博 士 ( 水 産 科 学 ) 山 本 幸 弘
学 位 論 文 題 名
ホ ス ホ リ パ ー ゼ を用 い た 機 能性 化 合 物 の り ン 脂 質 誘導 化 法 に 関す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
抗 酸化作用や抗癌作用詮どの機能性を有する 化合物を食品成分や化粧品素材,医薬品として用い る場 合,乳化剤等を併用することで分散性や安 定性,吸収性を高める必要がある。しかし,それに よっ て利用用途が制限されることも少なくなぃ 。そのため機能性化合物に両親媒性を付与すること が出 来れぱ幅広い利用が可能となる。この様な 機能性改善の手段のーっとして,アシル化やりン酸 化 等 の 誘 導 化 が 挙 げ ら れ , そ れ に よ っ て 分 散 性 や 吸 収 性 を 大 き く 改 善 出 来 る 。 本 研究では,優れた生体適合性と両親媒性か ら医療品や機能性食品,化粧品素材として広範に利 用さ れているりン脂質の分子構造に着目し,種 々の機能性物質をりン脂質誘導化するための新規反 応プ ロセスの開発と,得られたりン脂質誘導体 の機能性評価に関して研究を行った。その際,生体 触媒であるphosph01ip鵠eA2(PLA2)やphosphohp鵠cD¢LD)といったりン脂質関連酵素を利用し,温 和な環境で特異的な反応を簡便に進める方法 について検討した。
第1章で は, 抗癌 作用 や抗 肥満作用を有する ことから機能性脂肪酸として近年注目されている共 役リ ノー ル酸 (CLA)に 着目 し,PLA2を用 いた エス テル 化反応によるCLA含有ホスファチジルコリ ン(CLハPC)の合成を試みた(Fig.1)。特に,PLA2を用いたエステル化反応では,副反応である加水 分解 反応 を制 御す る反 応系 中の 至 適水 分量 の調 節が 非常 に難しかったため,必須水代替物として fomlalmdeを利用 したCLA‐PCの合成を試みた 。
ま ず, ブタ 膵臓 由来PLA20pPLA2)を 用い て,gりcerolを分 散媒 とし て用 いた 反応 系にてCLAと 卵 黄 由 来LPCと の エ ス テ ル 合 成 反 応 を 行 っ た。LPCllmg,CLA18mg g.1ycer01550nlg ppPLA2
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3.3xl04U,CaCl2 0.3 ymol 37℃,48hの反応条件に韜いて,酵素を活性化する目的で水50m或い はformamide 50山を添加しCLA‑PCの合成を試みたところ,水を用いた系では合成率が僅かに2 mol%であった。それに対し,formamideを用いた系では46 mol%となり,大幅に合成率が高まるこ とが明ら かとなった 。得られ たCLA‑PCの脂肪酸組成をGC分析したところ,基質として用いた CLAの約半分 の脂肪酸組成比であったことより,LPCのsn‑2位に特異的に基質CLAが導入されて いることが示された。更に,合成率に及ばすformamide添加量やglyCerol添加量,ppPI丿b添加量の 影響を検 討して,至適反応条件をLPC11mg,CLA18mg,glycer・01550皿g ppPLA23.3x104U, fo:mla1血de50山,CaC120.3岬ol,37℃,6hとした。その至適反応条件においては65m01%の合成 率を得た。しかし,上記の反応条件では反応時間6h以降では合成率の低下が見られた。その要因 として大気中から吸湿される水分や,エステル合成反応の進行により生成した水が加水分解反応を 亢進したと推察し,albu1二n血やcaselなどのタンパク質を添加することによりPLA2近傍に存在する 過剰な水分のコントロールを試みた。その結果,前述の反応系にaIbun11lnlgを添加することで,
合成率の低下を抑えることが可能となった。酵素以外のタンパク質を添加するだけで合成率を維持 できる結果は,水分の調節が困難であったPLA2を用いたエステル化反応において極めて有用な知 見である。水分活性の調整や減圧下での反応では最終的な収率を高めることは可能であるが,反応 初速度が低下する。それに対してタンパク質の添加による反応法は,簡便であるのみならずその吸 水性が反応速度に影響を及ばさない点が利点であることが示された。
