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博士論文(論文博士)

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Academic year: 2021

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博士論文(論文博士) 審査要旨

論文題目

青年期以降のクライエントとの心理療法における アタッチメントの活用に関する研究

論文提出者 三 上 謙 一

審査委員 主査:永井 撤 教授

副査:下川 昭夫 教授

副査:酒井 厚 准教授

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1. 本論文の課題

本研究は、Bowlby(1967; 1973; 1980)によって精神分析を基礎において生み出されたア タッチメント(愛着)理論についての、最新の研究成果を論じるととともに、心理臨床の領 域においていかに実践的に活用できるか検討したものである。Bowlbyによって始まったア タッチメント研究は、長い間臨床家には注目されず,むしろ動物行動学、進化生物学、など の幅広い学問分野で取り上げられ、心理学分野では発達心理学や社会心理学などの領域で 発展してきた。しかし,90 年代以降臨床の分野で再評価されるようになり,その研究成果 を臨床実践に取り入れる動きが出てきた。このような欧米の流れを受けて、日本においても アタッチメント理論を臨床場面に応用しようという機運が高まってきており,各領域での 様々な意欲的試みが紹介されている(例えば,数井・遠藤,2007;数井,2012)。

しかし、現在までのところ心理療法の領域においては、親-乳幼児心理療法など親子関係 への介入には比較的適用しやすい一方で,青年期以降のクライエントに対する個人心理療 法に応用するためには様々な問題があると指摘されていた。このような状況の中で、アタッ チメント理論を主に青年期以降の言語的な心理療法が可能なクライエントに対してどのよ うに応用できるのかということが本研究の目的となっている。

本論文の構成としては、文献研究として、まずは発達心理学的なアタッチメント研究と,

心理療法研究の中から臨床実践に関連のある実証研究を概観している。さらに、アタッチメ ント理論が,その源流である精神分析理論と,アタッチメント理論が応用されているエビデ ンスに基づいた心理療法とどのように関連しているのかについて理論的な考察を行ってい る。そして、本論として、事例研究によってアタッチメント理論とその成果をどのように心 理療法事例に活用できるのかを検討している。そして、最後に,事例研究を踏まえた形で、

アタッチメントを心理療法に応用するためのモデルを提案している。

2. 論文の構成(目次)

はじめに 第Ⅰ部 序論

第1章 Bowlbyの思想

第2章 アタッチメント研究の発展

第3章 Crittendenの「アタッチメントと適応の動的―成熟モデル(DMM)」によ る成人アタッチメント研究の展望:理論編

第4章 Crittendenの「アタッチメントと適応の動的―成熟モデル(DMM)」によ る成人アタッチメント研究の展望:研究・実践編

第5章 心理療法研究における治療同盟とアタッチメント 第6章 治療同盟の破綻と修復

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3 第7章 アタッチメントと精神分析

第8章 アタッチメントとエビデンスに基づいた心理療法:対人関係療法(IPT)と メンタライゼーションに基づいた治療(MBT)

第Ⅱ部本論

第9章 本研究の目的と方法

第10章 事例1:「安心の基地」を確立するためのセラピストの機能について

第11章 事例2:アタッチメント理論から見た心理療法の行き詰まりとその回復過

程:逆転移としてのセラピストの眠気の意味

第12章 事例3:心理的に不安定な友人からの自殺の脅しに悩む学生への介入の方

法について―アタッチメント理論からの考察―

第13章 事例4:「アタッチメントと適応の動的-成熟モデル」の心理療法への適用

第 14 章 事例 5:アタッチメントと適応の動的-成熟モデル(DMM)から見た青

年期の発達過程-DMM-AAIを用いた心理療法効果測定の試み

第15章 事例6:治療同盟の破綻を克服するためのDMM-AAIの使用 第Ⅲ部 結論

第16章 各事例から抽出されたアタッチメントを心理療法に活用するための観点 第17章 アタッチメントを心理療法に活用するためのモデルの提案

3. 本論文の要旨

第1部 序論

第1章ではBowlbyの思想について、彼の経歴を振り返り,その生育歴や人生経験がアタ

ッチメント理論の構築にどのように影響したのかを明らかにしている。またその研究の中 に、現在のアタッチメント研究の萌芽がBowlbyの初期の研究からすでに見られることも確 認している。次にアタッチメント理論の基本的概念として,Bowlbyの著作に基づきながら アタッチメントの定義やその発達について論じ、最後にBowlby自身が考えていた,アタッ チメントに基づいた心理療法のモデルについて解説している。

