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博 士 ( 水 産 科 学 ) 橋 本    諭

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 水 産 科 学 ) 橋 本    諭

学 位 論 文 題 名

下痢性貝毒検査への機器分析法の導入に関する研究 学位論文内容の要旨

  ニ 枚 貝 が 蓄 積 す る 有 毒 プ ラ ン ク ト ン 由 来 の 毒 成 分 の う ち , ヒ ト に 下 痢 や 嘔 吐 , 腹 痛 を 起 こ さ せ る 脂 溶 性 毒 群 を 下 痢 性 貝 毒 と 分 類 し て い る . そ の 検 査 は マ ウ ス 検 定 法 で 行 わ れ て お り , 中 腸 腺 か ら の ア セ ト ン 抽 出 物 を 体 重16〜20gの ♂ マ ウ ス の 腹 腔 内 に 投 与 し ,24時 間 後 の 死 亡 数 を 数 え る ,3匹 投 与 中2匹 以 上 が 死 亡 し た 場 合 に 下 痢 性 貝 毒 陽 性 と 判 定 さ れ , そ の 毒 量 を1マ ウ ス 単 位 と し て い る . 検 査 が 開 始 さ れ て 以 降 , 日 本 で は 下 痢 性 貝 毒 に よ る 大 規 模 な 食 中 毒 は 発 生 し て お ら ず , マ ウ ス 検 定 法 は 食 用 二 枚 貝 の 検 査 法 と し て 有 効 に 機 能 し て き た .

  し か し , そ の 一 方 で マ ウ ス 検 定 法 は , 貝 毒 以 外 の 毒 成 分で も マウ スが 死亡 する こと , 結 果 が 陰 性 と 陽 性 の ニ っ し か な い こ と か ら , 下 痢 性 貝 毒 成 分 に 対 す る 定 性 ・ 定 量 能 カ に 乏 し く , 偽 陽 性 の 可 能 性 や 精 度 管 理 の 困 難 さ が 指 摘 さ れ て き た , ま た , マ ウ ス 検 定 法 は , 動 物 福 祉 に 対 し て も 十 分 に 配 慮 さ れ た 手 法 で は な い , こ の た め , 下 痢 性 貝 毒 成 分 を 理 化 学 的 な 方 法 で 測 定 す る 代 替 法 が 検 討 さ れ , 機 器 分 析 法 , 酵 素 固 定 化 免 疫 測 定 法 , 酵 素 阻 害 法 な ど , 様 々 な 測 定 技 術 を 用 い る 方 法 の 開 発 が 進 め ら れ て い る .   し か し , 下 痢 性 貝 毒 成 分 を 理 化 学 的 な 方 法 で 測 定 す る こ と が , 現 行 の マ ウ ス 検 定 法 の 代 替 と な る か ど う か に っ い て は 十 分 な 検 討 が 必 要 で あ る . を ぜ た ら , 現 行 法 は 脂 溶 性 毒 成 分 の 有 無 を 確 認 す る た め の ス ク リ ー ニ ン グ 法 と し て の 機 能 を 有 し て い る か ら で あ る . 現 在 の 下 痢 性 貝 毒 検 査 法 は , 脂 溶 性 貝 毒 検 査 法 を 基 本 と し て い る . 脂 溶 性 貝 毒 検 査 法 が 開 発 さ れ た 当 時 , 二 枚 貝 が プ ラ ン ク ト ン 由 来 の 脂 溶 性 毒 成 分 を 蓄 積 す る 場 合 が あ る こ と は 明 ら か と な っ て い た が , そ の 化 学 構 造 は 不 明 で あ っ た . そ の た め , 検 査 法 は 脂 溶 性 の 成 分 を で き る だ け 広 く 回 収 し , 毒 性 の 有 無 を 簡 易 に 判 定 す る こ と を 目 的 と し て い た , 現 行 の マ ウ ス 試 験 法 は , 手 順 は 脂 溶 性 貝 毒 検 査 法 と ほ ぽ 同 じ で あ り , 下 痢 性 貝 毒 成 分 の 精 製 操 作 が 付 加 さ れ て い な い た め , 脂 溶 性 毒 成 分 の 有 無 を 確 認 す     ―1068―

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る ためのス クリーニ ング法であ る こと を認識す る必要がある.それゆえ,理化学的 な 方法によ る下痢性 貝毒検査の 代替を検 討する場 合には,このスクリーニング機能に 留意することが重要である.

