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1. FFT スペクトル解析によるパワーの値が表すものに
ついて
手の把握反射などの原始反射や自動歩行は脊髄に反射中枢を持つといわれ,新生児 期は明瞭に観察することができるが,2ヵ月頃には消失する13).モロー反射やギャラ
ン反射などの原始反射は脊髄から脳幹(橋など)に反射中枢を持つといわれ,新生児 期から見られるが,2 ヵ月頃から明瞭に観察することができ,4~6ヵ月頃には消失 する13).種々の立ち直り反応や保護伸展反応は中脳に反射中枢を持つといわれ,6ヵ 月頃から明瞭に観察することができ,8 ヵ月以降になると大脳皮質・基底核・小脳な
どが,総合的に関与する平衡反応がみられるようになる13).
このように,下位レベルに中枢を持つ反射・反応はより上位レベルに中枢を持つ反 射・反応が出現すると統合され見えなくなりながら,乳児の運動発達は進んでゆくと 考えられている13).
一方で,中枢神経系の関与が症状の寛解増悪に影響する疾患にパーキンソン病があ る.パーキンソン病は中脳の黒質の病変のため大脳基底核の線条体のドパミンが不足 して起こることが知られている.ヒトの成人の研究例になるが,大江33)はパーキンソ ン病患者の後根を切除し感覚の入力を遮断しても振戦が消失しないことから,パーキ ンソン病患者の振戦の症状は中枢神経系によるものとしている.石田14)はパーキンソ
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ン病の症状が寛解すると振戦の FFT スペクトルの周波数のピークが変化しパワーの
値が減少すると述べ,FFTスペクトル解析で中枢神経系の作用の変化を表すことがで
きることを示している.
しかし,先行研究では成人を対象に FFT スペクトル解析を用いた研究は多数ある
が,乳児の自発運動についてFFTスペクトル解析での比較を行ったものはなく,どの
ような変化を示すのか明らかになっていない.
そこで,本研究では乳児期初期の自発運動における肘の屈曲伸展の運動の角加速度 に FFT スペクトル解析を行いパワー値と正規化した%パワー値を求め,その変化が
どのように現われるのか,また FFT スペクトル解析が乳児の発達を表すパラメータ
になり得るかを検討した.
2. 解析方法
2.1.FFT スペクトル解析によるパワーの算出について
本研究では,I 章で求めた解析用角加速度変位量時系列データに対し,数値解析ソ
フトMATLAB®を用いてFFTスペクトル解析を行った.
𝜔𝜔𝑝𝑝 =2𝜋𝜋𝑝𝑝𝑇𝑇 �𝑝𝑝= 0, 1, 2,・・・, 2𝑁𝑁 −1�として,角周波数ωを導入し,時間間隔(0,𝑇𝑇)
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に対して,離散的な時間値𝑡𝑡𝑘𝑘で測定される時間の関数𝑓𝑓(𝑡𝑡𝑘𝑘)を考えたとき,
𝐹𝐹�𝜔𝜔𝑝𝑝�= 1
2𝑁𝑁 � 𝑓𝑓(𝑡𝑡𝑘𝑘)
2𝑁𝑁−1 𝑘𝑘=1
𝑒𝑒𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖𝑝𝑝𝑘𝑘
�𝑘𝑘 = 0, 1, 2,・・・, 2𝑁𝑁 −1�
を構成できる34).
ここで直行関係を適応し,振幅𝑓𝑓(𝑡𝑡𝑘𝑘)を求めると,
𝑓𝑓(𝑡𝑡𝑘𝑘) = � 𝐹𝐹�𝜔𝜔𝑝𝑝�𝑒𝑒−𝑖𝑖𝑖𝑖𝑝𝑝𝑖𝑖𝑘𝑘
2𝑁𝑁−1
𝑝𝑝=0
となり,時間の関数から周波数の関数を得ることができる34).
ヒトの成人を対象とした研究になるが,坂本らは0- 8 Hzの帯域は上肢の質量や長
さの機械的条件に依存し35, 36),8- 13 Hzの帯域は上位中枢レベルの活動に関係し35, 37),
それ以上の帯域は脊髄での反射性の働きを示している35, 37)と述べていることから,0- 20 Hzの帯域と,0- 8 Hz,8- 13 Hz,13- 20 Hzの帯域とに分け,各帯域のFFTスペ
クトルのパワーの総和の値と,0- 20 Hzの帯域のパワーの総和で各帯域のパワーの総 和を除して正規化した%パワーの値を求め,それぞれ比較検討した.元データのサン プリングレートが40 Hzであるため,ナイキスト周波数の関係から0- 20 Hzの帯域
を解析対象としている.このようにして求めた FFT スペクトル解析の結果の一例を
図11に表す.
