博 士 ( 医 学 ) 吉 田 秀 昭
学 位 論 文 題 名
ラット骨髄単球性自血病細胞c‑WRT‑7 由来の分化株と アポトーシス株の樹立と性状の違いについて
学位論文内容の要旨
背景および目的
急性 前 骨髄 性 自血病 細胞はATRAに よって終 末分化する ことが知 られてい るが、同 一の 薬剤 により直 接アポトー シスに陥 ることも 知られている。また自血病細胞の分化とアポト ーシ スは別の 薬剤によっ ても同時 にまたは 連続的に誘導される。しかし、分化とアポトー シス は独立に 制御されて いると考 えられて おり、同じ薬剤がいかにして分化とアポ卜ーシ スを 誘導して いるのかは 不明であ る。ラッ ト骨髄単 球性自血 病c‑WRT‑7細胞から樹立した 培養細胞株parent2(P2)は、面ぬ′〇、面vitroともにLPSやその活性成分であるLipidAにより 分 化 する 。 この 分化 誘導作用 はCa依存性 であること は明らか にされて いるが、 その詳細 な機構はほとんど明らかにされていない。
本研 究では、P2細胞は由vitroでlipidA処理により大部分が分化する一方で、極く少数の 細 胞 は分 化 せず 、直 接アポト ーシスに 陥ることを 見い出し 、P2細胞か らLipidA刺激に 対 して 分化する 株とアポ卜 ーシスに 陥る株を それぞれ樹立した。これら細胞株を利用して、
分化 もしくは アポトーシ スに陥る 機構を細 胞分化とアポトーシスに関与することが知られ て い る p53、 bcl― 2、 p38MAPKな ど の 発 現 に つ い て 比 較 検 討 し 解 析 し た 。
材料および方法
1.細胞:Rauscher自血病ウィルス誘導ラット骨髄単球性自血病細胞c‑WRT‑7の培養株であ るP2細胞を用いた。
2,分化株およびアポ卜ーシス株の樹立:限界希釈によりP2細胞からsingle cell cloneを得た。
P2細胞を96穴プ レー卜に1穴当たり1個以下と なるようにまき、培養開始から2週間後、増 殖した細胞 を24穴プレー卜に移した後、さらに25 cmzフラスコに移し、維持した。分化株 とアポトーシス株の選別は各cloneをLipidAの誘導体であるON0‑4007(以下LipidA)刺激に 対する反応により行った。
3. MTT assayによる細胞増殖の解析:96穴平底ミク口プレー卜中で各細胞をLipidAで処理 し、72時間培養した。Mrr`試薬とともにさらに6時間培養した後、lVfIP‑100 micro‑plate readerを 用 い て 、 生 細 胞 に よ り 還 元 さ れ た ホ ル マ ザ ン 濃 度 を 比 色 定 量 し た 。 4. latex beads貪食能を指標とした細胞分化の解析:24穴プレー卜に培養した各細胞をLipid Aで処理し、48時間培養した後、latex beadsを0.25%(v/v)になるように添加し、さらに4時 間培養した。200個以上の細胞を顕微鏡下で観察し、5個以上のlatex beadsを取り込んだ細 胞を貪食能陽性とした。
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5. DNAladderおよびフ口ーサイトヌ卜リーにおけるsub‑Gl分画を指標としたアポトーシス の解 析:a. DNAladder形成によるアポトーシス;LipidA処理後の各細胞DNAを1鰯アガ口 ースゲルで電気泳動した後、ethidium bromideによりDNAを染色し、ladder形成の有無を検 討した。b. cell cycle;各細胞をLipidAで2‑24時間刺激した後、PI染色し、FACS Caliburを用 い て 、 ヒ ス ト グ ラ ム中のsub‑Gl分 画に 存在 する 細胞 をア ポ卜 ーシ ス陽 性細 胞とし た。
6.Western blot:cell lysateをSDS ‑PAGEにて泳動分離後、蛋白を二卜□セル□ース膜に転写 し 、 抗CD14、 抗bclー2、 抗p21、 抗p38MAPKおよ びり ン酸 化p38MAPK、抗JN K/SAPKおよ びりン酸化JNK/SAPKの各抗体と反応させ、被検蛋自を検出した。
