早稲田大学大学院 先進理工学研究科
博 士 論 文 概 要
論 文 題 目
試験管内薬物代謝試験の適合を目指した新規キメ ラタンパク質の発現と検証
Expression and evaluation of new chimera protein for drug metabolic assay
申 請 者
西田 有紀 Yuuki NISHIDA
ナノ理工学専攻 ナノバイオ材料研究
2015 年 12 月
肝細胞は糖、脂質、薬物やアルコールのなどの多くの物質の代謝機能を持つ細胞である。医薬品の多 くは肝細胞にて代謝され、その代謝産物が様々な副作用を引き起こすことが知られている。このため 医薬品開発には代謝産物の毒作用や副作用の予測は必要不可欠であり、そのため創薬分野での薬物代 謝試験は非常に重要である。体内に取り込まれた薬物や毒物は、薬物代謝酵素が触媒として関わり酸 化、還元、加水分解、抱合と経て体外に排出する。主な薬物代謝酵素はシトクローム P450(CYP)が、占 めており、酸化、還元反応に寄与することが多い。薬物代謝試験には、In vivo と In vitro があり、
In vivo では、とりこまれた薬物の代謝の全体像を把握できる利点があるが、CYP などの代謝反応がヒ トと異なる実験動物を用いるため、In vitro においてヒト由来試料を用いて試験することが必要であ る。薬物代謝試験では、ヒト肝臓から単離されたヒト肝細胞を用いることが望ましい。しかし、ヒト 肝細胞は採取や培養が困難であるなど問題点が多い。がん細胞から樹立されたヒト肝細胞株は無限増 殖能をもち、培養が容易であることから肝細胞の研究に良く用いられる。しかし、肝細胞株は本来の 機能が欠失、減衰しているため、薬物試験に用いるためには機能向上させるための培養手法が必須で ある。そこで、様々な手法を用いて肝細胞株の機能を高める試みがなされている。しかし、そのほと んどは薬物代謝試験に用いるには機能が不十分である。そこで、本研究で以下の新しい戦略で肝細胞 株を機能化するナノ培養システムの開発を試みた。
生体組織は、細胞外環境(ECM)と細胞の双方向のシグナル伝達によって維持されている。その主体 は細胞外のファイブロネクチンと細胞のインテグリンの結合によるシグナル伝達であることが知られ ている。そこで、申請者はこの結合を強固なものにすれば、肝細胞の機能を向上させることができる と考えた。そこで本研究では、フィブロネクチンのインテグリン結合部位(CAS)とコラーゲン結合部位 (CBD)を融合した CBD-CAS キメラタンパク質を作成した。この新規キメラタンパク質はコラーゲンの足 場材料に結合して細胞のインテグリンを介して結合を強固にして、そのシグナル伝達を促進すると考 えられる。コラーゲン分子は長さ 300 nm、幅 1.5 nm 繊維状で平行の束状に配列する。CBD-CAS はタン
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パク分子量から換算すると約 16 nm でありコラーゲン分子に高密度に結合することができる。そこで、
本研究では CBD-CAS をナノレベルで高密度に配列させたコラーゲン足場材料を用いて肝細胞株 HepG2 の機能化を試みた。
本論文は五章から構成されている。第一章では序論と仮説について述べる。肝細胞を用いた薬物代 謝試験や肝細胞の機能化を目指した新規培養方法に関してレビューし、インテグリンをナノクラスタ ー化してからのシグナル伝達を強化すれば肝細胞の機能が向上するという仮説に関して述べる。
第二章では、キメラタンパク質の作成について述べる。ヒト胎生肺繊維芽細胞のtotalRNAから、
RT-PCR法により、ヒトファイブロネクチンcDNAを合成した。ヒトファイブロネクチンcDNAからCBDとCAS のcDNA断片を抽出し、pGEX6P-1ベクターに挿入し、pCBD-CAS キメラタンパク質発現ベクターを構築し た。このベクターをBL21大腸菌株にて目的のタンパク質を発現させ、アフィニティーカラム精製法に よりCBD-CASキメラタンパク質を作製した。SDS-PAGE電気泳動法とウエスタンブロットにより目的のタ ンパク質が確認された。CBD-CASのCBD部分のコラーゲン結合能を調べるために、コラーゲン結合アッ セイをおこなった。CBD-CAS にコラーゲン結合能が確認された。
第三章は、CBD-CASを固定化したコラーゲン2次元培養におけるCBD-CASの肝細胞機能に与える影響 を検討について述べる。まず、肝特異的機能マーカーであるアルブミンを測定した。その結果、CBD-CAS を固定化したコラーゲン2次元培養はアルブミンの発現を上昇させることが明らかになった。したが って、CBD-CASを固定化したコラーゲン上での肝細胞機能が上昇したと考えられる。さらにこの機能上 昇の原因を明らかにする目的で、インテグリンの細胞内局在を検討した。CBD-CASを固定化したコラー ゲン上では接着斑が高密度に局在し、足場材料と細胞のインテグリンとの相互作用が亢進したと考え られる。CBD-CASによるインテグリンを介した細胞内シグナル伝達が促進したことは、Focal adhesion kinase(FAK)の上昇からも明らかになった。FAKは、細胞機能、細胞遊走や成長因子シグナリング、セ ルサイクルの促進や生存などを含む様々な細胞内のプロセスに関わることが知られている。以上のこ とから、高密度に配置されたCBD-CASは、肝細胞株HepG2の細胞表面のインテグリンを介したシグナル 伝達を亢進し肝細胞機能を上昇させたと考えられた。
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第四章では、CBD-CAS 3次元培養におけるHepG2細胞への効果について述べる。肝細胞特異的機能マー カーであるアルブミンは2次元培養に比べこの3次元培養でさらに上昇した。第二章で作成したキメ ラタンパク質CBD-CASを3次元足場構造体であるハニカムコラーゲンスポンジに固定化させた