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図11.角加速度変位量時系列データに対するFFTスペクトル解析の結果の一例
図6.で算出した角加速度変位量時系列データにFFTスペクトル解析を行った結果である.
縦軸が時系列データの持つpower (deg/s2・s),横軸が周波数帯域(Hz)を表している.
2.2.欠損値の補定と群分け
除外データ規定に基づき欠損値データとなった箇所は,R言語の環境下でMICEを
用いて多重連鎖代入法により補定した.FFTスペクトルのパワー値を求めるMICEの
設定は,各帯域ともseed=23,109を適用し, 繰り返し回数m は,0- 8 Hzの帯域では
70,8- 13 Hzの帯域では310,13- 20 Hz帯域では10,0- 20 Hz帯域では170を適用
した.FFTスペクトルの%パワー値を求めるMICEの設定は,各帯域ともseed=23,109
を適用し, 繰り返し回数m は0- 8 Hzの帯域では370,8- 13 Hzの帯域では330,13-
20 Hz帯域では130を適用した.
0.0E+00 2.0E+06 4.0E+06 6.0E+06 8.0E+06 1.0E+07
0 5 10 15 20
(Hz)
(deg/s2・s)
power
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補定データは,term I,term II,term IIIの3群に分けて,各群のデータの平均をそ
の群の代表値として群間比較を行なった.
2.3.統計解析
統計解析は R 言語を用いて holm の分散分析の検定を行った.有意水準は危険率
5 %とした.
3. FFT スペクトル解析を用いたパワーの値の解析結果
13- 20 Hzの帯域において,term I に比べterm IIIの群の値は有意に小さくなるこ
とがわかった(p < 0.01)(図12).
0- 8 Hzの帯域においては,term I に比べterm IIは小さな値を示しterm IIIでは大
きな値を示すU字型の変化を示したが有意差は保留された(図13).
8- 13 Hzの帯域においもU字型の変化を示したが有意差は保留された(図14).
0- 20 Hzの全帯域においてもU字型の変化を示したが有意差は保留された(図15).
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図12. 13- 20 Hz帯域のFFTスペクトルのパワーを各群間で比較した結果
縦軸はFFTスペクトルのパワー(deg/s2・s)の総和,横軸は各群をあらわす.各群の値と標準誤差 は,term I 2.44E+08 ± 9.40E+06,term II 2.15E+08 ± 9.34E+05,term III 1.93E+08 ± 1.26E+07で,term I に比べterm IIIは有意に小さな値を示した.また,term I とterm II,term
II とterm III間の有意差は保留されたが,値は月齢を経る毎に小さくなっていった.なお,検出
力は0.91であった.
図13. 0- 8Hz帯域のFFTスペクトルのパワーを各群間で比較した結果
縦軸はFFTスペクトルのパワー(deg/s2・s)の総和,横軸は各群をあらわす.各群の値と標準誤差 は,term I 6.86E+08 ± 9.62E+07,term II 5.01E+08 ± 4.14E+07,term III 5.42E+08 ±
5.84E+07で,有意差は保留されたが,term IIはterm Iや term IIIより小さな値を示した.term I とterm II間のp値は0.2,term IIとterm III間のp値は0.68,term Iとterm III間のp値は0.3 であった.なお,効果量は0.31で検出力は0.41であった.
1.0E+08 1.5E+08 2.0E+08 2.5E+08 3.0E+08
term I term II term III
power (13-20 Hz )
0 (deg/s2・s)
2.0E+08 3.0E+08 4.0E+08 5.0E+08 6.0E+08 7.0E+08 8.0E+08 9.0E+08
term I term II term III
power (0-8 Hz)
0
p < 0.01
(deg/s2・s)
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図14. 8- 13 Hz帯域のFFTスペクトルのパワーを各群間で比較した結果
縦軸はFFTスペクトルのパワー(deg/s2・s)の総和,横軸は各群をあらわす.各群の値と標準誤差 は,term I 1.48E+08 ± 1.27E+07,term II 1.22E+08 ± 6.44E+06,term III 1.56E+08 ±
1.34E+07で,有意差は保留されたが,term IIはterm Iや term IIIより小さな値を示した.term I とterm II間のp値は0.17,term IIとterm III間のp値は0.08,term Iとterm III間のp値は 0.59であった.なお,効果量は0.37で,検出力は0.57であった.