次の第 2 章では、アタッチメント研究の発展として Bowlby の共同研究者であった

Ainsworthによるストレンジ・シチュエーション法を用いた乳幼児アタッチメント研究の発

展,およびその教え子であったMainによる成人アタッチメント研究の発展について論じて いる。その後,臨床実践に関連した主なアタッチメント研究として,アタッチメントの連続 性,世代間伝達,内省機能,獲得安定型,精神病理との関連などについての研究をレビュー し,その限界としてアタッチメントと精神病理との間には期待されるほどの関連が見られ ないことを指摘している

第 3 章では、これまでのアタッチメント研究の限界を乗り越えるためのアタッチメント

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の新たな理論的枠組みとして,Ainsworthのもう1人の教え子であったCrittendenが開発 した「アタッチメントと適応の動的―成熟モデル(DMM)」について,その理論的枠組みを 取り上げて論じている。この考え方は、アタッチメント方略が成人期になるとより多様で複 雑に組織化されることを仮定しており、従来のアタッチメント理論よりも臨床群へ適用す る上で有用であると思われること,さらにDMM 分類は現在の精神医学的診断と相補的関 係になり得ることが明らかにしている。

第4章ではCrittendenの「アタッチメントと適応の動的―成熟モデル(DMM)」による 成人アタッチメント研究の展望:研究・実践編として、まずは DMM 方式のアダルト・ア タッチメント・インタビュー(DMM-AAI)を用いた実証研究をレビューした。その結果,

DMM-AAI の実証研究はまだ数が少ないものの,従来のアタッチメント理論よりも,健常

群と臨床群との重複が少なく,さらに臨床群の下位分類を見出せることが明らかになって いる。さらに、DMM-AAIを用いた事例研究をレビューしている。その結果,DMM-AAIは 研究ツールとしてだけでなく,臨床ツールとしても活用できる可能性があることが明らか となっている。そして、最後にDMM-AAIを司法場面に応用する試みとして「家庭裁判所 アタッチメントプロトコル」について論じている。これは虐待への介入に際して DMM ア セスメントを各家族メンバーに行った上で処遇を決めるというものである。「家庭裁判所ア タッチメントプロトコル」の評価はまだ定まっていないものの,アタッチメント研究のエビ デンスを精神医学や臨床心理学の領域を超えて司法場面にまで適用していこうとする動き は日本でも今後も盛んになっていく可能性を指摘している。

第 5 章では、心理療法研究における治療同盟とアタッチメントについて、心理療法の過 程や効果についての実証性について取り上げている。心理療法研究(psychotherapy research)

の中でも治療同盟に関する研究は,良好な治療同盟の形成が治療効果に結びついているこ とが示されていることから多くの研究がなされてきた。その治療同盟に与える要因の 1 つ としてクライエントおよびセラピストのアタッチメントの個人差が注目されている。そこ で治療同盟とアタッチメントとの関連についてレビューしたところ,セラピストとクライ エントの間でのある種のアタッチメントの相互作用あるいは組み合わせがより効果的であ る可能性があり(Marmarosh, 2015),したがってセラピストはクライエントのアタッチメン トだけではなく,セラピスト自身のアタッチメントにも注意を払う必要があることが明ら かとなった(Degnan et al., 2016)。しかし、その一方でこれらの研究にはアタッチメントの 測定方法が統一されていないなどの様々な方法論上の限界があることが考えられた。

第6章では治療同盟の破綻と修復について論じている。Safran and Muran (1996)は,治 療同盟の破綻はクライエントの特徴的な対人関係行動やコミュニケーションを示している という点で心理療法において探索すべき最重要点であり,したがって,クライエントとセラ ピストの治療同盟の破綻を修復する能力が治療の成功に貢献する可能性について指摘して いる。この治療同盟の破綻と修復の過程には①相互-自己調整モデル,②手続き知識,③ダ イナミック・システムズ・アプローチという親-乳幼児関係と共通した 3 つの原理が働い

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ていると考えられた。実証研究のメタ分析によると,治療同盟の破綻の修復は治療の肯定的 結果と軽度の関連をしていた。またクライエントとセラピストの双方のアタッチメントが 治療同盟の破綻と修復の過程に影響していることが明らかとなっている。これらの研究結 果は臨床実践へ示唆されることが多いが,その一方で現実の臨床場面とは異なる部分も多 いため,事例研究によって補う必要があると考えられる。

