している現金残高と︑彼. の支出の最適な関係に影響することをいう︒すなわち︑H貨幣量の増加は財貨および用役に対する個人の計画支出の. 増大となり︑この事は︑θ各個人がより多くの支出をすることになるが故に︑目物価は貨幣量の初めの増加と正比例 して騰貴することをいうのである︒. 貨幣量の増加から物価騰貴に至るこの三段階は︑経済に対する貨幣数量の変化︑または物価への影響に関する動態. 分析には欠くことができたい︒パティンキンによれぱ︑この第二撰階は大部分の新古奥派の学考によって省略されて. いるが︑比較静学的構造の理論には必要である︒新古典派の学者は︑財と貨幣の両市場を関連ずけようと思いなが. ら︑結局貨幣市場にのみ注意を払い第二段階を等閑視したのである︒またブィクセルを除いて︑均衡的絶対価格水準 の安定性を決定する諸要因を分析した者もいたかった︒. パティンキンは︑数学模型の中で︑実質残高効果を充分用いることにより︑貨幣と財市場を結びつげ︑新古典派を. 到. 再述したが︑ボークは貨幣理論と価格理論の関係を明確にするために︑このパティγキン理論を次のように整理して い旬︒. はじめにヒヅクスの均衡分析にならって︑徴視模型から説明する︒H︑完全競争を前提に︑⇔︑時間を等問隔. ︵81け一二一−早−⁝︶に分げ︑目︑各期首に︑初期の基本財産︵財ならびに貨幣︶を所有する個人の間に取引が行. 110.

(11) 111. われ︑⑲︑各個人は次期に最適の貨幣残高を持って入りたいという唯一の慾望を持つことが仮定さ︒れている︒この徴. 視模型においての従属変数は︑個人の財の超過需要であり︑この需要は︑諸価格︑趣味︑財貨の初期の基本財産︑な. らびにこの基本財産を最適にしようという慾望の函数である︒また貨幣需要は︑貨幣の収支の同時性の欠除と︑債務. 不履行の可能性︑すなわち︑取引および予備的動機によっておこり︑投機的動機による需要は除外される︒いまこの. ような仮定に立つ経済にn種の財貨があり︑第n番目の財貨を貨幣とし︑n種の財貨をそれぞれ抽象的な計算単位に. ︵目−H︶個の財の貨幣価格︵O︑一〇岨一⁝⁝﹁勺︑﹁﹁︶をうる︒また︵自IH︶個の財の中か ○嵩 o盲 o冒. よって測り︑それを価格とするならばn財にn個の計算価格︵ξ夢ξ⁝−?︶があり︑貨幣をもって︵目IH︶個 の財の価格を測れぱ︑. ︑. ︑. ︑. 冒. ら任意の一財をとり︑その財の計算価格によって︵目1H︶個の相対価格︵例えば︑第一番目の財を選べぼ戸﹄ド一⁝. ⁝一−匂自﹂−︶を得る︒かくてあらゆる財貨の計算価格の変化とあらゆる財の貨幣価格の変化を考えることができるが︑ ︑ ︑. 冒. すべての財の相対価格︑またはあらゆる財貨の貨幣価格には変化がない︒個人が期首において一定量の財を持つと仮. 定すれば︑その財の超過需要は︑相対的計算価格および財貨の初期の実質価値の函数である︒. もし初期に所有していた財の実質価値を︑実質所得とし︑初期の貨幣残高の実質価値を実質残高とすれぱ︑個人の. 一財に対する超過需要は相対財の価格︑実質所得︑実質残高の函数である︒ 3︺ 財貨の超過需要函数に実質残高を導入したことは︑パティンキンの模型において一つの重要な要素である︒個人は. 適切な貨幣残高をもって次期に入りたいという慾望をもっている︒. そして一定の支払組織における一定量の貨幣が適当であるかどうかは︑その貨幣量の実質価値によって︑すなわ. ち︑各目量と︑平均物価水準によって決定されるのである︒それゆえに︑一定量の貨幣が与えられたときに︑単一財. の価格の変化は︑H︑相対価格︵代替効果︶︑⇔︑絶対価格すなわち︑実質所得︵所得効果︶と︑目︑実質残高︵実. 111.

(12) 5︺. μ. 1I2. 質残高効果︶の変化によって︑財の超過需要の変化を起す︒実質残高効果は︑ギヅフェソ財の場合を除いて︑正であ. る︒パティンキンが示したように︑この実質残高効果の存在は︑貨幣理論の必要条件であって︑この条件なしに貨幣 経済の絶対価格は非決定になるのである︒. ⑤. パティンキンは財の超過需要が︑相対価格︑実質所得および実質残高の函数であるような財の所有者は貨幣錯覚を. もたないと定義している︒もしすべての貨幣価格が変化するたらば︑実質残高効果はあるが︑所得または代替効果は. ないであろう︒しかしすべての計算価格の等比例的な変化は︑個人の財需要に影響しない︒すなわち︑初期の名目貨. 幣残高と貨幣価格の等比例的な変化に同じことが妥当する︑貨幣錯覚を持たない個人の行動︵財需要︶は︑計算価格. のみの比率︵貨幣価格︶に依存する一方︑貨幣価格の比率︵相対価格︶のみならず︑貨幣価格の絶対的水準にもまた. 依存する︒このように︑パティンキンの意味での貨幣錯覚をもたない個人の財の超過需要函数は︑初期の貨幣残高お. よびすべての財の貨幣価格の等比例的変化に関して︑弾力性が零である︒貨幣需要は︑交換が次期の初目に行われる. ときに︑個人が保有したいと欲している貨幣量と定義され︑この量はその個人の予算制限に従って決定されるから︑. 相対価格︑実質所得および実質残高が与えられるならば︑個人の貨幣に対する超過需要は︑彼の財の超過供給の貨幣. は︑貨幣価格が騰貴する程度まで上昇する︒. ての指標となる︒もし個人が超過貨幣需要をもつならば︑この超過需要の名目価値︵と財貨の超過供給の貨幣価値︶. 超過需要の貨幣価値が常に零であることは明かである︒貨幣と財とのこの関係は︑貨幣の超過需要函数の性質につい. 給の変化となる︒このように財貨の両面は常に相互に影響し︑ワルラス法則によって︑あらゆる財貨に対する個人の. すれぼ︑貨幣の超過需要の変化となり︑また︑個人が実質残古同を維持せんがために︑貨幣を需要すれば︑財の趨過供. 価値に等しい︒もし貨幣の超過需要が零ならば︑財の超過需要も零である︒しかし︑個人が財の保有量の変更を決意. 112.