図15. 0- 20 Hz帯域のFFTスペクトルのパワーを各群間で比較した結果
縦軸はFFTスペクトルのパワー(deg/s2・s)の総和,横軸は各群をあらわす.各群の値と標準誤差は,
term I 1.63E+04 ± 1.20E+08,term II 8.01E+08 ± 3.87E+07,term III 8.66E+08 ± 6.97E+07で,
有意差は保留されたが,term IIはterm Iや term IIIより小さな値を示した.term I とterm II間の p値は0.15,term IIとterm III間のp値は0.57,term Iとterm III間のp値は0.31であった.な お,効果量は0.32で,検出力は0.45であった.
5.0E+07 1.0E+08 1.5E+08
term I term II term III
0
power (8- 13 Hz)
4.0E+08 5.0E+08 6.0E+08 7.0E+08 8.0E+08 9.0E+08 1.0E+09 1.1E+09 1.2E+09
term I term II term III
0
power (0- 20 Hz)
(deg/s2・s)
(deg/s2・s)
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4. FFT スペクトル解析を用いた%パワーの値の解析結果
13- 20 Hzの帯域においてterm I に比べterm IIIの群の値は有意に小さくなること
がわかった(p < 0.01)(図16).
0- 8 Hzの帯域においてはterm I に比べterm IIIの群の値は大きな値をとったが,
有意差は保留された(図17).
8- 13 Hzの帯域においはほぼ同じ値を示し,有意差は保留された(図18).
図16. 13- 20 Hz帯域のFFTスペクトルの%パワーを各群間で比較した結果
縦軸はFFTスペクトルの%パワー,横軸は各群をあらわす.各群の値と標準誤差は,term I 31.9±2.28,term II 29.46±1.56,term III 23.43±1.82で,term I に比べterm IIIは有意に小さな 値を示した.term I ・term II,term II ・term III間の有意差は保留されたが,値は月齢を経る毎 に小さくなっていった.なお,検出力は0.83であった.
10 15 20 25 30 35 40
term I term II term III
% power (13- 20 Hz)
( % )
p < 0.01
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図17. 0- 8 Hz帯域のFFTスペクトルの%パワーを各群間で比較した結果
縦軸はFFTスペクトルのパワー,横軸は各群をあらわす.各群の値と標準誤差は,term I 52.3±2.99,term II 55.74±1.56,term III 59.9±2.29で,有意差は保留されたが,term I から term IIIにかけて値は増加した.term I とterm II間のp値は0.44,term II とterm III間のp値 は0.43,term I とterm III間のp値は0.09であった.なお,効果量は0.35,検出力は0.52であ った.
図18. 8- 13 Hz帯域のFFTスペクトルのパワーを各群間で比較した結果
縦軸はFFTスペクトルのパワー,横軸は各群をあらわす.各群の値と標準誤差は,term I 16.9±0.46,term II 16.35±0.68,term III 15.34±0.85で,term I ・term II・term IIIの値はほぼ 同じ値であった.term I とterm II間のp値は0.56,term II・term III間のp値は0.56,term Iと term III間のp値は0.27であった. なお,効果量は0.27,検出力は0.33であった.
45 50 55 60 65
term I term II term III
(%)
0
% power (0- 8 Hz)
5 10 15 20
term I term II term III
% power (8-13 Hz)
(%)
0
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5. III 章の考察
今回,中枢神経系の変化を表すことができるとされる FFT スペクトル解析を用い
て,乳児期初期のGMs中の肘の屈曲伸展運動の角加速度変位量時系列データの解析
を行い,その変化がどのように現われるのか,またFFTスペクトル解析が乳児の発達
を表すパラメータになり得るかを検討した.
13- 20 Hz 帯域のパワーは脊髄レベルの働きを表しているとされるが35, 37),13- 20
Hz 帯域のパワーは月齢を経る毎に減少していった.この変化は何らかの上位中枢の
関与により脊髄レベルの働きが修飾され,反射的な運動がコントロールされてゆく変 化を捉えたものと考えられた.
また,%パワーにおいても13- 20 Hzの帯域のパワーは月齢を経る毎に減少してい
った.これは全体のパワーに占める脊髄レベルの働きの減少を示しており,これも何 らかの上位中枢の関与により脊髄レベルの働きが修飾され,反射的な運動がコントロ ールされてゆく割合を量的に表しているものと考えられた.
0- 8 Hzと8- 13 Hzと0- 20 Hzの帯域のパワーは,有意差は保留されたがU字型
の変化を示した.
0- 8 Hz帯域のパワーのp値はterm Iとterm II間では0.2,term II とterm III間で は0.68,term Iとterm III間では0.3で,効果量は0.31,検出力は0.41であり,効果