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Academic year: 2021

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(1)

学 位 論 文 題 名

獣 医 学 博 士 齋 藤 敏 之

mvltro脳 標 本 に お け る 酸 化 的 工 ネ ル ギ ー 代 謝

お よ び 電 気 活 動 変 化 の 解 析

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

ウシガェルあるいはラット脳より作製したin vitro脳標本を用いて,酸化的工ネルギ一代謝 の指標のーっとして,ミトコンドリア呼吸酵素(チトクローム)の酸化還元状態変化を非侵襲的 に測定した。さらに,標本の電気活動記録を組み合わせることにより,チトク口―ム酸化還元状 態変化と電気活動変化との関係を観察するとともに,標本内の酸化的工ネルギ―代謝ならびに電 気活動変化におけるグリア細胞の寄与を検証した。 (1)ウシガエル脳標本:静止時(実験開始時)における脳血管潅流標本内チトク口一ム諸酵素 (b,c十clおよびaaヨ) の酸化還元状態は,潅流中のぷどう糖を2−デオキシ-D―グルコー ス(2―DG)で置換すると ,いずれも徐々に酸化側に推移した。また,脳循環代謝改善薬とし て用いられているイフェンプ口ジル,あるいは血管作動性ペプチド(vasoactive intestinal pep tide,VIP)を含む溶液で潅流することにより,静止時におけるチ卜ク口ーム諸酵素は著明な酸 化を示した。 脊髄後根より求心性に高頻度の電気刺激を加えると,脳血管潅流標本内チトクロームb,c十 clおよびaa.1の還元が観察されると同時に,誘発群放電が記録された。これらの求心性刺激に よる脳チトク口一厶還元と誘発群放電fま,テト口ドトキシン前処置により消失した。求心性刺激 による潅流脳チトクローム還元は,2―DG,イフェンプ口ジル,VIPの投与により消失あるい は滅弱したが,誘発群放電はそのパターンが変化したものの,消失することはなかった。チトク ロー厶諸酵素の還元は脳血管潅流標本を潅流停止により無酸素状態においた時,あるいは高カリ ウム溶液を潅流した時にも観察されたが,標本の電気活動は抑制される傾向を示した。さらに, 脳血管潅流標本から作製した脳スライス標本を潅流停止・窒素通気により無酸素状態におくと, 脳血管潅流標本と同様にチトクローム諸酵素は還元状態を呈し,標本の自発的電気活動は抑制さ れた。潅流を再開し,酸素を再通気すると,還元型チトクロームは酸化型に転じ,自発的電気活 動が回復した。チトクローム諸酵素の還元はまた,スライス標本の嗅神経を高頻度で電気刺激す

(2)

る ことに より, ある いはス ライス 標本を 高カ リウ厶 溶液で 潅流す ること によ り観察された。高カ リ ウ厶溶 液潅流 によ る電気 活動の 抑制は 不可 逆的に あった 。 (2)ラッ ト脳 嗅皮質 スライ ス標本 :静 止時( 実験開 始時) における標本内チトク口ーム諸酵素, 特 に aaー は , ヨ ー ド 酢 酸 ( IAA) を 合 む 2― DG置 換 液を 潅 流 す る こと に よ り , 顕 著な 酸 化 を 示 し た 。 2ー DGあ る い は IAA処 置 で は 誘 発電 位 の 振 幅 が 大き く 低 下 し たに も か か わ らず , チ ト ク 口 一 ム 酸化 還 元 状 態 fま ほ と ん ど 変化 し な か っ た。 標 本 の 酸 素摂 取 率 は2−DGあ るいは IA A処 置 に より , い ず れ も 有意 に 減 少 し た。 嗅 皮 質 ス ライス 標本を グリア 代謝 阻害薬 である フル オ ロ酢酸 を含む 液で 潅流す ると, チトク 口一 ムaaヨの 著明な 酸化 が観察 された 。他のチトク口一 ム の 酸 化 の 程度 は aaヨに 比 べ て小さ かっ た。フ ルオ口 酢酸処 置に よる誘 発電位 の振幅 低下は わ ず かであ り,ぷ どう 糖代謝 阻害薬 処置時 とは 対照的 であっ た。し かし, 標本 の酸素摂取率はフル オ ロ酢酸 処置に より 有意に 低下し た。 ラ ット 脳嗅皮 質スラ イス標 本に外 側嗅 索より 求心性 に高頻 度電 気刺激 を加え ると,力工ル脳血 管 潅流標 本・力 工ル 脳スラ イス標 本にお いて 観察さ れたと 同様に ,梨状 皮質 においてチトク口ー ム 諸酵素 の還元 が観 察され た。一 方,高 頻度 刺激時 に記録 された 誘発電 位は 陰性波と振幅の大き い 陽性波 から構 成さ れてい たが, チトク 口ー ム諸酵 素が還 元状態 にある にも かかわらず,消失す る ことは なかっ た。 ラ ット 脳嗅皮 質スラ イス標 本を窒 素通 気した 潅流液 で潅流 する ことに より, 著明なチトク口一 ム 諸酵素 の還元 が観 察され た。こ の時, 誘発 電位の 振幅は 大きく 低下し た。 潅流を再開し,酸素 を 再通気 すると ,還 元型チ トク口 ームは酸化型を示すとともに,誘発電位が回復した。チトク口一 ム 諸酵素 の還元 tま また, 嗅皮 質スラ イス標 本を高 カリ ウムを含む潅流液で潅流することにより観 察 された 。誘発 電位 の振幅 は高カ リウム 溶液 の潅流 により 大きく 低下し た。 標準潅流液で再潅流 す ると, 還元型 チト ク口ー ムは緩 やかに 酸化 型に転 じたが ,誘発 電位は 依然 として抑制されたま ま であっ た。標 本の 酸素摂 取率は 高カルウ厶溶液の潅流により,対照群に比べて有意に上昇した。 上 述の 実験結 果より ,以下 の結論 を導 いた。 ( 1)本 実験で 用いた 1n vitro脳 標本を 無酸素 状態に おくと ,標 本内の チトク 口ーム 諸酵 素は い ずれも 還元状 態を 呈する ととも に,標 本の 電気活 動が抑 制され る。 (2)代 謝基 質の供 給を低 下さ せる処 置によ る標本 内チト ク口 一ム諸 酵素の 酸化は ,標 本の電 気 活 動の抑 制を伴 う。 (3)静 止時 (実験 開始時 )に おける 標本内 チトク 口ーム 諸酵 素の軽 度の還 元状態 は, 拡散に よ り 酸素が 供給さ れて いるこ と,静 止時に おい ても還 元電子 が常に 呼吸鎖 へ流 入していることによ