  種 々の機器 分析法の 中で,高速 液体クロ マトグラ フィーノ 質量分析 法(LC/MS)は,

前 処理が容 易で定性 ・定量能カ も高く, 高感度で 複数の成分を一斉かつ迅速に定量で き ることか ら,下痢 性貝毒成分 を測定す るための 手法として最も有カであると考えら れ る.しか し,これ までのLC/MSによ る下痢性 貝毒検査 の代替に 関する研 究では,現 行のマウス検定法が 脂溶性毒成分のスクリーニング法 ,であることをふまえた上で,

その導入が討議されたことはない.

  本 研究は, 現行のマ ウス検定法 が 脂溶 性の毒成 分のスクリーニング法 であると い う認識に 基づいて ,食用二枚 貝の下痢 性貝毒検 査へのLC/MSの 適正な導 入にっいて 論 じること を目的と し,以下の項目にっいて検討した,(1)毒性物質の個別評価法と し て のLC/MS分析 法 の 優位 性 (第2章 ) .(2)毒 性 物質 の スクリ ーニング 法として の マ ウ ス 検定 法 の優 位 性 (第3章). (3)貝 毒検査に 描ける偽 陽性発生 の可能性 (第4 章),得られた結果は以下の様に要約される,

(1)下 痢性 貝 毒検 査 にLC/MSを導入 することに より,極 めて簡易 な前処理 だけで, 北海   道産 ホ タテ ガ イ の中 腸 腺 に含有され る下痢性 員毒成分 の詳細な 組成を明 らかにす る   こと が 可能 と を った ,LC/MSは 既知 下 痢 性貝 毒 成分 を 個別 に測定す るための 有効な   方法 で ある が , 比毒 性 を 基に測定値 をマウス 単位ヘ変 換して毒 量を評価 した結果 ,   試料 が 有す る 毒 量を 過 大 評価してし まうこと が明らか となった ,すなわ ち,機器 測   定値 に よる 評 価 とマ ウ ス 検定法の結 果を対比 させるこ とは困難 であるこ とが明ら か   にな っ た.LC/MSを 下 痢 性貝 毒 試験 に 導 入す る には , 成分 毎に基準 値を設定 し管理   す る 個 別 評 価 法 に よ る 検 査 に 移 行 す る 必 要 が あ る と 考 え ら れ る . (2)ホタ テガイの 下痢性貝 毒試験にお いて,通 常とは異 なる症状 を呈した マウスが 観察     され た,その 症状およ び試料抽出 液の色調 から,ク ロロフイル代謝物ピロフェオホ   ルバ イ ドの 光 増 感作 用 に よる光過敏 の発症が 疑われた .問題の 中腸腺試 料とその 前   後に 採 取さ れ た 中腸 腺 試 料のピロフ ェオホル バイド含 量の測定 ,および ,発症条 件   確認 の ため の マ ウス 比 較 実験から, 問題の症 状がピロ フェオホ ルバイド によるマ ウ     −1069ー

(3)

  

ス光過敏症であることが本研究において初めて確認された.この光過敏症は,直接

  

症状を観察できるマウス検定法でなければ検知されない事例である.ピロフェオホ

  

ルバイドは下痢性貝毒ではないが,食中毒の原因となりうる物質である.マウス検

  

定法は,下痢性貝毒以外の毒性物質も広く検出できる点で優れたスクリーニング法

  

であることが示された.海外では,アザスピロ酸など既知下痢性貝毒成分以外の新

  

規脂溶性毒成分を原因とする食中毒が報告されている.食用ニ枚貝の安全性確認に

  

は,新規毒成分を検出するための検査も必要であるが,LC/MS だけでは対応は難し

    

く , マ ウ ス 検 定 法 に よ る ス ク リ ー ニ ン グ が 有 用 で あ る と 考 え ら れ る .