第 7 章では、改めてアタッチメントと精神分析という主題を取り上げている。近年アタ ッチメント理論は精神分析の中で再評価され,その理論及び実証研究の成果を臨床実践に 生かそうという動きが様々な形で起こってきている。これには「欲動/構造モデル」から「関 係/構造モデル」へという精神分析自体のパラダイムの変化と密接に関連していると考え られる。関係性を重視するアタッチメント理論は後者に位置づけられるといえる。しかし,

関係性を重視し過ぎると,セラピストの逆転移にばかり重点が置かれる傾向も見られる。そ こで関係性を重視しつつ,同時にクライエント個人の心を的確に把握するアセスメントの 方法として、著者はDMM-AAIを用いることの意義を提案している。

第 8 章では、エビデンスに基づいた新しい心理療法の発展形態として注目されている成 人のクライエントを対象とした対人関係療法(IPT)とメンタライゼーションに基づいた治 療(MBT)についてアタッチメントと比較検討をしている。両者は共に精神分析理論に影 響を受けたマニュアル化された期間限定心理療法であり,また現在の対人関係と感情との 関連を重視しているという共通点がある。その一方で,病理に対する仮説の有無や転移の取 り扱いに大きな相違点が見られた。アタッチメントの観点から両者を比較すると,共にアタ ッチメント関係を改善しようとしている点が共通しているが,その改善の仕方として IPT はコミュニケーションを改善することに焦点を当てるのに対して,MBTはその背後にある メンタライジングの仕方に焦点を当てているという違いがあることを指摘している。

第Ⅱ部 本論

第 9 章では、本研究の目的と方法として、筆者のアタッチメントにおける実践的な研究 の基本的な姿勢について論じている。日本の臨床場面では90年代以降にアタッチメントへ の注目が高まってきたが,いまだに青年期以降のクライエントへの心理療法にアタッチメ ントを応用した事例研究は少ない。その理由は,発達心理学研究のように観察者が関係性の 外部から観察して得られる外部観察データと,精神分析理論のように関係性の内部からセ ラピストが観察しつつ介入して得られる内部観察データとの性質の違いにあると思われる。

つまり,臨床家は前者のようなファクトではなく,後者のような物語を求めており,それは 心理療法の開始から終結までの時間的な流れの中で起きていることに意味を与えてくれる ものであると思われる。本研究の目的は,臨床家が臨床実践の見通しを持てるような「物語」

に変換するために,アタッチメント研究から得られたファクトを,①アセスメント,②心理 療法過程,③介入技法という心理療法の 3 つの時間的側面に関連付けたモデルを構築する ことを目的とする。そのための方法論として,これまでレビューしてきたアタッチメントの

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実証研究の知見という言わば骨組みを,筆者の実践してきた心理療法の事例研究によって 肉付けすることによって,両者の欠点を補い合うこととしている。これまでの日本の臨床心 理学では実証研究と事例研究は対立するものと捉えられがちであったが,本研究では両者 を補い合うものとして捉え直すことによって,実証研究と臨床実践のギャップを埋めるこ とを目指している。以下第10章から第15章まで、6つの事例研究について取り上げて論じ ている。

第 10 章 事 例 1:「 安 心 の 基 地 」 を 確 立 す る た め の セ ラ ピ ス ト の 機 能 に つ い て Bowlby(1988)は心理療法において治療関係が安心の基地として機能すると,クライエント は自らの精神内界の探索に進むと主張した。しかし,実際にはクライエントが治療関係を安 心の基地と感じられるようになることは容易ではない(中尾・工藤,2007)。安心の基地と なるためにセラピストはどのような機能を果たす必要があるのかを事例に基づいて検討し た。その結果,クライエントが持ち込んできたアタッチメントの内的作業モデルをセラピス トが反証する介入が必要であることが示唆された。

第11章 事例2:アタッチメント理論から見た心理療法の行き詰まりとその回復過:逆

転移としてのセラピストの眠気の意味

セラピストが面接中に強烈な眠気という逆転移を体験した事例に基づいて,行き詰まり からの回復過程を検討した。セラピストが逆転移を通してミスコミュニケーションの背後 に隠されているアタッチメント関係をめぐる不安に気づき,それを今ここでコミュニケー ションし続けることによって行き詰まりから回復していくと考えられた。その過程でクラ イエントの内的作業モデルは徐々に反証され,心理療法関係が安心の基地となり,その中で クライエントは自分の心と他者の心を安全にプレイフルに探索することが可能となること が明らかとなった。