一
第2章ではPLDを用いたホスファチジル基転移反応¢ig.2)による機能性アルコールのりン脂質 誘導化法について検討した。ホスファチジル基転移反応を様カな機能性化合物に応用する為には,
様々なアルコール化合物を基質として用いて反応特性を明らかにする必要がある。そのような観点
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か ら,本研 究ではこ れまで 報告例の ないテ ルペンア ルコール化合物やフェニルアルコール化合物に 着目し,それらのホスファチジル基転移反応について検討した。
PLDを 用 いたホ スファチ ジル基 転移反応 は一般 に,水と クロロ ホルムな どの有機 溶媒と の2相 系 に より行わ れるが, そのよ うな有機 溶媒の 使用は工 業的応用をはかる際,安全面で問題点となる。
そ こ で 大豆PC (SoyPC)と テルペン アルコー ルとの ホスファ チジル 基転移反 応では ,酢酸エ チルと 0.2M酢 酸緩衝液(pH 5.6)との2相系 及び,0.2M酢 酸緩衝 液(pH 5.6)に基 質を分散 きせて反応を行う 水 系にて試 みた。反 応系に 及ばすgeraniol (1)の添加 量の影響と酵素添加量の影響を検討し,合成 率 の経時的測定を行い最終的に至適反応条件を2相系;SoyPC 50 ymol 基質アルコール500 l.unol, 酢酸エチル1.6 ml,Streptomyces sp.由来PLD (ssPLD) 1.6U,0.2M酢酸緩衝液(pH 5.6) 0.8 ml,37℃,
24h,水系 ;SoyPC 50 ymol,基質 アルコー ル2000umol, ssPLDl.6U,0.2M酢酸緩衝液(pH 5.6) 0.8 ml,37℃,24hと定めた。この反応条件に船けるphosphmdyl−geraniく)1の合成率は2相系では52mol% で あったの に対し水 系では90mol%と なり, テルペン アルコ ールのり ン脂質 誘導化では水系が適し て いること が明らか とたっ た。一方 ,フェ ニルアル コール のりン脂 質誘導化 は,S0yPCを基質リン 脂 質とし酢酸エチルと0.2M酢酸緩衝液(pH5.6)との2相系によルホスファチジル基転移反応を行つ た 。1弧os01く8)の添加量の影響を検討するとともに,合成率の経時的変化を測定した結果,至適反 応 条 件 をS0yPC50叫n01,酢 酸 エ チル1.6nd,基 質アルコ ール500岬101,sSPLD1.6U,0.2M酢酸 緩衝液QH5.6)O.8耐,37℃,24hのように定め,この反応条件においてphosphぬdyl―1弘osolの合成 率は87士3.7n101%に達した。
次 いで,至 適反応 条件に茄 いて各種 基質ア ルコール を用い合成率を比較したところ,基質テルペ ―961ー
ンアルコールの鎖長が長くなる程合成率が低下すること,perillymcohol(5)や卿げten01(6冫のような 分子 内に 環状 構造 を有 する テ ルペ ンア ルコ ール もホ スフ ァチ ジル 基転 移反応の 基質になり得るこ とを 明ら かに した 。ま た, フ ェニ ルア ルコ ール のべ ンゼ ン環 から ホス フんチジ ル基に置換される
・OH基ま での 距離 が合 成率 に 大き く影 響を 与えるの に対し,p位の置換基はその 種類によらずほと んど反応に影響を及ぼさないことが明らかになった(Fig,3)。
第3章で は第2章 で合 成さ れ た各 種リ ン脂 質誘 導体 につ いて 機能 性評 価を行っ た。特にヒト癌細 胞株 を用 いた 増殖 抑制 試験 やDPPHラジ カル 捕捉 能, 酸化 安定 性を 指標 に,抗癌 作用ならぴに抗酸 化作用を評価した。
ヒト白血病細胞(HL‐60)の細胞増殖に 対するテルペンアルコール及びそのりン脂質誘導体の影響 を調べたところ,母化合物であるg讎血ol(1),p面llyldcohol(5),m舛enol(6),nerol(7)は400uM で40%程 度の 増殖 抑制 効果 であ った のに 対し ,そ のり ン脂 質 誘導 体で はl00uMで生 細胞 数 がコ ン
トロールの20ー30%まで減少し,リン脂質誘導化するこ とで抗癌作用が増強されることが示きれた。