(13) 113. しかし実質残高需要は一定である︒それゆえに︑財の超過需要函数に貨幣錯覚がないから︑個人の貨幣の実質残高. に対する超過需要函数に貨幣錯覚がある︒後者のように︑実質残高の超過需要は︑実質所得︑相対価格および初期の. 実質貨幣残高であり︑名目残高に対する超過需要は︑名目所得︑計算価格および初期の名目貨幣残高の函数である︒ つ 以上の諸関係を式によって表わせぼ︑次のようになる︒ 財の価格の平均 水 準 を ︑. ㌧. 曽−− 011︼峯﹄3⁝::⁝⁝:・−⁝:︵H︶. ︸. である︒敢引が行われた後の最適の財の集合を︑. 戸N・・:−らIH︶を第a番目の個人の初期の財所有量とし︑N︑閏冨を初期の名目貨幣. ︑. と定義芝この場合防服︑一一.︑一個の財の計算価格で貢営エィトで葦音の代−に土・言つ て︑相対財の価格を表わす︒ N︑ど︵印1ーポN⁝⁝一昌二. 量とすれば︑前に定義されたように︑個人の実質所得は︑. o. H 〒− ■ξ11−︼冒N︑ど・⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝:︵N︶. り. また計算単位によって測られた初期の実質残高は︑L⁝ドN︑ξ Nどによって表わせば︑個人の財の需要函数は︑. ○. Nど1INど︵3ぎ﹃﹁ドN︑ぎ︶⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝−︵ω︶. であり︑財の超過需要函数は︑. 113.

(14) 114. 勺. ぎ﹄1ーぎ−N︑ど1−ぎ︵3ぎ〜弓畠N︑包INぎ⁝⁝−⁝⁝・・⁝⁝︵ト︶. である︒この著一〒・一個の財の相対碧叱一艮青−−山・を一で表す︒則実には・個の函数 と︑防︑Pからなるn個の変数がある︒. 財の超過需要は︑相対価格︑実質所得および実質貨幣残高の函数であり︑N︑どは一定と仮定する︒②︑③または. ④式からすべての計算価格の比例的変化は︑財の需要函数に影響せずに︑またω︑㈲︑④からすべての貨幣価格と初. 期の名目貨幣残高の比例的変化も︑財の需要函数に影響を与えないことがわかる︒すなわち計算価格に貨幣価格を置. 換することによつて示される︒貨幣価格音ζと書凄異は︑. ︶. Nど11Nど︵〜\M峯らき︼冒N︑ど\︼きξN︑ぎ\︼き〜︶⁝⁝⁝:・⁝::⁝・・︵ω︶. もし防とNぎが同比率で変化するならば3aは一定である︒しかし貨幣価格だけが騰貴すれぱ実質残高効果があり︑ ︵ ︶ 個人は実質価値を回復せんがために貨幣残高を増大するゆえに︑個人の財需要は減少︵3a式の最後の項が減少︶する︒ ︵ 最適貨幣残高は︑計算価格凹︑平均価格水準︑名目所得くぎと初期の貨幣残高の函数︑すなわち︑ N夢1IN婁︵Oトヲ■印9?N︑ぎ︶・⁝⁝⁝⁝⁝⁝−⁝︵σ︶. NP冨︵ξ軍HξO;N︑ぎIN︑印昌⁝⁝⁝⁝⁝:・−⁝︵①︶. であるから︑貨幣残古同に対する超過需要は︑ 属〜1IN婁IN︑印畠. であり︑予算制限によって︑個人の初期の財貨の集合の貨幣価値は︑取引後にその価値と等しくならなげれぼならぬ から︑. 1I4.