第12章 事例3:心理的に不安定な友人からの自殺の脅しに悩む学生への介入の方法に

ついて―アタッチメント理論からの考察―

自殺の脅しをするような心理的に不安定な友人への対応に困っている周囲の学生たちへ の介入の方法について,一つの典型的な事例に基づいてアタッチメント理論の観点から考 察した。介入前の周囲の学生たちは,不安定な友人の方略を確証あるいは強化してしまうよ うな関わりをしていたが,介入後は反証する関わりを提供できるようになったために,結果 的に友人も落ち着いたと考えられた。つまり,友人と周囲の学生との間で生じている悪循環 を断ち切ることが必要であったと言える。

第13章 事例4:「アタッチメントと適応の動的-成熟モデル」の心理療法への適用

Crittenden による「アタッチメントと適応の動的-成熟モデル(Dynamic-Maturational Model of attachment and adaptation:DMM)」は従来のアタッチメント理論の限界を乗り 越えるための新しい理論的枠組みをアタッチメント研究に提供している。本事例は DMM の各概念をクライエントの発達過程と心理療法過程の理解に適用して,その臨床的意義を 考察している。その結果,DMMは従来のアタッチメント理論のモデルに比べて,臨床家が

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納得できる,より精緻で細分化された概念を備えていると考えられた。

第 14 章 事例5:アタッチメントと適応の動的-成熟モデル(DMM)から見た青年期

の発達過程-DMM-AAIを用いた心理療法効果測定の試み

本事例ではクライエントに対して,心理療法初期にDMM-AAIを施行して,かつ終結後 に再び施行して,心理療法の効果をDMM-AAIによって測定するということを初めて試み た。その結果,未解決のトラウマは改善されて症状は軽減していたが,アタッチメントの基 本方略への気づきは見られるものの,変化はしていない「再構成」の状態にあることが示さ れた。このようにDMM-AAIを効果測定に用いることで,心理療法によってアタッチメン ト方略がどのように変化するのかを実証的に研究できる可能性が示唆された。

第15章 事例6:治療同盟の破綻を克服するためのDMM-AAIの使用

DMM-AAI の臨床ツールとしての可能性をさらに検討するために,治療同盟の破綻しか

けた心理療法過程をDMM-AAIの使用によって克服した事例を検討した。その結果,DMM- AAI の一連の質問項目はクライエントの内省を深める手助けになる一方で,セラピストが クライエントの語りの意味を深く理解するのにも役立つことが見られた。従来は治療同盟 の破綻からの回復には逆転移の活用が重要であると見なされてきたが,DMM-AAI を臨床 ツールとして用いることも破綻からの回復に有効である可能性が示唆された。

第Ⅲ部 結論

第16章 各事例から抽出されたアタッチメントを心理療法に活用するための観点 以上の 6 つの事例研究から,①アタッチメントから見たアセスメント,②アタッチメン トから見た心理療法過程,③アタッチメントから見た介入技法,という各事例を共通して貫 く 3 つの側面から考察することによって,アタッチメントを心理療法に活用するために必 要な観点を抽出している。

その結果,各側面について以下の観点が抽出された。

① アセスメント(世代間伝達/家族システム/文脈/機能/共犯者/防衛/アタッチメント方略/

トラウマ/DMM分類)。

② 心理療法過程(希望と恐れのアンビヴァレンス/安全な逃げ場/安心の基地/エナクトメ ント/共犯者としてのセラピスト/破綻と修復/間主観的な場/破綻と修復)。

③介入技法(反証/語り得ぬものへの注目/今ここでの治療関係への注目/逆転移の活用とエ ナクトメントの理解/悪循環を断ち切る/修正情動体験の提供/クライエントの内省機能(メ ンタライジング)の促進/セラピストの内省機能(メンタライジング)の回復/臨床ツールと してのDMM-AAI)。

以上の点が明らかとなっている。

第17章ではアタッチメントを心理療法に活用するためのモデルの提案を行っている。

前章で抽出された各観点を再構成して,①アセスメント,②心理療法過程,③介入技法と いう心理療法の各側面から構成される,アタッチメントを心理療法に活用するためのモデ