また ,ヘ キス ト染色によルアポトー シス細胞が観察されたことから,少なくとも部分的には アポト ーシ スを 誘導 することでこれらの増 殖抑制が起こされていることが明らかとなった。一方, 高度不 飽和 脂肪 酸に 富む イク ラPCを基 質リ ン脂 質として得られたTyrosol (8)のりン脂質誘導体は ,基質 リ ン 脂 質 に は 無 いDPPHラ ジカ ル捕 捉活 性な らぴ に酸 化 安定 性を 有す る新 規リ ン脂 質で ある こと が明らかとなり,優れた供給形態であることが示された 。
以 上, 本研 究に よりPLA2及ぴPLDを 用い た機 能性 化合 物の りン 脂質 誘導 化法 を確 立 し, それ に ー962−
より得られたりン脂質誘導体の新規機能性を見出した。
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学位論文審査の要旨 主 査 教 授 宮下和 夫 副査 教授 高橋是太郎 副査 准教授 細川雅史
学 位 論 文 題 名
ホスホ1J パーゼを用いた機能性化合物の りン脂質誘導化法に関する研究
抗 酸 化 作 用 や 抗 癌 作 用 な ど の 機 能 性 を 有 す る 化 合 物 を 食 品 成 分 や 化 粧 品 素 材 、 医 薬 品 と し て 用 い る 場 合 、 乳 化 剤 等 を 併 用 す る こ と で 分 散 性 や 安 定 性 、 吸 収 性 を 高 め る 必 要 が あ る 。 し か し 、 そ れ に よ っ て 利 用 用 途 の 制 限 や 、 栄 養 機 能 性 の 低 下 と い っ た 欠 点 も 生 ず る 。 ー 方 、 機 能 性 化 合 物 に 両 親 媒 性 を 付 与 す る こ と が 出 来 れ ば 幅 広 い 利 用 が 可 能 と な る 。 こ の 様 な 機 能 性 改 善 の 手 段 の ー っ と し て 、 ア シ ル 化 や リ ン 酸 化 等 の 誘 導 化 が 挙 げ られ 、誘 導化 に より 分散 性 や 吸 収 性 を 大 き く 改 善 出 来 る 可 能 性 が あ る 。 そ こ で 、 本 研 究 で は 、 優 れ た 生 体 適 合 性 と 両 親 媒 性 か ら 医 療 品 や 機 能 性 食 品 、 化 粧 品 素 材 と し て 広 範 に 利 用 さ れ て い る り ン 脂 質 の 分 子 構 造 に 着 目 し 、 種 々 の 機 能 性 物 質 を り ン 脂 質 誘 導 化 す る た め の 新 規 反 応 プ ロ セ ス の 開 発 と 、 得 ら れ た り ン 脂 質 誘 導 体 の 機 能 性 評 価 に 関 し て 研 究 を 行 っ た 。 そ の 際 、 生 体 触 媒 で あ るphospholipase A2 (PLA2)やphospholipaseD(PLD)と い っ た り ン 脂 質 関 連 酵 素 を 利 用 し 、 温 和 な 環 境 で 特 異 的 な 反 応 を 簡 便 に 進 め る 方 法 に つ い て 検 討 し 、 以 下 の よ う な 成 果 を 得 た 。
1. 抗 癌 作 用 や 抗 肥 満 作 用 を 有 す る こ と か ら 機 能 性 脂 肪 酸 と し て 近 年 注 目 さ れ て い る 共 役 リ ノ ー ル 酸(CLA)に 着 目 し 、PLA2を 用 い た エ ス テ ル 化 反 応 に よ るCLA含 有 ホ ス フ ァ チ ジ ル コ リ ン(CLA―PC)の 合 成 を 試 み た 。 特 に ,PLA2を 用 い た エ ス テ ル 化 反 応 で は 、 副 反 応 で あ る 加 水 分 解 反 応 を 制 御 す る 反 応 系 中 の 至 適 水 分 量 の 調 節 が 非 常 に 難 し か っ た た め 、 必 須 水 代 替 物 ( ホ ル ム ア ミ ド ) を 活 用 し 、 か つ 、 食 品 タ ン パ ク 質 を 用 い て 反 応 水 を 吸 収 す る こ と に よ り 、 ホ ス ホ リ パ ー ゼA2に よ る 効 果 的 ぬ り ン 脂 質 合 成 法 を 確 立 し た 。 こ れ を 機 能 性 脂 肪 酸 の エ ス テ ル 化 反 応 に 活 用 し 、 高 い 合 成 率 を 得 る こ と に 成 功 し た 。 