(15) 115. 富1−. ﹄. −︺畠. ぎ;H量﹁N︑ぎu−︼胃−︵Nど−N︑邑−−・⁝⁝−−−・−−−︵べ︶ ︶ で︑あり︑⑫式 は︑. ︑㌃ふド咋亨ヅ咋一ぎ−・;ダ︑てξ一一・−−−−−・・−・−§. ︶ ④式および3a式のように︑貨幣価格と初期の貨幣残高の等比例的変化は︑⑧式の大括弧の中の項に影響しないが︑ ︵ P\冒︵1ーさ︶には影響する︒このように貨幣の超過需要は︑価格と貨幣残高の変化と同程度に変化する︒貨幣価格 9︺ だげの騰貴は︑㈲式の財需要函数Nど︵ ︶の下落となり︑ 防伽を考慮すれぼ︑貨幣の超過需要の比例以上の増加. となる︒このようにして実質残高に対する超過需要は増加する︒計算価格によって測られた実質残高に対する超遇需. o. Φ ・−−−−・−−−−一㊤一. 要函数は︑ o畠×凹畠であり︑⑧式から次式を得る︒. −咋︑亨ヅ十□﹈. ﹈十N︑寧曽−・⁝⁝⁝⁝−・・⁝一昌一. この式はまた相対価格︑ 実質所得および初期の実質貨幣残高の函数である︒⑧式を用いて︑ 名目貨幣残高需要. ぎ←︑−咋□. を導びくことができる︒貨幣価格と初期の残高の等比例的な騰貴は︑名目残高需要を増加せしめるが︑貨幣価格だけ. 騰貴すれぽ︑⑩式の右辺の第一項は︑㈲式の右辺の騰貴と同程度に騰貴する︒このようにして⑩式の夢昌は㈲式の. ×與篶と同程度に騰貴する︒×夢 N3−N︑ξであるから︑N︑ξが一定であれば︑s昌は×ぎよりも増加の割合が. 115.

(16) 116. 少い︒⑨式から実質貨幣残高需要. τξ←︑一一十ヰ︑ξ−−−−−−−・・−一一︑一. にたる︒貨幣価格の等比例的な騰貴は︑右辺の第一項を増加せしめ︑第二項を減少させる︒実質残高が下級財でない. と仮定すれば︑諸価格の騰貴は︑財需要の貨幣価値以上に︑初期の残高の実質価値の低落とたり︑価格の下落は︑実. 質残高以上に財需要を増加せしめる︒⑪式の第二項はそれゆえに︑第一項の増加以上に減少し︑墾言すれぱ実質残高 需要は減少するの で あ る ︒. 以上述べたm人からなる個人の超過需要函数を︑経済全体として総計することによって︑財貨に対する市場の超過. 需要を得ることができる︒しかしながら︑総計を行う時に︑次の二点に注意せねばならぬ︒. H 分配効果によって︑実質総所得︑初期の総貨幣残高等の諸変数は︑個人の限界支出性向に可成りの差があるか. 個人の超過需要量の間題から︑完全競争の下におげる市場均衡価格が問題となり︑したがって︑従属変数は諸. ら︑個人の超過需要函数のように扱えない︒. ⇔. 価格であり︑独立変数は︑初期の基本財産︑市場構造︑趣味と効用極大を欲する個人の欲望である︒. もし単一財の超過需要が零であれば︑その財市場に均衡が存在する︒これはすべての財貨に妥当し︑したがつて全. 体としての市場にあてはまる︒各市場均衡に対して︑零超過需要を生ずる均衡価格の特殊構成が相応する︒この構成. の性質は︑財貨の初期の基本財産の量と構成に依存し︑後考が変化すれぼ︑均衡価格も変化する︒倒人の予算制限に. よって示されるこの関係によって︑経済の超過貨幣需要は︑財の超過供給の総価値一﹂等しいということができる︒す なわち後考が零たらば︑貨幣の超過需要も零である︒. 116.

(17) 117. ⑪ ⑫ これがワルラス法則であるが︑この法則は恒等式としてあつかわれる︒カッセルの方程式体系のように︑個人の総. 支出が前もって一定とされれぱ︑財の販売から得られた貨幣が︑再び消費考によって使用されたいということである. から︑垣等式ではないが︑貨幣市場と財市場の連鎖は絶ち切られてしまう︒したがって︑この二分法を逸れるために. は︑再びワルラスに帰って︑同次方程式を解かなげればならぬ︒この方程式の解︵価格の均衡値の達成︶は︑いわゆ. る模索の理論によって得られる︒もし平均価格水準が均衡していて︑相対価格が均衡してなげれぽ︑この経済におい. て非常に高い個人の価格を下落させ︑非常に低い個人の価格を騰貴させる︵代替効果︶︒逆に相対価椿が均衡してい. て︑平均価格水準があまりに低けれぼ︑貨幣市場の実質残高効果が財需要の増加を生ぜしめ︑したがって︑価格水準. を騰貴させる︒したがって︑市場均衡は︑財と貨幣の初期の基本財産の函数である︒もし初期の貨幣保有量が同時に. 増加すれば︑増加以前の均衡価格はもはや市場均衡を保証せず相対価格と実質所得は不変であるが︑実質貨幣残高は. ︑. ︑. ︑. ︑. ︑. ︑. 以前より高くなるであろう︒実質残高効果は︑相対価格︑実質所得と実質残高を不変のままにして︑平均価格水準が. ⑬ パティンキンの行っているように. 貨幣量増加分だげ以前の均衡水準を騰貴させるまで価格水準を上昇させるのである︒もし分配効果を考えなけれぱ︑ 市場の財ならびに貨幣の超過需要函数は次式になる︒. o. 〆1IN一︵3くご−FN︑彗︶︵一n−し一−⁝ら−一︶⁝⁝⁝⁝⁝−・⁝−︵宣︶. ㌣州︑十□︑︑﹁︑麦ヂ十︑三−−−−−⁝・−−−−−−−・一︒︒巴. ここまでの模型では︑伺人はただ一期将来の消費計画を行うと仮定してきたが︑ 数期間にわたる将来の消費計画模型をつくることができる︒. 117.