(3)

る。還元電子は神経細胞以外の細胞(グリア細胞)の呼吸鎖へも流入していると考えられる。 (4)刺激により引き起こされる標本内チトクローム還元は,神経ならびにグリア細胞の活動上 昇に伴う酸素摂取量の増大,還元電子の呼吸鎖への流入増大および拡散による細胞への酸素供給 に起因すると考えられる。標本内のチトク口ーム酸化還元状態変化が必ずしも電気活動変化と一 致しないことは,本実験で用いたin vitro脳標本において,神経細胞に加えて,グリア細胞由 来の細胞活動が存在することを示唆している。

学位論文審査の要旨

申請者は,中枢神経系を構成するニュー口ンの電気的活動,グリア細胞の機能,およびそれら を 支 え る 代 謝 工 ネ ル ギ ー 供 給 と を 解 析 し よ う と い う 目 的 で 本 研 究 を 行 っ た 。 ウシガエルあるいはラット脳より作製したin vitro脳標本を用いて,酸化的工ネルギ一代謝 の指標のーっとして,ミトコンドリア呼吸酵素(チトクロ―ム)の酸化還元状態変化を非侵襲的 に測定した。それらの標本の電気活動を同時に記録することにより,チトクロ一厶酸化還元状態 変化と電気活動変化との関係を解析し,次のような結果を得た。 (1)ウシガエル脳標本:静止時(実験開始時)における脳血管潅流標本内チトクローム諸酵素 (b,c十clおよ びaaヨ) の酸化 還元状態は潅流中ぷとう糖を 2ーデオキシ-D―グルコース (2―DG)で 置換すると,いずれも徐々に酸化側に推移した。また,脳循環代謝改善薬として 用いられているイフェンプ口ジル,あるいは血管作動性ペプチド(vasoactive intestinal pepti de,VIP)を含む溶液で潅流することにより,静止時におけるチトクローム諸酵素は著明な酸化 を示した。脳血管潅流標本から作製した脳スライス標本を潅流停止・窒素通気により無酸素状態 におくと,脳血管潅流標本と同様にチトク口ーム諸酵素は還元状態を呈し,標本の自発的電気活 動は抑制された。潅流を再開し,酸素を再通気すると,還元型チトク口ームは酸化型に転じ,自 発的電気活動が回復した。チトクロー厶諸酵素の還元tままた,スライス標本の嗅神経を高頻度で