2. PLDを 用 い た ホ ス フ ァ チ ジ ル 基 転 移 反 応 に よ る 機 能 性 ア ル コ ー ル の り ン 脂 質 誘 導 化 法 に っ い て 検 討 し た 。 ホ ス フ ァ チ ジ ル 基 転 移 反 応 を 様 々 な 機 能 性 化 合 物 に 応 用 す る 為 に は 、 様 々 な ア ル コ ー ル 化 合 物 を 基 質 と し て 用 い て 反 応 特 性 を 明 ら か に す る 必 要 が あ る 。 そ の よ う な 観 点 か ら 、 本 研 究 で は こ れ ま で 報 告 例 の な い テ ル ペ ン ア ル コ ー ル 化 合 物 や フ ェ ニ ル ア ル コ ー ル 化 合 物 に 着 目
し、 それ らの ホスファチジル基転移反応にっいて検討した。その結果、優れ た機 能性 を有 するテルペンアルコール類とフェニルアルコール類をりン脂質 の り ン 酸基 に 結 合 さ せ る こ と に初 めて 成功 した。 また 、PLDを 用い たホ ス ファ チジ ル基 転移反 応は 一般 に、 水と クロ ロホルムなどの有機溶媒との2相 系に より 行わ れるが、そのような有機溶媒の使用は工業的応用をはかる際、
安全 面で 問題 点とな る。 そこ で本 研究 では 水系 での 合成 を試 みた 。そ の結 果 、 水 系で の 方 が2相 系 よ りも 高い 収率 を得 られ る条 件を 見出 した 。例 え ば、phosphatidyl―geraniolの合成率は2相系では52 mol%であったのに対し 水系では90 mol%となり、テルペンア・,ノレコールのりン脂質誘導化では水系が 適していることが明らかにした。
3.至 適反 応条 件に おい て各 種基 質ア ルコ ールを用い合成率を比較したとこ ろ、 基質 テル ペンア ルコ ール の鎖 長が 長く なる 程合 成率 が低 下す るこ と、
perillyl alcoholやmyrtenolのよ う極 分子 内に 環状 構造 を有 する テル ペン アル コー ルも ホスファチジル基転移反応の基質になり得ることを明らかにし た。 また 、フ ェニルアルコールのベンゼン環からホスファチジル基に置換さ れる −OH基ま での距離が合成率に大きく影響を与えるのに対し、p‑位の置換 基は その 種類 によら ずほ とん ど反 応に 影響 を及 ばさ ない こと を明 らか にし た。
4.各 種リ ン脂 質誘 導体 にっ いて 機能 性評価 を行 った 。特 にヒ ト癌 細胞 株を 用い た増 殖抑 制試 験やDPPHラジカル捕捉能、酸化安定性を指標に、抗癌作用 なら ぴに 抗酸 化作 用を評価した。ヒト白血病細胞(HLー60)の細胞増殖に対す るテ ルベ ンア ルコ ール及びそのりン脂質誘導体の影響を調べたところ,母化 合 物 がgeraniol、perillyl alcohol、myrtenol、nerolの場 合に は、 リン 脂質 誘導 化す るこ とで抗癌作用が増強されることが示された。また、ヘキス ト染 色に よル アポ トーシス細胞が観察きれたことから、少なくとも部分的に はア ポト ーシ スを 誘導することでこれらの増殖抑制が起こされていることが 明ら かと なっ た。 一方、高度不飽和脂肪酸に富むイクラPCを基質リン脂質と して 得ら れたTyrosolの りン 脂質 誘導 体は 、基 質リン脂質には無いDPPHラジ カル 捕捉 活性 なら びに酸化安定性を有する新規リン脂質であることが明らか とな り、 優れ た供 給形態であることが示された。このように、誘導体化によ り、 基質 とし た用 いたテルベンアルコールとフェニルアルコールとは異なる 機能 性を 示す こと を見 出し た。
こ のよ うに 、本 研究では、リン脂質を出発物質として、種々の機能性成分 を、 酵素 (リ パー ゼ)を用いてエステル化させることに成功した。本研究で 合成 に成 功し たり ン脂質誘導体は、優れた生体適合性と両親媒性から医療品 や機 能性 食品 、化 粧品素材としての活用が期待される。これらの成果は、生 物素 材利 用の 研究 分野において重要を知見になるとともに、機能性食品・化 粧品 への 高度 利用 や水産資源の有効利用の分野に新たた視点を与える意義深 いも ので ある 。よ って審査員一同は本研究の申請者が博士(水産科学)の学 位を 授与 され る資 格の ある もの と判 定した 。