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ルを提案している。このモデルによって臨床家はアタッチメント研究の知見というファク トを,臨床実践の見通しを得るための物語へと変換できる可能性があることを論じている。

4. 審査結果

本研究の意義はアタッチメントに関する実証研究と事例研究を統合することによって両 者の循環的関係を明らかにした上で,臨床家がアタッチメント研究を臨床実践の中に活か すためのモデルを具体的に示した点にあると思われる。特にアタッチメント研究は子ども のクライエント,あるいは親子の関係性への介入には使いやすくても,青年期以降のクライ エントに対する個人心理療法にはどのように活かすべきかの指針もなく,事例研究の報告 も少なかった。本研究で提示したモデルは,Bowlby(1988)の提示した基本的なモデルを 踏まえ,その後の発展として、著者は、Bowlbyの共同研究者であるAinsworthの弟子にあ たる、新たな成人向けのアタッチメント面接法を開発しているCrittenden から直接指導を 受けながらDMM-AAIを日本に紹介し、その実践に取り組んでいる。この面接法は、アタ ッチメントの考え方を実践的な面接に生かす方法として注目すべきものと考えられ、著者 はこの面接法についての日本における第 1 人者といえる。著者はこの面接法を自らの臨床 実践の場である、学生相談という場において、臨床経験を踏まえつつ、「アセスメント」「心 理療法過程」「治療技法」という3つの側面に分けてさらに精緻化している。これによって,

実証研究と臨床実践との間のギャップを埋めて,臨床家がアタッチメント理論や研究を臨 床実践に取り入れていく可能性が広がるかと考えられる。今後、この方法はさまざまな臨床 領域に汎用性のある面接法と考えることができる。特に虐待問題を多く抱える福祉領域や 反社会的な問題行動にもその背景にあると考えられるアタッチメントの問題があると考え られ司法領域の面接において、汎用性があるかと考えられる。以上のような点で、本研究は、

アタッチメントの最新の知見を取り入れつつ、著者自身の心理療法経験から論じている、日 本におけるこの分野の最新の研究成果をまとめたものであると言える。その内容は DMM- AAI を面接技法として活用していく研究者の間で、国際的にも注目されているかと思われ る。

このように本研究は高く評価される可能性があるが、その一方で、著者が本研究で扱った 事例は基本的に洞察を重んじる精神分析的心理療法を基本とした事例である。しかし,この ようなアプローチに適さないクライエントも学生相談においていると思われる。例えば,今 大学でも多く見られる内省の苦手な発達障害傾向のある学生に対してアタッチメント理論 の観点からどのような援助ができるのかは今後の課題である。また本研究で取り上げたの は全て大学の学生相談の事例であるため,より長期間で有料の治療構造の中で起こる治療 関係のダイナミクスを捉えきれていない可能性があると考えられる。さらには自分から助 けを求めようとしない学生への援助やそこでアタッチメント理論が果たす役割についての 考察は今後の課題である。このようにその事例の対象には制限があるかと思われる。

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さらに DMM-AAIという新しい視点を持った臨床ツールとしての面接法は、これからの

心理療法がエビデンスを担保して発展していくためには、有効性を持っていることが考え られる。しかし、現在までのところ、英語による基準に沿った分析を行っており、より幅広 く使用していくためには日本でDMM-AAIのコーダーを養成して,日本語による談話分析 を確立していく必要があり、そのためにはまだ超えるべき課題があるかと思われる。つまり は談話分析が日本人でもわかりやすい形で多くの人に了解できる形に改訂して活用してい くには今少しの時間が必要かと思われる。DMM-AAI がより多くの日本の心理臨床の専門 家によって活用していることができるかという課題について、著者はこれからも重要な役 割を担っていくものと考えられた。

公開審査会(2019年12月26日)においても、著者は、Bowlbyから始まるアタッチメ ント研究の流れを押さえつつ、現在までの研究成果について解説分析し、その幅広い知見を 披露するとともに、自身によるアタッチメント理論を基礎においた心理療法実践と、DMM- AAIを用いた研究を説明し、その面接方法について論じている。審査者からの質問にも的確 に答え、またこの研究についての到達点とその限界と課題についても冷静に把握している ことを理解することができた。以上の結果から、審査委員一同は、一致して三上謙一に博士

(心理学)の学位を授与することが適当であると判断した。

参照

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