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電気 刺激 するこ とによ り,あ るいは スラ イス標 本を高 カリウ ム溶 液で潅 流することにより観察さ れ た 。 高 カ リ ウ 厶 溶 液 潅 流 に よ る 電 気 活 動 の 抑 制 は 不 可 逆 的 で あ っ た 。 ( 2)ラ ット 脳嗅皮質スライス標本:静止時(実験開始時)における標本内チトクローム諸酵素, 特 に aaヨ は , ヨ ー ド 酢 酸 (IAA) を 合 む 2― DG置 換 液を 潅 流 す る こ とに よ り , 酸 化方 向 ヘ 大 き く 変 動 し た 。 2一 DGあ る い は IAA処 置 で は誘 発 電 位 の 振幅 が 大 き く 低下 し た に も かか わ ら ず , チ トク 口 一 ム 酸 化還 元 状 態 は ほ とん ど 変 化 しなか った 。標本 の酸素 摂取率 は2ーDGあ るい は IAA処 置 に よ り ,い ず れ も 有 意に 減 少 し た 。嗅 皮質 スライ ス標 本をグ リア代 謝阻害 薬で ある フ ル オ ロ酢 酸 を 含 む 液で 潅 流する と,チ トク 口ーム aaヨの著 明な 変化が 観察さ れた。 他の チト ク 口 一 ムの 酸 化 の 程 度は aa』 に比 べて小 さかっ た。フ ルオ口 酢酸 処置に よる誘 発電位 の振 幅低 下は わず かであ り,ぷ どう糖 代謝阻 害薬 処置時 とは対 照的で あっ た。し かし,標本の酸素摂取率 はフ ルオ 口酢酸 により 有意に 低下し た。 ラ ット脳 嗅皮質 スライ ス標 本に外 側嗅索 より求 心性に 高頻 度刺激 を加え ると,力工ル脳血管潅 流標 本・ 力工ル 脳スラ イス標 本にお いて 記録さ れたと 同様に ,梨 状皮質 においてチトク口ーム諸 酵素 の還 元が観 察され た。一 方,高 頻度 刺激時 に記録 された 誘発 電位は 陰性波と振幅の大きい陽 性波 から 構成さ れてい たが, チトク 口一 ム諸酵 素が還 元状態 にあ るにも かかわらず,消失するこ とは なか った。 ラ ット脳 嗅皮質 スライ ス標 本を窒 素通気 した潅 流液で 潅流 するこ とによ り,著明なチトク口一 ム諸 酵素 の還元 が観察 された 。この 時誘 発電位 の振幅 は大き く低 下した 。潅流を再開し,酸素を 再通 気す ると, 還元型 チトク ローム は酸 化型を 示すと ともに ,誘 発電位 が回復した。チトク口ー ム諸 酵素 の還元 はまた ,嗅皮 質スラ イス 標本を 高カリ ウムを 含む 潅流液 で潅流することにより観 察さ れた 。誘発 電位の 振幅は 高カリ ウム 溶液の 潅流に より大 きく 低下し た。標準潅流液で再潅流 する と, 還元型 チトク 口ーム は緩や かに 酸化型 に転じ たが, 誘発 電位は 依然として抑制されたま まで あっ た。標 本の酸 素摂取 率は高 カリウ厶溶液の潅流により,対照群に比べて有意に上昇した。 上 述の実 験結果 より, 申請 者は以 下の結 論を導 いた。 (1)本 実験で 用いた in vitro脳 標本を 無酸素 状態に おく と,標 本内の チトク 口一ム 諸酵 素は いず れも 還元状 態を呈 すると ともに ,標 本の電 気活動 が抑制 され る。 ( 2)代 謝基 質の供 給を低 下させ る処 置によ る標本 内のチトク口一厶諸酵素の酸化は,標本の電 気活 動の 抑制を 伴う。 ( 3)静 止時 (実験 開始時 )にお ける 標本内 チトク ロームの軽度の還元状態は,拡散により酸素 が供 給さ れてい ること と,静 止時に おい ても還 元電子 が常に 呼吸 鎖へ流 入していることによる。

(5)

還元電子は神経細 胞以外の細胞(グリア細胞) の呼吸鎖へも流入していると考えられる。 (4)刺激により引き起こされる標本内チトク口一ム還元は,神経ならびにグリア細胞の活動上 昇に伴う酸素摂取量の増大,還元電子の呼吸鎖への流入増大および拡散による細胞への酸素供給 に起因すると考えられる。標本内のチトク口ーム酸化還元状態変化が必ずしも電気活動変化と一 致しないことは,本実験で用いたin vitro脳標本において,神経細胞に加えて,グリア細胞由 来の細胞活動が存在することを示唆している。 以上のように,申請者は,組織を破壊することなしに細胞内ミトコンドリアのチトク口一ム酸 化還元状態を連続的に記録する方法を用いて,ウシガエルとラットの脳のニュー口ンとグリア細 胞の機能を支えている代謝工ネルギー供給系を動的に解析した。この成果は脊椎動物の中枢神経 系の機能の研究に貢献するところが大きく,審査員一同は,申請者・齋藤敏之氏が獣医学博士の 学位を受けるに十分な資格を有すると認めた。

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