7, yeast functional assayによるp53蛋白の機能異常の検討:酵母にRT‑PCR法で増幅した被検 p53cDNAを導入 し恒 常的 に発 現さ せた 。機 能的 に異常がある変異型p53が導入された酵母 で は 、p53が 酵 母 染 色体 上のRGC配 列に 結合 でき ない ため 下流 のADE2遺 伝子 が転写 され ず、 酵母 自身 には アデ ニン の中 間代 謝産物 が蓄 積しコ口ニーが赤くなる。この原理に基 づき 、酵 母コ □ニ ーを 形成 後1プ レー トに っき200個以上のコ□ニーを観察した。赤コ□
ニーが10%以上みられた場合にp53に機能的変異があると判定した。また野生型p53の機能 におよぽす変異型p53の影響を検討するためtransdominance testを行った。すなわち上記の assay系 に 野 性 型p53を 発 現 す る べ ク タ ー と 変 異 型p53を 発現 する べク ター とをdouble trans fectし、野性型p53の白コ口二ー形成におよぼす影響により、変異型p53のドミナンシ ー を 判 定 し た 。 な お 変 異p53の 塩 基 配 列 はABI373A sequencerに て 決 定 し た 。
結果および考察
本研究 では 、LipidAで処 理す るこ とに よル マク □フ ァージ様に終末分化するラット骨 髄単球性自血病細胞から、Lipid」へ処理で分化する35株と直接アポトーシスに陥る3株を分 離 した。 実験 には 代表 的2株1D6と381を選 択し 用い た。 これら2株がLipidA処理によって それぞれ分化およびアポトーシスに陥ることを細胞学的および生化学的に確認した。そこ でこれら2株がLipid」処理により異なった反応を示す機序の解明を試み、次の結果を得た。
1)LipidAに 対 す る レ セ プ タ ーで あ るCD14の 発 現 量 は 両 細 胞 株 で 差 が な か っ た 。2) p38MAPKにつ いて は、 分化 株lD16では りン 酸化p38MAPKがLipidA処理後一過性に増加し、
ア ポ 卜 ー シ ス 株381で はLipidA未 処理状 態で もり ン酸 化p38MAPKが強 く発 現し てお り、
LipidA処 理後 に脱 リン 酸化 され るこ とが 認め られ た。 このように両細胞株ではp38眦廿K の 動 態 が 異 な っ て い た こ とか らLipidA刺激 後p38MAPKが活 性化 され るこ とに より1D6細 胞 で は 分 化 が 誘 導 さ れ 、 逆に381細胞で は既 にり ン酸 化さ れて いるp38MAPKがLipidA刺 激 後に脱 リン 酸化 され るこ とによルアポトーシスが誘導される可能性が考えられた。3) 分化株1D6はLipidA刺激前後でアポト‐シス抑制夕ンパクであるbcl‐2の発現量に全く差が、
みられなかったが、アポトーシス株381ではLipidA刺激後bcl‐2の発現量が著明に減少した。
bcl―2の上流にありその発現を調節しているp53は、両細胞株とも対立アリルの一方のみが 変異を起こしていた。しかしロansdominance髄tの結果から、分化株1D6では変異型p53によ り 野性型p53の機 能が 抑制 されるが、アポトーシス株381では野性型p53の機能が保持され ていることが示唆された。このことから1D6株ではp53を介したbcl_2の発現の調節はみら れないが、381株ではLipidA処理後p53の発現増強を介してbcl‐2の発現が減弱し、アポ卜 ーシスに陥りやすくなっている可能性が推定された。
以上の よう に、LipidA刺 激後 の分 化や アポ 卜ー シス の誘導にはp53とp38MAPKが関与す る こ と が 推 定 さ れ る が 、 そ の 詳 細 に つ い て は 今 後 さ ら な る 検 討 が 必 要 で あ る 。
結語
ラッ ト骨 髄単球 性自 血病細胞P2から分離されたアポ卜ーシス亜株では、分化株では欠 失しているp53の機能が保持されており、それを介してLipid A処理によりbcl‑2発現が低下 することが示唆された。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