(18) ・⁝−一昌︶を第t期におげる︵a番. 工I3. すなわち︑H︑静態的な価格期待の下に︑⇔︑財の基本財産が将来において現在と異ると期待され︑目︑個人は現. 在受取った実質所得全体を今期消費せず︑㈲︑将来の経済期間全体にわたってその所得を平均化︑すなわち再分配す. ると仮定する︒したがってもし所得が増大すれば︑初めの数期にわたって︑実質所得以上に消費するかも知れぬ︒財. を退蔵することができないと仮定すれぱ︑この所得の再分配は︑貨幣の退蔵か賃券の売却によってのみ影響される︒. もL︐H︑すべての債券が価格︵貨幣単位︶︑保有期間︵一期︶︑危険の欠除に関して同一であって︑θ︑財のように. 取引日にのみ取引され︑目︑債券価格が将来にわたって一定であると仮定すれぱ︑廣券は︑継続期間全体にわたっ. て︑個人消費を再分配する手段として導入される︒債券を加えることは︑H︑ある期の債券所有者債権者が︑満期債. ㈲ それゆえに︑第t期の個人のk番財の超過需要函数は︑. ×曽幕HN饅葦IN︑ど詩⁝−:⁝⁝⁝・⁝・⁝:︵富︶. の初目に計算された全期間にわたるある特定期のk番財の総超遇需要は︑. 目の個人の︶k番目の財の基本財産とし︑爵暮を︑第t期のその個人のk番財の需要を表わすものとする︒第一期. 画するもとする︒また︑N︑陣姜︵↓1−ガ −⁝く一汀^戸N一−・−ら1ど触1ーガ. いま目lH番目の財貨を資券とし︑目INの財貨を財とし︑n番目を貨幣とし︑個人が丁期庁﹂わたる財消費を計. 初期の債券と貨幣保有高の実質価値の函数である︒. とになる︒賃権者の決意は︑蒔問︑予想所得の実質的価値および利子率に依存する︒貯蓄を利子率と正の相関をもっ ω と仮定すれぼ︑個人のある蒔点の財の超過需要は︑相対価格︑利子率︵r︶︑現在と将来における実質所得︑および. 保有量または実質所得を減少させるから︑個々の超過需要方程式のみならず︑財貨の超過需要函数に影響を与えるこ. 券からの収益を再投資するか︑財の購入に当てるか︑θ︑置務者が︑満期の元金ならびに利子を支払うために︑貨幣. 118.

(19) 119. H ○. kξ11§暮︵ぎ■く與官ε−N︑印曽ーご. ⑤ Φ. 一 N︑印冒︶−N︑ぎ⁝⁝⁝⁝⁝・:⁝⁝︵畠︶ り. 第t期の初目に︑個人はN︑印;⊥の満期債券を所有し︑その期にS;⊥を需要するが︑これは定義によって︑. 次期の初目に︑N︑εき富⊥の満期債券となる︒第t期の初目の初期賃券保有量は零であるから︑ある特定期における. 爵︸〒−⁝:・⁝−・⁝⁝⁝⁝・・︵崖︶. 個人の債券に対する趨過需要は︑その個人の債券需要︵正または負︶に等しい︒ ×ぎ〒一. 個人は第t期の初目に︑その期の末目におげる債券の割引価値を支出せんと計画する︒もし債券価格が一貨幣単位 ﹈.. S;−一である︒t期におげる実質廣券保有量に対する需. に等しく︑割引率がrであれぱ︑第t期の初日に H+﹃ S;←を支出し︑その期の末目に爵;−一を受けとる︒ かくて︑計画された債券保有量の実質価値は o畠.︑ o︵H+﹃︶. 要と超遇需要は︑相対価格︑利子率︑初期の債券および貨幣保有量︑と現在および予想実質所得の函数であると見敬 されるoすなわち︑. o. o. −!勺ぽ■ぎ畠11ぎヱ︵ぎ■旨§﹂ド塞二HN車︶⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝・・︵H蜆︶ o︵H+﹃︶. ある特定期の貨幣超過需要は︑財の総超過供給と初期の債券保有量の名目価値の合計から︑現在の債券保有量の割. 引価値を差引いたものに等しいから︑第t期の実質貨幣残高に対する超過需要函数は︑次のようになる︒. ぎ−−棚岨十一貫一−︑︑一千一︑ぎ一一−一︑‡一︑一−三一一一−−・−−・−−−−−一︑︑一. ⑱︑⑮︑⑯式はそれぞれ︑財︑債券︑貨幣の超遇需要方程式である︒価格の騰貴は︑債券保有量が正であれぼ︑債. 工19.

(20) 120. 券需要を減少せしめる︒すなわち︑価格の騰貴が︑債権者の債券購入の意欲を阻外し︑資務者の資券供給︵貨幣需. 要︶を増加させるからである︒実物領域はそれゆえに︑債務者に有利な財価格の騰貴によって影響される︒価格の騰. 貴は負債の実質的な負担を軽減し︑財貨需要を増加せしめる︒この現象は実質残高効果がない場合にも発生するが︑ ⑰ その理由はパティンキンのいう実質負債効果が存在するからである︒もし価格と初期貨幣保有量の変化が︑初期債券. 保有量に等比例的な変化をもたらせぱ︑この効果は存在しない︒それゆえに貨幣錯覚の定義を債券を含めて拡張すれ. ぱ次のようになる︒﹁個人は︑もし︑相対価格︑利子率︑実質所得︑初期の債券と貨幣保有量の実質価値が変化しな ⑱ い限り︑財︑実質債券と実質貨幣保有量の需要を変化させなげれぱ︑貨幣錯覚をもたない︒﹂. 利子率を一定にして︑初期債券保有量が諸価格と貨幣残吉同の変化と同じ割合で変化すれば超遇需要函数には何の変. 化もないであろう︒すなわち実質負貸効果が存在しない︒しかし個人は将来の実質購買力を維持しようとして︑諸価. 格と同程度に名目債券保有量を変化させる︒同じことが需要された名目貨幣量についてもいえる︒. 閉鎖体系では︑実際の貸券保有量は︑ある特定期において正負担殺されるから︑ ⁝ 8. ︼Nぎ;■一1−o⁝⁝⁝−⁝−:・:⁝−⁝⁝⁝⁝・::⁝︵ミ︶. ︶ヰO⁝−・⁝−⁝:・−⁝⁝⁝⁝⁝−・:︵−OO︶. であるが︑特定期の初日の計画債券保有量は︑実際の保有量と異なり等しくない︒ 曽−. 畠. ︼夢三二︵. 分配効果を考慮しなげれば︑第㌔期におげる個人の貨幣の超過需要は︑その個人の︵第㌔期に得た︶初期債券保有. 量と財の超過供給〆どの和から︑その期に需要された債券の割引価値を引いたものであるから︑. I20.