CBD-CASハニカムコラーゲンスポンジを作成した。CBD-CASハニカムコラーゲンスポンジ培養では、
HepG2細胞の肝特異的マーカーであるアルブミン遺伝子発現を上昇させた。肝特異的転写因子である HNF4αおよびc/EBPαは、アルブミン遺伝子上流に位置し、アルブミンを正の方向に制御することが
知られている。HepG2細胞の肝機能肝特異的転写因子HNF4α、c/EBPα遺伝子発現は上昇した。肝 特異的転写因子であるHNF4αおよびc/EBPαは、グルコース代謝、脂質代謝、コレステロール代謝な ど肝特異的機能の制御に関わる。c/EBPは、CYP遺伝子、解毒、肝再生、分化などにも多岐に肝細胞 機能関わる転写因子である。また薬物代謝試験に重要な薬物代謝遺伝子であるCYP遺伝子群の発現を 検討したところ、CBD-CASハニカムコラーゲンスポンジは肝細胞株においてこれらの遺伝子の発現を 上昇させることができた。CBD-CASハニカムコラーゲンスポンジは、In Vitroにおいて肝細胞株のイ ンテグリンを介したシグナル伝達を活性化することにより機能を高めることができ、薬物代謝試験に も応用できる可能性が見いだされた。
第五章では結果の考察と今後の展開について述べる。肝細胞株は潜在的に高い機能を持っているが、
その機能は著しく低下している。本論文では、新規キメラタンパク質を用いて肝細胞のインテグリン を介したシグナル伝達を活性化することにより肝細胞の機能を上昇させる事に成功した。さらに、3 次元足場材料を用いることにより、薬物代謝に関わる遺伝子の発現を高めることができたことから、
この新規培養システムを薬物代謝試験に応用できる可能性が示された。生体に近い肝細胞機能を得る ためにはさらに条件の検討を行う必要がある。肝組織は、肝小葉という六角柱のユニットの集合体で ある。肝小葉の中は、静脈を中心に放射状に肝細胞が秩序的に配列している。もし、このような構造 のコラーゲン足場材料とCBD-CASを用いればさらにより機能の高い培養システムの構築が可能にな ると考えられた。
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1早稲田大学 博士(理学) 学位申請 研究業績書
氏 名 西田 有紀 印
(2015 年 11月 現在)
種 類 別 題名、 発表・発行掲載誌名、 発表・発行年月、 連名者(申請者含む)
学術論文
1) ○Induction of albumin expression in HepG2 cells using immobilized aimplified recombinant fibronectin protein
In Vitro Cellular & Developmental Biology – Animal 49, 400-407,2013 Y. Nishida, A. Taniguchi
2) ○ A three-dimensional collagen-sponge-based culture system coated with simplified recombinant fibronectin improves the function of a hepatocyte cell line
In Vitro Cellular & Developmental Biology – Animal in press.
Y. Nishida, A. Taniguchi
3) Nuclease-resistant immunostimulatory phosphodiester CpG oligodeoxynucleotides as human Toll-like receptor 9 agonists
BMC Biotechnology. 11,88-96, 2011
W. Meng, T. Yamazaki, Y. Nishida, N. Hanagata
4) Preparation and biological evaluation of hydroxyapatite-coated nickel-free high-nitrogen stainless steel
Science and Technology of Advanced Materials (STAM) 13, 64213-64221, 2013 M. Sasaki, M. Inoue, Y. Katada, Y. Nishida, A. Taniguchi, S. Hiromoto, T. Taguchi
No.
2早稲田大学 博士(理学) 学位申請 研究業績書
種 類 別 題名、 発表・発行掲載誌名、 発表・発行年月、 連名者(申請者含む)
学会発表
1) キメラタンパク質を用いた細胞固定化基質での肝細胞の機能化 日本バイオマテリアル学会大会シンポジウム2012
2012年11月26,27日 仙台 西田有紀、谷口彰良
2) Activation of Hepatocyte function using immobilized simplified recombinant fibronectin protein
The 4th Asian Biomaterials Congress 29-29 June 2013 Hong Kong
Y. Nishida, A. Taniguchi
3) Activation of Hepatocyte function using immobilized simplified recombinant fibronectin protein
NANOMED 2014
Febrary 2014 London UK Y. Nishida, A. Taniguchi
No.
3早稲田大学 博士(理学) 学位申請 研究業績書
種 類 別 題名、 発表・発行掲載誌名、 発表・発行年月、 連名者(申請者含む)
4) ハイドロキシアパタイト結合ペプチドの検索 つくば医工連携フォーラム 2012
2012 年 1 月 18 日 つくば
山崎智彦, 張慧杰, 西田有紀, 生駒俊之, 花方信孝