(3)

配偶子形成のために肥大したホタテガイ中腸腺の脂質は,全脂肪酸のほば50 %を

  20

:5 が占めるという特徴をもっていた.遊離状態の

20

:5 はマウスに対する毒性が

  

強いことから,肥大中腸腺は偽陽性を発生させる危険性が高い試料である.しかし,

  

実際に検出された遊離脂肪酸は微量であり,検査結果は陰性になる可能性が高い.

  

これまで,マウスを用いた下痢性貝毒試験法は遊離多価不飽和脂肪酸による偽陽性

  

の発生が問題点のーっと考えられてきたが,生鮮試料を用いて適正に検査が実施さ

  

れれば,偽陽性が発生する危険性は低いと思われる,

  

本研究の成果から,今後の下痢性貝毒検査法にっいて以下のことが強調される.下 痢性貝毒マウス検定法は毒成分のスクリーニング法として有用であるが,今後新たな 貝毒成分が検出される可能性があることを考えると,

LC/MS

による既知下痢性貝毒成 分の個別測定は現行法の完全な代替とはならない.一方,現行のマウス検定法では,

急性毒性以外の毒性への対応,精度管理の導入,動物福祉への対応の問題がある.こ れらの解決には,定性・定量能カに優れ,既知貝毒成分を詳細に測定できるLC/MS 分 析法の導入が必要である.

  

食用二枚貝の安全性確認検査を適正に行うためには,下痢性貝毒検査とは別に,新 規貝毒成分を検出するための海域監視体制が必要となる.監視は国または地方自治体 が主体となり,適切な海域区分のもと定期的に行われなければならをい.監視の結果,

新規貝毒成分が検出されをければ,その海域内の漁協が水揚げ期間に行う自主検査は

既知下痢性貝毒のみを測定する,新規貝毒成分の検出には,現状ではマウス検定法を

使用せざるをえないが,既知下痢性貝毒と区別するためにLC/MS との併用が必須とな

    ‑ 1070

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る.一方,既知下痢性貝毒の検査では,マウス検定法ではなく,既知下痢性貝毒成分 の基準値を設定し,基準を満たしていることをLC/MS により確認することが望まれる,

上記検査体制の構築によルマウス使用数を削減でき,かつ下痢性貝毒成分に対して定

性的・定量的な検査が可能となる,また下痢性貝毒検査に精度管理を導入することが

可能となる.

(5)

学位論文審査の要旨

主査   教授   板橋    豊 副査   教授   宮下和夫 副査   教授   酒井隆一

副査   博士   高橋健一(北海道立衛生研究所)

学 位 論 文 題 名

下痢性貝毒検査への機器分析法の導入に関する研究

  下痢性貝毒検査に使用されるマウス検定法は,食用二枚貝の検査法としてこれま で有効に機能してきた。しかし一方で,マウス検定法は貝毒以外の毒成分でもマウス が死亡すること,結果が陰性と陽性のニっしかないことなどから偽陽性の可能性や精 度管理の困難さが指摘されてきた。このため今日,機器分析法,酵素固定化免疫測 定法,酵素阻害法などの代替法の開発が進められている。本研究は,食用二枚貝 の下痢性貝毒検査への高速液体クロマトグラフイーノ質量分析法(HPLC/MS)の適 正な導入について論じることを目的とし,毒性物質の個別評価法としてのHPLC/MS 分析法の優位性,毒性物質のスクリーニング法としてのマウス検定法の優位性,及 び貝毒検査における偽陽性発生の可能性について検討したものである。得られた結 果は以下の様に要約される。

(1)下痢性 貝毒検査 にHPLC/MSを導入することにより,極めて簡易な前処理だけ     で,ホタテガイの中腸腺に含有される下痢性貝毒成分の詳細な毒組成を明らか     にすること が可能と なった。HPLC/MSは既知下 痢性貝毒成分を個別に測定す     るための有効な方法であるが,比毒性を基に測定値をマウス単位へ変換して毒     量を評価した結果,試料が有する毒量を過大評価してしまうことが明らかとなっ     た。すなわち,機器測定値による評価とマウス検定法の結果を対比させることは     困難であることを明らかにした。HPLC/MSを下痢性貝毒試験に導入するには,