(21) 121. −−. 自−. ×ぎHN︑ぎ−−十×貸IN顯害−−:⁝:⁝::・・⁝⁝⁝:⁝︵岩︶. 宮一. 市場の貨幣超過需要は︑ 一;. 目. 目. 冨. ︼×印富11M一N︑︸茗−−十M一×ど1︼N頸富1−・:・:::::・︵No︶ 畠. であって︑⑰式により︑ 肉冨11〆IN〜■二⁝⁝⁝⁝:・⁝⁝:⁝・⁝⁝:・−⁝⁝︵8︶. H. b. H. を得る︒したがって財︑実質債券︑貨幣保有量それぞれの超過需要函数は次の三式である︒ b. ×幕■息暮︵3■1N︑亨ごiN︑§︶1N︑ミ⁝⁝⁝⁝⁝・::⁝⁝⁝⁝⁝・・:⁝⁝⁝・:⁝⁝・・︵昌顯︶. o. ﹄唱.rN一二工11ぎ畠←︵︶⁝⁝⁝⁝⁝−⁝・⁝⁝⁝−・⁝⁝⁝⁝−−⁝⁝・⁝・−−⁝⁝−−⁝︵NHげ︶. +︑i−㌢﹇一婁一一−・︑千禿⁝一一十一︑十言三一一・・⁝−−・−⁝一︑︑・. H H N︑畠︐ごーNゴ︶IN 11o︵〆Hガ ⁝⁝LlN︶:・⁝・⁝⁝⁝⁝::・:・︵N旨︶ 勺 り. ︶ 独式によって各期の超遇需要方程式を表わせぱ︑次の四式を得る︒ ︵ 享︵3■. 奪⊥︵ ︶1−o⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・−⁝⁝−:⁝::・⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝:・⁝・:︵曽σ︶. 材十一ミ一−︑︑一一十三一−︒−−−−−−−・−−−−−−−・−−−一︑︑・一. 1■. 12.

(22) 122. ︼ξ宴IOHO⁝⁝⁝−⁝・⁝⁝⁝・⁝・⁝⁝⁝⁝⁝・⁝:⁝・⁝⁝−:・:⁝⁝⁝−⁝︵N墨︶. ]22. 曽−胆. 数が次式にたるからである︒. H. 専︑一︵司岨︑︑一︐罰..§︑冒1︑﹁刊.§︑冒︶IN︑一︑◎︑︑︑︵Nω︶. H. 者の貸券需要が債務者の債券需要の増加以上に減少する結果変化する︒しかしたがら︑個人の初期の貨幣残古同と債券 ︶ 保有量が二倍になれば︑市場均衡は二倍の価格水準および一定利子率において成立する︒すなわち︑需要函数泌の変 ︵. すれぱ︑相対価格の新たな均衡値は︑以前の二倍とはならずまた︑利子率も一定ではない︒すなわち利子率は︑債権. 在しなげれば︑価格の騰貴によってこれらの相互作用はない︒この仮定は非現実であり︑分配効果は中立的でたいと. るが︑債権者の実質負債効果が廣務老の実質負債効果を相殺するということを仮定すれば︑すなわち︑分配効果が存. 水準において均衡が成立したが︑債券の入った模型では︑lrN一曽■一項以外の需要函数の変数は変らない︒価格の騰 勺 貴が債権者の廣券購入を控えさせ︑賛務者の債券需要を増加させるということは︑実質負債効果が存在するからであ. 貸券の入らない模型では︑すべての価格および初期貨幣量が二倍になれぱ︑模索遇程によって︑二倍になった価格. ら︑実際にはn個の猿立方程式があり︑またウエイトWが既知数であるゆえ︑もし︵目IH︶個の貨幣価格叫を知っ ︶ ていれば㎜式を求めることができるから︑この体系には︵目IH︶個の未知数眺とrと︑︵旨IH︶個が独立であるよ ︵ うなn個の方程式がある︒すなわちワルラス法則が妥当する︒. ㎜式は第︵目IH︶番目の財貨︵債券︶の価格を除いたω式と同じであって平均価格水準を意味する︒それゆえに ︵ ここには︵目1−︶個の方程式にn個の変数映とPとrがあるが︑貨幣の方程式は財と債券方程式から導かれるか. )卍.