ラット骨髄単球性自血病細胞 c‑WRT‑7 由来の分化株と アポトーシス株の樹立と性状の違いについて
細 胞 は 外 か ら の 刺 激 に 反 応 し て 分 化 す る 一 方 ア ポ ト ー シ ス に 陥 り 死 滅 す る 。 し か し 、 同 一 刺 激 に 対 し て 分 化 し た り 、 ア ポ ト ー シ ス に 陥 っ た り す る 細 胞 内 機 構 は ほ と ん ど 明 ら か に な っ て い な い 。 そ こ で 、 申 請 者 は 、 同 一 細 胞 由 来 の 分 化 す る 細 胞 ( 分 化 株 ) と 直 接 ア ポ ト ー シ ス 陥 る 細 胞 ( ア ポ ト ー シ ス 株 ) の 樹 立 を 試 み 、lipop olys accharide (LPS)刺 激 後 の 細 胞 内 の 分 化 あ る い は ア ポ ト ー シ ス 関 連 蛋 白 分 子 の 変 動 の 違 い を 検 討 し た 。 実 験 に は ラ ッ 卜 骨 髄 単 球 性 自 血 病c−WRT←7細 胞 か ら 樹 立 し た 培 養 細 胞 株parent2(P2)を 用 い た 。 こ の 細 胞 の 大 部 分 は 、 血 叨vo、 加 叨 打 〇 と も にLPSや そ の 活 性 成 分 で あ るLipid Aに よ り 分 化 す る が 、 極 く 少 数 の 細 胞 は 分 化 せ ず 、 直 接 ア ポ ト ー シ ス に 陥 る こ と が 明 ら か に な っ て い る 。 ま た 、 こ の 分 化 誘 導 作 用 はCa依 存 性 で あ る こ と は 明 ら か に さ れ て い る が 、 そ の 詳 細 な 機 構 は ほ と ん ど 明 ら か に さ れ て い な い 。 ま ず 、 限 界 希 釈 法 に よ り 、 P2細 胞 か らsingle cell clonesを 得 た 。 実 際 に はP2細 胞 を96穴 プ レ ー ト に1穴 当 た り1個 以 下 と な る よ う に ま き 、 培 養 開 始 か ら2週 間 後 、 増 殖 し た 細 胞 を24穴 ブ レ ー ト に 移 し た 後 、 さ ら に25 cm゜ フ ラ ス コ に 移 し 、 維 持 し た 。 分 化 株 と ア ポ ト ー シ ス 株 の 選 別 は 各 cloneをLipidAの 誘 導 体 で あ る ○N〇 ー4007( 以 下Lipid A)刺 激 に 対 す る 反 応 に よ り 行 っ た 。 そ の 結 果 、 樹 立 さ れ た38ク 口 ー ン の う ち35ク 口 ー ン が 分 化 株 、3ク 口 ー ン が ア ポ ト ー シ ス 株 で あ っ た 。 そ れ ぞ れ の 代 表 株 と し て 、1D6( 分 化 株 ) と381( ア ポ ト ー シ ス 株 ) を 用 い 、 次 の 検 討 を 行 っ た 。MTT as sayに よ る 細 胞 増 殖 の 解 析 で は 、P2、1D6お よ び 381の3株 と も 同 様 な 増 殖 態 度 を 示 し 、LipidAを 添 加 に よ る 増 殖 抑 制 も 同 程 度 で あ り 、 濃 度 依 存 的 で あ っ た 。May―Giemsa染 色 に よ る 細 胞 形 態 は 両 者 と もP2細 胞 同 様 に 骨 髄 芽 球 様 で あ っ た が 、LipidA刺 激48時 間 後 に は1D6は 多 様 な く び れ を を 持 っ た 核 と 大 き な 胞 体 の マ ク 口 フ ァ ー ジ 様 に な り 、381は 核 が 分 断 さ れ 、LipidA刺 激 に 対 す る 形 態 変 化 は 明 ら か な 違 い が 観 察 さ れ た 。 さ ら に 、P2細 胞 の 分 化 の 指 標 で あ るplastにbe ads の 細 胞 内 取 り 込 み ( 貪 食 能 ) を 示 す 細 胞 が 無 刺 激 状 態 で は1D6と381そ れ ぞ れ4.8% お よ び3.O% 以 下 で あ っ た が 、LipidA刺 激48時 間 後 はP2お よ び1D6で は90% 以 上 で あ っ た
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副