    成分毎に基準値を設定し,管理する個別評価法による検査に移行する必要のあ     ることを指摘した。

(2)ホタテガイの下痢性貝毒試験において,通常とは異なる症状を呈したマウスが観     察された。その症状および試料抽出液の色調から,クロロフイル代謝物ピロフェオ     ホルバイドの光増感作用による光過敏の発症が疑われた。問題の中腸腺試料と     その前後に採取された中腸腺試料のピロフェオホルバイド含量の測定と発症条     件確認のためのマウス比較実験から,問題の症状がピロフェオホルバイドによるマ     ウス光過敏症であることが本研究において初めて確認された。この光過敏症は,

    直接症状を観察できるマウス検定法でなければ検知きれない事例であること,ま     た,ピロフェオホルバイドは下痢性貝毒ではないが食中毒の原因となりうる物質で     あることから,マウス検定法は痢性貝毒以外の毒性物質も広く検出できる点で優     れたスクリーニング法であることが示された。海外では,アザスピロ酸など既知下

1072

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    痢 性 貝 毒 成 分 以 外 の 新 規 脂 溶 性 毒 成 分 を 原 因 と す る 食 中 毒 が 報 告 さ れ て い     る 。こ うし たこ とか ら, 本研究では,食用二枚貝 の安全性確認には新規毒成分を     検 出 す る た め の 検 査 が 必 要で ある がHPLC/MSだけ では 対応 は難 しく ,マ ウス 検     定 法 に よ る ス ク リ ー ニ ン グ が 有 用 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。

(3) 配偶 子形 成の た めに 肥大 した ホタ テガ イ中 腸腺 の脂 質は,全脂肪酸のほぼ50%     をエイコサペンタエ ン酸(20:5)が占める特徴を有することを認めた。遊離状態の     20:5はマ ウス に 対す る毒 性が 強い こと から ,肥 大中 腸腺は偽陽性を発生させる     危 険性 が高 い試 料で ある が, 実際 に検 出さ れ た遊 離脂 肪酸 は微 量で あり ,検 査     結 果は 陰性 にな る可 能性 が高いことを示した。従 来,マウスを用いた下痢性貝毒     試 験 法 は 遊 離 多 価 不 飽 和 脂 肪 酸 に よ る 偽 陽 性 の 発 生 が問 題点 のー っと 考え ら     れ てき たが ,生 鮮試 料を 用い て適 正に 検査 が 実施 され れば ,遊 離脂 肪酸 含量 は     微 量 で あ る こ と か ら , 偽 陽 性 が 発 生 す る 危 険 性 は 低 いこ とを 明ら かに した 。

(4)(1)〜(3)の検討により,下痢性貝毒検査法にっいて次のように結諭した。下痢     性 貝毒 マウ ス検 定法 は毒 成分のスクリーニング法 として有用であるが,今後新た     な 貝 毒 成 分 が 検 出 さ れ る 可能 性が ある こと を考 える とHPLC/MSによ る既 知下 痢     性 貝毒 成分 の個 別測 定は 現行 法の 完全 な代 替 とは なら ない 。一 方, 現行 のマ ウ     ス 検 定 法 で は , 急 性 毒 性 以 外 の 毒 性 へ の 対 応 , 精 度 管理 の導 入, 動物 福祉 へ     の 対応 の問 題は 解決 され ない 。こ れら の解 決 には ,定 性・ 定量 能カ に優 れ既 知     貝 毒 成 分 を 詳 細 に 測 定 で き る HLC/MS分 析 法 の 導 入 が 必 要 で あ る 。   以 上 , 本 研 究 は , 下 痢 性 貝 毒 検 査 に お け る マ ウ ス 検 査 法 とHPLC/MS法 の 特 徴 を 明 らかにし,今後のある べき下痢性貝毒検査法を提言したものであり,よって審 査員ー 同 は , 申 請 者 が 博 士 ( 水 産 科学 )の 学位 を 授与 され る資 格の ある もの と判 定し た。

‑ 1073

参照

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