(23) 123. かくて︑財︑賃券︑貨幣に対する超過需要は変化しない︒ 彗o勺ユ89zo冬■o﹃ぎ−89op㊤甲竃・. 現金残高型の数量説には︑ワルラス︑マーシャル︑グィクセルが入り︑敢引残高型の数量説には昌ユーコム︑フイヅシャア. 註ω U.勺牡ぎ−ユ昌一竃o昌き−葦睾霧. が入る︒ ﹈U. −.団o亭〜o句.9ゴoo1N甲亀・. ②. 所得に関して劣箏な財は実質残高に関しても劣箏である︒. ∪1勺顯巨冒巨POO.9け−一〇P8lS・. 婁3p昌. ③. ④ ⑤ 亭己 や曽1. この定義には債券が入ってい底いが︑実質負債効果を加えた定義は五六頁に与えられる︒. ︶内はN〜の内容を液す⑧式の諾変数である︒. 螂目邑. 巨 −≦印一チo昌顯巨o巴 向oo目o昌ざ蜆印目庄向oo目o昌9ユoノ. 特定財を分母とする相対価格と一般物価水準を分母とする相対価格の間の説明をバテイソキンは欠いている︒ただ﹁便宜. −σ己.−>0bm自創−昌帽Oサ印O↓o﹃■.OO.N0o⑩iNΦ㊤・. ⑥童ξ暑・轟も ト. ⑧. ω. ︵. 上﹂一般物傾永準をとるとLている︒前掲書︑二八九頁参照︒ ⑨. 肉oω冨訂昌o目け. 扇に続く諾項である︒ −閏奏一>. Oユ饒qω昌︑ωけ目2⑦ω. ﹈内は⑧式右辺の ω與︸.ω. ﹇ Ol−閨目胴9. ⑩ ⑪. ○雪o団困9H㊤ト心1. ⑫ 〇一〇国窃oポ↓す①oHくo︷ωo9巴向oo冒o冒き旨国目ω一ω一F︸国﹃﹃oPO=凹O冨﹃−く・. ⑬ 戸勺牡ぎ−︷山pop98oチ一H<1. 灼は︵昌lN︶個の相対価格を表わし︑■顯§は現在を含む将来のV期間の各期における︵目lN︶個の財によって表わされ. ⑭ 利子率は一種の相対価格である︒ ⑮. ︐1−. 23.

(24) 一. 富−岨. −. 富−咀. た予想実質所得1︼寒N︑ぎき⁝:・一−︼雪N︑団婁である︒ 句 帝 o 討 ⑯ 厳密にいえぱ市場敢引が行われる寸前までに︑と解釈した方がよいと思われる︒ ω一 Ul︸凹工目ζPOや9ゴ七.蜆①一 ⑱ 肇けo.. 五 示す︒. 斤勺弓︵H+員︶−﹈≦︵H+員︶. 化が︑名目残高の超過需要の変化より少いという︵前節⑩式の︶結論に対応する︒また価格の騰貴は︑計画購入量丁. であって︑②式と異なり︑貨幣の超過供給は価格の変化と同比率に変化せず︑パティンキン模型の名目残高需要の変. 斥巾弓︵H+員︶1峯11*昌十ミ斤︸↓・⁝⁝・⁝・⁝:⁝::⁝⁝:・::⁝::⁝・⁝︵ω︶. この式は賃券を含まないパティγキン模型の結果に等しい︒もし︑諸価格だげが同一比率αの割合で騰貴すれぱ︑. ×⁝︵H+員︶・⁝⁝⁝⁝⁝⁝・・⁝・⁝⁝:⁝⁝︵N︶. 貨幣価格および貨幣供給が同一比率αで変化すれぱ︑ω式は︑貨幣の超過需要が同程度迄変化せねぱならぬことを. ×彗1−吋﹃弓−巨・⁝:・⁝⁝:⁝・・:⁝⁝⁝・⁝⁝:・⁝:⁝⁝⁝⁝⁝・:⁝・⁝⁝・︵H︶. kを人々が実質残高の形で所有しようと欲する実質計画取引量丁の比率とすれぱ︑実質残高に対する総需要は斥↓ 到 ︵ であり︑Pを取引価格水準とすれば︑名目残高は庁勺弓である︒Mを総貨幣供給とすれぱ︑名目残高の超過需要×姜は. 前節に要約したパティキン理論には︑現金残高説ならびに取引数量説が除かれているが︑パティキン理論の結果に 1︺ 照してこの二つの数量論をボータは次のように整理している︒. ㎜. 124.

(25) 125. を変化させるから︑需要貨幣量斤巾↓は価格の変化と同比率で変化しない︒. 斤勺︵H+員︶・↓︵H+h︶1一≦11×彗十〆〜↓︵良十b+ミb︶⁝⁝⁝⁝⁝:・︵ト︶. この場合負Voならばb︿o︒これは実質残高効果である︒すなわち︑価格の騰貴は実質残高を減価し︑個人をし. て財・用役の購入を制限せしめるからである︒同様の事が貨幣供給の変化︑すたわち比率γの上昇を仮定すれぱ妥当 する︒. −︷勺弓−一≦︵H+﹃︶⁝〆§−﹃竃⁝・・⁝:⁝⁝:・⁝⁝⁝:⁝:⁝⁝⁝−⁝;⁝≡︵蜆︶. ここにも実質残高効果が存在する︒すなわち︑個人は支出増加を計画し︑したがって︑②式が妥当する限り︑貨幣 量と同比率で価格水準は上昇する︒. ω式に示されたように︑価格の騰貴は同比率の貨幣需要量の増加にならたいから︑新古典派の単一弾力性の仮定. は︑ケムブリッジ方程式では証明されたい︒すなわち︑実質残高効果とは︑貨幣需要曲線が︑単一弾力性を有しない 割 ということである︒パティンキンが述べているように︑実質残高効果を認めている新古典派理論の誤りは︑Tが一定. であって︑PとTを無関係とする仮定にあった︒またヴィクセル以外の新古典派の学者は︑初期貨幣残高の増加は︑. Uこ.︸o亭p名.o戸〇七.忘ム9ネU.冒け巨︷弐一8.睾.一く昌.. 物価騰貴をもたらすであろうということ以外に初期貨幣残高の変化による諸効果を分析しなかったのである︒ 註ω. U.勺呉ぎζξOPqゴOlH冒.. ② p声丙o悪﹃房昌一雪昌ξ一岩亀一〇.−ooo参照︒. ③. 125.