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の に対し 、381 で はやはり3 %以下であった。一方、 DNA ladder 形成とFACS による細 胞 周期解 析で のsubGl とを指標としたホトーシスは、 LipidA 刺激24 時間以内で、1D6 では全く認められなかったが、381 では顕著であった。これら分化株とアポトーシス株 でのLipidA 受容体と考えられるCD14 蛋白量をWe ste rn ljlotting で検討したが差はな かった。細胞の分化またはアポ卜ーシスに関与する蛋白の検索では、p38MAPK につい て は、分 化株 1D6 では りン 酸化 p38MAPK が LipidA 処 理後 一過 性に増 加し 、ア ポトー シ ス株381 ではLipidA 未処 理状 態でも りン 酸化 p38MAPK が強く発現しており、Lipid A 処理 後に 脱リン 酸化 され るこ とが認 めら れた 。しかし、 JNK/SAPK についてはこの ような違いは認められなった。このように両細胞株ではp38MAPK の動態が異なってい た ことか らLipidA 刺激 後p38MAPK が活 性化 され るこ とによ り 1D6 細 胞で は分 化が誘 導 され、 逆に 381 細胞 では 既に りン酸 化さ れて いる p38MAPK がLipidA 刺 激後 に脱ル ン酸化されることによルアポトーシスが誘導される可能性が考えられた。次に、分化株 1D6 はLipidA 刺激前後でアポトーシス抑制夕ンバクであるbcl 一 2 の発現量に全く変化が みられなかったが、アポトーシス株381 では LipidA 刺激後bc ト 2 の発現量が著明に減少 した。そこでbcl 一 2 の上流にありその発現を調節しているp53 の機能的変異をye ast fu nctional as say で検討した。両細胞株ともp53 の対立アリルの一方のみが変異を起こ していたが、trans dominan ce te st の結果から、分化株1D6 の変異型 p53 はdommant negative で 野 性 型p53 の 機 能 を 抑 制 す る の に 対し 、 ア ポ ト ー シス 株381 の それ は recessive で野性型p53 の機能が保持されていることが示唆された。このことから1D6 株ではp53 を介したbC1 一2 の発現の調節はみられないが、381 株ではLipidA 処理後p53 の発現増強を介してbc ト 2 の発現が減弱し、アポトーシスに陥りやすくなっている可能 性 が示唆 され た。 以上 より、 LipidA 刺 激後の 分化やアポトーシスの誘導にはp53 と p38MAPK が関与することを推定した。
公開発表にあたって、副査上出利光教授より、それぞれのク口ーンの性格の安定性、
p53 変異のyeaStfunctionalaSSa .y 以外の方法による検討の有無、抗CD14 抗体のラッ ト特異性、p38MAPK リン酸化とアポトーシスについての文献的考察について、また、
副査今村雅寛教授より、分化株とアポトーシス株とでもともと分化程度に差がある可能 性 、p38MAPK 、p53 および bcl ― 2 の相互の関連などについて質問があり、申請者はそ れぞれに妥当な回答をなした。最後に、主査細川真澄男教授よりの求めに応じて、本研 究 の 今 後 の 進 め 方 に つ い て 申 請 者 の 考 え 述 べ 公 開 発 表 を 終 了 し た 。 本論文は、ラット骨髄単球性自血病細胞 P2 からLPS 刺激に異なった反応を示す分化 株とアポトーシス株を初めて分離し、それぞれの性格を明らかにしたものであり、細胞 が同一刺激に対して分化したり、直接アポトーシスの陥る機構を解析するために有用な 材料を提供した点で高く評価される。
審査員一同は、これらの研究成果ならびに大学院おける研鑚や取得単位などを併せ高 く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定し た。
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