(26) 126. 2. ︶ 3. うに認識し把握するかという経済学方法論の間題から脱落して︑均衡分析の一要具の概念として全く変質してしまっ. 開するボータによって二分法の間題が﹁効果の二分法の問題﹂に帰著すると結論されるとき︑二分法は経済をどのよ. ︺. れないケインズの示したような二分法の根本問題の思想を期待することはできない︒パティンキン理論を機械的に展. 一般均衡理論の中にこの二分法間題を限定し極めて明解にこの間題を処理しているが︑非常に視野の狭い仮説模型に ガ ︵ この間題が封じ込められた憾がある︒パティンキンを忠実に踏襲するボータの所説から︑一般均衡理論にのみ限定さ. 二分法間題とは︑経済の実物的な領域と貨幣的な領域の統一的把握に端を発しているのであるが︑パティンキンは. ⊥ 、. たといって遇言ではないだろう︒かかる意味でパティンキンの定義した三種の二分法をボータに従って整理してみよ う勾. 価格は非決定であり︑市場の影響を受けずして︑任意に計算価格の均衡水準は決定してしまう︒これを第一の二分法. 格および初期の資産価値︵貨幣残高︶が同比率で変化するから︑財の売買にいかなる影響も与えない︒すなわち計算. ができる﹂という︒もし貨幣価格の代りに︑すべての貨幣の計算価格をとれば︑計算価格の変化は︑すべての財の価. 6︵ ︶. ボータは﹁二分法間題は︑経済の実物的側面に対する︑諸価格によって表わされた貨幣効果に関連するということ. 準の二組の変数である︒. 旬. 変数は︑実物変数︑すなわち︑相対価格︑総実質貨幣残高および利子率と︑貨幣変数︑すなわち︑絶対的均街価格水. の函数である︒貨幣的構造は︑個人の初期名目貨幣残高によって決定される︒それゆえに︑経済の均衡点を決定する. 経済の実物的構造は︑H︑初期財貨保有量と︑θ︑個人の財ならびに実質貨幣残高に対する選好からなる独立変数. 以. 126.

(27) 127. という︒この二分法はヴィクセル︑フィヅシャア︑カヅセル等によって述べられたが︑とりわけカヅセルは﹁杜会経. 済の理論﹂の中で︑貨幣を計算の尺度と見たし︑交換手段の機能を過少評価し︑貨幣理論と価格理論を個別に敢扱う べきだという信念を持つにいたった︒. 貨幣価格をこの体系に入れると︑市場の影響があり︑貨幣価格の変化は︑実物領域に対して中立的な効果をもって. いない︒絶対貨幣価格水準は︑実質残高効果によって決定され︑相対価格は代替効果によって決定される︒貨幣量の. 変化が均衡貨幣価格に等比例的変化を与えるというのは︑新古興派の前提であって︑実物領域は影響がない︒均衡点. において︑名目貨幣量は不適当であるから︑概念的に︑実物と貨幣の二面の価格決定過程を考えてみよう︒実物的構. 造が︑財の初期保有量と︑貨ならびに実質残高に対する選好によってきまるならば︑実物変数の均衡値は︑相対価. 格︑利子率︑実質貨幣量によって決まる︒また貨幣構造が︑初期の名目残高によって決まれば︑貨幣変数たる価格水. 準は︑名目残高と均衡実質残高の比率であるから決定される︒均衡実質残高は︑実物構造内で決定されるから価格水. 準は︑初期名目残高の大きさに従って変化する︒経済過程をこのように概念的に二つに区分することは︑貨幣理論を. 含んでいない︒それゆえに︑この二分法は不正確ではないが経済的意味をもたない︒. 第三の二分法は︑貨幣を実物領域の関係をのべる現代的な理論に関してである︒チ﹂れは債券のない経済模型につい. て考えられる︒すなわちこの場合︑実物面は財の超過需要函数によって表わされ︑相対価格のみに依存するが︑貨幣. 面は貨幣の超過需要函数によって表わされ︑相対価格と絶対価格水準に依存する︒. したがって︑絶対価格は︑財の超過需要に影響しない︒これは四節ω式の超過需要函数と対立するものであり︑新. 古典派の同次性の公準に一致している︒すたわち︑唯一の独立変数である相対価格は︑絶対価格の変化に感応的であ. って︑絶対価格の零次の同次函数である︒このようにして︑実質領域の方程式は相対価格の均衡値を決定し︑絶対価. 工27.

(28) 123. つ. 格の均衡水準は︑現金残高または交換方程式によって貨幣領域で決定される︒このようにして価値理論と貨幣理論と は明確に分離してしまうのである︒. この問題は︑貨幣をべールに過ぎないと解する古典派の大前提に基く分析ばかりでなく現代の理論家によっても採. 用されている︒またこの分析は価格の騰貴が五節③式のように財の需要函数を変えないという貨幣数量説の妥当性に. とって必要であると思われたが︑パティンキンが示したように︑これは基本的な内部矛盾を意味しているのである︒. すなわち︑財の需要が価格変化に影響されなげれぱ︑貨幣量の増加をインフレーシヨンの衝激の説明に使っている貨. 幣数量説と相矛盾する︒墾言すれぼ︑貨幣量増大による実質残高効果からインフレーションを説明することは同次性. の公準に反する︒そこで同次性の公準は実質残高効果によって置き換えられ︑パティンキンのいう意味での貨幣錯覚. の欠除を仮定しなげればならぬ︒実質残高効果は貨幣量の増大が︑実物領域を変化させることを意味するからであ. る︒もし均衡が︑貨幣量の増大によって援乱さ・れるならぱ︑財の超過需要が存在し︑したがって︑模索遇程を通し. て︑価格水準は上昇するだろう︒貨幣量の増大した割合だげすべての実質残高が増加すれぱ︑そこには模索過程が存. 在しないから︑実物領域には影響がない︒したがって︑貨幣の中立性という新古典派の理論は妥当するのである︒こ. のように考えれば︑価格形成過程を実物と貨幣の両領域に二分することはできない︒すなわち︑相対価格と絶対価格. および利子率の均衡値は︑経済のすべての市場によって同時に決定されるからである︒相対価格が一方で︑絶対的価. 格が他方で決定されるということは正しくたく︑この同時一般均衡過程における唯一の二分法は︑それゆえに諸効果. の二分法︑すなわち︑実物領域においては所得効果と代替効果が作用し︑貨幣領域においては実質残高効果が作用す. るという二分法であって︑貨幣理論と価値理論はすべての市場を同時に考えなけれぼならない︒. 以上がボータの結論であるが︑この諾効果についての二分法の結論は︑パティンキンによって与えられたものであ. 128.

(29) 129. り︑ボータは一般均衡分析からイン7レーシヨン過程を説明するためにパティンキン理論を土台にしているに過ぎな. い︒したがって︑貨幣理論︑とりわげ新古典派の貨幣埋論に対する一般均衡分析からの反省に対する貢献はパティン キンにあるといえるのである︒. ボiタはこのパティンキン理論を貨幣的均衡理論の軸として︑貨幣理論に実質残高効果を認め︑均衡の安定性を理. 解し︑正しく貨幣需要曲線と市場均衡を区別し︑誤った二分法を行わなかったのは︑新古典派の中でブィクセル唯一. 人であると考え︑ヴィクセルを中心に︑スエーデン学派の貨幣理論をさらに展開している︒今間題を経済の実物と貨. 幣の両領域の統合に関する問題−二分法問題に隈るとき︑全面的にパティンキン理論を採用しているボータの鐘述. はパティンキンのこの間題に対する貢献を強調する以外の何ものでもないoまたややもすれぼ︑貨幣の作用を等閑視. するきらいのある所得分析に一種の反省を与えるものとしてパティンキン理論の重要性を強調しているとも解される. のであるが︑パティンキン理論が何等の疑間なしにボータのように全面的に受入れられるとは限らない︒. すなわち︑既にのべたように厳密に定義された請概念︑また設定された諸前提および仮定が限定された模型に妥当 割 するとしてもしぱしば﹁分配効果がなげれば﹂というように推論上に重要な仮定を設げて︑限定された模型をさらに. 限定し︑この例でいえぱ分配効果のある場合が必ずしも明確ではなく一般均衡論に忠実になるための議論に終るおそ れがないといえない︒. 二分法間題は︑げだし︑ケインズが正しい二分法として提出せざるを得なかった間題意識に立ちかえって再吟味さ るべきではなかろうか︒. 註ω U・勺印巨目彗ξε・睾・・−冨参照︒パティソキソはここで﹁われわれの交換経済の均衡点の性質を決定する与件を二つの範. 濤に分げよう﹂といって︑経済の実質的構造と貨幣的構造に定義を与えている︒. ■二. 29.

(30) 130. (8〕(7)(6)(5)(4〕(3)(2). U一勺津ぎξpoo.9ゴ〇一HHo−. −︸o亭〜〇七.o声−〇七一トベー蜆杜.. U.−一︸9すPOPOざ﹄O.蜆H. H︶. もし分配効果を考慮しなげれぽ総債券保有量は零であるから債券をここではのそいている︒ U.−.︸o;poや9け二b.杜oo−. パティソキンは︑冒まω亘竃o隻包︷彗ポ︸一多睾一〇麸窒一雪〇一轟ωo︐篶巨o♪ω9峯o−ω彗等を興げている︒前掲書一〇八頁︒ U1勺印巨目ξpoo−9ゴo〇一蜆o〇一旨σIs①一−ωド8o﹄81. 130.

(31)

参照

関連したドキュメント

本文に記された一切の事例、手引き、もしくは一般 的価 値、および/または本製品の用途に関する一切

「文字詞」の定義というわけにはゆかないとこ ろがあるわけである。いま,仮りに上記の如く

の資料には、「分割払の約定がある主債務について期限の利益を喪失させる

この小論の目的は,戦間期イギリスにおける経済政策形成に及ぼしたケイ

目的 今日,青年期における疲労の訴えが問題視されている。特に慢性疲労は,慢性疲労症候群

今回の SSLRT において、1 日目の授業を受けた受講者が日常生活でゲートキーパーの役割を実

◆第2計画期間末までにグリーンエネルギー証書等 ※1 として発行 ※2

司法書士による債務整理の支援について説明が なされ、本人も妻も支援を受けることを了承したた め、地元の司法書士へ紹介された